訴 訟 要 件 の 審 理 順 序 O
一ノ 野
郎
一本稿の目的
二異説の登場(その一)ーリンメルスパッハー1
1 無 効 主 義 ( N i c h t i g k e i t s p r in z i p ) か ら
取 消 k H 義 ( A n f e c h t u n g s p r i n z i p ) へ の 変 化
2 訴 訟 判 決 と 本 案 判 決 の 既 判 力
3 fia 法 適 Q Q 性 ( J u s t iz f o r m ig k e it )
4 裁 判 の 正 当 性 の 保 障 と 法 的 平 和 の 確 保
三異説の登場(その二)iグルンスキー︑
J・プロマイヤー︑坂口裕英教授1
ーグルンスキーの説
2J・プロマイヤーの説
3坂口裕英教授の説
(以下次号)
訴訟要件の審理順序e
三 一 ( 1 )
> >1 1 1 C 2 )
本稿の目的
現行の民事訴訟法のもとでは︑訴訟要件は本案要件より先に審理されるのではなく︑両要件は同時に並行して
審理されるので︑場合により︑訴訟要件の存否がまだ明らかにならないうちに︑本案の理由のないことが先に判
( ‑ )
明する事態が生じることがある︒このような場合に︑訴訟要件の審理を省略し請求棄却判決をすることができるか否かについては︑争いがある︒この点について︑通説は︑訴訟要件を本案判決の前提条件であるとし︑本案の
理由のないことが訴訟要件の存否より先に判明した場合であっても訴訟要件の審理を省略することは許されない
( 2 ) ( 3 )
と解している︒これに対し︑リンメルスパッハーが︑その学位論文﹁民事訴訟における職権調査について﹂で︑訴訟要件と本案要件は訴えに対する関係においN同価値(gleichwertig)であること︑つまり両要件とも請求認
(4 ) ( 5 )
容のための要件であることを主張し︑本案要件に対する訴訟要件の先順位性(Vorrangigkeit)を原則的に否定して以来︑わが国においても︑一定の訴訟要件の存否は不明であっても本案の理由のないことが判明した場合に
( 6 )
は︑訴訟要件の審理を省略して請求棄却判決をすることが許されると解する説が有力に主張されている︒もっともわが国の有力説は︑リンメルスパッハーが訴訟要件と本案要件の同価値性のためにあげた各根拠については︑
これを認めていない︒
そこで本稿においては︑訴訟要件と本案要件の法的性質を比較検討し︑ついで訴訟要件と本案要件の審理順序
を︑主に個々の訴訟要件の機能を調べることによって明らかにしたいと思う︒さらに︑一定の訴訟要件は︑本案
要件の審理の場合のみでなく︑当該訴訟要件以外の訴訟要件の審理のための前提条件となるのではないかの点
(訴訟要件相互間の審理順序の問題)についても検討したいと思う︒
注(1)訴訟の当初から本案の理由のないことが明白である場合も存在する︒かかる場合の訴訟経済的な解決は︑訴訟要件と
本案要件の関係を問題とするよりも︑西ドイツ行政裁判所法(<≦OO)八四条の場合のように︑かかる訴えを予先裁決(Vorbeschied)によって排斥することに求められるべきであるとの見解も存在する(Vgl.H.J.Sauer,DieReihen‑folgederPrufungvonZulassigkeitandBegriindetheiteinerKlageimZivilproze$,1974,S.127f.)°
法論として︑考慮する価値があるように思われる︒ちなみに︑西ドイツ行政裁判所法八四条における予先裁決に関する
規定は︑以下のようなものである(訳文は︑南博方・注釈行政事件訴訟法︹昭四七︺四二〇頁を参照した)︒
第八四条①訴えが不適法であるか︑または明らかに理由がないとみえるときは︑裁判所は︑口頭弁論期日の指定
があるまでは︑理由を付した予先裁決で︑訴えを排斥することがでぎる︒
②関係人は︑予先裁決の送達後一ヶ月以内に口頭弁論の申立てをすることができる︒申立てが期間内になされたと
きは︑予先裁決はなされなかったものとみなし︑そうでないときは︑予先裁決は確定判決とみなす︒予先裁決にお
いて︑関係人は︑許された法的救済に関して教示をうけなければならない︒
なお︑そのほかの手続においてかかる制度を規定するものとして'ァァ24,93aAbs.3BVerfGG;ァ105SGG;
ァ55Bayr.VGGが存在する(<oqド国゜J.Sauer,a.a.O.S.127Fn.16)°(2)兼子一・民事訴訟法体系(増訂版・昭四〇)一五〇頁︑三ヶ月章﹁権利保護の資格と利益﹂民事訴訟法研究一巻(昭
三七)四二頁︑同・民事訴訟法(有斐閣法律学全集・昭三四)>>lol頁︑菊井維大開村松俊夫・全訂民事訴訟法1(昭
五三)九八六頁︑伊藤乾﹁権利保護の利益﹂民事訴訟法演習1(昭三八)二五六頁︑斎藤秀夫・民事訴訟法概論(新版・
昭五七)一六一頁︑一六四頁︑同編・注解民事訴訟法㈲(昭四八)一〇九頁(小室直人)︑菊井維大・民事訴訟法(下)(補正版・昭四三)一二七頁︒(m)BrunoRimmelspacher,ZurPrufungvonAmtswegenimZivilproze$,1966°書評として︑HerbertFenn,
AcP167(1967),S.461;HansMartinPawlowski,JZ1967,S°b︒逡゜なお柏木邦良﹁西ドイツ民訴法学の現況⑧﹂
訴訟要件の審理順序e三三(3)
三 四 ( 4 )
ジ ュ リ ス ト 四 八 四 号 ( 昭 四 六 ) 一 一 九 頁 以 下 に ︑ 本 書 お よ び こ れ に 対 す る 西 ド イ ツ の 学 説 の 状 況 が 紹 介 さ れ て い る ︒
( 4 ) W o lf g a n g G r u n s k y , P r o z e B ‑ a n d S a c h u r t e il , Z Z P 8 0 ( 1 9 6 7 ) , S ° 観 も 同 趣 旨 を 説 く ︒ た だ し ︑ 訴 訟 要 件 と 本
案 要 件 の 審 理 順 序 に つ い て は ︑ リ ン メ ル ス パ ッ ハ ー と 異 な る 見 解 を 主 張 し て い る ( 後 述 三 ・ 1 参 照 ) ︒
(5 ) 西 ド イ ツ の 通 説 は ︑ わ が 国 の 通 説 と 異 な り ︑ 権 利 保 護 の 利 益 に つ い て は ︑ 本 案 の 理 由 の な い こ と が 判 明 し た と き そ の
審 理 を 省 略 す K a A J と を 認 め r( a ° V g l . S t e i n ‑J o n a s ‑ S c h u m a n n , K o m m e n t a r z u r Z i v i l p r o z e B o r d n u n g , 2 0 . A u fl .,
1 9 7 9 , E i n l V I I E R d n r . 3 2 7 , 3 3 4 ; A . B l o m e y e r , Z i v il p r o z e $ r e c h t , 1 9 6 3 , 3 7 I I I 4 a ; O . J a u e r n i g , Z iv i l p r o ‑
z e B r e c h t , 1 Q︒ ° A u fl ., 1 9 7 7 , ⑰ 3 5 I ; S c h o n k e ‑ K u c h i n k e , Z i v i l p r o z e Li r e c h t , 9 ° A u fl ., 1 9 6 9 , ァ ? 4 I 2 ; Z o l l e r ‑ S t e ‑
P h a n , Z iv i l p r o z e f3 o r d n u n g , 1 3 . A u fl ., 1 9 8 1 , ⑰ 2 5 6 A n m ° A I I I . (6 ) 一 定 の 訴 訟 要 件 に つ い て 例 外 的 取 扱 い を 認 め る 説 ︑ 鈴 木 正 裕 ﹁ 訴 訟 要 件 と 本 案 要 件 と の 審 理 順 序 ﹂ 民 商 法 雑 誌 五 七 巻
四 号 ( 昭 四 三 ) 五 〇 七 頁 ︑ 小 島 武 司 ﹁ 訴 の 利 益 の 調 査 ﹂ 法 学 演 習 講 座 10 ・ 民 事 訴 訟 法 ( 昭 四 六 ) 一 八 頁 ︑ 新 堂 幸 司 ・ 民
事 訴 訟 法 ( 第 二 版 ・ 昭 五 六 ) 一 六 五 ‑ 一 六 六 頁 ︑ 竹 下 守 夫 ﹁ 訴 訟 要 件 を め ぐ る 二 ︑ 三 の 問 題 ﹂ 司 法 研 修 所 論 集 六 五 号
( 昭 五 六 ) 一 頁 ︒ な お 訴 訟 要 件 の 本 質 を 訴 訟 阻 却 事 由 で あ る と さ れ ︑ 原 則 的 に 訴 訟 要 件 の 先 順 位 性 を 否 定 す る 説 と し
て ︑ 坂 口 裕 英 ﹁ 訴 訟 要 件 論 と 訴 訟 阻 却 ( 抗 弁 ) 事 由 ﹂ 兼 子 還 暦 ・ 裁 判 法 の 諸 問 題 ( 中 ) ( 昭 四 四 ) 二 二 一二 頁 が あ る ( こ
の 説 に よ れ ば ︑ 請 求 認 容 の 場 合 も 訴 訟 要 件 の 先 順 位 性 は 否 定 さ れ る ︒ 後 述 三 ・ 3 参 照 ) ︒ な お 訴 え の 利 益 な い し は 権 利
保 護 の 利 益 の 先 順 位 性 を 否 定 す る 説 に つ い て は ︑ 後 述 四 ・ 3 ・ ㈲ 参 照 ︒
と こ ろ で オ ー ス ト リ ア に お い て は ︑ 訴 訟 要 件 は 判 決 確 定 ま で 職 権 に よ っ て 配 慮 さ れ ︑ か つ ︑ そ の 欠 敏 の 場 合 に 手 続 お
よ び 本 案 判 決 が 取 り 消 さ れ う る こ と は ︑ 当 然 で あ る と 考 え ら れ て お り ︑ 訴 訟 要 件 の 先 順 位 性 に つ い て は ほ と ん ど 議 論 さ
れ て い な い と い わ れ て い る ( < ①q 一 . O s k a r J ° B a l lo n , D ie Z u l a s s ig k e it d e s R e c h t s w e g s , 1 9 8 0 , S . 1 3 6 ) ° バ ロ ン じ
し ん は ︑ オ ー ス ト リ ア 民 訴 法 四 七 一 条 ( 'F ,,, 審 に お け r(a ' 所 Wk ( ( D e r V o r s t e h e 昌 あ る い は 部 の 裁 判 長 に よ る 事 前 手
続 ) ︑ お よ び 四 九 四 条 ( 訴 訟 要 件 に 対 す る 控 訴 審 の 職 権 調 査 ) を 根 拠 に ︑ 本 案 要 件 に 対 す る 訴 訟 要 件 の 先 順 位 性 は 当 然
認 め ら れ る べ き で あ る ︑ と 解 し て い る ( ゆ ゜ 餌 ゜ ∩ 冒゜ oo . 1 4 2 f °) ︒
異説の登場(その一)
ーリンメルスパッハーi
リンメルスパッハーは︑訴訟要件を本案要件と同じ価値を有する判決発令要件(口﹁8房︒ユ魯くo﹁p器ω︒訂§°q︒ε
( )
と解し︑本案要件に対する訴訟要件の先順位性を否定する︒そこで本章では訴訟要件と本案要件との間に差異は存在するのか否か︑またその差異は訴訟要件の先順位性を理由づけうるのかについて︑リンメルスパッハーの見
解を手掛りにして考えてみたい︒
訴訟要件と本案要件との同価値性の理由として︑リンメルスパッハーは︑①訴訟要件欠鉄の際に下された判
決の効果が無効主義(ワ嗣ichけ凶oqkeitsprinz凶")から取消主義(Anfechtungsprinzip) .1変化したこと︑②訴訟判決
と請求棄却判決とはその既判力において差異がないこと︑③ZPO二七五条による独立の口頭弁論は︑すべて
の訴訟要件に許されるわけではないこと︑④訴訟要件の︑被告の利益を保護する機能は︑請求認容判決を下す
べきでないことを要請するが︑請求棄却判決を禁じるものではなく︑この点において訴訟要件と本案要件との差
( 2 )
異は存在しないこと︑および︑⑤r法適QQ性(Justizformigkeit)の概念は訴訟要件に関係しないことをあげる︒右の理由のうち︑③と④についてはここで簡単にふれておきたい︒まず理由③は︑一九七六年の改正により︑
独立の口頭弁論は旧二七四条において妨訴抗弁とされていた訴訟要件のみでなく︑すぺての﹁訴えの適法性に関
する責問﹂について認められることになったので(現行ZPO二八〇条)︑もはや訴訟要件と本案要件の同価値性の
根拠として不適切なものになった︒もっとも︑この独立の口頭弁論が裁判所の裁量にかかることは旧法と同様で
訴訟要件の審理順序e
三 五 ( 5 )
三 六 ( 6 )
(3 ) ( 4 )
あるので︑リンメルスパッハーが指摘していたように︑この独立の口頭弁論が訴訟要件についてのみ認められ︑本案要件については認められないことから︑訴訟要件の先順位性を演繹することはできないといえよう︒次に理
由の④も︑両要件の差異を否定する理由として不適当である︒なぜなら︑請求棄却判決であっても被告に不利益
を与える場合(治外法権者に対する訴えや団体の自律権の侵害が問題となる場合など)があり︑それ故被告の利
益保護の点において両要件は同一とはいえないからである︒
理由の①②⑤については︑以下に順次検討したい︒
注 ( 1 ) 切 ゜ R i m m e ls p a c h e r , a . a . O ° ω . 7 7 ff . た だ し 訴 え 存 在 要 件 ( E x is t e n z b e d i n g u n g e n d e r K l a g e 例 と し て 訴 状 送
達 の 適 式 性 ) ︑ 確 定 判 決 の 存 在 ' 判 決 存 在 要 } ‑ ( U r t e il s b e s t a n d s v o ra u s s e t z u n g e n 例 と し て 人 的 裁 判 権 ) に つ い て
は ︑ 本 案 要 件 よ り 先 に 審 理 さ れ る べ き で あ る と す る ( 騨 P ρ ω ゜ 1 2 5 , 1 3 1 f f ., 1 3 6 f °) ︒ そ の 後 ︑ 二 重 起 訴 禁 止 も 例 外 的
に 先 順 位 性 を 有 す る 訴 訟 要 件 に 加 え ら れ た ( α o ﹁ ω ̀ ℃ ﹁ o N o O < o 雷 ⊆ ω ω o 訂 彗 oq o コ ぎ α o ﹁ 幻 o ≦ ω 団 o 昌 ﹁ N N ℃ c︒ c︒ ( お 謡 y ω
謡 刈 ゑ ゜) ︒
( 2 ) 切 ゜ R im m e l s p a c h e r , a . a ° O . S . 7 7 ff ., 9 2 ff °唱 1 1 2 f ., 1 1 3 f f ., 1 1 5 ff °
( m ) B a u m b a c h ‑ L a u t e r b a c h ‑ H a r t m a n n , Z P O , 3 7 . A u fl ., 1 9 7 9 , ァ 2 8 0 A n m . 2 .
( 4 ) ゆ . R im m e ls p a c h e r , a ° 自 ︒ ρ ω ゜ 一 H ω ゜
1
無 効 主 義 ( N i c h t ig k e it s p r in z i p ) か ら
取 消 主 義 ( A n f e c h t u n g s p r i n z ip ) へ の 変 化
①周知のように︑古代ローマの民事訴訟はぎ冒嬬①における手続とぎ言島oごにおける手続とに分けら
C‑‑')れていた︒ぎピ吋oにおいては︑iniudicioに進むために存在しなけれぱならない要件が審理されたが︑この
審理は国家の官吏である勺雷08吋によって行われた︒そしてこれらの要件が不存在であるときはαo昌ooq①怠o
actionisS裁判がなされ︑要件が存在するときは争点決定によってiniureQ手続は終結し︑iniudicioS手
( 2 )
続に進んだ︒このように訴訟手続が︑事前f}{,続(Vorverfahren)と本案手続とに二分されていた原因を︑ビューローは︑国
家自体がその職責により争いのある法的地位の承認および保護のために必要な訴訟上の要件を審理した場合にの
( m >
み︑私法上の請求権は十分に堅固な︑私的な意見・意思を超える力に強められる︑という要請に見た︒②右のようなビューローの見解に対し︑リンメルスパッハーは︑正当な判決のために同じように重要な実体
(4 )
法上の要件は何故国家の官吏によって判断されないのか︑と批判する︒そしてリンメルスパッハーじしんは︑手続二分の原因を︑ローマ法において判決無効制度が認められていたことに求めた︒すなわち︑
﹁この判決無効を回避するために︑iniudicioの手続の有効性が依存している要件についての︑分離された弁論・審理・
裁判が必要とされた︒それ故ローマ人にとって国家の官吏による手続の準備が重要であったのであり︑また多くの訴訟要件(5)が職権によって調査されるぺきであったのである﹂とする︒
このようにローマ民事訴訟における手続二分の原因を判決無効制度に見たリンメルスパッハーは︑ZPO制定
( 6 )
後︑この判決無効制度は取消主義に変り︑判決無効の危険はなくなったので︑訴訟の有効性の確定や訴訟要件の(7 )
審理のための特別な手続は必要がなくなったと主張する︒③しかし︑右のようなリンメルスパッハーの見解に対しては︑次のような疑問がある︒まず第一に︑判決無
効制度が取消制度(っまり再審)に変容したとしても︑取消事由をそのほかの要件と異別に取り扱う必要はなお
訴訟要件の審理順序e