九州工業大学研究報告(工学)No.32 1976年3月 61
タングステン合金電析に関する研究
1.コバルトータングステン合金電析
(昭和50年10月31日 原稿受理)
工業化学教室田村隆之
津 留 豊 細 川 邦 典
Studies on Electrodeposition of Tungsten Alloys l.Cobalt・Tungsten Alloys
by Takashi TAMURA Yutaka TSURU Kunisuke Hosokawa
Cobalt−tullgsten alloys haΨe been electrロdeposited fTom plating baths which are prepared by adding aliphatic hydroxy acids, as¢⑪mp]exing agents, to ammonica1¢obalt・tungsten plating baths. The e{fects of the amounts of added complexing ageロts, bath pH and cllrrent density on the cathode current e伍ciency and on the composition of the alloy deposit were examined. Thε complexing agents inve$tigated we民glycollic,1actic, gluconic, DL−malic, tartaric. and eitric acids. The cathode current e伍ciencies and applicable current d鯉sities in the deposition of tungst・n・ll・ys vari・d t・several times with the type・。f add・d c・mplexi・g・g・・t合・The cathode e伍ciencies and the tungsten contents o the deposits decreased as the amounts of added complexing agents inoreased. The tungsten contents of the deposits v証ried from 20 to 55%.
The bath eoロtaining tartaric acid yielded cobalt−tungsten alloys、vith higher tungste且¢ontents on the average than the baths cD皿taining the other hydroエy acids. The appearance of the depo邑its wa書bright and metallie at tl肥垣gher range of the bath pH and the higher concentra−
tio且of the oomplexing agents. The e狂ect of the ourreロt density on thεoathode efEciency w旦s small at 5 to 20 A/dm2.
依然として取り残されている現状である。
t緒 言 タングステン合金の電析については,アンモニア性ア
タンゲステンの電解析出に関する試みは,過去100年 ルカリ浴に措化剤を添加したものが多く用いられてい にもおよんでいるが,水溶液または有機溶液のいずれか る。オキシ酸は,合金メッキ浴に対して・最良の婚化剤
らも,純枠な状櫨では,まだ析出されていない。溶融塩 であることは確められているが,一般に,クエン酸浴・
蔭からは,粉宋または樹枝状の析出物が得られているに 酒石酸浴で検討されている場合が多く・その他のオキシ 過ぎない。一方,タンゲステン合金の電解析出は,鉄族 酸との比較は少ない。本実験は 鉄族金属よリコパルト 金属(Fe, Ni, Co)による誘導共析出が,比岐的容易 を選び,そのタングステン合金浴に・上記を含む6租類 に行なわれる。しかし,析出物申のタンゲステン含有近t のオキシ酸を添加して・モの種類・濃度・pH・田流密 は,鉄またはコバルトとの共析出の場合50〜60%,二 度を変えることにより・析出物のタングステン含有串1 コケルとの共棺出の場合30%に述しているが,それ以 陰極電流効率1および析出物の状態にどのような蔀響を 上の含有量は,通常の浴組成および電解条件を適用した 与えるかを流べ・共析出におけるオキシ酸の機能を比較
これまでの実験では得られていない。これらの点から, {寅討することを目的とした。
超高温耐熱材料として類のない性質を持っタングステン は,近年,需要のふえているハードフェーシンヅ分野に
かけ,そのmを本体のコパルトに加える。水酸カリゥム
乳実験方法 溶液は,その一部を・・N塩酸溶灘入れ,ポーラ。グ
タングステン・コバルト合金のメッキ浴については, ラフにかけて,タングステンを定量する。なお,水酸化 いくっかのタイプが提案されているが1},操作が比栓的 カリウム溶液をろ過した際,コパルトの沈殿に吸着した 容易で,析出合金も良好な金属光沢の得られる浴として タンゲステンについても回収を行ない,モの量を本体の は,錯化剤の外に,アンモニウム塩を含む水酸化アンモ タングステンに加える。上記による分析誤差は大部分±
ン溶液が用いられている。析出物中のタングステン含有 2%の範囲に納まっている。
量は,浴の組成に左右されるので,中でも,高いタング
ステ塘柵酬られる次の組階去聾靴した。 3・実験結果
浴紗戎 実験に使用したオキシ酸は次の6旬類である。
CoSO4・7H20 28.ユ9/∫ (0.1 molノ」) グ1」コール酸 CH20H・COOH Na2WOべ2H20 72.6g/」 (0.22 molノ」) 乳 酸 CHゴCHOH・COOH NH4Cl 50 8/1 ゲルコ ン1費 CH20H・(CHOH)4・COOH オキシ酸 α 9/∬ DL一リンゴ酸HOOC・CHOH・CH2・COOH 金属塩の渡度は合計0.32moU∫で一定とし,オキシ 酒 石 酷 HOOC・(CHOH)2・COOH 酸濃度(αg/ )は,全金属塩に対するモル比率で1倍, ウ エ ン 酸 HOOC・C(OH)・(CH2COOH)2・H20
2倍,3倍撒をそれぞれ用いた。溶液の調製は沈殿の生 実験は,コバルト・タングステン浴に添加する上記オ 成を防ぐため,コパルト塩,塩化アンモン,およびオキ キシ酸の種類と,漉度,およびpHの変化の影響を表わ
シ酸の必要皿をまず蒸留水に溶かし,アンモニアにてア すように組立てた。この彫響は,陰極析出物の組成の変 ルカリ性にした後,タンゲステン酸ソーダ溶液の必要量 化,陰極電流効率の変化,析出物の外掬の変化でもって を添加して,最後に,所定のpHに調整した。 pHは, 調べ,以下に示す結果が得られた。旧し,ゲリコール
7,8,9の3水準を採り,pH測定の温度は,電解時 酸,乳酸、リンゴ酸の一部のpllに閏しては,透明な の温度と同一にした。電解槽は100m1ビーカーを用 溶液が得られなかった。
い,浴の体租は120m1,浴温はクエン酸浴以外の浴に 実験方法の項の最初に述べた本メッキ浴組成は,Hoar ついては,53℃(±1°)で一定に維持した。陰極は白金 and Bucklow21がクエン酸を添加して用いた浴と類1以 板2<5cmを使用し,陰極をはさんで両側に,同じ大 の組成で,オキシ酸を変え種々検討を行なった。電解条
きさの白金板を問極として配置した。所定電流に自動制 件範囲を設定するため,まず,クエン酸について調べた 御した直流を流し,田若時間は20分を標準とした。オ 結果は,図一1,図一2の通りである。図一1は,クエ キシ酸の緬類によって,適用し得る電流密度には,かな ン酸濃度を全金屈量の2倍のモル比にした場合で,電流
り差が認められ,5〜20A/dm2の範囲内で最適条件を 効率と析出物のタンプステン含有皿に対して, pl4によ 選んだ。不溶性陽極の使用により,浴中の有機成分の酷 る影腎は認められるが,電流密度による影醤は少なかっ 化が進み,時間の経過と共に浴は劣化する傾向にあるた た。クエン薩の場合,モの他のオキシ酸に比べて,高電 め,1回の電着の都度,浴は新しく調製して使用するこ 流密度が適用できるが,電流効率は電流1密度と関係なく とにした。 きわめて低い。副反応による温度上昇が著しく,電解時 陰極上に析出したコパルト・タングステン合金の分析 の温度は,50℃よリスタートして終了時は60℃位に
方法は次による。まず,析出物を秤m後、弗酷および硝 自然一ヒ昇した。図一2では,クエン酷濃度が高くなる 酸の混酸に溶解し、引き続いて蒸発乾固する。乾固物 と,電流効率は低下し,同時に析出物申のタングステン は,120℃に加熱してタングステンの酸化物を不溶性に 含有鑓も急激に低下していろ。これらが漉度の増加する
した後,希硝酸を加えて,コパルトを溶解してろ過す 方向へ減少して行く傾きの度合は,酸によって差はある ろ。コパルト溶液はその一部を採り,1Nアンモニア+ が、これは各オキシ酸に共通した傾向である。 pH 9の
1N塩化アンモン溶液にして,ポーラログラフにて定量 電流効率は,他のpHよりも高く,クエン酸濃度を1 を行なう。コバルトの一部を吸着したタングステン酸化 倍以下のモル比にした場合,効率が急激に上昇している 物の沈殿は,水酸化カリウム溶液に溶解した後ろ過す が,メッキ状態は無光沢になり,タングステン含有量の る。吸着コパルトは沈殿で回収し,ろ紙と共に焼いた後 上昇は見られない。メッキ後の表面状態は,全般的に金 ふたたび酸に溶解して,上述と同様,ポ・一ラログラフに 属光沢があり良好であるが,非常に酸化が進みやすい性
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電流密度(A/dm2) クエン酸の全金属量に対するモル比準
O IO 20 30 1・1 2,1 3 1
蕊50
葺
蘂30霞 蓮
堅lo
蕊o
遷
裏50
芦
三3。
置
恒o
三8一一竃 監
三告之二仁ゴニ
§50 量 蘂
邊30蓮 蟄 lo
〔 o§
1ヨ
菟50
き
嵩30
藷
1・−@o
触こミ竃☆
O IO 20 30 1 1 2d 311 電 流 密度(A/dm2) クエン酸の全金属量に対するモル比率
●pH 7 △pH 8 0 pH 9 ●pH 7 △pH 8 0 pH 9
図一1 クエン酸浴における電流密度とpHの影響 図一2 クエン酸浴におけるクエン酸渥度とpH (クエン酸濃度は2:1モル比) の影響(電流密度:20A/dm2)
する傾向が見られた。
以上汐エン齢での鍵喘の鮪を調べてみた §5◎
が,次に溺嚥その他のオキシ酷こついての比灘行 喜
な㌶瓠合(図一3参照)は酬1。灘がクエ 曇3・
らロン酷に比〔て数倍高いが,pH 9の効率が他のpHより 琿
も低下しているのは,クエン酸と酬血ヨである鵡醐 計o 物タンゲステン舗皿は,平均してクエン酸の場合よ 蕊o
りも高く,pll 8および9では,酒石酸の量の聾響を受 鵡
けず,4醐寸近…が,,H7と8の間で、錯化剤の £5・
呈による影麗が交鎧している。メッキ状態はpllによ ≧ 9
る彫監が大きく,pII 7ではほとんど無光沢で. PH 9 ÷30
で最胱沢がよかつた・靴剤濃度は・Hほどには影 竃
培しないが,全金属塩に対するモル比率で1倍の皿より 曽 0
貿のものである。また.PH 9については粒子が粗大化 酒石酸の全金属:n:二に対するモル比率 ・ − lll 2 1 3・1
、●
τミここミ:三
ヨ≧}_R=
\..
も・2倍,3倍の方がよい光沢がf9られた・ 酒石議金認!肯農!、比率
グルコン酸搭(図一4)は・電流効率は酒石酸浴に近 ●pH 7 △pH 8 0PH 9
く・靴剤の雌・・Hによる変1ヒは比鮪小さい・メ 図_3酒石酸浴における酒石麟度とpH
ッキ後の者而状態も酒石酸とほぽ同じ傾向であった。適 の影響(電流密度:10A/dm2)
用可能な田流密度も酒石酸に近く,クエン醒より低くな
る。 酒石酸よりも低く,クエン酸の付近を上下している。適 リンゴ醜浴(図一5)は,電流効率がさらに上昇し, 用可能な電流密度は,オキシ酷の中でも下位に属し 5 特に,PH 8の場合最も高い電流効率を示している。析 A/dm2以下で、2倍以上の錯化剤漉度の堪合・光沢の 出物中のタングステン含有頂は,大部分が40%以下で, よい均一なメッキが得られた。
§50
量
選30 蟄10
蕊o
遠1≡
吉50
、一
モー30
圏 o
ヨこ1≧虻
碧ミ言:こミ←
§70
婁
鷲50
・i堅30
蕊o召
‡5・
き
璽3°
春。
一△■一一一■■こ血■
℃\一ミミ±こ
o〜〇一
苫こ=ヨベξ
111 2 1 311 181 2 1 3 1
グルコン酸の全鰯量に対するモル比率 リンコ酷の全金属量に肯るモル比率 ・pH 7△pH 8 。pH 9 ・pH 7△pH 8 °pH 9
図一4 グルコン酸浴におけるグルコン酸濃度と 図一5 D】レリンゴ酸浴におけるリンゴ酸濃度と pHの影響(電流密度・10Aノ・㎞り pHの影響(電流密度・5A/㎞ )
グリコール酸の全金属量に対するモノレ比率 乳酸の全金服に対するモル比率
1 , 311 181 l Il
蕊70
蔓
育50菖 商
憂30
( 0§
桔50く泊
≧
皇30
垂
菖0
\
・。_。:ニユ毎=
§70
業…50
謹30
まo
頚§5。
曇3°
轟。
一〇̲ 蝕
\
一。一。一一W一
・ 川 2・1 3,1 ト1 2・1 311
グリコー・蹴罐に罐レ比率 日L鮮晋麟㌣
図_6 グリコール酸浴におけるグリコール酸濃度 図一7 乳酸浴における乳酸濃度とpHの とpHの影響(電流密度:5A/dm2) 影響(電流密度:5A/dmり
グリコー,、齢(図一6)および乳醐(図一7)に く,タングステン酬量は4・%i拘縫示していろ・メ ついては,,H7および8の浴1・お・・て鵡液徽蹴 ・棚態{・つ・・て1よ,列コール酸は全蜘1・光沢1娘 段を生じる場合が多く,比較し難いが遮用可蹴流 好であったが・酬は光沢がきわめてぼFし・均一麟 離は5A/dm・以下で,嚇効率}まリンゴ酸浴に近 性も蝋嚇密麟下げ・錯化剤を多く加えたが・光
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沢はさほど改善されなかった。
以上,舗のオキ楢浴についての結身1を述べたが, 55 ㌔ 図一8および図一9では,PHを8,電流密度を5Aノ (
d皿・で一定とした蛤オキ珊の種類による影繊 芭5。
総括的に図示した。いずれも縦軸の目盛を広げてあるの [三
で抽綱囎棚張されている.電析物中のタングス 惇 、
蕊㌫㌶㌶慧f蕊:45>ぐ恕」.
4,考 察 忘
メッキ状態から判断した適用可能な電流密度と電流効 い O、
率は,オキシ酸によって著しい差異が認められる。電流
効率,析出物中のタングステン含有皿は,各漉度,pH O
lll 211 3・1 の結果からおおよその範囲をとり分類すると・次の三つ オキシ酸の全金属量に対するモル比率 のグループに分けられる。 Oクエン酸 ●酒石酸 ムグルコン酸 ▽リンコ酸 ログリコール酸 ・乳酸
酸の租類 分子垂 電流密度 電流効率 W含有1丑
クエ瘤2・一・A/dm・1・−3・%2。−55% 図一8鑑t鑑;:當墓鑑鶴霊
㌔ン㍍:1:;}・・A/一一55%35−5・蕗
上側三つの酸については,電流密度を5A/dm2にし 60 ても1二記範囲の田流効率であることは,図一9に示した
通りである。
メ・キ浴巾では バルトは・却1はアンモニア魎 蕊
:一総㌶㌶㌶蒜鑑:㍍ 蚕4・
る。これらの錯体は,分子皿が高く,カルボキシル基お 鑓 よぴ水酸基の多い錯化剤ほど,安定したものになり,電 目 ロ 流嶋高くしても継の解蹴きオ・めておそく,嚇 籔
効率を低下し,クエン階のごときは,比il咬的輌広いメッ 晶20 キ条1牛を適用できるようになろぱ1化剤の漉度が増加す
ると・電流効率,タングステン含有凪共に低減の傾向に あるが,これは.鉗本からの金屈仲ンの解離析出を一
囮抑制し,特に,タングステン錯体が安定なため,コパ O
ルト錯体よりも析出電位が卑になっているためと思われ 1・1 2・1 3・1
る・中でも、クエン醐場合,タングステン☆緬の範 オキシ酸の髄壁副些モル!寧
蹴い(2嚥%)のは:f也のオキシ酸砒ぺて,錯 :篠謬i鷲.鐘レ譲
化繊度の麟が大きいためである。タングステン舗 、
綱する靴獅卿ま,クエン酸以鍋・いて 図一9灘蒜嘉麟躍祈した場合
も・pH 7酬砒・1醐大き槻わオ・ている。 (pH 8□流醜、5A/㎞・)
メ。キ状態は,オキシ酸の濃度による影響も見られる によrて数倍の影響を受け・多塩醐より一塩繊に近 が,一般に,pllによる影緊が大きく認められ,乳酸以 い構造の簡単なものほど,効率がよく,また.その濃 外の酸では,錐化剤濃度を全金属塩に対して2倍以上の 底pHの影醤を受けやすい。電析物中のタングステン モル比とし,また,pHを8以上として,適正電流密度 含有肚は,平均として酒石酸が高く,45田を示したが,
を用いれば,金属光沢のあるメッキが得られる。しか その他は全般的に低い結果に終った。メッキ状態は,全 し,鏡面光沢のある状態のものでも,酸化はきわめて進 般的によく,操作条件の広い安定した浴であることが確 みやすく,微細粒子では,常温でも酸化するタングステ められた。
ンの性質が,そのまま現われていると思われる。
本実駆酬したオキシ酸は,いずれも錯化剤として 謝辞
有効に働き,共析出の目的を果たしているが,タングス 本実験の遂行に当たり,電解液の調製,田析物の分析 テンの析出電位が,コパルトに対して貴になるような働 に協力をいただいた山城達次君に深謝致します。
霊:霞蕊溺㌫蕊霊;麟 参考文献
剤をも含め,電解電位と水素,タングステン、:]バルト 1)A・Brenner: Electrodeposition of Tung昌!en
の析出趾の酬ついて・更蹴を進めろことが必
@搬,°膿蒜鶉㌫ご漂蒜A;漂
要と思われる。 35g(1g63).
2) T.P. Hoaエ and L A、 Bucklow: On the 5・結 旨 E1,、t,。d,p・siti・n・fT・・g・t・・−C・b・lt A11。y・
以上・アンモニア肋グステン・コバ・・ト合金メ・ @㌶㍑e;ll霊}lnl;,;lans 1°st Metal
キ浴に,異なるオキシ酸を加え,租々の電解条件で,電 . 析におよぽす効果を調べた。陰極電流効率は、オキシ酸