行動に関する一考察 : 共有ビジョンの形成過程か らのアプローチ
著者 西出 勉, 大宮 健一, 礒島 年成
雑誌名 北翔大学北方圏学術情報センター年報 = Bulletin
of Northern Regions Academic Information Center, Hokusho University
巻 12
ページ 67‑76
発行年 2020
URL http://doi.org/10.24794/00003294
研究報告
総合的な学習の時間の推進に向けた 校長のリーダー行動に関する一考察
〜共有ビジョンの形成過程からのアプローチ〜
西出 勉) 大宮 健一) 礒島 年成)
)北翔大学教育文化学部教育学科 )札幌市立大谷地小学校
抄 録
本稿では,総合的な学習の時間の推進に向けた学校の共有ビジョンの形成過程に着目し,校 長の果たした役割やリーダー行動の実際について明らかにしようとしたものである。校長の リーダー行動については「校長の専門職基準 」における「基準 :学校の共有ビジョンの 形成と具現化」を指標とし,実践事例の分析・考察を行った。校長のリーダー行動(役割)の 特色については,①客観的データに基づく現状把握から教職員の問題意識につなげる行動,② 学校ビジョンの形成とその実現に向けた協働組織体制の構築に向けた行動,③教職員等を巻き 込んだ理解と納得感に裏打ちされた協働の組織化に向けた行動,④学年研修が支えるカリキュ ラム開発とカリキュラム・マネジメントの推進に向けた行動,⑤記録化された振り返りを改善 の実効策へリードする行動等が見られた。
キーワード:総合的な学習の時間,校長のリーダー行動,校長の専門職基準 ,共有ビジョン
Ⅰ.は じ め に
総合的な学習の時間の実践を推進していく際には,各 学校で指導計画を適切に作成するとともに,その実施に 向けた校内体制の整備についても留意する必要がある。
校内の体制づくりについて,校長が配慮すべき視点とし て,次の 点をあげることができる。( )
( )校内の教職員が一体となり協力できる体制をつ くる等の校内組織の整備
( )確実かつ柔軟な実施のための授業時数の確保と 弾力的な運用
( )多用な学習活動に対応するための空間,時間,
人などの学習環境の整備
( )学校が家庭や地域と連携・協働しながら取り組 む外部連携の構築
本稿では,札幌市立大谷地小学校(以下,大谷地小学 校と記述する。)における総合的な学習の時間の実践事 例を通して,主に( )の視点に関する校長のリーダー 行動や果たした役割等の実像について分析・考察を行っ ていく。具体的には「校長の専門職基準 」( )を指標
としながら,総合的な学習の時間を推進するための体制 づくり等について校長がどのようにアプローチしていっ たのかを明らかにしていきたい。
Ⅱ.研 究 の 目 的
大谷地小学校における総合的な学習の時間の実践事例 を通して,その推進に向けた学校の共有ビジョンの形成 過程における校長のリーダー行動や果たした役割等の実 際について明らかにする。
Ⅲ.研究の内容・方法
研究内容
「校長の専門職基準 」を指標としながら,大谷地 小学校における総合的な学習の時間の実践事例につい て,その推進に向けた校長のリーダー行動(役割)等の 実際について,次の 点から分析する。
( ) 情報の収集と現状の把握
( ) 校長としての学校のビジョンの形成
( ) 関係者を巻き込んだ共有ビジョンの形成
( ) 共有ビジョンの実現
( ) 共有ビジョンの検証と見直し 研究方法
( )総合的な学習に時間の実践に関する指導計画や 関係資料等の収集
( )校長に対する聞き取り調査
・日時:令和元年 月 日(金) : 〜 :
・場所:A 小学校 校長室
・内容:総合的な学習の時間の推進に向けた校長と しての具体的な取組について
Ⅳ.「校長の専門職基準 」について
「校長の専門職基準 」(以下,「専門職基準」と記 述する)は,日本教育経営学会において校長職を専門職 として確立することを目的として作成されたものであ る。校長を「教育活動の組織化」をリードする職として 位置付け,求められる校長像とそこで必要とされる専門 的力量の構成要素が示されている。( )
具体的には,次の つの基準によって構成されてい る。
<専門的力量の構成要素>
基準 :学校の共有ビジョンの形成と具現化 基準 :教育活動の質を高めるための協力体制と風
土づくり
基準 :教職員の職能開発を支える協力体制と風土 づくり
基準 :諸資源の効果的な活用
基準 :家庭・地域社会との協働・連携 基準 :倫理規範とリーダーシップ
基準 :学校を取り巻く社会的・文化的要因の理解
本稿では特に基準 の指標に着目し,教育活動の組織 化をリードする校長の行動や果たした役割等について分 析する。基準 については,専門職基準に次のように述 べられている。
【基準 】
「学校の共有ビジョンの形成と具現化」
校長は,学校の教職員,児童生徒,保護者,地域 住民によって共有・支持されるような学校のビジョ ンを形成し,その具現化を図る。
.情報の収集と現状把握
様々な方法を用いて学校の実態(児童生徒の学
習・生活,保護者,地域からの期待,地域社会の 環境,これまでの経緯など)に関する情報を収集 し,現状を把握する。
.校長としての学校ビジョンの形成
学校の実態と使命を踏まえつつ,共有ビジョン の形成を目指して,自分自身の見識に基づいて校 長としての学校ビジョンを構想する。
.関係者を巻き込んだ共有ビジョンの形成 校長は学校の実態と使命を踏まえつつ,すべて の教職員,児童生徒,保護者および地域住民等を 巻き込みながら学校の共有ビジョンを形成し明示 する。
.共有ビジョンの実現
学校の共有ビジョンを実現するためにカリキュ ラムおよび校内研修等の計画を具現化する。
.共有ビジョンの検証と見直し
学校の共有ビジョンを絶えず検証し,見直しを 図る。
校長は,各学校において総合的な学習の時間の目標及 び内容,学習活動等について決定していかなければなら ないことから,その教育的意義や教育課程における位置 付けなどを踏まえ,自校のビジョンを全教職員に説明 し,教職員の実践意欲を高めるとともに,実践に向けた 校内組織を整えていく必要がある。( )そのためには,校 長自らが明示する学校ビジョンについてカリキュラム開 発や教職員の職能開発等と関連付けながら,自校の共有 ビジョンを形成し,その具現化を図っていくことが求め られる。
本稿では,大谷地小学校における総合的な学習の時間 の実践を通して,「基準 :学校の共有ビジョンの形成 と具現化」の視点から,校長の具体的なリーダー行動や 役割などについて明らかにしていきたい。
Ⅴ.校長のリーダー行動等の実際
大谷地小学校の大宮健一校長(以下,大宮校長と記述 する)は総合的な学習の時間に関する研究団体にリー ダー的な存在として所属しており,当該校において研究 大会を開催することになっていた。本稿では総合的な学 習の時間等の研究大会の開催に向けた大宮校長の基本的 な考え方や具体的な行動等について,専門職基準:基準
「学校の共有ビジョンの形成と具現化」の視点に即し て分析を行っていく。
.情報の収集と現状の把握
総合的な学習の時間の実践を進めるに当たり,最初に
様々な方法を用いて学校の実態に関する情報を収集し,
現状を把握することが必要である。大宮校長は教職員の 問題意識や客観的な数値データが示した事実から,現状 把握と教職員との共通理解を図っている。
( ) 教職員の問題意識と現状の把握
大宮校長は教職員の認識や現状について,次のように 述べている。
① 「総合のことがよくわからない。」という教職 員からの声があった。
② 「どうやっていいのかわからないので,研修の ための講師はいないだろうか。」学びの推進部
(分掌組織)から校長へ相談があった。
③ 校長は「じゃ,私がやるよ」と講師を引き受け た。
大宮校長は①及び②のような教職員のニーズを的確に 捉えるとともに,総合的な学習の時間に関する自らの実 践の積み重ねや専門性を生かし,自校の教職員の職能向 上に向けた研修会の設定を実行している。外部講師を招 聘することも可能であったが,あえて大宮校長自身が講 師となり,教職員とともに研修に参画している姿勢から は,教職員とともに協働する存在としての校長像を見る ことができる。総合的な学習の時間には教師がチームを 組んで指導に当たることによって,児童の多様な学習活 動に対応する( )という特質がある。研究会の実践を通し て全教職員の指導力向上を図っていくことにより,様々 な教育活動の充実や目指す資質・能力の育成につながっ ていくものと考える。
( ) 客観的データと現状の把握
毎年,各小・中学校では「全国学力学習状況調査」が 実施されているが,大宮校長は自校の質問紙調査の結果 について,次のように述べている。
① 質問紙調査の中で,「地域とのかかわりで学習 しているか。」という質問項目の数値が低いこと が明らかになりました。
② この結果は教職員にとって,自校の子どもたち や教育活動の実態を表す説得力のあるデータとし て大きな意味を持ちました。
③ 私は「来年は地域ともっとかかわっていきた い!」と教職員に対して話をしていきました。
教師は日々の教育活動を通して様々な状況に接してい く中で児童の実態について把握していく。①のように数 値による客観的データが示されたことにより,教職員間 で主観的に捉えられていた学習状況について,意味ある
実感を伴った事実として受け止めることができたものと 考えられる。さらに大宮校長はそのデータをもとに,具 体的に「地域とのかかわり」を経営方針として明示し,
次年度に向けた目標設定を試みている。
教師が日々,感じている児童の姿や実態に加え,数値 が示す客観的な事実が明確になることにより,教職員自 身の認識が一つの確信となって課題意識の高まりへとつ ながっていったものと考える。そして,この機を逃さ ず,大宮校長は「来年は地域ともっとかかわっていきた い!」と教職員に伝えている。次年度へ向けた「小さな 経営方針」を教職員にさりげなく語り掛けているところ に,校長のリーダー行動の一端を見ることができる。
.校長としての学校ビジョンの形成
校長は,学校内外の実態に関する様々な調査の結果に 基づいて現状と課題を把握した上で,学校が果たすべき 期待や願いを実現するために,教育活動の方向付けとし てのビジョンを教職員や学校関係者と共有しなければな らない。その際,校長には自分自身の教育理念や今まで の経験を踏まえて,目指す姿としての学校のビジョンを 構想し教職員に提示することが求められる。( )
本稿では,自校の実践内容や学校課題の具体的な解決 策など, 〜 年間を見通した学校の目指す姿を「学校 のビジョン」と捉え,「校長の経営方針」はそのビジョ ンの実現に向けた方向性や具体的な方策として考えてい くこととする。
( )学校課題への対応と学校のビジョンの形成 大宮校長は経営方針の中で「学校課題への対応」とし て,生活科・総合的な学習の時間の質の向上を挙げてお り,次の 点を重点内容として明示している。
<学校課題への対応>
① 体験を生かした探究的な学習で子どもが笑顔 に!
② 地域を活用した学習・カリキュラムの整備
当該校は研究団体の発表大会を 月に予定していたこ とから,大宮校長はまず最初に全教職員による協働体制 の確立を意識したものと考えられる。また,②について は先述した通り,全国学力学習状況調査の質問紙調査の 結果から,地域の教育資源を積極的に活用した総合的な 学習の時間の実践を展開していこうという大宮校長とし ての戦略・戦術があったものと考えられる。
①及び②の経営方針は,教職員にとって外発的動機付 けとなる研究発表大会の開催と客観的データに基づく自 校の実態を踏まえた重点内容である。これらは教職員サ イドからみた場合,現実的かつ必要感をもった課題であ
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ることから,校長が明示した経営方針は,全教職員に とって共鳴できるものであり,教職員に対する内発的動 機付けとしての効果を有するものであったと考えられ る。
( )校務分掌組織と学校のビジョンの形成
学校は日々の学習活動を円滑に推進するために,教師 の適切な職務・役割を分担する校務分掌が組織されてい る。校長には,学校の教育目標を実現するために必要と される校務を教職員が分担し,これを遂行する校務分掌 を組織し,調和のとれた学校運営を目指していくことが 求められる。( )
大谷地小学校では,図 のような校務分掌が組織され ており,大宮校長は「子どもの実態をもとにした校務運
営」を学校運営の基本的なスタンスとして掲げている。
「課題に応えられる組織」として,子どもの実態をしっ かりとらえ,それをもとに教育活動を推進する分掌組織 が確立されている。
校務は大きく分けて,次の つの領域から構成されて いる。
<校務の領域>
① 児童生徒の教育指導にかかわる教務
② 教育指導の効果的遂行のための学校事務
③ 教職員の職務能力を高める研修
大宮校長の経営方針には「組織体制の見直し 年目」
図 課題に応えられる組織
として,次のように記述されている。
■ 組織体制の見直し 年目
・学校規模縮小への対応
・教育課題への即時的対応の取組
① 校務分掌分担から分掌の「協業化」への意識転換
② 授業改善のための学年研修の充実
③ 専科指導の実施
①では分掌の「協業化」について述べられているが,
見直しの観点としては校務全体の効率化や分担等を行う ことが必然的に求められる。
大宮校長は研究大会に向けたカリキュラム開発や授業 実践等を通して生まれた新たな課題に対して,「どこの 部やセクションが担当したらよいのか?」について,そ の都度,教職員に問いかけ,協議しながら課題解決に取 り組んでいる。また,総合的な学習の時間における教育 活動は,「教師がチームを組んで指導に当たることに よって,児童の多様な学習活動に対応する」( )という特 質がある。教職員に対する「協業化」への意識転換は,
ダイナミックな探究のプロセスを展開する総合的な学習 の時間の実現に向けた重要な取組であると考える。
教員の職務は個業的な側面と協業的な側面を併せ持つ ところに特色があり,それであるがゆえに大宮校長の行 動は,お題目としての分掌組織ではなく,目の前の実態 に即した有効かつ効果的な分掌組織の構築を図ったもの であると言える。
そして,教職員との対話を通して自校の課題に応えら れる分掌機能を模索し,教職員の役割の明確化を試みて いるところに大宮校長の識見に基づいたリーダー行動を 垣間見ることができる。
.関係者を巻き込んだ学校ビジョンの共有化 校長の学校ビジョンが自校の教職員をはじめ保護者や 地域住民等のすべての学校関係者によって共有・支持さ れる「共有ビジョン」に至るためには,関係者をリード し巻き込んでいくプロセスが必要である。
( )意見調整と共有ビジョンの形成
校長は共有ビジョンの形成の際には,第一義に教職員 等のそれぞれの立場における意見や考え方を整理,理解 しようと努力することが求められる。
校長は自校の実態を把握し,学校が果たすべき役割を イメージしながら学校ビジョンを構想し,その具現化を 図るために,教職員の話し合いや保護者等の意見を取り 入れながら,共有ビジョンを形成していくことになる。
この一連のプロセスの中で様々な意見を調整し巻き込み ながら,学校関係者が納得感や参画意識のもてる地に足
のついた「共有ビジョン」が形成されることになる。
先述の通り,大宮校長はカリキュラム開発や授業実践 等を通して生まれた新たな課題に対して,「どこの部や セクションが担当したらよいのか?」について,その都 度,教職員に問いかけ,協議しながら課題解決に取り組 んでいる。教職員の意見を受け止め整理し,調整しなが ら納得感や参画意識を少しずつ譲成し,ともに実践でき る共有ビジョンの形成に向かおうとしているところに,
大宮校長の指導性を見取ることができる。
( )協働の組織化と共有ビジョンの形成
先に述べたように,大宮校長は「組織体制の見直し 年目」として分掌の協業化を経営方針に掲げ,教職員の 意識転換を図ろうとしている。教育活動の実践主体者で ある教職員が学校ビジョンをどのように受け止め,どう 実現していくのか,そのためにやるべきことは何かを各 分掌や学校全体で考えていくことが,教職員による協働 の組織化と言える。
大宮校長が掲げる分掌の「協業化」への意識転換は,
自らの学校ビジョンについて教職員を巻き込み,理解と 納得感を引き出しながら協働の組織化を促す戦略的な取 組であり,共有ビジョンの具現化に向けた道筋として捉 えていくことができる。
.共有ビジョンの具現化
校長には,共有ビジョンを具体的に実現するために,
具体的な教育活動を展開するためのカリキュラム開発と 教育活動の質的向上を図ることをねらいとした校内研修 の場を設定していくことが求められる。
( )カリキュラム開発と共有ビジョンの具現化 校長には,共有ビジョンを具体的に実現するために,
教職員と共に日々の教育活動を展開するためにカリキュ ラムを開発していくことが求められる。
大宮校長の経営方針には,次のように記述されてい る。
■ 体験活動の重視
「教科・総合のカリキュラム整備・継続・見える化」
・生活科,総合的な学習の時間を中心に体験的活 動を充実させ,校区の特性を生かした学習活動 を展開する。
・子どもが相互に学習の成果を交流することを重 視する。
大谷地小学校では,総合的な学習の時間の指導計画を 表 のように「TRY」年間指導計画として見える化を 図っている。また,校区の特性を考慮し,地域の施設や 人材を自校の教育活動に取り入れながらカリキュラムの
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開発も行われている。「TRY」では,幼稚園・保育園児 と小学校の児童の交流など異校種間連携や食育,福祉,
国際理解教育等が計画されており,実社会や実生活の事 象や現代社会の課題と関連付けながら多様で幅広い総合 的な学習の時間における学びの実現を目指そうとしてい るところに特色がある。
また,表 のように「TRY」全体計画において,目 標及び内容,探究課題,育成を目指す具体的な資質・能 力等が明示されており,大宮校長が目指す体験活動を重 視した探究的な学習の実現に向けて意図的・計画的なカ リキュラム開発が行われている。
学校経営の PDCA と相即する サ イ ク ル を と る カ リ キュラム開発には,つの作用がある。 点目は,学校の 上位目標を個々の教員や下位集団の実践に落とし込む作 用である。 点目は,関係者の実態認識を学校全体の課 題意識や目標設定に持ち上げる作用である。( )校長の学 校ビジョンが共有ビジョンの具現化に向かうためには,
カリキュラム開発の つの作用を意識していくことが重 要である。
大宮校長は,自校における全体計画の作成に加え,研 究団体と連携・協働したカリキュラム開発にも取り組ん でいる。研究大会を自校において開催する機会を通し て,研究団体が有する専門性を生かす方向で自校の教職 員とともに総合的な学習の時間の指導計画を開発する
「協働の組織化」にも取り組んでいる。自校の教職員の みならず,より専門性を有する研究団体のスタッフも参 画する「チームとしてのカリキュラム開発」は,カリ キュラム開発の つの作用を最大限に発揮させ,教職員 の内発的改善意欲を高める効果的な連携・協働の取組と なっているものと考える。
( )学年研修と共有ビジョンの具現化
校長には共有ビジョンを実現するために,教職員一人 一人の職能開発と学校としての教育課題の解決を促すた めの研修計画を立案するよう教職員をリードしていくこ
とが求められる。( )
校内研修は,各学校が自校における教育課題を解決す るために,全教職員によって計画的・組織的に研究=研 修を遂行することを通して,それぞれの力量形成を促す 職能形成のための活動を意味するもの( )であり,その形 態は全体研修や学年研修,個人研修等様々である。
大宮校長は経営方針に「②授業改善のための学年研修 の充実」を挙げている。
総合的な学習の時間では,学級や学年ごとに年間指導 計画や単元計画等を作成したり,実施したりする学校が 多い。また,異学年間合同で学習活動を行う場合も,学 級担任や学年の担当者を窓口に教師間の連携が図られる ことが多い傾向にある。このようなことから,学年部会 は,総合的な学習の時間を運営する上で重要な役割をも つと言える。さらに学年部会には学級間の連絡・調整の みならず,実践に伴って生まれる諸課題の解決や効果的 な指導方法等について模索するなど,教員同士で学び合 う研修の場としての役割や機能が期待される。( )
大宮校長は,「学校運営につながる学年研修の充実」
を打ち出している。経営方針には,次のように記述され ている。
【習慣を変える】〜 PdCa から pDcA へ 〜
□ 学校業務のノウハウ・蓄積(教育計画,文書,
学年の営み)を最大限に有効活用する。
・教育中心主義 ・打合せ用プリントの大幅削減
・定番教育活動のマニュアル化
□ 会議・打合せ〜目的の焦点化,運営の明確化 時間の短縮
・定例会議= 分会議 ・その他= 分会議
・ロング学年打合せの確保
・打合せのサイクルの変更
(運営委員会→各部会→学年研修→職員会議)
□ 仕事の進め方を見直し,学年・学級経営,教材
【表 】大谷地小学校「TRY」年間指導計画(高学年)
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【表 】総合的な学習の時間「TRY」全体計画
研究に時間と労力を取り戻す。
□ 職員会議の持ち方への意識改革
教職員の日常の業務内容の見直しや会議・打合せ等の 効率化を積極的に行い,学年部会の場や時間を確保して いる。
大宮校長は,「子どもの成長のために検討・推進する べきことは随時,発生するはず。課題は組織横断的にま た が る こ と が 多 い。」と 述 べ て お り,「PdCa か ら pDcA」へと D と A にパワーを配分することを提案して いる。
「仕事の進め方を見直し,学年・学級経営,教材研究 に時間と労力を取り戻す」ことを重視しながら,会議の 持ち方への意識改革を促している。学年部会に内在する 研修機能に着目し,弾力的な単位時間や授業時数の運用 を視野に入れながら,「学校運営につながる学年研修の 充実」を目指しているところに特色がある。学年部会が 連絡・調整と研修の機能を併せ持つ部会組織となり,
「チーム学年」としての学び合う教員集団の形成が職能 向上につながっているものと考える。
.共有ビジョンの検証と見直し
校長には自校の共有ビジョンを踏まえながら,総合的 な学習の時間の全体計画や年間指導計画等の実施状況を 把握し,成果や課題の明確化と改善策を構築するカリ キュラム・マネジメントに努めていくことが求められ る。
具体的には次のような視点から教育課程を検証し,組 織的かつ計画的に自校の教育活動の質の向上を図ってい くことが重要である。( )
○ 児童や学校,地域の実態を適切に把握するこ と。
○ 教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等 を教科等横断的な視点で組み立てていくこと。
○ 教育課程の実施状況を評価して,その改善を 図っていくこと。
○ 教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を 確保するとともに,その改善を図っていくこと。
大宮校長は次のように 年間の振り返りを実施し,次 年度の指導計画の改善を図ろうとしている。
【「TRY」 年間の振り返りと次年度の計画】
( )前年度の実践を振り返るアンケート調査の実 施
・単元題材 〜 段階評価
「この題材は有効かどうか?」
・単元の流れ 〜 段階評価
「単元の流れはよかったか?」
・次年度の計画に向けて 〜 自由記述
( )全体計画の作成
・単元の精選 〜 年間 〜 単元
・次年度の年間指導計画の作成
(各学年単位で単元のプランシート作成)
( )新学年:単元構成計画(プランシート)の検討
・前期 単元 後期 単元
・研究団体と検討しながら作成
( )各単元の実践資料等
・資料や参考になるプリント
・データによる記録化
( )年度末に実践の振り返り評価
具体的には,生活科,総合的な学習の時間を中心とし た体験的活動の充実のために校区の特性を生かした学習 活動の展開や子ども同士が相互に成果を交流する活動の 積み重ねを大切にしている。また,次年度も体験活動の 充実に向けて教育活動が効果的かつ継続的に展開できる ようにするために,特に「活動の記録化」を重視してい る。
プランシートについては,実践した教員が見直して,
次年度に実践する教員が見直し案を活用することをねら いとして,振り返りと見直しのサイクルを構築しようと している。
大宮校長はこの「振り返り」と「見直し」を通して,
単元構成のマイナーチェンジとそれに伴う教育活動の活 性化,教職員の内発的改善意欲の向上を期待している。
そして,継続的な総合的な学習の時間の実践の積み重ね と検証・改善を確実に行うために「振り返りと見直しの 好循環サイクル」を駆動させようとしているのである。
Ⅵ.ま と め
本稿では,総合的な学習の時間の推進に向け学校の共 有ビジョンの形成過程に着目し,校長のリーダー行動の 実際について明らかにすることを目的とした。
校長は自校において総合的な学習の時間の目標及び内 容,学習活動等について決定していかなければならな い。その際には,自分の学校のビジョンを全教職員に説 明するとともに,その実践意欲を高め,実施に向けて校 内組織を整えていく必要がある。全教職員が互いに連携 を密にして,総合的な学習の時間の全体計画及び年間指 導計画等を作成し,実施していくことが求められる。( )
本研究では校長の専門職基準「基準 :学校の共有ビ
ジョンの形成と具現化」を指標とし,校長の果たした役 割や具体的なリーダー行動の実際について分析・考察を 試み,いくつかの知見を得ることができた。
点目は,「客観的データに裏打ちされた教職員の問 題意識の醸成」である。
大宮校長は「総合のことがよくわからない。」という 教職員の声を拾い出し,自らが研修の講師となってその ニーズに応えようとしている。教職員と共に問題を共有 し,校長も自校の一人の教員として研修を創り上げ,課 題解決への参画意識を高めることに寄与している。ま た,質問紙調査による客観的データに基づき「地域との かかわり」を自校の課題として明示し,実感の伴った次 年度に向けた目標設定を試みている。情報収集したこと が現状の把握とどのように結びついているのか,自校の 教職員にわかりやすく伝えているところに大宮校長の リーダー行動を見ることができる。
点目は,「学校ビジョンの実現に向けた分掌組織の 構築」である。
大宮校長は分掌組織の「協業化」への意識転換を図ろ うとしており,教師がチームを組んで指導に当たること によって,児童の多様な学習活動に対応する総合的な学 習の時間の充実を目指してる。教員一人一人の意識と行 動に依存し,不確定な中で展開される教育活動の特質を 鑑みるとき,校長は自校の教育活動を自ら改善していく ことができる学校へと転換を模索していく必要がある。
本実践事例では,大宮校長が実践を支える体制づくりと して分掌組織の「協業化」を打ち出し,実践過程におい てその都度,教職員に問いかけながら分掌組織と教職員 の役割分担,教育活動への関わり方を関連付けて「協業 化」への道筋を明示している。子どもの実態をしっかり とらえ,それをもとに推進する校務分掌組織,課題に応 えられる組織の構築にリーダー行動の一端をみることが できる。
点目は,「巻き込みを中核とした協働の組織化」で ある。
校長が明示する学校ビジョンを地に足の着いた共有ビ ジョンの形成までつなげていくためには,多くの関係者 がそれぞれの立場で具体的な教育活動をイメージし,学 校ビジョンの実現に向けた方策を共有していく必要があ る。大宮校長は分掌組織を最大限に活用し,教職員が学 校ビジョンをどのように受け止め,どう実現していくの か,そのためにやるべきことは何かを学校全体で考えて いくことを大切にしている。各分掌組織の中で課題を共 有し,解決の方策を教員集団として模索することを仕掛 けており,自校における「協働の組織化」を戦略的に実 行するリーダー行動を見ることができる。
点目は,「カリキュラム開発を支える学年研修の充
実」である。
大宮校長は,「学校運営につながる学年研修の充実」
を経営方針として掲げている。様々な学校業務や会議等 を整理し,学年部会の場や時間を保障することを試みて いる。学年部会には学級間の連絡・調整のみならず,指 導計画の改善や実践過程における諸課題の解決や効果的 な指導方法等について学び合う「研修の場」としてその 役割が期待される。( )総合的な学習の時間の実践の積み 重ねには,効果的な指導方法等を開発する日々の改善志 向が欠かせない。その時間と場をどこに位置付けていく べきか,大宮校長の取組には学年部会に研修機能を持た せ,時間の確保と学び合う学年集団の形成を仕掛けてい るところに戦略的な特色がある。
点目は,「次年度へつなぐ活動の記録化」である。
大宮校長は,「TRY」の 年間の振り返りと次年度の 計画について,「活動の記録化」を重視している。経営 方針に「PdCa から pDcA へ」を掲げているが,特に pDcA の実現のためにプランシートを活用した活動の記録化を 進め,積み重ねられた実践について実効性のある振り返 りを試みようとしている。また,次年度につながる振り 返りを通して,教職員の改善志向を引き出し,内発的改 善意欲の向上を図ろうとしているところに大宮校長の リーダー行動を垣間見ることができる。
本稿では,今回,校長の専門職基準「基準 :学校の 共有ビジョンの形成と具現化」を指標として,校長の の果たした役割やリーダー行動の実際について分析・考 察を行った。
先述の通り,校長の専門職基準には,基準 〜基準 まで専門的力量の構成要素が示されている。総合的な学 習の時間を推進するに当たっては,校長が自校の教育目 標の具現化とどのように関連付け,実践を積み重ねてい くかが重要になる。今後,さらに基準 〜 についても 実践事例の分析を行い,校長の望ましいリーダー行動の 在り方について解明していきたいと考える。
Ⅶ.謝 辞
本研究を進めるに当たり,深いご理解とご協力のもと 数多くの資料やご示唆をいただきました札幌市立大谷地 小学校の大宮健一校長先生,研究大会において実践発表 を公開していただいた教職員の皆様には心から感謝申し 上げます。
また,先駆的な校務分掌の考え方や教育活動を支える 学年研修の在り方についてご指導いただきました札幌市 立月寒東小学校の佐藤達也校長先生に御礼申し上げま す。
Ⅷ.引用・参考文献
)「小学校学習指導要領(平成 年告示)解説 総合 的な学習の時間編」平成 年 月 日 文部科学省 P
)日本教育経営学会実践推進委員会「次世代スクール リーダーのための『校長の専門職基準』」花書院
年 月
)同上 PP ‐
)「小学校学習指導要領(平成 年告示)解説 総合 的な学習の時間編」平成 年 月 日 文部科学省 P
)日本教育経営学会実践推進委員会「次世代スクール リーダーのための『校長の専門職基準』」花書院
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)安彦忠彦・新井郁男他 編集 「新版 現代学校教 育大事典 」 年 月 日 ぎょうせい P
)「小学校学習指導要領(平成 年告示)解説 総合 的な学習の時間編」平成 年 月 日 文部科学省 P
)篠原清昭 編著 「学校改善マネジメント」ミネル バ書房 年 月 日 P
)日本教育経営学会実践推進委員会「次世代スクール リーダーのための『校長の専門職基準』」花書院
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)今野喜清・新井郁男・児島邦宏 編「第 版 学校 教育事典」 年 月 日 P
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)同上 P
)同上 P
)同上 P
)佐 古 秀 一 著「管 理 職 の た め の 学 校 経 営 R−
PDCA」明治図書 年 月
)小島弘道 監修 北神正行・木原俊行・佐野享子著
「講座 現代学校教育の高度化 学校改善と校内 研修の設計」学文社 年 月 日
)中留武昭 著「自律的な学校経営の形成と展開 臨 教審以降の学校経営の軌跡と課題 第 巻 自律的 経営の展開と展望」教育開発研究所 年 月 日
)小島弘道 監修 佐古秀一・曽余田浩史・武井敦史 著「講座 現代学校教育の高度化 学校づくりの 組織論」学文社 年 月 日
)天笠 茂 著「カリキュラムを基盤とする学校経 営」ぎょうせい 平成 年 月 日
)中村 薫 著「学習する組織とは何か ピーター・
センゲの学習論」鳳書房 年 月 日