【学位論文審査の要旨】
兵庫県南部地震では、鉄道構造物等に甚大な被害が生じ、これを契機に、ラーメン高架 橋をはじめとした RC 構造物の耐震化が進められてきた。鉄道構造物の補修・補強工事は、
利用者の利便性や列車運行を阻害することなく、工事を安全に進める必要があり、営業終 了後の夜間作業や狭隘部など厳しい施工環境で行われる。この課題を解決するため、補強 鋼材を兼ねた組立鋼材を用いてプレキャストパネルを既設柱の周囲に配置し、隙間に高強 度繊維補強モルタル(High strength Fiber reinforced Concrete、以下、HFC)を充填す る耐震補強工法(以下、本工法と呼ぶ)が開発され、適用されている。HFCは、繊維径0.2mm、
長さ15mmの鋼繊維を1.75vol.% 混入した自己充填性を有するモルタルである。本論文では、
HFCを充填材として用いて補強されたRC部材のせん断耐荷特性および変形性能を明らかに することを目的とし、HFCの基本的強度特性を明らかにした後、梁試験体の載荷実験を行っ て補強RC部材のせん断耐荷挙動を把握するとともに、HFCの特性を考慮したせん断耐力算 定式を提案した。さらに、実大柱試験体の正負交番載荷実験より、HFCによる補強量と変形 性能の関係を明らかにし、HFCの強度特性を考慮した変形性能評価式を示した。
本研究で得られた主要な成果は、以下のとおりである。
(1) HFCの基本的強度特性値を示すとともに、充填方法が引張強度に与える影響を評価した。
HFCの引張強度と繊維の配向性は、部材断面や充填方法の影響を受けると考えられる。そこ で、実施工を想定して作製したHFC試験体の引張強度試験を実施し、X線透過撮影により、
一定方向に対する全繊維の投影長さと全繊維の長さの比である配向係数を算出した。その 結果、耐震補強において HFC を層状に充填した場合、下層では流動方向に一様な、上層で は 2 次元ランダム配向に近い配向係数となることを示し、配向係数と引張強度に概ね線形 関係が成り立つことを明らかにした。また、繊維混入率を関数とした引張応力とひずみの 関係を提示した。
(2) 本工法で作製した梁試験体の載荷実験により、補強後のせん断耐荷特性を検討した。
本工法における HFC は、鋼繊維の架橋効果のため最大引張応力後も一定の応力を保持した 後にひずみ軟化を生じる材料である。実験より、梁試験体の最大せん断力時において、HFC は引張応力を保持できるひずみ領域にあり、HFCは既設部材に斜めひび割れが発生した後も その開口を抑制し、補強鋼材と同様にせん断力に抵抗することを示した。なお、HFCのひび 割れ後の挙動ならびに実験時の耐荷挙動を考慮し、HFCを修正トラス理論における引張材と みなして補強鋼材とともにせん断耐力に累加する耐力算定式を提案した。
(3) 鉄道高架橋を想定し、本工法で補強した実大柱試験体(断面寸法:800mm×800mm 等)
の正負交番載荷実験により、変形性能と損傷程度を明らかにした。HFCを補強鋼材とともに 柱周囲に巻き立てた場合、HFC のじん性挙動により、最大耐力となる変位が増加すること、
一方で最大耐力以降、HFCが引張応力を保持できるひずみ領域を超過するため、変形性能に 対する HFC の補強効果は減少することを明らかにした。なお、最大耐力となる変位以降の 軸方向鉄筋の拘束効果の減少を、フーチング基礎と補強部材端部とのあきの関係により評
価することで、変形性能を精度よく評価できることを示し、HFCの補強量による変形性能評 価式を提案した。
(4) 提案したせん断耐力算定式および変形性能評価式を用いた照査事例を示し、また鋼板 巻立て補強の算定式と比較することにより、本提案式の有用性を検証した。さらに、本研 究の成果を用いた実施工例を示した。
以上要するに、本論文は、鉄道構造物をはじめとしたRC構造物の耐震補強に採用されて いる本補強工法におけるHFCの繊維配向と物性を把握し、HFCを用いて補強した場合の、せ ん断耐荷挙動及び変形特性を評価するとともに、独自のせん断耐力算定式および変形性能 評価式を提示しており、土木構造分野における貢献は極めて大きい。
よって、本論文は、博士(工学)の学位を授与するに十分な価値を有するものと認めら れる。