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論文の内容の要旨
氏名:角 田 洸
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:口腔扁平上皮癌細胞株におけるニコチンおよび LPS による IL-8 産生誘導メカニズム
喫煙は, 様々な疾患の主要な危険因子とされている。ニコチンはタバコの成分の中で最も研究され ている物質であり, ニコチン刺激で誘導される遺伝子の網羅的解析によって, 口腔扁平上皮癌細胞株 (OSCC) の interleukin-8 (IL-8) の誘導が明らかとなっている。以上のような背景に基づき, OSCC の ニコチンによる IL-8 産生誘導のシグナル伝達経路の解明を目的とするとともに, 歯周病患者におけ る喫煙の影響を検討するため, LPS とニコチンで同時に刺激した際の IL-8 産生誘導の変化について 検討した。
実験には口腔扁平上皮癌細胞株である Ca9-22 細胞を用い, 通法に従って培養した。Ca9-22 細胞を 100 μM, 1 mM および 10 mM のニコチンで 48 時間刺激し, 培養上清を回収して enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA 法) を用いて IL-8 濃度を測定した。その結果, ニコチンの濃度が 10 mM において IL-8 の濃度が 480 ng/ml まで有意に増加した。また, Ca9-22 細胞を 10 mM のニコチ ンで 0, 6, 12, 18, 24 および 48 時間刺激し, IL-8 の濃度を経時的に ELISA 法にて測定した。24 時 間および 48 時間において IL-8 濃度はそれぞれ約 100, 500 ng/ml と有意に増加した。Ca9-22 細胞 を 1 mM の nicotinic acetylcholine receptor (nAChR) 特 異的阻 害薬 であ る α-bungarotoxin (αBtx) で 1 時間前処理し, ニコチンで刺激した。その結果, Ca9-22 細胞で増強される IL-8 の産 生を阻害し, IL-8 の濃度は 170 から 100 ng/ml に減少し, ニコチンによる IL-8 の産生誘導には nAChR が関与することが明らかとなった。
Ca9-22 細胞を NF-κB 阻害薬である L-1-4'-tosylamino-phenylethyl-chloromethyl ketone (TPCK) で前処理した後, ニコチンで刺激したところ, IL-8 の産生はほぼ完全に阻害された。このことから, ニコチンによる IL-8 の産生誘導には NF-κB が関与することが示唆された。NF-κB 結合部位を含む IL-8 遺伝子の 5’- 非翻訳領域を PCR によって増幅し, この領域を pGL4-basic vector の Bam HI 及び Hind Ⅲ 領域へ subcloning し reporter plasmid を作成した (wt)。この vector を鋳型とし て NF-κB 結合部位を欠失させた変異体 (ΔκB) を作成した。これらの vector をトランスフェクショ ンした細胞をニコチン存在下または非存在下でそれぞれ 3, 6, 9, および 12 時間刺激し, ルシフェ ラ-ゼアッセイを行った。その結果, wt では増加したのに対し, ΔκB ではルシフェラーゼ活性の増 加は確認されなかった。以上のことから, ニコチンによる NF-κB の活性化が IL-8 産生誘導に極め て重要であることが明らかとなった。
ニコチンによる NF-κB 活性化の経路を検討するため, mitogen-activated protein kinase kinase (MEK), protein kinase C (PKC) および Ca2+/calmodulin-dependent kinase Ⅱ (CaMK Ⅱ) に対する 阻害薬を 1 μM, 10 μM および 100 μM に調整し, Ca9-22 細胞を 1 時間前処理した後, 10 mM の ニコチンで刺激した。その結果, CaMK Ⅱ 阻害薬のみが 10 μM および 100 μM において IL-8 産生 を有意に阻害することが明らかとなった。そこで, Ca2+ を介したシグナル伝達を検討するため, Ca2+
キレート剤である BAPTA-AM で Ca9-22 細胞を前処理した後, ニコチンで刺激した。その結果, IL-8 産生が大幅に阻害された。これにより, ニコチン刺激による IL-8 産生誘導は Ca2+ に依存すること が明らかとなった。
Ca9-22 細胞をニコチンで 30, 60, 180 および 360 分間刺激し, ウェスタンブロッティングで NF-κB p65 サブユニットのリン酸化を確認した。一次抗体 (Abs) として 200 倍希釈の抗 NF-κB p65 サブユニット抗体, 200 倍希釈の抗リン酸化 NF-κB p65 サブユニット抗体と 10,000 倍希釈の抗 GAPDH 抗体を用い, 抗体の希釈は全て 1 % BSA-PBST (0.1 % tween-20/PBS) を用いた。二次抗体とし て, ヤギ抗マウス IgG (H+L) 抗体とヤギ抗ウサギ IgG (H+L) 抗体を 1% BSA-PBST で 10,000 倍に希 釈した。バンドは ECL kit を用いて検出した。その結果, ニコチン刺激後 360 分で NF-κB p65 サ ブユニットのリン酸化を増強した。さらに Ca2+ 依存性の NF-κB p65 サブユニットのリン酸化を検討
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するため, BAPTA-AM (10 μM) で 1 時間前処理後, ニコチンで 6 時間刺激したところ, BAPTA-AM で 前処理した細胞ではリン酸化の増強が確認されなかった。CaMK Ⅱ に依存した NF-κB p65 サブユニ ットのリン酸化を検討するため, Ca9-22 細胞を CaMK Ⅱ 阻害薬 (100 μM) で 1 時間前処理し, ニ コチンで 6 時間刺激した後に NF-κB p65 サブユニットのリン酸化を確認した。その結果, CaMK Ⅱ 阻害薬によって, NF-κB p65 サブユニットのリン酸化が大幅に阻害された。
さらに, ニコチンによる IL-8 産生誘導に対する Lipopolysaccharide (LPS) の影響について検討 した。Ca9-22 細胞を 10 mM のニコチンおよび 100 ng/ml の Escherichia coli o26:B6 (E.coli) 由 来の LPS (E.coli LPS) または, 10 µg/ml の Porphyromonas gingivalis ATCC33277 (P.g) 由来の LPS (P.g LPS)によって 48 時間刺激した。その結果, ニコチンに E.coli LPS を添加して刺激した群はニ コチン単独刺激群および, ニコチンに P.g LPS を添加して刺激した群と比較して有意に IL-8 の産 生が増強されることが明らかとなった。
本研究の結果から, ニコチンの nAChR への結合が Ca2+ の流入を誘導し, CaMK Ⅱ の活性化と NF-κB p65 サブユニットのリン酸化をそれぞれ引き起こすことが示された。また, ニコチンに E.coli LPS を添加して刺激すると, ニコチン刺激による IL-8 の産生誘導が増強されることが明らかとなっ た。ニコチン刺激による IL-8 産生誘導は, 歯周病をはじめとした様々な疾患の誘因となっていると 考えられた。