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30 論 文 鉄と鋼 Tetsu-to-Hagané Vol. 105 (2019) No. 1 速度論に基づく真空浸炭炉のマルチステップシミュレーション Multi-step Simulation of Vacuum-carburizing Reactor based on

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1. 諸言

減圧下で原料ガスから直接浸炭させる真空浸炭は,ブー ドア平衡反応に基づく従来のガス浸炭に比べて,鋼表面の 炭素濃度を向上させることができるため,処理工程の低コ スト化・省エネ化が期待できる1–3。一方,原料ガスから鋼 表面への炭素の吸着速度が大きくなるため,炉内で原料ガ スや副生成ガスの濃度分布が生じやすく,それらの分布が 浸炭に影響を及ぼすことがある。そのため,ガス浸炭にお ける変成ガスの平衡分圧に基づく予測・解析方法では,均 一な浸炭深さなどの制御が難しく,炉内の原料ガスなどの 濃度分布も考慮した新たな予測・解析方法の構築が不可欠 である。 Khan4は,真空浸炭中のプロパンガスの熱分解挙動 を実験と反応速度論に基づいて調査した。しかし,彼らの 研究では原料ガスの熱分解にのみ着目しており,真空浸 炭において重要な要素である原料ガスから鋼への炭素供 給,および鋼中の炭素拡散は考慮されていない。Yada and Watanabe5は,Computational Fluid Dynamicsにより真空浸 炭炉内のガス流れ,ガス拡散を計算しつつ,鋼中への炭素 拡散も計算する先駆的なシミュレーション方法を提案し た。この方法は,浸炭炉内の原料ガスの濃度分布を考慮し ながら浸炭を予測することができるため,新たな真空浸炭 の予測・解析方法として期待される。しかし,彼らの報告 では,1枚の薄板への浸炭のみを解析対象としており,実 際の量産プロセスで使用されるような,大規模で,複数の ワークが設置される真空浸炭炉への適用を想定すると,シ ミュレーション規模の観点から次のような課題が生じる。 多くの処理プロセスでは,鋼の表面から鋼中の概ね1 mm 前後の範囲に炭素の濃度分布が形成される。特に表面から 数百µmの範囲で急激な濃度勾配を有するため,表面近傍 の計算メッシュの最小間隔は10 µm以下が望まれる(先行 研究5でも表面近傍の最小メッシュ間隔は約10 µmに設定 されている)。しかし,鋼中の最小メッシュ間隔を10 µm以 下にして,ガスと鋼(ワーク)を含んだ計算メッシュを作 成すると,ガス側の計算最小メッシュ間隔も小さくしなけ ればならないため,クーラン数や拡散数といった数値シ ミュレーションの安定性の観点6から,計算時間刻みを非 常に小さい値に制限する必要が生じる。また,浸炭炉のス ケールは一般に数十cm∼数mであるので,計算メッシュ 数も膨大となる。特に,3次元の複雑形状のワークを対象 とする場合,計算メッシュ数がさらに膨大となる。従って, 先行研究の計算方法で,3次元で実際の浸炭炉中の複雑な 形状のワークを対象に,数十分から数時間に及ぶ浸炭プロ

速度論に基づく真空浸炭炉のマルチステップシミュレーション

牧野 総一郎

1)*

・稲垣 昌英

1

・池畑 秀哲

1

・田中 浩司

2

・井上 弘之

3

・稲垣 功二

3 Multi-step Simulation of Vacuum-carburizing Reactor based on Kinetics Approach

Soichiro Makino, Masahide inagaki, Hideaki ikehata, Koji tanaka, Hiroyuki inoue and Koji inagaki

Synopsis : Anovelandefficientsimulationtechniqueforthepurposeofoptimizationofvacuum-carburizingprocesswasproposed.Thismethodconsists ofthreesteps:calculationofgasconvectionanddiffusion,calculationofonlygasdiffusion,andcalculationofcarbondiffusioninsteel.The firststepprovidesthegasconvectionvelocitythatisemployedinthesecondstep.Adsorptionrateofcarbononthesteelsurfaceisobtainedin thesecondstep,andcarbonconcentrationinthesteeliscalculatedinthethirdstepbasedontheadsorptionrateofcarbon.Experimentswere conductedtoverifytheproposedmethodinbothlaboratory-andindustrial-scalereactors.Comparisonofthecomputationalpredictionsto theexperimentaldatarevealedthattheproposedtechniqueenabledaccuratepredictionoftheadsorptionrateofcarbononthesteelsurfaceat varioustemperatureconditions,theamountofcarburizedcarbonateachoperatingtime,andtheprofileofcarbonconcentrationinthesteel; inotherwords,thecarburizeddepth.Inaddition,thecalculationoftheindustrial-scalereactor,whosesimulationmodelconsistedofapprox-imatelysevenmillioncomputationalmeshes,wascompletedwithinabouttwodays.Therefore,theproposedsimulationtechniquecouldbe usedtocontrolandoptimizetheprocessinindustrialvacuum-carburizingreactors.

Key words: vacuum-carburizing;numericalsimulation;computationalfluiddynamics;acetylene;carbondiffusion.

2018年7月4日受付 2018年8月31日受理 2018年10月19日J-STAGE早期公開(ReceivedonJul.4,2018;AcceptedonAug.31,2018;J-STAGEAdvancepublished onOct.19,2018 1)(株)豊田中央研究所(ToyotaCentralR&DLaboratories,Inc.,41-1YokomichiNagakute,Aichi480-1192) 2)(株)豊田中央研究所(現:大同大学)(ToyotaCentralR&DLaboratories,Inc.,nowDaidoUniversity) 3) トヨタ自動車(株)(ToyotaMotorCorporation) * Correspondingauthor:E-mail:[email protected] DOI:https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2018-108

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セスの計算をすることは,計算規模・計算時間の観点から 困難である。 そこで本研究では,真空浸炭炉内のガス流れ,原料ガス 濃度分布,および鋼中の炭素濃度分布を,現実的な計算時 間で予測可能とするシミュレーション方法を提案する。ま た,単体処理用試験炉および団体処理用試験炉を対象に, 提案方法の有効性を検証する。

2. マルチステップ計算法の提案

前節で述べたように,真空浸炭炉内のいくつかの物理現 象は,大きく異なる長さスケールや時間スケールを有する ため,それらを単純に連成して計算すると,計算効率が非 常に悪くなると推察できる。この課題を解決するために, 本研究ではFig.1に示すように,真空浸炭炉内の現象の時 間スケールの違いに着目し,Step 1のガス対流およびガス 拡散,Step 2のガス拡散,およびStep 3の鋼中炭素拡散に分 離して計算するマルチステップ計算法を提案する。 最初にStep 1とStep 2について考える。真空浸炭炉では, 外部から真空炉へ原料ガスを供給するため,顕著なガス膨 張が生じ,炉内への流入速度Uinは非常に大きな値となる。 一方,炉内は真空であるため,原料ガスの輸送は,ガス対 流ではなく,主にガス拡散により生じる。ガス対流の時間 スケールτg cは,流入部とワーク間の平均的な距離をLgとす ると,Lg/U inとなる。一方,ガス拡散の時間スケールτcgは, ガス拡散係数をDgとすると,Lg2/(Dgπ2)となる。これらの 時間スケールの比Гは, (1) となる。従って,Г≫1のとき,ガス対流が定常に到達す る時間が,ガス拡散が定常に達するまでの時間に比べて十 分に小さくなるため,ガス対流の定常解を得てから,その 結果を用いてガス拡散を解くという近似が成立する。ただ し,いくつかの真空浸炭炉についてГの値を調べると,細 いノズル管などで原料ガスを投入する浸炭炉ではUinが高 速になるのでГ>101となるが,整流板などを介して投入 する装置ではUinが比較的低速になるのでГ=10−1∼100 オーダーとなる。従って,Step 1とStep 2の切り分けは,全 ての真空浸炭炉で成立するわけではないので,事前にГの 値を把握する必要がある。 次に,Step 2とStep 3についても,ガス拡散の時間スケー ルτg dと鋼中炭素拡散の時間スケールτsdの比を取ると, (2) となる。ここで,Dgは鋼中における炭素の拡散係数,Ls 鋼中の炭素拡散に関する距離(例えば浸炭深さ)である。 Λ≫1のとき,ガス拡散が定常に到達する時間が,鋼中の 炭素拡散が定常に達するまでの時間に比べて十分に小さ くなるため,ガス拡散の解を得てから,その結果を用いて 鋼中炭素拡散の計算をすることが可能となる。ここで,例 えば,1100 K∼1300 Kの処理温度,3000 Pa以下の真空浸炭 炉を想定すると,ほとんどの真空浸炭装置では,Λ=102 104となる。従って,Step 2とStep 3の現象はスケール的に 大きな隔たりがあり,それぞれを分離して解析するという 近似が成立すると考えられる。

3. シミュレーション手法

以上のように,各時間スケール比により定義されるГと Λの値に応じて,真空浸炭炉のシミュレーションをStep 1, Step 2,Step 3に分けて簡略化することができる。各ステッ プにおける計算手法を以下に説明する。 3・1 Step 1 3・1・1 基礎式 ガス流れに関する基礎式は,次式に示すような低マッハ 数近似に基づく,連続の式,Navier-Stokes方程式,各化学 種の輸送方程式,および状態方程式とする。なお,本研究 では炉内で一様な温度分布を仮定するため,温度に関する 輸送方程式は省略する。 Fig.1. Schematicoverviewofthemulti-stepsimulationforthe vacuum-carburizingreactor.

(3)

(3) (4) (5) (6) ここで,ρ[kg/m3]は混合ガスの密度,t[s]は時間,u j [m/s] は混合ガスの速度ベクトル,x[m]は座標(xj 1=x,x2=y, x3=z),nは考慮する化学種の総数,w's[kg/(m3s)]は表面 反応速度ws[mol/(m2s)](詳細は後述)を生成項に変換し 質量単位に換算したもの,p[Pa]は流体運動に起因する圧 力,η[Pa・s]は混合ガスの粘性係数,Y[−]は各化学種i の質量分率,D[mi 2/s]は各化学種の有効拡散係数,P0[Pa] は熱力学的な圧力,R[J/(mol・K)]は一般ガス定数,T[K] は温度,M[kg/mol]は混合ガスの平均分子量である。添字j はアインシュタインの総和規約に従うものとする。本研究 で考慮する化学種は,原料ガスであるアセチレン(C2H2), および副生成ガスである水素(H2)である。壁面上の境界 条件は,速度に関しては滑りなし条件を,各成分の質量分 率に関してはノイマン条件を課す。ただし,ワーク表面で は,表面反応速度wsに伴う各成分の質量流束の出入りが生 じる。 3・1・2 熱物性値 各種ガスの粘性係数ηiは,Chapman-Enskog7)の気体分子 運動論に基づく次式により与える。すなわち, (7) ここで,σiはLennard-Jones衝突半径,Ωi(2,2)は衝突積分であ り,次式に示す無次元換算温度T*の関数である。 (8) こ こ で,kB[J/K]はBoltzmann定 数,ε[J]はLennard-Jonesi の井戸型ポテンシャルの深さを表すパラメーターである。 混合ガスの粘性係数ηは,このηiと各成分のモル分率Xi [−]を用いて次式により簡易的に算出する。 (9) 各種ガス同士の2成分分子拡散係数は次式により与え る。すなわち, (10) ここで,σijは次式で表される化学種iとj間の平均衝突半 径, (11) Ωi(1,1)は化学種iとj間の衝突積分で,次式に示す無次元換算 温度T**の関数である。 (12) Lennard-Jonesの井戸型ポテンシャルの深さを表すパラ メーターεijは,化学種iおよびjそれぞれの井戸深さを表す パラメーターを用いて,以下で計算される。 (13) 各ガスの有効拡散係数は,2成分分子拡散係数を用いて, 次式により与える8,9 (14) 3・1・3 原料ガス−鋼表面間の表面吸着モデル 原料ガスと鋼表面との間の炭素輸送に関しては,Morita 10,11は,鋼表面で原料ガスが分解することにより黒鉛が 生成し,それが直ちに鋼中に吸収されることにより浸炭が

生じると報告している。また,Yada and Watanabe5の数値

シミュレーションでは,原料ガスの濃度に応じた速度論的 な化学反応モデルにより炭素の鋼中への吸着が表現されて いる。本研究でも,これらの報告例に従い,以下のような 化学反応を考慮する。 (15) ここで,上付き*は,鋼表面に吸着した状態を意味する。こ の反応速度は, (16) と表される。k[m/s]は反応速度定数,Cs C2H2はアセチレン のモル濃度[mol/m3]である。従って,アセチレンの反応速 度は−ws,水素に関してはwsとなる。反応速度定数ksは衝 突頻度A[−],および活性化エネルギーE[J/mol]の関数 として, (17) と表される。 3・2 Step 2 Step 2では気相中の原料ガス拡散のみを考える。Step 1 で得られた対流速度の定常解をUjとして,以下に示す各成 分の輸送方程式だけを解く。

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(18) (19) 生成項w'sの算出はStep 1と同様に式(16)の表面反応速度 wsに基づいて算出する。また,拡散係数Diの算出や境界条 件もStep 1と同様である。 3・3 Step 3 Step 3では,鋼(オーステナイト(γ)相)中の炭素の深さ 方向(ξ方向)のみ関する拡散方程式を基礎式とする。 (20) ρAはオーステナイトの密度,YCおよびDCはオーステナイ ト中の炭素の質量分率および拡散係数である。DCは以下に 示すWells12の経験式により与えた。 (21) ここで, (22) (23) (24) である。ξ=0(鋼表面)における境界条件は,鋼表面にお ける炭素濃度の固溶限界の炭素質量分率をYCsatとし,鋼表

面においてYC<YCsatの場合は,表面反応速度wsを用いた

Neumann型境界条件とし,YC≥YCsatの場合は,YCsatを用いた

Dirichlet型境界条件とした。すなわち, (25) (26) また,ξ=∞(鋼中の母材側)の境界条件については,鋼の 母材の炭素質量分率をYC0として下記のように設定する。 すなわち, (27) なお,本研究では,文献13,14を参考に,Y Csat(1.35mass%), YC0(0.2mass%)と設定した。 3・4 シミュレーション手順 シミュレーションの手順をFig.2にまとめる。まず,Step 1において,式(3)−(6),(9),(14)および(16)を連成さ せた計算を実施する。そして,Г≫1の場合は,ガスの対流 速度の空間平均値が定常に到達した後,その平均値をStep 2に受け渡して,式(18)−(19),(14)および(16)の計算 を行う。この計算は,炭素吸着速度のワーク全面での平均 値が定常に達するまで実施する。Г≤1の場合は,ガス対流 とガス拡散の切り分けができないため,Step 2は行わず, Step 1の計算を炭素吸着速度のワーク全面での平均値が定 常に達するまで行う。以上で得られた炭素吸着速度の定常 値をStep 3に受け渡し,式(25)の場合はそれを境界条件と し,また式(26)の場合はYCsatを境界条件として式(20)− (21)を解き,ワーク表面上の任意位置における深さ方向の 炭素濃度分布やその時間変化を得ることができる。なお, 上述のようにほとんどの浸炭炉ではΛ≫1と見積もること ができるため,本研究では,無条件でStep 1とStep 3,また はStep 2とStep 3の切り分けができるとし,Λ≫1が成立 しない条件は本手法の適用外とする。

4. 実験方法

シミュレーション結果の検証を目的に,単体処理用試 験炉と団体処理用試験炉を用いた2種類の実験を実施し た。単体処理用試験炉を用いた実験をFig.3に示す。直径 18 mm,高さ50 mmの円筒形のワーク(肌焼鋼,SCr420) を,内径55 mmの円管反応炉内に吊るし,下方より100% のC2H2ガスを62mL/minの流量で導入して浸炭処理を行っ た。炉内温度は1223 K,1273 K,1323 K,および1373 Kと 変化させ,炉内圧力は300 Paとした。浸炭処理後は,C2H2 Fig.2.Computationalflow-chartofthemulti-stepsimulation.

(5)

ガス供給を止め,ただちに浸炭炉の下部に設置された窒素 ガス冷却漕へテストピースを落下させて急冷を行った。浸 炭時間を5秒として炉内温度を変化させた4条件,および 炉内温度を1373 K一定として浸炭時間を変えた11条件に おいて,浸炭処理前後におけるテストピースの重量変化か ら浸炭量を評価した。 団体処理用試験炉を用いた実験では,Fig.4に示すよう に,箱型の真空浸炭炉内に,外径が約130 mmのギア型ワー ク(SCr420)28個を治具を用いて千鳥状に配置して実験を 行った(本炉はFig.4の奥側のx-y断面で面対称であるため, 片側半分のみを表示している。また,治具の記載は省略さ れている)。また,鋼中の炭素濃度分析のために,Fig.5に示 すように,ワーク上段の流入部に近い位置(図中のA)と 流入部から離れた位置(図中のB)に,直径18 mm,高さ50 mmの分析用の円筒形テストピース(SCr420)を,針金を用 いて治具に固縛した。側壁に設置された合計4か所の流入 部から100%のC2H2ガスを流入させる(Fig.4は面対称のた め2か所の流入部のみが記載されている)。1つの流入部に は直径2 mmのノズル孔が5か所あり,それぞれのノズル 孔から,−xおよびx方向,−yおよびy方向,z方向へC2H2 ガスが流入する。流量は,各流入部あたり3L/minとなる ように設定した。すなわち,各ノズル孔から流入するガス 流量は0.6L/minとなる。排気は流入部と異なる面の1か所 から行った。炉内温度は1223 K,炉内圧力は1200 Paとし, 240秒間の浸炭処理を実施した。処理後は,C2H2ガス供給 を止め,ただちに炉外の油冷却漕へ落下させて急冷を行っ た。その後,テストピースを切断・樹脂埋めした後,アル ミナ研磨した表面の炭素濃度分布をEPMA(ElectronProbe Micro Analyzer,日本電子製JXA-8200)により分析した。 なお,分析ラインは,テストピースを高さ方向に半分(25 mm)に切断した断面内のFig.5中のテストピース内の矢印 で示すラインである。この位置はワークに最も近い箇所で あり,ワークの浸炭状況を近似的に反映していると考えら える。

5. シミュレーション条件

上述の単体処理用試験炉と団体処理用試験炉を対象に シミュレーションを実施した。単体処理用試験炉の計算で は,ワーク近傍の計算メッシュの最小幅を0.5mmに設定 し,総メッシュ数が約11万メッシュの3次元モデルを作成 した。炉内温度や圧力,流量などの各種条件は実験と同様 に設定した。なお,単体処理用試験炉では,Г<101となる Fig.3.Illustrationofthetestreactorforvacuum-carburizing.

Fig.4. Illustration of the industrial reactor for vacuum-carburizing.

Fig.5. IllustrationofthelocationoftestpiecesforEPMA.The circleswhichareindicatedbyAandBarethetestpieces andthearrowinthetestpieceindicatesEPMAline.

(6)

ため,Step 2は実施せず,Step 1でワーク表面への炭素吸着 速度まで計算した。また,実験結果と比較する際は,炭素 吸着速度のワーク表面平均値をStep 3へ受け渡し,ワーク 全体の平均浸炭量を算出した。 団体処理用試験炉の計算では,Fig.6に示すような,ワー ク近傍の計算メッシュの最小幅が1 mmで,総メッシュ数 が約680万メッシュの3次元モデルを作成した(Fig.6は手 前側のx-y断面が対称面で,片側半分のみを表示している。 従って,Fig.6はz方向に関してFig.4とは逆方向から示して いることに注意されたい)。ただし,簡単化のためにワー ク設置用の治具,およびワークのギア歯は省略している。 炉内温度や圧力,流量などの各種条件は実験と同様に設定 した。団体処理用試験炉の場合は,Г≫1が成立するため, Step 1,Step 2,およびStep 3をそれぞれ分離させて計算し た。シミュレーションでは,実験で用いた分析用の円筒形 テストピース(Fig.5参照)は考慮せず,実験結果と比較す る際は,実験のテストピースの高さ(50 mm)と同じy方向 範囲における炭素吸着速度の面平均値を用いてワーク中の 炭素濃度分布を算出し,その値をStep 3に受け渡すことで, 局所の浸炭量や鋼中炭素濃度分布を算出した。 シミュレーションは全てin-houseプログラムを用いて実 施した。Step 1とStep 2は有限体積法に基づく熱流体−反 応連成解析プログラム15を用いて実施し,Step 3は有限差 分法を用いて計算した。なお,Step 3では,計算メッシュ間 隔が7.8µmの等間隔メッシュを使用した。

6. 結果および考察

6・1 表面反応モデルの提案 単体処理用試験炉を用いた浸炭量の温度依存性の実験結 果から,式(17)の頻度因子と活性化エネルギーを以下の ように決定した。 (28) (29) Fig.7に,炭素吸着速度のワーク表面平均値に関して,提案 した表面吸着モデルを用いたシミュレーション結果と実験 結果を比較して示す。実験の炭素吸着速度は,浸炭前後に おけるワークの重量差を処理時間(5秒)とテストピース の表面積で割った値とした。なお,本温度,圧力条件では, 浸炭開始5秒間は,鋼表面への炭素吸着により浸炭が律速 されると見積もることができる(詳細は後述)。Fig.7の結 果から,提案した表面反応モデルにより,C2H2ガスから鋼 表面への炭素の吸着速度を高精度に予測できることがわか る。 6・2 浸炭量の時間変化 Fig.8に,単体処理用試験炉を用いて,炉内温度が1373 K 一定の下で,浸炭時間を変えた場合の,実験結果とシミュ レーション結果を示す。浸炭初期は浸炭量が時間に対して Fig.6. Computationaldomainandgridoftheindustrialreactor. NotethattheviewdirectionisoppositetothatinFig.4in terms of zdirection.

Fig.7. Comparison of the computational prediction to the experimental data for adsorption rate of carbon as a functionoftemperature.

Fig.8. Comparison of the computational prediction to the experimentaldataforamountofcarburizedcarbonasa functionofoperatingtime.

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ほぼ線形に増加し,約40秒後,増加率が減少する様子が観 察できる。初期の浸炭量が線形に増加する時間域は,鋼表 面炭素濃度が固溶限界に到達する前であり,この段階で は,原料ガスから鋼表面への炭素吸着により浸炭が律速さ れる。一方,浸炭量の増加率が減少する時間域は,鋼表面 炭素濃度の固溶限界到達後であり,鋼中の炭素拡散により 浸炭が律速される段階である。本研究のシミュレーション は,このような浸炭の律速段階の変化や浸炭量の絶対値を 高精度に予測可能である。 6・3 団体処理用試験炉における炭素濃度分布 Fig.9に,団体処理用試験炉の上方(y方向の正方向側)か らx-z断面を可視化したシミュレーション結果を示す。流 入部のノズルを中心にC2H2ガスが炉の中央に向かって拡 散する様子を観察できる。その結果,ノズル近傍ではC2H2 ガスの高濃度領域が,一方,炉中央部で低濃度領域が観察 され,炉内においてC2H2ガスの有意な濃度分布が形成され ていることがわかる。また,C2H2ガスの濃度分布に対応し てワーク上の炭素吸着速度が変化する様子も確認できる。 そこで,流入部に近い図中Aの位置におけるワークと,流 入部から離れた図中Bの位置のワークへの浸炭量を比較 するために,Fig.10にシミュレーションで得られたワーク の深さ方向の炭素濃度分布と,実験のEPMAで得られた炭 素濃度分布を比較した結果を示す。位置Aでは位置Bに比 べてより深い位置まで浸炭されていることがわかる。本シ ミュレーション結果は,このような実験結果を精度良く予 測している。このように,ワーク位置により浸炭状態が変 わるのは,前述のように,位置Aの方が流入部に近いため, Fig.9に示すようにC2H2ガス濃度が位置Bに比べて高くな り,鋼表面への炭素吸着速度がより高くなるからである。 Fig.11に,シミュレーションで得られた,各位置における 単位面積当たりの浸炭量の時間変化を示す。なお,図中の 矢印は,各条件において鋼表面炭素濃度が固溶限界に到達 した時刻を示している。炭素吸着速度が高い位置Aでは, 約10秒で表面炭素濃度が固溶限界に到達し,その後浸炭速 度が鈍化するのに対して,炭素吸着速度が相対的に低い位 置Bでは,約235秒まで固溶限界に到達しないことがわか る。このように,本シミュレーションにより,鋼中の炭素 濃度分布を精度良く予測できるとともに,各ワークの浸炭 量の時間変化なども評価できるため,ガスノズルの設置位 置やワークの最適配置などの真空浸炭炉の改良や,原料ガ スの供給量や濃度,浸炭時間の調整といった処理条件の最 適化への応用が期待できる。 6・4 シミュレーション時間 上述の団体処理用試験炉の計算はマルチコア計算機 (CPU:Xeon X7560(Nehalem/8core/2.27GHz)×4,メモリ: 128GB)で実施した。計算時間は,Step 1に約24時間,Step

Fig.9. Distributions of mass fraction of C2H2 (colors), and adsorption rate of carbon on the surface of workpieces (monocolor).Additionally,somevelocityvectorsofthe gasareplotted.

Fig.10. Comparison of the computational predictions to the experimental data for carbon concentration profiles in thesteel.

Fig.11. AmountsofcarburizedcarbonatpositionsAandBasa functionofoperatingtime.

(8)

2に約24時間,Step 3に数分程度の,全体で約2日であっ た。従って,より大型の真空浸炭炉が対象の場合でも,数 日で各ワークの任意の位置における浸炭の解析が可能であ ると考えられる。

7. 結論

真空浸炭炉内のガス対流,ガス拡散,鋼中の炭素拡散の 時間スケールの違いに着目し,それらを分離して独立に計 算してパラメーターを受け渡すことにより,炉内のガス流 れ,原料ガス濃度分布,および鋼中の炭素濃度分布を,効 率良く予測するシミュレーション技術を提案した。 重要な要素のひとつであるC2H2ガスから鋼表面への炭 素吸着速度については,単体処理用試験炉の実験結果を用 いて,反応速度論に基づく吸着反応モデルを構築した。ま た,構築したシミュレーション技術により,約2日間で,浸 炭量の時間変化や,団体処理用試験炉における任意のワー ク内の炭素濃度分布を高精度に予測できることを示した。 本シミュレーション技術を用いることで,現実的なシ ミュレーション時間で,炉内のガス流れと鋼中の浸炭深さ などを直接関連付けて解析することができるため,ガスノ ズルの設置位置やワークの最適配置などの真空浸炭炉の改 良や,原料ガスの供給量や濃度,浸炭時間の調整といった 処理条件の最適化への応用が期待できる。 文   献

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