第4章 観光リゾートとしての<沖縄>イメージの誕生
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(2) .. アンソニ ー ・ ギデンズ ら に よ っ て 、「 再 帰 的 近 代 化 」の 議 論が 活 発に 行わ れ て い る 。 3変動 .. .. . .. .. . . .. .. を基 調と す る近 代 社 会 に お い て は、伝 統の 反復 に 代わって 、reflexivity=再 帰 性( 反省性 ) の果 たす 役 割が 飛 躍 的 に増 大す る 。人 々は た え ず 変動 す る状 況に 対 して 、そ の つ ど 思考 ・ 知識 ・情 報 に よ る再 帰 的モ ニ タ リ ン グ を行 う こ と に よ っ て、 自ら の 行動 を再 帰 的に 決定 し .. て い く の で あ る 。近 代 社 会 が成 熟 化す る に つ れ て 、こ う し た 再 帰 的 な知 は ま す ま す 、社 会 .. .. . .. .. 制度 の基 盤 そのもの を 形作 っ て い く。 そ し て、 この 再帰性 に関 し て独 特の 議 論を 展開 す るス コ ッ ト ・ラ ッ シ ュ は、 美 的 再 帰 性 (aesthetic reflexivity )の 概 念を 提示 し 、特に 美的 な 次元 に焦 点 を当 てて い る 。彼 はジ ョ ン・ ア ー リ との 共著 の 中で 、ポ ス ト工業化 ・ ポ ス ト フ ォ ー デ ィ ズ ム 社会 に お い て は 、観 光 やポ ピ ュ ラ ー音 楽、 映 画、 レ ジ ャ ーな ど に お け る 美 的 要 素が より 重要度 を増 し 、美 的 再 帰 性が か つ て な い 規模 で 社会 のプ ロ セ ス に浸 透 していく 、と言 う の で あ る 。4この 議論 に即 し て、 特に 70 年 代 以 降 、< 美> が 社会 シ ス テ ムや 日 常 生 活の 中に 深 く浸 透し て 重 要 度を 増 している 側 面を 認識 す る な ら、 社会学 は こ れ を も っ と 自覚的 に扱 っ て い く必 要 があると 言 え よ う。 (2)< 沖 縄> を め ぐ る美 的 再 帰 性 さて 、ここで 再 び沖 縄 海 洋 博の 文脈 に 話題 を戻 し て、 カ ン トや ラ ッ シ ュの < 美> に関 す る視 点を 借 り、 <海 > に適 用し て い く 形で 、 検討 を進 め て み よ う 。 前章 で行 っ た< 海> に 関す る再 帰 性の 議論 は 主に 、海 洋 科 学 と い う 事実認識 = <真 >の 領 域と 、海 洋 開 発 と い う 実践 =< 善 >の 領域 に 限ら れ て い た。それでは 、< 海 >に 関し て、< 美> の領 域 とは 何か 。 そ れ は、 海 洋レクリ ェ ーション 、 つ ま り観 光 やス ポ ー ツ で あ り、 < 海> に対 し てアーリ の 言う 観光 の ま な ざ し 5 を 向け る も の で あ る 。こ れ ら を 整理 し て ま と め て み る と 、次 の よ う に なる 。 <真 >. 海 洋 科 学 「 海は 〜 で あ る」. <海 >の 再 帰 的 認 識. <善 >. 海 洋 開 発 「 海を 〜 す べ き」. <海 >へ の フ ロ ン テ ィ ア意 識. <美 >. 海 洋レ ク リ ェ ー シ ョ ン. <青 い海 > の視覚的 ・ 身 体 的 快 楽. 前 章の 検 討 は 、「開 発 」 を め ぐ る イ メ ー ジ ・ ポ リ テ ィ ッ ク スに 焦 点 を 当て た た め 、便 宜 上、 前の 二 者に 限ら れ て い た。 しかし 海 洋 博 は、 海 洋 科 学・ 海 洋 開 発・ 海洋 レ ク リ ェ ー シ ョン の3 つ の領 域が 三 位 一 体と な っ た 祝祭 で あ っ た こ と を、 忘れ て は な ら な い 。そして 、 海 洋 博に お い て 高め ら れ る <沖 縄 >とその < 海> への 美 的 再 帰 性 の は た ら き が 、以 後の 観 光リ ゾ ー ト としての < 沖縄 >イ メ ー ジ の形 成 に、大 きく 影響 を 及ぼ すこ と に な る の で あ る 。 <沖 縄> を め ぐ る美 的 再 帰 性が 、 沖縄社会 に 浸透 し て い くプ ロ セ ス で あ る。 そ の端 緒 は 、( 前 章で 検 討 し た) 海 洋 博 の テ ー マ と 基 本 理 念 の 思 想 ・方 向 性 を より 具 体 化・ 明 確 化 した 、72 年6月 の「海洋博 の 基本構想 」に も 表れ て い る 。海 洋 博 協 会の 事 業 計 画委員会 6の 作成 に よ る 基本構想 は 、博覧会 の 会場構成 に 関連 して 、<海 >を 次 のように 再 Beck, Giddens & Lash, 1994=1997 。 Lash & Urry, 1994, p.54 。こ う し た< 美> の 社会 シ ス テ ムへ の浸 透 は 、マ イ ク ・フ ェ ザ ー ス ト ー ン の 「日 常 生 活 の美 学 化 」 の議 論と も 符合 する (Featherstone, 1991 )。 5 Urry, 1990=1995『観光 の ま な ざ し 』 。 6 事 業 計 画 委 員 会 は駒 井 健 一 郎・経 団 連 海 洋 開 発 懇 談 会 委 員 長 を委 員 長に、大 学 教 授や 評 論 家 など 、本 土 の知 識エ リ ー ト た ち を 中心 と す る 3 0 名 で 構成 さ れ て い た 。うち 沖縄 か ら は 4 名 の み であ り 、久 場 政 彦 ・ 3 4. 72.
(3) 帰的 にとら え る 。. . .. . .. .. . .. . .. .. . .. .. . .. . 「博覧会 の 構成 に あ た っ て は 、美 しく 雄 大な 海そ の も の が 、海洋博 の 最大 のシ ン ボ ル で .. ある との 認 識の 下に 、 で き る だ け 場の 重点 を 海におき 、 観客 に海 を 主 体 的に 体 験さ せ る。」 3 章 1 節で 示 し た と お り 、パ リ万 博 のエ ッ フ ェ ル塔 や大 阪 万 博 の太 陽 の塔 の よ う に、 こ. れまでの 万 博の 中心 をなす シ ン ボ ルは 、モ ニ ュ メ ン タ ル な建築物 で あ っ た。 しかし 、< 海 . .. . .. .. . >を テ ー マ 化し た特 別 博である 海洋博 では 、「美 し く雄 大な 海 」と い う自 然の 風 景そ の も の が、 最大 の シンボル として 活用 を 図ら れ、 イ ベ ン ト空 間 の中 に組 み 込ま れ て い く の で あ っ .. . た。 その 上 で基 本 構 想 は、 沖縄 の <海 >と < 自然 >を 、 次の よ う な 美的 な ま な ざ し に よ っ て再帰的 に と ら え て い く。 . .. . .. . .. .. . .. .. . .. .. . .. 「沖 縄の 美 しい 海 と自 然は 、 か け が え の な い 国 民 的 財 産 であり 、こ れ を十 分に 保 存し 、 生か す こ と が わ れ わ れ の義 務で あ る。 し た が っ て 、こ の 沖縄 で開 催 さ れ る博 覧 会は 、 .. . 環境汚染 な き工 事、 廃棄物 の完 全 処 理 など 、 環境保全 に 万全 を期 す と と も に 、 現地 の .. .. . .. .. . .. .. . .. . 美し い自 然 と景 観を 十 分に 生か し た形 で 、 博覧会 を構 成 する 。」 7 . .. . . . .. 日 本 国 民 が 所 有し 、 守 っ て い く べ き「 財 産 」 と し て 、「 沖 縄の 美 し い 海と 自 然 」 が語 ら れている 。 前章 で指 摘 した <海 > のロマン 主 義は 、こ の よ う に海 が 美的 な ま な ざ し を向 け ら れ た と き に こ そ、立 ち上 が っ て く る 。とはいえ < 海> のロ マ ン主 義は 、「現 地 の美 しい 自 然と 景観 を 十分 に生 か す」 と い う 場合 、美 的 な観 光の ま な ざ し の 展 示 対 象へ と 海を 固定 さ .. .. . .. . せ、 フル 活 用し て い こ う と い う 、 ある 種の 功 利 主 義 と も 即座 に結 び つ い て く る こ と に、 注 意す べ き で あ る 。す な わ ち 、< 海 >を め ぐ っ て、 一 見 相 矛 盾 す る は ず の ロマ ン 主義 と功 利 主義 が、 節 合さ れ て い く事 態で あ る。 では 、 沖縄 の「 美 しい 自然 と 景観 」は 、 具 体 的に は . . .. .. . ど の よ う な 形で 、十 分 に生 か さ れ よ う と し て い た の だ ろ う か 。 (3)沖 縄 の< 海> の 活用 :< 自 然 資 本→ 文 化 資 本→ 経 済 資 本・ 政 治 資 本> この 基 本 構 想に 先立 ち 、1971 年 10 月に 海洋博 の沖 縄 開 催 を日 本 政 府 が閣 議 決 定 した 後 、 もとぶちょう. よみたんそん. 琉球政府 の 会 場 用 地 選 定 委 員 会 は 、本 島 北 部 地 区 の 本 部 町 ・中 部 地 区の 読 谷 村 ・ 南部地区 の糸満市 ・ 宮古地区 ・ 八 重 山 地 区 の5 候 補 地 の中 から 選 定を 行う こ と に な り 、 各 地 域は 激 しい 誘 致 合 戦を 展開 し た。 復 帰 直 前の 72 年 2月 、琉 球 政 府 の「 会 場 用 地 選 定 の基本的 な 考え 方」 を 、引 用し て み よ う。 8 ① 沖 縄の 祖 国 復 帰を 記念 し 、平和 で豊 か な新 生 沖 縄 県の 社会 、経済 の 発 展 及び 文 化の 向 上を は か る 国 際 的な 行 事とする 。. . .. . ② 沖 縄の す ぐ れ た亜 熱 帯 性 の海 洋 環 境 を象徴的 に 生か し、わが 国の 海 洋 研 究 及 び 海 洋 資 源の 開発 に 関す る拠 点 とし 、併 せ て国 際 協 力 の場 と す る 。 ③ 日 本の 南の 玄 関と し て の 沖 縄 県を 内 外に 知ら せ 、外 来 客の 誘 致を 計り 、海 洋 性 レ ク リ. 琉 球 大 学 教 授 、作 家の 大 城 立 裕 、喜 久 川 宏 ・ 沖 縄 県 企 画 部 長 、宮 里 辰 彦・沖 縄 経 済 審 議 会 会 長 が名 を連 ね て い た。 7 二つ の引 用と も 、日 本 工 業 新 聞 社、1973 、p.3 。強 調 は多 田。 8 沖 縄 県沖 縄 国 際 海 洋 博 覧 会 協 力 局、1976 、p.9 。強 調は 多 田。7 2 年 2 月 の、 会 場 用 地 選 定に 関 する 日 本 政 府へ の 要 請 書よ り 抜粋 。. 73.
(4) エ ー シ ョ ン の場 に役 立 てる 。 ④ 沖 縄の 経済 、 社会基盤 の 整備拡充 に 果た す役 割 等を 総 合 的 に検 討す る も の と す る 。 先に 見た 「 基 本 構 想」 が海 洋 博 協 会( 本 土の 知識 エ リ ー ト 中心 )に よ る も の で あ っ た の に対 して 、 この 「会 場 用 地 選 定 」 の主 体は 琉 球 政 府( 後 の沖縄県 ) で あ っ た こ と に 注意 す べ き で あ る 。こ の差 異 は重 要で あ り、 琉 球 政 府が 海 洋 博 を通 して 、 復 帰 後の 沖 縄を ど の よ うに 方向 づ けて い こ う とし て い た の か が よ く わ か る。 こ れ ら を要 約 す る と、 ① 沖縄 の復 帰 . . .. 記念 イ ベ ン トで あ る こ と、 ②沖 縄 の海 を象 徴 的に 生か す こ と 、③ 沖 縄の 観 光 地 化を 進め る こと 、④ イ ン フ ラ整 備 、という 4 つの 基 本 要 因が 、会 場 選 定 に お い て複合的 に 考慮 さ れ た わけである。 3 章 1 節「 政 治 的 祝 祭 と し て の沖 縄 海 洋 博」 で は、 博 覧 会 の< 実 質 性 /祝祭性 > と い う .. . .. .. . 2つ の側 面 を指 摘し た 。こ の図 式 を援 用す れ ば、 以上 の 4要 素の う ち① 復 帰 記 念イ ベ ン ト .. .. . . . .. .. . .. .. . . と い う祝 祭 性 と 、④ イ ン フ ラ整 備 と い う実 質 性 は 、密 接 に連 動し 合 っている 。 海 洋 博が 沖 縄の 日 本 復 帰を 記念 す る( ナ シ ョ ナ ル な祝 祭 )上 に国 際 イベント で も あ る( グ ロ ーバル な 祝祭 )と い う、 強大 な 祝 祭 的 意 義 を認 め ら れ れ ば 認め ら れ る ほ ど 、 そ れ に関 連 して ロ ー カ ルな 公 共 事 業を 集 中 的 に実 施す る こ と が正 当 化さ れ、 大規模 な経 済 的 実 質 性 の 効果 が期 待 さ れ るの で あ っ た。 沖 縄 振 興 開 発 計 画 の も と に、 道路 ・ 航空 ・船 舶 ・通 信・ 電 気・ ガス ・ 上下水道 ・ 廃 棄 物 処 理 ・宿 泊 施 設 など 、多 岐 にわたる 産 業・ 生 活 基 盤の 整備 が 、海洋博 と セ ッ トに す る形 で進 め ら れ よ う と し て い た の で あ る。 そして 、こ れ ら一 連の 実 質 的効果 を 考え た場 合 、最 も広 範 囲に 及ぶ 、 最大 の効 果 を得 ら れ る 場所 は ど こ か と い う 、 効率 性の 観 点が 、会 場 選 定 の一 つ の基 準と な っ て く る 。 ここから 沖 縄 本 島、 しかも 北部 という 選 択 肢 が浮 かび 上 が っ て く る の は 、自 然 な流 れ で あ っ た 。本 島 北 部 に会 場 を も っ て く る こ と に よ って 、よ り 広い 範囲 で インフラ を 整備 し、 北 部の 産業 ・ 雇用 を活 性 化す る こ と も期 待さ れ る の で あ っ た。 一方 、② 沖 縄の < 海> の象 徴 的 活 用と ③ 沖縄 の観 光 地 化 も 、つ な が り 合っ て く る の は 当 然である 。「沖 縄 の す ぐ れ た 亜熱帯性 の 海洋環境 」は 、研 究と 開 発に 生か さ れ る だ け で な く 、 . .. . 観光 にも 象徴的 に 生 か さ れ う る か ら で あ る 。 そ し て③ からは 、海 洋 博が 現在 に ま で つ な が る、 沖縄 を 観光 リ ゾ ー ト化 する 装 置として 設 定さ れ た こ とが 明ら か で あ る。 しかも 琉 球 政 府は 、過去 の歴 史 的 経 緯を 括弧 に 入れ 、「沖縄県 = 日本 の南 の 玄関 」と い う図 式 を自 明な 枠 . .. .. . 組み と し て 設定 し て い る。 そ の こ と を 内外 に 宣伝 し、 日 本の な か の <南 >の 楽 園リ ゾ ー ト と し て認 知 さ せ て い く こ と も、 海洋博 の目 的 と し て い る の で あ る 。 そ し て、そ の た め に 重 要なのが 、②< 海> の象 徴 的 活 用で あ る。会 場 選 定に 当た っ て は 、 特に 「海 洋 博」 で あ っ た た め、 沖 縄の す ぐ れ た海 洋 環 境 を充 分に ア ピ ー ルで き る場 所を 会 . . .. .. . 場に 選ぶ こ と は 、必 然 的な な り ゆ き で あ っ た 。だ が、 そ れ だ けで は な い 。沖 縄 に独 特の < .. .. . .. .. . . . . .. .. . .. .. . 亜 熱 帯> 的 な自 然・ 気 候 が 、日 本 のなかの 一個性 と し て 、日 本の 国 策である 海 洋 研 究・ 海 洋 開 発に 生 か さ れ て い く こ と を 、 琉球政府 は 積 極 的に 求 め た の で あ っ た 。 . .. . こ こ で「 自 然を 象徴的 に 生 か す」 とは 、「自 然 の文化化 」、 つ ま り自 然 を人 間 社 会 の文 化 .. . .. 的 環 境の 中 に組 み込 ん で、 文 化 的 資 源 と し て 人 工 的に 活 用し て い く こ と を意 味 している 。 . . .. .. . .. .. . .. .. . .. .. 沖縄 の< 青 い海 >は 琉 球 政 府に よ っ て 、日 本 の国家的 な 海洋 プ ロ ジ ェ ク トに 役 立つべき 文 化的資源 として 、自 覚 的・ 再 帰 的 にとらえ 直 さ れ つ つ あ っ た わ け で あ る 。 74.
(5) さ ら に 、沖 縄 の海 を 、「 わが 国 の海 洋 研 究 及び 海 洋 資 源の 開発 に 関す る拠 点と し 、併せ て 国際協力 の 場とする 。」と言 っ て い る こ と か ら 、沖縄 が 海の ナ シ ョ ナ ル な研 究・開発 の拠 点 となると 同 時に 、そ れ とパ ラ レ ル な形 で、グ ロ ー バ ル 9な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 結 節 点と な ることも 、 琉球政府 は 構想 し て い た。 そ れ が ま た 、日 本 への ナ シ ョ ナ ル な貢 献 に つ な が る こ と に な る 。琉 球 政 府 は海洋博 に お い て、 こ う し た< ロ ー カ ル/ ナ シ ョ ナ ル / グ ロ ー バ ル >の 重 層 的 な節 合を 、 巧み に実 現 し よ う と し て い た わ け で あ る。 ところで 、「文 化 的 資 源 」を フ ラ ン スの 社 会 学 者ピ エ ー ル・ブ ル デ ュ ー の用 語で 言 い換 え れば 、「文 化 資 本」とも 言 える。 10ブ ル デ ュ ー の 言う 文 化 資 本は、経 済 資 本や 社 会 関 係資 本 など 、他 の 資本 への 転 換が 可能 な も の で あ る 。つまり 「 資本 」は 、 量的 に増 減 す る だ け で . なく 、諸 領 域 間 で質 的 に転 換さ れ る も の で も あ る 。こ の 視点 を援 用 す れ ば、 沖 縄の 海の 自 .. . . .. . 然 資 本 は 、 海 洋 博の 美 的な ま な ざ し に お い て い っ た ん 文 化 資 本 へ と 転換 さ れ た 後、 観 光 化 .. . . やイ ン フ ラ 整備 を促 進 する 経 済 資 本 や 、沖 縄 の日 本へ の ナ シ ョ ナ ル な統 合と グ ロ ーバル な . .. . 拠 点 化、 それに 伴う ロ ー カ ルな 沖 縄の 地 位 向 上に 貢献 す る政 治 資 本 としても 、 機能 を果 た し て い く の で あ る。 す な わ ち沖 縄 の海 は、 < 自然資本 → 文化資本 → 経済資本 ・ 政治資本 > . .. . と い う流 れ を た ど っ て い く 。< 海 =自 然> に 対し て い っ た ん 美的 ・ 文 化 的 価 値 が象徴的 に 与え ら れ る こ と に よ っ て、 <海 = 自然 >は 、 経 済 的・ 政 治 的 目 的 に 貢献 する 文 化 装 置と し て機 能し う る の で あ る 。琉 球 政 府 は日 本 復 帰 を目 の前 にして 、こ の よ う に沖 縄 の< 海> の 美的価値 を 再 帰 的に 活 用す る方 向 を、 推し 進 め よ う と し て い た わ け で あ る。 (4)複 合 化の 戦略 : パ ラ レ ル ワ ー ル ドと し て の 美的 リ ア リ テ ィ . . .. .. . .. .. . .. .. . .. . .. .. . .. .. . .. . こ こ へ来 て 、沖 縄 の日 本 復 帰 記 念 イ ベ ン トが 、な ぜ <海 洋 博> で な け れ ば な ら な か っ た .. . .. .. . . のか 、そ の 意味 が理 解 で き て く る 。海洋博 の 公式記録 に よ れ ば、 沖縄県 に と っ て 海 洋 博 開 催の 主な 目 的は 、「こ の海 洋 博の 開催 を 契機 に 、戦 後 27 年に わ た る 本土政権 と の断 絶に よ って 生じ た 沖縄県民 の 疎 外 感を 取 り除 き、 本 土と 沖縄 の 一 体 感を 醸 成す ると と も に 、本 土 と比 較し て 立ち 遅れ が 目立 つ公 共 施 設 を整 備 し、 県 民 福 祉と 生活 の 向上 に資 す る こ と」 だ と さ れ て い た。 こ の よ う な 「本 土 との 一 体 感 の醸 成」 と は、 ナ シ ョ ナ ル ・ア イ デ ン テ ィ テ .. ィに 関わ る、き わ め て政 治 的な 目的 である 。しかも 注 意す べ き は、それが 公 共 施 設の 整備 、 .. 県民福祉 ・ 生活 の向 上 といった 経 済 的 な目 的 と、 即座 に セ ッ トに さ れ て い る こ と で あ る 。 すなわち 海洋博 で は、 復帰 による 沖縄 の 日本 への 統 合、 それに 伴う 沖 縄の 地 位 向 上、 そ .. して 日本 の 新し いナ シ ョ ナ ル・ ア イ デ ン テ ィ テ ィ の表 出 といった 政 治 的目的 が 、沖 縄の 産 .. 業 振 興・ イ ン フ ラ整 備 と い う経 済 開発 と連 動 さ せ ら れ て い っ た。 し か も こ れ ら の重 要 政 策 . .. .. . .. .. .. は、 単に ス ト レ ー ト に 政 治 的に 行 わ れ た わ け で は な い 。 博 覧 会と い う文 化 的 な イベント に よ っ て 媒介 さ れ た。 11こ う し た <政 治 −経 済 − 文化 > の複 合 化の 戦 略は 、 一 体ど う い う 効. 9. 当時 の言 い方 で は「 イ ン タ ー ナ シ ョ ナ ル」 の方 が よ く 使わ れ た と 思わ れ る が 、最 近 の表 現に 切 り替 え て お く こ と に す る。 10 も っ と も こ の 使 い方 は、 教 育や 趣味 に 関す るブ ル デ ュ ーの 有 名な 分析 で の使 用 法 と は か な り 異 な る 。 だが 近年 、D. ハ ー ヴ ェ イ や S .ズ ー キ ン ら に よ っ て 、空 間 分 析 にブ ル デ ュ ーの 「文 化 資 本 」「象 徴 資 本 」 概念 が応 用 さ れ て き て い る の で 、 本論 でも 文 脈に 合う よ う加 工し て 活用 し て い く こ と に す る。 11 3 章 1 節 でも 言 及し た よ う に、 こ の よ う な 手法 は す で に、1964 年の 東 京オ リ ン ピ ッ ク 、7 0 年の 大 阪 万博 、7 2 年の 札 幌オ リ ン ピ ッ ク に お い て活 用さ れ て い た。 オ リ ン ピ ッ クや 博 覧 会 と い う 文 化 的な ビ ッ グ・プ ロ ジ ェ ク トを 起 爆 剤 に し て、公 共 事 業を 集 中さ せ て イ ン フ ラを 整 備し 、産 業 振 興 に つ な げ て い く 。 そ れ と同 時 に、国 際 社 会に お け る 日本 の位 置 と存 在( ア イ デ ン テ ィ テ ィ )を ア ピ ー ルし て い く の で あ る 。. 75.
(6) 果を も つ の だ ろ う か 。 文 化 的イ ベ ン ト は 単に 、ビ ッ グ・ プ ロ ジ ェ ク トと し て巨 大 な投 資 効 果 を産 み出 す だ け で は な い。 特 定の 政 治 的 ・経 済 的 目 的に 貢献 す る文 化 装 置 と し て、 そ れ ら の政 治 的・ 経 済 的 目的 に一 定 の大 きな 文 脈と 方 向 性 を与 え て い く機 能も 果 た す の で あ る。ここに 、「文 化の な かの 政治 」 を、 注 意 深 く読 み取 っ て い く べ き 理由 が あ る 。 それでは 、 海 洋 博 は沖 縄に 、 ど の よ う な 文脈 と方 向 づ け を 与え た の か 。当 然な が ら、 端 的に は< 海 >である 。 <海 >に 象 徴される 、 沖縄 の亜 熱 帯 的 な自 然 ・気 候の 視覚的 ・美 的 なイ メ ー ジ を前 面に 押 し出 す形 で 、< 沖縄 > の美 的リ ア リ テ ィが 新 たに 構築 さ れ よ う と し て い た。 沖縄県 は、 先 の政治的 ・ 経 済 的 目 的 を達 成す る た め のリ ソ ー ス を、 沖 縄の 自然 ・ 気候 ・地 理 的 条 件に 求 め て い く の で あ る。 沖縄県 の海 洋 博 開 催の 目 的に 関す る 先の 引用 の 直後 には 、 次の よ う な 文面 が続 く 。 . .. . .. .. . .. .. . .. .. . .. .. 「ま た 、沖 縄 はい ま だ に 汚さ れ て い な い 美し い 自然 と亜 熱 帯の 気候 をもち 、さ ら に 将来 、 開発 の可 能 性を 秘め た 大 陸 棚を も つ こ と 、黒 潮 と い う世 界 の代表的 な 海流 の ま っただ 中に 位置 す る こ と な ど 、海洋 の未 来 を語 る場 に ふ さ わ し い 地 理 的 条 件 を も っ て い た。」 12. .. . こ こ で沖 縄 県は 明確 に、自ら の <美 しい 自 然> <亜 熱 帯の 気候 > <大陸棚 > <黒 潮> を 、 「海 洋の 未 来を 語る に ふ さ わ し い 地 理 的 条 件 」として 再帰的 に と ら え、 象 徴 的 資 本 と し て 対 象 化・ 客体化 し て い る。 こ れ ら 沖縄 の自 然 ・気 候・ 地 理 的 条 件 が 、先 の高 度 な政治的 ・ 経 済 的 目 的 を達 成す る た め の有 効 なリ ソ ー ス と し て、 積極的 に活 用 を図 ら れ て い る の で あ る。 こ こ に お い て< 自 然> に対 す る美 的 再 帰 性は 、政 治 性と 密接 に 関わ り を も っ て く る 。 . .. . .. .. . .. .. . .. .. . .. . .. .. . た だ し、 何 かを 強 調し て見 せ る こ と は 、 別の 何か を 隠す こ と で も あ る 。顕在的 に 語ら れ .. . .. .. . .. .. たことを 読 み取 る際 に は、 そ れ に よ っ て潜 在 化された 、 語ら れ ざ る も の を も 同 時に 読み 取 っていく 必 要がある 。 海 洋 博の 空 間の 中に 、 新し い< 沖 縄> の美 的 リア リ テ ィ を演 出し 、 ス ペ ク タ ク ル的 に可 視 化す る こ と に よ っ て 、 沖縄 の何 が 隠さ れ よ う と し て い た の か 。 復帰 や海 洋 博を 通 して 沖縄 は 劇的 な変 貌 を と げ て い く が 、 県民 の期 待 に反 して 、 基 本 的 には 変わ ら な い ま ま 残 っ て い く も の が あ っ た 。米 軍 基 地 の存 在で あ る。 日 米 安 保 体 制の 継 続を 前提 として 、日 本 は沖 縄 返 還 交 渉 を行 う 中で 、沖 縄 の米 軍 基 地 存 続 ・軍 事 的 有 効 利 用 を柱 とした 、 同 盟 関 係 の再 編 強 化 を 条件 づ け て い っ た の で あ る 。 13と こ ろ が そ の 一 方で 、 沖 縄 県の 「 基地経済 からの 脱却 」 が叫 ばれ 、 そ れ に代 わって 観 光 開 発による 経 済 振 興が 図 ら れ て い く 。そ の起 爆 剤が 海 洋 博 だ、 と さ れ た の で あ る 。要 す る に こ の 時か ら 、沖 縄に 対 して 日 本 政 府の い わ ゆ る「 アメ と ムチ 」政 策 はすでに 始 ま っ て い て 、国 と自 治 体と のコ ン センサス と 調整 の あ り 方が 、構 造 化さ れ て い く わ け で あ る。 すなわち 、基地 を め ぐ る沖 縄 の現 実は 、日本 の 国 策 上 、何 も変 わ ら な い(そ れ ど こ ろ か 、 . .. .. . .. .. . .. .. . ... .. . かえって 強 化さ れ て い く)。そこで 、この 沖 縄の 現実 を 手つ か ず の ま ま に し て 、イメージ の .. .. . .. .. . .. .. . .. .. . .. .. . .. . 方に は た ら き か け て 、 新し い< 沖 縄> イ メ ー ジを 構築 す る戦 略 が 重 要と な る の で あ る。 <. こ う し た 開 発の エ ピ ス テ ー メ ー が 、東京・大阪・北 海 道 に続 く 形で 、7 5 年 の沖 縄 海 洋 博に も 活用 さ れ た わけである。 12 二つ の引 用と も 、電 通 編 、1976a 、p.32「沖 縄 県 の推 進 体 制 」 。 強 調は 多田 。 13 新崎 、1992 、p.10。. 76.
(7) . .. . 基地 の 沖縄 > < 戦争 の 沖縄 > <運 動 の沖 縄 > 14と い っ た生 々 しい リアル な 現実領 域 とは 異 なる 、も う ひ と つ の < 沖縄 >、 パ ラ レ ル ワ ー ル ド と し て の< 青い 海 の沖 縄> < 観光 リ ゾ ー .. . . トの 沖縄 > を、 幻 想 領 域 に お い て 構築 す る こ とが 、海 洋 博に お い て 不 可 欠の 課 題と な っ て い た の で あ る。 沖縄 に実 際 に住 んで 、(米 軍 基 地 の す ぐ 近く で)日々 の生 活 を送 る県 民 の多 く か ら す れ ば 、 こうした ( 基地 の現 実 とは 無 関 連 な) 幻 想 領 域の ス ペ ク タ ク ル・ 海洋博 に対 し て違和感 を 抱き 、さめた 気 持ち で距 離 を置 く こ と に な っ た の は、当然 の こ と で あ っ た ろ う。とはいえ 、 .. . . だ か ら と い っ て 、こ の 「幻 想 領 域 」が 単な る 非 現 実 や 嘘 と し て片 付 け ら れ る わ け で は な い こと に 、再 度 注 意す べ き で あ る 。以後 の 沖縄観光 の 現実 に鑑 み れ ば む し ろ 、「 青 い海 のリ ゾ .. . .. .. . ート 」と い っ た <沖 縄 >イ メ ー ジ は、 現実 に 効力 を も つ 幻想 、近 未 来の 現実 を 構築 する 力 . .. .. . .. を も つ、マ テ リ ア ル な 幻想 な の で あ っ た。序 章で 述べ た よ う に 、「 イ メ ー ジ/ 現実 」=「 偽 物/ 本物 」と い う 単純 な二 項 対 立 図 式 や 、「 イ メ ー ジに 対 する 実態 の 優位 」といった 発 想は 、 ここでは 有 効で は な い 。むしろ 、 沖縄 を め ぐ るリ ア リ テ ィの 二 重 性 が新 たな 形 で発 生し て きた 、と 考 え る べ き な の で あ る 。 沖縄 を め ぐ る戦 争 ・基 地・ 運 動の 生々 し い現 実や そ の記 憶 は、 消え 去 る こ と な く 残っ て .. . .. .. . . いる 。し か し、 そ う で あ る か ら こ そ 沖縄県 は 、そ れ と は 別の 次元 に 、新 しい 沖 縄の 現実 、 新し い沖 縄 県の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を構 築し よ う と し て い た。 幻 想 領 域に お い て パ ラ レ ル ワ ー ル ドと し て の 美的 な <沖 縄> イ メ ー ジが 構 築さ れ、 そ れ に よ っ て 現実領域 の 生々 し さ を 隠蔽 し つ つ 、純 粋な 視 覚 的 快 楽 の た め に ま な ざ さ れ て い く「 観光 リ ゾ ー ト」 と し て の沖 縄 の、 新し い 現実 とア イ デ ン テ ィ テ ィが 産み 出 さ れ よ う と し て い た の で あ る。 70 年代 、「 デ ィ ス カ バ ー ・ジ ャ パ ン 」キ ャ ン ペ ー ン を通 じ て日 本 全 国 に浸 透し つ つ あ っ た観 光の エ ピ ス テ ー メ ーは 、復 帰 後の 沖縄 に も導 入さ れ 、こ う し た リ ア リ テ ィ の二重性 を 産み 出し て い く 力を も っ て い た の で あ る。. 第4 節. 会 場/ 海上 の ランドスケープ :伊 江 島を め ぐ る 知覚様式 の 変容. (1)本 部 半 島 の「 冒 険」: 沖縄 のリ ゾ ー ト 化を 方 向づけた 文 化 装 置 も と ぶ. 琉球政府 は 結局 、 沖 縄 本 島 北 部に 位置 す る 本部 半島を 主会場 と す る の が 、 最も 望ま し い と い う方 針 を決 めた 。 本部 を選 ん だ理 由は 、 4つ 挙げ ら れ て い る 。 そのうち 特 に重 要な 3 つを 抜粋 してみ たい 。 15 ① 海洋博 覧 会 に お い て は 、海 洋そ の も の も展示物 と 考え る べ き で あ り 、本 部 半 島 周 辺 の 美し い海 は 、そ の要 求 に こ た え る こ と の で き る条 件を 備 えている 。 ② 会 場 周 辺は 雄 大な 山 な み と、 伊江島 、瀬 底 島、 水 納 島 等の 離 島が 見事 な 調和 を見 せ 、 海底 は広 範 囲に わ た り 美し いサ ン ゴ礁 が あ っ て 、海 洋 観 光 レジャー 面 の開 発 可 能 性を ひめている。. 14. 海 洋 博を 推進 す るデ ィ ス ク ー ル は表 面 的に は一 切 語ら な い が 、当時 の沖 縄 は 、本 土 資 本の 土 地 買 い 占 め、C T S 問題 、 環 境 破 壊 、 イ ン フ レ 、 そ し て当 の 海 洋 博に 対 する 賛否 な ど、 様々 な 問題 を抱 え て お り 、 こ れ ら に 対 して 激し い 反 対 運 動 が 展開 さ れ て い た 。 15 沖 縄 県 沖 縄 国 際 海 洋 博 覧 会 協 力 局、1976 、p.9 。強 調 は多 田。 先 と同 じく 、 日 本 政 府 への 要 請 書 。. 77.
(8) ③ 沖 縄の 経済 、社 会 開 発の た め の 基 盤 整 備の 面か ら み て も 、も っ と も 大き な投 資 効 果 が 期待 さ れ る 。 こ れ ら を ま た要 約 す れ ば、 ① それ 自体 が 展 示 物に な り う る 本部 の美 し い海 、② 観 光レ ジ ャー の開 発 可 能 性、 ③ 最大 のイ ン フ ラ 投 資 効 果、 と な る 。こ れ ら は 、前 章で 検 討し た琉 球 政府 の会 場 選 定 の基 準 に、 ほ ぼ そ の ま ま対 応 し た も の と な っ て い る 。ち な み に 4つめを 補 足し て お く と、 本 部 周 辺に は天 然 の す ぐ れ た 避 難 港が あ り、 その 整 備に よ っ て 大型船舶 が 出入 り で き 、輸 送・ 保 安 対 策が 見 込め る こ と で あ っ た 。 以上 の要 因 から 、琉 球 政 府 は本 部 半島 を会 場 に選 ん だ の で あ る。 高山英華 ・ 会 場 計 画 委 員 長 ( 海 洋 博 協 会 )はこの 立 地 条 件 に関 連し て 、海洋博 が 一種 の 「冒 険」 で あ る と指 摘 した 。そ れ は、 ①人 口 集 積 から 遠 く離 れた 場 所で 開く 博覧会 で あ る こと 、② 人 間の 手の 触 れ ら れ て い な い 、自 然 そ の も の の 場を 博 覧 会 場に し た こ と、 この 2 点か ら で あ る。 そ れ ま で の 万博 の ほ と ん ど は 、大都市 かその 近郊 の 、人 口が 集 積す る地 域 で行 う の が 常識 で あ っ た。こ れ は 、会 場に 多 数の 集客 を 見込 め る と い う 要因 が 大き い。16た だし 会場 に 選ば れ る の は、 大 都 市 や そ の近 郊 で あ っ て も 、荒 地や 埋立地 の よ う な未 利 用 地 の場 合が 多 い。 博 覧 会 の開 催に よ っ て 、広 大 な遊休地 に 大 規 模な 手 を加 えて 雰囲気 をガ ラ ッと 変え 、 新し い空 間 イメージ をその 土地 に 作り 出し 、 観客 を呼 び 込む こ と に よ っ て象 徴 的な 価値 を 付与 し て い く、 大 規 模 な都 市 開 発 の効 果を 狙 い と す る の で あ る。 17 この 点、 沖 縄 海 洋 博に お け る 会場選定 は 、万 博の 歴 史に お け る こ う し た都 市 開 発 の通 例 とはかけ 離 れ た も の で あ っ た。 ① 沖縄 の都 市 部は 那 覇 市 ・沖縄市 な ど本 島 中 南 部に 集中 し て お り、 北 部・ 本 部 半 島の 会場 は 那覇 か ら 80km も 離 れていた 。 18②遊休地 を 加工 して 雰 囲気 を一 変 さ せ る の で な く 、も と あ る <海 = 自然 >そ の も の を博 覧 会 場 に活 用 した 。高 山 は、 海 洋 博 の こ う し た 例 外 的な 試 みを 「冒 険 」と 呼ん だ わ け で、 そこに 、博 覧 会に 都 市 開 発よ り もリ ゾ ー ト開 発 を求 め る新 し い志 向 性 を読 み 取っ た の で あ る。 19そ し て、 海洋博 の この 方向 づけは 、そ の 後の 沖縄 の 方向 づ け を 同時 に指 し 示し て も い た。 本 部 半 島 周 辺の 美 しい 海、 伊江島 ・瀬 底 島・ 水 納 島 な ど の 離島 が そ れ 自体 、博 覧 会 会 場 のシーン を 構成 し、 展 示の オ ブ ジ ェと 化す 。 確か に、 従 来の 万博 の よ う な遊 休 地の 大 加 工 とは 違う が 、そ こ に は や は り、 重 要な 象 徴 的 変 容 が あ る 。海 洋 博 誘 致に よ っ て ひ と た び 大 規模 な観 光 の ま な ざ し に さ ら さ れ る そ の瞬 間 に、 本部 の <海 =自 然 >の 風景 は 、決定的 な 象 徴 的 変 容 を遂 げ る の で あ る。. 大 阪 万 博 も、 関 西の 人 口 集 中 地 域で あ り、 新 幹 線 や高 速 道 路 が整 備さ れ て い た た め に、6 4 20 万 人と いう 万 博 史 上 最 高の 観 客 動 員を 達 成で き た 。 17 実際 パリ・ニ ュ ー ヨ ー ク ・モ ン ト リ オ ー ル・大 阪な ど の万 博は 、河 川 敷や 沼 地、丘陵 な ど の 不毛 の 未 利 用 地を 開 発し 、跡 利 用と し て 公 園や 施 設 用 地に 変貌 さ せ て い っ た 。 18 実際、会 場 決 定を め ぐ っ て、建 設 省と 通 産 省 は対 立 し て い た 。建 設 省 は、那 覇か ら片 道 約 3 時間 も か か る こ と を 見込 めば 、本 部 半 島は 適 切で な い と い う 見解 で あ っ た 。こ れ に対 し 通 産 省は 、景 観に お い て 本 部 半 島 以 外に は候 補 地が な い こ と、 琉 球 政 府の 内 定 案 を覆 す の は 好ま し く な い こ と を 主 張し て い た (沖 縄 県 沖 縄 国 際 海 洋 博 覧 会 協 力 局、1976 、p.8 )。 19 高山 「海 洋 博 は 冒険 か」 琉 球 放 送、1975 、p.134 〜135 。 16. 78.
(9) 現在 の海 洋 博 公 園 中 央 ゲ ー トか ら 眺望 した 伊江島 20. (2)オ ブ ジ ェ 化し た 伊 江 島: 礼 拝 的 価 値 か ら展示的 価 値へ もともと 沖 縄に は 、海 の か な た に 祖先 たちの 原郷 、 楽土 があり 、そ こ か ら 神々 が 来訪 す るという「ニ ラ イ カ ナ イ 」信 仰が あ り、歴 史 的に 根付 い て き た と さ れ て い る(外 間、1999)。 ところが 、海 洋 博 において 導 入された 、<海 > を ま な ざ す 純粋 な視 覚 的 快 楽の フ レ ー ムは 、 基 本 的に は こ う し た 「 ニ ラ イ カ ナ イ」 信仰 と は無関連 な 形で 、全 く 対 照 的に 、 海洋 レ ク リ ェ ー シ ョ ン への 欲望 を 喚起 し て い く。 沖縄 の ローカル な 歴史 ・伝 統 に根 を張 っ た信 仰・ 価 .. .. . .. .. . 値観 から 、 本部 の< 海 >の 風景 を 美的 なイ メ ー ジ と し て 切り 離し 、 観光 の ま な ざ し のオ ブ ジェ へと 変 え て しま う の で あ る 。 ま さ に、 ヴ ァ ル タ ー ・ ベ ン ヤ ミ ン が『 複 製 技 術 時 代の 芸 術 作 品 』で 指 摘し た 、「 礼 拝 的 価 値 から 展 示 的 価 値 へ 」の切 り換 え の典 型を 、本 部の <海 > にも 見る こ と が で き る の で あ る 。 21 その 中で も 伊 江 島 は特 に、 海 洋 博 会 場 北 ゲ ー ト( 現 在の 海 洋 博 公 園 中 央ゲート ) を入 る と、 真正 面 に見 える 位 置にある 。 もっとも 、 そ の ち ょ う ど前 面に は 大き な赤 瓦 の沖縄館 が 位置 し、 そ の背 景を な す形 で伊 江 島が そ び え て い た。 つまり 伊 江 島 は沖縄館 と セ ッ トに な って 、観 客 が博 覧 会 会 場に 入っ て 最初 に直 視 する オ ブ ジ ェと 化し て い る の だ 。 し か も伊 江 島は 、広 大 な会 場の 中 の ど の位 置 ・角 度か ら 見て も、 ア ク ア ポ リ ス と並 んで 、 海を 美的 に まなざす 構 図の セ ン タ ーをなす 存 在な の で あ っ た 。 ぐすくやま. 伊 江 島の 中 央の 起伏 部 は「 伊 江 島タ ッ チ ュ ー」の名 で親 し ま れ て い る が、地元 では「 城 山 」 ぐすくやま う た き. とも 呼ば れ 、 城 山 御嶽 には 、船 の航 海の 安 全や 健康 、豊 作へ の祈 り が捧 げ ら れ て き た 。こ のロ ー カ ル な文 脈と は 無 関 連に 、 海 洋 博の セ ン タ ーを な す視 覚 装 置 と し てオ ブ ジ ェ 化・ 抽 象化 さ れ た 伊 江 島は 、「礼 拝 的 価 値か ら 展 示 的 価 値 へ」 の移 行 を典型的 に 体現 し て い る。. た だ し 7 5 年 の海 洋 博 で は、 この 構 図の 中心 に は 1 2 万枚 も の赤 瓦を の せ た 沖 縄 館 が あ り、 相 当な 存 在感 を示 し て い て、 伊 江 島 は そ の 背景 を な し て い た こ と を付 記し て お き た い 。 21 Benjamin, 1936=1995 。た だ し、ベ ン ヤ ミ ン 自 身の 意図 と は別 に、伝 統が も つ 「 ア ウ ラ」は 常に 、失 わ れ て み て 初め て、事 後 的 に意 識さ れ る も の で あ る こ と に 注 意す べ き で あ る 。伝 統が 力 を も つ時 代 には 、 「伝 統 」は わ ざ わ ざ意 識 化 ・言 説 化し て語 ら れ は し な い 。民 俗 学そ の も の が近 代 の脱 伝 統 的 状 況 の産 物 で あ る よ う に 、沖 縄の ニ ラ イ カ ナ イ 信仰 が今 日 し ば し ば 語 ら れ る の も 、近代 の 文脈 の中 で再 帰 的に 、事 後的 に取 り 上げ ら れ て い る と い う 点を 忘れ て は な ら な い 。こ れ は や は り 、<海 > が美 的な 観 光の ま な ざ しに 浸食 さ れ て い く プ ロ セ スと パ ラ レ ルな 、失 わ れ た も の へ の ノ ス タ ル ジ アと し て の 側面 だ と考 え て よ いだろう 。 20. 79.
(10) し か し も ち ろ ん 、 生 活 空 間と し て の 伊江 島そ の も の は、 海 洋 博 の視覚的 オ ブ ジ ェに と ど ま る は ず が な い 。 む し ろ、 全 く逆 であ る。 伊 江 島 は、 阿 波 根 昌 鴻 の活 動 に代 表さ れ る よ う に 、< 戦争 > <基 地> < 運動 >と い っ た沖 縄 の諸 様相 を 、小 さな 島空間 の中 で濃縮的 に 具 現 化し 続 けてきた 。 沖 縄 戦で の激 戦。 米 軍 占 領に よ り戦 後2 年 近くもの 間、 住民 の 島外 への 強 制 退 去。 帰郷後 も安 住できず 、 土地 を め ぐ る米 軍と 農 民の た え ざ る攻 防・ 緊 張 関 係。 想 像を 絶す る ま で の死 の 恐怖 ・不 安 と貧 困の 中 で続 け ら れ た、 阿 波 根 た ち の反 基 地 平 和 運 動 …。 沖 縄 戦 以 後 、伊 江 島は 非常 に 複雑 で濃 密 な歴 史を 経 てきたし 、 今もなお 、 米海兵隊 の 補 助 飛 行 場 は、 島 面 積 の約 35% を占 め て い る。 伊江島 は面 積 約 23k㎡ の小 さ な島 だが 、 ある 意味 で は、 沖 縄 全 体の 戦後史 と現 在 を象 徴 し、 具現化 し てき た と も 言え よ う( 阿波根 1973 、1992 、 相原 ・ 真鍋 1999 )。 こうした 歴 史を 証 言す る も の と し て、 伊江島 には 阿波根 の 設立 に よ る 「ヌ チ ド ゥ タ カ ラ の家 反 戦 平 和 資 料 館 」が あ る。リ ゾ ー ト目 的の 観光客 は通 常 、こ こ を訪 れは し ない が、そ の豊 富 な展 示 物 は、 伊江島 の 生々 し い歴 史 に つ い て 認識 を 深め さ せ て く れ る。 22米 軍の 弾 丸や 模 擬 爆 弾、 軍服 、 戦 争 中の 生 活 用 具な ど、 戦争 と 基地被害 の 証 拠 品や 写 真が 大量 に並 べ ら れ て い て、 直接手 で触 れ て確 かめ て み る こ と も で き る 。 言葉 では 形 容しがた い、 島内 で の過 去の 壮 絶な 日々 を 、それら の展示品 たちは 皮 膚 感 覚で 訴え か けてくる 。 . .. .. . さて 、 この 展 示 品 との 触覚的 な近 さ は、 海 洋 博に お い て 美的 な オブジェ = 客体 と化 .. . .. . した 伊 江 島 との 視 覚 的 な遠 さ と 、 ちょうど 対 照 的で あ る。 後者 の <伊江島 > は、 前者 のリアル な 歴史 ・現 在 とは 全く 無関連 な形 で 、美 的・ 視覚的 に抽 象 化さ れ、 観 光の ま な ざ . し に よ っ て 「展 示 的 価 値」 を与 え ら れ て い く 。島 内の リアル ・ポ リ テ ィ ッ ク ス をはらむ 濃 .. .. . .. .. . .. . 密な 三次元 空 間 から 、 本部半島 か ら見 る伊 江 島の 二 次 元 の前 景 が 切 り離 され 、 パ ラ レ ル ワ ー ル ドと し て、 <海 > の博覧会 の 抽象空間 が 構築 さ れ て い く 。こ れ は一 体、 ど う い う こ と な の だ ろ う か。 伊 江 島 を め ぐ る こ う し た知 覚 的・ 象 徴 的 な変 容は 、 いかなる 意 味を も っ て い る の だ ろ う か 。こ れ は 、< 沖縄 > をめぐる リ ア リ テ ィ の 二 重 性を 考 え て い く に あ た っ て 、 重要 な鍵 と な る と思 わ れ る の で あ る。 社 会 学 の既 存の 成 果の 力を ヒント に し て 、しばし 考 察を 加え て み よ う。. . .. なお 、こ こ で私 は 、「 見 せ か け/ 本 質」「 表層 /深 層 」と い っ た 、本 質 主 義 的な 二元論 を. 繰り 返そ う と し て い る わ け で は な い。 む し ろ 、海洋博 を 通し てパ ラ レ ル ワ ー ル ドが 構築 さ. 22. 私も 資 料 館を 見 学し た が 、 その 際、 謝 花 悦 子 氏 か ら貴 重な 話 を聞 く こ と が で き た 。. 80.
(11) .. . れ、 伊 江 島 をめぐる リ ア リ テ ィ が 二 重 化 さ れ て い くプ ロ セ ス を析 出 し よ う と し て い る こ と を、強調 し て お き た い 。ま た こ の よ う に 、伊 江島 を め ぐ るリ ア リ テ ィが「 イメージ / 実際 」 .. . .. .. . 「前 景/ 島 内 空 間」 へ と二重化 さ れ て い く 事 態は 、し ば し ば 倫 理 的 批 判 の語 調 で語 ら れ る .. .. . こ と が圧 倒 的に 多い 。 し か し、 ひ と ま ず こ の 論文 では 、 倫 理 的 批 判 が目 的な の で は な く 、 そうした リ ア リ テ ィ の 二 重 化の プ ロ セ スを 解 き明 か す こ と が 主眼 で あ る と い う こ と も、 付 け加 え て お き た い。 (3)シ ヴ ェ ル ブ シ ュ の視 点: パ ノ ラ マ的 知 覚 ド イ ツの 文芸学・哲 学・社 会 学 者ヴ ォ ル フ ガ ン グ・シ ヴ ェ ル ブ シ ュは『 鉄道旅行 の 歴史 』 で、近代 の工 業 化・産 業 化・都 市 化 によって 様 々な テ ク ノ ロ ジ ーが 新 しく 導入 された 結果 、 . . ... .. . 空 間・時間 の知 覚 の あ り方 が 劇的 に変 容 したこと を 分析 し て い る 。19 世紀半 ば の鉄 道 旅 行 の誕 生は 、 こ れ を典 型 的に 表す 現 実で あ っ た 。以 下で は 本論 での 議 論の 目的 の た め に、 彼 の視 点の エ ッ セ ン ス を 抽出 する ま でに と ど め よ う 。. ( シ ヴ ェ ル ブ シ ュ 『 鉄 道 旅 行 の 歴 史 』 法 政 大 学 出 版 局 、 p.29 よ り ). 図の よ う に、 も と も と起 伏 の あ る地 形 に直線的 な 鉄道 が敷 かれた 瞬間 か ら、 自然 の偶 然 的な 不 規 則 さは 、定 規 で線 を引 い た よ う な 線 路の 規 則 正 しさへと 代 わ っ て い く 。そ の際 、 切り 通し ・ トンネル ・ 高 架 橋な ど が建 設さ れ る こ と に よ っ て 、新 し い、 人 工 的 で均 質的 な 風景 が切 り 開か れ、 旅行者 の空 間 知 覚 の あ り 方も ガ ラ ッ と変 わ っ て い っ た と い う。 それ 以前 の 乗り 物は 、主 に 馬車 で あ っ た。 馬車 は ゆ っ く り 走 る た め、 馬車 とその 乗 客 自 身が 近隣 の 風景空間 の 中にとけ 込 んで 一 体 化 し、そ の風 景の 一 部を な し て い た 。対 照 的に 、 列車 は高 速 度で 移動 す る た め、 乗 客と 風景 を 厳然 と分 離 した 。す な わ ち 、風 景 とそれを 見 る乗客との間に、機械のテクノロジーが媒介して<速度>を実現し、両者を<見る主体 subject>と < 見られる 客 体 object>へ と二 分し て い っ たの で あ る 。 23見る乗 客 と見 ら れ る .. 風景 の間 に は、 速度 という 「実 体 なき 境目 」 が入 り込 む こ と に よ っ て、 個々 の 風景 は一 時 的に 通り 過 ぎ ら れ、 均質的 ・画 一 的に ま な ざ さ れ る客 体 =対 象へ と 化し て い っ た。 <見 る乗 客 >と <見 られる 風景 > は距離化 さ れ、 異な る空 間 の次 元に 属 している 。こ こ に生 じる 知 覚を シ ヴ ェ ル ブ シ ュ は 、「 パ ノ ラ マ的 知 覚」 と言 う 。パ ノ ラ マ とは 、19 世紀 ヨ ーロッパ で 流行 した 視 覚 的 娯 楽 の 見 世 物= ス ペ ク タ ク ル で あ る。 円 状の 建物 の 中心 に位 置. 23. シ ヴ ェ ル ブ シ ュ は、鉄道 を「 機 械の ア ン サ ン ブ ル」と し て と ら え る。こ れ が 、旅 行 者 と風 景 の間 に 割 り込 む の だ と言 う 。「 旅 行 者 は、 機械 の ア ン サ ン ブ ルの フ ィ ル タ ー 越し に 、風 景を 知 覚す る。 こ れ が 、 風景 と動 き に関 する 新 しい 知覚 を 構成 する 。… …古 い知 覚 は 、自 然 で 、し か も 互 いに 結び つ き の ゆ る い .. .. . 輸 送 技 術 の 諸 要 素に 基 づ く も の だ っ た 。こ れ に 反し 、新 式の 機械 の ア ン サ ン ブ ルの 特徴 は 、個々 の要 素 .. .. . .. .. . .. .. ... .. .. . .. . の勝 手な 遊 びを 終わ ら せ る ほ ど の、法 外な 技 術 的 規 律 化 な の で あ る 。」Schivelbusch, 1979 =1982 、訳 書 p.33.こ こ に示 さ れ る の は 、工 業テ ク ノ ロ ジ ー の 媒介 に よ っ て新 たに 構 築さ れ る 、産 業 化 さ れ た リ ア リ ティ で あ る 。近 代 社 会 の 中で 我々 は 、諸々 の 工 業 技 術 を 日常 の中 に 取り 込み 、そ の状 況を 自 明 視 して 生 き、 その 人 工 的 に構 築 さ れ た世 界 の中 で、 空 間・ 時間 を 当た り前 の ご と く知 覚 し て い る の で あ る。. 81.
(12) する 観客 は 、周囲 360°の巨大 な 風 景 画を 眺 望で き る よ う に な っ て い て 、遠い 地 方や 都会 、 植 民 地の エ キ ゾ チ ッ ク な風 景、 戦 場などが 上 演さ れ て い た。 人々 は パノラマ に よ っ て、 安 全に 旅の 代 理 体 験と 視 覚 的 快 楽 を 得る こ と が で き た の で あ る 。. パノラマ. 水晶宮. 列車 の中 か ら風 景を 見 る目 が、 この パ ノ ラ マを 見 る目 と共 通 するのは 、知 覚 さ れ る対 象 とは 同一 の 空間 に属 し て い な い 、 見る 主体 が 周囲 の世 界 から 超越 し た位 置に い る、 と い う .. . .. . 点である 。す な わ ち 、パ ノ ラ マ 的 知 覚に お い て は、風景 が 客 体 化 さ れ る の と同 時 並 行 的に 、 .. .. . .. .. . . 観光 の ま な ざ し の主 体 化 作 用が 生 じる の で あ る。 と こ ろ が 、 こ れ だ け で は な い 。 シ ヴ ェ ル ブ シ ュの 考 察 が 本論 に と っ て示 唆 に 富 む の は 、 こうした 鉄 道 旅 行の 視 覚 体 験と 、1851 年ロ ン ド ン万 博( 世 界 初の 万 博 )の 会場・水晶宮( ク リ ス タ ル パ レ ス )の ガラス 建築 の 視覚体験 と を、 同質 な も の と し て 並べ て論 じ て い る点 で ある 。近代 の知 覚 様 式 の変 容 に関 して 、19 世紀 イ ギ リ スの 鉄 道 旅 行の 普 及は 、万 国 博 覧 会 の誕 生と 密 接に 連動 し て い た。 そ の意 味で 、 シ ヴ ェ ル ブ シ ュ が指 摘 するこの 知 覚 変 容は 、 間 接 的・ 系譜的 には 沖 縄 海 洋 博 と も つ な が っ て く るわ け で あ る。 .. . .. 列車 では 速 度 が 、風 景の 中 から 乗客 を 抜け 出さ せ た。 同様 に、 水晶宮 では ガラス が、 外 部の 自 然 環 境か ら純 粋 な< 光> だけを 抽出 し 、博覧会 の 展 示 品に 独 特の 神 秘 的 な照 明 効 果 を産 み出 し た の だ と い う。従 来の 厚い 壁 とは 対 照 的 に、薄 いガラス はその 透明 さ に よって 、 水 晶 宮の 内 部 空 間を 外 部か ら隔 て る「 実体 な き境 目」 と し て の役 割 を果 た し た 。 24 また 、万 博 会 場 は観 客で 混 雑し て お り、 観 客は た え ず 移動 し な が ら展示品 を 見る こ と を 余儀 なくさ れ た 。し か も、 観客 と 展 示 品の 間 には 一定 の 距離 が保 た れ、 両者 は 異な る空 間 の次 元に い た。 や は り こ こ に も 、 <観 客− 展示品 > = < 主体 −客 体 >の 間に 、 パノラマ 的 知覚 の構 図 が成 立し て い る 。す な わ ち 、こ の パノラマ 的知覚 に よ っ て観 客は 、 博 覧 会の 展 示品 が喚 起 さ せ る< 世 界> を客 体 化しつつ 、 その <世 界 >に 対し て 自分 を距 離 化さ せ る こ と に よ っ て 、< 世界 > を超越的 に ま な ざ す 主 体と な っ て い た の で あ る。 ロ ン ド ン万 博に お ける <世 界 >の 客 体 化 と、 観客 ( 主に ヨ ー ロ ッ パ 人) の 主 体 化は 、 同 時 並 行 的 であった 。 24. 「ガ ラ ス 建築 は 、『 ほ と ん ど実 体 なき 境目 』 に よ り、 自 然 環 境か ら 光と 大気 を 切り 離し 、 光と 大気 を 新た な状 態 に置 き換 え る 。光 と大 気 は 、そ れ ま で そ こ で の み 顕在 し て い た自 然 界か ら独 立し て 、自立 し た性 質を も つ も の と し て知 覚さ れ る。こ の現 象は 、有 機 的 な土 台で あ っ た 馬の 力 から 切り 離 さ れ た こ と .. で、 初め て 自立 した 性 質を も つ も の と 知覚 さ れ た 、あ の 鉄道 の純 粋 速度 と比 較 で き る 。」 同上 、p.66. なお 、こ の時 点 では 電 気 照 明は ま だ 発 明さ れ て お ら ず 、ガ ラ ス 建 築は 非 日 常 的な 展 示 効 果を 与え る 上で 、 重要 な視 覚 装 置 と な っ た。. 82.
(13) (4)写 真 の ま な ざ し :抽象化 された リ ア リ テ ィ それでは 、沖 縄 海 洋 博は ど う か 。端 的 に言 うと 、< 速 度> や< ガラス >に 相 当す る も の は何 だ ろ う か? 海 洋 博 の展 示の オ ブ ジ ェと 化 した 伊 江 島 と、 そ れ を 美的 に ま な ざ す 観客 と の間 には 、 どういう 「 実体 なき 境 目」 が介 在 し て い る の だ ろ う か ? そ れ は、 カ メ ラ のフ ァ イ ン ダ ー で あ り、 写 真の ま な ざ しである 。 伊 江 島を 美 的な オ ブ ジ ェと し て と ら え る観 客 と伊江島 と の間 には 、 多く の場 合 、カメラ の フ ァ イ ン ダ ーが 割り 込 んでいる 。それは 、 「 あ り の ま ま の自 然 」を 写 すという 、 透 明 性の 幻 想を 与え る 「実 体な き 境目 」で あ った 。こ の 「あ り の ま ま の 自然 」 の模 写は 、 実際 には < 写真 >と い う視覚化 の テ ク ノ ロ ジ ーに よ っ て 可能 と な る 。 こ こ で、 <見 る 観客 >と < 見られる 風 景> の間 に は、 明確 な< 主 体− 客体 > 関係 が成 立 .. . .. .. . .. . . . . . .. . .. し て いる 。 この 両者 を 距 離 化・ 二分化 し 、 か つ 媒 介す る も の こ そ が カ メ ラの フ ァ イ ン ダ ー であ り、 写 真の ま な ざ し で あ っ た 。カメラ の フ ァ イ ン ダ ーを 覗く < 撮る 主体 > は、 この 沖 縄の 海や 伊江島 の風 景 から は隔 絶 した 位置 にいる 。つ ま り こ の超 越 的 主 体は 、 <撮 ら れ る 客体 =対 象 >と は異 な る空 間の 次 元に 属し て い る 。こ の 点で <写 真 の ま な ざ し >は 、パ ノ ラマ 的 知 覚 で あ り、 鉄 道の <速 度 >や 水 晶 宮 の< ガ ラ ス >と 同様 の 効果 を も つ 。< カ メ ラ . . . . .. .. . のフ ァ イ ン ダ ー >が 「 実体 なき 境 目」 と し て 介在 す る こ と に よ っ て 、風 景 ・ 世 界の 客 体 化 . . .. .. . .. .. と同 時に 、 純粋 な観 光 の ま な ざ し の主体化 作 用が 生じ る のである 。 こ の写 真 に よ るパ ノ ラ マ 的 知 覚 の 効果 が あ る か ら こ そ 、 伊江 島 を め ぐ る リ ア リ テ ィ は 、 先述 の よ う に「 イ メ ー ジ/ 実際 」「前 景 /島 内 空 間 」へ と二 分 化・二重化 さ れ て い く 。海 洋 博の 観客 は 、伊江島 の な か の歴 史 的な 場所 か ら海 を隔 て 、明 ら か に 別 次 元の 空 間に 属し て いる 。観 客 が内 在し て い る の は 、 <海 >の テーマ 博の 、 純粋 な視 覚 的・ 美的 リ ア リティ の 空間 で あ る 。こ こ か ら 遠近法的 な カ メ ラの 視 線を 注ぐ と き に 、伊 江 島の 二 次 元 の無 時 間 的 な前 景 が引 き は が さ れ 、視 覚 的・ 美 的な オ ブ ジ ェ を 演じ る こ と に な る 。 25そ れ自 体 が海 洋 博の 展示 の 一部 と し て 、< 戦争 > <基 地> < 運動 >を め ぐ る 伊 江 島 の濃 密な 三次元 の歴 史 的な 場所 か ら、 無 関 連 化さ れ て い くの で あ る 。 こうした 効 果は 、< 写真 の ま な ざ し > に よ る象 徴 的 変 容の 錬金術 で あ る。 < 生き ら れ る 伊 江 島> < 生き ら れ る 沖縄 >の 全 体 的 空 間 の 中か ら 、前 景の 美 的な イ メ ー ジが 切り 取 られ 、 カ メ ラの フ レ ー ムの 中 へと 枠づ け ら れ 、純 粋 な視 覚的 快 楽の た め に <見 ら れ る 伊 江 島> < .. .. 見られる 沖 縄> へと 抽象化 さ れ て い く 。身体感覚 の 五感 を通 し て生 き ら れ て い た場 所 から 、 .. . . .. .. 視覚 が突 出 した 地位 を 占め るス ペ ク タ ク ル( 見せもの )へ。本 部 半 島沿 岸 の海 と島 々 が「 展 示的価値 」 を高 め ら れ て い く と き 、自 然や 生 活の リ ア リ ティ の全 体 性か ら視 覚 性・ ス ペ ク タ ク ル性 を 抽出 ・強 調 する 、リ ア リ テ ィの 抽象化 が進 行 し て い た の で あ る。 26 25. 写真 は、持 続 的 な時 間 の流 れ の な か か ら 、あ る瞬 間 の対 象の 断 面を 切り 取 って 、紙の 上に 物 質 化 さ せ たイ メ ー ジ で あ る 。そ の 意味 で写 真 は 、常 に <現 在> を <過 去> 化 させ 、<過 去 >を <現 在 >化 させ る も の で あ る と同 時に 、 無 時 間 的 ・ 無 歴 史 的 な も の で も あ る。 26 「抽 象 的 」を 英 語で 言え ば abstract だが 、こ の語 に は動 詞で 「 (あ る要 素 を) 取り 出 す、 抽出 す る 」 と い う意 味 も あ る。 直 線 的 なら 直 線的 (鉄 道 旅 行 )、明 る さ な ら明 る さ だ け( 水 晶 宮 )の 知覚 が 、自 然 のリ ア リ テ ィの 全 体 性 の中 から 抽 出さ れ る 。こ れ は 、産 業 化の 中で テ ク ノ ロ ジ ー が高 度に 発 達す る こ と. 83.
(14) 写 真は 、「 あ り の ま ま の 自 然」 を そ の ま ま 写 し 取っ て い る と い う 幻 想 を与 え る が 、実 際 には 逆に 、 「自 然 」か ら遠 ざ か っ て い る 。写 真 のフ レ ー ミ ン グ に よ っ て切 り取 ら れ、ス ペ ク タクル 化 さ れた < 自 然> は 、 あ く ま で 「自 然 」 の代 理 = 表象 (re-presentation) と し て 、 新た に構 築 さ れ た< 自 然> で あ る 。ここでは 決 して 、「あ り の ま ま の 自然 」の 知覚 が 、最 初 から 先に あ っ た の で は な い( その 錯 覚 自 体が 、写真 の効 用 で あ る )。むしろ 後述 す るように 、 海 洋 博で は 諸々 のテ ク ノ ロ ジ ー を 活用 して 、 <自 然> や <風 景> そ の も のを 人工的 に創 出 する エ ピ ス テ ー メ ー が 、会場内 の 空間 と知 覚 の あ り よ う を支 配し て い た 。< 海 >の 青さ に . . .. . せよ 、亜 熱 帯の 植物 にせよ 、 「あ り の ま ま の 自然 」の写 真 的 知 覚 は 、この エ ピ ス テ ー メ ー の 事 後 的な 効 果な の で あ る。 こ こ に は、 海 洋 博 以 後 の沖 縄 の観 光リ ゾ ー ト 化や 、 観 光 客と < .. .. . 沖縄 >と の 知 覚 的 関 係 の あ り方 が 、すでに 先 取りした 形 で示 さ れ て いた と言 えよう 。 ところで 、海 洋 博に 来る 人 々は 、会 場 に来 る前 か らすでに 、ア ク ア ポ リ ス の そ びえる < 青い 海> と 本部半島 の 美的 な風 景 の構 図を 、パ ン フ レ ッ ト や ガ イ ド ブ ッ ク、 雑誌 のカ ラ ー グ ラ ビ ア 、テレビ の 映像 な ど で見 て 知っ て い た 。そ の中 で も写 真は 、紙 の 上の 静 止 画 像に 美的 な 風景 を固 着さ せ て い ると い う点 では 、 映像 以上 に視 覚 効 果 を も つ 。人 々は 現 実に 会場 に来 る こ と に よ っ て、 その 風 景の .. .. . .. . .. .. . . 写 真 的な 美 しさ を、 既視感 を も っ て 確 認的 に体 験 し て い た の で あ る。 また 70 年 代、 カ メ ラ はすでに 日 本の 8割 以 上の 家庭 に 普及 し て い た。70 年 の大 阪 万 博 で、写 真 業 界 は「 見よ う、 写そ う、EXPO'70」キャンペーン を 行い 、これを 契 機に カ ラ ー フィルム の 販 売 量が 白 黒フ ィ ル ム を上 回っ て い た 27。75 年の 海 洋 博 でも 、人 々 は混 雑す る 会 場 内を ぶ ら ぶ ら遊 歩 しながら 、 撮影 ス ポ ッ トを 見つ け て は 、家 族 やカ ッ プ ル な ど で記 念 写真 をとっ た り 、と っ て も ら っ た り し て い た の で あ る 。 また 団 体 客 向けには 、 北ゲート を 入っ て す ぐ の「 か り ゆ し広 場」 に 記 念 撮 影 所 が設 け ら れ 、沖縄館 を バ ッ クに 団 体 写 真を 撮 った 。つ ま り人 々は 、 会場 に来 る 前に 写真 を 見て い た だ け で な く 、 実際 に来 た 会場 の中 で も、 <写 真 の ま な ざ し >を 通し て 会場 /海 上 のラ ン ド ス ケ ー プを と ら え て い た のである 。 「写 真う つ り の 良さ 」 と い う観 点 が、 会場 の 空間知覚 のあり 方を 支 配す る規 準 と な って い た。 <観 光 の ま な ざ し >は 、< 写 真の ま な ざ し> で も あ る。 28 写 真 的な イ メ ー ジが そ れ自 体で 自律化 して 、パ ラ レ ル ワ ー ル ドを 構築 す る。 そ れ を空 間 的に 物 質 化 ・具現化 し たも のが 、 海 洋 博の 会 場 世 界な の で あ っ た 。 二次元的 な イメージ を 再び 三 次 元 化し た世 界 は、会 場 外 の生 活 世 界 への 準拠・対応 を 必要 と し な い、自 己 準拠的 ・ 自 己 完 結 的 な< 海> の テ ー マ空 間 で あ る。 こ う し て、 < 沖縄 >を め ぐ る リ ア リ テ ィ の二 重 化が 、海 洋 博という ビ ッ グ イ ベ ン トを 通し て 、確 実に 進 め ら れ よ う と し て い た の で あ る 。. に よ っ て 、初 めて 可能 に な っ た知 覚 で あ っ た 。沖 縄の < 青い 海> = <自 然> へ の美 的な ま な ざ し も 、海 洋博 に お い て展 示 的 テ ク ノ ロ ジ ー が大 規 模 に 導入 さ れ る こ と を通 し て、 実現 さ れ た と言 え よ う 。 27 鵜 飼 他 編 、2000、p.304、315. 28 実際 、1 9 世 紀 後 半 か ら の 写真 の 普及 は、 観 光 旅 行の 増大 と 密接 に関 わ っ て い た 。. 84.
(15) なお 、パ ノ ラ マ 的 知 覚 に関 して 補 足し て お く と、19 世 紀イ ギ リ ス において 、鉄 道 旅行 と ロンドン 万 博が 連動 し 合っ てパ ノ ラ マ 的 知 覚 を実 現し た の と 同 型 的 な現 象を 、 沖 縄 海 洋 博 にも 見る こ と が で き る 。沖 縄 振 興 開 発 計 画 に お け るイ ン フ ラ 整備 、 特に 大 規 模 な道 路 整 備 が、海洋博 とセ ッ トで 進め ら れ た こ と である 。19 世紀 イ ギ リ スの 鉄 道に 対応 す る の が 、1970 年代 (日 本 復 帰 後) の 沖縄 では 国 道 58 号線 の舗 装と 高 速 道 路の 導 入であり 、 モ ー タ リ ゼ ーション の 徹 底 化で あ っ た (→ 第 2 章 )。 特 に、 那覇 か ら沖 縄 本 島 北 部 へと 本 島を 縦断 す る 58 号線 は、 直 接 的 には 海 洋 博 のために 整 備さ れ た が 、長期的 に は、 西 海 岸 のリ ゾ ー ト 化を 促す こ と に な っ た 。こ の大 規 模な 道路 イ ン フ ラの 導 入は 、バ ス やレ ン タ カ ーに 乗り な がら 西 海 岸 沿い の< 青 い海 >を パ ノ ラ マ的 に 知覚 し て い く、 ( そ し て 時に は絶 好 のポ イ ン ト でカメラ を 取り 出し て シ ャ ッ タ ー を切 る よ う な、)<観 光 の ま な ざ し >の 沖縄 へ の導 入で も あ っ た。 道 路 開 発と モ ー タ リ ゼ ー シ ョ ンに よ る< 速度 > の開 発が 、 沖縄 の風 景 知 覚 と空 間 の あ り方 に 大き な変 容 を迫 り、 美 的リ ア リ テ ィを 組み 込 ん で いっ た のである 。 (5)「見 る− 見 ら れ る」 関 係: <観 客 /風 景> の 分化 と脱-分 化 ここまで 、カメラ の フ ァ イ ン ダ ーが <撮 られる 風景 = 客体 >と < 撮る 観客 = 主体 >を 二 分化 ・抽 象 化す る、 パ ノ ラ マ的 知 覚の 作用 に 照準 を当 て てき た。 しかし 、実 は 写真 の効 用 は そ れ だ け に と ど ま ら ない 。と い う の も、 観 客は 決し て 、< 撮る 主 体> へと 固 定化 さ れ る わけ で は な い。同 時に 、自分自身 が い つ で も < 撮られる 客 体= オ ブ ジ ェ> に も な り う る し 、 出 来 上が っ た後 の< 写 真を 見る 主 体> に も な り う る。 ま た、 撮ら れ る側 も単 に 受 動 的で は なく 、撮 る 側・ 見る 側 に対 して 能動的 な ま な ざ し を注 い で見 つ め て い る 。す な わ ち 、< 写 真の ま な ざ し> の構 造 は よ り複 雑 で あ る。 そ こ で は< 撮 る主 体> < 撮られる 客 体> <写 真 を見 る主 体 >の 三者 の ま な ざ し が 重な り、 交 錯し 合っ て 、重層的 な 「見 る− 見 ら れ る」 関 係を 作り 上 げている の で あ る。 つ ま り、 海 洋 博 会 場 では 、観 客 は風 景に 対 し て距 離を 置 き、 ま な ざ し に お い て 優位 な超 越 的 . .. . . 主体 と な る だ け で は な い。 同時 に 、風 景と 一 体 .. . 化し て 写 真 のオ ブ ジ ェ の側 に回 り 、二 次元 的 に 切り 取ら れ たイ メ ー ジ の世 界に 、 自ら は ま り 込 みもする 。こ れ は 、観 客 と風 景の 脱‑分 化 で あ り 、 先の 両者 の 分化 とは 対照的 で あ る 。す な わ ち 、 海 洋 博の < 写真 の ま な ざ し >で は 、観 客(主 体 ) と風 景( 客体 =オ ブ ジ ェ )の 分化 と脱- 分化 が、相 即 的に な っ て い る の で あ る。誰も がカ メ ラ を 手に す る こ と が 当た り 前 に な り 、カ メ ラ マ ン と モ デ ル の 役 割 性 が固 定 的 で な く 、 脱分化 した 状 況に あ っ て は、 <主 − 客> の分 離 ・距離化 と 一 体 化は 、 も は や二 者 択 一 的で 相 互に 矛盾 す る も の で は な く 、相 即 的であり 、 相 互 補 完 的 な も の と な る。 人々 は 風景 を距 離 化し て見 た り、 そ れ と 一 体 化し た り し て、 風 景を 美的 に 楽し む の で あ る 。 し か も重 要 な の は、こ う し た観 客と 風 景の 距 離 化 と一体化 そ の も の が 、後に 見る よ う に 、 海 洋 博の プ ロ デ ュ ー サ ーた ち に よ っ て か な り 意 図 的・ 再帰的 に演 出 され て い た 効果 だ、 と. 85.
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