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誰が為に金は成る-カジノ資本主義に於る会計-西川

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(1)

‑ 49‑

誰が為に金 は成 る

‑ カジノ資本主義に於る会計 ‑

西 川 萱

目次 は じめに

グロ‑バリゼ‑ション 1.誰の誰 による誰 の為 の世界統一化 ? 2.振子が何故 に資産負債観 の側 に ? 3,透明性 を標模 した主観 的測定方法 の怪 4.人的資源 に対す る会計人の冷淡 ・無 関心 5.会計基準 の複雑化 で誰が幸せ に ?

6.米英型基準 の猿真似が 日本の国益 に沿 う ? お わ りに

は じめ に

尊 とな く卑 とな く 貧 とな く富 とな く 少長 ・男女 ともに 銭財 を憂 う。 ある もの もな きもの も 同然 に して 憂 いの思 いはまさに等 し。 (「無量寿経」三毒段)

金銭 を好 む者 は金銭 を もって満足 しない。富 を好 む ものは富 を得 て満足 しない。 これ もまた空である。 (「伝導 の書」第5 章10節)

アカウンタンツ しゅうち ごと あいだ しゅうれん ないし

会 計 人 に は周 知 の如 く,此 の 数 年 の 間 に会 計 基 準 の世 界 的 な収 欽 化 (conveいきrgeないnce)乃 至 統 一 化 が 急 速 に進 行 して い る。 欧 州 連 合 (EU,EuropaischeUnion,EuropeanUnion)が ,域 内 の上 場 企 業 に 国 際会

計 基 準 ・国 際 財 務 報 告 基 準 の 適 用 を 要 求 す る 様 に な り (狭 義 の 国 際 会 計 基 準‑IAS,International AccountingStandardsとは,1973年設立 の国際会計基準委員会‑IASC,International AccountingStandards Committeeが策定 した基準 をいい,2001年 に改組 されたIASCの後 身の国際会計基準審議会‑IASB,Interna‑ tionalAccountingStandardsBoardが制定す る基準 を国際財務報告基準‑IFRS,htemationalFinancialRe‑

こと

portingStandardsと呼ぶ。IFRSも含 めて国際会計基準 と広義 でい う事 もあ り,逆 に国際財務報告基準 の語 を IASも含 めて広 い意味 で用 い る事 もあ るが,一括 す る場合 はIFRS/IASと略 され る), 国 際 会 計 基 準 審 議 会 (IASB)とア メ リカの財 務 会 計 基 準 審 議会 (FASB,Fiついnancial AccountngSti ndaa rdsBoard)とが ,共 同 プ ロ ジ ェ ク トを設 け て ,個 別 具 体 的 な会 計 問題 に就 て の収 欽 化 を検 討 して い る。 企 業 会 計 の世 界 統 一

き よ うこの ご ろ わず

基 準 の制 定 さえ もが 間近 に迫 って い るか の様 に も感 じ られ る今 日此 頃 ,僅 か7年 前 , ミ レニ ア ム転 換 直 前 ,英 国 の 『タイ ムズ 紙』(TheTzmes)ホ 一ペ ー ジ掲 載 の論 文 に,会 計 基 準 の調 和 化 (harmonization)

いた

の概 念 が細 部 に至 る につ れ て 自国主 義 の壁 に 阻 まれ ,完 壁 な調 和 (harmony)は夢 (dream)だ と記 さ

か くせ い

れ た (Bruce [2000]pp.1‑2,西川登 [2001]223頁参照) 頃 とは隔世 の感 が あ る。

か よ う なにゆえ

21世 紀 に入 っ て会 計 基 準 の 国 際 的 収 敷 化 ・世 界 的統 一 化 が 斯 様 に急 速 に進 展 して い る の は何 故 な

(2)

50 経済貿易研究 研究所年報No.34

のか,米 国の財務会計基準や国際会計基準 ・国際財務報告基準 (IFRS/IAS)では資産負債 中心観 (asset andliabilityview,資産負債アプローチ)が採 られ,

どのよう

られつつある事 の裏 には何様 な意味があるのか,

の れ ん

暖簾 の非償却やブラン ドの資産計上 な どか ら, 自

かかわ つい アカウンタンツ

とりいれ

公正価値 (fairvalue)評価 ≒時価評価が大幅 に取入

ほ く そ え

会計基準の膨大化 ・複雑化で北里笑む者 は誰 なのか, 己創設無形資産のオ ンバ ランス化へ道が開かれつつ

どのあたり

あるに も拘 らず,人的資源 に就 ては会計人が冷淡である理由は何辺 にあるのか,米英型会計基準 に追

ある こしゅう かな い つい

随或いは逆 に日本独 自基準への固執が 日本 の国益 に通 うのか, と云 う諸問題 に就 て本稿 では考察 して

行 So ま

此の試論 (私論)の結論 を先 に示せ ば,先づ,会計基準 の急速 な収欽化 の背景 には,サブプライムごと 問題で顕在化 した如 く 「危機が瞬時に広 まるグローバ ル経済の性質 を浮 き彫 りにす る」様 な 「国際資 本取引の拡大」 (竹森 [2007]①)を指摘す る事が出来 る

もた ら

次に

,

「国際資本取引の拡大」 に因て斎 された 「カジノ資本主義」 (Strange[198札 小林訳 [2005]) が投資家 を短期志向の投機屋 に変 え,

投資銀行等の金融業者 に奉仕す るかの

IとnHL̲1.Jq M&A業務,資産運用業務 に注力」 (三和 [2005]156頁)す るかつ くに,会計基準が嘗ての動態論 (dynamischeBilanztheorie)

損益計算書重視か ら資産負債 中心観 ‑貸借対照表重視 に移行 した過程が見て取れる

そ し かつ ご み ば こ

而て,貸借対照表 を曾て護美箱化 した動態論 ‑収益費用 中心観 (revenueandexpenseview,収益費

かたむ

用アプローチ)が原価主義 に傾 くの とは正 に反対 に,資産負債 中心観が公正価値評価 の拡大 を助長す

ある しか しながら わ りぴき

るのは或意味当然 と言 えるであろう。併乍,公正価値使用 の中で も割引現在価値計算 の大幅な増大 は,はら 貸借対照表 に財産価値の表示 を求める以上の問題 を率 んでいると考 え られる。

さら

更 に

,

「企業価値 の決定因子や競争力の源泉が有形資産か ら無形資産へ と大 き く変化」 (伊藤 [2006]

1頁) してい る中で貸借対照表が重視 されれば, 無形 資産 (intangibles,intangibleassets)のオ ンバ ラ

な りゆ き しか

ンス化が会計上の重要問題 となるのは, 自然の成行 とも言 える。然 るに,同 じ無形資産の内, ブラン

それ これ

ドに対す る会計基準設定の議論 と人的資源 との某 との間には大 きな温度差が感 じられる。此 は, "会

イ デ オ ロ ギ

社 は株主の もの" と云 う観念形態 (ideology)が現行会計基準 を貫 いてい る事 と無縁 では無い と思わ れる。

其 に関連 して,時価評価や無形資産計上 と云 った主観的要素が増大すれば,逆 に企業の会計行為 の

しい たてまえ ため

窓意性 を排除す ると云 う建前 (な プリンシプル,prしか inciple)の為 に,社会規範 としての会計基準 は詳細 に 成 らざるを得 ないのか も知れない。併 し,会計基準 の量よっ (quantitいy)の増大 と計算方法 の高度化 と云

う質 (quality)の "向上" とに由て幸せ になれる人間は限 られて居 るだろう。

最後の点 として,今や主要各国 ・各地域の 「会計制度設計 は,会計基準の コンバ ージェンス との関 連 を抜 きに しては語 りえない」 (藤井 [2007]200頁,原文中の注記は省略)中で

,

「国際社会 で形成 さ れた行動規範に従 って協調的に行動 した方が相対的に良好 な結果が期待で きる」 (藤井 [2007]209頁)

いろいろ あ り え

に した と して も,英米型 ルールの受容 には色色 な方法 が有得 る 企業会計基準 委員会 (ASBJ,Ac‑

など これまで

countingStandardsBoadofJapan)等の 日本の是迄の戦略 (無戦略 ?)的対応 は,私 ‑西川の 目には最 悪の棟 に思われる

これ ら こと それぞれ

此等の諸点について,以下,各 問題毎 に其 々節 を設けて論 じて行 く事 に したい。

グ ローJくリゼーション

1.誰の誰 に依 る誰の為の世界統一化 ?

グローバ リゼーションとは,新 しいキーワー ドとして登場 し たとはいえ,世界史を振 り返るなら,同じことは何度となく 繰 り返されてきたことであって, しょせん強大国の経済の論 理と言語の論理と文化のスタイルが弱小国のそれらを制圧 し

(3)

誰が為 に金 は成 る ‑ 51‑

てい くのを正当化する論理に過 ぎない。 (柳田 [2005]122, 123頁)

しゅうれん

会計基準 の国際的 な収敷化 (血亡ernationalconvergenceofaccoun血gstandards)とは,会 計 にお ける

なお

グ ローバ リゼ ー シ ョンことながら (globalization,世界規模化 世界統一化) と言 い直 す事 が 出来 るだ ろ う。 当然なかんづ く

の事乍 ,会計の グローバ リゼーシ ョンは,経済 の グローバ リゼー シ ョン,就 中,金融 の グ ローバ リゼ ーとら シ ョンの一環 と捉 える事が可能であ るつい なお会計基準 の収敷化 を検討 す る前 に,本節 で は金融 グローバ リ ゼー シ ョンに就 て考察 して行 きたい。猶 ,筆者 ‑西

は国際経済 ・国際金融 の専 門家 で はないので, 以下 の叙 述で は国際経済 ・金融 関連 の文献 か らの引用 を多用す る事 を断 ってお く。

さて そのもの

扱 , グローバ リゼ ーシ ョン其物 は決 して 目新 しい現象 で は無 く, 例 えば, チ ンギス ・ハ ンに依 る領

ところ あるしゅ

土拡大 は,ユ ー ラシア大 陸の途上で留 まった ものの,其 の 目指 した処 は或種 の グ ローバ リゼー シ ョン

と見倣 す事 が 出来 る し (堺屋 [2007]), イスパ ニ ア (西班牙)・ポル トガル (葡香牙)が主導 した大航

こうよう

海時代(theageofEuropeanvoyaいくgesof血scovery)も一種 の グ ローバ リゼーシ ョン高揚期 と捉 え られる。

資本主義 の時代 に入 ってか らも幾つかの グローバ リゼー シ ョンの波が あ った。例 えば,紺井博別 は次 の様 に述べ てい る。

世界資本主義の発展段階にそって,幾つかのグローバ リゼーシ ョンの高進時期 を共通に貫いているも のは,中心国 (覇権国)の国益 にそったシステム‑ 貿易の条件,国際的な貨幣制度 を前提 とした国際 通貨 システムや国際金融システムなど‑ が残余の世界に対 して好むと好 まざるとを問わず,まさに「ス タンダー ド」 として受容 されてい く過程 を,「グローバル化」あるいは 「グローバ リゼーシ ョン」 と形容 していることになる,といってよいだろう。 (紺井 [2003]11頁。 ( )内やダッシュ

,

「」 も原文のマ マ。以下,同 じ)

しかしながら き わ だ

併乍 ,現在進行 中の グローバ リゼーシ ョンには,際立 った金融 主導 と云 う特質が あ る。 同 じく,紺 井 の言葉 を引用す る。

金融のグローバ リゼーシ ョンこそが,現代のグローバ リゼーシ ョンの もっとも特徴的な構成要素であ り,同時に,過去のグローバ リゼーシ ョンか ら区別 して

,

「現在」のそれを論 じるさいの最大の根拠 をな していると見ることができよう。 (紺井 [2003]5頁)

八〇年代以降に典型的になった今 日のグローバ リゼーシ ョンは,文字通 り資本の地球規模での競争戦 のなかで,先進諸国の多国籍企業による直接投資は,第‑に,変動為替相場の移行に伴 って,為替 リス ク回避のために生産拠点を移動するという利潤確保動機 (外国貿易 による超過利潤取得の制約の打開), また第二に,巨額の新規設備投資資金 を節約するための先進諸国間でのクロスボーダー型M&A (合併 ・ 買収)の活発イヒとい う全 く新 しい特徴 を備 えている。 (紺井 [2003]16頁)

さらに八〇年代, とくに後半になるとアングロ ・サクソン的 「金融革命」の波及に見 られるように かいり

金融のグローバ リゼーションが経済のグローバ リゼーシ ョンの展開か ら乗離 し, 自立的に進む段階に入 る。多国籍銀行が狭義の商業銀行業務 とは別に, 自らが抱 える貸付可能な貨幣資本 を様 々な金融資産形 態で運用する場 として,さらには多国籍企業の側で も,銀行借入以外の資金調達 ・資金運用 を行 う場 と しての金融市場を通 じた金融取引のグローバル化の進展が見 られるようになる。 (紺井 [2003]18頁。ル ビは引用者 ‑西川が付加)

実物経済の拡張規模 をはるかに超 えて,金融市場の規模の拡大 と金融資産の累積が進行 していること は,幾つかの指標によって も確認で きる。(紺井 [2003]20頁)

しこうし こ すで

而 て,此 の金融 グローバ リゼー シ ョンは,スーザ ン ・ス トレンジ (SusanStrange)が既 に20年前 に かっぱ ごと

喝破 した如 くに 「カジ ノ資本主義」 と化 してい る

西側世界の金融システムは急速に巨大なカジノ以外の何物でもな くな りつつある。(Strange[1986]p.1,

(4)

‑ 52 経済貿易研究 研究所年報No.34

小林訳 [2005]2頁)

自由に出入 りがで きるふつ うのカジノと,金融 中枢 の世界的カジノとの間の大 きな違いは,後者では 我々のすべてが心 な らず もその 日のゲームに巻 き込 まれていることである。(Strange[1986]p.2,小林 訳 [2005]3頁)

新 しいギャンブル ・ゲームを工夫す るディーラーの才能が規制当局 より先 に進 んでいったの と同 じよ うに,銀行 とファイナ ンスの技術 も進 んでいった。 これは二つの方法でなされた。一つは機械の発達で ある。機械 は金融取引 を行 う過程 を,金利支払いを年や月, 日あた りではな く秒単位で計算す ることが まもな く必要 になるであろう点 にまでス ピー ド・ア ップ した。(Strange[1986]p.54,小林訳 [2005] 75,76頁)

技術が規制当局 よ り先 に進んでいる もうひとつの点は,非銀行 による銀行業の発展である。(Strange [1986]p.54,小林訳 [2005]76頁)

庇 の金融 グ ローバ リゼ ー シ ョン

「カジ ノ資本 主義」化 を主導 してい る国が ,基軸 通貨 国 た るアメほか ことば リカ (亜米利加)合 衆 (州)国 (UnitedStatesofAmerica)に他 な ら無 い。再 びス トレンジの言葉 を引 用 す る

貨幣 と金融 に対す る力 は諸政府の間に非常 に非対称的に配分 されてお り,アメ リカが他の どの国 より もハ ツキ リと上位 に立 っている。(Strange[1986]p,62,小林訳 [2005]86頁)

したがって,主要銀行 と金融機関の行動 に影響 を及ぼ し,そ して主要信用市場 を統治す る規則 を制定 する立場 にある唯一の権力はアメ リカの権力だけなのである。(Strange[1986]p.165,小林訳 [2005] 238頁)

売 り手 と買い手,債権者 と債務者,商社 と銀行が他のいかなる通貨 よ りも, ‑ ドル建 ての取引 を選 好するのを誰 も抑 えられないので,アメリカは,羨むには足 らか 、が,特殊 な立場 を占めている.(Strange

[1986]p.165,小林訳 [2005]238,239頁)

アメリカだけが システムを統治す る政治的可能性 をもっている第二の理由は,最大の, もっとも革新 的な,もっとも活発 な金融市場が存在するか らである。(Strange[1986]p.165,小林訳 [2005]239頁) アメ リカにはアメリカが気 に入 ることを行 うことを許すが,他 の国々は言 われた ことを行 え とい う

。(Strange[1986]p.153,小林訳 [2005]222頁) ア メ リカ合 州 国 は,金融 グ ローバ リゼ ー シ ョンの展 開段 階 に入 る1980年代 か ら,20世 紀 末 の一 時

ふ た こ ながら

的 な財 政収支 の黒 字期 間 を除 き.双 子 の赤 字さら (Doubledeficit,Twinde丘cit)状 態 を続 け乍 も,金融 覇 権 を拡大 し続 けてい る。更 にス トレンジの言葉 を引用 す る

しか し,実際 には,アメ リカは金利 を引 き上 げ,巨額の貿易赤字 を埋めるのに充分 な外国資本 を引 き つけることがで き,通常の経済理論 を無視 で きるのである。 この点は国際通貨 システムに内在す る経済 的 自立性の非対称性の問題に突 き当たる。言い換 えれば,いかなる政党で もアメリカの政治家は,ヨーロッ パや 日本 によるアメ リカの経済的片務主義 に対す る不満 に注意 を向けそ うにないのであ る。(Strange

[1986]p.ふえ152,

小林訳 た め

[2005]220頁)

此 の点 を敷術 す る為 に板 木雅 彦 の分析 結 果 を以下 に引用 す る

第一 に,先進資本主義八 カ国か ら流 出する資本輸 出は全体 として,国内の過剰 資本 によってかな りの 程度説明で きること

第二 に,その過剰資本の流入形態 を残高でみると,債券投資が圧倒的であること

第三 に,アメリカは全体 として資本不足であるに もかかわ らず, こうして流入 して きた資本 を直接投 資に集 中的に流入 させ ることで ピンポイ ン ト的な資本過剰 を生み出 し,M&Aを中心 とす る海外展 開の ためのネ ッ トでの資金源泉 としていること。

第四に,アメリカ直接投資,とくにその株式資本部分 は,国内の民間租 固定資本形成 と逆相 関 しなが ら,

(5)

誰が為 に金 は成 る ‑ 53‑

この過剰資本 をネッ トで流出入 させていること。そ して,この傾 向は一九九〇年代 に一段 と高 まったこと。

この両者が,統計的にかな りの優位性 をもって主張 しうる

第五 に,アメ リカ直接投資のグロス としての利益再投資部分 は,投資先国の利益水準 ときわめて高い 正の相関関係 にあること。 しか し,株式資本や債権 は,む しろ負の相関関係が疑われること。

(板木 [2003]46頁)

さら このてん

更 に此 点 に関連 して

,

「情報 の経 済学 」 を築 い た功績 で ノーベ ル経 済学 賞 を受賞 した ジ ョセ フ ・E・

ス テ イグ リッツ (JosephE.Stiglitz)の 「アメ リカ経 済 の不 安 定 な先行 き」 に関す る警鐘 の極 く一部 を 次 に紹 介 す る。

‑‑わた しが懸念す るのは,アメ リカが1日に20億 ドルか ら30億 ドル とい う莫大 な金 を貧 しい国か ら 借 りているとい う一事だ。 (ステイグリッツ著,稔井訳い [2006] 日本語版序文15頁)

アメ リカに対 抗 す る為 に統合 が進展 した と も謂 われ るEU も,米 国主導 の 「カジ ノ資本 主義」化 の

すべ な み う け

進行 に為 す術 無 しかの様 に見受 られ る。星 野郁 は次 の様 に述べ てい る

九〇年代の拡大局面か らの転換,株式 を中心 とする資産価格 の著 しい乱高下,経常収支の不均衡や財 政赤字の増加,不安定化する金融 システム と, リス クを挙 げれば切 りがない。その ような状況の中で, EUの政策当局は,グローバルな金融 フローやグローバ リゼーシ ョンによって高 まる競争圧力 を意識的に コン トロールするのではな く, ます ます市場至上主義的な トレン ドと気 ま ぐれで移 ろいやすい金融市堤 による規律 と調整 に身を委ねようとしているように見 える。 (星野 [2003]156頁)

競争力の強化 と社会的連帯の両立 を掲 げ,国際通貨 ・金融 システムの領域で も現行のアメ リカ支配 に 代 わる体制の構築 を目指 していたはずのEUが,何故そ うした 目標 の追求 をよ り困難 に しかねない市場 諸力 に調整 を委ねようとするのか。その理由は,すでに述べたように,EUの経済 ・通貨統合戦略 自身が,

グローバ リゼーシ ョンの推進力 となっている市場諸力, とりわけ金融市場の力 に依拠 して きた結果 に他 ならない。 (星野 [2003]157頁)

かつ こ こ ん よう とうぎい

曾 て少年少女 達 を魅 了 したス ター ・ウ ォーズ な どの 冒険活劇 物語 で は,古今 ・洋 の東 西 を問 わず ,

も く ろ きま

主 人公 の対 抗勢 力 と して世界 の武力 制 覇 を 目論 む悪 の集 団が登 場 す るのが , お 走 りで あ った。 ブ ッ シュ

,J

r.(GeorgeWalkerBush)政権 下 の ア メ リカは,石 油利 権 を求 め て嘘 で塗 り固めた 口実 を設 け て イ ラク政権 を武力転 覆 させ た政策 に典型 的 に示 され てい る様 に,武力 と経 済力 とで世界 制覇 を 目指

おび

す悪 の帝 国の様相 を帯 てい る と感 じるの は,私 だけで はないであ ろ う

2.振子 が何 故 に資産 負債観 の側 に ?

この時期 とほかの時期 との決定的な違いは,株主価値 とい う 信条にある。 ‑‑九〇年代 には,この信条が様 々に姿 を変え て社会全体 に浸透 した。その過程で言葉の意味は歪め られ, 長い年月をかけて企業価値 を向上 させ ることではな く, 目先 の株価 を吊 り上げるとい う,はるかに剃那的な事柄 を意味す るようになった。(Lowenstein[2004]p.218,鬼沢 [2005] 283頁)

‑複 式簿記 は,6桁 精算 表 に典型 的 に示 され る其 の計算構 造上 ,損益 計算書 を重視 す れ ば貸借対 照表

こ み ば こ

護 美箱化 し,逆 に,貸借対 照表 を重視 す れ ば損益 計算 書 が歪 まざる を得 ない。複 式簿記 生誕 以 来 の 会計 の長 い歴 史 を見 れ ば,会 計実務 や会 計 制度 で, 貸借 対 照表 を重視 す るか,損益 計算 書 を重視 す る

よっ ふ り こ ゆれ ど ち ら

か は,其 の時 々の経営上 や法律 上 の要 請 に因て,振 子 が揺 て きた。貸借 対 照表 と損益 計算 の何 方 を重 視 す るか と云 う問題 と,原価 評価 にす るか時価 評価 にす るか の問題 との間 には直接 的 な関係 は無 い。

(6)

‑ 54

経済貿易研究 研究所年報 No34 ほぼ

複式簿記生誕以来,会計実務 の主流 は,略一貫 して原価評価であった と言 えよう。制度的な強制無 し

に,企業が 自発的に時価評価 を行 うのは,低価評価 の場合 を除 き,特定の経営 目的に添 った会計政策

は とん

に基づ く場合が殆 どであった と考 え られる。 (西川登 [2001],渡連 [2005,2006]参照)

さて もち

扱,数世紀 以上 に及ぶ会計 の歴 史の中で,20世紀後半以後 の企業会計 を先導 ・主導 したのは,勿

ろん おけ

請,アメ リカ合衆国の会計である。 アメ リカに於 る企業会計制度 を 「なによ りも一つの公 開制度 とみ る場合」,前の世紀転換期即 ち19世紀末か ら20世紀初 めの

「トラス ト問題」に対す る救済策 として提 起 された端緒的な公 開制のなかにこそ,‑‑・∵本質的な特徴が,た とえ萌芽的にではあれ,すでに内包 されていた」 (津守 [2002]3‑4頁)のではあるが

,

「現行企業会計制度 の主要 な基礎 を据 えた」 も のは

,

「公開をその 「礎石」とす る証券二法 (1933年証券法・1934年証券取引所法)の成立 にほかな らな い」 (津守 [2002]64,63頁。( )内の割注 と「」も原文のママ)のである。

よっ

庇の証券二法 に拠 て基盤が確立 した米 国財務諸表 開示 (disclosure,ディスクロージャー)制度 は,

いたるまで ひようぼ

現在 に至迄常 に変 わることな く

,

「投 資家のための会計」 を標模 し,投 資家等 の意思決定 に資す る事もし ないし を最大 目的 として きた と言 えるであろ う。然 るに,その概念構成若 くは思考体系乃至基本理念よ (con‑

ceptualframework)は財務会計審議会(FASB)に依 る『財務会計諸概念 に関す るステー トメ ン ト』(SFAC, StatementofFinancialAccountingCo77Cebts)第 1号 (1978年)〜第6号 (1985年)の公表以前 と以後 と

さまがわ

では,大 きく様変 りしている。

証券二法成立直後 の財務諸表開示制度確立期 には,Paton

&

Littleton[1940] に典型的に示 されて

いる様 に,客観性の保証 と収益費用対応 に拠 る期間損益計算の適切性 とか ら,徹底 した原価主義 ・実

これ

現主義が主張 された。是 は

,

会計 は本質的に評価 の過程 ではな く,当期 お よび時期以降の会計期 間 へ の歴 史 的原価 お よび収益 の配分 であ る」 と云 う1936年AAA 『株 式会社 報 告諸表原則 試案』 (A TentativeStatementofAccoamtingPrinclblesAjfectingCorporateRepoyts)で示 された会計思考の展 開で

すなわ

あると言われる。即 ち,動態論 に基づ く 「損益計算書 中心主義的利益概念」が確立 されていたのであ る。 (津守 [2002]171‑173頁)

しか

併 し,1957年のAAA 『株式会社財務諸表会計 ・報告基準』 (AccountingandReportingStandardsfor

おい

corporateFinancialStatements)に於 て 「潜在用益」 (service‑potentialS)概念 に拠 る新 たな資産概念が

まん えん

定義 された。而 て,1960年代 の コングロマ リッ ト合併 に於 る極端 な会計操作 の蔓延 に対す る社会 的 批判 を背景 に,会計原則審議会 (APB,AccountingPrinciplesBoard)が1970年 に 「貸借対照表中心主 義的利益概念」と言 える様 な利益概念 を 『営利企業財務諸表の土台 をなす基礎概念 と会計原則』(Basic conceptandAccountingPrinciplesUnderlyingFinacialStatementsofBusinessE7derPrises)の中で提示 した。

1973年設立のFASBは

,

「概念 フレームワーク」 を巡 って 「資産 ・負債 中心的利益観」 と 「収益 ・費 用 中心的利益観」 を巡 る活発 な討論 を行 った (津守 [2002]179‑187頁)。

そうし ぐんばい

而て, 上記のSFACsの完成 を通 じて,資産負債 中心観 に拠 る利益概念 に軍配 を挙 げ,貸借対照表

お ち つ いた

重視 に落着 くに至 った。平松一夫 ・広瀬義州 に依れば,「ある論者 は, この 「概念構造」プロジェク ト こそ

,

会計思想における革命」である と論評」 していると言 う (平松 ・広瀬 [2002]6頁

。「

」 も原文 のママ)。

それ

其では,何故,斯様 な損益計算書重視か ら貸借対照表重視‑の 「革命」的転換が行 われたのであろ うか。 単 純 化 して言 え ば,1930年 代 の財 務 開示 制 度 確 立 期 の米 国 で は,"仇echiefbusinessof Americanpeopleisbusiness" (CalvinCoolidge)であ り,産業資本 に価値創造力が大 きか ったので,

かな しか

産業資本の利害 に沿 う様 な "証券市場保護"が米国の国益 に適 っていた。併 し,現代では米国内での

お とろ うりかい

産業資本の価値創造力が衰 え,企業 自体 の売買で利益 を挙 げ,世界 中か ら富 を収奪す る (それ自体は

むか

価値を生み出さない)金融資本の利害 に合 う "資本市場保護"へ向 う様 になった, と考 え られ る。産

(7)

誰が為に金は成 る ‑ 55‑

業 資本 とその経営者 に とっては,長期 的収益力 を示す損益計算書が重要であ るが,金融資本 とファン ド ・マネージ ャーに とっては,現在 の資産価値 を示す様 な貸借対照表が重要である。

ところ このころ

処 で,上述 の様 にAPBがいま 1970年 に貸借対照表 中心主義的利益概念 を提示 した とはい え,此 頃の実 務 で は末 だ期 間損益 計算重視 の会計が主流 であ った と考 え られ る。実際,APBが設定す る個個 の会 計基準 は,収益費用 中心観 に基づ くと思われる ものが ピース ミール的に設定 されるのが,通例 であっ

すなわ

た と言 えよう。即ち,「生産 ・流通 に密着 した取得原価 主義 の本質的 な箪 固 さは,1970年代後半 にお けるFASB『討議資料』をめ ぐる米 国経済 の意見表明 によって改 めて具体 的 に実証 された」(ただし おけ 津守[1995] 15頁)のである。但,1970年代後半の石油 ・ガス会計 に於 る成功原価法 (じsゃっきuccessfule放)rtmethod)と 全部原価法 (full‑costmethod)の選択 とい う様 な,大 きな社会 ・政治問題 を惹起する会計基準の設定は,

ゆだ

議会‑証券取引委員会 (SEC,SecurityExcもっとhangeCommittee)‑ FASBと云 う政治 的決定 に委ね られる 結果 となった (大石 [2000]70‑76頁)。尤 も,SFACsの公表後 も,企業結合会計 の様 な大 問題 に関 し

つい かわ

ての最終決着が政治的決定 に委 ね られ る結果 となる点 に就 ては,昔 も今 も変 りない と言 えるのか も知 れない。

少 し会計問題か ら離れて見 る と,現代 のアメ リカでは中学生 で も 「投 資 クラブで将来のマーケ ッ ト の魔術 師がせ っせ と養成 さjtてい る」の に対 し

,

「七〇年代 のアイ ビー リー グのキ ャンパスでは,四 年 間を通 じて株 式市場の話 など一度 も聞か なか った」と言 われ る(Lowenstein[2004]p.2,鬼揮訳[2005] 10頁)0

しか ようそう ぜんぜん

併 し,1970年代 後半 にな る と,金融市場 の様相 は変 り始 め る。 アメ リカの金融市場 を,前前世紀つい 8fんせつ

末以降か ら主導 して きた米 国投 資銀行 の業務行動 の変化 に就 て,三和裕美子 の次の言説 を紹介 したい。

投資銀行の主要な業務には

,M&A

業務,引受業務,証券売買仲介業務,自己売買業務,資産運用業 務があるが,その中で最 も収益性が高いのが

M&A

業務 と引受業務である。機関投資家のパ フォーマ ン ス追求競争が激 しく展開される1970年代 までは,投資銀行にとって機関投資家は証券売買仲介業務にお ける手数料収入源であった。 しか し,70年代半ば以降 株式売買手数料 自由化の影響 を受けて,証券売 買仲介業務の手数料収入が低下 してい く中で,投資銀行は, 自己勘定での取引や

M&A

業務,資産運用 業務に注力 していった。(など 三和 [2005]156頁)

又,年金基金等 の機 関投 資家 の有す る資金量 の増大 も金融市場 の性格 を変容 させ る大 きな要 因 とな

ようそう だんだん

り,1980年代 になると様相 は現代 に段段似 て くる。 『カジノ資本主義』 の著者 ス トレンジは,当時の FinancialTimesの次の様 な記事 を引用 してい る。

「金融市場ではどこでも変動がずっと激 しくなってきている。ファンド・マネージャーは,長期的資産 を運用する者でさえ,短期的パフォーマンスにますます とらわれている。・‑‑今 日では,買 って じっと 長期に保有する方針は明らかに過去のものとみなされる (FinancialTimes)。」(Strange[1986]p.115, 小林訳 [2005]163頁)

多 くの論者が指摘す る様 に (例えば,岩井 [2003][2005a],奥村 [2005a]),機 関投 資家が 中心 となっ

なりやす

た会社支配では,投機 的に成易 く,短期 的利益 を求め る傾 向が顕著 となる機 関投 資家 には短期志 向の ものばか りで な く

,

「長期指向機 関投 資家」 も存在す る ものの,資本市場 は短期利益 に対 して効率 的 に働 くと言 われる (高寺 [2007a]135,136頁)0

年金基金 とその他のマネー ・マネージャーに関する1990年代初めの調査によれば,その900/Oが,使用 する外部のマネー ・マネージャーの成果を少な くとも四半期 ごとに見直 している。また半年ごとに見直 すのは5.6%であ り,1年間様子をみる機関投資家はわずかに3%に過 ぎなかった。(渡部 [2005]180頁)

これ ら ことがら だけ すべ

此等 の事柄 は金融業者 ・機関投 資家丈の問題で はな く,巨大企業総 ての資金運用 に関 して,多 かれ

あてはま

少 なかれ当散 る と言 えるだろう。鈴木芳徳 は次の様 に述べ てい る。

(8)

‑ 56‑ 経済貿易研究 研 究所年報No.34

現代の大規模な株式会社企業は,膨大な内部資金 を抱え,その本来の事業領域に関わ りな く,ここに 「金 融主体化」 し 「投資主体化」 しつつある。

こうして現代株式会社は,あたか も投資ファンドのごときものに転成する兆 しを見せる。(鈴木[2007b]

42頁

。 「

」 も原文のママ)とりい

時価評価 を大幅 に取入 れた貸借対照表 を重視 す る現代 の米英型会計基準 (FASB基準やIAS/IFRS等)

そ うび ょう きんせ んもうじゃ し こ う やん わぎ

は,万年繰病 の金銭亡者 に主導 (誤導 ?) されて,短期志 向 ・投機噂好 に病 だ金融市場 の成せ る業 と

ど こ お か し

見 る私の考 え方 は,何処 か可笑いであろ うか。

3.透明性 を標模 した主観 的測定方法の怪

‑‑一見 したところ正確 にみえるなんらかの公式を使って計 算 されるが,それには,相当額の,また予見を許さぬ誤差が つ きまとい,任意に行いうる訂正や前提を含んだ りしていて, 推計額が実は非常におおざっぱ‑‑‑(Samuelson[1980]p.116, 都留訳 [1981]134頁)

貸借対照表重視 で時価評価 を大幅 に導入す る現行 の米英型会計基準 の設定推進者達 は

,

「透 明性」

ひ ようぼ う か れ ら た ち ば

を標模す る。会計 は組織 の経済実態 を忠実 に反映すべ きである と云 うのが彼等 の立場であ る。其処 で,

「透明性」 とい う概念が財務報告 において意味 を もつの は, なにが 「経済実態」であ るかが理論 的 に 既 に明 らかであることを前提 として, なにか不透明 な存在が財務報告 の邪魔 を しているような場合」

(樺連 [2005]119頁

」 も原文のママ) と考 え られ る。時価 評価論者 に由れ ば,損益 計算 書重視 の

原価評価 ・じゃま発生 (実現)基準 の会計で は,収益 ・い 費用 の期 間帰属 を変 える事 に因る利益 の操作性がしか おけ

,

「透 明性」 を邪魔す る障害物 と謂 う事 になるのだろ う。併 し,原価 ・実現会計 に於 る利益計算 の窓意性 は,

す ぎ しゃ しょう

単 に期 間帰属 を変 える過ず (其 自体大問題ではあるが),金利 や時間価値 を捨象す れば,全体利益 (To‑

これ どのよう よつ

talgewinn)しいが変化す るわけではない此 に対 し,時価会計では,何様 な時価 を選択す るか に拠 て,刺 はず つ い

益 の額 は窓意的 に大 き く変 える事 が 出来 る。「透 明性」 の前提 であ る筈 の 「経済実態」 に就 ては,理

きわめ あいまい

論 的 に極 て暖味である而巳な らず

,

「会計基準設定主体 が実証研 究の提示す る経験 的な証拠 を無視すたと る傾 向」 (徳賀 [2006]64頁)が見 られ る。例 えば,IASBは,原価 ・実現基準 の純利益 を非開示 に して, 評価益等 を含 む包括利益 ‑の1本化 を主張 してい るが

,

「多 くの実証研 究が,包括利益情報 やその他 の包括利益情報 よ りも純利益 の レリバ ンスの方が相対 的 に高い とい う経験 的な証拠 を提示 している

(徳賀 [かえ2006]64頁) と言 われ る。客観 的で且 レリバ ンス (relevance,関連性 プ リンシプル,適切 さ,安当性)の高いす くな

原価 に代 て,主観 的な時価 を採用す る事 の真 の理 由 を

,

「透 明性 」 と謂 う建前 で理解す る事 は,少 く とも私 には困難であ る。

さて こ こ ましる

扱,此処迄 =時価" と書 いて来たが,正 しくは公正価値 (fairvalue)と記す可 きなのか も知 れ ない。

公正価値 は難解 な概念 で,FASBに依 ば,公正価値 とは 「独立 した当事者 間による競売 または清算 に よる処分以外 の現在 の取引 において,資産 (または負債)の購入 (または負担)または売却 (または弁済) を行 う場合 の価額」 (FASB [2000]GlossaryofTerms,平松 ・広瀬訳 [2002]420頁)であ り

,

「現金 ま たは現金 同等物 の金額 (歴史的原価 または実際現金受領額)は,反証が ない限 り,公正価値 の近似値 で ある と考 え られ る。現在原価 お よび現在市場価値 は,いずれ も公正価値 の定義 にあてはまる」 (しこうし FASB [2000]par.7,平松 ・広瀬訳 [2002]424頁)。而 て

,

「現在価値 は資産 または負債 のなん らかの客観 的属 性 を表現す る もので なけ らばな らない」が,「その ような属性 を公正価値 とみ な してい る」 のであ る (FASB [2000]par.22,平松 ・広瀬訳 [2002]430頁)。要す るに公正価値 とな る時価 と して は,売却可

(9)

誰 が為 に金 は成 る ‑ 57‑

能価格 ,再調達価格 ,及 び 「客観 的属性」 と云 う限定条件付 の現在価値 の3つが考 え られ よう

上場有価証券 の様 な金融商品であれば,売却可能価格 と再調達価格 の市場価値 は同一 と言 えるが (其

むし か よ う ざい

とても現実の取引価格 となると大 きな問題がある。田中 [2003]57‑74頁参照),寧 ろ斯様 な財 の方が少数 であ ろ う。極端 な例 を挙 げれば, 中古 レコー ド ・シ ョップに行 くと再調達価格 が売却可 能価格 の10

い か よ う

倍以上 に達す る事 も珍 しくないな 。 1物4価 とも5価 とも謂 われ る土地の時価 は,如何様 に測定すればさら 客観 的 に適正 な金額数値 に成 るのだ ろ うか (田中 [2002]194‑221頁参照)。更 に問題が多 いのが現在 価値 である

しゅうち す ぎ

周知 の様 に,割引現在価値計算 では,分子 も分母 も推計値 に過 ない (主観性 を主観性で割るからと云っ

たと わず

て,主観性が減 じる訳ではない)。例 えば, 割引率 を僅 か に操作 す るだけで,年金負債又 は年金 資産の

したが ひ ある かよう なが

金額数値 (従って,年金費用曳いては利益或いは損失の金額数値)は大 き く変動す る。斯様 な理 由か ら長 ら く,現在価値 は 「将来 キ ャッシュフローの予測や割引率 の選択 にあた り主観 的 (変動的)要素が介 入 し,客観性 や確 実性が重視 され る財務報告 には馴染 まない と考 え られて きた」(しかしな

ら 角ケ谷 [2006]106頁。

( )内の割注 も原文のママ)のである。併乍

,

「アメ リカの財務会計基準審議会 (FASB)のイニシ ァテ イ ヴの下 で在 ロ ン ドンの国際会計基準審議会 (IASB)が ドライヴ ァ‑の役 割 を分担す る形 で, ‑・公

フレツシュ.スタ‑ト

正価値 (新 出 発 )会計へ のシステム転換 がか な り強引 に ‑ 多様 な抵抗 を排 除 しなが ら‑ 推 し

そ し

進 め られ」 (高寺 [2003]175頁。ルビや ( )内 も原文のママ)て きた。而 て,現在価値 が財務報告 に 導入 され る様 に成 った初期 的段 階では

,

「現在価値 の適用 を主 として貨幣項 目に限定 して きたが」,今 で は 「実物 資産や非貨 幣項 目にまで拡大す る こ とが意 図 されてい る」 (角 ヶ谷 [2006]115頁) と言 わ れ る。現在価値 を加 えた 「現代 的公正価値会計」 は

,

「評価 モデルの機会 主義的利用 を通 じて,歴 史 的公正価値会計 とは異 なった タイプの裁量 的利益管理が可 能であ る」 (高寺 ・草野 [2004]258頁)ば か りでな く, 「不安定 な期待 にそって利益 の変動が顕著 となる」 (高寺 ・草野 [2004]259頁) と考 え ら

しかのみな らず

れ る 加 以

,

「公正価値測定の制度化 に要す る費用 は相 当な金額 に達す るのに,そ こか ら教授 で きる

か よ う

便益 は決め手 を欠 き,推定 は至難のわざ」 (高寺 [2007b]237頁) と思 われ る。其 に も拘 らず,斯様 な

もた ら な ぜ

「公正価値会計 の台頭 と原価主義会計 の後退」(角ケ谷[2ま006]114頁)が斎 さjtたのは何故 なのだろうか。

此の問題 に関す る識者 の見解 を以下 に見 て行 こう。先づ,熊谷重勝 の言 を引用す る

よく指摘 されるとお り,DCF 〔discountedcash且ow。将来キャッシュフローの割引現在価値〕は,企 業合併 ・買収 ・分割 (M&A&D)あるいは売却の際の指標 として利用 されてきた。あたか も会社その も のが商品として売買 されるM&A&Dでは,相手企業の将来キャッシュ ・インフローが企業評価指標 とさ れてきた。(熊谷 [2005]114頁。〔〕内は引用者 ‑西川が挿入)

す ぎ

此 の段 階で は,現在価値 は戟略的計画 (strategiついcplanning)‑管理会計 の領域 で利用 されてい るに過 ない。現在価値 の制度会計 ⊆財務会計での利用 に就 て,高寺貞男 ・草野真樹 は次の様 に述べ てい る。

1990年 (FAS106)〔財務会計基準書第106号 『年金以外の退職手当に関する従業員会計』‑FASB, StatementofFinancialAccountingStandardsNo.106:EmployersAccountingforPostretirement BenejitsOtherthanPensions,1990〕以降,市場価値に経営者の推定による割引現在価値を追加 して公正 価値の概念が拡大 されるとともに,さらに外部取引のみならず,内部取引にも適用するために,その適 用範囲が拡大 されている (原註 :市場価値に経営者の推定による割引現在価値 を加 えた広義の公正価値 の概念は,財務会計審議会が1977年6月に発表 した財務会計基準書第15号 『回収困難な債務の条件変更 (リス トラクチュアリング)に関する債務者 と債権者の会計』で見受けられる (FAS15,paraユ3)が,そ こでは,公正価値の適用は外部取引に限定されてお り(FAS15,para.81),内部取引にまで拡張 されてい なかった)。(高寺 ・草野 [2004]254頁。〔〕内の割註は引用者 ‑西川が補足。( )内は原文のママ)

もち

現在価値が財務会計 に用 い られる様 になった背景的経緯 を,高橋 昭三 は次の棟 に整理 してい る

(10)

‑ 58‑ 経済貿易研究 研究所年報No.34

DCFは60年代のコングロマ リッ ト合併 (第3次企業合同運動) を背景に,財務管理論の領域で 「企業 の投 資収益性 の科学 的計算方法」 と してデ ィー ン (Dean)やル ツツ (F.&Ⅴ.Lutz)や ソロモ ン (E.

Solomon)等 によって提唱 された。そ して,80年代か ら90年代のグローバルな超大型合併 の展開過程で 財務政策に活用 され,株価極大化の コーポ レー ト ガバナ ンスの主要な一環 を占めるに至 っている。 (高 橋 [2005]7頁)

これ ふ え ん ため さら

此 を数行 す る為 に,高橋 の叙述 を,多少 長 くな るが更 に引用 す る。

経営者支配 を終蔦 させ,株主主権 を回復 して,株価極大化経営 を推進す るために,経営陣 を監視 ・規 律づける米国型 コーポ レー トガバナ ンスのシステムとして提案 されて きた ものは,総 じていえば,次の 三つに要約で きる。

第‑は,株主価値 (株価)極大化経営 を目的 とした 「経営の効率性 と透明性 を・説明責任(accountability)

を高めるために,組織面で,経営陣 を監視 し,規律づ ける取締役会 を独立社外取締役 の拡充 によって強 化することである。 〔中略〕

第二 は,経営情報 の適正 かつ公平 な開示 に基 づ く完全競 争 的 な効 率 的資本市場 (e氏Cientcapital market)の株価形成 と会社支配権市場(M&A)とによって経営陣を株価極大化経営 に導 く

,

「市場の規律

または 「市場原理主義」のシステムである (第4章参照)。

第三は,株式評価方式 と軌 を一にするDCF (discountedcash且ow)や,それを簡素化 して使用 し易 く したEVA (economicvalueadded:経済付加価値)が株価極大化 目的に整合的な経営効率性の評価基準 または指標 とされ (第4章,第6章参照), コーポレー ト ガバナ ンスを支 える経営管理システムに取 り 入れ られていることである。 ‑‑DCFやEVAが株価重視 の経営 と経済のシステムに大 きな役割 を果た すに至 っていることは,金融資本のヘゲモニー下で擬制資本の運動が現実資本 (実体経済)の運動 を規 制 して

,

経済の金融化 ・証券化の矛盾」 を推 し進めるもの と思われる。

(高橋 [2005]7頁

」や ()内の割註 も原文のママ)

又 ,鈴 木芳徳 は,企業結合 の買 収側 が貸借対 照表 の 資本 に関す る財務 情報 の 開示 を要 求す る論 理 を 次 の様 に述べ てい る。

また,別 して注 目すべ きは,M&Aに関わる買収金額 は,理論価格 (FA:フェア ・バ リュー) よ りも 高 くなる傾向があるという点である。情報 を十分 にもっている売 り手 (被買収企業) は,情報が不十分 な買い手 (買収企業) に高い価格 をふっかける傾向がある。 また, これに加 えて,買収企業側がTOB価 格 を引 き上げるのではないか,被買収企業側がTOB阻止の 目的で株式に買い向か うのではないか,といっ た思惑が働 きがちである。 (鈴木 [2007a]155頁。 ( )内の割註 も原文のママ)

この ことの中に,M&Aの際の株式交換比率の算定の経緯や相手先企業 との取引関係,資本関係 につ いての情報開示が求め られる理由が隠されている。

この ように株式交換比率の算定基礎 は,常 に問題 をは らんでいる。 (鈴木 [2007a]156頁)

しか し,にもかかわ らず当該時点での 「静止画像」 は明 らかにされる必要がある。 (鈴木 [2007a]156

‑157頁

。 「

」 も原文のママ)

こ れ ら おもてむき たてまえ

此等 の事 か ら,時価 評価 の大 幅導入 ,殊 に現在価 値 の採用 は,表 向の 「透 明性 」 の確保 と謂 う建前

ハゲタカ など

(principle)は別 に して,合併 ・買 収 を最大 の収益 源 とす る投 資銀 行 や禿鷹 フ ァ ン ド等 の金 融 資本 の利

いいすぎ

益 に奉仕 す る もの, と言 うの は言過 であ ろ うか。

4.人的資源 に対 す る会 計 人の冷淡 ・無 関心

現代のアメリカを代表するマイクロソフ ト社 は,過去 は明 ら かに 「社員の もの」で した。 もちろんビル ・ゲイツを含めて です。

(11)

誰が為 に金 は成 る ‑ 59‑

「ビルと社員が楽 しければいい」 というす ごい世界だっ たんですね。

1955年 ごろに,わた しはビルに訊 きました。「会社 って株主 の ものです よね ?」。すると

,

「バカい うん じゃない。 ‑・‑(成 毛 [2005]161,162頁)

今 日

,

「無形 資産 (intangibles)が,殆 どの企業 で,価値 の面 で も成長へ の貢献 度 の面 で も,有形 資

あるい

産 を凌駕 してい る」 (Lev [2001]p.7,広瀬 ・桜井監訳 [2002]12頁。訳文は一部修正) と謂 う様 な或 は

これ もんごん じょうとうく あつか まくらことば そし

此 に類す る文言が常套句 として,無形 資産 を扱 った多 くの会計学文献 で枕 詞 の様 に使 われてい る。而

い っ と たど つい

て,無形 資産 を論 じる会計学者 は増大 の一途 を辿 ってい る。無形 資産 の札 ブ ラ ン ドに就 ては,広瀬 義 州 を委 員 長 とす る経 済 産業 省 の ブ ラ ン ド価 値 研 究 会 が 詳 細 な報 告 書 を公 表 し (企業法制研 究会 [2002],広瀬 ・吉見 [2003]参照),伊 藤邦雄 が 日本 経 済新 聞社 の協 力 で,主要企 業 の ブ ラ ン ド価 値 ラ ンキ ング を毎 年発 表 してい る (伊藤 [2007]参照)の を始 め と して,積極 的 に論 じてい る会 計学者 は

す くな しか まとん み あ た

少 く無 い。然 るに,人的資源 に関 して は,積極 的 に論 じてい る会 計学者 が殆 ど見 当 らない (例 えば, 伊藤 [2006]に掲載 された22本の論文の中に,章題或いは節題 に "人的資源"乃至其 に類する語句 を掲げて いる文章は1つ も無い)。

日本 で は昔 か ら,企業経営 の重大 な要素 として "ヒ ト ・モ ノ ・カネ" の3つが語 られて来 たが, 3

もちろん まいきょ いとま

つ の中で ヒ トが最初 に掲 げ られてい る事 に,勿論意味が有 る。 ヒ トの重要性 を論 じた文章 は枚挙 に暇

ぬ き だ

が無 いが,岩井他 [2005

]

『会社 は株 主 の もので はない』 か ら, 目に付 いた文章 を抜 出 して見 よう

つまり,ポス ト産業資本主義においては,利益の源泉は 「違い」 を生み出す ことがで きる 「人間」に なるのです。 (岩井 [2005b]29頁)

そういう意味では,いかに人を確保するか,違いを生み出すかが,これか らの会社の 目的にな ります。

(岩井 [2005b]31頁)

なぜなら,公共的な意義があるか らこそ,その商品やサービスが売れて,利益 を挙 げることがで きる と考えられるか らです。社員がそういった共同幻想 を持てるか どうか,そこに会社 の質はかかっている のです (小林 [2005]89‑90頁)。

そのとき,株主が会社 を所有 しているといっても,知識労働者が逃げて しまった ら意味がな くな ります。

M&Aをやって会社 を買収 して も,知識労働者が逃げて しまったら会社 はもぬけの空です。 (紺野 [2005] 138頁)

ヴァ‑ティカルに会社 を見てい くと,会社 というものは,国家や家族 などと同 じで,幻想共同体だ と いえるのです (平川 [2005]104‑105頁)

会社が成功するには信用がすべてであ り,その信用 を左右するのは社員だ,と私は思っています。(トッ テン [2005]216頁)

よれ

又 ,バ ルー ク ・レブたと(BaruchLev)に拠 ば, アメ リカで も情報産業 の企業 で は 「有 能 な人材 」 の重 視 が強調 されていて,例 えば, アマ ゾ ン ・ドッ ト ・コム社 (Amazon.com)の年次報告書 (AnnualRe‑

しる

port)には,次 の情報が記 されてい る と言 う

「当社の業界では,有能な人材, とくにソフ トウェア開発や他の技術スタッフを獲得するために激 しい 競争が繰 り広げられている。会社の将来の成功の一部は,つねに有能な人材 をひきつけ,雇用 し,維持 してい く能力にかかっていると,当社 は確信 している(原書註Amazoncon 1999.FormlO‑Kより引用)。」 (Lev [2001]p.73,広瀬 ・桜井監訳 [2002]83頁。)

ニ とほ どさ よ う かかわ アカウンタンツ ほか つい

事程左様 に,企業経営 に とって人的資源 が重要 であ るに も拘 らず,会計人が,他 の無形 資産 に就 てたべん なが は多弁 であ り乍 ら, 人的資源 に対 して は冷淡 であ るのは, 日本 に限 った話 で は無 い。 レブは,次 の様

(12)

‑ 60‑ 経済貿易研究 研究所年報No34

に述べ てい る

実際,大規模 な公開企業40社の財務報告書 に関する調査によると

,

「従業員はわが社の最 も重要な資 産である」 とい う常套句 を除いては,人的資源に関する適切で数量化 された情報は例外 な く全 く開示 さ れ てい ない (原書註 :Bassi,Laurieandothers[1999] "MeasuringCorporateInvestmentinHuman Capital,"in TheNeu)Relationshli,:HumanCapitalintheAmericanCorporation,editedbyMargaret BlairandThomasKochan,Brookings)。 このことか らみれば,前述 した2つの無形資産 ‑ 発見関連 の無形資産および顧客関連の無形資産 ‑ の状況 とは対照的に,人的資源に関連する無形資産の測定尺 度 と評価 についての体系的な研究が極端に遅れていることは不思議ではない。(Lev [2001]p.73,広瀬 ・ 桜井監訳 [2002]83頁。訳文は一部修正)

た とえば,知識集約型経済に関連す る最近の出版物 には,R&DやITに関す るデータが広範囲に示 さ れているが,人的資源‑の投資についての企業ベースのデータは全 く示 されていない (原書註 :OECD (OrganizationforEconomicCooperationandDevelopment)[1999]ScienceTech7WlogyandIndustry Scoreboard,1999)。(Lev [たと2001]p.74,広瀬 .桜井監訳 [2002]84頁) しはらい 労働力 に対す る投 資が,例 えばプロ ・ス ポー ツ選手 の契約金 の様 に,其 能力 を得 る為 の支払対価額

くりのべ

の明確 な ものであれば, 日本 の税 法 で は繰延 資産 と して計上す る事 が求 め られてい る (法人税 法施行

令 ,第14条1項9号 ニ)。若 し,買入 ブ ラ ン ドのみ な らず, 自己創 設 ブ ラ ン ドも資産計上す可 きだ と

か いいれ

言 うのであれば,契約金 と云 った対価額 の明確 な もの,謂 ば買入 人 的資源 ばか りで な く,労働力へ の

かた て お ち

投 資 に因る 自己創 設人 的資源 もオ ンバ ラ ンス化 す可 きと しなけれ ば,片手藩 にな るだ ろ う (原価主義 主義者の私 ‑西川は個人的に自己創設無形資産の貸借対照表計上には反対である)。

ただし

現行 の制度会計 で は, 自己創 設無形 資産 は原則 と して企業 の貸借対 照表 に計上 され ない (な とも ふく 低 暖簾 を非償却資産にする事は,減損処理が為 されない限 り,時の経過 と共に自己創設部分 を多 く含む事になろうし,

キヤツシュインフロ‑ み つ も

将来の現金流入 (cashinBow)の見積 りに基づ く現在価値評価は,イ由個の資産評価 に自己創設無形資産的性 格の部分 を含む事 になるだろう。暖簾の非償却や現在価値評価の多用 は, 自己創設無形資産の計上 まであ と

しか すべか ら

1歩の段階 と言えるのではないだろうか。併 し,私個人は,企業会計は須 く取得原価主義で記録 t計算すべ ち

きであるとの考えを持ち,低価評価で時価 を用いる場合 を除 き,時価評価 に反対である)。若 し, 自己創 設 ブラ ン ドをオ ンバ ラ ンス にす れば,下 の図 1の左 に示 した従 来の貸借対 照表 は,右 図の様 にな り,(自 己)資本 (≒純資産 ≒株主資本)が増大す る事 になる。

図1 ブラ ン ド計上 に困 る自己資本 の増大

従来の貸借対照表 ブラン ド計上の貸借対照表

資 産 (負債権者持分)債

従来の

資 産 (負債権者持分)債

資 本

(所有者持分)

(13)

誰 が為 に金 は成 る ‑ 61‑

これ さら ど れ い もと

此 に, 更 に人的資源 を資産計上すれば,其 の貸方対応額 は,奴隷制度の下では無 いのだか ら株主資

わけ もちぷん

本 とす る訳 には行か無 いだろうか ら,従業員持分 として,下図の様 に,貸方 に計上 される事 になろ う。

図2 人的資源計上の従業員持分

人的資源 従業貞持分

従来の

資 産 負 債

(債権者持分)

資 本

もちぶ ん おそ

人的資源の資産計上 に対す る貸借対照表の貸方対応額 を授業貞持分 とす れば,恐 ら く日本では,其かなり の金額 の貸借対照表貸 方構成比 は可成高 く成 るであろ うか ら, "会社 は社員 (従業員)の もの" と云

しか そ う ゆら

う観念 を強化す る事 に も成 るだろ う。併 し,然す る と, "会社 は株 主の もの" と云 う "信念"が揺 ぎ

したが も ( ろ ひ とび と もう

かねない。従 って,人的資源のオ ンバ ランスは,企業 の金融的支配 を 目論 む人人や証券売買 で儲 けること ご り や く

投機家 には望 ま しい事では無いだろ う。殊 に,帝国アメ リカの金融 資本 には御利益が無いか ら,人的 資源のオ ンバ ランスの制度化の実現可能性 は低 いだろ う

アカウンタンツ か よ う

自己創設無形 資産の内で,ブラン ドと人的資源 とに対す る会計人の態度 の斯様 な非対称性 は,決 し て測定 の客観性 の問題 で はない (例えば,曾てアメリカビジネス界がス トックオプシ ョン ・コス トの費用

くいとめ

計上を食止る為に 「ロビー活動の狂騒劇 を展開 した」(embarkedonalobbyingextravaganza)時

,

「会計士 たちはこうも主張 した。会社がオプションを経費として記載できないのは,価値 を正確に算定できないか らだ, と。 これは作 り話だった。」(Lowenstein [2004]p.44,鬼津訳 [2005]65,79頁。訳文は一部修正)。偽 装

い ち や

問題 の暴露で一夜 に して価値がマ イナスになる様 な不安定 なブラン ド価値 よ りも,人的資源 の価値 の

はる

方が造か に安定 しているに違いないだろ う。若 し, 自己創設無形 資産 を時価 で計上 し,その時価 を再 調達価格 とす るな らば, 現在 の従業員が (自己都合 と解雇 とを問わず)全員退職す る とした際 に,新 た

もちろん いんずうだけ ため かか

に従業員 を確 保す る (勿論,単に員数丈ではな く生産能力 も維持する)為 に掛 るであ ろ うコス トが,人

もた ら キ ヤツシュインフロー

的資源 の評価 額 と成 るで あ ろ う 人 的資源 を,従 業員 が将 来 に斎す で あ ろ う,現金流 入 (cashin‑

はる

凸ow)の割引現在価値 で評価す るな らば,その金額 は再調達価格 よ り造か に高 くなるか も知れない。つい ながら アカウンタンツ

無形資産の貸借対照表計上 に就 て論 じ乍 も人的資源 に冷淡 な会計人 は, 自覚 的であるか無 自覚か,いな はげたか な ど

意識 的であるか否か は別 に して,投 資銀行 や禿鷹 ファン ド等 の金融 資本 の投機 的投 資行為 を支援 ・支 持 している様 に,私 には思われる

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‑ 62 経済貿易研 究 研 究所年報 No.34

5.会計基準の複雑化 で誰 が幸せに ?

『人間が幸福 になる経済 とは何か』の中で説明 したとお り, CEOと会計士 と投資銀行 による私利の追求が,経済の効率 を高めるどころか,バブルの発生 と大規模な投資の配分 ミス を招いたのだ.(Stiglitz[2006]p.XN,稔井訳 [2006]28頁)

"会計 ビッグバ ン" の開始前 には,書店 の ビジネス ・経済 コーナーの最前列 に会計学 関係 の書籍が

ひらづみ まった ないし

平積 に並べ られ る事 な ど全 く考 え られなか った。今 や時代 は変 わった。会計学 の存在感乃至 プ レゼ ン ス (presence)が高 ま り,執筆 や講演 の機会 が増 えて,印税 ・講演料収入 が増加 す る事 を喜 んでい る 会計学者 も居 る事 だろ う。

それ さておき げんせつ けいち ょう あたい

英 は扱置, ビル ・トッテ ンの以下 の言説 は傾聴 に値す る

株主にた くさんの配当を支払 うためには,純利益 を増やす必要があ り,そのために支出を削減するこ とになって,給与カットや リス トラがおこなわれます。これは株主のためには社員 を犠牲にすることで はないで しょうか。会社 を維持 し成長 させるために日々働いてお り,そこで生活の糧 を得ている人たち を搾取することではないで しょうか。(トッテン [2005]216‑217頁)

これ

"会計 は企業経営 の中立 ・正確 な写像 であ るべ き" だ として,之 は "しか 経営 の問題 であ って会計 の問 題 ではない" と言 う会計学者 も居 るか も知 れない。併 し,会計政策の反映の無 い無色透明 ・中立正確

こ こ ん と う ぎ い ため し た と え その よう

な会計 なぞ古今東西,存在 した例が無い し,存在 し得 る道理 も無 く,仮例, 存在 し得 た として も其様

だれ や く だ た と り や く た ち ば

な会計が誰 に役立つのだろうか。例 えば,会計利益 は誰 に とっての便益 ・利益 か と云 う事 で立場が異

よつ

なれば,利益概念 も当然異 なって来 よう (例 えば,時代や場所に拠ては,自己資本利子を利益処分に依 るふつう 株主への分配 とせず,企業の費用に計上する事が普通に見 られた。高寺 [1988]83‑98頁,西川登 [1992]

かかわ

47‑50頁参照)。会計 には不可避 的 に会計政策が反映 され,会計基準等 の会 計制度設計 に関 るマ クロ

け など

会計政策は国家等 の経済政策の一環であ り,各企業 に於 る会計方針 の選択 ・決定等 の ミクロ会計政策とうがい は当該企業 の経営政策の一部である と言 えるだろ う (戸田 [2005]参照)。

もちろん わ きや く す ぎ た と

勿論,会計 は経営の脇役 に過無い とも言 え ようが,会計が経営 に与 える影響 も無視 出来 ない。例 えきりかえ べ ば,退職給付支 出 を,確 定給付 か ら確 定拠 出 に切替 る (本来経営が負 う可 きリスクの労働者‑の転嫁)

ところ

企業 の増加 は,退職給付会計の導入 に依 る処が大 きい と言 われ,又,例 えば

,

「銀行 は 自己資本 比率 を維持す るために貸 し渋 り ・貸 はが しを加速」 (田中 [2004]132頁) した と言 われ る

それ は ら

経営 に対す る影響 を離 れて,会計基準其 自体 も量 の増大 と質の複雑化 と云 う大 きな問題 を学 んでい

ゆ え す くな

る。 アメ リカの会計基準が膨大 .詳細 であるが故 に,米 国基準が世界一進 んでい る と評価 す る者 も少 くは無い。「しか し, なぜ, アメ リカの基準が世界 に先駆 けて設定 され, なぜ ,世界 で一番厳格 にな るのであろ うか。答 えは簡単である。それはアメ リカで,世界 に先駆 けて不正 な会計や金 が絡 んだ事

ね ら

件が発生す るか らである」 (た 田中 [2004]138頁)。米 国会計基準 の詳細 さは,会計基準 の死角 を狙 ったいたち 会計不正が生 じる度 に会計基準 を厳格化す る と云 う,泉 ゴッコの帰結 と言 い得 るだろ う。エ ンロン事

かず かず しんらつ

件等 のアメ リカに多発 した会計不正の数数 を 「数字合 わせ ゲーム」 (NumberGames)として辛殊 に告

ある もと

発す るロジ ャー ・ロー ウェンス タイ ン (RogerLowenstein)は,或CFO‑ のイ ンタビュー を基 に,汰 の様 に述べている。

不幸にして,企業活動がいっそう複雑になったため,監査人による裁量の余地が広がって しまった。

コナグラ (ConAgara)とテキス トロン(Textron)の両社 で経理担 当者か ら最高財務責任者 (chief f

inancialo氏cer)となったステイ‑ヴン ・キー (StephenKey)は,1968年に自分が会計の世界に入った

ふ りかえ

ときには規定集を1日で読めたものだと振返る。だが,最近調べたところ規定集は4,750ページに増えて

参照

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