大田博 樹
CSR報告書研 究
研究の 目的 と概要
第1章 CSR思想の形成 と拡大
第2章 非財務情報の開示 とその評価
第3章 CSR報告書 とマテ リアリティ
第4章 CSR報告書の信頼性向上 に関す る一考察 ‑‑・‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑‑53
CSR報告書研究
CSR 報告書研究
大田博樹
1. はじめに
レイチェル ・カーソンが 『沈黙の春』の中で環境問題 について警鐘 を鳴 ら してか ら60年が経 とうとしている。環境問題の深刻 さが明 らかになって も、
先進国 と開発途上国 との対立などにより、現在で も解決の糸口が兄いだせ な いでいる。 日本では公害問題 を経験 したこともあ り、伝統的に環境問題への 関心が高 くISO14001シリーズの取得や環境報告書 の作成 な ど企業が積極的 に取 り組んでいる事は世界的にも知 られている。環境報告書などのCSR報告 書lは、通常の財務報告書で は捉 えることが出来ない環境問題 など企業の社 会的責任(CorporateSocialResponsibility:CSR)に関す る情報 を認識 し、各 種利害関係者に報告するとい う役割が期待 されている。そのためCSR報告書 を作成する企業 は年々増加傾向にあったが、平成18年頃を頭打 ちに横 ばい状 態2となっている。
現在のCSR報告書は、環境配慮促進法により情報開示が強制 されている一 部の事業者 を除いて、その他の多 くは自主的に情報開示が されている。 また、
報告書の形式について も特 に規制 はな く、環境省 などが公表 しているガイ ド ラインを参考にCSR報告書が作成 されるケースが多 くなっている。そのため、
現在開示 されているCSR報告書は、他社 との比較可能性や利害関係者の情報 要求 とのマ ッチ ング、あるいは情報の正確性 といった問題が指摘 されている。
この ような状況の中で、一部の先進的な企業では、重要な情報だけを報告 書 に記載す るためにマテ リア リテ ィ(重要仕)分析 を行 なった り、あるいは
CSR報告書の信頼性 を高めるために報告書 に保証 を付 ける試みが されるよう になって きている。CSR報告書 に記載 される非財務情報 は、社会的責任投 資
(Sociallyresponsibleinvestment:SRI)や投資家の意志決定の際の判断材料
1非財務報告書にはCSR報告書や環境報告書、持続可能性報告書 など様 々な名称が使われて いるが、本稿では特に既述がない限り、非財務報告書の名称をCSR報告書に統一して表記する。
2詳細については、環境省が行なっている 「環境にやさしい企業行動調査」 を参照のこと。
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となる可能性があるだけに、報告書 に記載 されるべ き項 目とその信頼性 とに ついては十分 に検討 されなければな らない と言 える。
以上の問題意識 に基づいて、本研究ではCSR報告書の意義 を再確認すると 共に報告書の有用性及び信頼性の向上のために、報告書のマテリアリティ分 析及び保証について調査研究す ることを目的 としている。
2. 研 究の概要
CSR報告書 について研究 を行 なう前 に、CSR思想が どの ように発展 し、拡 大 したのかを明 らかにす る必要がある。第1章では、 まずCSRの本質 につい て明 らかにす るため、 ドラッカーやポーターの指摘 を基 に、企業の社会的責 任の本質について考察 した。 ドラッカーは、企業の本質 と目的が、経営的な 業績や組織の構造その ものではな く、企業 と社会 との関係 にあるとして、「第 一に事業体 としての機能を果た しつつ、第二に社会の信条 と約束の実現に貢 献 し、第三 に社会の安定 と存続 に寄与 しなければな らない」 (ドラッカー、
2008)としている。 しか し、全面的にCSR概念 を受け入れている訳ではな く、
責任 と権限の関係が重要であ り、権限が企業の能力や機能を超 える場合 にお いては、責任 を引 き受けるか どうかを慎重 に検討す る必要があると結論付 け ている。
一方、CSR否定論 を展開するフリー ドマ ンは、企業の最大の社会的責任 は 株主利益の最大化であ り、その他 の社会的責任 はない としている (フリー ド マ ン、2008)。 しか し、今 日のCSR活動 は健全 な社会 を作 り上げ、その結果 企業 を成長 させ る可能性 を秘めているため、CSR活動が企業価値 を高めるこ
とを考 えると、必ず しもフリー ドマ ンの指摘 は正 しくない と思われる。
しか し、ポー ターが指摘するように、今 日のCSRは論拠 に乏 しい面 もある。
その結果、CSR‑の誤解か ら企業側 と利害関係者側のニーズの ミスマ ッチが 発生 した り、効果の低いCSR活動‑投資 した りして しまうケース も発生 して いる。本章では、 この ようなケースを防 ぐためには、企業の本来の事業活動 か ら利害関係者 との接点 を探 り、CSR活動に展 開 してい くことが重要である
とい うことが明 らかに した。
次に第2章では、CSR報告書の開示状況 について、KPMGと環境省の調査
CSR報告書研究
結果 を基 に分析 を している。 日本 は世界的にみて もCSR報告書の開示 には積 極的で、特 に環境情報‑の関心が高 く、環境会計の実施や環境報告書の作成 をしている企業が多いことが分かった。 また、環境‑の影響の大 きい電気 ・ ガス供給業や製造業での割合が高い とい う特徴がある。 しか し、CSR報告書 の開示が企業価値 にどのような影響 を与 えるのかが明確 にされていないこと もあ り、情報の利用については限定的 となっているとい う問題がある0
この点については、企業評価 を行 なうアナ リス トを対象 とした調査で、(ら 長期的には環境問題 は収益要因になる、②短期的にはガバナ ンスの問題 はリ スク要因になる、 とい う結果か ら、今後 は非財務情報が果たす役割が大 きく なることが予想 されることを指摘 した。
第3章では、年 々情報内容が多様化傾向にあるCSR報告書 について、情報 の利用者の立場か らの利便性 を高めるため重要 な情報 に優先順位 を付 けて、
優先順位の高い情報 を中心 に開示するというマテリアリテ ィ(重要催)の概念 の概要 と現状 について事例研究を含めて考察 した。事例研究では、実際に大 和ハウス工業の背テ‑クホルダー ・ミーティングに参加 した。
そ して、第4章では、CSR報告書の信頼性 を高め るために保証の問題 につ いて調査 を行なった。 これ らの問題の解決には、制度面や保証付与者の問題 もあるため、早急 に解決す るのは難 しいが、CSR報告書の信頼性 を高めるた めには、早急 に保証 システムの確立が必要である といえる。そのためには、
まずマテリアリティの観点か らガイ ドラインを作成 し、統一 された報告香 を 作成することが重要である。なぜ なら、CSR報告書の体裁 を統一することで 他社 との比較が可能になるとともに、保証業務 を効率的に行えるようになる か らである。 この点については、現在の ところGRIがその役割 を果た しつつ あると言える。
そ して、保証 については 「第三者意見」 と 「第三者審査」 を全 く違 う目的 の もの と捉 え、それぞれを併用するとい う方法が最 も有効であると結論づけ た。既に考察 したように、第三者意見 は第三者 とい う客観的な視点ではある ものの、報告書の内容 を審査 し信頼性 を保証す るものではな く、保証付与者 が報告書作成組織 に対 しての提言 を行 うもの と考えられる。そのため、CSR 報告書の中で今後の企業経営 に与 える影響の高い項 目に対 しては監査法人な
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どの第三者による審査 を実施 し、データの裏付 けを含めた保証 とする。一方 で、CSRに対す る方向性や定性 的な情報 に対 しては関係す る有識者やNGO などに第三者意見 を求めてい くことで、今後の方向性 を決定する基礎的情報 とする。 この ように 「第三者審査」 と 「第三者意見」のそれぞれの良 さを生 か して評価対象 を分 けて保証 を付 けてい く事で、CSR報告書の信頼性 を高め る保証 システムの運用が可能になると考 えられる。
CSR報告書の内容 には環境問題や社会問題 など対象が広範囲に渡っている ため、地球規模での取 り組みが重要 となっている。特 に、環境問題 について は環境サ ミッ トの開催や気象状況の変化か らも分かるように、大 きく取 り上 げ られることが予測 されるため、今後は地球規模でCSR報告書が果たす役割 はさらに拡大すると思われる。
本研究では、 メンバーの一人が途中で研究拠点を移 したこともあ り、必ず しも研究環境や時間が十分であった とは言 えない状況 にあった。そのため、
本研究での調査が当初予定 した範囲 より大幅に縮小 した うえに、対象企業 も 日本国内が中心 となるなど、研究成果 としては成功 した とは言えないか もし れない。 しか しなが ら、ステークホルダー ・ミーティングに参加す るなど安 重な体験 をすることがで きた。今 回明 らか となった課題 については、今後の 研究課題 として取 り組んでい きたい。
<参考文献 >
・p・F・ドラッカー(上田惇生訳) F企業 とは何か』 ダイヤモ ン ド社、2008年 (原 書 はP.F.Drucker、ConceptofthecorPwation)
・ミル トン ・フリー ドマ ン(村井章子訳) F資本主義 と自由』 日経BP社、2008 年 (原書 はMiltonFriedman.Capitalism andFreedom)