BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:CurriculumandTeachingNo.43(2004)23‑37
旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1 9 5 0 年代の教科問結合 一 山 路 裕 昭*
(平成16年3月15日受理)
I nt e r di s c i pl i na r yTi e si nt heSe c o nd a r ySc i e nc eEd uc a t i o n i nt heFo r me rSo vi e tUni o n:
I nt e r di s c i pl i na r yTi e si n1 9 5 0' S
Hi r o a kiYAMAJ I
*(ReceivedMarch15,2004)
Ⅰ は じめ に
フ ェ ドロー ワ とキ リュシ ュキンはその著書 『教科 間結合』の中で,旧ソ連邦 の学校教育 において最初 に教科 間結合の問題 が取 り上 げ られたのは1920年 代のいわゆ るコンプ レック ス ・システムにおいてであ り,その後1950年代 か ら教科 間結合が研究対象 として取 り上 げ られ る ようにな った と述 べて い る1)。実際 , 旧ソ連邦 で発行 されていた教育関係の雑誌類 においては,1950年代 に入 る と教科 間の関連性 あ るいは教科 問結合 に関す る論文 が掲載 さ れ始 め る。 そ こで本小論 では,1950年代 に公表 ざれたそれ ら教科 間の関連性 や教科 間結合 に関す る論文等 の内容 に基づ いて,1950年代の 旧ソ連邦 におけ る教科 間結合 の特質 につい て考察 す る。
Ⅱ 教科間結合 に関 す る論文等 と 「教科間結合」の登場
1950年代の旧 ソ連邦 で発行 されていた6種類 の雑誌 において,教科 問結合の関連性 あ る いは教科 間結合 に関 して次の [A]〜 [K]の論文 が掲載 されていた。 また,ダニ ロ7, イ ェシポフ著 ,矢川徳光訳 『教授学』 (原著 出版 は1957年) ([L])並 び にユシ コピ ッチ監 修 『1959/60学年度 の学校 におけ る物理 の教授 について』([M])に も教科 間の関連性 に関 す る記述 が見 られた。
*理科教室
[教科問の関連性あ るいは教科間結合 に関す る論文等]
[ A
]ゲ ・ペ .ダビ ドフスキー 「物理 と化学の教授の結びつ きについて」
『学校の物理』No. 2,1 9 5 2,p p. 4 3 ‑ 4 8
2)o
[ B]
ア ・エム ・チ ュリナ 「物理 と化学 の教 師に よる教授法委員会の作業 の経験」
『学 校 の化学』No. 2,1 9 5 2,p p. 5 7 ‑ 5 8
3)0[C]ゲ ・カ ・ユル コフ 「中等学校 における化学 と物理の課程 の間の結びつ きに関す る 問題 について」『学校の化学
』No. 3,1 9 5 2,p p. 4 8 ‑ 5 2
4)0[D]エ リ ・ア ・ツベ トコフ 「学校 における物理 と化学の教授の結びつ き」『ロシア共 和 国教育科学 アカデ ミー紀要
』No. 5 6,1 9 5 4,p p. 6 9 ‑ 1 0 2
5)0[E]エヌ .エム ・ベル ジー リン,オ ・ヴ ェ ・カザ コ‑ワ,ヴ ェ ・エム ・コルスソスカ ヤ,エヌ ・ア ・リコフ,エヌ ・エ リ ・ソコロ7,ア ・ペ ・メ ドーパヤ, イ ・デ ・ズ ベ レフ 「第5‑9学年 におけ る生物学的概念の発達」『ロシア共和 国教育科学 アカ デ ミー紀要
』No. 8 2,1 9 5 6 6
)0[F
]「物理 と他教科 との結びつきの強化に向けて」『学校の物理』No. 2,1 9 5 7,p p. 3 ‑ 7 7
)0 [G]テ ・ヤ ・スルツカヤ 「物理 の課程 と機械学 ・電気工学 との結びつ きを実現 した経験」『学校の物理
』No. 3,1 9 5 7,p p. 6 5 ‑ 6 7
8)0[H]エヌ ・ペ .トゥベル ドフスキー 「化学 の教授 と物理 との結びつ きについて」『学 校の化学
』No. 3,1 9 5 7,p p. 2 2 ‑ 2 5
9).[ Ⅰ]
テ ・ペ ・コモーワ 「化学の教授 と生物 との結びつきについて」『学校の化学』No. 3
,1 9 5 7,p p.6 ト6 7 1 0 ) o
[J]ゲ ・エヌ ・ガ ツ コ 「化学 の教授学習 と生物及 び農業実習 との結 びつ き」『学校 の 化学
』No. 6,1 9 5 7,p p. 5 3 ‑ 6 0
】1)0[K]シ ャ ・イ ・ガネ リン 「個 々の教科の間の結びつ きに関す るエヌ ・カ ・クループス カヤ」『ソビエ ト教育学
』No. 6,1 9 5 9,p p. 4 6 ‑ 5
112)0[L]エム ・ア ・ダニ ロフ ,ベ ・ペ ・イ ェシポフ著 ,矢川徳光訳 『教授学』 明治図書 ,
1 9 7 4 。
[ M]
ヴ ェ ・エフ ・ユシ コピ ッチ監修『1 9 5 9 / 6 0
学年度の学校 におけ る物理 の教授 につ いて』 ロシア共和 国教育科学 アカデ ミー出版,1 9 5 9
13)0これ らの論文等の中で,実際 に 「MeXnPenMeTHhleCBSI3H:教科問結合」とい う用語が使 用 されているのは[E][J][K]のみであ り,他の論文等の中では 「cB刃3hIIPellOnaBaHM5I XHMHHC
O
H3HKOH:化学の教授と物理との結びつ剖
「cB5I3hMeXn
yytle6HbIMM rlPeJIMeTaMH:教科間の結びつ き」等の表現 が使 われている。
また,上記以前の論文等 において 「教科 間結合」の用語 が使 われた ものを見 ることはで きなかった。
さ らに,旧ソ連邦 で
1 9 6 0
年 に出版 された 『教育学辞典』 を邦訳 した 『ソビエ ト教育科学 辞典』 (明治図書,1 9 6 3 )
においては,「Me)KnPeAMeTHbleCBSI3H」
とい う用語 が使 われていた (項 目名は 「教科間の連関性」)0
すなわち これ らの論文等で見 る限 りにおいては
,1 9 5 0
年代後半 か ら次第 に 「教科 間結合」とい う用語が使用 され るようにな ったのではないか と考 え られ る。
以下 の
Ⅲ
〜Ⅶでは,[ A]〜 [ M]
の論文等 に見 られた教科 間結合のい くつかの側面 に山路 :旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 25
ついて検討する。
Ⅲ 教授学習における継承性 と教科間結合
ベルジー リン他の論文
[ E]
においては,概念の相互継承性や課程問の継承的結びつき, あ るいは教科間の継承性 とい うように,「継承性」 とい う用語 が しば しば出現 している。この継承性は,ソビエ ト教育学辞典においては 「教授学習における継承性」 として次の よ うに解説 されている。
「教材の配列 に首尾一貫性 と体系性のあること,教授 一訓育活動の諸段階が関連 し調 和 していること。ある授業か ら次の授業へ と移 る際や (つま り授業のシステムのなかや), ある学年度か ら別の学年度 に移 る際に,実現 される。すでに習 った ことを新 しい,いっ そ う高い水準で意味づけた り,現在持 っている知識 を新 しい知識で強化 した り,新 しい 関連 を明 らかに した りすることを特徴 としている。‑ ‑ (中略)‑ ‑ 継承性は,古い 知識 と新 しい知識,過去の経験 と新 しい経験の相互作用を生徒が理解することを とお し て,生徒が発達 してい く過程 を意味す る
。
」 14)すなわち教授学習における継承性は,一 つの教授段階か ら次の教授段階に移 る際に前の 段階で生徒 に習得 された知識や能力等が後の段階において深化,拡充 されるような,教材 相互の繋が りや関連性 を意味 している と考 えられる。
では, この ような教授学習における継承性 と教科間結合 との関係は どの ように考 え られ るのであろうか。
ア ・ペ ・メ ドーパヤは,論文 「第4 ・5学年 における博物の教授の継承性 について」の 中で,博物の第4学年の無生物の課程 と第 5学年の植物学の課程 との間の継承性が無視 さ れている として,第4学年の無生物界の学習は子 どもたち 自身の観察や実験 に基づいて行 われるべ きであ り,第5学年の植物学の学習はその ような第 4学年での学習に基づいて行 われるべ きである と指摘 し,次の ように述べている。
「生徒の知識 は,概念の一定の体系を示 し,次第 に発達するのであって,直ちに最終 的な形 において生 じるのではない。私たちは この発達 を学年 内 (課程の一つのテーマか ら他のテーマへの移行の際)や,また一つの教科や親戚関係の教科群 における学校の教 授学習の年月の中に観察す ることがで きる。教師は,それに基づ きなが ら新 しい概念を 形成 した り,前の概念を深めた り拡大 した りす るために,生徒たちが どの ような概念を 既 に獲得 しているかを知 らなければな らない。
知識 と習熟の厳密な継承性を守 ることによって,教師は生徒 による新 しい教材の習得 プロセスをかな り容易にすることがで き,またそれによって教授要 目の実施における緊 張を和 らげることがで きる。教授学習の先行する学年 と後続の学年 との内容や方法の緊 密な相互関係は,か くして,教授学習の効果の一層の向上への道である。それは先に獲 得 された知識 を うま く定着 させ,新 しい現象をよ り深い基礎 において理解することを助 ける
。
」 15)さ らにメ ドーパヤは,第5学年の植物学の多 くの内容の学習に際 して第 4学年の無生物 界の課程での既習内容を導入することがで きる として,その具体例を示 しているが, この メ ドーパヤによって示 されている継承性の例は,課程の枠 を越 えて知識や概念あるいは能 力等の段階的で継続的な発達 を保障 しようとい うものであ り,1950年代の他の論文等 にお
いて明 らかにされている教科間の関連性あるい教科間結合の具体例 ときわめて似通 ってい る。それ らのいずれ も,異なる場面で学習 される知識や能力等を結びつけ ようとするもの である。
ただ し,メ ドーパヤ論文やベルジー リン論文で問題 とされている継承性は,基本的に博 物あるいは生物の教科 内における課程間の問題である。勿論,上記の引用文 中にあるよう に,メ ドーパヤは同一教科内だけでな く,同系統の教科群の中で も継承性 に基づいて概念 が深化,拡大 されてい くこと,すなわち教科間の継承性 も指摘 している。 しか しメ ドーパ ヤ論文 においてはその ような教科間の継承性 についてそれ以上 は特 に触れ られてお らず, 継承性の問題は基本的に教科 内 (課程間)を中心 として論 じられている。
他方 アナニエフは,論文 「教授学習における継承性 について」の中で,第1‑ 4学年 で 子 どもたちに習得 された時間 と空間に関する数学的概念等が次の ような
3
‑つの方法でその 後発達 させ られてい くとしている16)0
○数学教育の体系,すなわち教科 としての数学 (アナニエフ論文が公表 された当時は算 数)における一層の発達。
○学校教育の隣接する領域への転移。すなわち物理や製図の学習過程 における利用。
○学校教育のさらにより遠 くの領域への転移。すなわち図画,歴史,地理等における利用。
このアナニエフの指摘 に従 えば,継承性は教科内を中心 とした ものだけではな く,さ ら に教科問において も考 え られるべ きものである。言い換 えれば,知識 ・概念や能力等の発 達は,特定の‑教科 内でのみ発達 させ られ るものではな く,関係する他教科 において利用
される際な どにも発達 させ られるのである。
さ らにベルジー リン論文 においては,継承的結びつ きに関連 して 「教科問結合の中で も 一 つの教科の異なる学年の課程間の結びつ きや同系統の教科の間の結びつ きが特 に重要で あ る」17)と述べ られてお り,教科間の継承的結びつ きのみでな く,教科 内q)継承的結びつ きまで もが教科間結合に含 まれていた。 このベルジー リンの考 えに従 えば,継承性 に基づ く結びつ きのすべてが教科間結合 に含 まれ ることにな り,教科 内の結びつ きも教科間結合 に含まれ ることになる。
すなわち1950年代において,教授学習 におけ る継承性 と教科間結合 とはその必要性や意 義あるいは実際的な内容において相互に重複する部分を持 っていたが,その関係の捉 え方 は人 によって必ず しも同 じではなかった ようである。そ してその ことは,1950年代当時, 教科間の関連性あるいは教科間結合 に関す る実践や研究が始 まってはいた ものの,その当 事者達 にもそれ らの意味す るもの或いはそれ らと継承性 との関係等が必ず しも共通 に理解
されていた訳ではなかった ことを示す ものであろう。
なお本論文では ここまで,異なる教科の間で学習内容等が相互 に関連 していることやそ の相互の結びつ きを,各論文 中での表現 に従 って 「教科間の関連性」「教科問の結びつ き」
あるいは 「教科間結合」等 と使 い分けて きたが,以下では 「教科間結合」に統一す る。
Ⅳ 教科間結合の必要性 と機能
1950年代 に発表 された教科間結合に関す る論文等13編 においては,教科間の関連性や教 科間結合を利用 ・実現す ることの必要性 と機能等がさまざまに指摘 されている。それ らを 大別すれば,次の ようになる。
旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究 山路 :
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 27
○教科間結合の欠如 によるさまざまな問題の解決。
○個別科学相互の結びつきの反映。
○ 自然科学 と実践 とを結びつけも総合技術教育の実現。
○生徒の知識や概念の形成 ・発達。
○生徒の世界観の形成。
1
教科間結合の欠如によるさまざまな問題の解決13編の論文等の内,コモー ワ,ガツコ,ガネ リン,ダニ ロフ ・イェシポフの4編中では, 実際の教授学習過程 における教科間結合の欠如やそれによる問題点については言及 されて いないが, しか しそれ ら以外の論文 中では教科間結合の欠如が指摘 され,さらにそれによ るさまざまな問題点が指摘 されている。
例 えば,同一の問題が物理 と化学で学習 され,不必要な重複があるだけでな く,表現が 異なっている等のために生徒が 「物理学的」あるいは 「化学的」 にそれを理解 して同一の もの とは考 えていないことがある (ダビ ドフスキー,チ ュリナ,『学校の物理』巻頭論文, スルツカヤ, トゥベル ドフスキー),学習の前提 となる他教科の知識 が学習 されていない
こ とがあ る (ユル コ7,ユシコピ ッチ),学習 された知識の一般化が行われていない こと があ る (トゥベル ドフスキー),重要な概念の深化や発達 が十分 に行われてお らず,学習 後 しば らくする と忘れ られていることがある (ベルジー リン,コルスソスカヤ)等である。
これ らの問題は,直接的には教科間結合が確立 されていないことによるものであるが, さ らにその原因 として各教科 において他教科 と無関係に教材配置の独 自の体系 が確立 さ れ,教科間の内容配置 が十分 に調整 されていない こと (ユル コ7,ユシ コピ ッチ),教師 がその養成段階において他教科 に関する教育を十分に受けてお らず,他教科の知識 を十分 に持 っていないこと (ダビ ドフスキー,ツベ トコ7, トゥベル ドフスキー),教師が他教 科の内容に対 して十分 に注意 を払 っていない こと (ダビ ドフスキー)等が指摘 されている。
そ して これ らの原因に対 して,教科 内の教材配置や学習時期 を修正 ・変更すること (ユ ル コ7,ツベ トコ7,スルツカヤ),関係す る教科の教師による教授法委員会の設置等 を 通 して異なる教科の教師が協力 し,また互 いに他教科の内容 を知 るこ と (チ ュリナ,『学 校の物理』巻頭論文 ,スルツカヤ, トゥベル ドフスキー),そ して教師 自身が 自分の教科 や教授方法を全体の一部 として理解す ること (ベルジー リン)等が提案 され,それ らの実 現 を通 して教科間結合を確立す ることが求め られている。
2 個別科学相互の結びつきの反映
ダビ ドフスキーは,学校 における物理 と化学の教授の結びつ きが必要な理 由 として,物 理学 と化学 自体が互いに結びついていることを挙げている。教科間結合が必要な理 由 とし て この ように各教科の背景にある個別科学相互の結びつきを指摘する意見は,ダビ ドフス キー以外 にも,チ ュリナ,ユル コフ,ツベ トコ7, トゥベル ドフスキー,コモーワの論文 や 『学校の物理』巻頭論文で見 ることがで きる。
特 にチ ュリナ,ユル コ7, トゥベル ドフスキーが共通 して引用 しているロモ ノ‑ソフの 言葉 「物理学の知識のない化学者は,すべての ものを手探 りで探 さな くてはな らない人間 に似ている.そ して これ らの科学は,一方は他方な くしては完全に存在 し得ないように, 互 いに結びついている
。
」は,物理学 と化学 との結びつ きに限定 されてはいるが,教科間 結合の根拠 としての科学相互の結びつきを象徴的に示 している。さらにツベ トコフは,教科間結合が必要な根拠 としての個別科学の相互の結びつきを, 単一な自然に関する科学 としてのそれ ら諸科学の本質的な特徴 とし, 自然現象を全面的に 研究するためには個別科学を知 るだけでな くそれ らの間の結びつきと相互作用を明 らかに することが必要 と指摘 している。 このツベ トコフの見解の中ではエンゲルスの 『自然の弁 証法』が引用されてお り,科学に対する弁証法的見方に基づ くものである。ただ しツベ ト
コフは,個別科学相互の結びつきはそれ ら個別科学の統合や消滅を意味 しない としてお り, 学校へのいわゆる総合理科の ような教科の導入を否定 し,教科間結合は既存の各教科の系 統性や構造を基本的に維持 した中で確立 されるもの としている。
いずれにして もダビ ドフスキーやツベ トコフ らは,このような科学相互の結びつきの存 在を指摘 し,その結びつきが学校におけるそれ ら科学の教授学習過程 に当然反映されなけ ればな らない としている。
3 自然科学 と実践 とを結びつける総合技術教育の実践
自然科学 とその実践 としての生産や労働活動 との結びつきに基づいて教科間結合の必要 性 と意義を指摘 しているのは,ツベ トコ7,コモーワ,ガツコ,ユシコピ ッチ監修本 と
『学校の物理』巻頭論文である。
ツベ トコフは,物理 と化学の教授の結びつ きが必要な理 由の一 つ として,「その基礎 に 物理的あるいは化学的現象があるような最 も重要な生産プロセスを生徒に別 々に知 らせる だけでな く,生産の基本的分野に関する統一性表象や現代工業の基礎 に関する表象を要求 するような総合技術教育を学校において実現する必要性」を挙げてお り,コモーワやガツ
コも教科間結合によって生徒の総合技術教育が促進 されるとしている0
現代の農業生産や工業生産 においては, 自然に関するさまざまな知識や理論等が応用さ れているが,そこではユシコピッチ監修本の中で 「技術的進歩 とい う課題を解決 している 進歩的労働者 と生産革新者たちは,そのためにさまざまな領域の科学か らq)知識を応用 し ている」 と述べ られているように,特定の領域の科学の知識や理論だけではな く,さまざ まな領域の科学の知識や理論が取 り入れ られる。すなわち現代生産におけるさまざまな問 題に対 しては,個別科学の枠を越 えてさまざまな領域の科学を相互に結びつけ,総合的に 解決することが必要である。 また,その ような現代生産の基本的特徴を生徒 に知 らせ,将 来のその ような実践活動 に対 して生徒を準備するという総合技術教育の実現のために,実 践をも含めたさまざまな教科の結びつきを通 して理論の実践化を保障することが必要 とさ れているのである。
4 生徒の知識や概念の形成 ・発達
ベルジー リンは,教科間結合によって生徒が他教科で獲得 した表象や概念を拡大 し,必 要な知識を強固にする連合を起 こさせると述べている。またベルジー リンは,生物学の各 課程の学習を通 じて一般生物学的概念が形成 ・発達 されてい くために,各課程間の継承的 な結びつきを確立する必要性を重視 している。
このように生徒の知識や概念の形成 ・発達 における教科間結合の必要性や意義は,ツベ トコフにおいて も指摘 されている。ツベ トコフは,教科間結合が必要な根拠の一つ として,
「他教科で与 えられた知識を発達 させ,強固にさせなが ら,一般的概念を形成 しなが ら, 隣接教科で獲得された実践的技能を利用 しなが ら,個 々の問題の解釈における不必要な繰 り返 しや矛盾を排除 し,教授学習における統一性を保障 しなが ら,体系的で深 くて確実な
山路 :旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 29
知識 を保障 し,同時に生徒の労働 を容易にする必要性」を挙げている。
また,先 に示 した教科問結合の欠如 によるさまざまな問題は,実はいずれ も生徒の知識 や概念の形成 ・発達 における問題 と言 うこ とがで き,その ような生徒 の知識 や概念の形 成 ・発達 におけ る問題 を解決す るために教科問結合が求め られていた と言 うこ ともで き
る。
さらに論文 中で明 らかにされている教科間結合の例の多 くでは,教科間結合による生徒 の知識や概念の効率的でよ り正確な形成 ・深化 と発達が指摘 されている。
例 えば,ダビ ドフスキーやベルジー リンは次の ように述べている。
「物理の授業の引用は,原子 と分子の統一的な表象を 《化学的》及び 《物理学的≫な ものに分割す ることな しに生徒達 に形成す ることを促進する。物理の教師は,今度は, 純粋に物理現象に限定することな く,化学か ら素材を導入 しなければな らない。すなわ ち電池の働 きを演示す る際には,亜鉛の硫酸への溶解に生徒の注意を向けなが ら,彼 ら に既知の水素分子分離の反応 を思い出させ ることで十分である
。
」 (ダビ ドフスキー)「第5学年で生徒によって獲得 された地理学的概念に基づいて,植物学の教師は,第 6学年の最初のテーマ 『最 も重要な栽培植物』の学習の際に世界地図を利用 しなが らそ の起源に関する問題 に十分に触れることがで きる。今度は植物学の授業の前期に獲得 さ れたその概念を,地理学の教師は,後期の世界各国の植物界の学習の際に拡大 し定着 さ せ ることがで きる
。
」 (ベルジー リン)またユル コフは,物理で熱概念が定量的に学習 された ことに基づいて,化学の授業では 炭素の燃焼反応の方程式 に反応熱 を導入 し,反応の熱的現象を定量的に取 り扱 っている。
この ように教科間結合は,教材の不必要な重複や同一内容に対する異なった説明による 混乱を排除 して教師や生徒の教授学習における負担 を軽減 し,生徒 における知識 ・概念の 効果的な理解 ・習得を促進す るもの とされてお り,また生徒における体系的な知識や概念 の確実な形成 と深化 ・発達 を保障するもの とされている。
5
生徒の世界観の形成生徒の世界観の形成における教科問結合の必要性や意義 を指摘 しているのは,ダビ ドフ スキー,ツベ トコ7, コルスンスカヤ,ユシコピッチ監修本,ダニ ロフ ・イェシポ7,そ して 『学校の物理』巻頭論文である。ただ し、ダビ ドフスキーは,直接 には単に生徒の世 界観の形成を保障するために教科間結合が必要である と述べているだけである。
ユシコピ ッチ監修本 と 『学校の物理』巻頭論文 は, 自然科学の各領域がそれぞれ独 自の 方法 によって物質世界を研究 してお り,それ ら各領域の知識の総和 によってのみ 自然全体 の表象を得 ることがで きるとして生徒の世界観の形成 における教科問結合の重要性 を指摘 している。
またツベ トコフは, 自然現象を十分かつ全面的に研究することはさまざまな運動形態の 間の結びつきや相互作用を示す ことである として,個 々の運動形態を研究す るさまざまな 科学が相互に結びついていることを明 らかに し,それを教授学習過程 に反映 させ る必要性, すなわち教科間結合の必要性 を指摘 している。
さ らにダニロフ ・イェシポフ も,生徒の世界観形成のためには,相互関連 した個別科学 に対応する各教科の内容において統一性 と相互関連が保証 され ることが必要であ り,個 々 の教科 における世界 についての分析的な検討を総合によって補完するために教科間結合が
必要 としている。
これ らの見解 においては, 自然の諸事象をさまざまな科学の見地か ら,その相互連関 と 相互作用 において,全面的に深 く学習すること,すなわち 自然の諸事象を弁証法的に学習 することが重視 されてお り,それが生徒の科学的世界観の形成 に役立つ と考 え られている。
そ して教科間結合は,その ような 自然の弁証法的学習の成立を可能 にする重要な条件 と考 え られている。
ただ し,ユシコピ ッチ監修本やツベ トコフ論文の中で明 らかにされている教科間結合の 具体例では, 自然の事象を直接 に弁証法的に解釈,理解す ることにまで言及 されている訳 ではない。む しろ,それ ら教科間結合の具体例中では,教科問結合 と生徒の世界観の形成 との具体的なかかわ りにはほ とん ど言及 されていない。ツベ トコフが正 しい世界観の形成 のために挙げている例 も,物理 との結びつ きに基づいて化学反応の熱的 (エネルギー的) 側面 に関する生徒の理解を深めるものであ り、 これ とほ とん ど同 じ例 をユル コフは,世界 観の形成 にまった く言及することな く教科間結合の例 として挙げている。
これ らに対 してコ)レスンスカヤは,生物の最後の課程 「ダーウィニズムの基礎」 におい て,生徒 に 自然や社会 に関する統一的な弁証法的唯物論的概念を形成す る とい う明確な視 点か ら教科間結合の必要性 を指摘 し,その例を挙げている。だだ しダーウィニズムの基礎 は,教科 「生物」の最終段階に位置 し,さまざまな教科 においてそれまでに生徒 に獲得 さ れた 自然や社会に関する知識 ・概念を総合 し,統一的な世界観の科学的基礎へ転換するこ
と自体がその重要な 目標 として掲げ られた課程である。
いずれに して も, 自然や社会のさまざまな現象を互いに結びつけ,統一的な弁証法的唯 物論的な見方 を生徒 に学習 させ ようという点で,コルスソスカヤの見解はツベ トコフ らの 見解 と基本的には同 じものであ り,そこでは教科間結合の確立が重要な役割を果たす とさ れている。
Ⅴ 教科間結合の相手教科
1 9 5 0
年代の教科問結合に関する論文等においては,生物,物理,化学の教授学習過程 に おける教科間結合のさまざまな例が示 されている。それ らの例において,同 じ教科内にお ける結合の場合を除 くと,教科間結合の相手 となっていた教科は,生物,物理,化学,敬 学,地理,歴史,農業 ・機械 ・電気工学 に関す る実習等であった。 また,取 り上げた論文 等では,さらに内容等において関連 してお り教科間結合の相手 とな り得 る教科,すなわち 隣接教科 として,天文,製図,ロシア語 と文学等が挙げ られてお り,結局,中等教育段階 のほ とん どすべての教科が生物,物理,化学 における教科問結合の相手教科 として考 え ら れていた と言 えるであろう。ただ し取 り上げた論文の題 目にも見 られるように,実際の教科間結合 としては生物,物 理,化学相互間の ものが多 く取 り上げ られている。言い換 えれば,生物,物理,化学 にお ける教科間結合の相手教科 として中等教育段階のほ とん どすべての教科が考 え られていた として も,実際には専 ら同 じ自然科学系の教科が相手教科 となることが多かった と考 え ら れ る。
この ことは,先 に明 らかに した教科間結合が個別科学相互の結びつ きを反映す るもので ある とい う点か ら見れば,また きわめて 自然な ことである。すなわち, 自然科学 と人文 ・
山路 :旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 31
社会科学等がそれぞれ相互 に関連 しあっている として も,自然科学の各領域である生物学, 物理学,化学相互はその内容等 において より直接的かつ密接 に結びついている。それだけ
に 自然科学系の各教科の教授学習活動 においては,人文 ・社会科学系の教科 よ りも同 じ自 然科学系の教科 との教科問結合を実現することの方が よ り実際的であ り,また容易であ っ た と考 えられ る。
Ⅵ 教科間結合の形態
ベルジー リンは,教科問結合を時間的観点か ら次の ように分類 している。 (論文 [E])0
○水平的結合 :その学年で同時に生徒 に学習 されている教科 との結合
○垂直的結合 :先行する学年で よ り早 く学習 された教科 との結合
○未来的結合 :後続の学年で学習され る教科 との結合
また,その他の論文等で最 も頻繁 に見 られる教科間結合は,例 えば物理の授業 において 化学での関連既習内容を利用する とい うように,ある教科の教授学習の際に他教科での関 連既習内容を利用する とい うものである。 この ような教科間結合はベルジー リンの分類 に 従 えば水平的結合あるいは垂直的結合に相当するものであろう。他方,ベルジー リンが未 来的結合 と名づけた,後続の学年で学習 される教科 との教科間結合は,ベルジー リンの論 文 を も含めて教科間結合の例の中に明確 にまた具体的に兄 いだす ことはで きなかった。
先 に明 らかに した ように, 自然科学系教科 における教科間結合の相手教科 としては同 じ 自然科学系教科が中心 とな っていた。 しか し引用 した教科間結合の例において も,また論 文等 において も,生物,物理,化学相互の教科間結合が繰 り返 し登場 しているにもかかわ らず, もう一 つの 自然科学系教科 であ る天文 はほ とん ど登場 していない。 この ことは, 1950年代には生物が第4‑ 9学年,物理が第6‑10学年,化学が第7‑10学年 で学習 され ていたのに対 して,天文は第10学年で学習 されていた ことか ら,生物,物理,化学 におい て天文 を相手教科 とする未来的結合はほ とん ど考慮 されていなかった,あるいは実践 され ていなかった ことを示 している。
さらに,教科間結合において取 り上げ られている他教科の関連既習内容 には,ベルジー リンやツベ トコフが実践的な能力や習熟の発達 におけ る結びつ きを指摘 してはいた もの の,教科問結合の具体例においてその ような能力や技能に直接 かかわるものは僅かであ り, ほ とん どの例 においては他教科での既習知識や概念のみが取 り上げ られていた。
すなわち,1950年代の中等理科教育における教科間結合の最 も一般的な形態は,生物, 物理,化学相互間でそれぞれ他教科の関連既習知識や概念 を利用するものであ った と考 え
られ る。
Ⅶ 教科間結合の準備 と実現の方法
『学校の物理』巻頭論文 とユシコピ ッチ監修本では,それぞれ教科間結合を実現する方 法が指摘 されてお り,それぞれ若干表現は異なるものの,基本的には次の2方法である。
○異なる教科の学習を時間的に調和 させ ること。
○異なる教科で学習 される同一の概念の取 り扱いを統一すること。
またツベ トコフ論文 において も教科間結合実現の方法が 6項 目示 されているが,それ ら のほ とん ども上記の2方法にま とめ られ る。
前者の方法は,直接的 には既 に明 らかに した ような各教科 において他教科 と無関係 に敬 材が配置 された ことに よって教科間で不必要 な重複 が存在 した り,あ るいは学習の前提 と な る他教科の知識 が生徒 に学習 されていなかった りとい う問題 に対処 す るもので もあ る。
この方法での教科間結合 として 『学校の物理』巻頭論文 に挙げ られていた例は,第8学年 の物理 において力の合成 ・分解 を学習す る時点で数学 ではまだ三角形の相似や ピタゴラス の定理 が学習 されていない とい う問題 に対処す るもので,力の合成 ・分解 を次の ように学 習す るものである。
第
8
学年物理 :力の合成 ・分解 を図解のみで学習す る。J
第8学年数学 :三角形の相似や ピタゴラスの定理 を学習す る。
J
第8学年物理 :学年末の復習の際,力の合成 ・分解 に三角形の相似や ピタゴラスの定 理 を適用す る。
さ らにユシ コピ ッチ監修本 において挙げ られている教科間結合の例は,化学 と物理 で同 一 内容を重複 して学習す ることを避 け るためにそれぞれの学習内容 を事前 に調整 し,結果 的 には次の ように化学 での既習概念 に基づいて物理の学習 を行 うものであ る。
第7学年化学 :物質の原子 一分子構造 と分子運動の存在 に関する概念を生徒に与 える0 J
第7学年物理 :固体 ・液体 ・気体 における分子運動の特徴 を解説 し,分子の相互作用 の力の存在 について話す。
次に,後者の異な る教科 で学習 され る同一の概念の取 り扱 いの統一 は,教科間結合の欠 如 に よるさまざまな問題q)中で,同一の事象や概念が異な る教科 でそれぞれ別個 に取 り扱 われ,またその説 明や表現等 が異 な っているために生徒 に異な るもの として理解 され る問 題 に対応す るものであ り,教科間で同一事象や概念の取 り扱 いや表現の不統一 をな くそ う
とす るものであ る。
この具体的な例 として
,
『学校 の物理』巻頭論文 では,物理 と化学 で 「電子殻」と 「電 子層」,「等温過程」 と 「等温変化」等の用語 について, どち らか一方 を選 んで統一的に使 用す るように物理 と化学の教師達 が事前 に話 し合 うことが提案 されている。すなわち これ らの例 に よって も明 らかな ように,教科間結合実現のいずれの方法 におい て も,教科間結合 を実現す るための準備 として事前 に隣接教科 の内容 について知 るこ とが 必要 とな り,さ らに場合に よっては隣接教科間で学習 内容等 に関す る調整 が必要 となる。
そ して このために,例 えばダビ ドフスキーは教授要 目や教科書 に よって隣接教科 の内容 を 研究す ることの必要性 を指摘 し,またベルジー リン とコルスンスカヤやスル ツカヤは, 自 教科 の内容 と隣接教科 の内容 とを対比 させなが ら一覧 で きるように した表 を作成 してい る。 さ らに,チ ュ リナ,スルツカヤ, トゥベル ドフスキー,『学校の物理』巻頭論文は, 関係す る教科の教師に よる教授法委員会や教科委員会の設置等 を通 して互 いの教科の内容 を知 ることや教師相互の協 力活動の有効性 を指摘 している。
一方, この ような準備 を経 て実際の教授学習過程 においてさ らに どの ように教科間結合 を利用 ・実現するか,その具体的な方法 について,ユル コフは次の ように述べている。
「しか し単な る既知事項の単純 な引用 に止 まっていてはな らない。 とい うのは,その
山路:旧ソ連邦の中等理科教育
に
おける教科間結合に関する研究‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 33
ような結合の形式は, しば しば形式主義的特徴 を帯びてお り,また必要な効果を与 えな いか らである。教材の利用の際には,いつ もそれを導入す る必要性 を根拠づけるべ きで あ り,何かの形式でその本質を思い出 し,それを任意の出された問題の検討のために利 用すべ きである。多 くの場合,生徒 に予め物理の分野の必要な教材を復習す るように提 起することが望 ましい。」
ここで述べ られているように隣接教科 における既習知識 を利用 して解かなければな らな いような問題を使用することによって教科間結合を実現す ることは,コルスソスカヤの挙 げている例に見 ることがで きる。 コ)レスンスカヤは,生物のダーウィニズムの基礎 (第9 学年)における有機世界の不変性に関する学習において 「その ような観念論的表象が何故 に支持 されたか
」
とい う問題 を取 り上げ,歴史や地理 における既習知識 を導入す ることに よってその問題 を解 明 している。しか しなが ら、1950年代の論文等の中では教科間結合を利用 ・実現する具体的な方法に ついて必ず しも明確 に示 されているわけではない。む しろ多 くの場合,単に隣接教科の内 容等 に基づいて 自教科の学習を行 うことが述べ られているのみであ り,具体的な方法や手 順が明 らかにされている例はほ とん ど見 られない。
Ⅷ 1950年代の教科間結合の特質
1
知識や概念の確実な習得や深化 ・発達 を目指 した教科間結合 一継承性 との関係 ‑ 1950年代の旧ソ連邦 において,教科間の関連性は一般 には主 として教育課程の編成時に 考慮 されるものであったが, しか し一部の研究者や教師達 によって教授学習過程で教科間 の関連性 を利用 ・実現す ることの必要性や意義が主張 され,その実践が試み られた。その 後一般 に使 われるようになる 「教科間結合」 とい う用語は,1950年代後半の論文等か ら登 場 してお り,この頃か ら教科間結合に対する関心は次第 に高ま り▲っっぁった と考 えられる。しか しなが ら,教科間結合の意味する ところについては当時必ず しも全員に共通理解が あったわけではない。特 に,教授学習の継承性 と教科問結合 との関係の捉 え方 には混乱が あ り,「教科間」結合の中に 「教科.内」の結合を含めた例 もあ った。 そ して この継承性 と 教科間結合 との関係の暖昧 さは,当時の教科問結合の特質の一端 を示 している。
1950年代の論文等において,教科間結合は生徒の知識や概念の形成 ・発達並びに世界観 の形成 においてその必要性や意義が指摘 されていた。 しか し同時 に,1950年代の多 くの論 文等の中では,世界観の形成 における教科間結合の必要性や意義 よりも,知識や概念の形 成 ・発達 における教科間結合の必要性や意義の方が強調 されていた ように見 える。
実際の ところ,教授学習過程 における教科間結合の欠如 による問題 として論文等で指捕 されていた ものは,主 として生徒の知識や概念の形成 ・発達 に関することであ り,生徒の 世界観の形成 における問題はほ とん ど指摘 されていなかった。 また論文中で明 らかにされ ていたさまざまな教科間結合の例において も,コルスソスカヤの場合を除いて,世界観の 形成 に言及 されているものはほ とん どな く,む しろ体系的な知識や概念の確実な習得や深 化 ・発達を中心 として述べ られていた。多 くの実践例では,何 らかの総合的理解や総合的 概念の形成ではな く,む しろ個別知識や概念の効果的 ・効率的な獲得 ・形成を 目指 して, 専 ら生物,物理,化学相互間でそれぞれ他教科の関連既習知識や概念を利用す るというの が一般的であった。
すなわち
1 9 5 0
年代の教科間結合は,生徒の世界観の形成 という狙 いも含んではいたが, む しろ直接的には知識や概念の効果的 ・効率的で確実な習得や深化 ・発達 とい うことを 目 指 して 自然科学系他教科の関連既習知識や概念を利用す るものであ った と考 え られる。そ して この ような当時の教科問結合の特質か らすれば,教授学習過程 における継承性 と教科 間結合 との本質的な違 いを兄 いだす こと自体が困難 となろう。確かに継承性は主 として教 科 内 (あるいは課程問)で考慮 されることが多 く,教科間結合は教科間の関連性を問題 としていた と考 え られ るが,その点を除けば継承性 と当時の教科間結合 とは,いずれ も生徒 の知識や概念,能力等 について効果的 ・効率的で確実な獲得 ・形成,深化 ・発達 を 目指 し て教材相互の繋 が りや関連性 を確立 しようとするものだか らである。 しか も実際には継承 性は教科間で も考慮 されるものである とすれば,継承性 と教科問結合 との違 いは一層暖昧 とな り
, 1 9 5 0
年代に両者の関係の捉 え方 に混乱があった として も不思議ではないであろう。2 生徒の世界観の形成における教科間結合の役割
上述の ように
,1 9 5 0
年代の論文等 においては,生徒の知識や概念の習得,深化 ・発達 に 比べて世界観の形成 における教科間結合の必要性や意義はあま り強調 されていなかった よ うに見 える。 しか しこの ことは,当時の教科問結合の実践が生徒の世界観q)形成 とはほ と ん ど無関係であった ことを直ちに意味するものではない。もともと旧ソ連邦の学校 で生徒 に形成 しようとしていた科学的な世界観は,弁証法的唯 物論の世界観であ り,その形成は生徒 による科学の基礎の習得 と深 く結びついた ものであ る。例 えば
1 9 5 6
年 に出版 された教育大学用教科書では,共産主義教育 における知育 に関す る説 明の中で次の ように述べ られている。「科学の基礎 を獲得することは, 自然 と社会 と人間の思考の発達の法則性 を理解する 可能性を人 々に与 える。科学の基礎で生徒を武装す ることな くしては,彼 らに科学的な 世界観の基礎 を形成することは不可能である。」 18)
すなわち,教科間結合の利用 によって直ちに生徒の世界観が形成 され るのではな く,教 科間結合の利用 によって 自然 に関する全面的で深い理解が得 られ,それが生徒の科学的世 界観の基礎 を形成する と考 え られ るのである。
したがって教授学習過程 における教科間結合の実践例は,仮 にそ こで世界観の形成 に具 体的に言及 されていなかった として も,それが少な くとも自然 に関する科学の基礎の習得 を促進するものであれば,あるいはさ らに 自然 について全面的で深い理解 を生徒 に獲得 さ せるものであれば,間接的ではあるが生徒の科学的世界観の形成 に貢献するものであった
とい うことになろう。
ただ しか し
,1 9 5 0
年代の論文等 における教科間結合の実践例の多 くでは,個別知識や概 念の効果的 ・効率的で確実な習得や深化 .発達 を直接 に 目指す ことが一般的であ り, 自然 に関する何 らかq)総合的理解や総合的概念の形成が明確 に 目指 されることはあま りなかっ た。その ような点か ら見れば,1 9 5 0
年代の教科間結合の利用 ・実現は個別科学の基礎の学 習には役立 っていた として も,必ず しも自然の全面的な理解 を生徒 に もた らす ものであっ たか どうか明 らかではな く,実際 に生徒の科学的世界観の形成 に教科間結合 自身が十分 に 貢献するものであ った と考 えることには疑問が残 るのである。山路
旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 35
3 自然科学 と教科間結合
1950年代の教科間結合は,生徒の世界観の形成 とい う狙 いを含んではいたが,む しろ直 接的には生徒における個別知識や概念の効果的 ・効率的で確実な習得や深化 ・発達 を 目指 す ことが一般的であった。 この ことは,当時の旧ソ連邦の学校教育 における科学の基礎の 重視,さらに当時の旧ソ連邦社会 における科学技術の重視や科学技術革命 における自然科 学の特質の認識 と結びつけて考 えることが 自然であろう。
科学の基礎 を生徒 に確実に習得 させ ることは, もともと工業化の要求を背景 とした人材 養成の要求か ら1930年代に体系的分科理科教育体制が導入 された際に掲げ られた重要な課 題であった19)。 したがって科学の基礎の習得は,直接的には各教科の基礎 となる各分科科 学の基礎の習得を意味 していた と言 えよう。そ して第二次世界大戦後,旧ソ連邦社会では 経済発展の必要性 か ら科学技術が重視 され,工業生産の急速な伸びや宇宙開発競争 におけ る一連の華 々しい成果 によってその姿勢が一層強化 されるとともに,科学技術革命の時代 が到来 した との認識の下で科学の基礎 を生徒 に確実 に習得 させ ることはますます重要な課 題 とされていった20)0
すなわち,分科理科教育体制下の教科間結合 を通 して生徒 に習得 ・発達 させ ようとされ た知識や概念は専 ら各分科科学の知識や概念であ り,科学技術重視,科学の基礎の習得重 視 とい う状況下で,各分科科学の基礎 を生徒 に効果的 ・効率的に習得 させ るために教科間 結合が利用 された とい う面が きわめて強かった と考 え られる。
そ して教科間結合が必要 とされた理 由の一つである個別科学相互の結びつきは,科学技 術革命の時代における自然科学の特質 として指摘 された 自然科学の諸部門間の相互関連 と 相互作用,境界 ・学際部門の誕生 ・発達 に対応するものであった と考 え られる。言い換 え れば,教科間結合は科学技術革命の時代における自然科学の特質を 自然科学の教授学習過 程 に反映させ るものであ り, 自然科学の質的変化の認識が教科間結合の登場 という形で理 科教育に影響 を与 えた と見 ることがで きる。
ところで,先 に示 した個別科学相互の結びつきを教授学習過程 に反映 させ る とい う考 え 方 には,若干異なる2つの考 え方が含まれていた。一つは,特 にロモ ノ‑ ソフの言葉 が繰 り返 し引用 されていた ことに代表 されるように,科学の諸領域 自体が相互に関連 してお り, ある領域の科学 を他の領域の科学 と無関係に理解することは困難 とす る考 え方である。他 の一 つは,ツベ トコフの指摘 に見 られた ように,個別諸科学は単一な 自然に関する科学で あるが故にそれ ら諸科学は不可避的に相互に結びついている とするものであ り, したがっ て 自然 について十分かつ全面的に認識するためにはそれ ら個別諸科学相互の結びつきを明
らかに し,それ らの相互作用を示す必要があるとする考 え方である。
いずれの考 え方 も,基本的には 自然科学の特質に対応 して個別科学相互の結びつ きに着 目す るものであるが,前者の考 え方は 自然科学の各部門 ・各個別科学の理解のために個別 科学相互の結びつ きを教授学習過程 に反映 させ ようとするものであ り,後者の考 え方は 自 然の全面的な認識のためには個別科学問の相互関連 と相互作用を示す必要があるとするも のである。そ して,1950年代の教科間結合の実践例の多 くでは個別知識や概念の効果的 ・ 効率的な習得が専 ら目指 され, 自然 に関する何 らかの総合的理解や総合的概念の形成が 目 指 され ることはあま りなかった とい う点か ら見れば,教科問結合の多 くの実践 においては 前者の考 え方が中心であ り,後者の考 え方はあま り一般的ではなかった と考 え られる。
すなわち1950年代の教科 間結合 は,科学技術革命の時代 におけ る自然科学の特質を教授 学習過程 に反映 させ るものではあ ったが, しか しそれは 自然の総合的理解 を直接 目指 した ものではな く,む しろ各分科科学の基礎 を生徒 に効果的 ・効率的 に習得 させ るための もの であ った。 この こ とは,また当時の旧ソ連邦 において科学技術 が重視 され,分科理科教育 体制の下 で生徒 における科学の基礎 の習得 が何 よ りも重視 されていた こと,そ して教科間 結合 もその ような状況か ら直接 に大 きな影響 を受けていた こ とを示 す ものであろ う。
Ⅸ おわ りに
1950年代 に本格的 に研究 と実践が開始 された教科間結合 には, さまざまな狙 いや機能 が 期待 されていたが,その実践例の多 くでは専 ら個別知識や概念の効果的 ・効率的な習得 が 目指 され また教科 間結合の意味す るもの も必ず しも一 つではなか った。 この ことは,教 科間結合が特定の理論 か ら発生 した ものではな く,む しろ科学の基礎 を重視 した実践の中 でその有用性 を認め られて きた ものであ るこ とを示 しているように思われ る。今後 , この
ような教科問結合のその後の発展 について明 らかに してい く予定であ る。
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山路 :旧ソ連邦の中等理科教育における教科間結合に関する研究
‑ 1950年代の教科間結合 ‑ 37
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