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製造業におけるサービス業務と事業システム : コ マツ建機事業のケース

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製造業におけるサービス業務と事業システム : コ マツ建機事業のケース

著者 善本 哲夫

雑誌名 同志社商学

巻 64

号 5

ページ 417‑443

発行年 2013‑03‑15

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013205

(2)

製造業におけるサービス業務と事業システム

──コマツ建機事業のケース──

善 本 哲 夫

Ⅰ はじめに

Ⅱ コマツのアフターマーケット事業

Ⅲ コマツの一貫生産体制とグローバル生産体制,マザー工場

Ⅳ 生産のありよう:コマツウェイとオペレーションの内実

Ⅴ 生産部門にみるITの活用

Ⅵ おわりに

Ⅰ は じ め に

昨今の製造企業によるサービス事業の充実化及び収益性が着目されるケース考察で は,「工業製品(モノ)が駄目ならサービスで」という短絡的な発想も散見される。サ ービス事業で収益を上げるビジネスモデルが注目されればされるほど,日本製造業に対 するある種の処方箋的な期待感を持って製造企業のサービス業への転化や重点事業シフ トが議論される。サービス事業を収益事業として確立することと,事業ドメインやコア 事業の転化は同義ではない。メーカーがサービス領域の収益事業化を実現した興味深い ケースであればあるほど,モノ事業の活動は背後に隠れてしまい,あたかも業態の「転 化」や「シフト」が進んでいるかに見えてしまう。確かに,サービス事業の収益化を目 指す企業は多くなった。例えば,業務用エアコンメーカー

A

社は故障予知や省エネ制 御に関する遠隔監視システムをうまく活用して,それらの収益事業化を目指すなど,収 益構造の重層化を狙ってい

1

る。

メーカーがサービス事業の収益化に期待を寄せると同時に,製造業研究における「モ ノとサービス」に関する議論も活発化している。例えば,製造業のサービス化(サービ ス業化)が論じられるケースでは,モノもサービスも「人工物」であり,それが提供す る機能(あるいは価値)に焦点が当てられる。企業が顧客の要求する製品固有機能をサ ービスとして提供する場合,その物理的特性は無形であり,有形の場合はモノ,とな る。つまり,製品が顧客に提供する「機能」に着目すれば,モノとサービスに区分はな くなると考えるわけである(新井・下村[2006],藤本[2012])。製造業のありようを

────────────

A社へのヒアリングによる。

417)123

(3)

考える上で,サービス研究が与えた影響は大きく,例えば,藤川[2010]は「モノとサ ービス」に関する研究の流れを解りやすく整理し,「モノかサービスか」ではなく,サ ービス・ドミナント・ロジックを中心に研究のフロンティアは「モノもサービスも」と いった両者に共通するロジックを読みといていこうという流れにある,とする。つま り,「サービス研究」はモノとサービスの対比による特性の明確化といった論点を超え て,両者を包括したロジックで経済活動を紐解いていこうという流れにある。

このように製造業研究もサービス研究も,特性の差異にみるモノとサービスの間の分 水嶺を決壊させ,経済活動自体を「広義のサービス」(service)として捉えることで,

業界区分を超えた分析や考察を展開しようとする。言い換えるならば,これら研究はサ ービス概念をモノとの対比による「財」としての特性分析から解放し,その概念を企業 が顧客に提供(あるいは提案)する価値とは何かを問う基軸コンセプトとする発想であ る。この文脈から財としてモノと対比されるサービスは,狭義概念(services)として 理解されることにな

2

る。こうした広義と狭義を巡る「サービス」議論が沸騰しているの だが,以下,本稿では財としての狭義概念をサービスと呼ぶことにする。

狭義であるか広義であるかを問わず,「サービス」概念が注目される背景には,先述 のように製造企業が抱く処方箋的期待感と無縁ではない。モノからサービスへの事業ド メインの移行,サービス事業のプロフィット化が叫ばれ,我が国製造業の新たな方向性 を模索する論点は,単純化すれば消費市場での「モノ」の付加価値が相対的に低下して いると考え,「サービス」領域の付加価値創造で競争優位あるいは収益確保を目指そう,

という思考が根底に流れている場合も多い。このことは収益の柱を「モノかサービス か」の二元論的視野で重点シフトさせていく発想だといえる。他方,「モノとサービス」

の両方によって競争優位獲得を目指そうという,複合製品的理解を重視する議論も多

3

い。

こうした製造業のサービス事業展開とその収益性で着目を浴びているのが,コマツ

(株式会社小松製作所)である。ここでいうサービスは,修理や補修部品(アフターパ ーツ)ビジネスを中心とする建設機械(以下,建機)販売後の顧客サポート全般であ り,コマツはこれらを「アフターサービス事業」と呼ぶ。コマツの建機事業が収益的に

────────────

2 客が欲しいものは機能であり,機能はモノから引き出されるサービスである。このサービス(機能)が 顧客に何らかのベネフィットを提供する。つまり,「モノとサービス」の垣根を超えようと試みる製造 業研究もサービス研究も,顧客のベネフィットは企業が提供(提案)する「機能=サービス」から生ま れると考え,サービス概念を製品としての「財」から企業が提供(提案)する「価値」へと拡張しよう とする。言い換えるならば,有形・無形を問わず財としての人工物を通じた経済活動を「機能=サービ ス」の取引で理解するのが昨今の傾向である。顧客ベネフィットの源泉を「機能=サービス」に見出 し,経済活動を「広義のサービス」で理解しようとする研究も,その提供(提案)手段であるモノとサ ービスの物理的特性区分は堅持する。

3 この解釈は目新しいものではない。例えば,伊丹[2003]による「ニーズの束」として製品を考える論 点などがある。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

124(418

(4)

苦しい時期にでも,特にアフターパーツは好調に収益を上げ続けていた。モノ事業に対 する悲観論が飛び交う中,ICT(Information & Communication Technology)の興味深い 活用ケースと合わさって,コマツのアフターマーケット事業から何かを学ぼうと,その ありようが脚光を浴びるのは当を得た製造業研究の流れでもある。長内・榊原[2012]

は工学者と経営学者からなる論文集スタイルでコマツのケースから日本製造業に対する インプリケーションを引きだそうとした。同書所収の榊原[2012]は,コマツはサービ ス事業への転化を目指したわけでもなく,また,収益構造の転換を試みたわけではない と指摘し,モノとサービスの不可分の関係で付加価値を高めていると指摘する。そし て,コマツのアフターマーケット事業確立がメーカーによる収益構造の重層化の参照ケ ースになると論じた。また,同書はモノとサービスの相互依存性や相乗効果(長内

[2012])やモノ・サービスを統合した機能設計(松本・善本[2012])などを論点に,

「メーカー」であるコマツのサービス業務の位置づけを読み解こうとしたが,他方で論 文集全体の傾向が「同社のサービス事業のありかた」に偏重している感は否めない。そ の結果,同書はコマツのサービス事業展開を「メーカーによる事業システム構築のダイ ナミズム」の中で位置づけることができていないといってよい。

建機は工作機械や産業用ロボット等産業機器と同様に生産財であり,故障による稼働 休止は仕事の遅延のみならず,顧客の機会損失を招くことになる。また,建機は過酷な 環境下にある現場で稼働する製品システムであり,故障やメンテナンス・オーバーホー ルは避けようがなく,「アフターサービス・アフターパーツ供給への着目」がこの業界 の事業構造を考える上で極めて重要な論点になる。サービス業務がコストセンター的位 置づけであったこの業界で,それらをコマツは高業績化のテコにしたのである。しかし ながら,同社はサービス事業の強化・収益化をもってして,建機メーカーとしてモノ事 業の製品開発力及び生産体制強化の歩みを止めたわけではない。

建機はライフサイクルの長い製品である。顧客のビジネスに自社建機がセットアップ されれば,長期にわたるアフターサービスからの収益が見込まれる。新車需要はマクロ な景気に左右されやすい。そのため,建機の販売台数・売り上げは常に増減する。他 方,建機が顧客のビジネスにセットアップされればされるほど,アフターサービス事業 がもたらす収益は安定する。しかし,メーカーによるアフターサービスからの収益は,

顧客にとってコストである。建機の顧客はイニシアルコストよりもランニングコストを 重視するといわれるが,安価で,かつ作業性・信頼性・耐久性・安全性に優れた製品を 選ぶであろうことは容易に想像がつく。建機はその市場特性からオーバーホールやメン テナンス,修理を前提とした事業展開を余儀なくされるが,建機本体に顧客から選ばれ る力があってこそ,アフターサービスがビジネスとして成立するわけである。つまり,

建機メーカーによるアフターサービスの収益事業化は,「自社建機の普及」を土台にし

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 419)125

(5)

ているといってよ

4

い。

アフターサービスの充実が顧客による建機選択の思案材料だとしても,すでに述べた ように製品の機能・性能が無視されるわけではない。メーカーが自らのアフターサービ スを収益事業化するためには,まず顧客による製品購入・保有が与件となる。コマツは 補修部品を中心にしたアフターサービス事業強化と同時に,「製品」自体の「顧客に選 ばれる力」を高めようとする。製品不具合発生頻度や耐久性,信頼性をある程度見切 り,保証・修理等のアフターサービスを充実させることも,一つの手段である。こうし たケースは,製品開発・設計・生産にみるエンジニアリング問題をサービス問題に切り 替える発想といえるもので,リソース配分の重点をサービス部門にシフトさせることを 意味する。つまり,これは問題解決の川下(販売後)への先延ばしといってもよい。コ マツによるアフターサービスの充実は,エンジニアリング部門からサービス部門への問 題解決とリソース配分のシフトではなく,従来からあるサービス事業への「追加的」リ ソース配分の実施であると解釈してよい。

コマツが製品の「顧客に選ばれる力」を高めようとする姿勢は,「ダントツ・プロジ ェクト」,「ダントツ商品」のスローガンに見られるエンジニアリングへのこだわりから も見て取れ

5

る。この「ダントツ」スローガンは,独自性を持ち,ライバル他社と差別化 できる製品の開発指針である。例えば,ハイブリッド型ショベルや

ICT

実装製品など が注目されている。こうした製品戦略に注目が集まる一方で,同じく外部に発信してい るコマツの生産部門の情報に着目し,同社の姿を分析した研究は意外に少ない。例え ば,コマツは海外生産を伸張させる中,一つの管理組織体としてどのようにグローバル 生産体制を構築するのか等を積極的に情報公開しているが,そうした実態からコマツの ありようを描き出す作業は見当たらない。日本建機メーカーの主戦場が海外(特に新興 国)市場に移り,同じ機種の世界同時立ち上げが要求されるなど,海外生産のありよう が同社の製品開発・設計にも影響を与え,また,アフターサービスのありようも違って くる。モノとサービスを組み合わせたモデルを仮にここでトータル事業システムと呼ぼ う。「生産事業体」であるコマツのトータル事業システムの立脚基盤における生産部門 の位置づけは,当然ながら極めて大きい。本稿の目的はコマツの生産実態から同社のト ータル事業システムの基盤を描き出すことにある。

────────────

4 建機のアフターパーツ・ビジネスは,カミソリの替え刃にみる「ジレット・モデル」やプリンターのイ ンクといった消耗品ビジネスと,本体普及をベースにする点は基本的に同じである(消耗品ビジネスに ついて,宮崎[2004]を参照されたい)。しかしながら,顧客が消耗品をセルフサービスで交換するカ ミソリやプリンターとは違い,建機は販売代理店に持ち込むか,プロのサービス要員に依頼して部品交 換・修理・メンテナンスを行わなければならず,また,バイタル部品・機能部品と消耗部品を合わせて 3万点の供給体制を構築しなければならない。つまり,建機メーカーは自前でアフターサービス網を展 開しなければならず,そのオペレーション及び構築に大きなコストを必要とする。アフターパーツ事業 を収益化するハードルは,カミソリやプリンターよりも遙かに高い。

5 「ダントツ・プロジェクト」,「ダントツ商品」について,坂根[2009]を参照されたい。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

126(420

(6)

製造業研究で「サービス」に着目する傾向や業務用エアコンメーカー

A

社の模索に みるように,モノとサービスを組み合わせ,どのような「機能の束」を開発,設計する かがメーカーに問われ始めている。その一方で,そうした活動や展開を活発化させる製 造企業の考察,評価にとって,メーカーのモノ事業がどのような立ち位置にあるのかを 知ること無くして,トータル事業システムの評価は表層的なものになってしまいかねな い。モノとサービスの効果的なミックスアップやサービス事業展開に注目が集まるコマ ツの「建機生産」への着目が,「メーカーによるサービス事業」のありようを考える上 で重要なポイントになると本稿は考えている。また,本稿には先述の論文集執筆(長内

・榊原[2012])に関わり,モノとサービスのミックスアップを試みるコマツの生産事 業体としてのダイナミズムを描ききれなかった筆者の反省も込められている。

本稿の構成は以下であ

6

る。最初にコマツのアフターサービス事業について,そのあり ようを簡潔に描写する。次に,コマツの生産実態をマクロ的な視点から生産体制のあり ようを整理する。この作業によってコマツの日本建設産業における生産事業体としての 立ち位置を明らかにする。次に工場内部の活動を描いていく。最後に,IT(Information

Technology)の生産部門における活用に焦点を当てる。

Ⅱ コマツのアフターマーケット事業

以下では,コマツのアフターマーケット事業のありようを述べていこ

7

う。掘削機械で あるショベルや積込機械のホイールローダ,運搬機械の鉱山用ブルドーザーなど多様な 建機であるが,これらは顧客への販売後のメンテナンスを前提に産業として発展してき た。建機は過酷な環境下で稼働するため激しい摩耗や故障が当たり前の製品であり,ま た,オーバーホールによる性能復元が求められるため,修理・補修部品(以下,アフタ ーパーツ)供給の体制づくりが建機メーカーの事業展開において極めて重要な位置を占 める。工場の生産設備等の他生産財と同じく,建機の顧客にとって故障やオーバーホー ル等によるダウンタイムは短ければ短いほど良く,その最小化には修理サービスのあり よう,アフターパーツのタイムリーな供給が鍵を握

8

る。建機は単独で稼働する場合もあ

────────────

6 本稿は映像情報メディア学会アントレプレナー・エンジニアリング研究会「ものづくり価値革新研究分 科会」によるコマツのアフターマーケット事業のケース研究及びコマツの協力による資料を利用してい るが,できる限りコマツの公開情報や一般的に入手可能な情報をベースに同社のありようを描くよう心 がけている。また本稿における誤りや事実違いがあれば,それはすべて筆者に帰するものである。

7 本稿におけるコマツのアフターサービス事業に関する記述は,コマツ提供の資料及び長内・榊原

[2012]を参照している。

8 修理やアフターパーツ供給体制が重要であるのは,建機だけではなく,他製品でも同様である。例え ば,自動車メーカーB社は欧州事業展開において,こうした製品販売後のアフターマーケット事業の 強化,充実を重要視する。B社のディーラーへのアフターパーツ供給は,欧州競合他社が数日要する 中,納期1日を実現するなど,非常にきめ細かに管理する体制が整備されている。B社欧州アフター! 製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 421)127

(7)

るが,大規模な建設・土木現場では複数建機の協調・連携による「システム工事」が一 般的となる。つまり,工期にあわせて建機群にそれぞれの役割・機能が配分され,工事 がデザインされる。その結果,ある建機が突然の故障によってシステムから外れた場 合,当該機械が果たすべき作業が進まないだけでなく,そのダウンタイムが他の建機の 作業をも止めてしまうことになる。システム工事に代表されるように,建機では故障か らの早期復帰のみならず,予防保全・保守が極めて重要になってくる。コマツがアフタ ーマーケット事業と総称するのは,修理及びアフターパーツ供給体制,予防保全体制を 含む建機販売後のサポート全般のサービス業務を指す。

コマツのアフターマーケット業務が大きな飛躍を見せたのは,「データ・情報の出入 り」の両方で進化する

ICT

のポテンシャルを取り込んだ点にある。まず,データ収集 について述べていこう。顧客による建機使用状況の「リアルタイム把握」がコマツのア フターサービス事業の大きな土台である。リアルタイム把握を可能としたのが,コマツ

KOMTRAX

と名付けた通信機器端末である。現在,コマツの建機は

KOMTRAX

標準装備す

9

る。この端末から車両位置,稼働時間・状況,燃料使用状況等がコマツのデ ータセンターに送られ

10

る。このデータは販売代理店と共有される。

こうしたデータから故障やメンテナンス・オーバーホールの時期が予知・検知される のだが,サービス業務は販売代理店によって行われる。コマツはデータ収集だけではな く,実作業を行う販売店サポートのためのデータ出力の仕組みも整備した。このシステ ムは

CSS-Net

と名付けられてい

11

る。その機能は,サービス業務に必要な業務用ドキュ メントを代理店に配信するものである。例えば,部品カタログやオペマニュアル等がそ のドキュメントであり,これらが作業者の業務をサポートする。

KOMTRAX

によるデータ収集と

CSS-Net

のドキュメント配信はサービス業務の効率 化に効果を発揮した。これら以外にコマツには多様なデータベースがあ

12

る。コマツはデ ータベースへのアクセスを一つにまとめた

CSS

ポータルと名付けられた入り口を構築 した。これにより,販売代理店及びサービス作業者が必要な情報を瞬時に検索,入手す ることが可能となり,故障予知・検知による予防保全や修理対応等のサービス業務が迅 速化した。この

CSS

ポータル構築によるサービス業務の作業効率化と迅速化は,建機

────────────

! パーツ部門,販売部門へのインタビューによる。ただし,この整備は欧州に限定されたものではなく,

国内外問わずグローバルに強化,充実が進められてきた。

9 建機状態の把握にICTが活用されたのはKOMTRAXがはじめてではない。それ以前にも,故障予測や 予防保全のための建機診断システムは開発,運用されていた。例えば,村上他[2002]を参照された い。

10 稼働状況等の機械の状態把握は,コマツのような建機のみならず,他生産財でも活発化している。例え ば,本文中で指摘した業務用エアコンメーカーA社や工作機器メーカーC社などである。A社,C ともにリアルタイム把握が可能である。両社への調査・インタビューによる。

11 Css-Netの展開は社内ベンチャーとしての位置づけもあった。コマツ資料及び綱川[2010]を参照。

12 例えば,故障診断情報,機械履歴情報などがある。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

128(422

(8)

のダウンタイム短縮に直接結びつくものであり,このことで

KOMTRAX

から収集され たデータがより意味のある情報になったわけであ

13

る。

アフターサービス事業に

ICT

を活用したコマツのこれら活動やシステム構築は,作 業効率化によるコストダウンと同時に,ユーザー側にとって重要なダウンタイム最小化 を実現するものであり,その結果,アフターパーツ販売をはじめとする同事業に高い収 益をもたらすことになった。例えば,2011年度のアフターパーツの売上高は約

3200

億 円であり,また建機本体よりも比較的堅い需要と安定的な収益を見込めるため,コマツ はアフターマーケット事業本部を立ち上げるなど(2012年

10

月),当該事業のさらな る展開に取り組んでい

14

る。

上記のようにメーカーによるサービス事業の収益化において,興味深い取り組みを展 開しているコマツだが,アフターサービスの充実が顧客ニーズの重要なポイントである 場合でも,自社の建機を購入してもらうことなくして,そのビジネスは成立しない。

KOMTRAX

の標準装備に見られるようにアフターサービス事業との一体的な取り組み

を念頭に置いた建機の製品戦略のみならず,本体の耐久性や故障頻度,燃費等がユーザ ーによっては重要な機能・性能評価軸となる。建機はすでに述べたように修理・メンテ ナンスが前提の製品であるため,ユーザーにとって本体購入価格よりもランニングコス ト(ライフサイクル全体で必要な修理費用,部品費用,燃料,タイヤなど消耗品費用)

の負担の方が金額的に重くなる。アフターサービスが充実していても,ランニングコス トが他社よりも高くなる場合,顧客はその製品を敬遠するケースも多

15

い。つまり,ダウ ンタイムの最小化とランニングコストを重視する顧客にとっては,稼働率の高さや故障 のしにくさといった建機本体の信頼性が製品・機種選択の指標となる。この意味では顧 客にとってアフターサービスはあくまで建機本体の性能・機能を最大限に活かすための

「付帯・補助」的な手段でしかない。コマツのアフターサービス事業から引き出せるイ ンプリケーションの一つは,付帯・補助サービスの効率化を収益に結びつけた発想と同 時に,モノとサービスが相互補完的になる仕組み作りを進めたことにある。アフターマ ーケット事業の成長は榊原[2012]が指摘した収益構造の重層化を実現させたものの,

同社が作り上げたモノとサービスにみるトータル事業の基盤を変えるものではない。コ マツのアフターマーケット事業を支える基盤は,あくまで建機事業である。アフターサ ービスの強化を進める同社だが,それはモノ事業からサービス事業への転化を目指すも

────────────

13 CSSポータルによるダウンタイム短縮について,松本・善本[2012]を参照されたい。

14 コ マ ツ 事 業 説 明 会 資 料「コ マ ツ の ア フ タ ー マ ー ケ ッ ト 戦 略(20121217日)」(http : //www.

komatsu.co.jp/CompanyInfo/ir/results/20121217/20121217AfterMarket_J.pdfを参照。また,アフターパーツ は建機よりも比較的安定した需要と収益が見込めるが,他方でコピー部品がその基盤を揺るがす脅威と なっている。コマツは純正部品を使った場合の建機本体の保証や中古車の下取り・買い取り価格等でコ ピー部品問題の脅威を最小限に抑える努力をしている。

15 もちろん,ユーザーによっては本体購入価格を重視するケースもある。

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 423)129

(9)

のではなく,モノとサービスのミックスアップとサービス業務の収益事業化の同時実現 がターゲットとなっている。

Ⅲ コマツの一貫生産体制とグローバル生産体制,マザー工場

Ⅲ.1.統合型企業コマツの一貫生産体制

KOMTRAX

やサービス事業が注目を集める一方で,コマツの建機事業のありようを

生産構造から考察した研究は見かけない。本稿は生産部門を中心とするが,日本建機産 業におけるコマツの立ち位置を最初に検討してみよ

16

う。ここでは主要な建機メーカーを 類型してみることで,コマツの建機開発・生産のありようを描き出すことにする。

建機は土木・建築作業に使用される機械の総称であるが,日本の自動車の区分の中で 特殊自動車に属する。つまり,特定用途の作業を行う作業機を取り付けた「作業車 両」,「作業自動車」であり,エンジンを搭載してい

17

る。燃焼方式の分類でみると,小型 建機ではガソリンエンジンを搭載する場合もあるが,ディーゼルエンジンが主流であ る。つまり,ブルドーザーや油圧ショベルなど,用途によって多様な建機があり形状も 様々だが,作業機を有し,エンジンを基幹部品として駆動する「自動車」であること が,多くの建機に共通することである。

このように建機は「作業自動車」であり,その特徴は用途別に取り付けられた作業機 を持つことにある。昨今の建機は動力伝達装置・作業機操縦に油圧システムを利用して いる。システムの基本要素として,エンジンの動力を油圧に変える「油圧ポンプ」,圧 力・流量・方向を制御する「コントロールバルブ」,油圧を力に変える油圧シリンダ・

モータがある。油圧システムは建機の製品特性の中核となる領域であり,エンジンとと もに最も要求品質が高くなる(構成部品コストの半分以上を占めるという)。本稿では ポンプ,バルブ,シリンダ,モータを総称して油圧機器と呼称する。

一般的に,建機メーカーは油圧機器を内製している。油圧機器を内製する企業も,そ れで自社製品のすべてをまかなえるわけではない。参考までにコマツが公表している数 値を取り上げると,油圧機器の内製化率は

70% で不二越など外部企業からも調達して

いるという。他,油圧機器を内製する建機メーカーも外部調達する傾向が強い。そのた め,日立建機のように油圧機器の大半を内製する企業であっても,カヤバ工業に出資す

────────────

16 海外メーカーのJCBやキャタピラー,中国や韓国の建機メーカーも多数あるが,本稿では日本メーカ ーに対象を絞る。本文中のエンジン事業を機軸とする類型や油圧機器に関する検討について,三菱重工 との合弁を背景とするキャタピラーグループの油圧ショベル開発・生産の主力事業所を持つキャタピラ ージャパンを除き,日本メーカーに限定している。

17 建機は排ガス規制の対象である。「特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(平成十七年五月二 十五日法律第五十一号)」を参照されたい。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

130(424

(10)

るなどし,このことで当該機器の安定調達を図るなどしている。この中でも,コマツの 内製比率は高いといってよい。

どの機器を内製するか,またその内製化率の差は各社多様である一方,「作業自動車」

である建機の製造企業をエンジン事業の有無によって区分することが可能である。本節 では,エンジンに焦点を当てて主要建機メーカーの類型を示してみたい。第

1

表は,参 考までに数社のカタログから油圧ショベル数機種を取り上げて,どこのエンジンを使っ ているかを示してい

18

る。当該表は誰でも入手可能な製品カタログ情報をベースに,日本 で使用されている建機エンジンメーカー名を表記することが目的であり,各社のエンジ ン供給購入関係を示すものではな

19

い。

────────────

18 建機メーカー間でのOEM供給が存在するため,本文中第1表は各社カタログとともに,環境省の『型 式届出特定特殊自動車一覧』を使って自社製品とOEM製品のチェックを行い,OEM製品は除いてい る。例えば,クボタの油圧ショベル「K-70-3」のエンジンは「いすゞAU-4LE2X」を使っているが,当 該機種は日立建機からOEM調達しており,こうしたケースは第1表作成において除外している。

19 本文第1表は油圧ショベルを取り上げているが,その他建機では川崎重工グループのKCMがホイール ローダで,日立建機がマイニング建機(ローディングショベル)で米国カミンズ社のエンジンを使用す るなどしている。およそ,日本建機メーカーが使用している主要エンジンは,キャタピラー,カミン!

1表 油圧ショベルのエンジン例

メーカー名 機種 エンジン メーカー名 機種 エンジン

コマツ 油圧ショベル PC128US-8

コマツ

SAA4D95LE-5 CATジャパン 油圧ショベル

303C CR

三菱 S3Q2-EDM2 L

コマツ 油圧ショベル PC200-8

コマツ

SAA6D107E-1 CATジャパン 油圧ショベル

330D

キャタピラー JDS-C9

コマツ 油圧ショベル PC1250-8

コマツ

SAA6D170E-5 CATジャパン 油圧ショベル

345D

キャタピラー JDS-C13

クボタ 油圧ショベル U-55-6

クボタ

V2607-DIEDM 住友建機 油圧ショベル

SH75X-3B

いすゞ AU-4LE2X

クボタ 油圧ショベル K-035-5

クボタ

D 1703-EDM 住友建機 油圧ショベル

SH120-5

いすゞ AJ-4JJ1X

クボタ 油圧ショベル RX-305

クボタ

D1703-EDM 住友建機 油圧ショベル

SH200-5

いすゞ AI-4HK1X

ヤンマー 油圧ショベル ViO35-5

ヤンマー

EDM-3 TNV 88 コベルコ建機 油圧ショベル

SK200

日野 J05E-TA

ヤンマー 油圧ショベル ViO70-3A

ヤンマー

KDN-4TNV98 コベルコ建機 油圧ショベル

SK850LC

コマツ SAA6D140E-5

ヤンマー 油圧ショベル B6-6A

ヤンマー

EDM-4TNV88 コベルコ建機 油圧ショベル

SK30SR-5

ヤンマー EDM-3TNV88

日立建機 油圧ショベル ZX70-3

いすゞ

AU-4LE2X 加藤製作所 油圧ショベル

HD820V

三菱 4M50-TLE3A

日立建機 油圧ショベル ZX27U-2

ヤンマー

EDM-3TNV88 加藤製作所 油圧ショベル

HD1430V

三菱 6M60-TLE3A

日立建機 油圧ショベル ZX55UR-3

クボタ

V2403-DI-2-D1 加藤製作所 油圧ショベル

D823MRV

三菱 4M50-TLE3A 注:三菱=三菱重工,日野=日野自動車

出所:各社製品カタログより筆者作成

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 425)131

(11)

基幹部品であるエンジンの自社開発・生産を基軸に類型し,内製メーカーを統合型企 業,非内製メーカーを非統合型企業と本章では位置づけ

20

る。第

1

図は主要な日本建機メ ーカーの類型を示している。日立建機,住友建機,コベルコ建機はエンジン事業を持た ず,外部調達する。第

1

表に記載しているエンジンメーカーで,同時に建機本体を生産 するメーカーはヤンマー,クボタ,コマツ,キャタピラージャパン(旧新三菱・キャタ ピラー)である。このように主要建機企業はエンジンを自社及び企業グループ内で開発

・生産するメーカーと,エンジンメーカーやトラックメーカー,他建機メーカーから購 入するメーカーとに大別できる。

本稿ではヤンマーのように建機事業体が自らエンジンを開発・生産していないが,企 業グループ内で行っている場合は統合型と位置づけてい

21

る。これはキャタピラージャパ ンについても同様であ

22

る。つまり,本稿では企業グループ内で建機用エンジンを開発・

生産している場合を統合型と呼び,他方で企業グループ内でもエンジン事業を持ってい ない場合を非統合型と呼んでいる。

本節で類型した統合型企業の

4

社も,有するエンジンサイズ(出力)の違いからさら に

2

つに区分でき

23

る。コマツとキャタピラーはアーティキュレートダンプトラックや大 型ショベルなど鉱山(マイニング)建機向けの大型エンジンから小型エンジンまで有す る一方,ヤンマーとクボタは小型エンジンに特化する。このエンジンサイズに着目する と,統合型企業をさらにフルラインアップ型と小型特化型に類型化することができる

────────────

! ズ,いすゞ,日野,三菱重工,ヤンマー,クボタ,コマツだといってよい。

20 こうした基幹部品の内製有無を基軸にした企業類型については,善本[2004],榊原[2005]を参照さ れたい。

21 ヤンマーの建機開発・生産は子会社であるヤンマー建機が担っており,エンジンはヤンマーが供給す る。ヤンマー建機はヤンマーの製造子会社であるセイレイ工業が会社分割した建機生産部門を母体とし 設立された。その後ヤンマーは自社の建機事業部門を統合している。セイレイ工業による会社分割につ い て は,同 社 プ レ ス リ リ ー ス を 参 照(20116月 参 照):http : //www.seirei.co.jp/info/pdf/20040621_

bunkatu.pdf。

22 キャタピラージャパンは三菱重工とキャタピラー社の合弁であり,両企業からエンジン供給を受けてい る。つまり,2つのエンジン供給先を持つ統合型企業であるといえる。

23 統合型企業各社はエンジンを他社に外販もしているし,他社から購入もしている。例えば,コマツはほ とんどの機種で自社エンジンを搭載するが,ヤンマーのエンジンを使った機種などを開発し,製品化す るケースもある(梶谷[2007])。外販に目を向けると,例えば,コベルコ建機の大型油圧ショベル「SK

850LC」にはコマツのSAA6D140E-5-Aが搭載されている。またコマツのエンジン子会社であるコマツ

カミンズエンジン(米国カミンズとの合弁)ではカミンズエンジン(B3.3C8.3など)を生産してお り,合弁先であるカミンズ社に供給され,販売されている。正確にはコマツによるカミンズのエンジン 委託生産だが,ここでは広い意味でコマツ製エンジンの外販だと位置づけておこう。しかしながら,外 販も行うがコマツのエンジン事業は自社建機搭載がその位置づけであり,ヤンマーやクボタは多くの非 統合企業にエンジンを供給するなど,そのエンジン事業(小型エンジン)は外販ビジネスを積極展開 し,グループ全体の収益事業となっている。例えば,日立建機(2009年に完全子会社化したTCM 含む)やコベルコ建機は多くの自社建機にクボタ製・ヤンマー製エンジンを使用している。エンジンビ ジネスは両社の中核事業でもある。またキャタピラージャパンもエンジン調達先の親会社である米国キ ャタピラー及び三菱重工業のエンジン事業が外販に積極的である。統合型企業によるエンジン取引に目 を向けると,その外販動向から統合型企業をさらに類型化できると考えられるが,当該作業は別稿に委 ねたい。本稿ではエンジン事業の有無と品種展開からの類型からのみ,コマツを位置づけている。

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(12)

(第

1

図)。

以上から,本章が検討するコマツの日本建機業界での立ち位置を整理してみよう。コ マツは統合型企業であり,油圧機器の内製比率も高い。コマツは建機の製品特性・構造 上,その中核をなす部品を内製し,それを自社建機本体に使用する一貫生産体制を構築 しているメーカーだといってよい。

同社は自社製品のスローガンとして「ダントツ商品」を掲げている。グローバル生産 が加速度的に進む昨今,一貫生産体制を持つコマツは建機本体とエンジンや油圧機器に みる開発・生産事業所の国内外の物理的立地を使い分けることで,「ダントツ商品」の 製品競争力を高めるような工場編成を形作ろうとしている。建機本体は消費地生産を基 本に多極展開する一方,基幹・重要部品は日本国内に一極集中させる工場編成を試み る。以下では,コマツのグローバル生産体制のありようを見ていこう。

Ⅲ.2.コマツのグローバル生産体制

本節はグローバル生産体制からコマツ内のマクロな生産組織についてその概要を述べ ていく。コマツは消費地生産を基本とする。コマツの産業機械等を除く建機事業の生産 体制を見てみよう。第

2

表はコマツの公開資料(『2010年度コマツ・ファクトブック))

から借用している。部品工場を含め,世界で

45

カ所あり,その内商品開発機を有する 拠点が

9

つある。コマツはこれら

9

つの工場を「マザー工場」と位置づけている。国内 は

4

事業所,海外が

5

事業所である。海外マザー工場はアメリカ,ドイツ(2事業所),

イタリア,スウェーデンの

4

カ国にある。2011年の段階で,日本を除くアジア域内に は存在しない。日本のマザー工場は粟津工場,大阪工場,茨城工場,茨木工場であ

24

る。

海外コンポーネント・部品工場が

16

カ所あるが,車両生産とともにエンジンも海外

────────────

24 栃木工場はもともと20114月にコマツが吸収合併した子会社コマツユーティリティである。吸収合 併以前も同社は開発機能を持っており,マザー工場と位置づけられていた。

1図 主要建機メーカーの類型(エンジン事業基軸)

注:ヤンマーはヤンマー建機が建機開発・生産を担っているが,企業グル ープ内でエンジン事業を展開しており,自社製品に搭載していること から統合型企業としている。また社名もヤンマーで表記している。

出所:筆者作成。

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 427)133

(13)

生産する自動車メーカーとは違い,建機の性能を左右するエンジンやトランスミッショ ン,油圧機器など基幹部品・重要コンポーネントは日本国内工場で一極集中生産してい

25

る。その結果,建機車両コストにみる部品の現地化率はそれほど高くない。

3

表にあるように,海外生産高比率は

59%(2010

3

月),海外売上に占める海外 生産高比率は

72% となっている。前者の比率よりも後者が高くなっているのは,先述

のように基幹部品・重要部品の海外生産を行っていないためであり,このことを考慮す れば,当該数値から建機車両本体にみる海外生産・販売体制が着実に構築されつつある ことが読み取れる。グローバル生産体制下における各工場の位置づけや能力や負荷等か らタイ工場のように中南米・北米市場やオセアニア市場向けの輸出基地となっている拠 点もあるが(中型油圧ショベル),基本は需要の大きな地域での消費地生産を基軸とし ている。

コマツの部品・コンポーネントと建機車両本体は基本,別工場の生産となっている。

────────────

25 基本はエンジンを日本国内で生産し,海外工場に供給しているが,北米のカミンズコマツエンジンカン パニーが大型ディーゼルエンジンを生産するなど,一部地域では同社等からからエンジンを調達してい るケースもある。しかしながら,これらはコマツの中で非常に限られたケースである。

2表 コマツのグローバル生産体制

出所:コマツ[2010]『ファクトブック2010』より借用。

3表 コマツの海外生産高比率

出所:コマツ[2010]『ファクトブック2010』より借用。

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(14)

例えば,日本を取り上げると,第

4

表のように本体工場と部品・コンポーネント工場は 分かれてい

26

る。しかし,他方で日本の粟津工場,大阪工場は本体車両とともに,重要コ ンポーネントを同一事業所内で生産する拠点となっている。第

5

表は粟津工場と大阪工 場の生産品目を示している。第

4

表では粟津・大阪両工場は本体工場で計上されてお り,コマツの日本国内部品・コンポーネント工場は

6

つとなっている。両工場を合わせ ると部品・コンポーネントの生産拠点は計

8

カ所となるが,他方で第

4

表にあるコマツ カミンズエンジン(コマツ持ち分法適用関連会社:出資比率

50%,米国カミンズ社)

はコマツ小山工場内にあるため,事業所単位でみると事実上,7カ所といってよい。

粟津工場,大阪工場はコマツが位置づけるマザー工場でもあり,開発,重要コンポー ネント生産,本体生産機能を併せ持つコマツの基幹拠点といえる。粟津工場は中小型,

大阪工場は大型の建機車両工場となっており,製品サイズカテゴリーをベースに開発・

生産分業を行っている。

海外生産において,コマツは新興国事業に力点を置いている(2011年段階)。コマツ は中国,東南アジア,インド,中近東,CIS を含む広い意味でのアジアを「グレーター

────────────

26 本稿ではコマツのグループ内生産子会社を「工場」と位置づける。子会社であるがコマツの生産機能を 事実上担っており,コマツも公開資料にてコマツの「工場」として位置づけていることから,ここでも 同様に位置づけている。

4表 コマツの日本国内工場(20113月段階)

コンポーネント・部品工場 生産品目 本体工場 生産品目 小山工場 ディーゼルエンジン

油圧機器 アクスル

粟津工場 中・小型ブルドーザー 中・小型油圧ショベル 中・小型ホイールローダー モーターグレーダー

郡山工場 油圧機器 大阪工場 大型ブルドーザー

中・大型油圧ショベル 湘南工場 エレクトロニクスコンポ

ーネント

茨城工場 大型ホイールローダー ダンプトラック

アーティキュレートダンプトラック 大型ホイールドーザー

コマツカミンズエンジン 小型ディーゼルエンジン 金沢工場 超大型油圧ショベル コマツキャステックス 鍛造部品 六甲工場 超大型ブルドーザー 超大型油圧ショベル コマツキャブテック キャブ

空調機器

栃木工場 フォークリフト ミニショベル ミニホイールローダー

注:コマツキャステックス,コマツキャプテックはコマツの100% 子会社であり,コマツカミンズエンジ ンは米国カミンズ社との合弁会社であり,コマツの出資比率は50% である。

注:茨木工場は20114月にコマツに吸収合併された100% 子会社のコマツユーティリティである。

出所:コマツ〔2010〕『ファクトブック2010』及びコマツ公開資料をもとに作成。

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 429)135

(15)

・アジアと呼び,当該圏内での現地生産を積極的に展開する。例えば,中国における建 機需要は高い伸びを見せており,建機車両本体の生産能力アップと生産機種数を増加さ せている。第

2

図は,コマツ調べによる油圧ショベル(クローラー式・ホイール式),

ホイールローダ,ブルドーザー,モーターグレーダ,ダンプトラック(リジッド式・アー ティキュレート式)の

7

機種世界需要推移を示している。2009年度よりそれまで市場 を牽引してきた日欧米地域を抜いて,中国とその他(アジア【日本および中国を除く】,

オセアニア,中南米,CIS,中近東,アフリカ)が需要構成比の

50% を超えている。

国内外の各工場が異なる機種を生産しているかといえば,そうではない。例えば,

「PC 200-8」(コマツでは,8型と呼ばれている)は当初から「グローバルマシン」とし て海外生産を念頭において開発されており,複数の国・地域で量産されてい

27

る。

────────────

27 辻・寺中[2005]を参照。

5表 粟津工場,大阪工場の主要生産品目(20113月段階)

生産品目

(建機本体)

生産品目

(コンポーネント・部品)

粟津工場

中・小型ブルドーザー 中・小型油圧ショベル 中・小型ホイールローダー モーターグレーダー

トランスミッション アクスル(車軸)

大阪工場 大型ブルドーザー 中・大型油圧ショベル

減速機

出所:コマツ[2010]『20103月期アニュアルレポート』をもとに作成。

2図 需要の地域別構成比

出所:コマツ[2010]『ファクトブック2010』より借用。

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136(430

(16)

2000

年以降,海外事業の伸びともに,「グレーター・アジア」を基軸に海外生産は増 加させる一方,日本国内工場は再編が進んでいる。例えば,2010年に真岡工場が閉鎖 されており,ダンプトラック等が茨城工場に生産移管された。コマツユーティリティは 茨木工場の他,川越工場でミニショベルを生産していたが,栃木工場に生産統合した。

コマツユーティリティは

2011

2

月にコマツに簡易吸収合併されることが決定し,同 社は解散し,事業所はコマツの茨木工場となっている。こうした再編はあるものの,コ マツは日本生産にこだわる。協力企業を含めた国内の生産部門の強さを活用することが 目的であ

28

る。

Ⅲ.3.マザー工場の機能

先述のように,コマツでは開発機能を持つ工場を「マザー工場」と呼ぶ。その一方 で,海外マザー工場と日本マザー工場とでは,その位置づけが違ってくる。大阪工場の ケースを取り上げよう。第

3

図をみてみよう。コマツが考えるマザー工場の役割として の

4

ミッションが記載されている(日経

BP

社[2008])。製品開発と工程開発・生産技 術開発などの開発機能,海外工場の支援や技術移転とともに,グローバル生産体制下に おける部品調達体制のありようと工場活用がマザー工場の役割となっている。つまり,

大阪工場は大型建機の開発・生産事業所である一方,海外工場のオペレーションを統括 する拠点である。マザー工場の定義は各社多様であるが,グローバル生産体制下におけ る「いわゆるマザー」の最も重要な役割は,オペレーション統括機能にある(善本

[2011])。海外生産比率が国内生産を上回る企業にとって,海外工場のオペレーション 実態を分析,評価しながら,コントロールすることが「いわゆるマザー」に求められて いるマザー「機能」である。「いわゆるマザー」による海外工場支援や技術移転は,オ ペレーションの評価能力なくして実現できないといってよい。海外工場を評価できる知 識とノウハウの蓄積が日本国内の「マザー工場」を他の海外マザー工場と分かつ質的違 いを生んでいる。この意味ではコマツが「開発機能を有する工場」を「マザー工場」と 定義する一方で,同社の「マザー工場同士の関係性」には一つの管理組織体内における 親子関係が内在しているとみてよい。

本稿では,コマツが呼称する「マザー工場」について,オペレーション統括機能を軸 に区分し,それを有する工場を「マザー工場」とし,それを持たないが開発機能を有す る工場を「開発・生産工場」と呼ぶことにする。

────────────

28 設計技術や材料,部品など入手できるものの豊富さに加え,部品・材料メーカーとの「知恵の出し合 い」など,海外に比べた日本の有利さを坂根は述べる(坂根[2012])。技術力を持ったサプライヤーと の知恵の出し合いなど,最終製品メーカーが頻繁に顔を合わせてコミュニケーションをとりやすい生産

・開発拠点間の「摺り合わせ距離」ともいえる空間的距離が,日本での開発・生産の立地上のメリット として存在する(小川[2004],善本・新宅・小川[2005])。

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 431)137

(17)

海外の開発・生産機工場と日本マザー工場の間で親子関係があるように,マザー工場 は生産機能に特化した工場についてもその実態を分析,評価しコントロールする。しか しながら,マザー工場と他工場の関係は,前者による一方的なオペレーションコントロ ールを意味するわけではない。海外工場のオペレーションを日本マザー工場からリモー トコントロールするわけではなく,あくまで現地工場の自律的なオペレーションを重視 する。つまり,どの工場で何がいつ生産されているかについて日本マザー工場は完全に 把握しているが,その実態から都度に口出しすることはない。

海外工場の数やその生産数量,生産機種が増えれば増えるほど,効率的なグローバル 生産体制の内的編成は複雑化する。「グレーター・アジア」を中心に海外事業展開を加 速させているコマツにとって,各国・地域のオペレーション統括機能がますます重要に なっている。そのためにも,工場の実態を「見える化」することがポイントとなる。後 述のように,コマツは海外工場の分析,評価に向けた「見える化」に生産系

IT

を効果 的に活用する仕組みを構築している。

Ⅳ 生産のありよう:コマツウェイとオペレーションの内実

コマツのグローバル生産体制のありようを描いてきた。コマツ会長の坂根正弘氏は,

製造業の強さは生産部門が支えていると断言し,また,日本の強みをフル活用すること を唱え

29

る。以下では,国内の粟津工場をケースにコマツのオペレーションについて述べ ていくが,最初に同社の行動様式を明文化した「コマツウェイ」を紐解きながら,生産 部門の指針についてその概略を見てい

30

く。次にホイールローダを対象にオペレーション のありようを描いていく。

────────────

29 坂根[2012]を参照。

30 『コマツウェイ』の内容は同社の内部資料をもとにしている。

3図 マザー工場の役割

出所:日経BP社[2008]の第1図をもとに,筆者が簡素化して作成。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

138(432

(18)

Ⅳ.1.コマツウェイ

「コマツウェイ」は

2006

7

月に策定された。「コマツウェイとは何か?」について,

社長メッセージとして下記のように記載してある。「コマツの経営の基本は,「品質と信 頼性」を追求し,企業価値を最大化することです。その「企業価値」とは,私たちを取 り巻く社会と全てのステークホルダーからの信頼度の総和であると考えています。特に コマツは,信頼度向上のために,これまでもコーポレートガバナンスの充実とモノ作り 競争力の強化に努め,コマツの強さの厳選としてきまし

31

た」とある。当該記載の中にあ る「モノ作り」について,コマツは以下のように定義する。「コマツで「モノ作り」と 言う場合には狭い意味での製造現場での活動だけを指しているのではありません。開 発,生産,販売,サービスに加えて管理部門などの社内部門はもちろん協力企業や代理 店などバリューチェーンを構成するすべての部門・パートナーが一体となって行う活動 のことを「モノ作り」と呼んでいま

32

す」。

つまり,コマツはサプライヤーや代理店まで含めた同社が中核となって構築している 自社のトータルシステムを「モノ作り」と定義する。同社は,「モノ作り」における

「コマツウェイ」の中核について,7項目(Seven Ways of Komatsu:品質と信頼性の追 求,顧客重視,源流管理,現場主義,方針展開,ビジネスパートナーとの連携,人材育 成・活力)を挙げている。本稿では詳細は述べないが,同社資料『コマツウェイ』の中 で各項目についてその意味を明文化してい

33

る。

こうしたコマツ全体を貫く行動指針を大枠として,さらに『コマツウェイ』は生産や プロダクトサポートなどの各部門の活動に合わせて具体的に整理・展開されている。以 下では,『コマツウェイ・生産編』(以下,『生産編』)を取り上げてみよう。本稿で全て を紹介することはできないため,細目をいくつか取り上げて述べていく。

生産部門の方針・マインドとして「補給部品はロットより優先」するとある。これ は,ユーザーが使用しているコマツ製品の稼働を止めないために,補給部品生産を最優 先することを意味する。次にオペレーションに関する方針を見てみよう。「組立ライン は止めるな」とある。まずは「事前防止が大切ということであり,ラインを止めない配 慮・フォローがあれば,ラインストップは回避でき

34

る」と記述している。つまり,現場 が常に工程のありようを分析・評価して実態把握に努め,不具合・問題予備軍を迎え撃 つ姿勢について述べているわけであ

35

る。また,問題が発見されれば,「関係者を集めて

────────────

31 『コマツウェイ』6ページ。

32 『コマツウェイ』7ページ。

33 例えば,「品質と信頼性の追求」について6つの細目に分けて説明している。

34 『生産編』3ページ。

35 問題が発生しても,タクト内で解決・復旧できればラインは止めずに済むが,この指針は単発不具合に よるラインストップをいかに防止するかを論点にしているわけではなく,アンドン呼び出し回数を減ら す等,不具合可能性を事前に検討し,改善することの重要性を述べている。

製造業におけるサービス業務と事業システム(善本) 433)139

(19)

対策・挽回することが,当たり前に行われて初めて可

36

能」と述べる。

コマツは細目で現場力についても定義する。「現場力とは改善を継続できる力」とす る。つまり,現場力を標準作業維持継続と改善継続の総合力と考えている。持続的な改 善 と は,常 に 高 い パ フ ォ ー マ ン ス を 目 指 し て 標 準 を 改 訂 す る こ と で あ る(藤 本

[2001])。標準を基軸にオペレーションを安定させ,このことをベースとしながらパフ ォーマンスを向上させていくサイクルの確立は現場育成の基本である。その他,生産変 動に関するフレキシビリティや後工程重視の考え方について述べられている。

以上,『生産編』を取り上げたが,生産については『コマツウェイ・全社共通編』で も多くの指針がある。例えば,「素材〜組立まで一気通貫で考えなさい」とあり,作業 者の担当工程だけではなく,その前後工程も視野に入れて全体最適で考える改善を進め るよう述べている。

ここで取り上げた『生産編』にある補給部品の優先度など興味深い内容もあるが,

『コマツウェイ』にみる生産部門の行動指針は,多くの日本企業が現場育成で重視して きたことであり,コマツが培ってきた知識は「優良」と呼ばれる現場の特性を持ってい るといえる。言葉を換えれば,『コマツウェイ』にある生産部門の行動指針は,現地・

現物・現実に基づく現場診断とチームワーク作業を基軸とする「あるべき姿」を示して おり,また優良現場の基本を説いているといってよい。

Ⅳ.2.ホイールローダ生産のケース:粟津工

37

粟津工場は

1938

年に農耕用トラクタの生産拠点として操業を開始した。建機生産は 戦後のブルドーザーを皮切りに,1970年代に油圧ショベル,1990年代にホイールロー ダ,2000年代にモーターグレーダと建機事業の主力拠点となっている。当該工場は第

5

表にあるように,建機

4

種を生産しており,生産品目を変えてきたわけではなく,増や してきた。同時に,コマツのトランスミッションの開発・生産を一手に担う拠点でもあ る。粟津は中・小型機の工場であり,大型建機は大阪工場で生産される。履帯車両(油 圧ショベル・ブルドーザ)とホイル車両(ホイールローダ,モータグレーダ)はそれぞ れ別ラインとなっており,各

1

本の組立ラインを持つ。工場面積は敷地

710,000 m

2,建 屋

233,000 m

2であり,組立工場以外に開発センター,性能テスト場を有する。

粟津工場はマザー工場として

4

つの海外工場(アメリカ,ドイツ,ブラジル,中国)

の支援・統括を行う。粟津工場で作成された作業標準やラインコンセプトが海外工場に 移管され,現地オペレーションのベースとなる。

────────────

36 『生産編』3ページ。

37 以下の記述はコマツ粟津工場の協力による。生産品目や機種等の工場概要については2010年段階のも のである。

同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)

140(434

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