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会計学への社会言語学の適用 一社会会計学の確立に向けて-

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会計学への社会言語学の適用

一社会会計学の確立に向けて-

永野則雄 1はじめに

2社会会計学の領域 3社会会計学の対象 4社会会計学の理論的性格 5社会会計学の意義 6おわりに

う表現は社会会計の学とも誤解されかねないし,

また何となく裾わりの悪い感じがしないでもない。

「会計の社会学」と名付けるのもひとつの方法で あるが,後で述べるように,「会計社会学」と区 別することもあり,また社会学ではなくて会計学 であることを強調する意味でも「社会会計学」と

したのである。

私が社会言語学に出会ったのは,会計が言語で あり,社会言語学が言語と社会との関係を扱って いるという表面的な結びつきからではない。数年 前から会計変化に関心を持つようになり,それと 似た言語変化を扱う言語学の領域として社会言語 学があることを知ったからである。言語変化を扱 う社会言語学は言語史を扱う歴史言語学とは重な り合うものの,異なる理論分野として成立してい る。そこでの言語変化の理論が会計変化の理論と 類似した議論をしていることに気付いたのである。

しかしながら,言語変化の理論は言語学でも確立 した研究領域であるが,会計変化の理論はそうで はない。会計変化の理論はおろか,「会計変化」

という言葉さえ学界において認知されていないの が現状である。

社会言語学は,後述するように,会計変化だけ でなく,さまざまな領域での言語と社会との関わ りを扱うことができる。それゆえ会計学がさまざ まな場面での会計と社会との関わりを扱うとすれ ば,社会言語学の成果を援用することが期待でき るのである。

以下では,社会言語学の議論を参考にして社会 会計学の可能性を探ることにしたい。最初は,社 会会計学の領域としてどのような分野が考えられ るかを取り上げている。次に,社会会計学が会計 を扱うのか社会を扱うのかという研究対象につい て論じ,会計社会学と社会会計学との違いにも言 及する。さらに,社会会計学が理論としてどのよ 1はじめに

会計が社会的な存在であり,それゆえ会計と社 会との関わりを探究することに現在では異論は生 じないであろう。その際,会計と社会との関わり ということで,大きく2つの探究の仕方がありえ る。ひとつは,会計の社会性の観点から会計の対 象を企業の財務面に狭く限定するのではなく,環 境などの社会面にも広げるというものである。社 会責任会計や環境会計などがこれに該当する。会 計の社会化と言えよう。

もうひとつは,会計を単なる計算技術的な存在 と見て会計学に限定して探究をするのではなく,

会計を社会的な存在と見て社会学など他の学問領 域の助けを借りて探究するというものである。本 稿は,こうした方向での探究の試みであるc会計 学の社会学化とも言うことができよう。

会計学において社会学を援用した研究は,後で も紹介するように,既に行われている。本稿では,

社会学を直接的に適用することではなく,言語学 の-領域である社会言語学を会計学に適用する可 能性について論じている。会計が言語の-形態で あるという認識は一般的になっている。それゆえ,

「社会言語学は,言語を社会との関連の中で研究 することだと定義できる」[ハドソン,1988,9 頁]という表現における2つの「言語」を「会計」

に置き換えれば,これはまさに本稿での探究の試 みを言い表したものとなる。「社会会計学」とい

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うな性格を持っているか,たとえば理論的なもの であるか応用であるかといった議論を扱う。最後 に,言語学の主流とも見られるチョムスキーの生 成文法と社会言語学がどのような関係にあるかを 述べて社会会計学の意義なり位置づけなりを論じ

ることにする。

領域とどのような関わりがあるか,これまで会計 研究者が援用してきたものも含めて示すことにし たい。それによって社会言語学と会計学とが意外 に近いものであることが理解されよう。

「コードの選択」では二言語併用(バイリンガ ル)あるいは多言語併用(マルチリンガル)の問 題も扱われている。会計理論への二言語併用の研 究の適用としてはベルカウイの研究がある[Belk- aoui,1995b,ch4](1)。たとえば英語だけの単 一言語を使用する会計人と比べて,英語と仏語と いう2つの言語を使うバイリンガルの会計人は会 計諸概念の知覚力や理解力が優れていると,ベル カウイは論じている。このベルカウイの研究に言 及したものとしては全[1992]がある。他に,長 谷川[1993]は会計の国際的調和の問題に対して 二言語併用の研究を援用している。

「地域的・社会的な差異」と「差異の研究」は 方言といった地域的な差異や社会集団における差 異を扱っている。国や業種,企業によって会計方 法が異なるといった会計上の差異が認められるが,

これを社会言語学的な方法によって研究すること も可能であろう。また,言語変化はこうした言語 の差異があるから生じるものであり,言語変化の 研究と密接に関わる領域である。会計変化につい ても同様である。こうした差異の研究ではラポフ によるニューヨーク市における調査が有名である。

これは社会言語学の輝かしい成果としてワォード ホーのテキストも含めて多くの文献でも説明され ている。そこで,社会言語学の一端を知るために も,田中[1993]に従ってラポフの研究を簡単に 取り上げておくことにしたい。

アメリカ英語では,たとえば「car」の発音で

「r」を巻き舌で発音することがそれまで下品とさ れていたが,1960年代になってそれが逆転して,

むしろ巻き舌で発音することがプレステイージ (威信)が高いと見られるようになった。こうし た言語変化をラポフは,アメリカの社会階層を上 から下へと5つに分けて,階層ごとに,このプレ ステイージのある発音に向かおうとする熱意の強 さを測定した。その結果として,中流の下あたり の人たちが,最も強くプレスティージを求めると いうことを発見した。すなわち,地位上昇の意欲 を強くもつ階層が,プレスティージがあると見な 2社会会計学の領域

社会言語学が言語を社会との関連の中で研究す るものであるという定義を知ったところで,それ がどのような主題を扱うのかは分かりにくい。そ こで社会言語学のテキストを参照することによっ て,社会言語学がどのような主題を扱っているか を見ることにしたい。こうすることによって社会 言語学が扱う領域がどのようなものかを垣間見る ことができる。

この点ではワォードホーのテキスト[Wardha‐

u9h,1992]がよかろう。その目次を記せば,次 のようになっている。

l序論

2言語と方言と変種

3ピジンとクレオールという言語 4コードの選択

5言語共同体

6地域的・社会的な差異

7差異の研究:いくつかの研究成果と 課題

8言語変化 9言語と文化

10民俗誌とエスノメソドロジー 11連帯意識と礼儀正しさ 12行為と会話

13言語と性 14言語と不利益 15言語計画 16むすび

これからも分かるように,社会言語学はさまざ まな主題を扱っている。ここで掲げられた主題は 互いに独立しているというのではなく,相互に関 連している場合も多い。こうした主題が会計学の

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されるようになった発音を積極的に身につけよう としたという。つまり,この階層の人々が言語変 化の推進役であることを見出したのである。ラポ フはこのように,言語変化をあたかも自然変化の ように自律的変化として見るのではなく,言語変 化を実証的に社会階層と結びつけ,それを人間の 意志の加わった主体的な活動の結果としてとらえ ることに成功したのである。

「言語と文化」では,サピァーウォーフの仮説 とよばれる言語学上の命題が扱われている。サピ アーウォーフの仮説とは「言語と人間の経験の様 式には関係がある」ということである[サピア・

ウォーフ・他,1970,249頁(訳者解説)]。とき には,言語が文化や認識を決定する,あるいは影 響するといった風に定式化されることもある。そ れゆえ,言語的相対論とも言語的決定論とも称さ れる。会計学ではベルカウイ[Belkaoui,1990;

1995a;l995b]や青柳[1991]が取り上げてい る。とりわけベルカウイは会計の判断・決定のプ ロセスが認知過程に決定されると考え,その認知 過程を相対的なものであるとして,認知的相対論 (cognitiverelativism),文化的(cultural)相対

論,言語的(linguistic)相対論,組織的(organ‐

izational)相対論,契約的(contractual)相対 論という相対論の重層構造によって形成されると 見ているのである[Belkaoui,1990]。

「民俗誌とエスノメソドロジー」で示されてい る民俗誌(ethnography)とエスノメソドロジー (ethnomethodology)とは社会言語学の扱う領 域ではなく,むしろその領域をどのように扱うか という社会学の方法と言える。この両者とも分か りやすく説明することは困難なものである。たと えば「民俗誌は,特定時代の特定の状況,特定の 事情を研究しようというものです。民俗誌は,あ る状況の固有で実質的な特徴を記述します」と説 明され,エスノメソドロジーが「日常の諸活動が どう成し遂げられるかというその方法」を研究す ると説明されている[サーサス・他,1989,14.

17頁]。ここではこうした研究活動が社会生活に おける言語を研究するために用いられていること を知るだけでよかろう。会計学においてもトムキ ンズーグラヴズが,エスノメソドロジーの観点か ら現場の会計人を研究する可能性を指摘している

[TomkinsandGroves,1983,p、371]。なお,こ

のトムキンズーグラヴズの研究については酒巻 [1992]と新谷[1994]が言及している。

「行為と会話」ではオースティン(J・LAus‐

tin)に端を発する言語行為論などが取り上げら れている。言語行為論は会計学においても青柳 [1979;1991]が適用している。

「言語と性」は言語と男女差を扱っている。会 計学においてもAccounting,Organizationsand Society誌上で「会計と`性」と題する特集が組ま れたことがある(2)。

「言語と不利益」では日本の教育界にも影響を 及ぼしたというバーンスタイン(BBernstein)

のコード論が扱われている。会計学では青柳 [1991]でバーンスタインの理論による分析が試 みられている。

「言語計画」は会計においては会計原則の改変 に関係する。すなわち,「言語計画は意図的な言 語変化」[McMahon,1994,p、12]と言われるが;

会計原則を改変することは会計を意図的に変化さ せることであると考えられるからである。その点 でも言語計画の研究は会計変化と関わりをもつと 見られる。

これまで述べてきたことから分かるように,社 会言語学の扱う領域は極めて広い。また,そのア プローチもさまざまである。それゆえ,社会言語 学について次のように言われても仕方ないことで あろう。

「一方はことば,他方は社会,あるいは文化

あるいは行動,この両者のあいだの連関はこれま でに否定されたことはない。しかし現在までのと ころ,研究者のあいだでは,この連関の性質につ いて一致した見解は全く立てられていない。それ ゆえ,ここで取り扱うのは,単一の学問というよ りむしろ,さまざまな命題や探求の集まりであり,

その不統一は多様な呼び名にまで反i典している-

ことばの社会学,社会言語学,民族言語学,言語 人類学,人類学的言語学,など」[デュクロート

ドロフ,1975,108頁]。

日本では「社会言語学といえば,方言学のやや 発展したもの,どのみち言語学の傍流の一隅を占

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めるにすぎず,学会も専門雑誌もないのが現状な のだ」[シュリーベンーランゲ,1990,194頁(訳 者あとがき)]と嘆かれているぐらいである。そ の後,日本語文献としては田中[1993]が出て,

社会言語学の意義,とりわけチョムスキーの生成 文法に対する意義を鮮やかに解説している。しか し,それでも参考文献は少ない。それゆえ,多少 は会計学から離れることになるかもしれないが,

社会言語学を少し詳しく述べることにしたい。

注意すべきは,言語と社会を別個の独立した存在 として見なしてはならないということである。す

なわち,「言語と社会との結びつきは,けっして

モノとして自存する二つの実体の静的な相関関係

とみなしてはならない」[シュリーベンーランゲ,

1990,25頁]のである。言語について言えば,後 で述べるように,言語が自律的な存在であり,そ

れが社会という別の自律的な存在と関わりがある というのではない。言語それ自体が社会的な存在 なのである。したがって,言語と社会を切り離し て別個に扱うことは便宜的なものであると言えよ う。こうしたことから,社会言語学と言語社会学 も力点をどこに檀くかの違いであり,「両者は重 なる領域が非常に大きいので,これ以上境界をはっ

きりさせようとしても,あまり意味がない」[ハ

ドソン,1988,14頁]ということなる。

社会言語学と言語社会学との区別に相当するも のが会計と社会との関係を研究する領域にあると すれば,それを「社会会計学」と「会計社会学」

と名付けることができよう。すなわち,社会会計

学は会計を社会との関連で研究し,会計社会学は 社会を会計との関連で研究する分野となる141。

社会会計学的な研究としては,会計変化を社会 との関連で捉えるという会計変化の理論を挙げる ことができる。そのほか,社会言語学の領域との 関わりで前述したような会計における研究領域が ありえるだろう。

会計社会学的な研究は社会を,もう少し具体的 に言えば,社会組織とその柵成員の行動を会計と の関わりで研究することになる。企業のような組 織をミクロ社会と見れば,組織を会計との関わり で研究することが会計社会学に該当することにな る。永野[1996]では会計変化が組織ひいては社 会にも影響を及ぼしえることを指摘し,社会学者 のハーバマス(J・Habermas)による「システ ムによる生活世界の植民地化」の可能性を示唆し ているが,こうした組織変化あるいは社会変化の 研究は会計社会学の領域に属すことになろう。人 類学者のエイチソンはメキシコの原住民がその独 特の会計システムによってビジネスの機会を誤っ て認識していることを論じているが[Acheson,

1972],これは会計社会学に属することになろう。

社会学の教歴のあるロスレンダー[1995]は「会 3社会会計学の対象

社会言語学は「言語社会学」あるいは「言語の 社会学」と言われることもある。しかし,言語の 社会学となれば,社会学の-領域であって,言語 学には属しないと見られかねない。そこで,この 両者を区別することも多い。社会言語学が言語を 社会との関連の中で研究することであるというハ ドソンによる定義を前に取り上げた。その逆に,

「「言語に関連して社会を研究すること」(社会言

語学の定義の逆)が,言語社会学thesociology

oflanguageと通常呼ばれているものの定義であ る」[ハドソン,1988,14頁]と言われる。この ように両者を定義すれば,社会言語学が言語を,

言語社会学が社会を対象とした学問領域であるこ とが一応は理解されよう。もう少し両者の内容に 立ち入った説明を求めれば次のものがある。

「こうした区別では,社会言語学は言語と社会 との関係を研究することに関わるが,その目的は 言語の構造と,言語がコミュニケーションにおい てどのように機能するかをより一層理解しようと いうことである。これに対して,言語社会学が目 的とすることは,どのようにして社会構造が言語 の研究をとおしてより一層理解できるか,すなわ ち,どのようにして特定の社会Ilill度を特徴づける にある種の言語の特徴が役に立つかを見出そうと することにある」[Wardhaugh,1986,p、13]。

このように見れば,社会言語学があくまでも言 語学として言語を研究対象としているのに対して,

言語社会学が社会学として社会を研究対象として いることが理解されよう。しかしながら,ここで

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計制度の社会学(thesociologyofaccountancy)」

として主として会計の専門職に関する社会学的研 究に言及しているが,こうした研究は会計社会学 と言える部分を含んでいる。また,社会学者のジ

ヨーンズが「会計の社会学(thesociologyof

accounting)」として,企業の変化が会計実践に 影響する仕方や会計実践が企業の実践に影響する 仕方を研究しているが[Jones,1995],これは社 会会計学とも会計社会学とも言うことができよう。

私が扱おうとしている会計変化の理論の場合,

会計の変化が主題となるのであり,それゆえ,言 語社会学ではなくむしろ社会言語学の研究が参考 になる。会計を社会との関連で扱う社会会計学の 研究となる。

言語学者のコセリウ(BCoseriu)が「現実の 言語においては,体系的なもの,文化的なもの,

社会的なもの,歴史的なものがかさなりあってい る」[シュリーベンーランゲ,1990,16頁]と述 べているそうだが,これが社会言語学が扱う対象 としている言語である。社会会計学が扱う対象も,

体系的なもの,文化的なもの,社会的なもの,歴 史的なものが重なり合っている現実の会計である と言えよう。

や動詞といった概念を扱ったりするのが一般言語 学である。

②の区別は,ある特定時点の言語を説明するも のと,異なる時点における言語の変化を説明する ものとの違いである。歴史言語学は当然,通時言 語学となる。

③の区別は,言語の構造と機能に関する理論を 構築する見通しをもって言語を研究するものと,

その概念や調査結果を言語教育などの実際的な仕 事に応用することに関心があるものとの区別であ る。理論的には①の区別と独立しているとされる が,実際的には「一般言語学」と「理論言語学」

とは違いがないという。

④の区別は,言語学の範囲に関して狭い見方を するか広い見方をする力、の区別である。社会言語 学はマクロ言語学に属するとされている。

こうした区別を行った後に,ライアンズは言語 学の核心をなしているのが理論・共時・ミクロ言 語学であるとしている[Lyons,1981,p`37]。も ちろん,それは一般言語学でもある。ライアンズ が言語学の核心としているのはチョムスキーの生 成文法である。ライアンズは社会言語学の意義も 認めているが,言語学の中心がチョムスキー流の 一般言語学にあると考えているのである。

ライアンズは社会言語学をマクロ言語学の一分 野であることは述べているが,他の区別に関して は特に言及していない。そこで私なりに解説して おきたい。①の区別について言えば,社会言語学 が特定の言語をその社会との関連で扱うことが多 いため,その大半が記述言語学に属すことになる であろう。しかし,たとえば言語変化についての 一般的な議論も行われるところから,一般言語学 の部分もあると言うことができよう。

②の区別では,社会言語学は通時と共時のいず れの領域もある。たとえば,言語変化という歴史 を扱う理論であれば通時の領域であり,また地域 や社会階層による変異を扱う理論であれば共時の 領域になるからである。

③の区別では,「社会言語学は応用言語学の一 種」[長谷川,1993,20頁]と言われ,言語学者 のなかにもそのように述べる人もいる。しかし私 の知るかぎりでは,社会言語学者にあってそのよ うに述べている人は見当たらない。これは,二言 4社会会計学の理論的性格

社会言語学がどんなものであるかを知るため,

それが理論としてどのような`性格をもつものであ るかを見ることにしたい。とりわけ重要な点は,

ソシユールに端を発する構造言語学やチョムスキー の生成文法に代表される「言語学」と社会言語学 とがどう違うのかということである。そのため,

ライアンズが提示している言語学の部門の分類方 法を参考にする。彼は次のような4つの2分法を 示している[Lyons,1981,pp、34-37]。以下に簡 単に説明をしておこう。

①一般言語学と記述言語学

.②共時言語学と通時言語学

③理論言語学と応用言語学

④ミクロ言語学とマクロ言語学

①の区別は,言語一般を研究することと特定の 言語を記述することとの区別である。たとえば

「言語とは何か」といったことを扱ったり,名詞

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語併用(バイリンガル)の研究という社会言語学 の研究成果が言語教育に応用されるといったこと があるとしても,そうした研究成果そのものが他 の言語理論の応用であるとは言えないことからも 理解されよう。また,社会言語学者は「言語は社 会行動の一形態であり」[Labov,1972,p、1631

「「社会言語学」の「社会」は余分」[ハドソン,

1988,33頁]だと考えている。社会言語学者にとっ ては社会言語学が言語学そのものなのである(5)。

社会会計学の理論的性格も基本的には社会言語 学と同じである。すなわち,ライアンズの挙げる 分類が会計学にも当てはまるとすれば,社会会計 学は分野によって一般的でも記述的でもあり,ま た共時的でも適時的でもありえるが,応用ではな く理論的なものであり,またミクロではなくマク ロなものであると言えよう。

それゆえ問題は,理想化それ自体が妥当かどう かということではない。チョムスキーは「言語の 中核にさまざまな社会的力に反応することのない ラングもしくは言語能力があるとする考え」[ニュー マイヤー,1994,134頁]をもっている。言語の 中核にある言語能力は理想化の産物というのでは なく,そうしたものが人間の精神に存在している と考えているのが問題であると言える。そうした 精神に内在する言語能力がチョムスキーの言語学 の対象である。したがって,チョムスキーにとっ て言語学は「認知の特定の領域のひとつならびに 言語能力という精神の能力のひとつに関心を集中 する心理学の-部門」[Chomsky,1980,p、4]

となる。それゆえ,言語と社会との関わりといっ た事柄はチョムスキーの関心にはなく,社会言語 学はその言語学から排除されてしまうのである。

まさに「チョムスキーにとっては,言語の存在の ために社会は必要がなく,さらに歴史などは念頭 にすら無かった。社会も歴史も言語の本質とはい ささかもかかわりがなく,したがって変化もない」

[田中,1993,163頁]ことになる。社会や歴史を 排除して言語学が成立するのか,その答えは次の 文章からも明らかであろう。

5社会会計学の意義

社会言語学の意義,とりわけ生成文法に代表さ れる「言語学」と比較した上での意義を考えるこ とは,会計ひいては会計学の意義を考える点でも 意味があると思われる。両者を比較するため,言 語の均質性という論点にしぼって話を進める(6)。

チョムスキーによれば「言語理論が主として扱 うのは,まったく同質的な言語共同体における理 念的(ideal)な話者=聴者」[Chomsky,1980, p、24]である。こうした理想化(idealization)

を行うことによって「方言的差異,話者の性や社 会的地位その他による対人関係などに起因する言 語形式の変異(variation)などが考慮外におか れた」[柴谷,1982,25頁]均質的な言語が研究 対象となる。

こうした均質的な言語という理想化について,

とりわけ社会言語学者がその反証を示したりして 反対したのである。こうした反対に対して,科学 はその対象が複雑なものであれば多少なりとも理 想化を行うことが必要であるという反批判も当然 予想されよう。チョムスキー自身も,現実の言語 共同体が同質的でないことは認めているのであり,

それでもこうした理想化は正当なものであり,人 間精神の根本的な特質を研究する道を開くもので あるとしている[Chomsky,1980,pp,25-26]。

「……どのような科学研究においても理想化は 必要であるがそれによって一旦横に置かれたもの に対する説明はいつかはなされなければならない ということである。近年の社会言語学の興隆は,

チョムスキーが一旦横に置いたものが言語研究に とってあまりにも重要すぎるものであるというこ との学界による認識の表れであると理解すること が出来よう」[柴谷,1982,30-31頁]。

社会言語学はチョムスキーの言語学への批判と して生まれたものではない。しかしながら,「社 会言語学の発生と成長は,チョムスキーの生成変 形文法理論の発生と展開の時期と一致し,両者は あたかも呼応しあうかのような歩みを見せてきた」

のであり,「こう言ってよければ,チョムスキー 理論の発展の延長線上には,言語についての社会 理論の新たな展開が必然のものとして求められた のである」[田中,1993,165-166頁]・

会計学においてチヨムスキーの生成文法の考え

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を援用する試みが見られるが,チョムスキーの言 語能力に対応する会計能力と言ったものが人間の 精神に内在するとまで考えるひとはなかろう。し たがって,そうした意味で会計学においてチヨム スキーの言語学に相当するものがあるとは考えら れない。しかしながら,会計変化の研究などに見 られるように,社会や組織との関連で会計を見直 そうという動きがあるのは,会計学においても

「理想化によって一旦横に置かれたもの」があり,

それが会計研究にとっても重要なものであること が認識されてきたからであると思われる。前述し たように,現実の会計も言語と同様,体系的なも のだけでなく,文化的なもの,社会的なもの,歴 史的なものが重なり合っているからには,たとえ ば社会的なものとの関連で会計を研究するという 必要がどこかで出てくるのである。

チョムスキーは社会言語学の意義を認めようと しないようであるが,おそらく多くの言語学者は 生成文法の言語理論の意義も社会言語学の意義も 程度の差はあれ,認めていることであろう。両者 の意義を認め,それぞれの理論を位置づけるため のひとつの考えを提示しているのが社会学者のハー バマスである。その考えを簡単に紹介しておき たい。

ハーバマスは言語を具体的な発言から始めてo それに三段階の抽象化を行って対象領域を定め,

それに応じた理論を次のように配列している[ハー バーマス・ルーマン,1984,130-131頁;ハーバ マス,1990,136-138頁]⑪。

き手との間のコミュニケーションを成立させるに 必要な能力を扱うとされている。基本的発言から 言語行為に関わる部分を捨象して残る,言語表現 あるい文の基本単位が基本文であり,これがチヨ ムスキーの言語学の扱う領域である。最後は言語 表現を抽象化した命題である言明を扱うのが形式 論理学としての述語論理学である。上記の表で言 明と論理学にカッコが付けられているのは,これ が言語や言語学ではないからであろう。

こうしたハーバマスによる言語学の諸部門の位 置づけが当を得たものであれば,会計学において 言語学を援用する際の参考になると思われる。た とえば,ハーバマスの普遍的語用論は既に会計学 においても援用されているが[Puxty,1991;全,

1992],これは社会言語学が援用される領域とは 抽象のレベルが違う領域を扱っているということ になる。チョムスキーの理論の会計学への適用に ついても同様である。

6おわりに

本稿は社会言語学を知ることによって,会計と 社会との関わりを研究する社会会計学の可能性を 探ってきた。私の当面の関心は会計変化の探究で あり,その準備作業として社会言語学を知る必要 があった。しかしながら,第2節で取り上げたよ うに,社会言語学にはさまざまな領域があり,既 に会計学においても適用されてきた領域もある。

会計変化だけでなく,会計のさまざまな領域にも 社会言語学の知見が有益であると思われるのであ る。社会言語学の知見を意識して適用することに よって社会会計学を確立できる途が開けてくるで あろう。

もちろん,社会言語学の知見をそのままストレー トに社会会計学に取り入れることができない場合 も多いであろう。会計は専門言語であり,社会言 語学が対象とする自然言語とは異なる面もある。

社会との関わりで会計が自然言語とどのように異 なるのか,こうした点を明らかにすることも社会 言語学的アプローチを会計学に適用する狙いでも ある。

対象領域理論

具体的発言 経験的語用論

(心理言語学,社会言語学)

普遍的語用論 言語学 (述語論理学)

基本的発言 基本文 (基本的言明)

社会言語学を含む経験的語用論は社会的なコン テクストにある具体的な発言を扱う。この具体的 な発言から社会的なコンテクストを捨象して,状 況に応じて特定される基本的な発言を扱うのが,

ハーバマスの用語でいう普遍的語用論である。チョ ムスキーの言語能力よりも包括的な,話し手と聞

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し違うが,チョムスキーの言語学の対象と社会言 語学・心理言語学の対象とは抽象のレベルの違い としている。それによれば,社会言語学と心理言 語学は言葉を社会および脳髄における現実的な過 程として,すなわちパロール(発話)として研究 し,チョムスキーの言語学はそうした言語事実に は関与せず,現実の言葉のモデルとしての抽象的 な言語としてラングを研究するとしている[ブン ゲ,1986,132頁]。なお,ブンゲはチヨムスキー の言語学を「理論言語学」とも「純粋言語学」と

も言い表している。

(1)「ベルカウイ」の表記は以前は「Belkaoui」

となっていたが,現在では「Riahi-Belkaoui」と なっている。なお,「Riahi」がミドルネームとし て使われていたこともある。本稿では参考文献の 表記も含めて「ベルカウイ(Belkaoui)」で統一

している。.

(2)AccoLmting,O埴α几iZatio几sα几dSbcZety,

VOL12,N0.1(1987).

(3)ワォードホーは社会言語学と言語社会学の区 別を強調する見解とそうでない見解とを挙げてい る[Wardhaugh,1986,p、13]。彼自身は区別を 強調すると不必要に限定的になってしまうとして 後者の見解を取っている。また,前者の見解の持 ち主としてトラヅドギル(P,Trudgill)を挙げ ており,それによれば先に挙げたエスノメソドロ ジー的な研究やバーンスタインのコード論は社会 言語学ではなく言語社会学の領域に属するものと ぎれている。

(4)「会計社会学」は既に井上[1984]で使われて いる。それは会計を社会的行為と見て,社会学の 構造機能分析を適用して分析しようとしたもので ある。同じような試みとしては藤田[1973]や伊 崎[1976;1988]がある。これらに共通するのは,

会計に対する社会学的なアプローチであり,社会 を主題にしているわけではないので,本稿で言う 会計社会学には当てはまらない。むしろ社会会計 学の基礎となる理論のひとつになりうるものと考 えられる。

(5)現代の代表的な社会言語学者の一人であるロ メインは社会言語学にも理論と応用が区別される だけでなく,ミクロとマクロとが区別される場合 があると指摘している[Romaine,1994,p,viii]。

この場合のミクロとマクロの社会言語学は本稿で 説明した社会言語学と言語社会学との区別に対応 しており,ライアンズによるミクロとマクロの区 別とは意味が異なる。

(6)シュリーベンーランゲ[1990,40頁]も現代 言語学の2つの主要問題として,それが均質的な 言語体系を仮定し,また行為体系から言語を隔離

していることを挙げている。

(7)哲学者のプンゲも,ハーバマスの考えとは少

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