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The Ecological Society of Japan (Japanese Journal of Conservation Ecology) 18 : (2013) * The habitat status of large-sized aquatic animals in an

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中山間部の湿田とその側溝における大型水生動物の生息状況

田和 康太*・中西 康介・村上 大介・西田 隆義・沢田 裕一

滋賀県立大学大学院環境科学研究科

The habitat status of large-sized aquatic animals in an ill-drained paddy field and an adjacent side ditch Kota Tawa*, Kosuke Nakanishi, Daisuke Murakami, Takayoshi Nishida and Hiroichi Sawada

Graduate School of Environmental Science, The University of Shiga Prefecture

要旨:圃場整備事業の拡大に伴い、平野部の水田では乾田化が進められてきた。このことが近年、水田の多種の水 生動物が減少した一要因と考えられている。一方で、山間部などに多い排水不良の湿田では、一年を通して湿潤状 態が保たれる。そのため、非作付期の湿田は水生動物の生息場所や越冬場所となり、生物多様性保全の場として重 要な役割を担うといわれるが、実証例は少ない。本研究では、滋賀県の中山間部にある湿田およびそこに隣接する 素掘りの側溝において、作付期から非作付期にかけて大型水生動物の生息状況を定量的に調査した。全調査期間を 通じて、調査水田では側溝に比べて多種の水生動物が採集された。特にカエル目複数種幼生やコシマゲンゴロウに 代表されるゲンゴロウ類などの水生昆虫が調査水田では多かった。このことから、調査水田は側溝に比べて多種の 水生動物の生息場所や繁殖場所となると考えられた。その原因として餌生物の豊富さ、捕食圧の低さなどの点が示 唆された。一方、側溝では水田に比べてカワニナやサワガニなどの河川性の水生動物が多い傾向があった。またド ジョウの大型個体は側溝で多く採集された。このことから、中山間部の湿田では、調査水田と側溝のように環境条 件や構造の異なる複数の水域が組み合わさることによって、多様な水生動物群集が維持されていると考えられた。 また、非作付期と作付期を比較したところ、恒久的水域である側溝ではドジョウやアカハライモリなどが両時期に 多数採集された。さらに調査水田ではこれらの種に加えて、非作付期の側溝ではみられなかったトンボ目やコウチ ュウ目などの多種の水生昆虫が両時期に採集されたことから、非作付期の水生動物の種数は側溝に比べてはるかに 多かった。このことから、非作付期の水田に残る水域が多くの水生動物にとって重要な生息場所や越冬場所になる と考えられた。   キーワード:越冬場所、作付期と非作付期、水田の水生動物、土側溝、繁殖場所

Abstract: We examined the habitat status of aquatic animals within an ill-drained paddy field and an adjacent side ditch in Shiga, Japan, from March to November. A comparison of fauna throughout the season revealed that aquatic species were richer in the paddy than in the side ditch. Specifically, both anuran tadpoles and aquatic insects (Odonata, Hemiptera, and Coleoptera) were abundant in the paddy, indicating that the paddy environment offers low predation pressure and an abundant food supply, respectively, to these species. In contrast, stream-dwelling aquatic animals (Semisulcaspira libertina and Geothelphusa dehaani) were more abundant in the side ditch than in the paddy. Thus, both the paddy and the side ditch contributed to the conservation of a greater variety of aquatic animal species in ill-drained paddy fields. We then compared the fauna between the cropping and non-cropping season. A number of permanent-water species, such as Misgurnus anguillicaudatus, Cynops pyrrhogaster, and aquatic insects, were captured in the paddy during both seasons, presumably due to the presence of areas of permanent water remaining in the paddy even during the non-cropping season. These waters may have served as refugia habitats and overwintering sites for many aquatic animal species.

Keywords: aquatic animals, cropping season and non-cropping season, overwintering sites, reproductive sites, side ditch * 〒 522-8533 滋賀県彦根市八坂町 2500 滋賀県立大学大学院環境科学研究科

Graduate School of Environmental Science, The University of Shiga Prefecture, 2500 Hassaka, Hikone, Shiga 522-8533, Japan e-mail: [email protected] 2012 年 12 月 3 日受付、2013 年 3 月 12 日受理

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はじめに

 水田は人間が稲作のために作り出してきた、いわば人 為的空間である(森 2007)。このため、水田の周辺には、 その管理を目的とした畦、水路、ため池、採草地などが 付随する(下田 2003)。水田とそれらを含めた水田水域 には、長い時間をかけて、他の地域ではみられない、特 異な環境が形成されてきた(守山 1997)。これらの環境 は、様々な動植物によって生息場所や生育場所、繁殖場 所として利用されており、そこでは水田生物多様性とも いえる生物多様性が維持されてきた(斎藤ほか 1988; 大黒 2000;内藤・池田 2009 など)。  ところが、1960 年代以降、特に平野部の水田では、 生産性の向上や省力化を目的として大規模な圃場整備事 業が展開されるようになった(中川 2000)。これらの目 的を達成するためには、水田における農作業の大型機械 化や水田の汎用化を行う必要があり、そのためには作土 を乾かし(乾田化)、地耐力を向上させる必要があった(中 川 2000;農業土木学会 2003)。こうして特に平野部の水 田において全国的に乾田化が促進されるようになった。 乾田化の促進された水田(以下、乾田)は、非作付期に は急激に乾燥し、畑地化する。そのため、特に水田に生 息する水生動物は、非作付期の生息場所や越冬場所とし て水田を利用することができない(門脇 2002;市川 2011)。これらのことが近年、水田に生息する水生動物 の多くが減少してしまった要因の一つと考えられている (中川 2000;若杉・藤森 2005;市川 2008)。一方、乾田 とは逆に、降雨や積雪、湧水などにより、水はけが悪く、 稲刈り後の非作付期にも水域が残存する水田がある。こ う い っ た 水 田 は 湿 田 と 呼 称 さ れ る( 農 業 土 木 学 会 2003)。現在では湿田は特に山間部に残されていること が多い。湿田では,非作付期にみられる水域が翌春の作 付期を迎えるまで残存する。水田を利用する水生動物は、 非作付期の生息場所としてこのような水域を有効に利用 できるため、そこでは高い生物多様性が維持されると考 えられている(成末・内田 1993;林 2007;市川 2008)。 しかし、これまで非作付期に実際の湿田において水生動 物を対象とした定量的な研究例は数少なく、どのような 水生動物がこうした水田を利用しているのか、また、作 付期と非作付期とで利用する水生動物相に違いがみられ るのか、水生動物にとって恒久的水域と同様の水域であ るのかなど、未解明な点が多い。今後、水田生物多様性 を維持していくために、湿田における水生動物に関する 知見は欠かすことができないと考えられる。そこで筆者 らは中山間部に位置する湿田とそこに隣接する恒久的水 域である素掘りの土側溝において、水生動物の生息状況 を作付期から非作付期にかけて調査することにより、中 山間部における湿田の持つ生物多様性保全機能を明らか にすることを目指した。

調査方法

調査地の概要  滋賀県高島市今津町の椋川(北緯 35 度 23 分、東経 135 度 54 分)集落の水田で調査を行った(図 1)。  椋川は標高約 250 m ほどの中山間部に位置する集落で ある。集落の中には、中央分水嶺が通り、雨水は琵琶湖 と日本海に流れ込む。椋川は日本海に近い福井県との県 境に位置するため、冬期には積雪が多い。水田の灌漑に は、集落を流れる寒風川の河川水が利用されている。水 田地帯には、3 面コンクリートの用水路が張り巡らされ ており、これらを伝って、河川水が水田に入り込む仕組 みになっている。水田地帯が山道沿いに広がっているた 図 1.調査地の位置。矢印は水の流れを示す。

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め、その傾斜により、河川水の流れは非常に速い。水田 の中干し時や落水時などの排水は寒風川に流れ込む。 調査水田の概要と農事暦  椋川では、殺菌剤や除草剤を通常量使用し、中干しと 間断灌漑を行うといった慣行農法の水田だけでなく、 様々な農法が取り入れられている(中西ほか 2009)。具 体的には、水田に生息する様々な生物の暮らしや環境に 配慮しながら、安全でおいしい米づくりを進める「たか しまいきもの田んぼ米」の取り組みによって無農薬、お よび冬期湛水農法が導入されている(「たかしまいきも の田んぼ米とは(たかしま有機農法研究会)」、https:// sv54.wadax.ne.jp/~ikimonotanbo-jp/about/index.html、2013 年 3 月 4 日確認)。また、米づくりにおいて、農薬と化学 肥料の使用量を慣行田の使用量の 5 割以下にする「環境 こだわり農産物」の取り組みによって減農薬農法が導入 されている(「環境こだわり農産物(滋賀県農政水産部  食のブランド推進課)」、http://shigaquo.jp/environment/、 2013 年 3 月 4 日確認)。集落の中で「たかしまいきもの 田んぼ米」の水田は数枚であるが、「環境こだわり農産物」 の水田は全水田のうち 4 割を占める。今回、調査水田と して設定した水田は減農薬農法であった。調査水田の面 積は 14.3 a であった(図 1)。この水田の東西、および 南は斜面沿いに位置しており、これら斜面からの滲みだ し水が水田内に入水していた。この滲みだし水や排水不 良、降雨などの影響により、調査水田では、非作付期に 水田面積の 5 分の 1 から 4 分の 1 程度の水域が水田内に 残存していた。そのため、稲刈りの時期を除いて、基本 的に年中水田全体が乾くことはなかった。調査水田では、 3 面コンクリートの用水路から塩化ビニール製のパイプ によって取水されていた。このパイプが調査水田の唯一 の取水口であった。調査水田には、椋川で「内溝」や「外 溝」と呼称される、素掘りの土側溝(以下、側溝)が隣 接していた。側溝の幅と全長はそれぞれ約 0.4 m、約 50 m であった。これらには水田の水位調節や、排水などの 目的があった。側溝と水田との間には基本的に年中落差 がなく、常に水田の畦の一部が水はけの悪さから決壊し ていた。側溝は常時湛水されており、安定した水深が保 たれていた。また、側溝の水流は目視で確認が困難であ る程、年中穏やかであった。斜面からの滲みだし水は年 中側溝に流入していた。側溝の底質は泥やリターであっ た。水田に比べ、側溝の平均水温は 4℃程度低い傾向が あった(図 2)。側溝は調査水田のみと連続しており、 その他の水田と繋がることはなかった。この側溝も調査 対象とした。中干し時や落水時の排水は取水口とは異な る排水口から排水路に排水された。排水口は水田内に 2 箇所あり、そのうちの 1 つが側溝と連続していた。  調査水田の農事暦を表 1 に示した。調査水田では中干 しが毎年行われた。しかし排水不良により、中干し期間 中でも水田全面が乾燥した状態になることはなく、常に 水域が確認された。そのため、中干しを開始した日は確 認できたが、中干しがいつまで継続されたかは不明であ った。同様の理由で、中干し以降から落水までの水管理 も明確ではなかったが、おそらく間断灌漑が行われてい たと考えられる。農薬に関しては表 1 に示した除草剤、 殺虫剤以外に田植え前の苗箱において殺菌剤が使用され ていた。また、詳しい時期はわからなかったが、土壌改 良剤などの化学肥料が複数回使用された。主に調査水田 の水管理に着目して、田植え時の全面湛水から、稲刈り 時の落水までを作付期、その他の期間を非作付期と定義 した。作付期は 5 月中旬から 8 月までの約 3 ヶ月半であ った。その他の約 8 ヶ月半の期間は非作付期であった。 図 2.調査水田および側溝の平均水温。図中 * は有意差を示す (Mann-Whitney’s U test, P<0.05)。 表 1.調査水田の農事歴。正確な日付がわからない項目があった。 農事歴 2009 年 2010 年 代掻き 4 月 17 日 5 月 17 日 湛水 5 月 10 日 5 月 17 日 田植え 5 月 19 日 5 月 22 日 除草剤散布 5 月 19 日 5 月 22 日 中干し 6 月 27 日 7 月 8 日 殺虫剤散布 8 月 16 日 8 月中旬 落水 8 月下旬 8 月下旬 稲刈り 8 月 31 日 9 月初旬

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調査時期と水生動物の採集方法  調査は積雪の多い季節を除き、2009 年に関しては 3 月から 11 月まで、2010 年に関しては 4 月から 10 月ま でそれぞれ水田と側溝において行った。ここで調査期間 の中で、3 月から 5 月中旬までを非作付期春期、5 月中 旬から 8 月までを作付期、9 月から 11 月までを非作付 期秋冬期としてそれぞれ設定した(図 3)。作付期には 週 1 回、非作付期には月 1、2 回程度の頻度でそれぞれ 調査を行った。  水生動物の採集をトラップ法により行った。トラップ による採集では、採集対象となる水生動物を雑食性や肉 食性のものに限定してしまう可能性があった。しかし、 魚類や両生類など比較的大型の水生動物を効率的に採集 できる点、さらに作付期と非作付期を通して継続的な調 査を行うことができるという点から、本研究の採集方法 としてトラップ法を採択した。また、天候的な要素をで きるだけ排除するために、なるべく雨天を避けて調査日 を設定した。トラップには、中西ほか(2009)と同様に 2,000 cm3容量のペットボトルを用いた。天候的な要因 にトラップが左右されないよう、なるべく雨天を避けて 調査日を設定した。水田 4 地点、溝 2 地点にそれぞれト ラップを設置した。水田では水域状態により、トラップ の設置地点を変更することがあった。トラップの口部が 水底と同じ高さになるよう、泥に埋め込むようにトラッ プ を 設 置 し た。 ま た、 こ の 際、 ド ジ ョ ウ Misgurnus anguillicaudatus の 腸 呼 吸 と ア カ ハ ラ イ モ リ Cynops pyrrhogaster の肺呼吸を考慮して、トラップが完全に水 中に沈まないよう配慮した。さらに、水生昆虫の溺死防 止のため、適量の稲ワラや雑草などをトラップに詰め込 んだ。トラップの誘引剤として、マルキュー株式会社製 の「さなぎ粉徳用」を使用した。1 つのトラップにつき、 約 4.0 g の誘引剤を入れた。トラップの設置時間を午前 9 時前後から午後 3 時前後までの約 6 時間とした。  トラップにより採集された水生動物の個体数を記録し た。これらのうち、ドジョウに関しては標準体長の計測 と発育段階の判別を行った。計数や計測などが終わった 水生動物を元の採集地点に放した。ドジョウの標準体長 をシンワステン直尺 150MM(シンワ測定株式会社製) により、0.1 mm の精度で測定した。ドジョウの標準体 長(以下、体長)を久保田(1961)に従い測定した。採 集されたドジョウの個体数が多く、1 個体ずつの体長の 計 測 が 困 難 で あ っ た 場 合 に は、 シ ン ワ ス テ ン 直 尺 150MM を置いたバット上に、ドジョウの体高よりも少 し多いくらいの水を張り、真上からデジタルカメラによ り、写真を撮った。撮った写真を持ち帰り、後日、フリ ー画像解析ソフト「!0_0! Excel 長さ・面積測定 Free Ver 2.20」によってパソコン上でドジョウの体長を計測 した。なお、ドジョウの体長計測と同時にドジョウの発 育ステージの分類を行った。筆者らが 2008 年に今回の 調査水田とその周辺の複数の水田において今回と同様の 調査を行った際、採集されたドジョウに関して、①当年 生まれと考えられる個体は 6 月以降に出現すること、② それらの個体の体長は年内におおよそ 60 mm を超える ことがないこと、③体長 60 mm 以上になると池田(1936) に基づく雌雄の判別が容易になること、以上の傾向が示 唆された(田和 未発表)。これらを踏まえた上で、今回 の調査で採集されたドジョウのうち、体長 60 mm 未満 の個体をその年に生まれた個体(以下、当年個体)、体 長 60 mm 以上の個体をその年より前に生まれ、越冬し たと考えられる個体(以下、越冬個体)にそれぞれ便宜 的に分類した。なお、体長 60 mm 未満ではあるが、採 集時期と体長などから判断して、明らかに当年個体でな いと考えられる個体については、越冬個体に分類した。 データの解析方法  各データに関しては、正規分布しないものが多かった ため、2 群間の差を検定する際には、Mann-Whitney’s U test を用いた。すべて両側検定により検定を行った。解 析には統計解析ソフト「SPSS 17.0 for Windows」(SPSS 社) を使用した。 図 3.調査水田の作付期と非作付期および調査期間。

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結 果

水田と側溝で採集された大型水生動物  2 年間の調査で水田ではのべ 11 目 13 科 18 種 3,195 個 体の水生動物が、側溝ではのべ 8 目 7 科 10 種 2,202 個 体の水生動物がそれぞれ採集された。採集された水生動 物の種数は側溝に比べ水田で多かった。このうち、水田 のみで採集されたのは 10 種、側溝のみで採集されたの は 2 種であり、その他 7 種はどちらの水域でも共通して 採集された(表 2)。特に、水田では 13 種の水生昆虫が 採集されたが、側溝で採集された水生昆虫は 2 種のみで あった。また、水田では作付期に 16 種、非作付期に 14 種の水生動物がそれぞれ採集された。このうち、作付期 のみに採集されたのは 4 種、非作付期のみに採集された のは 2 種であり、その他 12 種はどちらの期間にも共通 して採集された。側溝では作付期に 9 種、非作付期に 6 種の水生動物がそれぞれ採集された。このうち、作付期 のみに採集されたのは 4 種、非作付期のみに採集された のは 1 種であり、その他 5 種はどちらの期間にも共通し て採集された。ドジョウ、アカハライモリ、クロズマメ ゲ ン ゴ ロ ウ Agabus conspicus、 そ し て サ ワ ガ ニ Geothelphusa dehaani の 4 種は水田と側溝においてすべ ての期間に採集された。  水田において 5 個体以上採集された水生動物は個体数 の多い順に、カエル目複数種幼生(1,199 個体)、ドジョ ウ(1,190 個体)、アカハライモリ(710 個体)、コシマ ゲンゴロウ Hydaticus bowringi(62 個体)、ヒメゲンゴロ ウ Rhantus suturalis(19 個体)、クロズマメゲンゴロウ(16 個体)、シマゲンゴロウ H. bowringi(8 個体)、そしてゲ ンゴロウ科複数種幼虫(6 個体)であった。これらの水 生動物について作付期と非作付期ごとに平均採集個体数 を比較した(図 4)。カエル目複数種幼生は作付期のみ に採集され、非作付期には全く採集されなかった。ドジ ョウとアカハライモリにはカエル目複数種幼生のように 表 2.2009 年から 2010 年にかけて調査水田と側溝で採集された水生動物の種数。黒丸(●)は採集された種を示す。作付期と非作 付期ごとに示した。表中*の付いた種は種数に含めなかった。 目 科 種 和名 水田 側溝 作付期 非作付期 作付期 非作付期 コイ目 ドジョウ科 Misgurnus anguillicaudatus ドジョウ ● ● ● ● カエル目 Anura spp. (larvae) * カエル目複数種幼生 ● アカガエル科 Rana nigromaculata トノサマガエル ● ● R. rugosa ツチガエル ● 有尾目 イモリ科 Cynops pyrrhogaster アカハライモリ ● ● ● ● トンボ目 トンボ科 Orthetrum spp. シオカラトンボ属複数種 ● ● ● Sympetrum spp. アカネ属複数種 ● カメムシ目 マツモムシ科 Notonecta triguttata マツモムシ ● ● ミズムシ科 Sigara spp. コミズムシ属複数種 ● ● コウチュウ目 ゲンゴロウ科 Agabus conspicus クロズマメゲンゴロウ ● ● ● ● Rhantus suturalis ヒメゲンゴロウ ● ● ● Hydaticus bowringi シマゲンゴロウ ● ● H. grammicus コシマゲンゴロウ ● ● Cybister brevis クロゲンゴロウ ● Dytiscidae spp. (larvae) * ゲンゴロウ科複数種幼虫 ● ● ガムシ科 Hydrophilus acuminatus ガムシ ● ● ホタル科 Luciola lateralis ヘイケボタル ● トビケラ目 ホソバトビケラ科 Molanna moesta ホソバトビケラ ● ● ハエ目 アブ科 Tabanidae sp. アブ科の 1 種 ● 十脚目 サワガニ科 Geothelphusa dehaani サワガニ ● ● ● ● 盤足目 カワニナ科 Semisulcospira libertina カワニナ ● ● Hirudinoidea ヒル類複数種 ● ● 種数 各時期 16 14 9 6 合計 18 10

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大きな偏りがなく、どちらの期間にも採集された。クロ ズマメゲンゴロウやヒメゲンゴロウの個体数は作付期よ りも非作付期のほうが多かった(Mann-Whitney’s U test P<0.01)。コシマゲンゴロウやゲンゴロウ科複数種幼虫 には、有意差はなかったが、作付期よりも非作付期に採 集される傾向がみられた。シマゲンゴロウには、有意差 はなかったが、非作付期よりも作付期に採集される傾向 がみられた。  側溝において 5 個体以上採集された水生動物は個体数 の多い順に、ドジョウ(1,214 個体)、アカハライモリ(846 個体)、カワニナ Semisulcospira libertina(88 個体)、サ ワガニ(28 個体)、そしてクロズマメゲンゴロウ(19 個 体)であった。水田と同様にこれらの水生動物について 作付期と非作付期ごとに平均採集個体数を比較した(図 5)。ドジョウとアカハライモリにはどちらの期間にも大 きな偏りなく採集される傾向がみられた。カワニナやサ ワガニには、有意差はなかったが、作付期よりも非作付 期に採集される傾向がみられた。クロズマメゲンゴロウ には、有意差はなかったが、非作付期よりも作付期に採 集される傾向がみられた。 ドジョウの個体数の季節変化と体長分布  2009 年と 2010 年に水田と側溝で採集されたドジョウ の個体数の季節変化を図 6 に示した。ドジョウは水田の 非作付期春期、非作付期秋冬期どちらにおいても採集さ れた。この季節変化は側溝においてもみられた。水田で は側溝に比べ、当年個体が多く採集された。また当年個 体の出現時期も水田のほうが側溝に比べ早かった。水田 では、非作付期春季から作付期の前半にかけて多数の越 冬個体が採集されたが、その後はほとんど採集されなく なった。一方、当年個体は 6 月頃から採集され始め、非 作付期秋冬期まで継続的に採集された。6 月以降の水田 内で採集された個体の大半を当年個体が占めた。水田に 対して側溝では、越冬個体は非作付期春期から採集され ていたが、特に 6 月中旬以降、越冬個体の個体数が急激 に増加した。一方、当年個体は 7 月初旬から採集され始 め、非作付期秋冬期までみられた。しかし、側溝では全 期間を通して採集個体の大半を越冬個体が占め、当年個 体はわずかであった。また、水田のように当年個体が継 続的に採集されることはなかった。  作付期と非作付期に採集されたドジョウの体長を水田 と側溝において比較した(図 7)。水田で採集されたド ジョウでは、どの時期に関しても、側溝に比べて体長 60 mm 未満の個体の割合が高かった。また、水田の非作 付期と側溝の非作付期というように、同時期において水 田と側溝でドジョウの体長を比較したところ、いずれの 時期も側溝で採集されたドジョウの体長が水田のものに 比べ、有意に大きかった(Mann-Whitney’s U-test P<0.001 図 7)。 その他水生動物の個体数の季節変化  水田で採集されたドジョウ以外の水生動物のうち、比 図 4.調査水田で採集された水生動物の平均個体数。調査 1 回 あたりの平均個体数で示した。上側が作付期の下側が非作 付期の結果をそれぞれ示す。作付期と非作付期を通して 5 個体以上採集された水生動物を示した。 図 5.側溝で採集された水生動物の平均個体数。調査 1 回あた りの平均個体数で示した。上側が作付期の下側が非作付期 の結果をそれぞれ示す。作付期と非作付期を通して 5 個体 以上採集された水生動物を示した。

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較的多く採集された(10 個体以上)4 種に関して個体数 の季節変化をそれぞれ示した(図 8)。なお、カエル目 複数種幼生に関しては水田で最も多く採集されたが、厳 密に種を特定できなかった。そのため、カエル目複数種 幼生の季節変化は図示しなかった。また、水田と同様に 側溝で採集されたドジョウ以外の水生動物のうち、比較 的多く採集された(10 個体以上)4 種に関して個体数の 季節変化をそれぞれ示した(図 9)。  水田で採集されたアカハライモリは両年ともにすべて 成体であった。一方、側溝では採集されたアカハライモ リのほとんどが成体であったが、2010 年の作付期にあ たる 5 月 25 日に幼生が 1 個体採集された。水田におい てアカハライモリ成体は非作付期春期、非作付期秋冬期 の両時期に採集された(図 8 a)。水田におけるアカハラ イモリ成体の採集個体数には作付期の終わり頃に減少す る傾向がみられた。側溝においてもアカハライモリ成体 は水田と同様に非作付期春期、非作付期秋冬期の両時期 に採集された(図 9 a)。側溝では、両年ともにアカハラ イモリ成体の個体数は入水後大幅に増加した。  クロズマメゲンゴロウは水田において非作付期春期か ら作付期の 5 月中旬頃まで採集されることはあったが、 作付期にはほとんど採集されず、非作付期秋冬期になる と再び採集された(図 8 b)。一方、側溝においては 2009 年のみ採集された。非作付期春期から作付期の 6 月中旬までクロズマメゲンゴロウは採集されたが、その 後の時期には採集されなかった(図 9 b)。  ヒメゲンゴロウは水田において非作付期春期から 6 月 初旬頃まで採集されることはあったが、クロズマメゲン ゴロウと同様に作付期にはほとんどみられなかった(図 8 c)。また 2009 年の落水後に急激に個体数が増加した。 ヒメゲンゴロウは側溝では作付期に 1 個体採集されたの みであった。  コシマゲンゴロウの個体数もヒメゲンゴロウと同様に 2009 年の落水後に急激に増加した(図 8 d)。また、ク ロズマメゲンゴロウやヒメゲンゴロウと同様に基本的に 作付期にはほとんど採集されなかった。コシマゲンゴロ ウは側溝では採集されなかった。  カワニナは水田では採集されなかった。一方、側溝で はカワニナはすべての時期を通して採集されたが、特に 2009 年には、非作付期秋冬期に大幅に増加した(図 9 c)。  サワガニは水田では作付期と非作付期にそれぞれ 1 個 体ずつ採集されたのみであった。一方、側溝ではサワガ ニはすべての時期を通して採集されたが、2009 年には 非作付期秋冬期に、2010 年には非作付期春期と非作付 期秋冬期にそれぞれ増加する傾向がみられた(図 9 d)。 図 6.調査水田(上図)と側溝(下図)で採集されたドジョウ個体数の季節変化。灰色の部分は作付期を、 それ以外の部分は非作付期をそれぞれ示す。Nc と Nw は当年個体と越冬個体の個体数をそれぞれ示す。

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考 察

水生動物の水田と側溝の利用状況  水田では 18 種、側溝では 10 種の水生動物が採集され た。このうち、水田のみで採集されたのはマツモムシ Notonecta triguttata やコシマゲンゴロウなど 10 種、側溝 のみで採集されたのはツチガエル Rana rugosa とカワニ ナの 2 種であり、それ以外のドジョウやアカハライモリ などの 8 種はどちらの水域にもみられた。また種数には 含めなかったがカエル目複数種幼生とゲンゴロウ科複数 種幼虫は水田のみで採集された。このことから本調査地 では、水田は側溝に比べ多くの水生動物の生息場所や繁 殖場所として機能していると考えられる。  水田と側溝は 50 cm ほどの畦を隔てただけの隣接した 水域であったが、その構造や環境条件は大きく異なって いた。水田は側溝に比べ、より止水的で大きな開放水域 であった。また水温も高かった。トノサマガエル Rana nigromaculata やツチガエル、ニホンアマガエル Hyla japonica、ドジョウ、水生昆虫の多くの種類はより浅い 止水域であり高水温となる水田を産卵場所に選ぶといわ れている(田中 1999;西城 2001;林 2007 など)。この ため、これらの水生動物は選択的に好適な繁殖場所とな る水田において産卵している可能性がある。水田が好適 な繁殖場所となる理由として、止水的な開放水域で高水 温であることに加え、これらのような水田と側溝の構造 や環境条件の違いによってもたらされる餌生物の豊富さ および捕食圧の低さなどが考えられる。  まず餌生物に関して、西城(2001)は水田地域におい て止水性水生昆虫の季節変化と移動に関して調査した 際、多くの種が恒久的水域である溜め池に留まることな く、不安定な一時的水域である水田を生息や繁殖の場所 として利用していたことを明らかにしている。その理由 のひとつとしてプランクトンや両生類の幼生などの餌生 物が溜め池よりも水田で豊富であることを述べている。 図 7.調査水田(図の 1、3 段目)と側溝(図の 2、4 段目)で採集されたドジョウの季節別の体長頻度分布。左 列が非作付期春季を,中央列が作付期を,右列が非作付期秋冬期をそれぞれ示す。図中数字は各時期におけ るドジョウの平均体長 ± 標準偏差(mm)を示す。図中 * は有意差を示す(Mann-Whitney’s U test, P<0.001)。

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また、田中(1999)はドジョウ仔稚魚の餌となるミジン コ類が水温の低い一時的水路よりも水温の高い水田にお いて多量に発生したと報告しており、このためドジョウ は水田を主な繁殖場所として利用したと述べている。先 述のように今回の調査水田と側溝に関しても前者が一時 的水域に近い水域、後者が恒久的水域という性質を有し ていた。そのため、側溝よりも水田において多くの水生 動物の餌となる動物プランクトンが豊富であった可能性 が高い。また、肉食性水生昆虫の餌となるカエル目複数 種幼生は水田に多かった。以上のように餌生物の豊富さ から、ドジョウの当年個体や小型の越冬個体、水生昆虫 にとって水田は好適な環境であると考えられる。  次に捕食圧に関して、今回、カエル目複数種幼生は水 田のみでしか採集されなかったが、シュレーゲルアオガ エ ル Rhacophorus schlegelii と モ リ ア オ ガ エ ル Rhacophorus arboreus の卵塊は水田のみならず側溝の畦 においても複数確認された。また水田で採集されたカエ ル目複数種幼生には、シュレーゲルアオガエルもしくは モリアオガエルと考えられる幼生が多数含まれていた。 さらに、調査水田や側溝では、アカハライモリの成体が シュレーゲルアオガエルやモリアオガエルの卵塊に頭を 突っ込み捕食する姿を頻繁に確認した。このことと、側 溝でアカハライモリの成体が多数採集されたことを併せ ると、狭小な環境におけるアカハライモリの成体の高い 捕食圧によってこれら 2 種のカエル類は側溝では幼生ま でほとんど成長できなかったと推察される。逆に水田で はアカハライモリの成体が多くても側溝に比べてその面 積が十分に大きいため、アカハライモリの成体のカエル 類 2 種に対する捕食圧が分散し、これらのカエル類幼生 は成長できると考えられる。以上のように水田は面積の 図 8.調査水田で採集された水生動物の個体数の季節変化。灰色の部分は作付期を、 それ以外は非作付期をそれぞれ示す。N はそれぞれの水生動物の総個体数を示す。

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大きな開放水域であり、側溝のように狭小な水域に比べ て捕食圧が低下するため、多くの水生動物の繁殖場所と して適している可能性がある。  他方、本調査地の側溝では水田に比べ水生動物の種数 は少なかったが、カワニナやサワガニ、ドジョウの大型 の越冬個体に関しては水田よりも多数の個体が採集され た。またアカハライモリの成体に関しては水田同様、多 数の個体が採集された。  カワニナやサワガニが側溝で多数採集された理由とし て、側溝が水田よりも河川に類似した水域であることが 考えられる。これらの種は山間部の水田ではみられるこ ともあるが、一般的には水田よりもむしろ河川や水路な どに生息している場合が多い(内山 2005)。また、カワ ニナに関しては比較的溶存酸素が多い場所に生息するこ と(関根ほか 2007)、稚貝の産出には水温が大きく関わ っていること(波部・板垣 1978)などが報告されている。 止水的水域である水田よりもわずかでも流速があり河川 や水路に類似した水域である本調査地のような側溝がこ れらの種の生息場所や繁殖場所として好適な環境である と推察される。  ドジョウの大型の越冬個体とアカハライモリの成体が 側溝で多数採集された理由としては側溝が恒久的水域で あるためだと考えられる。ドジョウは作付期の入水が始 まると、越冬場所である恒久的な周辺水域から水田へ侵 入して、繁殖することが報告されている(斎藤ほか 1988;Naruse and Oishi 1996;佐藤ほか 2008;満尾ほか 2010 など)。このことから、調査地においてもドジョウ の大型の越冬個体は繁殖期以外には基本的に側溝に生息 していたと考えられる。また、水田に侵入後、小型個体 に比べ、減水深に関して敏感な大型個体は、中干しや落 図 9.側溝で採集された水生動物の個体数の季節変化。灰色の部分は作付期を、それ以 外は非作付期をそれぞれ示す。N はそれぞれの水生動物の総個体数を示す。

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水時などの水深低下時に深く安定した水域である側溝へ 移動すると考えられる。このため、側溝では常にドジョ ウの大型の越冬個体が多数採集されたと考えられる。ま た側溝では特に中干し期以降に、当年個体が増加してお り、側溝はドジョウの当年個体の一時的な避難場所にも なったと考えられる。アカハライモリの成体に関しては 基本的に水中で生活するという生活史から、生息場所と して安定した水域が必要となる(林 2007)。そのため、 恒久的水域である側溝では多数の個体が採集されたと考 えられる。また、アカハライモリは、水中にある落ち葉 や植物の根などを産卵基質とするため、水田内よりも、 その周辺の土側溝や溜め池などで産卵するといわれてい る(林 2007)。今回、アカハライモリの幼生は側溝で 1 個体採集されたのみであったが、側溝の底質が落ち葉で あったこと、アカハライモリの繁殖期に側溝の水際にあ るイネ科植物に産み付けられた卵を多数確認したことな どから、アカハライモリの産卵場所には水田よりも側溝 が適している可能性がある。  以上より、中山間部の湿田では、調査水田と側溝のよ うに環境条件や構造の異なる複数の水域が組み合わさる ことによって、より多様な水生動物群集が維持されてい ると考えられた。 非作付期における水域の重要性  作付期の水田では 17 種、非作付期の水田では 14 種の 水生動物がそれぞれ採集された。これらの水生動物のな かでクロゲンゴロウ Cybister brevis とヒル類複数種の 2 種は非作付期のみに採集されたが、それ以外の 12 種は どちらの期間にもみられた。同様に作付期の側溝では 9 種、非作付期の側溝では 6 種の水生動物がそれぞれ採集 された。これらのうちヒル類複数種が非作付期のみに採 集されたが、ドジョウやアカハライモリなどの 5 種はど ちらの期間にもみられた。水田と側溝において非作付期 に採集された種には作付期にも採集されたものが多いと いう点は共通していた。しかし、本調査地では、非作付 期に採集された水生動物の種数は明らかに側溝よりも水 田において多い傾向があった。これらの非作付期も水田 を利用していた水生動物には、作付期よりも非作付期に 個体数が増加するものや、作付期と変わらず個体数の多 いものがみられた。  作付期よりも非作付期に集中して採集された水生動物 はクロズマメゲンゴロウやヒメゲンゴロウ、コシマゲン ゴロウであった。西城(2001)の調査においてもクロズ マメゲンゴロウとヒメゲンゴロウの個体数は落水後の非 作付期秋冬期の水田において増加しており、今回の調査 結果と類似していた。よってこれら 2 種とコシマゲンゴ ロウは作付期になると他の水田などに分散して繁殖し、 非作付期になると調査水田のように水域のある水田を求 めて移動してくると考えられる。非作付期のみにクロゲ ンゴロウが採集されたこともこれらの種と同様の理由で はないかと推察される。なお、非作付期には側溝にも水 域があるが、そこで比較的多く採集されたのはクロズマ メゲンゴロウのみであった。以上より、非作付期の水田 や側溝の水域はこれらのゲンゴロウ類の生息場所になる と考えられるが、今回採集されたゲンゴロウ類にとって は調査地の側溝よりも水田のほうが利用しやすい環境で あった可能性がある。また、今回厳冬期の調査を行って いないが、非作付期の水田や側溝の水域は厳冬期の水域 という点で、これらのゲンゴロウ類の越冬場所になる可 能性もあると考えられる。  ドジョウの当年個体や小型の越冬個体とアカハライモ リの成体は作付期と変わらずに非作付期にも多数採集さ れた。ドジョウは作付期の水田を主な繁殖場所としてお り、当年個体は非作付期秋冬期にも多数水田に生息して いた。また、2009 年生まれの個体群が翌年の非作付期 春季に多数みられた。このことから当年個体などの小型 のドジョウにとって非作付期の水田は落水期以降の成長 場所や越冬場所として重要であると考えられる。アカハ ライモリに関しては、成体の生息場所として、一年を通 して水のある恒久的水域が適しているとされている(林 2007)。このことから非作付期の水田にみられた水域程 度であっても、アカハライモリの成体の生息場所や越冬 場所として十分な役割を果たすと考えられる。  中山間部の水田脇にみられる恒久的水域が水生動物の 重要な作付期の生息場所や非作付期の越冬場所になるこ とはこれまでに幾例か報告されている(柳澤 2007;佐 藤ほか 2009)。本研究においてもドジョウの大型の越冬 個体やアカハライモリの成体などがすべての調査期間を 通して多数採集されたことから、水田脇の恒久的水域で ある側溝はこれらの水生動物の重要な生息場所や越冬場 所になっていると考えられた。それに加え、本研究では 上記のように側溝以上により多くの種の水生動物が水田 において作付期と非作付期を通して採集されたことか ら、非作付期の水田に残る水域が多くの種の水生動物に とって重要な生息場所や越冬場所になっていると推察さ れる。おそらく、中干し時や落水時に田面が完全に干上 がらず、水域が残存するため、多くの水生動物が作付期 から非作付期にかけて継続的に水田を利用することがで

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きると考えられる。  平野部と本調査地のような中山間部とでは水田環境が 大きく異なるため、そこに生息する水生動物群集も異な る可能性が高い。しかし、岩田・藤岡(2006)はかつて、 湿田が多数存在していた平野部の水田地帯において、乾 田および冬期に湛水されるハス田それぞれの水生動物群 集を比較した際に、互いに異なる生物群集が成立してい たことを明らかにした。このように、平野部の水田にお いても、本研究でみられたような非作付期の水域を生息 場所や越冬場所として利用する水生動物が多く存在する と考えられる。そのため、本研究で得られた知見を平野 部の水田においても適用できる可能性がある。これまで、 平野部の水田において非作付期に水生動物の生息場所や 越冬場所を確保するための具体的な保全策として以下の ような例が考えられている。それは水田の一部湛水化や 全面湛水、水田脇の恒久的水域(承水路)の設置などで ある(中川 2000;鈴木ほか 2004;柳澤 2007;佐藤ほか 2009)。これらの提案の中で、水田の全面湛水の一例と しては冬期湛水が考えられる。しかし、冬期湛水の実施 には冬期における用水確保の困難さや土壌の強還元化な ど と い っ た 面 で 問 題 が 多 い と さ れ る( 牧 山・ 塚 本 2006)。また、冬期湛水によってイトミミズ類などの特 定の生物が過剰に発生する危険性も指摘されている(嶺 田ほか 2005)。水田の一部湛水化に関しては、規模や深 さにもよるが、水域が一箇所であると干上がる可能性が ある。水田脇の恒久的水域の設置に関しては、その水域 のみである場合に、生息場所や越冬場所として利用でき る水生動物の種を限定してしまう可能性がある。それら を考慮すると、天水や湧水を利用して非作付期の水田内 に水域を複数箇所維持し、それらの水域の水深や構造を 変えて、多様な水域を確保することが必要であると考え られる。この方法は平野部の圃場整備され、非作付期に は畑地化するような強度の乾田では困難であり、また、 可能であったとしても水田耕作を圧迫しかねない。しか し、平野部の圃場整備後の乾田であっても地域や圃場に よっては非作付期にも畝沿いなどに水域が残っている場 合がある。こうした乾田では、上記の方法が水田耕作を 圧迫することなく有効な手段となると考えられる。この ように水域が多様化されることによって、より多くの水 生動物が非作付期の水田を利用可能となるため、限定的 ではあるかもしれないが、こうした生物配慮型の水田を 適した地域や圃場で実践することが、生物多様性の維持、 または復元の一端を担うと推察される。

謝 辞

 本研究を進めるにあたり、調査地では是永宙氏、是永 麻記子氏、井上四郎太夫氏をはじめとする、集落の多く の皆様に様々な支援をいただいた。現地調査の際には滋 賀県立大学の学生・院生諸氏に同行していただいた。以 上の方々に心より感謝申し上げる。なお、本研究は平成 24 年度公益信託 TaKaRa ハーモニストファンド、および科 研費(23405045、24241011)の助成を受けたものである。

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参照

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