【実践研究論文】
中学校国語科教育における、地域の文学作品の位置づけ
-「ブラジルおじいの酒」の授業をもとに-
The Possibility of Teaching Local Literatures in Japanese Language Classes at Junior High Schools in Japan
:Through Teaching the Local Material “Brazil Ojii no Sake”
桃 原 千英子 Chieko TOUBARU
要 旨
本稿は、国語科教育において、地域教材が拓く可能性と課題について検証したものである。
地域の文学作品を教材化したものをテクストとして読みの交流の学習を行い、そこで得られた学習 記述やアンケートをもとに実態調査した。
その結果、地域の文学作品は、地域の言語文化を通したアイデンティティーの発見、地域から世 界を考える視点の育成、断絶された伝統文化の継承、世代間理解、異文化理解を促す学習材であると 位置づけられた。
課題として、地域教材開拓にかかる労力の大きさがある。また、教材に適したテクストを見極め る力、学習課題を作成する力、教材を効果的に提示する力など、教材開発の総合力を高める必要がある。
Ⅰ はじめに
平成
21
年、中学一年生を対象として、沖縄県の芥川賞作家、目取真俊の小説「ブラジルおじいの酒」を教材化し、「読みの交流」により読解を深める学習を行った。これは、本作品が回想シーンを含む 入れ子構造からなり、語りに重層性をもつことで、読みに困難を生じさせる可能性があるため、学習 者の読みの構築の実態を検証する目的で臨んだものであり、一定の成果を得た。(1)(2)
今回は、当時の学習データと、三年生になった時に行ったアンケート結果をもとに、地域教材開発
(1) 桃原千英子:「入れ子構造をもつ文学教材における読みの学習−目取真俊「ブラジルおじいの酒」における読みの交流−」,
『月刊国語教育研究』,1月号(通巻
465),日本国語教育学会,pp.58-65,2011.1
(2) 入れ子構造を持つ作品においても、読みの交流を促す条件を満たした「問い」を作らせ、それに答え、互いの考えを交流 し合うことで、読みが深まり、文章構造の理解にも繋がることが分かった。また、読みの交流を促す「語り」を尋ねる 発問と、作品の空所を補うような発問を合わせて提示することで、読解の困難や混乱を防ぐことが分かった。
の立場から再検討し、国語科教育における地域教材の可能性と課題を検証したい。
Ⅱ 「ブラジルおじいの酒」の教材化について 1 作者について
目取真俊は、
1960
年、沖縄県今帰仁村に生まれた。沖縄の過去と現在のつながりや断絶を見つめ る作品で注目されており、1997年『水滴』で第177
回芥川賞を受賞した。「ブラジルおじいの酒」は、2000
年に第26
回川端康成文学賞を受賞した『魂込め』(3)に収められている。授業では、原作から抄 出した本文をテキストとして学習用に提示すると同時に、学習者全員に原作を提示した。2 作品について
テクストとした『魂込め』(1999)は、① pp.49-55、② pp.55-71、③ pp.71-85、④ pp.85-87、⑤
pp.87-89
の五つの場面に、それぞれ一行空きをはさむことで分かれている。概要は以下の通りである。学習者へは、③以降の部分を提示した。
①沖縄の高校生の半数以上が「日本復帰」の年月日を言えない、という新聞記事を読んだ「ぼく」は、
少年だった当時に出会った、ブラジルおじいとの思い出を振り返る。
日本復帰の前年、同級生が日本のお金を学校に持ってきて、安っぽいと不評をかこつ。半泣きになっ た同級生を誘い、ブラジルおじいの家にスモモを盗みに行く。少年たちを見つけ追ってくるおじいを からかって逃げる「ぼく」らであったが、おじいは頼るべき親せきもなく、また村の大人たちとの交 流もなく、孤独な生活を送っていた。
②ひとりで釣りに行った「ぼく」がおじいの船を勝手に乗り出し、まどろむうちに船が引き潮に乗っ て入り江から海に出てしまいそうになる。おじいが必死で助けてくれたことをきっかけに、おじいの 家にたびたび行くようになった「ぼく」は、若い頃移民として行ったブラジルでのおじいの話を聞く。
③おじいと初めて一緒に漁に出、手長エビ漁を教わる。漁のあと、おじいの家で古酒をすすめられ、
花の匂いのする酒を飲む。その匂いに誘われ、オオゴマダラが舞い込み、酒をなめる。蝶を捕ろうと するぼくを、おじいは蝶は人の魂がこの世に訪れる時の姿なのだと制す。その古酒の瓶はおじいがそ の父親から受け継いだものであり、おじいからその瓶をめぐる話を聞かされる。
④翌朝、おじいの家に行った「ぼく」は、船の横の川面にかがみこむようにして死んでいるのをみつ ける。誰にも告げず、部屋で寝ていた「ぼく」は、おじいが死んだことを話している父親に憎しみを 覚える。
⑤おじいの家の片づけをする大人たちが古酒の瓶を見つけるが「精の抜けておるむん」「水るやるむ んな」と言って酒を吐き出し、瓶を割ってしまう。オオゴマダラをはじめとする数十羽の蝶が飛んで
(3) 目取真俊:『魂込め』,朝日新聞社,1999.8
きて、酒をなめに瓶に舞い降りてくる。
3 作品の教材化について
本作品は、回想的な入れ子構造を持つ作品であり、テクストの解釈の仕方によっては、語り手が幾 通りにも考えられる、語りに重層性を持った作品である。松本・桃原(
2004
)(4)では、「ブラジルお じいの酒」を教材化研究の視点から、入れ子構造を持つ作品の混乱を回避しつつ読みの交流活動を展 開するには、語りの観点からの教材化研究が充分に行われることが必要であると論じた。学習課題も、末尾の二文の語り手を問う発問では具体的な読みの交流が行われるが、「ぼくと蝶以外におじいの酒 が酒として感じられなくなったのはなぜか。」という問いでは、恣意的な解釈を再び根拠にしてしま う水掛け論に陥りやすいことを指摘した。当時の授業では、この二つの発問を学習課題として、発問 ごとの交流の様子や、入れ子構造の作品理解への影響を見ていくことにした。
作品は、沖縄方言や魂に関する風習などの伝統的沖縄文化を土台とし、ブラジル移民や太平洋戦争、
本土復帰の話を時代背景に持っているが、沖縄県で生活する学習者にとっては、特に難しい語句はな いと考えた。幻想的で非現実的な回想物語であることが却って作品の魅力となり、テクストの読みそ のものには学習者も興味を持って取り組めるものと考えられる。
4 学習の流れ
(1)テキストを読み、読みが深まる発問を考える。
(2)発問①②について、根拠をあげながら自分の考えをまとめる。
発問① 青年たちにはお酒が水に思えたのはどうしてだと思うか。
発問② 末尾の2文「羽の色は美しかった。見上げる夏の空の青い底に、まだこの世界に訪 れない無数のちょうが舞っているような気がした。」は、語り手の言葉か、少年の
僕の言葉か。
(3)互いの発表について、根拠も含めて話し合いを行い、互いの考えを理解し、感想を持つ。
(4)自分の読みを見直し、最終的な感想を書く。入れ子構造について説明する。
1・2段落 ・・・ 発問に対する、自分の最終的な考えを書く。
3段落 ・・・ この作品で作者が言いたかったこと(伝えたかったこと・主題)をまとめる。
Ⅲ 学習者の実態 1 学習者の生活環境
勝連半島の高台に校舎を構え、近くには世界遺産の勝連城趾、また観光地の伊計島とをつなぐ「あ
(4) 松本修・桃原千英子:「「ブラジルおじいの酒」における語りの重層性と読みの形成−教材化研究の視点から−」,表現研究,
第
80
号,pp.86-94,平成16
年10
月やはし海中道路」、埋め立て工事の進む泡瀬干潟が一望できる。近くのホワイトビーチでは、放射能 漏れを起こした米海軍の原子力潜水艦が寄港した際、住民がシュプレヒコールを挙げる場面もニュー スに取り上げられた。昼間の穏やかな環境とは打って変わり、深夜には装甲車が走るなど、歴史と自然、
観光と開発、基地問題といった、沖縄の過去と現在の課題が残る地域でもある。
伝統文化においては、念仏踊りとしての伝統的なエイサーが青年会によって継承され、道ジュネー の様子がNHKで紹介された。闘牛も盛んである。また、勝連城主(按司)「阿麻和利」の崇高な生 き方を「肝高」として尊び、与勝地域の中高生が出演する「現代版組踊・肝高の阿麻和利」(5)の舞 台にも数人の生徒が参加している。
学校近くには拝所があり、旧勝連町や、近隣の旧与那城町(宮城島)、津堅島、旧具志川市、旧石 川市では「マブイグミ」の風習がある(6)とされている。
生徒は中高一貫の全県区からの募集のため、沖縄市から通う者もいる。また離島を含む地域のため、
それぞれの地域ごとに方言やアクセントの違いがあり、比較し合う様子も見られた。図書館には沖縄 関連書籍がそろい、絵本コーナーには地域の農道として切通しを作った先人を描く『ワイトゥイ』の 本もある。
以上のように、沖縄の伝統や言語文化に触れる機会には、かなり恵まれた地域だと言える。
2 沖縄文化「断絶」の様子
作品自体にも「沖縄の過去と現在の断絶」が描かれているが、読者である学習者と作品との間にも、
以下のような断絶の様子が見られた。豊かな伝統文化や言語環境下にある学習集団にも、少なからず 地域文化の断絶があると言えよう。
①伝統文化の断絶
この作品は、ブラジルおじいや少年の僕の語りが、沖縄方言で交わされている。例えば、「精の抜 けておるむん。」の「精」は「しい」と発音し、「アルコール」を意味しているなど、生活経験の無い 中学生にとっては、学習初期における読解の困難状況が見られた。また、味のまろやかな古酒でもア ルコール度数はかなり高いことや、素焼き瓶の呼吸、酒は瓶に入れて熟成させること、酒の芳醇な香 りを花の香りに喩えていることなど、家庭で、またガマで酒を熟成させる機会の少なくなった現代の 中学生にとっては、酒への知識不足と沖縄方言を理解する難しさがあった。瓶仕込み泡盛「うりずん」
のコマーシャル映像が、「素焼きの瓶」や「熟成」の理解を促した。
(5) 元勝連町教育長の上江洲安吉の、地域教育への情熱により作られた、演劇教育活動である。脚本・嶋津与志、演出・平田 大一による、与勝地域の中高生が出演する「現代版組踊」と称する演劇である。(田場裕規:琉球新報(芸能・文化)書評「『き むたかの翼』地域教育、結実への記録」,琉球新報,2011年
12
月11
日 参照)(6) むぎ社編集部編著:『沖縄の迷信大全集
1041』,むぎ社,pp.59-63,1998.2
沖縄県中頭郡勝連町字平安名字誌編纂委員会編:『平安名字誌』,平安名区,pp.617-622,p.651,1997.3 具志川市誌編纂委員会編:『具志川市誌』,具志川市役所,pp.358-359,1970.5
山城正夫:『シマの民俗(下巻)―石川市山城(ヤマグシク)―』,pp.39-63,2006.11
またこの作品の中で象徴性を持つ「ちょう」が人の魂であるという世界観を知らない生徒も多く、
「ちょうは人の魂がこの世で舞う姿だ」という表現から、ちょうの象徴性の発見や疑問の提示がなさ れた。ちょうを人の魂とみなす世界観は、沖縄独自のものではなく、古代ギリシア(7)(8)やビルマ(9)、 日本の「遊魂民話」(10)にも見ることができ、人類の持つ普遍的な世界観である。このような精神世界を、
学習者は現実的な思考や一般常識を当てはめて読んでしまい、作品の読解に支障をきたす姿も見られ た。死生観を持つには早い年齢ではあるが、「人の姿をチョウにたとえるところが神秘的だった」と いう感想からは、中学一年段階は、ちょうが象徴するものや、それを生みだした人間の世界観を理解 できていない年齢であることがわかる。また、それを伝えてきた家庭や地域コミュニティーが、これ までのように地域の文化や精神世界を継承できなくなっているといった、沖縄文化の断絶を見ること ができよう。
②歴史の断絶
作品では、貧困による海外移住や、戦争による帰国でマイノリティーとして生きざるを得なかった おじいの孤独が描かれる。そのおじいが生きた戦後沖縄社会と、基地に取られた墓地の瓶に託すおじ いの思いは、戦前・戦中・戦争直後の沖縄を知るものにしか分かり得ない、といった、歴史の断絶が 避けられないものとして表現されている。
学習者は、太平洋戦争に関しては、小学校から行われる平和学習を通して全員が知識を持っていた。
しかし、ブラジル移民に関することや、先祖代々の墓が基地に取られた現実については深く知ってい るわけではなかった。そのため、移民については再度意味調べや解説が必要となった。
また、作品内では戦争体験者の「おじい」の人生や歴史が、おじいの死によって「断絶」され、同 時に上原達に代表される戦後世代の無理解といった「断絶」も描かれる。読者である生徒と作品との 間にも、郷土の伝統文化の断絶が見受けられた。これは、作品世界を構成する「戦後」すぐの時代で も、ブラジルおじいの体験は継承されず、少年が唯一の継承者となっている話であることから、戦後
67
年を経た平成の中学生が理解できないというのも当然のことと言えよう。③言語の断絶
「古酒れんな?」「精の抜けておるむん。」「水るやるむんな。」の発音や、沖縄方言の微妙なニュア ンスを感じ取れない生徒も多かった。作品の舞台になっている北部方言に馴染みが無かったことも考 えられるが、学習者にとってはその表現自体、耳にしたことがない言葉だったことが考えられる。
3 地域教材の持つ力-継承力-
地域文化や言語面で、数々の断絶が見られた学習者であったが、作品を読み込む中で断絶された過
(7) ジャン=ポール・クレベール,竹内信夫他訳『動物シンボル事典』,大修館書店,pp.225-227,1989.10
(8) マイケル・ファーバー,植松靖夫訳『文学シンボル事典』,東洋書林,pp.164-166,2005.8
(9) 高橋孝代「魂の観念―琉球弧の民間信仰―」,こども教育宝仙大学紀要6,p.48,2015.3
(10) 長澤武『ものと人間の文化史 124-Ⅱ・動物民俗Ⅱ』,法政大学出版局,p.235,2005.4
去を継承していく姿が見られた。学習者の最終記述を中心に、継承に関する部分(下線は桃原による)
を取り上げる。
なお、学習者の記述にある「作者」とは、「想定される作者」を意味している。多様な読みを交流 する中で、自分なりに解釈したテクストの本質を書かせたものだが、学習者の混乱を避けるため、学 習用語として馴染みのある「作者」「主題」という言葉を使用させている。
(1)伝統文化や歴史の見直し(文化の継承)
①世代間の断絶・家族の絆・おじいと沖縄の歴史の継承
【学習者 Y(1A・女子・4班)】
最後に、この作品で作者が伝えたかったことは、「約束は何年たっても約束」ということと、「その人にしか わからない物がある」ということだと思います。おじいさんは、ブラジルに行く前に父と「再会したら一緒に 飲もう」という約束をずっと覚えていて、沖縄に帰ってきた時に約束した場所で瓶を開けたというのがすごい なと思いました。
(中略−桃原−)そして、約束を果たしたあと、おじいさんはその瓶をすごく大事にして、二十年間も一緒に 生きて、おじいさんの気持ちが込められていると思います。だから「特別な酒」になるのはおじいさんが飲む ときだけだと私は思いました。瓶は、おじいさんと一緒にいるからこそ価値があるんだと思います。だからお じいさんが生きていた時も、他人にはそれほどおいしく感じられなかったんじゃないかなと考えました。そし て、作者はおじいさんの酒のように「本人にしかわからない特別な物がある」ということを伝えたかったんだ と思います。
作者が伝えたかった事を、「約束は何年経っても約束」や「その人にしか分からない物がある」と したことから、学習者Yは沖縄戦体験者との世代間の断絶を読み取っていることが分かる。「沖縄に 帰ってきた時に約束した場所で瓶を開けた」からは、貧しさや戦が原因で途絶えてしまった家族の絆 と、それを一人で守るおじいの家族への思いを読み取っている。「瓶は、おじいさんと一緒にいるか らこそ価値がある」からは、瓶や酒が、貧しさ故の移民生活、戦争による家族の喪失、戦後の沖縄社 会での孤立などといった、おじいの苦難の人生を支えるものであり、その歴史を唯一の継承者となる 少年につなぐ媒体と理解している。それを読み取ることにより、周りと断絶し理解されないおじいの 過去、沖縄の歴史を学習者も継承したと言うことができる。
②文化の見直し・伝えられない思いの継承・世代間の断絶の認識・地域言語の発見
【学習者 R(1A・男子・6班)】
しかし、この作文を書きながらよくよく考えてみると、この答えに対し、一つの疑問が浮かびました。「魂 であれど元は人なのに、なぜ魂にならないと分からないような味があるのか。」です。そこで思い付いたのが、【酒
に入っていたのは精ではなく今までの思い】という説です。これなら青年たちが酒を水に思えたのも分かりま すし、魂になった時に邪念などが全て洗われるのなら、酒に詰まった切実な想いに集まるのも分かる気がしま す。なので、私は最終的にこの答えで決定しました。(中略−桃原−)
そして、最後の最後、作者が読者(私も含めて)に言いたかったことですが、こればかりは今はどう考えて みても分りません。なので、とりあえず、この話に頻繁に出てくる、〝蝶″と、〝酒″についてから考えてみる事 にしました。
まず、〝蝶″ですが、蝶は発問1の答えや、本文のp
10 ℓ 4-5
で人の魂としているので、蝶=
人の魂として いいと思います。次に、この話の主題に最も関係のありそうな〝酒″、特におじいの酒についてですが、これも発問1の答えより、
「邪念のない魂たちが集まってくるような、おじいの想いの詰まった特別な酒」なので、これは文字どうり、
おじいにとっては特別な酒です。そして、その想いの詰まった酒に、集まった蝶たち(おじいやおじいの父、母、
兄弟、そして、その他の戦死者など?)のように、その酒の本当の味を感じる。「精の抜けておるむん」と言っ た区長や、「水やるむんな」と言った上原のように、表面の味を気にするんじゃなく、もっと中身を味わおう とする。それが、今の社会に抜けているところではないのか、つまり、このことこそが、作者が言いたかった 事【主題】なんじゃないかと私は思います。
「魂であれど元は人なのに、なぜ魂にならないと分からないような味があるのか。」という疑問や、「蝶 は発問1の答えや、本文のp
10 ℓ 4-5
で人の魂としているので、蝶=
人の魂としていいと思います。」から、沖縄の文化は学習者Yにおいても継承されていなかったことが分かる。しかしYはテクストの 文章に沿って、疑問への答え「【酒に入っていたのは精ではなく今までの思い】という説」を導き、
蝶が人の魂という風習の記述から「その想いの詰まった酒に、集まった蝶たち(おじいやおじいの父、
母、兄弟、そして、その他の戦死者など?)のように、その酒の本当の味を感じる。」と読みを展開した。
作品を読む過程で、地域の文化や歴史について見直し、理解を深めることになったと言えよう。さらに、
「表面の味を気にするんじゃなく、もっと中身を味わおうとする。それが、今の社会に抜けていると ころではないのか」と、伝えられない当事者の思いや、沖縄戦体験者と戦後に生まれ育ったものとの 断絶を読み取った。少なくとも学習者Yは、この作品を読むことで「伝わらない思いを受け取る事の 難しさ」は伝わったと考えられる。「精」siiには、もともと精力・元気・勢い(11)、酢・(人の)霊(能)
力(12)、精・魂(13)という意味がある。またアルコールや炭酸といった意味の他、唐辛子の辛味成分や 酢の酸味等、食べ物本来の性質が抜けてしまうことを指して、「精が抜ける」と表現する等、本質といっ た意味でも使われているそうだ。(14)方言の意味を知らない学習者
R
であったが、【酒に入っていたの(11) 国立国語研究所 編『国立国語研究所資料集5 沖縄語辞典』,財務省印刷局,p.468,2001.3
(12) 半田一朗 編『琉球語辞典』,大学書林,p.472,1999.11
(13) 高橋恵子『沖縄の御願ことば辞典』,ボーダーインク,p.50,1998
(14) 教職課程履習生に、家族へのインタビューを依頼した。(本部町出身・在住 50代前半男性、豊見城市出身・在住 79歳男性)
2017.2.5
は精ではなく今までの思い】であり、「表面の味ではなく中身、すなわち伝えられない思い、物事の 本質を味わおうとすることが今の社会に抜けているところ」だと、文章内容から地域言語・方言の意 味を学び取った。方言を知らない学習者にとって、読みの過程で「精」の持つもう一つの意味である
「歴史・記憶・思い」という象徴を読み取り、作品における「精」の意義を捉えている姿が見られた。
③文化、風習の再認識 ・ 方言や考え方、風習の見直し
【学習者O(1B・女子・3班)】
沖縄には見えない存在を実際に存在するとして自然の神々を信仰する傾向がある。この作品を書くことで作者 は人への思いやりについて伝えたかったと思う。この世にいる人間だけではなく、あの世の存在に対する敬意も 伝えたかったのだと思う。また、沖縄の方言や考え方が書かれていることから作者は沖縄の人々の考えに対して 尊敬の念を表していると思う。
「見えない存在を実際に存在するとして自然の神々を信仰する傾向がある」と、沖縄の文化や風習 に言及している。「傾向がある」という表現からは、郷土の文化や風習が現代は失われつつある意識 の現れとも言えるし、他の地域との比較の中で郷土を見直しているとも言える。沖縄の「神々への信仰」
に則り、「あの世の存在に対する敬意も伝えたかった」と、作者の思いを受け止めている。更には「沖 縄の方言や考え方が書かれていることから作者は「沖縄の人々の考えに対して尊敬の念を表している」
と、作品に方言が用いられた理由を考えている。沖縄の伝統文化や風習、方言といった地域言語を通 して、沖縄の人々の考え方、風習を見直していると言える。
④マイノリティーや世界を見つめる眼差し
【学習者T(1A・女子・8班)】
この作品から読んでいて一番つらいなあと思ったことはブラジル移民の現状のことです。家族と離れ離れに なって、後から生き別れていたと知ることになるなんて今の私にはとても考えられない出来事です。作品の中 でのおじいは家族の顔を忘れていただけに、重荷が大きかっただろう。その大きな重荷を背負ったまま死んで 行く。こんな事が世界のどこかで起こっているのか、と思うと心が痛いです。悲しいけれど現実なんだって見 直さないといけない。それはブラジル移民に限ったことじゃなくて作者は「ブラジル移民のおじい」を一つの 例とした世界で起こっている出来事を小説を通して伝えたくて書いた作品だろうなぁ(沖縄の歴史の見直し・
未来作り)、と読んでいるうちに感じるようになりました。来世の担い手となる私達への未来づくりのヒント なのかな?と思います。
学習の初めには、ブラジル移民についてさほどの知識を持たなかった学習集団であったが、学習者
T
は、作品から「ブラジル移民の(つらい)現状」、重荷を背負い生きていかざるを得ない状況を読み取り、マイノリティーとしてのおじいの孤独を見つめ直した。さらに、「こんな事が世界のどこか で起こっているのか」と「世界で起こっている出来事」に目を向け、「未来の担い手」としての生き 方を考えている。地域の文学を読む中で、世界を見つめる眼差しが生まれたと言えよう。
(2)地域言語の継承
①心理描写、風景描写
【学習者 K(1B・女子・1班)】
「胸の奥に開いた穴に内側から吸い込まれそうな不安に耐えた」という文で大切に思っていたおじいがいなく なってしまい不安定な気持ちになっている少年のつらさを表す文だと思います。そして
21
ページ7
〜8
行目 の文「羽の色は美しかった。見上げる夏の青い底にまだこの世界に訪れない無数のちょうが舞っている気がし た。」この文は少年が美しいちょうを見て、おじいの死にけじめをつけ、おじいの思いを胸に生きていこうと 決心する少年の決意が表れ、この話のしめくくりとなる文となり、筆者は私達読者に対して、戦争によって家 族を失った遺族の気持ちをどう受け止め、これからの平和に生かしていくべきかについて伝えたいんだと思い ます。少年の辛く不安定な心理を「胸の奥に開いた穴に内側から吸い込まれそうな不安」という表現で効 果的に表されることに触れている。「見上げる夏の青い底にまだこの世界に訪れない無数のちょうが 舞っている」という情景描写からは、過去を継承し未来に向けて歩む少年の姿を捉え、「遺族の気持 ちをどう受け止め、これからの平和に生かしていくべきか」という作者の主張を読み取った。沖縄の 魂の風習と魂を象徴するちょうの美しい描写が、話の締め括りとしての効果を持つことを述べている。
②幻想性への着目
【学習者TM(1A・女子・8班)】
末尾の二文については、作者の言葉だと思う。少年の言葉だという人もいる。だけどたしかに物語の中では
「僕」が言っているような感じもする。けど小説を作ったのは作者
(
目取真俊)。物語の中の「僕」(空想の人
物)に発言権はないし、発言できない。(空想の人物だから)
だとすると私はやっぱり末尾の二文の本は作者で、読者を考えさせ、読者に不思議な余韻を残すため、最後の締めくくりの言葉だと考えた。
結末表現の工夫や効果について述べた箇所である。末尾の2文「羽の色は美しかった。見上げる夏 の青い底にまだこの世界に訪れない無数のちょうが舞っている気がした。」の語り手は、「読者に考え させ」たかった作者であり、「読者に不思議な余韻を残」して作品の幻想性を際立たせたかったのだと、
文章表現の特徴を捉えている。
③語り手・世界観を表す表現への気付き
【学習者 TA(1B・女子・6班)】
あと、1つ疑問があって、「見上げる夏の空の青い底」の見上げるのに底?という疑問です。私は、「見上げ る夏の空の」はこの世から言っていて、「青い底」は宇宙(天国)から言っているのかなぁと思いました。根 拠はありません。グループでも意見はあまりでませんでした。
6班では、「底」という表現を巡って活発な意見のやり取りがなされた。学習者
TA
は、「見上げる」という方向を示す表現と、上から見下ろした時に見えるものの「底」という表現から、「この世から」
は少年の視点を示し、「宇宙(天国)から」はブラジルおじいや亡くなった多くの者の視点を思い描 いている。空を「底」のある場所として捉える世界観や、それが無限や永遠を意味するといった知識 は持ち得ていないため、誤読もある。しかし、「見上げる夏の空の青い底に、まだこの世界に訪れな い無数の蝶が舞っているような気がした。」という結びの表現は、無限に広がる青空の底には、おじ いの歴史のように私たちに受け継がれなかった無限の歴史があることを意味しており、学習者は「見 上げる」という表現に着目することで、作品の幻想性や語り手の視点、超越的な語り手などに意識を 向けていると言えよう。作品を通して、ちょうは人の魂であるといった世界観に気付くことができ、
その文章表現の美しさや魅力にも気付き始めていると考えられる。
(3)地域の色彩感覚の発見
【学習者SD(1B・男子・8班)】
気ずいたこと<心に残ったこと>
天井の近くを舞っていたオオゴマダラは、静かに降り淡い金色の蜜を飲み始める 理由・・・表現がいいなと思った。
目取真の小説は、沖縄の鮮やかで独特の色彩感が、リアリティーを以て読者の眼前に迫りくる印象 を受ける。研ぎ澄まされた色彩感覚と、比喩を用いた情景描写が、おじいの人生や戦争といった過酷 な状況を強烈に印象づける効果がある。学習者SDは学習の初期段階で、酒を「淡い金色の蜜」と喩え、
オオゴマダラが酒に集まる様子を、「静かに降り…飲み始める」とした、表現の映像的美しさを発見 した。
4 地域教材に関する学習者の意識調査より
当時の学習者が中学卒業を目前に控えた平成
24
年3月に、地域教材の学習についてどのような意 識を持っているか、調査を行った。アンケート結果から、以下のことが分かった。(1)方言に対するイメージ〔資料1・項目7より〕
沖縄方言について、
30%の学習者が「難しいもの」という印象を持っている。意味が分からないため、
中には「宇宙人の言葉みたい」や「もう別の言葉」と言った感想を持つ者もいた。次に多かった印象は、
「けんか言葉」の
14
%である。「ケンカで使ったら勝てる」の他、「沖縄の方言って独特だし、口調が きついから、聞いていると、怒ってるように聞こえて怖いなって思いました。」のような感想も挙げ られた。3番目に多かった印象は、11.6%の「継承すべき」という意見である。「だんだん廃れていっ ている」印象から、「これからもずっと残していく沖縄の大切な文化である」と考えている。しかし、継承を望む一方で、「自分がつなげていく自信はない」と不安も抱いている。それは、沖縄の方言が「外 国語のような、なんだいで、根底にからまっていて、たまに使う英語のような感じ。」とする印象に も現れている通りである。更に、生活言語として実際に家庭で使われている方言が、感情を表す言葉 と、激しい感情の発露でもある悪口などに大別され、更に語彙数も少ないことも理由の一つであろう。
方言は、共通語の会話の中に、感動詞などの単語を挿入する形で用いられており、方言を頻繁に使う 家庭でも、「家族全員が単語で喋っている」ようである。
学習者は、「命どぅ宝」や「ユイマール」「メンソーレ」「ちゅら」のような美しい言葉を沢山知っ てはいる。しかし、それらはある種、標語のようになっており、生活言語とはなっていないように感 じる。光村図書の教科書「方言と共通語」の授業では、方言の挨拶練習にロール・プレイングを取り 入れた。方言が頻繁に使われなくなった現代において、地域の風土や空気感などの、実感をもった地 域言語の学習には、断片的な知識に終始しないよう、小説や民話、伝説など地方言語の記述がある作 品と組み合わせて学習することが効果的である。作品世界に描出される地域の空気間の中で、方言は より学習者の意識に残ると考えられる。
(2)マスメディアの中の沖縄方言について〔資料1・項目8より〕
2001年放送の、NHK『連続テレビ小説』シリーズのテレビドラマ『ちゅらさん』以降、沖縄文化 や方言はマスメディアに多く取り上げられている。テレビやラジオといったマスメディアの中の沖縄 方言について、意識に性差が見られた。男子は、方言継承の点からマスメディアの力を認める意見が 多かった。一方女子は、「間違った使い方をしている」や、「誇張されたステレオタイプの沖縄」といっ た違和感を抱く生徒が多かった。既に理解できなくなった「琉球語」などの伝統的な方言と違い、日 常使っている言語だけに、地域の今の言葉とのニュアンスの違い、感覚的なものの違いには目を向け やすかったと言える。「作られた沖縄」を感じたということは、地域の気候風土によって生じる感覚 的なものが、俳優の話す言葉や脚本家や演出家の表現からは感じられなかったということであり、ま さに地域の言語によって地域の風土が表現され、受け継がれていることの証である。逆説的にいうな らば、学習者がその違和感に気付いたということは、「現在」の地域の言語文化は継承されていると いうことである。
(3)郷土の伝統文化について〔資料1・項目 12・13・15 より〕
「ちょう」が人の魂を表すこと、「ニライカナイ」の信仰を、日常生活の中で知った者は約
20%であっ
た。「ちょう」と魂の関係については、「ブラジルおじいの酒」から学んだものが約45%と多く、作品
を「読めば気付く」というコメントにある通り、地域教材、小説が文化継承の一役を担っていること が伺える。魂についての風習を知っていた生徒は45
%と多いが、これは地域に魂に関する風習が現在 も継承されていることと関連があるのかもしれない。しかし魂についての風習や、ニライカナイの信 仰を、地元のヒーロー戦隊「琉神マブヤー」で知った生徒が18%とかなりの割合でおり、方言などの
言語に比べ、触れる機会の少ない風習などの伝統文化は、マスメディアから学んでいるという、メディ アの文化継承力も明らかになった。また「琉神マブヤー」からは、「スーパーメーゴーサー」という、英語と方言を合わせた造語も広まっており、マスメディアの持つ地域言語の創造力も見られた。
(4)地域教材を国語の授業で取り上げることついて〔資料2・【3】より〕
・地域の意外な一面を見ることができるので、よい機会だと思います。
・いいと思う。ここの地域の文化を学ぶことは、受け継ぐことに繋がっていくと思うから。
・しっかり沖縄関連教材に触れた方が良いと思う。その方が新たな見方(沖縄に対する感性)が出て くるから。
・住んでいる地域の文化とかを知るのは、いいことだと思う。地域の文化は自分達がしか守れないから、
もっと授業でそういうものを取り入れてほしいと思います。
以上のような感想が出された。地域教材の学習が、地域文化の再発見や継承に繋がるという「学習の 意義」を見出していることが分かる。
Ⅳ 地域教材の開拓に当たって
地域教材を開拓するに当たり、作品のどの箇所を学習者に提示するかが問題となる。全作品の提示 は困難だからこそ、教材化できる箇所を精選する必要が出てくる。その際は、学習者の実態を鑑み、
考えるに値する課題が含まれている箇所を提示する必要がある。「ブラジルおじいの酒」の授業では、
文学作品の読みに困難をもたらす課題への対応として、以下の2つの着眼点を示した。地域を舞台に した小説教材の読解についても同様のことが言える。
1 教材化への着眼点
①入れ子構造への着目・・・回想シーンには、地域の歴史とそれを背負って生きる人間の思いが現れ ており、その箇所に着目させることで断絶した過去の継承ができる。
②語りへの着目・・・語り手を誰とするかで、作品の読みに違いが生じる。その違いを学習者同士で 比較し合うことで、亡くなった者たちに寄り添い伝えられなかった思いを受け取るか、主人公に寄り
添い未来に向けた言葉ととるか、作者の読者への願いやメッセージととるかに分かれる。
③象徴性への着目・・・「鳩は平和の象徴」などのように、「象徴」とするものには、それを用いる地 域の歴史や文化、思想が反映されている。地域教材の場合、作品中の「象徴」はその地域に住む人の 世界観や風習を土台としたものとなることが多い。「象徴」を読み取りその表現の仕方に着目するこ とにより、地域の伝統文化や言語文化の継承になる。
④空所への着目・・・登場人物の関係性や、象徴を読み取るには、発問①「青年たちにはお酒が水に 思えたのはどうしてだと思うか。」のような作品の「空所」を押さえる問いが必要になる。空所は、
作品に対する作者の意図が現れた部分であり、作者のメッセージを受け取る為にも必要となる。
⑤幻想性への着目・・・「火の粉が舞い上がっても、ちょうの群れは飛び立とうとしない。羽の色は 美しかった。見上げる夏の空の青い底に、まだこの世界に訪れない無数のちょうが舞っているような 気がした」のように、幻想的な表現が読みの困難を招く一方、その幻想性に触れることで、作者が作 品に込めた思いの深さに迫り、方言による会話と併せて、作品世界の魅力をより一層引き出すことに なった。その魅力は、村上呂里の述べる「地域の風土生活に根ざした豊かな言語感覚とものの見方を 育むこと」(15)に繋がる。
2 学習課題の着眼点
地域教材を用いた学習では、同じ地域に暮らす学習者同士で対話し、生活言語を振り返り、発見さ せる事が重要になる。話し合いを活性化させる学習課題として、以下二点を示す。
①読みの交流を促す「問い」の要件(16)に照らし、複数の問いを組み合わせて提示する。
1の「教材化への着眼点」で示した問いも、要件を含んだ内容の発問になっている。しかしそれら を単独で示した場合、要件を満たさないものがあり、内容理解が不充分なため話し合いが滞ることが ある。「問い」を複数組み合わせることにより、不足していた要件を補い、話し合いの活性化が図ら れる。特に、読みの交流を促す「語り」に関わる問いと、作品の主題に迫るような「テクスト全体の 読みに関わる」問いを組み合わせることが必要である
②空所に着目させ、要点駆動の読み(17)を起こさせる。
(15) 村上呂里:「〈領域関連・総合・補充・発展〉65.地域教材による国語学習」『国語教育総合事典』,日本国語教育学会編,
朝倉書店,p.722,2011
(16) 松本修:「読みの交流を促す「問い」の条件」『臨床教科教育学会誌』,第
10
巻第1号,臨床教科教育学会,p.77,2010.5 〔読みの交流を促す「問い」の要件〕a 表層への着目:テクストの表層的特徴に着目する「問い」であること。
b 部分テクストへの着目:部分テクストが指定されていることによって、読みのリソースの共有がなされていること。
c 一貫性方略の共有:部分テクストが他の部分テクストや全体構造との関係の中で説明されるという解釈の一貫性方略 (結束性方略)が共有されていること。
d 読みの多様性の保障:読み手によって解釈が異なるという読みの多様性に開かれていること。
e テクストの本質への着目:想定される作者との対話を可能にするようなテクストの勘所にかかわるものであること。
(17) 山元隆春:「読解力養成の理論−読者反応論からの提起」『中学校国語 指導シリーズ 充実した読解力養成のために』,学 校図書,pp.2-8,2011
話の内容の飛躍部分である空所は、作品に対する作者の意図が現れた部分である。要点駆動の読み は、作品の価値を表す部分において行われる読みであり、空所を考える事によって学習者の読みも、
情報駆動の読みから内容駆動の読みへ、そして作者の意図や作品の価値を考え合う要点駆動の読みへ と変化する。地域教材を学習するに当たり、同じ地域の学習者が交流しながら言語文化を見つめ直し、
作品に込められたメッセージを読み取る活動にしたい。
Ⅴ 地域教材が拓く可能性 1 地域教材の魅力
①地域風土が紡ぐ表現(色彩感覚・情景描写)を再発見できる。
②地域の風習や伝統を読み取ることにより、地域と自己への理解が深まる。
③地域における「断絶」した過去の「継承」に繋がる。
・少年の継承を読み取る読者によって、「沖縄の断絶」した過去が再び「継承」された。
・戦没者や体験者の高齢化により、戦争以前の沖縄文化や言語文化が断絶しているとも言えるが、
それを補うのも、地域の文学の力であると考えられる。
④自らを育んだ、自己の原点への関心を拓くことができる。
⑤象徴や幻想性への理解ができる。
・地域の精神世界を、現実的思考や一般常識で判断するのではなく、作品そのものから捉える力が 付く。
⑥地域から世界を考える視点が育つ。
2 教材化の課題と提案
授業者にとって、地域教材を開拓し授業実践することは、時間的な側面からもなかなか難しい。学 習者の実態を鑑み、学習材になりうる作品を探し、更に教材化して発問を考えるのは、かなりの労力 が必要とされるからである。
沖縄県においては、高等学校の副読本として『沖縄の文学』(18)『沖縄の文学 近現代編』が、各カリ キュラムに合わせ用いられてきた。教科書『高校生のための郷土の文学』(19)も作成されている。中学 校の副読本には『わかりやすい 郷土の文学』(20)があるが、教育課程の関係上、またオモロや歌謡、
組踊等を中心に編纂されていることもあり、充分な活用には至っていない。授業者は学習者の実態に 則して実生活に根ざした学習材を提示する必要がある。
沖縄県の教育現場では、平成
18
年の「しまくとぅばの日に関する条例」公布以降、しまくとぅば の普及・継承に関する様々な取り組みが求められてきた。(18) 高教組教育資料センター:『新編 沖縄の文学(増補・改訂版)』2003.12初版発行,2008.4増補・改訂版発行
(19) 沖縄県教育委員会高等学校教育課編:『高校生のための郷土の文学』古典編
,
沖縄県教育委員会, 1996.3
(20) 郷土の文学編集委員会編:『中学校用 わかりやすい 郷土の文学』, 沖縄時事出版
, 1987.5
しかし、何よりも重要なのは、地域の言語文化を断片的な知識として与えることではなく、文学作 品を通して、「学習者の地域の風土生活に根ざした豊かな言語感覚とものの見方を育むこと」である。
そのためにも、教師は普段の実践から、教材に適したテクストを見極める力、学習課題を作成する力、
教材を効果的に提示する力など、教材開発の総合力を地道に高めていく必要がある。
例えば、小説など作品の一部分を抜粋し、表現の一部を教科書教材の表現と比較させることも可能 である。象徴や幻想性に着目させ、地域が育んだ風習や世界観を考えさせることもできる。同じテー マに沿って書かれた、地域の文学作品とその他の文学作品を、比べ読みさせることも考えられる。各 市町村教育委員会が編集した地域の民話「○○の民話」の活用は、地域教材開発の大きな助けとなる だろう。豊かな言語活動の展開が期待できる。
Ⅵ おわりに
沖縄は歴史的に見ても、方言札の励行や戦争による文学の断絶、その後の学習環境の立て直しなど、
特別な状況下に置かれてきた。平成に入り、独自の文化がマスメディアに注目されたことで、方言に 対する意識も前向きなものになったが、平成
21
年には、ユネスコによって沖縄地方の言語・方言が 消滅の危機にあると認定されている。地域教材の持つ可能性は、このようなエッジとしての沖縄という、特定の地域に限定されるもので はない。国語科教育に地域教材を採り入れることで、言語を通して自分が生まれ育った土地への理解 が深まり、地域の中で育まれる自己の感性や表現のあり方に気付き、自身のアイデンティティーを見 つめ直すことが可能となる。進みゆくグローバル社会の中、地域から世界や社会を見つめる眼差しも 生まれる。自分のものの見方を再認識させ、外の世界との違いを発見することは、世代間理解、異文 化理解にも繋がる可能性を持つ。
沖縄の言語文化は、ウチナーヤマトグチや若者言葉、流行語、メディアによる造語など、多様なも のを「チャンプルー」して採り入れながら、時代のスピードと共に変化していることが、生徒の実態 から読み取れた。方言の地域差のみならず親子間での断絶も、地域言語の変化の速さを物語っている。
そのような地域文化の断絶と創造は、沖縄以外の他の地域でも大なり小なり見られるのではないだろ うか。社会の移り変わりの中で、地域言語生活者として自分の足元を見つめる学習は、風化しつつあ る地域文化に光を当て、継承することに繋がる。言語文化の継承と発展創造が、「断絶」を感じた時 に始まるならば、「断絶」を語る地域の文学作品は国語科教育において重要な位置にあると言えるだ ろう。
資 料 2
「 ブ ラ ジ ル お じ い の 酒 」 に 関 す る ア ン ケ ー ト結果
Y中
平成24年3月16日(金)3 年
B
組 番 氏 名 1 . 知 っ て い る 方 言 を 教 え て 下 さ い 。※ 多 く 挙 げ ら れ た 人( 男 子 1 位
29
個 2 位27
個 3 位16
個 )( 女 子 1 位 1 1 個 2 位10
個 ) の の し り ( 2 1 ) と ぅ る ば や ー マ イ ク ス ヒ ャ ー フ ラ ー ノ ー パ ー 死 な す よ ( し め る よ )タ ー ガ ア ビ ト ン バ ー ヤ ー ヤ カ チ ャ ー ナ ー ド ? タ ッ ク ル サ リ ン サ ヤ ? や ー た っ く る す [ た っ く る さ り ん ど ー ] ヤ ー 、 ソ ー テ ィ イ チ ュ ン ド ? べ ー
く す ま や ー わ ら ば ー フ リ ム ン う し え て る ( 生 意 気 だ ) チ ブ ル マ ギ ー や な わ ら ば ー い ー ば ー や さ で ぃ き ら ん ぬ ー ゆ ー し っ た い ( 馬 鹿 に し て 「 よ く や っ た 」)
人 間 関 係 ( 1 3) わ ん [ 自 分 ] わ ー や ー ア ン マ ー う っ と ぅ イ ナ グ イ キ ガ し ー じ ゃ [ 年 上 ] ニ ー セ ー [ 青 年 ] な い ち ゃ ー う ち な ー ん ち ゅ し ん か ぬ ち ゃ ー ( 家 族 の 皆 様 ) じ ら ー ( 同 輩 → 俗 語 )
感 情 ( 1 0) あ が ー あ が っ わ じ た ん わ じ わ じ や っ け ー ウ ト ゥ ル サ ヌ あ ふ ぁ ー あ ん ま し ぃ ( 難 儀 ) で ー じ な と ん [ 大 変 な 事 に な っ て い る ] ま さ い ( 面 倒 臭 い ) 挨 拶 ( 1 0) め ん そ ー れ [ い ら っ し ゃ い ま せ ] に ふ ぇ ー ・ に ふ ぇ ー で ー び る [ 有 り 難 う ]
ハ イ サ イ は い た い ク ワ ッ チ ー サ ビ ラ グ ブ リ ー サ ビ ラ い ち ゃ り ば ち ょ ー で ー チ ャ ー ビ ラ マ タ ア チ ャ ヤ ー ゆ た し く
応 答 ・ 呼 び か け ・ 接 続 ( 9 ) エ ー ぬ ー [ 何 ] や ー り か べ ぇ う り ア ン シ ユ ク シ ま か ち ょ ー け ー ( ま か し て お け )
疑 問 ( 7 ) や ん ば ー ? ど ぅ し や ぁ ま あ し い か ? ぬ ー そ ー が ー た ー た ー や が [ 誰 だ っ た か ] 名 詞 ( 7 ) や ー [ 家 ] て ぃ ー だ ( 太 陽 ) か ん ぷ ー ぐ す く ( 城 ) お ー る ( け ん か )
う ち な ー ( 沖 縄 ) ナ イ チ ( 内 地 )
食 ( 7 ) マ ー ス ( 塩 ) サ ー タ ー ( 砂 糖 ) ぐ る く ん ( た か さ ご ・ 魚 ) し し ( 肉 ) か め ー ( 食 べ な さ い ) う り カ メ ー
て ぃ ー あ ん だ ー ( 直 訳 は 手 の 油 → 手 を 尽 く し て い る と い う 原 義 か ら → 「 美 味 し い 」)
文 化 ( 6 ) ち ゃ ん ぷ る ー な ん く る な い さ ぁ ー ぬ ち ど ぅ た か ら マ ブ イ ぐ み ウ チ ナ ー グ チ 島 人 の 宝
程 度 ( 6 ) し に ・ し ゃ に ( と て も ) で ー じ う す ま さ ( と て も ) ば ん な い て ー げ ー ( 大 体 ・ い い か げ ん )
動 作 ( 6 ) ヒ ン ギ レ ー ( 逃 げ ろ ) に ー ぶ い ( 居 眠 り ) ひ ざ ま ず き ( 正 座 ) ゆ く る く ま っ た ( こ も る → ス ラ ン グ か ? ) ち か ん ふ ー な ー [ 聞 か ん ふ り ] 動 物 ( 6 ) マ ヤ ー [ 猫 ] イ ン イ ン グ ワ ァ ー ト ー ビ ー ラ ー が じ ゃ ん ひ ー じ ゃ ー
接 頭 ・ 接 尾 語 ( 5 ) チ ャ ー [ 超 ~ と 、 似 た 感 じ で ] だ ば ー て ー や ん ど ー [ ~ だ よ ] じ ら ー 体 ( 4 ) ち ら ち ぶ る ち び ( お 尻 ) マ ブ イ [ 魂 ]
体 格 ( 4 ) ち ゅ ー ば ー よ ー ガ リ ー ガ ン ジ ュ ー ( 頑 丈 ・ 元 気 ) ち ゅ ら か ー ぎ ー [ 美 し い ] 性 格 ( 3 ) ガ ー ジ ュ ウ マ ク ー ガ チ マ イ ( 食 い し ん 坊 )
躾 ( 3 ) メ ー ゴ ー サ ー [ げ ん こ つ ] ヤ ー チ ュ ー [ お 灸 ] た っ ぴ ら か す 善 し 悪 し ( 3 ) ヤ ナ じ ょ ー と ー ち び ら ー さ い [ よ く で き た ]
方 角 ( 3 ) あ が と ー ( あ そ こ ) あ ま ん か い ( あ そ こ の 方 に ) ア マ ン カ イ イ チ ャ ビ ラ ー ( 向 こ う に 行 き ま し ょ う ) 職 業 ( 2 ) 海 あ っ ち ゃ ー う み ん ち ゅ
感 覚 ( 1 ) あ ち こ ー こ ー
数 詞 ( 1 )て ぃ ー ち た ー ち み ー ち ゆ ー ち [ よ ー ち ] い ち ち む ー ち な な ち や ー ち く く ぬ ち と ぅ 英 語 と の 複 合 ( 1 ) ス ー パ ー メ ー ゴ ー サ ー ( 琉 神 マ ブ ヤ ー の 言 葉 )
そ の 他 ( 4 ) あ じ ウ フ シ ュ ま じ ゅ ん ( 一 緒 に ) ち ゃ ー や [ 今 日 は … ]
※ [ ] は 、 生 徒 の 書 い た 訳 。( ) は 生 徒 か ら 聞 き 取 っ て 、 桃 原 が ま と め た 訳 。 2 . 方 言 は 誰 に 教 え て も ら っ た か 。
お ば ー (