物づくりの技術主体の進化
並 川 宏 彦
序 文
機械技術フィロソフィ研究の先学の人々によって,人類技術史観が論じられている。1)2)
その中で,現在の技術総体が「コンピュータ時代(前途洋々)」と表現され1),「現在,機 械時代が終わってコンピュータ時代が始まっている。」と説明されている。また,その改訂版2)
として,2019 年の機械学会関西支部機械技術フィロソフィ懇話会で,自由度 3 の技術総体「機 械時代」に「電気・電子時代」を加え,自由度 4 の表現を「コンピュータ・情報時代」とし,
その枠内に「機械・情報融合時代」と記し,「(1990 年代にはパソコン(PC)とインターネッ ト(IN)が定着し,機械時代からコンピュータ・情報時代への技術時代転換を実感した。」2)
と説明されている。
確かに,見掛けの上では,機械への電気・電子技術,特に,情報通信技術の使用が増え,
スマートフォンなどの情報機器が身近なものになってきている。しかし,現在の時点で,
また,今後も,技術総体が「機械の時代がコンピュータの時代へ変わる」と言えるのだろ うか。私の考えを述べてみたい。
§1.人類の出現から
現在,人類学者は,遺伝子や化石などの証拠から,人類が地球に出現したのは約 700 万 年前のサヘラントロプス・チャデンシスにはじまると考えている3)4)5)。直立二足歩行が人類 を定義付ける特徴と言っている3)。
「人類は誕生から約 400 万年の間,脳の大きさが 500cc を大きく超えることはなかった6)」 ようである。そして「300 万年前から 200 万年前にかけて脳が著しく大きくな7)」り,「それ
1)2000 年の機械学会関西支部秋季技術講演会で石谷清幹氏は,「21 世紀における技術のありかたを考 える」と題する講演において,人類技術全史の技術の内的発達法則による時代区分を発表された。講 演要旨配布。
2)2019 年の関西支部機械技術フィロソフィ懇話会で永井 將氏は,1)の改訂版として,自由度 3 の 技術総体「機械時代」に「電気・電子機器時代」を加え,説明されている。
3)リチャード・リーキー著,馬場悠男訳『ヒトはいつから人間になったか』草思社,1996 年,14 頁。
4)三井誠著『人類進化の 700 万年――書き換えられる「ヒトの起源」』講談社現代新書,2005 年,22 頁。
5)河合信和著『ヒトの進化 七〇〇万年史』ちくま書房,2010 年 12 月,13 頁。
6)4)の 64 頁。
7)3)の 17 頁。
キーワード:道具とは,道具から機械への転換,機械とは,機械の時代,技術史観
を特定するのはまだ不可能である8)」が,「260 万年前に東アフリカ各地で初歩的なオルドワ ン石器群がつくられはじめていることから,この頃に初期ホモの起源があったと考えられ る9)」と人類学者は述べている。2015 年 3 月 6 日付の朝日新聞には,約 280 万年前のエチオ ピアの地層からホモ属の最古のものと思われる化石が発見されたと報じている。したがっ て,約 700 万年前から 280 万年前の間には直立二足歩行をしていたとしても,物をつくっ ておらず,つくった道具を持たないので,技術はない。技術史に入らない。人類は他の動 物と同じように,自分の近くにある天然の物をそのまま利用していたことであろう。
§2.道具と道具の発達
人間によってつくられた道具の使用は,ありあわせの天然の棒切れや石ころを拾って一 度使用して,済んだら捨ててしまうのと比べると,大きな違いがある。天然の石ころや棒 切れだけを使っている限り,それを使った活動にはおのずから限界があり,そこには次の 段階への新しい物が生まれてこない。しかし,人間が道具を創り出し,その道具を使って 自分の力を合理的に使うようになると,次の生活のためにつくるという目的意識が物づく りの中で広がってくる。
人間が道具をつくりはじめると,人間の手と働きかける対象の間につくられた道具が入 ることによって,人間の手足や眼など生活に使う身体器官の機能の限界が道具の使用限界 まで広げられる。すなわち,つくられた道具は人間の手足や身体の部分の延長として利用 され,使用において限界を感じたところで,道具はより使いやすく,便利な道具へ工夫され,
使用限界を広げることが可能となる。
道具は,人間の扱う単一道具,扱う用途に応じて分化した多様な単一道具の蓄積の段階,
人力や畜力・風水力で動かす複合道具の開発の段階,用途に応じて分化した多様な複合道 具の蓄積の段階へと発達する。
道具には,石器のように,一つの個体の片方において働き掛ける対象に直接接触して仕 事をする「作業部」と,他方,握る手が操作する「原動部」がある。同一個体の両端にお いて機能の点で分化している。道具の使用が人力で行われる間,動力と制御は分離できない。
制御が道具を通して間接的になる。この間接制御には,道具の性質,加工される対象の性 質に対する知識のみならず,道具と対象との関係に関する「判断力」が必要とされ,目的 に応じた道具の選択および対象に応じた道具の適用の仕方の選択が必要とされてくる。し たがって,この道具をつくる作業,使う作業の長い繰り返し経験の中で,人間の認識能力,
判断力が次第に育てられ,同時に,人間の自然に対する働きかけも広がってくる。単一道 具と言われる道具にはじまり,長年の間に,切る,削る,刺すなど人間が扱う用途に応じ て多様な形の単一道具が蓄積される。
8)3)の 82 頁。
9)5)の 106 頁。
道具の原動部と作業部の動き方の違いが手と異なる道具の優れた点であるが,道具は一 つには長さによって条件付けられ,他に,一つの固体であることから,原動部と作業部が 分化されず,道具を用いる場合の制御は,動力としての人間の手から離れられない。
道具の原動部と一定の手順で仕事をする作業部が切り離されて独立し,その間に歯車や ベルト,カムなどの「伝動機構」が入ってくることによって,道具は機械へ発展していくが,
それまでにいくつかの段階がある。
単一道具が人間に使われ仕事を成し得る能力にはおのずから限界があり,この限界を超 えて能力を必要とするとき,たとえば,力や速さを必要とするとき,材料や構造や機構を 変えなければならない。柄をつけるとか転がす構造とか,飛ばす構造などの工夫が必要と なり,蔓による縛り付けとか穴明けも工夫され石斧に柄が付けられ,木槌,車両がつくられ,
弓矢,犂のような複数の部分からなる複合道具がつくられ,使われる時代が続く。材料は 考古遺物となって残っている石に限らず,木や動物の骨・角なども使われ,有史以前にす でに銅鉱石の採掘・製錬,金・銀の製錬,青銅の使用,BC3000 年には鉄の採掘・加工も行 われており,道具への金属の使用は道具発達の大きな力となった。
道具の製作の過程において,材料の性質を見つけ(例,石材における割れの規則性),製 作の方法(打撃方法)を工夫し,これらを伝承することで技を積み,道具の機能の単能化,
特殊化が進む中で,用途別の道具の分化が起こり,使用目的に応じた多様な道具がつくら れるようになる。そして,原動部と作業部を切り離さないままでの複合道具が出現する。
鋏の類であり,切り離さないまま可動的な形で,人間はこの種の構造を工夫する。摺り切り,
くり貫き,穴あけの方法などが開発され,針がつくられ,斧や槌などに柄がつけられるよ うになる。
柄のついた複合道具の出現で,大きな力が得られるようになり,道具の多様化あるいは 大型化が進む中で,道具の使用に要する力が一人の人間の力を越えるようになる。たとえば,
回転碾き臼が大きくなり,ここにいたって原動部は,人間の力に代わって,動物の力や風・
水力の利用となり,作業部と離れ,合わせて道具が大型化していく。
また他に,原動部と作業部を切り離すが,これをそのまま結合した形で使われるものが 出てくる。牛に引かせた犂の類である。ここでは作業部の犂が原動部の牛に結び付けられる。
このようにして,人間は道具の原動部と作業部とを切り離し結び付けて使用する。
耕作農業の発生には,一方では牧畜の発達,他方で金属器の使用があった。中世には耕 作農業が大きく発達するが,道具の作業部分が木から鉄へ変わったことが大きく寄与する。
道 具
原動部 作業部 (手)原動部 石器 作業部(対象)
ここから手工業が出てくる。農業に使う道具の製作は,最初は農民の副業であったが,そ れを専業とする手工業者が生れてくる。手工業における物づくりは職人の経験と勘によっ て磨かれ,受け継がれ,発展し,熟練によって道具が改良され,小型道具がつくり出され,
鉄の鋤頭,刃付き鋤,馬鍬,つるはし,鎌,熊手,シャベル,斧などがつくられる。道具 の種類と需要の増加に応じて,道具の製作・修理が増え,農村から手工業者が分離し,都 市や周辺に住み着き,数種の似通った業種の集まりとなるギルドが形成されていく。これ らの段階は道具の発展であるが,原動部と作業部の分離(風・水力機と碾き臼),原動部の 動力機への転換(水車・風車),作業部の作業機への転換,伝動機構の存在(歯車,カム)
など,機械の部分的な属性を備えつつある。
§3.道具から機械への転換(産業革命前のイギリスの産業)
16 世紀初期には,すべての主要な手工業生産部門において,道具は急速に改良された。
商品生産の発達,交易の広がり(植民地の拡張),手工業生産品に対する需要の増大に伴い,
手工業者間の競争が激化した。生産の拡張は,資金の蓄積を生み機械生産への移行が準備 された。一方で,生産手段を持たない者が増大した。
家族労働に代えて雇用者を同一作業場に集め,分業によって生産を行う企業内分業を基 礎とする工場制手工業⇒手工業的工場では簡単な手道具を使い,さらに改良し,分化させ,
専門化して労働生産性を向上させた。
水車は,すでに古くから使用されていたが,その普及で工場制手工業時代に手工業にお ける主要な原動機となる。水車は出力が大きく,これを原動機とする道具や装置が大型化し,
生産規模を大きくした。
鉱山業では,水車が揚水機,巻上機,通風機の広範な使用を促し,冶金においては,水 車に連なる軸にカムをつけ鞴の原動機
として用いられ,溶鉱炉の送風の強化 を保障した。これで炉の容積を増し,
融解温度を高めることができ,溶鉱炉 の規模の増大によって生産性を高めた。
製鉄は,二段式(溶鉱炉と精錬炉)
方法に改良が加えられる。
生産力の発達は,鉄鉱石,石炭,そ の他鉱物の採掘量の増大を必要とした。
通商の拡大は,金,銀の需要を増し,
採掘量の増大をもたらした。掘進作業 は鉄製つるはし,ハンマー,シャベル などを使用していた。17 世紀,鉱層爆
写真 1 英国アイアンブリッジ峡谷野外博物館
左上:ブリスト・ヒル溶鉱炉
左下:左側はエンジン・ハウスおよびボイラー室 右 :エンジン・ハウス内の送風エンジン
破に火薬の使用を試みる。需要の増大が採掘量の増大を必要とし,生産改革の必要を促が した。
産業革命期における道具から機械への移行に際して,時計,水車,製粉機が大きな役割 を果たした。
工場制手工業の発達は生産内部の分業を高度な段階まで深化させることで,道具の専門 化とその改良を促し,多くの操作をごく単純な運動に還元し,出力の大きい原動機の使用 と道具の大型化,生産規模の拡大を進めた。
水車・風車・歯車の普及が技術に急激な転換をもたらした。原動機(水車・風車)の動 きが必ずしも作業部が必要とする運動の形態や大きさでないので,運動の形態の変換や大 きさの調整が必要となる。その結果,原動機と道具(作業部)の間に動力を伝達し,調整 する伝動機構が生まれ,手の道具から機械への移行が進むことになった。
§4.機 械
原動部と作業部の分離の上に,その媒介としての伝動機構が入ってくると,一つの原動 部(機)が多数の同種のあるいは異種の作業部(作業機)と結び付けられることが可能になる。
機械は,道具における原動部が分化独立した原動機と,作業部が独立した作業機と,そ の媒介をなす伝動機構から成り立っているのである。このような機械を作業機械という。
作業機械には,繊維機械,建設機械,鉱山機械,農業機械,水産機械,運搬機械,交通機械,
工作機械などがある。
18 世紀に電気を起し蓄える方法が見出され,19 世紀には電磁気理論の進展と並行して電 池や電動機・発電機,電信,電話,電灯・発電所などの技術的成果が現われ,20 世紀初期 には電気掃除機,電気洗濯機,冷蔵庫など電気関連機械に加えて,電気回路を使ったラジオ,
テレビなどの映像器,コンピュータ,スマートフォンなどが現れるが,これらは,作業機 械と範疇が異なり,別の視点から議論しなければならない。ここでは議論の対象としない。
作業機械=原動機+伝動機構+作業機である。
原動機は,外部のエネルギーを受け,機械的運動形態に変換させて,原動力を与える。
原動機は,運動・圧力・位置エネルギーなどの形で風や水が持っているエネルギーを羽根 車の回転により機械的動力に変換する風車や水車,燃料の燃焼による熱エネルギーを機械 的運動エネルギーに変換する熱機関,電気エネルギーを機械的運動形態に変換する電動機 などがある。生体内のエネルギーを利用する人力や畜力は,最初の原動力である。
R. アークライトの紡績工場は 1771 年水力の利用で始まるが,18 年後にはマンチェスター に蒸気で動く綿織物工場が建設される。1 台の原動機で工場全体の機械を動かす段階では蒸 気機関や電動機が使われるが,蒸気機関にはボイラーが必要であり,個々の機械に原動機 をつける必要が生れると,蒸気機関の小型化は難しく,電動機の性能向上・小型化を図り,
機械に取り付けられるようになる。
伝動機構は,原動機の動力を作業機に分配,伝達し,作業機の動きに適するように運動 の方向と大きさを変換する。この機構と呼ばれるものは,弓きりやロクロなどに見られる ように古代から存在していた。テコ,滑車,ネジ,カムや歯車,軸や車輪,つめ車,ベル ト車など機械要素を利用した装置が用いられている。AT 車のように変速機に流体継手など も使われる。電気が使われるようになって,電子素子[センサーを含む],有線・無線の情 報伝達手段,コンピュータが加わる。
作業機は,原動機から伝動機構を通して伝えられる動力を材料など対象の加工に適する 形で動き作業する。道具の場合には,一人の人間が同時に操作できる数は,身体器官の数 によって限界がある。しかし,ハーグリーブスのジェニー紡績機は操作する人は一人であっ ても 1 台の機械に備わる複数の同種の作業機(部)の数から 12 ~ 18 本の糸を紡いだので ある。手工業的道具を用いる場合,両手,両足,あるいは十本の指に限られていた作業内 容が,機械生産では,同時に働く同じ種類の,あるいは異なる種類の作業部の数,その大 きさ,速さ,精度などにおいて広範囲に増大させることができ,連続的に作業をすること も可能となる。
産業革命期の機械化は,繊維工業における作業機の工夫によりはじまったが,やがて,
鉱山,土木,農業などの機械化へと広がり,さらに,機械を製作する工作機械をも生み出 した。
§5.生産の機械化・自動化
生産の機械化・自動化は,6 段階を経て発展している。第一は,万能機械,すなわち機能 が分化していない単一の機械の段階であり,第二は,単能機械,すなわち機能が分化した 単一の機械の段階である。第三は,単能機械の連鎖体系の段階,次には,自動化が課題となり,
第四は,自動単能機械の連鎖体系,第五は,自動連続加工機械(transfermachine)の段階 となる。第六は,自動単能機械のインターネットによる接続であり,操作のプログラム化 である。さらにこれは,情報通信技術が機械の神経系となり機械の一部分へと取り込まれ ることになるだろう。
多様な品物の製作を可能にする万能機械の段階では,作業者は,機械の機能を熟知し,
使用法を習得し,材料とその取り扱い処理法に通じる必要があった。すなわち,作業に熟 達する必要があったしまだ熟練を必要とした。
量産のために万能機械が特定の仕事に限定されて使われる機会が多くなってくると,や がて特殊な作業のみを行う単能機械が現れる。19 世紀初めには,機械の分業による協業と して単能機械が主要なものとなってくる。大量の同一製品の生産という反復型作業におい ては,単能機械による方が作業速度,精度,安定度,さらにコストにおいてまさっていた。
この段階で,作業者の操作は,広い能力と熟練を必要としなくなり,部分的な作業に過ぎ なくなる。
§6.機械体系(工場制度)
独立した機械の登場後まもなく,同じ建物の中に,多数の独立した機械が置かれる工場 が現われる。機械制工業は常に多数の機械の協業の体制である。この体制が機械体系と呼 ばれる。織物工場や縫製工場のように,多数の同種の作業機が個々に独立したまま並べら れている場合を単純協業という。原料が加工される生産工程の順序に応じて,加工に必要 な各種の作業機がラインをなして並べられ,相互に補足しあって生産が行われる場合,分 業に基づく協業で,これが本来の機械体系と呼ばれ,連鎖の機械体系となる。この連鎖の 体系は,原料が単一の液体,可塑物または柔軟な繊維などの場合,早くから工程間の接続 そのものを機械化することによって成し遂げられた。しかし,できたものを集めて組立を 行うような業種,たとえば,鉄製機械のような場合には,単能機械の出現まで待たなけれ ばならなかった。単能機(専用機)の連鎖は,工程における個々の作業機間の半製品の搬 送を必要とした。搬送が人手でなされている間,それぞれの作業機はまだ独立性を失って おらず,原則的には独立して稼動させることができる程度のゆるい結合でしかなかった。
原動機として電動機が用いられるように なったのは 1880 年代である。
(1)熱機関に取って代わって一台の電動機 が工場へ導入され,すべての機械が集団で運 転される。写真 2 は織物工場である。電動機 からプーリーへベルトがかけられ,車軸を通 して,個々の機械へ動力が伝えられる。
次いで,⑵この電動機の代わりに,工場内 で出力のやや小さい電動機が何台か用いられ るようになった。こうして,機械のそれぞれ の集団が別々の電動機で動かされるようにな り,同時に,伝動機構は幾つかの部分に切り 離されて,小集団を受け持つようになった。
⑶さらに小型高性能の電動機が現われ,一台一台の機械にそれぞれ電動機が直結され,
単独運転される。これによって,工場内のベルトや車軸の姿は消え,機械は加工(作業)
順序にしたがって自由に配置することが可能になる。また,電気動力は,工場内運搬の機 械化を促進し,蒸気機関では十分に解決できなかった生産の連続化,自動化,高速化を保
機械 A 機械 B 機械 C
搬送 搬送 搬送
写真 2 産業技術記念館繊維機械館
上 :織物機械工場(ベルト掛け)
下左:1 台の電動機でベルト掛け駆動 下中:各機械に取り付けられた電動機 下右:各駆動部に取り付けられる原動機
障した。
やがて,⑷数個の電動機が機械の各駆動部に取り付けられ,電動機は電磁的に操作され,
機械の自動化の前提を固めていく。伝動機構へ電子技術が取り入れられ,計測器や電子計 算機の発達と結びついていく。
全生産過程が結合・連鎖されている場合,これを統一的にいっせいに運転すると,一つ の機械の故障が全体に波及するのを防ぐことが作業の必須条件になる。個々の機械に,可 能なものから順次自動制御機構が取り入れられ,機械の自動化が進められる。合わせて,
搬送の機械化でコンベアなどが用いられる。この段階では,機械と機械化された搬送機は 別のものになっている。
このような自動機械の連鎖体系ができれば,次の発展は,個々の機械の独立性を無くし,
一個の連続した機械として一台の機械の中の部分と化していくことになる。
紡績でも,混打綿,梳綿,練り糸,粗紡,精紡,ワインダの 6 工程,6 つの機械によっ ていたものが,混打綿,梳綿,練り糸の各工程を一貫連結した処理工程と,そこから出て くるロープ状のスライバーを超ハイドラフト精紡機で一気に糸にする精紡工程の 2 工程で 行うようになり,さらに,粗紡・精紡・ワインダ間の全工程を連結し,自動機械・自動 搬送機の採用により,全自動紡績システムとなる。すなわち,次の段階は,自動化され た機械と自動搬送機とが結合したラインを一体化した機械が自動連続加工機械(transfer machine)となる。これによって,ラインの完全自動化が行われる。
このようなトランスファーマシンも今では博物館で見ることができる(写真 3 および 4)。
今日,機械と機械のつながりはインターネットで行われ,さらに工場と工場とのつなが りもインターネットでつながり,運転の指示・管理はコンピュータとプログラムで行われ ている。
自動機械 A 自動機械 B 自動機械 C
搬送機 搬送機
⇒
TRANSFER MACHINE
自動機械 A 自動機械 B 自動機械 C
⇒流れ 自動搬送機 自動搬送機
§7.制御の電子化
1855 年には,真空ポンプの発明があり,真空管がつくられる。ガラスの容器の内部を真 空にして,そこに電極を封入したものである。真空管は電気的音声信号を増幅でき,電波 の発生,整流・検波ができる。この作用を使いラジオやテレビがつくられた。
真空放電管を使って多くの実験が行われ,1897 年に電子が発見される。1948 年には真 空管の代わりをするトランジスターが発明され,集積回路(CD)や大規模集積回路(LSI)
へと発展する。真空管を使って電気回路を組み,1946 年にはコンピュータが発明され,
1949 年にはプログラム内蔵方式のコンピュータも生まれる。最初,真空管でつくられてい たコンピュータも LSI でつくられるようになり,小型化が進む。記憶装置や制御装置をも つコンピュータにプログラムを入れると,プログラム通りに制御機能が働く。コンピュー タを機械に取り付けると,機械を制御する。
1975 年以降の自動車には,多くのコンピュータが取り付けられている。コンピュータに より自動車のエンジン・変速機・サスペンション制御など,足回りなどもスムーズに動く ようにコントロールされている。
コンピュータが生まれるまでは,技術の発展は,材料や構造・機構を変えることによっ てなされてきた。すなわち,ハードウエアの変換によってなされた。しかし,集積回路の 発達により,半導体素子の微細化が進んで,機械のあちこちに取り付けられ,機械への情 報の伝達・収集ができるようになり,ソフトウェアがつくり込まれている。
1971 年にインテル社より 4 ビットのマイクロプロセッサーが電卓用素子としてつくられ,
その後,8,16,32 ビットもつくられ,マイクロコンピュータの中央処理装置(CPU)とな るほか,機器の制御素子,情報処理素子として使われている。
写真 4 産業技術記念館自動車館に展示
エンジン・シリンダーブロックをボーリング加工する 荒削り加工から仕上げ加工へ 4 工程が一つの機械に
写真 3 産業技術記念館繊維機械館に展示
左:作業者による粗糸玉揚げ作業 右:豊田高速粗紡機と自動玉揚機
§8.情報通信技術支援機械・機械体系の登場
自動制御装置へのコンピュータの導入によって,生産過程はプログラム化した決定機構 を持つことになり,多品種の物を大量に生産することも可能になった。すでに,何十種類 もの部品加工が一つのトランスファ・ラインで自在に行われるようになっている。これに かかわる作業者は機械の故障,加工物のロット変更,スケジュール変更に伴う要員だけと なっている。自動車ボディのメイン組立ラインも自動溶接によって作業員の数はごく少数 になっており,溶接位置によって機械に掛けられない部分はコンピュータを内蔵したロボッ トが人間に代わって増し打ちまでやっている。この場合,コンピュータのプログラムを変 えることによってどんな車種についてもロボットは作業処理している。
機械技術と電気・電子技術とは,発生の時点もその後の発達の様子も全く異なる範疇の 技術であり,機械は,材料,構造,機構の変換によって,目的とする機能・性能を出して きた。電気は,主として機械との関係では,動力源として電動機の出力増加や形状の小型 化で発達してきた。機械への電気動力の採り入れは,エレクトロニクスの採り入れを容易 にした。エレクトロニクスは,機械の制御に関わり,真空管は小型化が進み,真空管が半 導体素子に代わっては集積の大規模化(小領域での利用,多様な用途への利用)に関わっ て発達した。電気・電子技術は機械の動力,制御に関わっているが,電気技術は電気分野で,
電子技術はその分野で発展するが,機械に代わって物づくりに主体的に関わるものではな かろう。
§9.物づくりの技術史観 上述の技術の歴史を表にまとめると次のようになる。
現在,物づくりの技術主体は機械であり,その機械体系をインターネットやプログラム で自動化・情報化・接続化支援に入った段階であり,情報通信技術支援の機械・機械体系 時代に入ったところである。物づくりの技術主体として機械に替わるものはまだ見当たら ない。機械に替わるものが出てくることは予想できないが,最近生まれたものに熔融金属 や可塑材を積層して物をつくる 3D 積層造形機の利用が広がりつつあり,かなり大きな物 までつくることが出来るようになっている。今までになかった加工法である。これにコン
区分 1 2 3 4
構成/特徴 原動部・作業部 複合化 原動機・伝導機構・作業機 自動化・情報化・接続化 物づくりの
技術主体
単一道具時代 複合道具時代 万能・単能機械 機械体系 DX・自動機械体系
道具時代 機械・機械体系時代
動力技術 人力時代 畜力 時代
風車・
水車時代
熱機関時代 電力(近年以降,直接電気)時代 電動機時代
制御技術 人手・道具制御 機械制御 電子制御 情報通信制御
↑現在
ピュータ支援設計(CAD)利用が進むと,ますますコンピュータ支援の生産(CAM)が広 い範囲に広がり,大量生産ラインでカスタマイズされた一品生産も可能になる。自動化・
情報化・接続化が進化するであろう。
さらに,機械に取り付けたセンサーからの情報を IoT で集積し,情報の解析を AI で行う などデジタル技術(DX)によって,機械の稼働状況の把握,破損予知,遠隔操作など製造 変革と人手の不足解消がすでに広く行われており,ますます多くのもの,あらゆるものを つなぐ IoE が進むと予想される。これは当然,人間の働き方や生活に大きな影響をもたら すだろう。
現在,技術に対する地球規模での社会的要求の一つは,温暖化を防ぐための処置(「温 室効果ガス(二酸化炭素 CO2,メタン CH4,亜酸化窒素 N2O,フロンなど)排出量実質ゼ ロ」の実現に向けた処置)であり,持続可能な開発目標(SustainableDevelopmentGoals, SDGs)であろう。
そのために,燃料が化石燃料から CO2の出ない物(水素など)へ変わりつつあり,また,
電気自動車など交通機関の駆動力に水素と酸素の反応によって電気エネルギーを取り出す 装置,燃料電池の普及が見込まれている。機械の駆動も電動機を主要動力とする方向に動 いている。
表の「電力(近年以降,直接電気)時代」は,近年,直接,機械の中に動力としての発 電機を備え,あるいは電池に蓄えられた電気で機械が動かされる時代へ入っており,今後 も広がるであろうことを示している。
(2021 年 12 月 15 日受理)
Theevolutionofthetechnologicalsubjectofmanufacturing
NAMIKAWAHirohiko
Ilookbackonhowthetechnologicalsubjectofthemanufacturingevolved.
Thetoolhasaprimemoverdepartmentinoneendofthesameindividual,andthere isaworkpartsinanotherend.Inthebothendsofthesameindividual,thefunction separates.Whenthepowerisnecessary,ahandleisput,andstructuretoroll,structureto flyaredevised,andawheelandabowandarrowaremade,andacomplextoolisborn.
Thefirstpowertouseatoolistheperson’spowerandthepowerofthelivestock,when thebiggerpowerisnecessary,awindmillorawatermillisused.
Whenawindmillorawaterwheelisusedfortheprimemoverdepartment,itseparate foraworkpart(aquern)andagearentersasadrivingmechanismbetweenthose.
Theworkmachineiscomprisedofprimemoverdepartment,drivingmechanismanda workingdepartment.
Inthecontrolsystemofthemachine,thehandlingofthecomputerspreads,butthe subjectexistingtechnologicalsubjectofmanufacturingisthetimesofamachineandthe machinesystem.Theautomationofthemachineisbeingdonebyintroducingelectronics andacomputertothecontrolunitinmainlythedrivingmechanism.