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内外経済・金融の見通し

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(1)

ISSN  1342−5749

内外経済・金融の見通し

JANUARY 2013 1

●2013年の内外経済金融の展望

●個人リテール金融の見通し

●米の国際需給と日本の自給

(2)

総選挙後の日本の進路

昨年末に行われた衆議院選挙は自民党圧勝,民主党大敗という結果となり,3年余り続 いた民主党政権は終わり,再び自公連立政権が成立した。

日本では1955年の保守合同以来長期にわたり自民党政権が続き,93年に非自民連立政権 が成立したものの,自民党は社会党と組んでわずか1年足らずで政権に復帰した。その後,

99年から自民党は公明党と連立し,「自民党をぶっ壊す」として登場した小泉首相のもと でも自公連立政権は続いた。

しかし,前回2009年の衆議院選挙において,長期にわたる自民党政治からの転換を求め た国民は「政権交代」を選択し,民主党政権が成立した。この選挙で民主党は「コンクリ ートから人へ」をスローガンとして掲げ,マニフェストで子ども手当,農業者戸別所得補 償,高速道路無料化などを約束し,その財源は特別会計を含めた予算の組み替えによって 確保できるとした。

政権の座に就いた民主党は,マニフェストに掲げた政策を実行に移すべく,事業仕分け,

八ッ場ダム中止など財政改革に取り組み,また政策決定方法を政治主導に改めた。こうし た民主党の政権運営は明らかに自民党政権時代とは異なるものであり,多くの国民はその 成果に期待した。しかし,マニフェストで掲げた政策は一部しか実行できず,事業仕分け や財政改革によっても十分な財源は確保できずに最終的には消費税率引上げを決意するに 至った。さらに,沖縄基地問題,福島原発事故,領土問題など,戦後の日本が未解決のま ま封印してきた問題が噴出し,その対応に追われることになった。

農政に関しては,戸別所得補償制度を導入し農業者から一定の評価を得たが,「平成の 開国」と称して突如TPP参加の意向を表明し,農村部や地方の反発を招いた。関税撤廃の 影響を過小評価して「TPPと食料安全保障は両立可能」とし,「攻める農政」を掲げて実 現性の乏しい「中国への米輸出100万トン」を目標とするなど,農業・農村の実態を無視 したその農業政策は,今回の民主党惨敗の大きな要因であったと言えよう。

ただし,自民党が圧勝したといっても,大敗した前回の選挙に比べても自民党の総得票 数は小選挙区で6%,比例区で12%減少しており,今回の選挙で国民が自民党を積極的に 支持したわけではないことを理解する必要がある。TPPに関して自民党は「聖域なき関税 撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対」としているが,何が「聖域」なのかは不明確 であり,TPP交渉参加そのものを否定しているわけではなく,今後の動向を注視していく 必要があろう。

こうして成立した自公政権であるが,この政権が取り組まなければならない課題は原発 問題,財政問題,近隣外交など山積している。この3年間で自民党も世代交代が進み,か つてのような政権運営方法に戻ることはないであろうが,今後,自公政権は,政策決定過 程を透明にし,この国の将来を誤らないよう堅実で賢明な政策を実行していくことを期待 したい。

((株)農林中金総合研究所 基礎研究部長 清水徹朗・しみず てつろう

(3)

農 林 金 融 第 66 巻 第 

1

 号〈通巻803号〉 目  次

実務者の素朴な疑問

総選挙後の金融財政政策への注目高まる 今月のテーマ

内外経済・金融の見通し

今月の窓

(株)農林中金総合研究所 基礎研究部長 清水徹朗 総選挙後の日本の進路

南 武志・山口勝義・木村俊文・王 雷軒 ── 

2

2013年の内外経済金融の展望

統計資料 ──

52

TPPの影響を巡って

藤野信之 ── 

34

米の国際需給と日本の自給

(株)農林中金総合研究所 代表取締役社長 古谷周三 ──

20

談 話 室

農協をとりまく情勢

髙山航希 ── 

22

個人リテール金融の見通し

(4)

2013年の内外経済金融の展望

─総選挙後の金融財政政策への注目高まる─

主席研究員 南 武志 主席研究員 山口勝義 主任研究員 木村俊文 研究員   王 雷軒

〔要   旨〕

1 2012年の世界経済を振り返ると,年央にかけて先進国・新興国ともに減速傾向が強まる など,それまでの「二極化現象」が解消する動きがみられた。加えて,世界的にリスク回 避的な行動が継続したことから円高も定着し,わが国経済の牽引役である輸出は低調に推 移した。また,秋には日中関係の急速な悪化による対中輸出が大幅減となったほか,エコ カー購入補助金終了で乗用車販売も落ち込むなど,年末にかけて国内景気の悪化が進行し た。

2 先進国は,今もなお,08年秋以降に発生した世界同時不況の後遺症に悩まされ続けてい るが,総じて財政状況の悪化への警戒感が高く,財政健全化への動きも始まっている。し かし,日本・米国・欧州でのこれまでの経験を総合すると,性急な緊縮策は景気悪化,さ らには財政状況の悪化を招いてしまう。つまりは,経済成長と調和のとれるペースで財政 健全化を進めないと,結果が伴わない,という教訓を生かすべきである。

3 13年の海外経済を展望すると,債務危機の長期化が予想される欧州は引き続き低迷が続 くが,米国,中国などでは持ち直しの動きが徐々に強まるだろう。米国経済は,住宅バブ ル崩壊などの調整圧力が緩和しており,年前半は「財政の崖」の影響が出るだろうが,徐々 に持ち直し傾向を強めていくだろう。景気減速が続いてきた中国経済も,12年秋にはすで に底入れしており,これまでの景気刺激策の効果によって,13年は8%成長に復帰するだ ろう。

4 12年度入り後は景気の悪化傾向が続いていた国内経済であるが,13年に入ると,世界経 済にやや明るさが見えてくるため,輸出が回復に転じるほか,復興需要の強まりなどもあ り,持ち直しに転じてくるだろう。さらに年度下期には消費税増税前の駆け込み需要も発 生し,景気が一時的に押し上げられる。ただし,14年度に入ればその反動で再び景気が悪 化する可能性もある。物価動向については引き続きデフレ色が残ると予想する。なお,消 費税増税を前に,総選挙後はデフレ脱却や成長促進に向けて積極的な経済政策運営に転換 される可能性もある。そうなれば,9年ぶりの水準まで低下した長期金利も上昇に転じる 可能性もあるだろう。

(5)

世界第二位の経済大国である中国では,こ れまでの投資主導による成長モデルの限界 が意識されている。わが国においても,大 震災復興への動きは鈍く,国内経済は海外 経済の減速や歴史的な水準で定着した円高 の影響で,景気は弱含みを続けた。

こうしたなか,12年後半にかけて米国で は「財政の崖」への警戒感が強まっている ほか,わが国においても消費税増税を含む

「社会保障と税の一体改革」が動き始めて いる。そして,言うまでもなく,欧州は債 務危機の収束に向けて緊縮策を実施してい るが,それが景気悪化を招くなど,目標達 成が危ぶまれている。このように,先進国 では押し並べて財政健全化が大きなテーマ となっている。

本稿では,財政問題を取り上げて課題を 整理しつつ,2013年の内外経済・金融情勢 について展望していきたい。

1

 先進国における財政悪化問題

リーマン・ショック後の世界同時不況は

はじめに

―混沌とした世界経済情勢―

2012年の内外経済を振り返ると,それま で強まっていた先進国・新興国の「二極化」

の動きが弱まり,ともに景気減速への懸念 が高まった(第1図)。先進国では引き続き 低空飛行状態を続けた結果,欧州では債務 問題が,米国では雇用問題が,そして日本 ではデフレ問題が懸案事項として残った。

一方,新興国では過去のインフレ・バブ ルへの警戒としての引締め政策の効果によ って,想定以上に景気が減速した。特に,

目 次 はじめに

―混沌とした世界経済情勢―

1 先進国における財政悪化問題

1) 欧州の財政問題

(2) 米国の財政問題

3) わが国の財政問題 2 海外経済金融の展望

(1) 米国経済の展望

(2) 欧州経済の展望

3) 中国経済の展望

3  国内経済金融の注目点と展望

1) 当面の政策運営

(2) 国内経済・物価の展望

3) 長期金利は一転して上昇する可能性も おわりに

―次の成長エンジンは何か―

10 8 6 4 2 0

2

4

6

(%)

第1図 減速した世界経済(実質成長率)

資料 IMFから作成 

(注) 2012年はIMF予測。

04 05 06 07 08 09 10 11 12 新興国・途上国

先進国

(6)

回る事態が続いている。

以下では,先進国における現在・過去の 財政問題を振り返り,今後,財政健全化を 着実に推進していく上で何が求められてい るかを考えてみたい。

1

) 欧州の財政問題

12年9月に欧州中央銀行(ECB)が新た な国債購入策(OMT)の導入を決定したこ と等を受けて,ユーロ圏の市場は足元では 一応の落ち着きを取り戻している。

しかしながら,財政悪化国の債務の持続 可能性の問題は残されており,09年10月に ギリシャで政権交代を機に表面化し,その 後,他の国々を巻き込みつつ,また銀行の 財務悪化等を通じて世界的に問題を波及さ せる可能性をもはらみながら拡大したユー ロ圏の財政危機は,発端から3年以上を経 過した今も,その収束の目途は立っていな い。

またこの間,ユーロ圏では各国での緊縮 財政による内需の抑制に加え,依然として 脆弱な金融機能や,財政危機が長期化する との見通しに伴う投資や消費行動の保守化 を主因として経済成長の停滞が継続してお り,これがまた財政改革や経済構造改革の 進捗の妨げとなっている。

現在も進行中の財政危機ではあるが,こ れまでのユーロ圏の経験からは,以下の教 訓を読み取ることができる。

a 改革と成長のバランスの重要性 経済成長は,プライマリー・バランスの

「100年に一度」「世界大恐慌以来」の非常事 態であるとの認識から,主要国では国際協 調体制の下,非伝統的な領域にまで踏み込 んだ金融政策や手厚い金融システム安定化 策に加え,従来の一定のルールの下での財 政政策運営から逸脱した積極財政を展開し た。その結果,09年半ばまでには世界経済 は危機的な状況を脱したが,その後の景気 回復テンポは,バランスシート調整を伴っ ていたがゆえに鈍いままであった。一方で 金融システム安定化や景気刺激のために巨 額の財政資金が投入されたこともあり,特 に先進国での財政赤字問題が浮上した(第 2図)

特に,過去の粉飾が露見したギリシャを 皮切りに,ユーロ圏諸国内で財政赤字問題 が広がり,統一通貨ユーロへの懸念も強ま っている。米国でも,2000年代に入ってか らの軍事行動や大型減税措置などによって 財政赤字が拡大する方向にあり,特に近年 は設定された連邦債務上限に抵触する恐れ が幾度となく浮上している。わが国でも,

累積債務は世界有数の水準であるほか,単 年度の予算でも国債発行額が租税収入を上

160 140 120 100 80 60 40 20 0

(%)

第2図 先進国の財政状況(純負債/名目GDP)

資料,(注)とも第1図に同じ

04年 05 06 07 08 09 10 11 12 日本

米国

ユーロ圏

(7)

り上昇となるケースがしばしば見られた。

この場合,ギリシャのように,当初は単に 国債消化に支障をきたした資金繰りの問題 と捉えられていたものが,国債費の急上昇 も加わり短期間のうちに債務返済能力の問 題に拡大した事例もある。

こうしたユーロ圏における経験からすれ ば,巨額の政府債務残高を抱えながら,様々 な固有の要因により現在のところ低位で安 定的な国債利回りを享受している日本にお いても,わずかの環境変化が突然の利回り 上昇をもたらし,大きな市場混乱で債務の 持続可能性が損なわれる可能性がないとは 言えない。このため,潜在的に大きなリス クが存在する場合には,早い段階からの,

市場の急変に備えた計画的な財政改革への 取組みが重要であると考えられる。

c 政策の透明性と政治指導力の重要性 ユーロ圏では,イタリアでベルルスコー ニ前首相からモンティ首相に交代したこと で,ようやく諸改革が軌道に乗り市場の安 定を回復した事例がある。ここに現れてい るように,改革に取り組むに当たっては,

政策の透明性や強力な政治指導力が重要で あることが指摘できる。

また,改革の結果,数年後にはより健全 な経済環境がもたらされるとの期待感を醸 成することが,企業や家計の経済活動を支 え経済成長の大幅な落ち込みを回避するう えで有効とみられる。このためには,中期 的に一貫した実効性のある財政改革計画を 明確化するとともに,必要に応じ当初の計 改善や,国債利回りを上回る経済成長率を

維持することによる債務残高の削減効果な どを通じ,財政改革に対し大変重要な意味 を持っている。また,財政の健全性は,通 常,財政赤字や債務残高のGDP対比の比率 により測られることから,分母であるGDP を増加させる意味が大きいということにも なる。しかしながらユーロ圏では,財政改 革を急ぐあまり経済が停滞し,その結果改 革は遅延し,追加的な緊縮策等がさらに経 済の停滞を深刻化させるという悪循環に陥 ることとなってしまった。

こうした情勢に対し,国際通貨基金(IMF)

は,財政に余裕があり市場の圧力が強くな い国では財政改革は中期的に実現を図り,

短期的には経済成長に配慮すべきとの考え 方を示したほか,最近の環境下では,緊縮 財政が経済活動に及ぼす負の影響の程度が 増大している可能性があることを指摘して いる。

これ以上の負担増を回避したい支援国の 思惑もあり,その後もユーロ圏では基本的 に改革を最優先する立場を引き続き維持し ている。しかし,悪循環に陥った上記のユ ーロ圏での経緯は,改革を着実に進めるう えでは,むしろ財政改革と経済成長との間 でのバランスが取れた政策運営を行うこと の重要性を示唆しているものと考えられる。

b 市場急変に備えた改革の重要性 ユーロ圏では,何らかの要因によりいっ たん国債利回りが上昇し始めると,市場セ ンチメントが急速に悪化し,一方向の利回

(8)

アフガニスタンでの戦費負担が増大したこ とに加え,所得税率の引下げなど大型減税 が実施されたことから債務増加ペースが拡 大した。

さらに08年の金融危機以降は,成長減速 の一方で税収の落ち込みや財政出動による 景気刺激策が実施されたことから,債務が 急激に膨張している。12年11月末の債務残 高は16.37兆ドルと,再び法定上限(16.39兆 ドル)に抵触する可能性が高まっている。

a 米国における財政健全化の手法 米国では,足元で財政赤字が4年連続で 1兆ドル超と未曾有の水準となっており,

長期持続的な観点から財政の健全性が懸念 されている。しかし,90年代後半には歳出 抑制策や増税のほか,好景気による税収増 もあり,黒字に転換した時期もあった。こ の90年代の財政再建過程においては,次に 挙げる2つの赤字抑制ルールが奏効したと 思われる。

第一は,裁量的経費を管理する「キャッ プ」である。この制度は,目標年限(5年 先)まで,年度ごとに上限額(キャップ) 定めて歳出管理を行うものである。ただし,

上限額は,物価上昇や緊急対策などにより 調整可能とされた。裁量的経費は,国防費の 削減により対GDP比で2000年度に6.3%と,

90年度(8.7%)から2.4ポイント低下した。

第二は,義務的経費・税制に関する「PAYG

(ペイ・アズ・ユー・ゴー)原則」である。こ の制度は,新規政策や制度変更により義務 的経費を増加させたり減税を行ったりする 画を適切に見直すことで今後の改革の進展

に対する不透明感の軽減を図ることが重要 であり,そのためには安定的で強力な政治 指導力が求められることになる。

d 銀行のリスク管理の重要性

ユーロ圏の財政悪化国では,国債の利回 り上昇が銀行の財務を悪化させ,また銀行 の経営難が国家の財政負担を増加させるこ とで,国家のリスクと銀行のリスクの負の 連鎖が大きな問題となった。また,一時,

銀行の経営難が国境を越えて財政危機の影 響を世界に波及させる可能性も高まった。

運用難の日本以外にも,一般的に銀行は 担保目的やリスク規制上の要因等で国債を 大量に保有していることが通例である。こ のため,いったん国債利回りが上昇を開始 した場合には銀行によるポジション調整が 利回り上昇を加速させる可能性があるほか,

ユーロ圏での経験と同様に国家のリスクと 銀行のリスクの連鎖により財政問題の解決 を困難化させる事態が想定される。また,

金融機能の低下は経済活動の沈滞を長期化 させ,危機からの回復に一層長期間を必要 とする傾向がある点にも注意が必要である。

このため,平常時からの厳格な銀行のリ スク管理が求められている。

2

) 米国の財政問題

米連邦政府の債務残高は,レーガン政権 初期の81年に初めて1兆ドルに達し,ブッ シュ政権末期の08年に10兆ドルを突破した。

とりわけ,01年の同時テロ以降はイラクや

(9)

19.6%の2兆9,130億ドルと大幅に増加する のに対して,歳出は同△0.3%の3兆5,540億 ドルと減少,すなわち「財政の崖」が発動 されることから,財政赤字は同△41.2%の 6,410億ドル(対GDP比4.0%)になる見通し となっている。

また,長期見通しでも,引き続き赤字削 減策の実施を前提としていることから,そ の後も財政赤字が改善し,18年度には790億 ドル(対GDP比0.4%)まで減少する見通し となっている。それでも,高齢化の進行を 背景に医療費関連の支出拡大には歯止めが かからず,その後は再び緩やかに悪化する と見込まれている。

一方,図示した代替シナリオのとおり,

米議会が減税再延長や強制歳出削減の先送 りなど「財政の崖」回避策を採用した場合 には,赤字削減のペースは緩慢なものとな り,GDP比4%台までしか改善しない見通 しとなっている。

こうしたなか,経済協力開発機構(OECD)

は,12年11月に公表した最新の経済見通し 場合,同一年度にそれに見合った義

務的経費の削減,または増税を行う ものである。義務的経費は,医療費が 増加したにもかかわらず,対GDP比 で2000年度に9.8%と,90年度(9.9%)

から小幅に低下した。この間に好景 気で成長拡大したことから支出割合 が低下した影響はあるものの,この 原則には経費増加を伴うような新し い法案の成立を抑止する効果があっ たと考えられる。

なお,「キャップ」「PAYG原則」ともに 90年に創設され,当初は95年度までの時限 措置として始まったが,最終的に02年度ま で2回延長された。その後,ブッシュ政権 で失効となったものの,財政健全性問題の 再浮上を受け,オバマ政権が10年2月に

「PAYG原則」を復活させた。

また,11年8月に成立した債務上限引上 げ法では,今後10年間で9,170億ドルを削減 するといった「キャップ」を採用したほか,

期限までに超党派委員会で赤字削減案を策 定することができなかったため,13年1月 から強制的に歳出カット(国防費を中心に 10年間で1.2兆ドル削減)を行うというさら に厳しい「キャップ」が導入されることと なり,これらが「財政の崖」を引き起こす 一因となっている。

b 米財政の将来展望

12年10月 に 公 表 さ れ た 米 議 会 予 算 局

(CBO)による22年度までの財政見通し(第 3図)によれば,13年度は歳入が前年比

5 0

5

△10

△15

20

3 0

3

△6

△9

12

(千億ドル) (%)

第3図 米国の連邦財政赤字

資料 米財務省,米議会予算局(CBO)資料から作成

対GDP比(同)

(代替シナリオ)

ブッシュ 共和党 政権

ブッシュ 共和党

政権

オバマ民主党政権 以降 レーガン

共和党 政権

クリントン 民主党

政権

(議会予算局見通し)

対GDP比(右目盛)

財政収支

81年84 87 90 93 96 99 02 05 08 11 14 17 20

(10)

と,先進国のなかでは米国(09年21.6%) 次ぐ低い水準である。なお,上記の公債金 収入(新規財源債)は,財政運営戦略におけ る中期財政フレームにおいて44兆円以下に 抑制されているが,これまでに発行した国 債の償還費調達のための借換債発行は100 兆円前後での推移となっている。

歳出面では,高齢化の進行などで社会保 障関連費が歳出の3割程度(12年度29.2%) で上昇,これに地方交付税交付金等(同 18.4%),国債費(同24.3%)を加えると7割 超となる。近年は,デフレ長期化や景気低 迷の影響もあり,長期金利が歴史的な低水 準で推移していることから,国債発行残高 が約700兆円まで膨らんでも国債費は低め に抑えられているが,長期金利が上昇する ことになると,確実に金利負担が高まるこ とになる。

なお,財務省の試算によれば,90年度以 降,国債発行残高が約530兆円増加したの に対し,景気低迷や度重なる減税措置に伴 のなかで,米国の財政について,持

続可能な軌道に乗せるためには多額 の赤字削減の必要があるものの,景 気回復が脆弱であることから緩やか なペースで行うべきとの見方を示し た。つまり,景気回復を犠牲にして まで財政健全化を進めるべきではな く,改革と成長のバランスを考慮し ながら取り組むことが重要との指摘 だと言えるだろう。

3

) わが国の財政問題

近年,「日本病」もしくは「日本化」とい う言葉が聞かれるが,欧米各国ではバブル 崩壊後の日本と同様,金融政策を非伝統的 な領域まで踏み込むほどの緩和策を講じる なかで,一向にデフレギャップが解消せず,

財政悪化問題に悩まされ続けている。改め て言うまでもなく,わが国の財政状況は世 界有数の悪化状態と言えるが,長期金利は 歴史的な低水準を続けるなど,表面的には 債務危機が発生する兆しは見えない。

とはいえ,欧州債務問題が解決方向に向 かう,もしくは更なる高齢化の進行などに よって国内貯蓄の減少が始まれば,長期金 利の急上昇が起きる可能性は否定できない。

a わが国財政の特徴

わが国の財政の特徴を簡単に整理してお こう(第4図)

一般会計の歳入は,10年度以降,公債金 収入が租税収入を上回る状況が続いてい る。結果的に,租税負担率は22.0%(09年)

800 700 600 500 400 300 200 100 0

200 180 160 140 120 100 80 60 40 20 0

(兆円) (%)

第4図 日本財政の概要

資料 内閣府,財務省資料から作成 

(注) 10年度までは決算,11年度は第4次補正後,12年度は当初予算案ベース。

長期債務残高

(対GDP比率,右目盛)

公債依存度

 (=公債発行額/一般会計歳出,同)

公債費

(対一般会計歳出比率,

        同)

復興国債(発行残高)

赤字国債(発行残高)

建設国債(発行残高)

65年度 70 75 80 85 90 95 00 05 10

(11)

半ばは失敗し,かえって財政状況は悪化し た。財政健全化努力の成功・失敗の分かれ 目は,当時の景気情勢による面が無視でき ないことを示唆している。

また,シーリング設定(歳出キャップ) よる一律の歳出抑制には問題点もある。政 治的リーダーシップによる「選択と集中」

によって,削るべき部分は削り,増やす部 分はきちんと増やすことで,歳出構造の改 革のなかで歳出圧縮を行うのが望ましいの は言うまでもない。一律カットなどのシー リング設定は極めて安易であり,財政構造 をそのままにしたまま収支の帳尻だけ合わ せているだけ,という批判は根強い。

c 最近の財政健全化の手法・論点 一方,2000年代に入ってからの財政健全 化は,これまでの赤字国債依存からの脱却 から,プライマリー・バランス(基礎的財政 収支,PB,第5図)の均衡化・黒字化とい う考え方へシフトしていった。背景には,

度重なる財政出動や増税措置の先送りもあ り,当面は赤字国債発行を続けざるを得な いことを認めざるを得なかったこともある が,思想としては財政政策を景気対策とし て用いないという欧米先進国の財政運営に 倣ったもので,少子高齢化が進行するなか で,一定のルールに基づく財政運営スタイ ルへの転換を図ったと捉えられるだろう。

とはいえ,財政健全化の方法は,歳出削 減か,税収増の努力である点は変わらな い。歳出の見直しとしては,今後とも増加 が見込まれる社会保障関連費をどう扱うか う税収等の減少要因が約136兆円(発行増分

の約4分の1),歳出の増加要因が約282兆 (同じく約2分の1)となっている。さら に,歳出増の要因としては,高齢化等によ って一貫して増加傾向にある社会保障関係 費が約171兆円の増加となっており,全体 の3分の1ほどの要因となっている。

b これまでの財政健全化の経緯

戦後日本における財政健全化の動きとし ては,80年代前半の行政改革路線(増税な き財政再建),90年代半ばの橋本行財政改革,

そして今回と,3回ほどあった。いずれも 付加価値税(消費税)に絡んだ展開であっ たといえる。

財政再建と付加価値税の関連性が高い理 由としては,税収が「安定的」であり,「広 く薄く負担を求める」ことが可能,などで あった。また,グローバル化が進む社会に おいては法人税増税が,高齢化が進行する 社会においては所得税増税が,いずれも困 難になっていることも付加価値税へのシフ トを促す要因であったと言えるだろう。ま た,財政悪化の基本的な構図は,成長鈍化 による税収伸び悩み,硬直的な財政構造の なかでの社会保障関連費の累増などである。

なお,80年度前半,90年代半ばまでの財 政再建の手法は,一般歳出にキャップ(シ ーリング)をかけて一律削減するというス タイルで,健全化の目標は赤字国債発行ゼ (≒単年度収支の均衡化)であった。表面 的に見れば,80年代は成功(90〜93年度の赤 字国債発行はゼロとなった)したが,90年代

(12)

2

 海外経済金融の展望

 (

1

) 米国経済の展望

米国経済は,12年前半に減速した ものの,7〜9月期の経済成長率が やや加速して13四半期連続のプラス 成長となるなど,緩やかな回復基調 をたどっている。足元では10月末に 襲来したハリケーン「サンディ」の 影響で消費や生産など一時的に悪化 する経済指標が散見されるものの,

住宅部門が回復傾向を示すなど,総じて底 堅く推移している。ただし,依然として雇 用・所得環境の改善の動きが弱いほか,08 年の金融危機により発生したマクロ的な需 給バランスの崩れた状態も残っている。

こうしたなか,現下の米国経済にとって 最大の懸案事項となっているのは,13年初 に実質増税と強制歳出削減が重なる「財政 の崖」である。実質増税と歳出削減がすべ て実施されることになれば,13年度に名目 GDPの3.5%に相当する総額5,600億ドルの 財政緊縮策となり,米国経済は再び景気後 退に陥る恐れがある。米議会は,この問題 を回避するために12年11月の大統領選直後 から関係者が審議を重ねているが,与野党 の意見対立も見られ,予断を許さない状況 が続いている。

一方,金融政策に関しては,米連邦準備 制度理事会(FRB)が12年9月の連邦公開 市場委員会(FOMC)で,「量的緩和策第3 (QE3)」と「時間軸の強化」を柱とする が焦点であろう。これまでの民主党政権で

は1兆円近くの自然増を容認してきたが,

負担と受益のバランスをどうとるかの国民 的な合意形成の下で再検討する必要性が求 められている。

また,税収増の努力としては,単なる増 税措置にとどまらず,課税ベースの適正化 という観点も重要であろう。さらに,名目 成長率を引き上げて自然増を促す面も重要 である。わが国においては,14年4月に消 費税率を8%へ,15年10月に10%へ,それ ぞれ引き上げることが決まっているが,内 閣府「経済財政の中長期試算(12年8月) よれば,消費税率が予定通り10%に引き上 げられても,20年度のPB均衡化は困難とさ れており,一層の健全化努力が求められて いる。

20 10 0

10

20

30

40

△50

△60

4 2 0

2

4

6

8

△10

△12

(兆円) (%)

第5図 国・地方のプライマリーバランスの動向(SNAベース)

資料  内閣府「国民経済計算年報」から作成

(注) プライマリーバランス(基礎的財政収支)

    =財政収支+利子受取額−利子支払額

  なお,制度変更に伴う特殊要因が発生している。10年度については特 殊要因や震災復旧・復興関連等を除けば,対GDP比で△6.4%の赤字。

90年度 95 00 05 10 15 20

2020年度:

黒字化

2015年度:

赤字半減 2010年度:

27兆円(△5.7%)

の赤字 プライマリーバランス(地方)

プライマリーバランス(国)

プライマリー バランス

(国・地方合計,

対GDP比率,右目盛)

(13)

引き続き持ち直しの動きを強めるとみられ (第6図)。また,外需については,徐々 に海外経済が回復基調に戻ると想定され,

13年以降は米国からの輸出も復調すると考 えられる。しかし,政府支出に対しては,

中長期的な財政赤字削減の必要から厳しい 歯止めがかかると予想する。また,「財政の 崖」については,与野党ともに影響の大き さから回避行動を取ると想定するものの,

13年前半にかけては何らかの影響が出る可 能性があると考えられる。

総じてみれば,米国経済は12年末から13 年前半にかけて低調な動きとなるが,13年 後半以降は海外経済の回復とともに「財政 の崖」懸念による下押し圧力が解消される と思われることから持ち直すと予想され る。なお,FRBによるQE3は14年後半まで 続き,現状のゼロ金利政策は15年前半まで 維持されると予想する。

2

) 欧州経済の展望

ユーロ圏では,12年7〜9月期の実質 GDP成長率は前期比△0.1%と2四半期連 新たな追加緩和策の導入を決定した。具体

的にQE3としては,購入規模や期限をあら かじめ定めない「オープンエンド」方式で,

雇用改善が確認されるまで,月額400億ド ルのペースで政府機関発行の住宅ローン担 保証券(MBS)の購入を続け,さらに雇用 改善が見通せない場合には他の政策手段を 適宜活用するというものである。また,時 間軸の強化については,08年12月以降,事 実上のゼロ金利となる0〜0.25%に据え置 いている政策金利(FF金利)を「少なくと も15年半ばまで続ける可能性がある」と約 半年間延長した。

このほか,従来から実施している保有債 券の償還期間を長期化する措置,いわゆる

「ツイストオペ」のほか,MBSや米国債の償 還資金を再投資する既存の政策も継続して おり,「景気回復が強まった後もかなりの 間,超緩和的な姿勢を継続する」との方針 を示している。

こうした金融政策を前提に主要項目を個 別にみると,まず,個人消費は,消費者マ インドに持ち直しの動きがみられるものの,

雇用・所得環境が依然として弱い状況が続 いていることから3%程度の巡航速度を下 回って推移すると予想する。また,設備投 資は,海外経済の減速や米財政問題など先 行き不透明感を背景に横ばいの動きを示し,

企業業績が冴えないこともあり,引き続き 弱い動きが続くと見込まれる。

一方,住宅投資は,代表的な指標となる 住宅着工件数が回復しており,住宅建設業 者の景況感も改善していることなどから,

2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0

80 70 60 50 40 30 20 10 0

(百万件,年率換算) (ポイント)

第6図 建設業マインドと住宅着工件数の推移

資料 米国商務省,NBER,全米住宅建設業者協会(NAHB)

資料から作成

(注)   部分は景気後退期。

00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 NAHB住宅市場指数

(3か月先行,右目盛)

住宅着工件数

(14)

る。

また,後者については,ギリシャのユー ロ圏離脱やユーロ圏分割には市場や経済の 大きな混乱が伴うことが予想されることで,

この帰結はぜひとも回避したいものとなっ ている。

こうした状況のもと,ユーロ圏では,① 各国での緊縮財政による内需の抑制,②依 然として脆弱な金融機能,③財政危機が長 期化するとの見通しに伴う投資や消費行動 の保守化,が主要な要因となり,経済成長 を阻害し,またこれらによる経済の停滞が 財政改革や経済の構造改革の遅延をもたら すこととなった。

この間,財政危機の進行を懸念した市場 では,国債利回りの急上昇などの大きな波 乱が引き起こされることとなった。しか し,波乱の都度,第8図で示すように各国 間での様々な見解の対立が表面化すること で,問題点の解決に向けた本質的な対応に 踏み込めないまま 当面の危機対応に と ど ま る こ と で,

市場の波乱が何度 も繰り返されてき ている。

この結果,財政 危機の先行きにつ いて不透明感は一 向に軽減されるこ となく,経済成長 にとって重石とな る上記の3要因は 続のマイナスとなり,景気後退入りが確認

された。特に,財政健全国であるドイツ,

オランダなどでも景気減速が目立つように なっており,従来の財政悪化国と健全国の 間の経済成長の二極分化傾向が変化し,経 済の停滞が財政健全国にも波及する兆しが 現れている点が注目される。

このようにユーロ圏で経済の停滞が長引 く背景には,次のメカニズムが働いている ものと考えられる(第7図)

ユーロ圏では,金融政策は統合した一方 で財政政策は基本的に各国分権の仕組みを 維持していることに伴う問題点や,ギリシ ャが抱える債務の持続可能性のほか合計17 の加盟国による経済情勢の多様性という問 題点を有している。これらの問題点への対 策としては,前者については財政統合の推 進があるが,財政主権放棄への抵抗や欧州 連合(EU)の条約改正等がハードルとなり,

その進捗は遅々としたものにとどまってい

資料 筆者作成 金融政策統合+

財政分権の問題点

ギリシャの債務の持続 可能性,多様な17か国

財政統合

ユーロ圏分割

経済停滞 経済停滞長期化 財政危機長期化 経済停滞長期化財政改革・構造改革の遅延 市場波乱時に,当面の対応の繰り返し この間、

①各国での 緊縮財政に よる内需の 抑制

②依然とし て脆弱な金 融機能

③財政危機 が長期化す るとの見通 しに伴う投 資や消費行 動の保守化 が継続

・財政主権放棄への抵抗

・前提となる財政規律態勢の未確立

・継続的な支援に対する強い反発

・ハードルとなるEU条約・憲法改正  等

・銀行からの資金逃避

・通貨市場の混乱

・法的関係の混乱

・経済の疲弊・世界経済への波及  等

第7図 ユーロ圏で継続する財政危機と経済停滞

(15)

EU首脳会議において経済成長にかかる戦 略を具体化した動きはあるものの,ユーロ 圏では,財政悪化国に対してはその後も財 政改革や経済構造改革を最優先で求め,経 済成長はこれらを通じて結果的に実現でき るものとの立場を基本的に維持しており,

IMFの見解との相違が鮮明になっている。

このユーロ圏の考え方は,例えば「現時 点で財政支出が削減されても,財政状況が 改善する数年後においては支出の回復が行 われる」「現時点で増税がなされても,いず れ減税に転じる」などの将来に向けた期待 により緊縮財政の負の効果は軽減されると する,いわゆる「財政政策の非ケインズ効 果」に沿った判断であると考えられる。ユ ーロ圏では,こうした判断に基づき,財政 悪化国の規制緩和等の経済構造改革で経済 の活性化を図るとともに,短期間での厳し い財政改革で財政の持続可能性を高めつつ,

企業や家計の将来への期待により経済成長 の底打ちを図るというアプローチを維持し てきている。

しかしながら,これまでの経緯からすれ ば,非ケインズ効果発現のために求められ る前提条件(例えば,緊縮財政の将来的効果 を読み取る消費者の割合が高いこと等)はユ ーロ圏では必ずしも十分に満たされている とは考え難く,またその後の改革の遅延や 社会不安の高まり等で,これらの前提条件 の充足度合いはさらに低下していることが 考えられる。さらに,最近のEUの欧州委員 会による予測によっても,財政改革はドイ ツ等一部を除けばこれまでの計画以上に長 継続することとなり,ユーロ圏では,経済の

停滞が財政改革を困難にし,財政危機を長 期化させるとともに,これがさらに経済の 停滞を深刻化させるという悪循環に陥るこ ととなっている。

こうしたユーロ圏の状況を含め,減速化 する世界経済等に対して危機感を強めた IMFは,11年9月には財政に余裕がある国 では改革は中期的に実現を図り,短期的に は経済成長に配慮すべきとの考え方を示し た。さらに12年10月には,IMFは緊縮財政 が経済活動に及ぼす負の影響の程度が最近 の環境下では増大している可能性を指摘し 注目を集めた。加えて,その後11月4,5日 にメキシコで開催されたG20財務相・中央 銀行総裁会議において,10年6月のトロン トでのG20首脳会議で合意された一律的な 財政健全化への取組みを実質的に棚上げ し,各国で短期的には過度な緊縮財政を回 避しつつ中期的に財政改革を進める方向に 転換を行った動きも生じている。

これに対して,12年5月のフランスにお ける左派政権の成立を契機として,6月の 第8図 EUにおける主要な見解対立のパターン

<協調重視派>

・フランス,南欧等

・政治的調整を尊重

<各国の主権重視派>

・フランス,英国等

・各国の立場・判断を重視

・個々の支援策策定を優先

・国家主権のEUへの移管に 抵抗

<規律重視派>

・ドイツ,北欧,英国等

・自動的な罰則適用等を尊重

<連邦的機能重視派>

・ドイツ等

・EUの組織の機能発揮を重

・管理態勢構築を優先

・国家主権のEUへの移管に 柔軟

<ユーロ圏外10か国>

・英国,デンマーク等

・影響力の低下・負担の増加 を懸念

<ユーロ圏内17か国>

・ドイツ,フランス等

・漸進的な財政統合へ向け 調整

資料 筆者作成

(16)

向上しなければ,経済成長の鈍化は不可避 となる。

それに加え,国有企業の過剰な整備投資 などによる投資効率の悪化,研究開発など への投入不足でイノベーションの欠如,既 得権益層による改革深化への抵抗などか ら,これまでの二桁成長を遂げたような高 成長は期待できない。

こうしたなか,12年11月8日に開幕した 第18回共産党大会で胡錦濤総書記が行った 政治報告では,20年のGDP(国内総生産) 都市住民・農民の1人当たり収入を10年の 2倍にする目標が打ち出された。今回のGDP 倍増目標を達成するためには,残りの9年 で平均7%弱の成長(11年実績9.3%)が必 要となる。中国政府も高成長の追求より,

むしろ質の高い安定的な成長(6〜7%) 目指そうとしているスタンスが見て取れる。

一方,中国は世界第2位の経済大国にな ったとはいえ,1人当たりGDPは先進国に 比べてまだ低水準である(約5千米ドル) また,沿海地域(特に大都市)と比べて大幅 に発展が遅れている内陸地域の地方政府の い年月を要する見通しになっており,経済

への下押し圧力がより長期間継続する可能 性が高まっている。

ユーロ圏では,これまでにギリシャの他 にもスペインやポルトガルに対して財政赤 字削減目標を緩和するなどの対応を行った 経緯はあるが,これらはあくまで例外的な 個別対応にとどまっている。これ以上の負 担の増加を回避したい支援国側の思惑があ るとは考えられるものの,従来の改革優先 のスタンスが修正されない限り,ユーロ圏 では年間のGDP成長率が0%近辺の経済の 停滞が今後も数年にわたり継続する可能性 が高くなっており,しかも財政危機の動向 によっては,さらに成長率が低下する下振 れリスクをはらんでいるものと考えられ る。

3

) 中国経済の展望

中国は,安価で豊富な労働力の下支えで 70年末から30年余りの高い経済成長を遂げ てきた。しかし,国際連合の推計(10年) よれば,中国の高成長を支えてきた生産年 齢人口(15〜59歳)が15年前後でピークを迎 えた後,減少に転じる見込みで,いわゆる 生産年齢人口の増加が経済成長にプラス作 用する状況(人口ボーナスの効果)から経済 成長を制約する状況(人口オーナス)へ変化 することになる(第9図)

このように,年少人口(0〜14歳)と生産 年齢人口の減少に伴って,扶養が必要とな る高齢人口の増加で,貯蓄率も低下するた め,技術進歩などの全要素生産性を大幅に

14 12 10 8 6 4 2 0

(億人)

第9図 中国における総人口・年齢別人口の推移

資料 World Population Prospects: The 2010  Revisionから作成

(注) 2015年以後は中位予測値。

5055 60 65 70 75 80 85 90 95 00 05 10 15 20 25 30 35 40 45 50 総人口

60歳以上

0〜14歳 15〜59歳

(17)

こうした社会の不公平,不平等に対して,

中低所得層の不満がかなり高まっている。

いったん不満が抑えられなくなると,中国 は大きな混乱になりかねない。そのための 身を切る政治改革がまず必要となろう。さ らに言えば,大型国有企業の民営化の推進 や鉄道など独占・寡占分野への民間企業へ の参入許可が実施されなければならない。

13年3月に習近平・李克強体制が本格的に 始動するが,どのような改革プランを打ち 出すかに注目していきたい。

3

 国内経済金融の注目点と   展望         

1

) 当面の政策運営

野田内閣では,わが国の巨額の財政赤字 や今後の高齢化進行を憂慮し,財政健全化 に向けた道筋をつけることが急務との認識 から,「社会保障と税の一体改革」の推進を 最優先課題として取り組み,12年8月には 自公両党の協力を得ることで,「社会保障と 税の一体改革」関連法案が成立した。この 結果,14年4月に消費税率は8%へ,15年 10月には10%へ引き上げることが決まった が,もう一つの柱である社会保障改革につ いては先送りされ,12年11月に発足した社 会保障制度改革国民会議が8月までに結論 を出すこととされた。

なお,当面の経済・財政政策運営として は,震災復興もさることながら,消費税増 税という「痛み」を軽減させるために,デ フレ脱却や経済成長の促進に向けた政策が 経済成長への意欲が高いことなどから,従

来よりは成長率は低下するとはいえ,それ でも比較的高めの成長を達成していく可能 性は高い。

以下では,足元の景気動向などを踏まえ ながら,中国経済の短期的な動向を予測し てみよう。11年以降,中国経済は不動産抑 制政策を実施しているほか,欧州向け輸出 の低迷などが続いており,12年7〜9月期 の実質GDP成長率が前年比7.4%と,政府目 (7.5%)も下回る7四半期連続の減速と なった。しかし,10,11月に発表された経 済統計から判断すると,足元の景気はすで に回復が始まっており,底打ちしたとみら れる。

景気の先行きについては,消費の安定的 な推移に加えて,景気下支えのために前倒 しで実施されてきた公共投資の効果も顕在 化しつつあることから,13年年明け以降,

景気の持ち直し傾向が明確化してくるとみ られる。ただし,積極的金融緩和や大きな 財政支援策が行われていないことから,景 気回復の勢いはそれほど強くないだろう。

12年の成長率は8%を割り込むものの,13 年には8%台前半に戻ると予想される。

前述したように,中国経済は安定的な成 長がしばらく継続するものと考えているが,

官僚の腐敗が横行していることや,所得格 差の広がりなどによって中国社会に大きな 混乱が生じてしまうリスクがある。実際,

ストライキやデモンストレーションの発生 は日常茶飯事で,特に農村部では土地収用 などを巡る事件が多発している。

(18)

少,さらにエコカー購入補助金の終了を受 けた乗用車販売の落ち込みも加わって,国 内景気は一段と悪化した。多くの景気指標 は景気後退入りを示唆しているが,この景 気落ち込みはいつまで続くのか,またこの 先どの程度悪化するのだろうか。

結論的にはそれほど深刻なものにならな いと考える。その理由としては,海外経済 の減速傾向は早晩終了するとみられること,

自動車メーカーによる新型車投入が奏功し 10月の乗用車販売が踏みとどまるなど,エ コカー購入補助金制度終了の悪影響が強ま る様子が現時点ではみられないこと,など が挙げられる。また,欧州債務危機は今後 とも世界経済全体にとって下振れリスクと して警戒されるだろうが,世界的な混乱に つながるような最悪の事態までには至らな いだろう。

なお,目下の日本経済にとって最大のリ スクは,尖閣問題によって急速に冷え込ん だ日中関係であるが,当面,関係改善が図 られる可能性は低いだろう。しかし,中国 での日本製品排斥運動などは一部を除き鎮 静化に向かいつつあり,こうした状況が今 後さらに強まっていくわけではない。それ ゆえ,日中関係悪化による直接的な影響は 12年内に出尽くすと考える。もちろん,足 元で始まっている中国経済持ち直しの恩恵 はなかなか享受できないだろうが,早晩,

対中輸出は下げ止まるだろう。

さて,当面の国内景気を展望する上では,

引き続き,輸出の裏付けとなる海外経済の 動向と,復興需要などの動き,さらに14年 求められている。過去の事例を分析すると,

消費税の導入・増税前後には,駆け込み需 要とその反動減が発生するなど,景気の振 幅が強まることは不可避である。なお,増 税後の景気悪化が一時的かつ軽微で済むか どうかは,増税時点の景気情勢に左右され る可能性が高い。税率3%引上げ(7兆円 強の増税措置)を十分吸収できるだけの体 力がなければ,結果的に景気悪化の長期化 を招き,ギリシャなど南欧諸国のように財 政健全化の目標そのものが達成されない。

そのため,総選挙後に発足する新政権は,

景気底上げ・成長促進・デフレ脱却などを 目指した政策運営を強化することになる。

2

) 国内経済・物価の展望

世界経済の減速,さらに歴史的な水準で 定着した円高などもあり,景気牽引役とし て期待されている輸出が伸び悩んだことか ら,11年度下期以降,国内経済は停滞気味 に推移してきた(第10図)。12年9月には日 中関係が急激に冷え込んだことを受けて,

乗用車などを中心に対中輸出が大幅に減

115 110 105 100 95 90 85 80 75 70

140 130 120 110 100 90 80 70

(05年=100) (05年=100)

第10図 輸出・生産の動向

資料 内閣府,経済産業省,日本銀行資料から作成

(注)1 12年の景気後退期は当総研の想定。

  2    部分は景気後退期。

05年 06 07 08 09 10 11 12

実質輸出指数

(右目盛) 鉱工業生産

参照

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