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基礎数学』

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Academic year: 2021

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数学というと,教える側も教わる側も理工学の中では別格という感じがす るようで,教わる側は何かとりつきにくい気持ちになってしまうところがあ る.これは筆者自身がかつて学生時代にもった正直な感想である.思うに,

教える側は数学そのものの美しさ,完成された姿に感動して数学者あるいは 数学教育者になったのであろうが,教わる側にはその感動は容易には伝わっ てこない.その上,大学入学と共に数学を一生懸命に勉強しなければならな い理工系でも,大部分の学生は数学の必要性は認めても,数学そのものに興 味があるわけではないからであろう.

数学科以外の理工系学科だけでなく,文系でも経済学部,商学部のいくつ かの学科の学生諸君にとって,数学の勉強は欠かせない.しかし,それは自 分の専門分野の学習に数学が必要だからである.その意味で,物理学に限ら ず自然科学,工学,社会科学にとって,数学は道具にすぎない.しかし,そ の必要性から考えて,非常に有用で貴重な道具なのである.

すべての道具に使用する対象と使用目的があるのと同様に,道具としての 数学にも使用の動機がある.本書『

力学・電磁気学・熱力学のための

基礎数学』

はシリーズ『物理学講義』の中の 1 冊であるために,基本的には,本書を読 めば大学の理工系に入ってすぐに学ぶ物理学の各分野がスムーズに理解でき るように書いてある.それだけでなく,自然科学と工学のどの分野を学ぶに しても数学が必要なので,大学初年級の学生諸君全般を念頭に置いて,それ ぞれの章で述べる数学がどうして必要なのかを記した上で,それをわかりや すく説明したつもりである.

実は,本シリーズ『物理学講義』の既刊 3 冊『力学』 , 『電磁気学』 , 『熱力 学』でも,数学は物理学を学ぶための道具であるという方針で,数学の海に おぼれないように,物理的な説明を重視して書いてある.そこで本書では,

既刊の『力学』 , 『電磁気学』 , 『熱力学』に共通する数学をまとめて見直し,

数学的厳密性はほとんど気にせず,直観的な説明が可能なところは極力それ iii

は じ め に

―なぜ数学は必要なのか―

(2)

に努めた.

また,既刊の『力学』 , 『電磁気学』 , 『熱力学』では,高等学校で物理を履 修したことを前提にしなかった.本書でも高等学校でどのような数学を学ん できたかとか,苦手だったかなどということは一切気にせずに,初心に帰っ て自分で考えながら学んでほしい.その手助けとなる書き方はしたつもりで ある.それに,大学に入って最も大切なことの 1 つは,何につけても自分で 考えて行動することだと思う.

数学科や物理学科以外の理工系学科にいる学生にとって,高等学校までの 経験から, 「数学は計算ばかりで嫌いだ」とか「物理は数式がたくさんあって 嫌いだ」などという先入観があって,それがほとんど固定観念になっている ことが多い.しかし,大学に入っても高等学校のときからもち続けている苦 手意識だけで,物理学や数学を学ぶことに対して拒否反応を示すのは,とて ももったいないことである.ぜひとも, 「考えればわかるようになる」 という,

人間のごく普通の能力を発揮してほしいものである.

日頃ほとんど無意識に使っている携帯電話やスマートフォンのことを考え てみればわかるように, どのような道具でも常日頃の手入れが大切であって,

なおかつ使い慣れていなければならない.数学を道具としてみる立場では,

これも「習うより慣れる」ことが重要であるのは論を待たない.そのため本 書では,重要な事柄には理解の手助けとなる例題をつけてあり,ちゃんと理 解しているかどうかを確認できるように,関連した問題も与えた.例題は しっかり理解し,問題はともかく自分で考えて解いてみることが,道具とし ての数学に慣れるために何より重要である.それでも解けない場合には,巻 末に詳しい問題解答を記しておいたので,それを参考にして理解するように 努力してほしい.

最初の 2 章の微分と積分は,物理学に限らず理工系のどの分野でも必須で あり,経済学部や商学部などの文系の一部の分野でも必要とされている.し たがって,何はともあれ,微分と積分にはまず習熟すべきである.それに続 く各章は,微分と積分を学んだことを前提にしつつ一応順を追って書いてあ るが,それぞれの章の主題がそれぞれの章で独立して理解できるようにして ある.したがって,第 3 章以下は,それぞれの学科の科目を学びながら必要

は じ め に

iv

(3)

に応じて取り組んでも構わない.

最後の章の行列と行列式は,ごく基礎的なことを説明するだけにして,そ の内容は最小限にとどめた.しかし,その後の学習,特に量子力学の理解に は必須なので,将来使う数学的道具と思って学んでほしいと思う.

そうはいっても,数学を道具とみなすことに不満をもつ読者は必ずいるこ とと思う.日頃道具として使っている携帯電話やスマートフォンでも,一部 の機能に物足りなさを感じ,どのようにしたらいいかを考えるのはごく自然 なことである.道具に不満があれば改良すればよいのと同様,道具として 使っている数学に不満や物足りなさを感じたら, 数学そのものに興味をもち,

もっと深く学べばいい.どこが物足りないかを追求すれば,数学の発展に寄 与するかもしれないし,それがまた道具としての数学の発展につながり,理 工学の発展に寄与しないとも限らない.

本書が,大学に入りたての学生諸君が理工学を学ぶ際の基礎数学の教科書 として役立つことを,筆者は心から願っている.もしそれに少しでも成功し ているとすれば,それは筆者が長年に亘って中央大学理工学部で物理学及び それに関連した基礎数学の授業をし,その受講生からいろいろな質問を受け て考えさせられてきた経験のおかげである.多くの受講生諸君に深く感謝し たい.

本書の校正には注意したつもりであるが,誤りがまだ残っているかもしれ ない.読者諸氏のご指摘により随時修正していきたいと思う.遅筆な筆者を 暖かく督促し,激励していただいた裳華房編集部の小野達也,石黒浩之の両 氏に心からのお礼を申し上げる.特に,理工系学部学生のためのこれからの 教科書の在り方についての小野氏の熱意には,常日頃から感服しており,彼 のいくつもの具体的な提案で大変お世話になっている.ここに記して謝意を 表する.

2016 年 6 月

松 下 貢

は じ め に

v

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本書の流れを図に示しておく.微分と積分は理工学において最も基礎的な ものなので,何はともあれ習熟すべきである.その後は,必要に応じてどの 章から学んでもよいが,これからの長い理工学の学習のことを考えると,本 書全体を一歩一歩着実に理解しながら読み進むことが望ましい.特に,第 4 章の「関数の微小変化と偏微分」は微分の知識があればわかるはずで,これ を読んで理解しておくと,それ以後の章や理工学の他の科目の学習に大いに 役立つであろう.第 8 章の「行列と行列式」は他の章との関連は薄いが,数 を 1 行に並べたベクトルを拡張して,複数行に亘って並べたものが行列だと 思えば,第 5 章の「ベクトルとその性質」の後に読むとわかりやすいかもし れない.

は じ め に

vi

1. 微分 2. 積分 3. 微分方程式

4. 関数の微小変化と偏微分

5. ベクトルとその性質

6. スカラー場とベクトル場

7. ベクトル場の積分定理

8. 行列と行列式 本書の流れ

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