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電荷と電場 9

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Academic year: 2021

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(1)

私たちは,電気に関連したいろいろなものに四六時中世話になっており,

それらなしで日常生活を過ごすことは想像できない時代に生きている.朝は どこまでも正確な電波時計のベルで目が覚め,朝食には冷蔵庫やトースター,

コーヒーメーカー,電子レンジなどの電化製品が活躍し,外出の前にはテレ ビやラジオあるいはスマートフォンなどで天気予報や交通情報をチェックす る.外出の際に使う電車が電力を利用していることは明らかであるが,自動 車の場合でもガソリンの燃焼で取り出したエネルギーの一部を充電に使い,

車のいろいろな部分を電気的に制御している.カーナビの基本部分は現在位 置を知らせる GPS であるが,これは人工衛星からの電波による情報の処理 が基本である.大学の授業でもパソコンやプロジェクターが活躍し,授業の 中で出た課題のレポートはインターネットを通じてパソコンから出すことが できる.夜になって家に戻ると,消費電力の少なさが特徴の LED 電球が部 屋や机上の照明に活躍している.しかし,これらはほんの少数の例にすぎず,

すべてを網羅することなどとてもできない.

このように,朝起きてから夜寝るまで途切れることなく,何らかの形で電 気のお世話になっている.それどころか,実際には寝ている間も,冷蔵庫は はたらいているし,スマートフォンは友達からのメールなどの連絡をキャッ チし続けていて,電力消費は一日中,決してゼロにはならない.私たちは科 学や技術の成果を基礎にした文明によって生活の便利さ・豊かさを満喫して いるのであるが,このように振り返ってみると,実はその大部分に電気が関 わっていることがわかるであろう.

電気は私たちの日常生活になくてはならないものになっているが,これは もちろん,長年にわたる科学者・技術者たちの努力のたまものである.私た

は じ め に

なぜ電磁気学を学ぶのか

(2)

ちにとっては,これからも電気に関わる科学や技術の発展が必要不可欠であ り,将来それを担うのが理工学部に入った学生諸君であることを考えると,

これまでに先人たちが築き上げた電気に関する科学の基礎を学ぶことは必須 であるということができる.この電気の背後で活躍する電荷や電流の性質,

それらが生み出す電場や磁場の特徴,それらが電磁場として示す空間的,時 間的な振舞いを考察するのが,これから学ぶ電磁気学なのである.

力学は目に見えるモノの動きを扱うために,学んでいることがイメージし やすい.それに比べると,電磁気学で活躍する電荷,電流,電場,磁場はど れをとっても直接目には見えない.それでも電磁気的な現象があるのは明白 であり,それらを把握し理解するためには科学的な概念がどうしても必要と なる.このように,電磁気学は力学より抽象的な学問体系であり,それが初 学者にとって電磁気学の理解を難しくしているのである.しかし,逆にいえ ば,電磁気学はそれを学習する各自の想像力が大いに活躍する分野であると いうこともできるであろう.実際,19 世紀のはじめにイギリスのファラデー は,目に見えない電場や磁場を,電気力線や磁力線という曲線が空間の中に あるとして可視化することでその振舞いを具体的にイメージし,苦手な数学 を一切使わないで電磁気学の基本法則を発見している.

ともかく,このような事情があるので,電磁気学をはじめて学ぶ場合には,

最も基礎的なことから順を追って理解するように努力しなければならない.

その途中では,静電ポテンシャルをはじめとして,初学者にイメージしにく い概念が必ず出て来る.しかし,一度読んでわからなくても気にすることは ない.何が,なぜ,どのようにわからないかを考えながら,繰返し読み直し てみることである.

力学は,物理学全般にわたる物理的な考え方の基礎を与えてくれるという 意味で非常に重要であった.もちろん,電磁気学も,相対性理論や量子力学,

物性物理学,統計物理学を理解するための基礎であることはいうまでもない.

しかしそれだけではなく,上にも強調したように,日常生活における電気の

(3)

重要性から,電磁気学は物理学の実用面への橋渡しの基礎という面があり,

理工学全体にわたって重要である.

電磁気学は力学や熱力学と違って,扱う現象が多様でバラバラな感じがし てまとまりがなく,学習するのがとても難しいとよくいわれるが,それは誤 解である.比較的理解が容易な静電場から出発して,静磁場へと学び進むに つれて,電場は電荷から生じ,磁場は電流から生じることがわかるようにな る.静電場と静磁場は直接には結びつかないのに,それらの特徴を記述する 基本的な方程式が驚くほどよく似ているのである.電場や磁場が時間的に変 化するような場合には,電場と磁場が結合して電磁場として振舞うようにな り,その基本方程式は一見複雑になるが,それも見かけ上のことである.力 学では基本方程式がニュートンの運動方程式であることを学んだ.電磁気学 でそれに相当するのが 4 つの方程式からなる一見複雑なマクスウェル方程式 であるが,電磁場の特徴をさらに深く考察すると,それが単一の方程式で表 されることがわかるのである.そこで本書では,電磁気学はとてもまとまり の良い学問体系であることを強調し,そのことをわかりやすく順を追って説 明する.

高等学校で物理を学んだ経験のあるものにとって,電磁気学のいろいろな 法則は与えられたものとして暗記しなければならなかったはずである.しか し,大学では,力学でもすでに経験したように,どのような法則もより基礎 的なことから理解しようとする.すなわち,高等学校で覚え込まされたどの ような電磁気学的な法則も,実験的に知られた事実を基礎にして,それらを 理路整然とまとめ上げ,体系的に理解しようと努力するのである.この意味 で,本書は姉妹書の『物理学講義 力学』や『物理学講義 熱力学』と同様,電 磁気学を生まれてはじめて学ぶものを読者として考えており,高等学校で物 理を履修したことを前提にしてはいない.

『物理学講義 力学』や『物理学講義 熱力学』でもすでに強調したが,物理

(4)

学を理解するためには数学は必須である.力学では微分・積分,簡単なベク トルの演算と初歩的な偏微分が必要であった.それらは慣れない間は難しく て面倒でも,学んでいるうちに本来の目的の力学を理解するのに非常に便利 であることがわかってきて,そのうちに当たり前になってくるのである.電 磁気学でも同様であるが,基本的な量である電場と磁場がベクトルの場であ ることから,ベクトル場の微分・積分に関係したベクトル解析が重要な役割 を果たす.だからといって,決して数学に埋没して本来の目標を見失うべき ではない.

私たちの目標は物理学を理解することであって,数学ではない.数学に通 じるに越したことはないが,物理学の理解には当面それを使えればよい.し たがって,本書でも数学は道具として扱い,その使い方は丁寧に説明する.

日頃使い慣れているスマートフォンを思い出していただきたい.その開発者 は別として誰もが,背後でどんな原理があって動作していようと全く気にせ ずに使っているではないか.それでも気になる読者は,本書で使う数学的な 諸定理の説明を巻末の付録に記したので,それを参照されたい.

初稿の段階で原稿を丁寧に読んでいろいろなコメントをいただいた國仲寛 人氏に深く感謝する.もちろん,まだ残っているかもしれない誤りなどはす べて筆者の責任であり,読者諸氏のご指摘により随時修正していきたいと思 う.遅筆な筆者を暖かく督促し,激励していただいた裳華房編集部の小野達 也,須田勝彦の両氏に心からのお礼を申し上げる.特に,これからの教科書 の在り方についての小野氏の熱意には,常日頃から感服している.その上に,

彼のいくつもの具体的な提案で大変お世話になっていることを,ここに記し て謝意を表する.

2014 年 仲秋

松 下 貢

(5)

本書の流れを図に示しておく.電磁気学は,誰もが日常的に使っている電 気の背後にある電荷や電流の性質,それらが生み出す電場や磁場の特徴,時 間変化する一般的な状況で電場と磁場がまとまって電磁場として示す振舞い を考察する.本書は,ごく日常的,常識的なことから始めてマクスウェル方 程式とその簡単な応用に至るまで,初学者が電磁気学の枠組みをシームレス に理解できるように書かれている.一歩一歩着実に学んでほしい.

本書の流れ 1. 電荷と電場

9. 時間変動する  電場と磁場

2. 静電場

6. 静磁場

10. 電磁場の   基本的な法則

5. 電流の性質 3. 静電ポテンシャル

11. 電磁波と光 12. 電磁ポテンシャル 4. 静電ポテンシャルと導体

8.ローレンツ力 7. 磁場とベクトル・ポテンシャル

参照

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