三次元の箱の中の粒子
三次元の箱の中の粒子の波動方程式を解いてみよう.
座標変数
x,y,zついて,三次元のラプラシアンは
Δ =∂2/∂ x2+∂2/∂ y2 +∂2/∂z2となるから,波動方程式は次のようになる.
−
2m
2 ∂x∂22+ ∂2∂y2+ ∂2
∂z2+U(x,y,z)ψ(x,y,z)=Eψ(x,y,z)
(1) これが三次元一粒子系の波動方程式であり,演算子が直接関数に作用する形に すると次式が得られる.
− h2
8π
2m∂2ψ(x,∂x2y,z)+∂2ψ(x,y,z)∂y2 +∂2ψ(x,y,z)
∂z2
+U(x,y,z)ψ(x,y,z)=Eψ(x,y,z)
(2) 箱の中に粒子を閉じ込めるには,位置エネル
ギー
U(x,y,z) の形に工夫がいる.x方向の 長さが
L,y方向の長さが
L,z方向の長さが
Lの直方体の中に粒子を閉じ込めるには,0
<x<L,0<y<L
か つ 0
<z<Lで あ る と き
U(x,y,z)=0,それ以外の場合は
U(x,y, z)= +∞とすればよい (図).
U(x,y,z)= +∞
となる箱の外と箱の端では
ψ(x,y,z)=0 で,粒子は存 在できない.粒子が存在できるのは
U(x,y,z)=0 となる, 0
<x<L,0
<y<L
かつ 0
<z<Lzである箱の中の領域であり,式 (2) より次式が得られる.
− h2
8π
2m∂2ψ(x,∂x2y,z)+∂2ψ(x,y,z)∂y2 +∂2ψ(x,y,z)
∂z2 =Eψ(x,y,z)
(3) ここで,波動関数
ψ(x,y,z) として一変数の関数X(x),Y(y) およびZ(z) の積の形を仮定する.
ψ(x,y,z)=X(x)Y(y)Z(z)
(4)
0U = +∞
U = 0
Lx
Lz
Ly
箱の中 箱の外
図 三次元の箱のU(x,y,z)
これを式 (3) に代入して 2 次微分を計算すると,次式が得られる.
− h2
8π
2mY(y)Z(z)∂2X(x)∂x2 +X(x)Z(z)∂2Y(y)∂y2 +X(x)Y(y)∂2Z(z)
∂z2
=EX(x)Y(y)Z(z)
(5) ここで両辺を
ψ(x,y,z)=X(x)Y(y)Z(z) で割ると,次の形の式になる.− h2
8π
2mX(x)
1
∂2X(x)∂x2 − h2
8π
2mY(y)
1
∂2Y(y)∂y2 − h2
8π
2mZ(z)
1
∂2Z(z)∂z2 =E
(6) 左辺は
x,y,zの一つに依存する項の和 (変数分離した形) になっており,x,
y,zが変化しても等号が成り立つためには,左辺の三つの項はそれぞれ定数に ならなければならない.そこで,次のように置く.
− h2
8π
2mX(x)
1
∂2X(x)∂x2 =E
(7)
− h2
8π
2mY(y)
1
∂2Y(y)∂y2 =E
(8)
− h2
8π
2m1
Z(z)∂2Z(z)
∂z2 =E
(9)
E+E+E=E
(10) 式 (7) は次のように書き直すことができる.
− h2
8π
2m ∂2X(x)∂x2 =EX(x)
(11)
これは,一次元の箱の中の粒子の波動方程式と同じ形であり,境界条件も同様
に考えてよいので,E
と
X(x) について,以下の解が得られる.E
=
n2h28mL
2(n
=1, 2, 3, …) (12)
X(x)=2
L
sin
nπxL
(n
=1, 2, 3, …) (0
≦x≦L) (13)
yおよび
z座標が関係する部分についても同様にして,
E= n2h2
8mL
2(n
=1, 2, 3, …) (14)
Y(y)=2
L
sin
nπyL
(n
=1, 2, 3, …) (0
≦y≦L) (15)
E= n2h28mL
2(n
z=1, 2, 3, …) (16)
Z(z)=2
L
sin
nπzL
(n
=1, 2, 3, …) (0
≦z≦L) (17) 以上の結果を式 (4) と式 (10) に代入すると,三次元の箱の中の粒子のエネル ギー準位と波動関数が,それぞれ次のように得られる.
E= h2
8m
Ln22+n2L2+n2
L2
(n
,
n,
n=1, 2, 3, …) (18)
ψ(x,y,z)=8
LLL
sin
nπxL
sin
nπyL
sin
nπz L(n
,
n,
n=1, 2, 3, …) (19)
三次元の場合も,二次元の場合と同様に,一次元の箱の中の粒子の解と比べる
と,エネルギーは和に,波動関数は積になる.
調和振動子の波動方程式の解き方
バネの定数が
で質量が
mの一次元調和振動子の波動方程式は,次のよう に表される.
−
2m
2dx d
22+1
2
x2ψ=Eψ(1)
この波動方程式は,ψ(x) に次の形を仮定すると解くことができる.
ψ(x)=
e
2∑bixi(i
=0, 1, 2, …) (2) 式 (2) を仮定し,式 (1) の解をいくつか得てみよう.式 (2) で多項式部分の 次数を決める
iの最大値を大きく取るほど多数の解が得られ,無限大まで考慮 するとすべての解が得られるが,解く手間はかなり煩雑になる.ここでは欲張 らずに式 (2) の
iを 2 までとして,b
2=b,b1=c,b0=dとおき,ψ(x) として 次式を用いることにしよう.
ψ(x)=
e
2(bx
2+cx+d)(3) まず,解くべき波動方程式 (1) を次の形に書き直す.
d
2ψdx
2−Ax2ψ+Bψ=0 (4)
A=m2
(5)
B=
2mE
2
(6)
ψ
の表式 (3) を微分方程式 (4) に代入し,x の次数に注意して整理すると,
e
2b(4a2−A)x4+c(4a2−A)x3+(−10ab
+4a
2d−dA+bB)x2 +c(−6a+B)x+2b
−2ad
+dB =0 (7)
指数関数は 0 にならないから,
内の
xの多項式の部分が恒等的に 0 になる
ためには,各次数の係数がすべて 0 に等しくなければならない.よって,
b(4a2−A)=
0 ①
c(4a2−A)=
0 ②
−10ab+
4a
2d−dA+bB=0 ③
c(−6a+B)=
0 ④
2b
−2ad
+dB=0 ⑤
となり, ① 〜 ⑤ の 5 個の式を連立させて解くわけであるが, 式 (3) の右辺の多 項式部分の次数に注意し,以下 0 次から 2 次の三つの場合に分けて解いていこ う.
<0 次の場合:b
=c=0,d
≠0>
ここで
d≠0 としたのは,もしも
dも 0 なら恒等的に
ψ=0 となって波動関 数が消えてしまうからである.b
=c=0 より,① , ② , ④ は満たされており,
③ と ⑤ を解けばよい.
③ より
A=4a
2だから,(5) を用いると,
a= A
2
= m2 (8)
である.ここで,a
= − A/2<0 となる場合は,指数関数が
x→ ±∞で発散 してしまうため,有限な確率をもつ波にならず,規格化条件を満たし得ないの で除外した.
⑤ より
B=2a だから,(6) を用いると,
a=B
2
=mE2
(9)
E=a2
m = /m
2 (10)
となり,結局
dは ① 〜 ⑤ からは何の制限もつかないので,0 以外であれば任
意でよい.よって,次の解が得られた.
E= /m
2 (11)
ψ=de2 d≠
0,a
=2
m(12)
<1 次の場合:b
=0,c
≠0>
② より
A=4a
2であり,式 (8) と同じになる.
④ より
B=6a となるので,(10) のちょうど 3 倍の
Eが得られる.
E=
3
/m2 (13)
⑤ と ④ から
d=0 が得られるので,1 次式の波動関数として次式が得られ る.
ψ=cxe2 c≠
0,a
=2
m(14)
<2 次の場合:b
≠0>
① より
A=4a
2であり,式 (8) と同じになる.A
=4a
2を使うと,③ より
B=10a となるので,式 (10) のちょうど 5 倍の
Eが得られる.
E=
5
/m2 (15)
④ より
c=0 が得られ,⑤ より
b= −4adが得られる.ここで,b
≠0 であ るから
d≠0 となることに注意して
ψを求めると,下式のようになる.
ψ=d(−4ax2+
1)e
2 d≠0,a
=2
m(16)
以上の結果をまとめるにあたって,上で求めたエネルギー準位が,(1/2)
/m
の 1 倍,3 倍, 5 倍と等間隔になっていることがわかるので,この間隔を プランクのエネルギー量子
hνと等しいとみなすと,次式が得られる.
hν=
m
(17)
これを用い,求められたエネルギーを量子数
n=0, 1, 2 と対応させてまとめ
ると,次のエネルギー準位が得られる.
En=n+
1 2
hν(n
=0, 1, 2, …) (18) ここで,
n=0, 1, 2, … は振動の量子数であり,
hはプランク定数,
νはこの振 動の固有振動数である.
調和振動子の波動関数は式 (2) の形になるが, 指数部分に含まれる定数
aは,
すべての解に対して次式で与えられる.
a= m
2 (19)
調和振動子の波動関数
ψn(n
=0, 1, 2) を,規格化の定数を省略して示すと,
ψ0=
e
2,ψ1=xe2,ψ2=(−4ax
2+1) e
2(20)
となる.
剛体回転子の波動方程式の解き方
剛体回転子の波動方程式は,次式で与えられる.
−2
2I
Λψ=Eψ(1)
Λ=
1 sin
θ ∂∂θ
sin
θ∂θ∂ +sin 1
2θ ∂2∂φ2
(2)
ここで,Λ は角度
θと
φにだけ依存する演算子 (ルジャンドリアン) である.
また,I は,重心を軸とする回転運動の慣性モーメントであり,次式のように,
換算質量
μと結合距離
rで表される.
I=μr2
(3)
式 (1) の波動方程式は,三角関数を組み合わせた式を仮定して解くことがで きる.式 (1) の解をいくつか得てみよう.まず,求める波動関数
ψを,θ のみ の関数
Θと
φのみの関数
Φの積で表してみる.
ψ(θ,φ)=Θ(θ)Φ(φ)
(4)
ここで,角度
φは 2
π(360°) 回ると元に戻るので,境界条件として
Φ(0)= Φ(2π) を満たさなければならない.式 (4) とルジャンドリアン
Λの定義式 (2) を式 (1) に代入し,
θに関係する部分を左辺に,
φに関係する部分を右辺に,
それぞれまとめると次のようになる.
sin
θ Θ ∂∂θ
sin
θ∂Θ∂θ +
2IE
2
sin
2θ= −1
Φ ∂2Φ∂φ2
(5)
θ
と
φは独立した変数だから,この式の両辺は定数でなければ等しくはならな いので,その定数を
λと置いて,以下の式を得る.
∂2Φ
∂φ2 = −λΦ
(6)
1 sin
θ ∂∂θ
sin
θ∂Θ∂θ +
2IEΘ
2 = λ
sin
2θΘ(7)
式 (6) は,箱の中の粒子のところで出てきたものと同じ形の微分方程式なので
簡単に解ける.規格化の係数はここでは考えないこととし,
Φ=
e
im(8) とおき,式 (6) の左辺に代入すると,
∂2Φ
∂φ2 =
(im)
2e
im= −m2Φとなるから,式 (8) の
Φの形は確かに式 (6) を満たしていることがわかり,
λ=m2
(9)
が得られる.ここで,境界条件
Φ(0)=Φ(2π) を満たさなければならないから,
Φ(2π)=
e
2im=Φ(0)=e
0=1 (10) となる.この式 (10) が満たされるためには,m は整数でなければならない.
したがって,
λは整数の平方でなければならないが,
λは式 (7) にも含まれてお り,式 (7) を解いてみないと定まらないから,m の値もこの段階では決まらな い.
式 (7) の
Θ(θ) としては,ルジャンドル関数というものを用いればよいことが数学分野ではよく知られているが,ここではその知識がなくても,誰でも思 いつくような単純なケースとして,次の三つの場合を考えてみよう.
1)
Θ(θ)=1 2)
Θ(θ)=cos
θ3)
Θ(θ)=sin
θここでは,Θ(θ) の式に規格化のための係数を含めていないが,規格化につい ては別途考えることができるので,省略して議論を進めてかまわない.
<Θ(θ)
=1 の場合>
式 (7) において,Θ(θ)
=1 とすると下式となる.
2IE
2 = λ
sin
2θこれが任意の
θについて成り立つためには,E
=0 かつ
λ=0 でなければなら ない.よって, 式 (9) から
λ=m2=0 となるから
m=0 が得られ, 式 (8) より
Φ(φ)=e
0=1 となり,次の解が得られる.
E=
0,ψ
=1 (m
=0) (11)
<Θ(θ)
=cos
θの場合>
式 (7) に
Θ(θ)=cos
θを代入すると式 (12) が得られる.
1 sin
θ ∂∂θ
sin
θ∂cos
θ∂θ +
2IE
2
cos
θ=λcos
θsin
2θ(12) 微分を含む部分は,右側から順に演算をするので,
∂θ∂
sin
θ∂cos
θ∂θ = ∂
∂θ
sin
θ(−sin
θ)= ∂∂θ
(−sin
2θ)= −2 cosθsin
θとなり,この結果を式 (12) に代入し両辺を cos
θで割ると,次式が得られる.
−2+
2IE
2 = λ
sin
2θこれが任意の
θに対して成り立つためには両辺ともに 0 でなければならない.
右辺から
λ=0 となるが,これは
Θ(θ)=1 のときと同様に
Φ=1(m
=0) を 与える.左辺は
−2+2IE/
2=0 となり,E
=2/Iが得られる.よって,次 の解が得られる.
E=2
I,ψ=
cos
θ(m
=0) (13)
<Θ(θ)
=sin
θの場合>
式 (7) に
Θ(θ)=sin
θを代入すると,下式となる.
sin 1
θ ∂∂θ
sin
θ∂sin
θ∂θ +
2IE
2
sin
θ=λsin
θsin
2θ(14) 微分を含む部分は,右側から順に演算をするので,
∂θ∂
sin
θ∂sin
θ∂θ = ∂
∂θ
(sin
θcos
θ)=cos
2θ−sin
2θ=1
−2 sin
2θとなり,この結果を式 (14) に代入し,両辺に sin
θを掛けると,次式が得られ る.
2 sin
2θ1
−IE2=1
−λこれが任意の
θについて成り立つためには,両辺とも 0 でなければならない.
左辺から 1
−IE/2=0 となり,
E=2/Iが得られる.右辺から
λ=1 となる
が,式 (9) から
λ=m2=1 となるから
m= ±1 となり,式 (8) から次式のΦが得られる.
Φ(φ)=
e
i(15)
よって,この場合の解として複号
±を含む次の結果が得られる.
E=2
I,ψ=
sin
θe
i(m
= ±1)(16) 以上より,E
=0,ψ(θ,
φ)=1 が剛体回転子の基底状態である.その次のエ ネルギー準位は, 式 (13) と式 (16) の
E=2/Iであるが, これに対応する波動 関数は,
ψ(θ,φ)=
cos
θ(m
=0)
ψ(θ,φ)=sin
θe
i(m
= +1)ψ(θ,φ)=
sin
θe
i(m
= −1) (17)
の 3 種類があるので,この状態は三重に縮重している.
以上で,剛体回転子のエネルギー準位と波動関数の組み合わせをいくつか求 めたが,さらに多くの解を求めるには,数学でよく知られているルジャンドル 関数について知っていると,見通しよく解くことができる.ここではその詳細 にはふれないが,剛体回転子のエネルギー準位および波動関数の一般的な式を 以下にまとめておく.
剛体回転子に許されるエネルギーは,次式のように,整数値をとる回転量子 数
Jによって飛び飛びの準位になる.
E=J(J+
1)
22I (J
=0, 1, 2, …) (18)
これを回転エネルギー準位という.剛体回転子の波動関数は,数学でよく知ら
れている球面調和関数
YJ,m(θ,
φ) で表され,Jのほか,もう一つの量子数
mに
も依存している.規格化された球面調和関数を表に示す.
Y0,0= 1
4π
Y2,0= 5
16π (3 cos2θ−1)
表 球面調和関数YJ,m(θ,φ)
Y1,1= 3
8π sinθei
Y3,2= 105
32π cosθsin2θei2
Y3,3= 35
64π sin3θei3
Y2,1= 15
8π sinθcosθei
Y2,2= 15
32π sin2θei2
Y3,0= 7
16π (5 cos3θ−3 cosθ) Y1,0= 3
4π cosθ
Y3,1= 21
64π (5 cos2θ−1) sinθei
水素類似原子の波動方程式の解き方
水素類似原子の波動方程式は,次式で与えられる.
−
2m
2 Δ −4πε
Ze20rψ=Eψ(1)
ここで
rは原子核と電子の距離を表す.極座標 (r,
θ,φ) を使うと,式 (1) の左辺に含まれるラプラシアン
Δは,次のように表される.
Δ =
1
r2dr d
r2dr d
+Λr2(2) この式に含まれるルジャンドリアン
Λは,次の固有方程式を満たす.
ΛYl,m
(θ,
φ)= −l(l+1)
Yl,m(θ,
φ)(3) 固有関数
Yl,m(θ,
φ) は球面調和関数であり,その種類を決める量子数はlと
mである.
ここで,原子の波動関数の角度依存性に
Λの固有関数である球面調和関数
Yl,m(θ,
φ) が関係するものと予想し,次の形のψを考える.
ψ(r,θ,φ)=R(r)Yl,m
(θ,
φ)(4)
R(r) は, 電子と原子核の距離
rだけに関係し, 角度には関係しないので, 波動 関数
ψの動径部分と呼ばれる.一方,球面調和関数は,ψ の角度部分と呼ばれ る.式 (4) を波動方程式に代入し,球面調和関数がルジャンドリアンの固有関 数であることを用いると,R(r) を決める次の方程式が得られる.
− 2
2mr
2dr d
r2dr d
−l(l+1)
R(r)=E+4πε
Ze20rR(r)(5)
この式が解ければ,水素類似原子の問題は解決する.
式 (5) はかなり難しそうな式である.実は,量子論が誕生する以前から数学 者が詳しく調べていた微分方程式の知識を借りると式 (5) は解けてしまうが,
ここでは, 高級な数学的知識がなくても, 式 (5) を解くことができないか, チャ レンジしてみよう.
まず,R(r) として指数関数と距離
rの多項式との積の形を仮定してみよう.
R(r)=
e
ar∑i biri
(i
=0, 1, 2, …) (6) なぜこの形を考えるかというと,電子は原子核から静電気的引力を受けて運動 しているため,原子核に近づく確率は高いが,遠くへ離れてしまう確率はほと んどないと予想されるから,距離
rに対して負の指数を考えることができ,さ らに多項式を掛けると一般性の高い式になるからである.
式 (6) を式 (5) に代入し,この式に含まれる
aや
biを決めれば,波動関数の 動径部分が決まり, 同時に式 (5) の右辺の
Eが決まれば, エネルギー準位が求 められる.計算で注意すべき点は,式 (5) の左辺に含まれる距離
rについての 演算「d/dr(r
2d
/dr)」で,演算子の右側の部分から左側へと順ぐりに実行することである.つまり,一番右にある「d/dr」の微分演算を動径部分の関数
Rに 対して最初に実行し, その結果に, 左に残っている「r
2」を掛け算する.そうし て得られた結果に,一番左の「d/dr」の微分演算を実行する.
動径部分の関数
R(r) を求めるために,式 (6) の多項式部分をrの 1 次の項 までで打ち切った次の形を仮定して,式 (5) を解いてみよう.
R(r)=
e
ar(b
+cr)(7) ここで,
b=c=0 となれば,恒等的に
R(r)
=0 となって波動関数が消えてし まうので,b と
cは同時に 0 にはならない.式 (5) の先頭部分や式 (1) の位置 エネルギーに含まれる定数部分が複雑な形をしているので,数式を取り扱いや すくするため,次のように置き換える.
A= 2
2m (8)
B= Ze2
4πε
0(9)
式 (7) の
Rを式 (5) の両辺に代入し, 微分演算子を含む部分を右側から順に丁
寧に計算し,その他の部分も含めて式全体を片側に集め,さらに
rの次数が同
じ項をまとめると,式 (6) の右辺と似た形の式が 0 に等しくなる次の形の式が
得られる.
e
ar∑i Ciri=
0 (10)
この式が, どんな
rに対しても恒等的に成り立つためには, すべての係数
Ciが 0 でなければならない.
Ci=
0 (11)
原子の謎を解き明かすために,式 (7) の
R(r) を式 (5) に代入して演算し,式(10) の形に整理する計算を辛抱強く丁寧に行うと,以下の四つの式が得られ る.
C1= −Ec−Aa2c=
0 ①
C0= −Eb−Bc+4Aac
−Aa2b=0 ②
C1=Al(l+1)c
−Bb−2Ac
+2Aab
=0 ③
C2=Al(l+
1)b
=0 ④
これらの四つの式 ① 〜 ④ が同時に成り立つように,a,
b,cおよび
lがどのよ うになればよいかを調べる.ここで,b と
cは同時には 0 にならないことに注 意する必要がある.また,指数部分に含まれる
aは,a
>0 でないと規格化で きるような波動関数が得られないことにも注意する必要がある.
<c
=0 の場合>
b
は 0 にならないから,③ より
B=2Aa となるので,
a= B
2A (12)
となる.右辺の
Aと
Bに,式 (8) と式 (9) を代入すると,下式が導ける.
a=Zπme2 ε0h2 = Z
a0
(13)
a0= ε0h2
πme2
(14)
a0
はボーア半径である.② より,E
= −Aa2= −(B/2A)2A= −B2/4Aであ
り,A と
Bに式 (8) と式 (9) を代入すると,
E= −mZ2e4
8ε
02h2 = −Z2W(15) となる.ここで
W= me4
8ε
02h2(16) であり,この
Wは,第 1 章で出てきた水素原子のイオン化エネルギーの式 (1. 15) (p. 8) に等しい.ここで求められたエネルギー
Eは,ボーア模型の基 底状態に対応している.④ より,
bは 0 でないので
l(l+1)=0 となるが,
l≧0 だから,
l=
0 (17)
となる.l
=0 については,m が取り得る範囲の制限 (l,
l−1, …,
−l) から,m=
0 (18)
が得られる.
以上をまとめると,c
=0 とした場合の解は次のようになる.
E= −Z2W
R=beZr/a0
(b は規格化条件で決まる 0 でない定数)
l=
0,Y
=Y0,0 (19)
この結果は,エネルギーをボーア模型と比較すれば明らかなように,水素類似 原子の基底状態である.球面調和関数
Y0,0は定数なので, 波動関数に角度依存 性はなく,どの方向に対しても原子核から離れるに従って電子を見出す確率は 急速に減衰することが導かれた.
<b
=0 の場合>
c
は 0 にならないから,② より
B=4Aa なので,
a= B
4A (20)
となる.これは,上の
c=0 の場合と比べると,a の値がちょうど 1/2 になっ
ている.上と同様に,A と
Bに式 (8) と式 (9) を代入すると下式が導ける.
a=Zπme2
2ε
0h2 = Z2a
0(21)
この
a0はボーア半径であり,式 (14) で与えられたものに等しい.① より,
E= −Aa2= −(B/4A)2A= −B2/16A
であり, 式 (8) と式 (9) を代入すると,
E= −mZ2e4
32ε
02h2= −Z2W2
2(22)
となる.この
Wも水素原子のイオン化エネルギーに相当するもので,式 (16) で与えられたものに等しい.③ より
l(l+1)
=2 となるので,l
2+l−2
=(l
−1)(l
+2)
=0 となるが,l
≧0 だから,
l=
1 (23)
となる.l
=1 については,m が取り得る範囲の制限 (l,
l−1, …,
−l) から,m=
1, 0,
−1(24) が得られる.
以上をまとめると,b
=0 とした場合の解は次のようになる.
E= −Z2W
2
2R=creZr/2a0
(c は規格化条件で決まる 0 でない定数)
l=
1,Y
=Y1,1,Y1,0,Y1,1 (25)
この結果は,ボーア模型と比較すると,量子数が
n=2 の励起状態であり,
球面調和関数が 3 通りあるので三重に縮重した状態になっていることがわか る.
<b
≠0,c
≠0 の場合>
② より
B=4Aa となるので,
a= B
4A (26)
であり,これは
b=0 の場合と同じである.したがって
a=Zπme22ε
0h2 = Z2a
0(a
0はボーア半径) (27)
E= −mZ2e4
32ε
02h2= −Z2W2
2(28)
となる.この
Wも水素原子のイオン化エネルギーに相当するもので,式 (6) で与えられたものに等しい.④ より
l(l+1)
=0 であるので,③ より,−Bb
−
2Ac
+2Aab
=0 となるが,B
=4Aa を用い,A
>0 に注意すると,
c= −ab
(29)
が得られる.l(l
+1)
=0 だが,l
≧0 なので,
l=
0 (30)
となる.l
=0 については,m が取り得る範囲の制限 (l,
l−1, …,
−l) から,m=
0 (31)
が得られる.
以上より,b
≠0,c
≠0 の場合の解は次のようになる.
E= −Z2W
2
2R=b
1
−2a
Zr0e
Zr/2a0(b は規格化条件で決まる 0 でない定数)
l=
0,Y
=Y0,0 (32)
この結果をボーア模型と比べると,量子数が
n=2 の励起状態であり,球面 調和関数
Y0,0が角度依存性をもたない定数であることから, この状態の波動関 数は方向によらず距離
rだけで決まることがわかる.なお,n
=1 の状態では
l=0 しか出てこなかったが,n
=2 では,l
=1 と
l=0 の状態が出てきた.
よって,n が決まると,l は 0 から
n−1 までの範囲をとることがわかる.
波動関数の動径部分の形を仮定して,エネルギーと波動関数を求めるやり方 は,以上のように非常に根気よく計算することに帰着する.未知のことを解き 明かすときには,しばしばこのような粘り強さが必要とされる.
式 (6) の多項式のより高次の部分を考慮して解いていくと,さらにいろいろ な解が次々に求められる.その結果のエネルギー準位は次式のようになり,
ボーア模型の場合と同じになる.
E= − mZ2e4
8ε
02h2n2= −Z2Wn2
(n
=1, 2, …) (33) ここで
Wは次式で与えられる.
W= me4
8ε
02h2(34)
Wは水素原子 (Z
=1 の水素類似原子) のイオン化エネルギーに相当する.波 動関数
ψ(r,θ,φ) は,動径部分のR(r) の形がnや
lによって変わるので
Rn,l(r) と表し,これと角度部分の
Yl,m(θ,
φ) との積の形になる.ψ(r,θ,φ)=Rn,l
(r)
Yl,m(θ,
φ)(35)
したがって,水素類似原子の波動関数は,三つの量子数
n,l,mによって形が
変化し,それぞれ空間的な振舞いの異なる電子波を表す.
化学反応経路網の探索
個々の化学式で表される原子の集団に可能な構造 (異性体) とそれらを結ぶ 反応経路の全貌を明らかにすることは,量子化学計算に基づく計算化学の目標 として重要なことである.
そのためには,図
1のようなポテ ンシャル表面上の極小点 (EQ),鞍 点 (TS),鞍点と極小点を結ぶ経路 (IRC) を明らかにする必要がある.
EQ は安定な化学種の平衡構造,TS は反応経路上の遷移状態 を表し,
IRC は TS から最大傾斜線に沿って EQ まで下る道筋で固有反応座標と 呼ばれている.
計算化学の国際的教科書『Intro- duction to Computational Chemis-
try』(F. Jensen 著, Wiley, 初版 1999 年) によると, 3 原子を超える系の TS を 計算化学の方法で調べ尽くすことは不可能であるとされていた.しかし,もし も,各平衡点 (EQ) の周囲の反応経路をうまく探索することができれば,反応 経路の全貌 (反応経路網) を調べることができるはずである.以下では,上記 の計算化学の教科書の改訂第 2 版 (2007) に記されている新しい方法,超球面 探索法について紹介する.
まず, TS の探索をうまく進めるために, 平衡点からその周囲に存在する TS に向かってポテンシャル表面を登坂する方法について考えてみよう.
各 EQ には,その周囲に存在する TS から IRC に沿って降りてきた反応経路 がいくつかつながっている.各 IRC は最大傾斜線に沿うものであるから, 逆に EQ から最大傾斜線をたどれば,その EQ の周囲の IRC をすべて見つけられそ うである.ところが,各 EQ につながる最大傾斜線は,IRC 以外にも無数にあ る.このため,最大傾斜線を一つずつ登坂して TS につながる IRC を全部見つ
TS TS TS
TS TS TS
EQ EQ EQ
EQ EQ EQ EQ
EQ EQ
IRC IRC IRC
IRC IRC IRC TS TS TS
IRC IRC IRC
図1 ポテンシャル表面 EQ:平衡構造,TS:遷移状態,IRC:固有 反応座標
けるには無限大の手数がかかり,これは実現不可能である.
EQ において反応経路がどの方向にあるかがわかれば,平衡点周りの探索が できるはずである.最大傾斜線では,無数にある中のどれが IRC であるかを EQ 付近で知る手だてがないのでうまくいかないが,ほかに何か,反応経路の 入り口を指し示す道
みちしるべ標 になるようなものはないのだろうか.
反応経路の道標を見つけるために,代表的なポテンシャル曲線を眺めてみよ う.図
2の中央の EQ から左に登って行くと,結合が切れて解離経路 (DC) に 至る.これは二原子系のポテンシャル曲線と同様である.一方,右に登って TS を越えると結合が組み換わって別の EQ に達する.これは反応の活性化エ ネルギーを考えるときと同様である.図 2 のポテンシャル曲線を見ると,極小 点 (EQ) の近くは下に凸の放物線の形 (調和ポテンシャル) になっているが,
極小点からずれて解離 (DC) や遷移状態 (TS) へ移動するにつれ,反応経路に 沿った実際のポテンシャル曲線は必ず下方にずれている.つまり,実際のポテ ンシャルは,反応が進むにつれ,仮想的な調和ポテンシャルより下方に歪み,
非調和下方歪みを生じている.したがって,極小点から反応経路を探り出すた めには,非調和下方歪みに注目し,それを追跡すればよさそうである.
EQ において,どうすれば非調和下方歪みの大きい方向を見つけられるか考 えてみよう.図 2 では,調和ポテンシャルの曲線が「補助線」として入ってい るので非調和下方歪みが検出しやすくなっている.そこで,非調和下方歪みが
DC
EQ
EQ TS
実際のポテンシャル
仮想的な調和ポテンシャル(放物線)
図2 代表的ポテンシャル曲線と非調和下方歪み(下向きの矢印)
ない場合,すなわちポテンシャルが完全に調和的な放物線の形のポテンシャル 関数を考え,それを基準にして調べてみよう
†1.つまり,調和ポテンシャルを基準にして実際のポテンシャルがどれだけ低くなるかを調べる.このため,調 和ポテンシャルのエネルギー値が一定である曲面 (調和曲面) を考える.調和 曲面上では,ポテンシャルが調和的ならどの場所でもエネルギー値が一定にな るので,この面を基準にすると実際のポテンシャルのエネルギー値がどれだけ 下がっているかの判定が簡単になる.すなわち,調和曲面上で実際のポテン シャルのエネルギー値が極小となる場所が,調和ポテンシャルからの下方への ずれ (非調和下方歪み) が極大になる場所を示す.つまり,反応経路を指し示 す方向の探索が,調和曲面上の実際のポテンシャルの極小を探すことに帰着す る.
調和曲面は,一般に多次元の回転楕円体になる.ここで,楕円は長円ともい うことからわかるように,長軸と短軸の関係を適当に定数倍して調節すると,
まん丸な円に変換できる.分子振動を扱うときに使われる基準座標を用いる と,回転楕円体の軸は基準座標の座標軸に一致する.また,基準座標に対応す る振動の固有値を用いると,回転楕円体の調和曲面を,まん丸な形の超球面に 変換することができる.
このように変換すると, EQ の周囲の反応経路の探索は, EQ を中心とする超 球面上での実際のポテンシャルの極小の探索に帰着する (図
3).超球面の極小は,一つとは限らない.その一つ一つが問題としている化合物の構造の周囲に 存在する化学反応経路に相当する.超球面は閉じた曲面なので,EQ から外に 向かう反応経路が一つ残らず全部囲い込まれている.そこで,超球面の半径を 少しずつ大きくしながら追跡することで,EQ の周りに存在する反応経路への
†1 放物線は頂点からのずれの 2 次関数であり,3 次以上の項を含まない.ポテンシャルの平 衡点では,どの方向の 1 次微分も全部 0 であり,平衡点で数学のテイラー展開を行うと 2 次微分が最初に出てくる.調和ポテンシャルは,2 次の展開係数 (ヘッシアン) だけで決ま る.すなわち,EQ 付近で実際のポテンシャルにぴったり一致する調和ポテンシャルは,
EQ でのテイラー展開の 2 次の項だけを残したものであり,それは 2 次微分から簡単に求 めることができる.
入り口を調べ上げることができ る.
反応経路の入り口が見つかれ ば,その後はそれほど難しくな い.さらに超球面を拡大しなが ら追跡し,実際のポテンシャル のエネルギー値がほぼ一定に (もしくは,含まれる原子のい くつかが離れ離れに) なれば解 離経路 (DC) が見つかり,また,ポテンシャルの 2 次微分が負 (上に凸) の TS 領域に入ったら,TS の探索を開始すればよい.このようにして,一つの EQ の周りに存在する反応経路 (EQ−DC や EQ−TS) を見つけだすことができ る.
一つの化学式のポテンシャル表面上には,いくつかの EQ や TS や DC が存 在し,それらが反応経路で結ばれている.ここで,一つの EQ に着目してみよ う.EQ の周囲はどうなっているであろうか.EQ につながる反応経路として は,EQ−DC か EQ−TS のどちらかであり,それらは 1 種類とは限らない.
EQ−DC は,解離生成物の反応経路にまで踏み込まなければ,そこでおしまい である.一方, EQ−TS の方は, TS を経由してその先の DC または EQ に達す る.別の EQ に達すれば,その EQ の周りにも EQ−DC や EQ−TS の反応経 路が開ける.すると,EQ−TS を通じ
て,反応経路の網の目が広がっていくと 考えられる.すなわち,DC はそこで行 き止まりになるので省略し,EQ と TS の関係だけを模式的に表すと,一つの化 学式の反応経路網は,図
4のようになる であろう.つまり,EQ−TS
―EQ を介 して,多数の EQ と TS を含む反応経路
EQ 反応経路
3
反応経路 1
反応経路 2 超球面 1
超球面 2
図3 非調和下方歪みを追跡する平衡点周り の探索(超球面探索法)
EQ
TS
EQ
EQ
TS
EQ
EQ
TS TS
TS TS EQ TS
図4 反応経路網 EQ:平衡構造,
TS:遷移状態