光ファイバを用いた時間・周波数標準の 供給及び比較技術に関する調査研究
雨宮 正樹
*
(平成16年10月28日受理)
A Survey on Time/Frequency Transfer and Dissemination Techniques Using Optical Fiber
Masaki AMEMIYA
1. はじめに
時間・周波数標準は今日の高度な科学技術,通信技術,
計測技術等々の幅広い分野の発展に大きく寄与する標準 の一つである.周波数f(Hz)と時間,厳密には周期T(sec) は表裏一体であり,f=1/Tの関係であるから正確に一秒 を刻むことと正確な周波数を実現することは等価である.
時間・周波数標準の特長のひとつは格段に高い精度であ り,セシウム原子周波数標準器の一秒の不確かさは10-13 より小さい.また電磁波などの媒体を用いて遠隔地点に 標準を直接供給したり,遠方の標準器との比較を行える という大きな特徴を持っている.
時刻の標準である国際原子時(TAI)や協定世界時
(UTC)は世界中の原子時計の国際比較結果を基に生 成・維持されており,標準器間の定期的な時刻比較が重 要となる.時刻比較技術は古くはオメガやロランCとい った地上の航行用電波信号を仲介とした方式が活用され,
現在ではGPS衛星を用いたCommon-view法や通信衛星を 用いた双方向時刻比較法が用いられ1)-3),UTCの生成に寄 与している.
また,周波数標準の供給においては,これまでのとこ ろ周波数発振器を持ち込む必要があるが,運搬に伴う時 間と手間が必要であり,不確かさの増加要因でもある.
このためGPS衛星を用いた遠隔校正(e-trace)技術の研 究開発が推進されているところである.
一方,通信分野においては光ファイバを用いた高速,
大容量の通信が可能であり,全国に光ファイバが布設さ れ,インターネット,高速データ通信が普及されている.
このような光ファイバ網を活用した時間・周波数標準の
供給及び時刻比較は,衛星方式の代替手段,さらに経済 的な供給技術の実現,またより高精度な時刻比較技術の 可能性を有し開発が期待されている.本調査研究では当 面の課題として光ファイバ通信ネットワークを利用した 経済的な標準供給方法及び将来の原子時計の安定度向上 時に必須となる高精度な比較技術として最新のWDM伝 送,光増幅技術を適用したシステム構成法,可能な精度,
安定度等を調査し明らかにする.
2. 時間,周波数標準の概要
2.1 時系発生維持,時間標準の供給
計測標準研究部門周波数システム研究室においては商 用の原子周波数発振器(原子時計)を用いて当所の協定 世界時UTC(NMIJ)を高精度,高安定に維持するととも に,国内への周波数校正業務を行っている.図1に時系 の生成,維持とその標準の供給の概要を示す.図1に示 すように協定世界時(UTC)は各国の原子時計のデータ を持ち寄り加重平均等々の処理を行って生成されている.
このUTCの生成において各国の原子時計のデータを高 精度で比較することが重要となる.現在の比較法として はGPS衛星や通信衛星が用いられているところであるが,
原子時計の性能向上に伴いより高精度の比較技術のひと つとして光ファイバの適用検討が必要となる.こうして 生 成 さ れ たUTCと 各 国 の 原 子 時 計 と の 位 相 差 で あ る UTC-UTC(k)はCircular TとしてBIPMより毎月公開さ れる.周波数システム研究室ではこの結果をフィードバ ックして周波数のステアリングをAOG(図1)により行 い基準信号を得ている.
また,周波数標準の供給においては,図1に示すようにこ れまでのところ周波数発振器を持ち込む必要があり,運
* 計測標準研究部門 時間周波数科
雨宮正樹
図1 時系発生維持及び時間/周波数標準の供給
搬に伴う時間と手間が必要であり,不確かさの増加要因 因 で も あ る . こ の た めGPS衛 星 を 用 い た 遠 隔 校 正
(e-trace)技術の研究開発が推進されているところである が,より信頼性が高く低コストな供給方法として当所では,
光ファイバ通信ネットワークの活用検討を開始した.
2.2 標準供給上要求される不確かさ,安定度について 発振器の周波数不確かさは発振器の種別により異なるが 一つの特徴として価格や重さ,大きさ,消費電力といった ファクタに比例して性能が向上する傾向がある.図2に示す ように最も廉価な水晶発振器の10-4のオーダから最も高価 なセシウム原子発振器の10-11以下という不確かさのものま で千差万別であり,用途により使い分けられている.
図3は時間標準研究室,周波数システム研究室で持ち込 み校正を実施した状況を示している.最も普及している発 振器は水晶発振器でありシンセサイザー,周波数カウンタ などの基準周波数源にも用いられており依頼試験の結果 からは公称値(10MHz)からの相対偏差として10-9から10-6 となる.またその値の不確かさ(k=2)は1桁から2桁小 さな値で校正されていることがわかる.セシウム原子発振 器の場合では相対偏差は10-14~10-13となるがその不確か さは,偏差と同レベルの10-13という状況である.
図2 発振器の性能比較
図3 周波数校正の状況
物理標準ニーズ調査報告書4)によれば周波数で最も要 求の厳しい不確かさは2×10-11である.また無線通信,放 送に要求される周波数安定度としては地上波ディジタル TVの場合で7.5×10-11である5).さらに現在の光通信シス テムの同期網のクロック精度はITU-Tにおいて10-11以下で ある事が規定されている6).これらのことから周波数標準 の供給としては一桁余裕のある10-12以下の不確かさレベ ルの校正をいかに経済的に提供するかが課題となるとい うことができる.
2.3 各種比較技術,測定法概要
現在時刻比較の最も代表的な方法はGPS衛星を用いた Common-view法である.GPS Common-view法では信号の 擬似ランダム符号(C/AコードまたはPコード)の相関検 出により時刻信号比較を行っておりその精度はnsオーダ で実現されている.従って図4に示すように一日の平均 化時間では10-14オーダのアラン標準偏差での比較が可能 である.またGPS衛星からの信号の搬送波位相を用いる 方式によりサブnsオーダ(一日平均で10-15オーダ)での 高精度な比較が可能となりつつある.さらに衛星双方向 比較においても同様な高精度比較が行われTAIやUTCの 精度や安定度向上に寄与している.
図4 各種比較技術及び測定法の雑音レベル
また周波数の測定法としては大きく二つあり,カウン タによる周波数測定法と時間差測定法が知られている.
それぞれ図4に示すようなシステム雑音特性を有してい る(本測定結果は持ち込み校正に用いている装置での結 果を示している).また高精度測定が可能なDMTD(Dual Mixer Time Difference)法によってAOG装置のシステム 雑音を測定した結果を参考に図4に示す.
3. 通信ネットワークと標準供給上の技術的課題
通信ネットワークの基本構成と周波数標準供給上の技 術的課題を図5に示す.通信ネットワークは3つのレイヤ に大別され,長距離の県間通信を行うラダーネットワー ク,県内の通信を担うリングネットワーク,またユーザ を収容するアクセスネットワークである.各ノードにお い て は 多 重 化 機 能 , ク ロ ス コ ネ ク ト 機 能 あ る い は Add/drop機能が備わった伝送装置が配備されている.こ のためにこれらの装置を通過する度に時間遅延が発生し その影響を考慮する必要がある.
ここでは伝送装置の多重化機能と課題を図6を用いて示 す.複数ユーザの符号化された情報を一本の光ファイバに 多重する方法はTDM(時分割多重)とWDM(波長分割多 重)の二つである.TDMでは情報を一度バッファに蓄えた 後に同期多重化クロック信号により多重される構成であり,
TDMの場合では,送信側でいかに精度の高いクロックを用 いても通信ネットワークのクロック精度以上では送信でき ない.これに対してWDMでは図6のように異なる波長で多 重するために遅延の発生や多重化のためのクロックも必要 無く,時間・周波数標準の供給に適している.
伝送路においても光ファイバの温度による屈折率変動 に伴うワンダと呼ばれる伝播時間変動が生じる.また中 継伝送路では中継数の1/2乗でジッタが累積しこの点も 考慮する必要がある.伝送装置内遅延と伝送路遅延変動 の量を表1にまとめる.
図5 通信ネットワーク構成と標準供給上の技術的課題
図6 TDM(時分割多重)とWDM(波長分割多重)
表1 伝送装置内遅延と伝送路遅延変動
図7 低コスト化のための光ファイバの利用方法の検討
さらに技術的課題に加えて重要となるのは光ファイバ にかかるコストをいかに抑えるかであり,そのために光 ファイバの利用方法が重要となる.複数の校正機関に対 してシングルスター状に配線するとトータルの光ファイ バ長が増大する.そこで図7のようなダブルスター状の 配線が検討に値する.また時間・周波数標準のみならず 他の標準についても多重して回線費を負担し合うといっ たことも検討する必要がある.
雨宮正樹 4. 経済的な時間/周波数標準の供給方法
4.1 通信ネットワークの従属同期網を用いた校正 周波数安定度が1×10-12オーダで比較的,低コストに周 波数供給を行う方法として光通信ネットワークにおける TDM用タイミング信号の従属ネットワークを利用する 方法について検討する.国内の通信ネットワークは図8 に示すような最大4リンクの従属同期網が採用されてい る.従って主局に対してNMIJから直接供給する方法Ⅰと GPS衛星と同様なCommon-view法Ⅱが考えられる.Ⅱの 方法においてはさらに主局の周波数を測定してユーザの 周波数を校正する方法(Ⅱ-1)とリンクの端と端で比較 する方法(Ⅱ-2)が考えられる.このときⅡ-1の方法の 不確かさをσとするとⅡ-2の場合では2σと見積もられ る.またアクセス系の構成法としては図9に示すように 通信ネットワークの加入者収容局(従属局)において周 波数逓倍器を設置し5M,10MHzの信号を供給するType 1 とユーザ側で端末(ONU,DSU)からクロック信号を抽 出し周波数逓倍とPLL等により基準信号を得るType 2が 考えられる.
図8 通信ネットワークの従属同期網を利用した低コスト周波 数供給法
図9 低コスト周波数供給法におけるアクセス系の構成案
4.2 安定度の計算
従属ネットワークにおける位相変動の要因は光ファイ バ伝送路と従属発振器の変動の累積である.ここではま ず光ファイバ伝送路に起因した周波数安定度の劣化を示 す.
光ファイバ多中継伝送路で生じる位相変動は表1に示 したようにジッタとワンダであり,以下個別に計算する.
(1)ジッタによる周波数安定度の劣化
ジッタはクロック再生を行うディジタル中継器や端局 装置で発生し,ビット列のパターンに依存したパターン ジッタとクロック再生回路等の雑音に起因したランダム ジッタである.
図10は光ファイバ多中継伝送路で累積したジッタの 測定系とその結果である.122中継時の累積ジッタは実 効値でφrms=3.5°rmsである.ジッタの実効値φrmsを用いて 時間変動x(t)の標準偏差σxは
360T0
φrms
x =
σ (1)
とあらわされる.ここでT0は伝送速度f0の逆数である.
次に周波数安定度として用いられるアラン標準偏差σy とジッタの関係を記す.白色PM雑音の場合,周波数変動
) (t
y のτ秒平均であるyについて古典的分散σ2
( )
y が求められ,アラン分散はσ2
( )
y の1.5倍になることが知られ ている7).( ) ( )
yy 2 2
2 3σ τ
σ = (2)
さらに白色PMの場合,時間変動も白色であるから,時間 変動x(t)の自己相関関数はτ≠0で零になり,
( )
y σxσ = τ2 (3)
となる.従ってアラン標準偏差σyは
( )
ττ σ
σy 3 x (4)
となる8).ここでσxは式(1)であり,ジッタの実効値φrmsと して測定データφrms=3.5°rmsを用いて伝送速度 f0をパラ メータとして表すと図11となる.ジッタ制限領域は伝送 速度によるが(平均化時間τが103秒以下の場合),従属 局のルビジウム発振器の特性で発振するようなPLLの伝 達関数の設定が行われる.τが104秒を超えるあたりから ルビジウム発振器の安定度が劣化するためにPLLの伝達 関数としては主局のセシウム発振器に追従する伝達関数 の特性が望まれる.この領域では次節(2)の長周期の変動 であるワンダによる劣化を考慮する必要がある.
図10 光ファイバ多中継伝送路におけるタイミングジッタ
図11 光ファイバ伝送路のジッタとワンダによる影響
(2)ワンダによる周波数安定度の劣化
ワンダは周波数としては10Hz以下のゆっくりした変 動成分であり9),光ファイバやケーブルの温度変動に起 因している.ここでは,ワンダの変動周期として日周と 年周を考える.
表1に示した石英ガラスの屈折率温度係数と熱膨張係 数から,1kmあたり,1℃の温度上昇で時間遅れ∆1tは
(
ns/km) (
. .) (
/ C)
t=5×103 × 67+055×10−61 °
∆1
=36ps/km/°C (5)
となる.
温度日周変動の影響
温度変動幅を15℃とすると時間変動∆tは540ps/kmと なる.平均化時間τを半日(43,200秒)として安定度を 求めるとσy=∆t/τ=1.3×10−14km−1となる.
温度年周変動の影響
温度変動幅を25℃とすると時間変動∆tは900ps/kmと なる.平均化時間τを半年(1.56×107秒)として安定度 を求めるとσy=∆t/τ=5.8×10−17km−1となる.
上記の日周と年周の温度変動による安定度の劣化を図 11にプロットする.従属局のPLLの伝達関数特性にもよ るが平均化時間1日でアラン標準偏差σy として1×10-12 オーダが可能な領域がある.
5. 高精度な時間・周波数標準の比較方法
世界のトップレベルの一次周波数標準器の周波数不確 かさは1×10-15オーダで実現され,約10年に1桁のペース で向上されてきていることから究極的な原子泉標準器で は10-16オーダも可能性がある.現在最高の時刻比較精度 である10-15オーダでは比較精度として不十分という時代も来 ることが考えられ,将来に向けより高精度な比較技術の検討 が必要になる.
5.1 双方向時刻比較の原理
双方向時刻比較の原理の一例を図12に示す.ここでは 標準機関1と2の間での原子時計間の時刻差ΔT=T1-T2 を求める場合であり,それぞれから時刻比較用のパルス が送出される.伝送路は衛星を介して行う場合は空間で あり光ファイバの場合もあるがどちらの場合も距離に応 じて伝播時間τだけ遅れて相手に到達する.このため図 12のようにそれぞれの機関で送信パルスと受信パルス の時間間隔t1,t2を測定すると
1 1=∆T+τ
t (6)
2 2=−∆T+τ
t (7)
となる.従ってΔTは式(6)(7)より,
2 2
2 1 2
1 τ τ
∆ =t −t + −
T (8)
として算出される.従って上り下りの伝播時間(群遅延)
が同じであれば(ここで上り下りの用語は両者を区別の ために用いているだけである),式(8)の第2項は相殺され,
精度良く原子時計間の時間差ΔTを求めることができる.
5.2 双方向波長多重光増幅器を用いた時刻比較システム 現在の波長多重(WDM)通信システムでは上り下り用 として2心の光ファイバを用いているために,このシス テムをそのまま用いて時刻比較を行うと上り下りの伝播 時間(群遅延)が異なるために精度が劣化する.
図12 双方向時刻比較方法の原理図
雨宮正樹
そこで,一心双方向でパルス伝送を行うための手段が必 要になる.一心双方向伝送手段としては波長多重を用いる 方法がある10)が光ファイバで減衰した信号の増幅手段が なく,伝送距離に限界が生じる.増幅手段としてはエルビ ウム添加光ファイバや半導体による光増幅器が知られて おり,双方向の増幅が可能である.しかしながら,増幅装 置の入出力部や伝送路中にある光コネクタからの反射に より発振状態となり動作が不安定となることから通常は 光アイソレータを内臓して11)反射光を遮断している.
この光アイソレータの存在により双方向増幅は困難とな る.この点を解決することが第一の課題となる.
この課題を解決するために,上り用と下り用のそれぞ れに異なる波長で一心の光ファイバに多重された光信号 の増幅手段として光アイソレータを内臓しない光増幅器 を用いて双方向の増幅を行わせる.光コネクタからの反 射対策としては,合分波器により上り信号と下り信号を 分離してそれぞれに個別に光アイソレータを設置するこ とにより反射光を遮断する(図13(1)).右側の光コネク タからの反射光(λ1)は光合分波器により上側経路にの み反射されるがこれは光アイソレータにより阻止される.
また左側の光コネクタからの反射光(λ2)は光合分波器 により下側経路に反射されるが同じく光アイソレータに より阻止される.光アイソレータのアイソレーションは 通常品で30dB程度である.また光合分波器のチャネル間 クロストークも通常30dB程度であるから他チャネルへ の反射漏れこみがあっても十分減衰される.さらに合波 器と分波器の2台が直列であることから2倍の反射阻止 効果がある.この原理によりレーザ発振を抑止し安定な 増幅動作が得られる.時刻比較システム全体の構成は図 13(2)に示す.両端で光合分波された後の時刻比較装置の 構成は図12と同様である.また両端に設置した光合分波 器の通過帯域特性の例を図14に示す.式(8)で示したよう に時刻比較システムにおいては上りと下りの信号の伝播 時間を同じにすることが精度の鍵となる.これまで説明 したように物理的には同一の光ファイバと増幅器で構成 されており物理的長さは完全に同一とすることが可能で あるが上り下りの信号の波長が異なることに起因して光 パルスの到着時間差が生じる.
ここでは,Δλだけ波長が異なる光パルスの到着時間 差を示す.
「計算にあたっての条件」
光ファイバ長:L〔km〕
光ファイバの波長分散係数:D〔ps/km/nm〕
波長分散係数の傾き:S0〔ps/km/nm2〕
(4次以上の高次分散を無視し,傾きを直線で近似する)
図13-(1) 双方向光増幅器の基本構成
図13-(2) 双方向光伝送路及びこれを用いた時刻比較システム
図14 一心双方向用光合分波器の通過帯域特性例と光信号の波 長配置例
図15のように光ファイバの零分散波長をλ0として,時刻 比較用の光パルスの波長をλ1,λ2とし,波長分散係数 の波長依存性を直線で近似し,その傾きを図15のように S0〔ps/km/nm2〕とする.このときL〔km〕の長さの光フ ァイバを伝送後の光パルスの到着時間差τdiff(=τ2−τ1)は それぞれの波長における群遅延時間の差として求められ 次式となる12).
( ) ( )
{ }
Ldiff S
2 0 1 2 0 2
2 0
1 λ λ λ λ
τ = − − − (9)
ここでは日本国内の基幹光ファイバ伝送路で広く用いら れている1.55μm零分散ファイバについて到着時間差の 計算例を示す.λ1=λ0 =1550nmとしたときの到着時間 差τdiffは式(9)より
( )
L S Ldiff S
2 0 2
1 2
0 2
1 2
1 λ λ ∆λ
τ = − = (10)
となる.また1.55μm零分散ファイバの分散係数の1.55 μm近傍の傾きは典型的な値として+0.07ps/km/nm2で計
図15 光ファイバの種別と分散・損失特性
図16 波長間隔とパルス伝播時間差の関係
算する.結果を図16に示す.
図16よ り , 例 え ば 波 長 間 隔 Δ λ =5nm( 周 波 数 差 625GHz)である場合(λ2=1555nm)には,到着時間差 は1 ps/kmとなる.このため,比較対象である二つの原子 時 計 間 の 距 離 が100kmで あ る 場 合 に は 到 着 時 間 差 は 100psとなる.
波長間隔を小さくすればするほどτdiff は小さくなり,
それだけ精度の良い時刻比較ができることになる.波長 間隔の限界は光合分波器の通過特性,光源の波長制御特 性等で決まる.現在,国際的には,波長多重伝送システ ム(WDMシステム)の波長間隔は周波数表示で100GHz と50GHz間隔が勧告されている(ITU-T 勧告番号G.692). 従って,現在のWDMシステムと同程度の特性の光部品を 用いると波長間隔0.5nm(周波数差62.5GHz)は容易に実 現 で き る . 図16よ り Δ λ =0.5nmに お け るτdiff /Lは 0.01ps/kmとなる.従って,この場合には伝送距離1万km においても100psの時間差しか生じない.このため日本~
米国の標準機関の原子時計間の時刻比較もサブnsのオー ダで実現できる可能性がある.
さらに図14に示すように上り用の波長と下り用の波長 を光ファイバの零分散波長を中心にいずれか一方の波長
図17 既設海底光ケーブルネットワークと陸揚げ局近くの標準 研究機関の例
図18 海底光ファイバシステムを用いた時刻比較システム案
を短波長側に,片方を長波長側に設定し,それぞれの波 長 と 当 該 零 分 散 波 長 と の 間 隔 を 同 一 , す な わ ち
0 1 0
2−λ = λ −λ
λ となるように波長設定すると式(9)から 明らかなようにτdiff =0となり超高精度な時刻比較シス テム構成の可能性が生じる.
将来的には国際間に布設された海底光ケーブルネット ワークを利用し,図17のように各国の標準機関と結んで 国際比較を行うことが考えられる.この場合,国際海底 ケーブルとの接続は図18のように陸上の1心双方向伝送 との組み合わせにおいて検討を進めることが可能である.
6.まとめ
本調査研究では時間・周波数標準の現状と要求される 不確かさをまず示すとともに,通信ネットワークを用い て標準供給していく上での技術的課題を整理した.
周波数標準を低コストに供給する方法としては光ファ イバ通信ネットワークの従属同期網を利用した構成法を 明らかにし,安定度の計算を行い目標の不確かさで供給 するための条件を示した.また将来の原子時計の安定度 向上時にも対応できる高精度な時刻比較技術として波長 多重双方向技術について調査検討して一つの方向性を示 した.光ファイバ技術は情報を送るために開発されてお り,標準供給や比較のためには技術的に工夫を要する.
雨宮正樹
ここで示した以外にも制度面も含めて検討していく必要 がある.
謝 辞
本調査研究における光ファイバ関連全般に関してご指 導頂いた大嶋新一科長に深謝致します.また時間・周波 数標準の供給と比較技術に関して懇切にご指導頂いた今 江理人室長に深謝致します.また周波数システム研究室 の皆様,時間標準研究室の池上健室長はじめ多くの皆様 からご助言を頂きました,感謝申し上げます.
参考文献
(1) 今江理人「時間・周波数精密比較法」通信総合研究 所季報 Vol.49. Nos.1/2 pp.103-109 (2003).
(2) 今江,木原「周波数と時刻の精密比較・伝送技術の 動向」電学論C,119巻7号,pp.771-776, (平成11年).
(3) M. Imae, M. Hosokawa, K. Imamura, H. Yukawa, Y.
Shibuya, N. Kurihara, “Two-Way Satellite Time and Frequency Transfer Network in Pacific Rim Region”, IEEE trans. Instru. and Meas., Vol. 50, No. 2, pp 559-562, (2001).
(4) 大嶋,杉山「平成14年度 物理標準ニーズ調査報告 書」NMIJ,(平成15年3月).
(5) 甲田正夫「長波JJY利用高安定基準発振器」NICT日 本標準時グループホームページ(http://jjy.nict.go.jp/). (6) ITU-T Recommendation G.824.
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(9) ITU-T Recommendation G.810.
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(12) A.Imaoka and M.Kihara, “Accurate time/frequency transfer method using bidirectional WDM transmission,”
IEEE trans. On Instrumentation and Measurement, Vol.47, No.2, pp.537-542, (April 1998).