青年の「立ち直り」に関する研究 ―ネガティブな反すう傾向と信頼感の視点から― [ PDF
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(2) 「コントロール不可能性」の因 すう傾向」因子が高くても,. 「頼られる」存在であると より「他者から必要とされる」. 子が低い者は高い者に比べて信頼感が強い.. いう「自分への信頼」が低くなり,他者や自分自身を人. 2.方法. よりも信じることができないのではないだろうか.. A 県内の大学生 235 名(男性:45 名, 1) 対象: 女性:190 名),. ②ネガティブな反すうの2因子と信頼感について. 平均年齢 20.04±3.42 歳. ネガティブな反すうの下位尺度の「反すう傾向」 「コン. 2) 手続き. トロール不可能性」の 2 因子も同様に,平均値より高い. ①調査時期:2007 年 11 月. 群をそれぞれ High 群, 低い群をそれぞれ Low 群として,. ②調査内容:ⅰ)ネガティブな反すう尺度(伊藤・上里,2001). その 2 要因の間で信頼感に差があるかどうか検討した結. 6 件法. 「ネガティブな反すう傾向」 「ネガティブな反すうの. 果, 「信頼感全体」では「反すう傾向」(F(1, 231)=4.24,. コントロール不可能性」の2下位尺度 11 項目からなる.ⅱ). p<.05) ,「コントロール不可能性」(F(1, 231)=10.03,. 信頼感尺度(天貝,1995 ; 1997)6 件法. 「自分への信頼」(6. p<.01)にそれぞれ主効果がみられた.また,同様に,信. 項目), 「他人への信頼」(8 項目), 「不信」の 3 側面から測. 頼感尺度の下位尺度 3 因子もそれぞれ検討した結果, 「自. 定し,24 項目からなる.. 分への信頼」では「反すう傾向」(F(1, 231)=4.99, p<.05),. 3.結果と考察. 「コントロール不可能性」(F(1, 231)=13.282, p<.001)そ. 1) ネガティブな反すうと信頼感. れぞれに主効果がみられ, 「他人への信頼」では「コント. ①ネガティブな反すう合計得点と信頼感について. ロール不可能性」(F(1, 231)=13.04, p<.001)に, 「不信」. ネガティブな反すうの合計得点を平均値を基準に 2 群に. では「反すう傾向」(F(1, 231)=3.92, p<.05)に主効果がみ. わけ,その平均値より高い群を High 群,低い群を Low 群. られた.しかし,4 つの検定全てに交互作用はみられな. とし,その両者間で信頼感の差を検討した結果, 「信頼感全. かったため,仮説ⅱは支持されなかった.このことから,. 体得点」(t(233)=-4.138 ,p<.000),下位尺度の「自分への信. 2 因子の高低の組み合わせによって差があるのではなく,. 頼 」 (t(233)=-4.714,p<.000) ,「 他 人 へ の 信 頼 」. 因子それぞれが高低のみが信頼感と関連していることが. (t(233)=-3.249 ,p<.001)「不信」(t(233)=-2.288 ,p<.023)の. 示された.つまり, “反すう傾向”が高い者は信頼感全体,. 全ての項目において,ネガティブな反すう High 群の方が,. 自分への信頼が低く,不信が高いこと,また, “コントロ. Low 群よりも有意に低かった(Figure.1,2).このことから,. ール不可能性”が高い者は信頼感全体,自分への信頼,. 仮説ⅰは支持され,ネガティブな反すうが高い者は,低い. 他人への信頼それぞれ低いということが示された.. 者に比べて,他者や自分自身を安心して信じることが難し. ネガティブな反すう尺度のどちらの因子も信頼感の関. く,頼ることができないことが考えられる.酒井(2005)に. 連があったことから,この尺度全体が信頼感と関連があ. よれば,一般に人は成長するにつれ様々な失敗を積んでい. ると解釈される.その中でも,他人への信頼は, “コント. くため, 「自分は何でもできるかもしれない」という“期待”. ロール不可能性”のみに差がみられた.他者へ新たな関. や“自己効力感”は下降し, 「他者から必要とされる」 「頼. 係を希求することが立ち直り(回復)に必要な要因とされ. られる」存在であると思うことが厳しくなっていくことが. ている(香取,1999 ; Herman,1992)が,他人へ関わるため. 示されている.ネガ. には「嫌なことを考え続ける」ことよりも, 「考え続ける. ティブな反すうが高 い者は,その失敗経. ことをとめることができるか」が重要な視点になると考. 110 *** 105. えられる.. 100. 験というネガティブ. 95. なことを人よりも多. 90. く反すうしてしまう ため,他の人よりも. また,信頼感全体と自分への信頼は,それぞれ「反す High群 Low群. 85. きな差がみられた.これは,ネガティブな反すうを“コ. 80 High群. Low群. Figure.1 ネガティブな反すうHi gh群Low群の 信頼感合計平均値. *. 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0. う傾向」より「コントロール不可能性」のほうがより大. ***. ントロール”できるかどうかが,より信頼感全体や自分 への信頼,他人への信頼に差を生じさせることが考えら れる.伊藤・上里(2003)は,ネガティブな思考の継続性. ***. がうつ状態などの不適応の重要な要因になることを指摘 している.つまり,ネガティブな反すうをしていても, それを「コントロール(統制)が可能かどうか」が不適 High群 Low群. 自己への信頼. 他者への信頼. 不信. Figure.2 ネガティブな反すうHigh群とLow群の 信頼感下位尺度得点の平均値. 応状態へ影響していることが考えられる..
(3) Ⅲ.研究2 1.目的. く,このような『認められる』体験をすることでより自 分自身がプラスに変化するのではないかと考えられた.. 普段の生活の中で経験するネガティブな出来事から立. 一方で「自分が変化しなかった」と答えた者たちは「時. ち直った経験を語ってもらい、そこからどのように立ち直. 間」や「周囲の環境の変化」というきっかけによって立. っていくのか、ネガティブな反すう得点からタイプ分けを. ち直ったと答えていた.青年期は自己を問い直すことが. し,ネガティブな反すうによる立ち直りのあり方の違いを. 必要となり,そのために,自分が今までの過去のことを. 検討する。. 振り返り,見直していくことは意味があるといわれる(無. 2.方法. 藤,1995). 「友人」や「家族」などの対人的な関係は本人. 1) 対象: 研究 1 の質問紙調査を実施した際に募集し協力を. に「好感」や「尊敬」 「信頼」 「反発」など様々な感情を. 得た 19 歳∼29 歳(平均年齢 21.12±2.47 歳)の 14 名(男性. 引き起こし自己のあり方を必然的に振り返る(松井,1996). 1 名,女性 13 名).. が, 「時間」や「周囲の環境」の変化だけでは,自分を振. 2) 手続き: ①調査時期:2007 年 11 月∼12 月. り返るような感情は引き起こされず,自分が主体となっ. ②教示・データの収集法: 1 人 50 分∼60 分程度の半構造. て物事を考えることは難しいのではないかと考えられる.. 化面接. 「今思えば些細なことなのに,当時とても悩んでい. 2) ネガティブ High 群・ Low群による違い. たなと思えること」 「自分が,こんな出来事で悩んだりもし. ①ネガティブな出来事が起こった当時の影響への違い. たけど,立ち直ったなという経験」という教示に対し,自. 落ち込む出来事が起こった当時,ネガティブな反すう. 由な回答を求めた.. Low 群は反すうをしても,原因探しまではせず自分の気. 3) 分析方法: 時間軸に沿って,落ち込んだ出来事が起こった. 持ちと行動を切り替えて行動することができていたのに. 当時,立ち直りへ導いた過程について,それぞれ内容,そ. 対し,High 群は, 「自分がどのように悪かったのか」と. のとき感じたこと,影響(外的・内的変化)について違い. 原因を模索したり,自己のあり方について省みる者が多. を検討した.その際,対象者を研究1で測定した「ネガテ. く,直後の影響として Low 群に比べてより不適応状態を. ィブな反すう尺度」の合計得点の平均値から 2 群に分け,. 現した者が多かった.これは,High 群は反すうしやすく,. その2群の質的な違いを比較した.. それをコントロールすることが難しいため,何度もその. 3.結果と考察. 出来事を振り返ってしまうためと考えられる.天貝. 1) 全体を通して. (2006)は,過去の出来事を“主観的な体験”と捉えるほ. ①立ち直るために「 自分が変化すること」. どその後の適応を妨げるとしている.自己を省みる体験. 全体を振り返って,ほとんどの者が「自分がプラスに変. は,より主観的な体験になっていると考えられ,High 群. 化した」と答えた(11 名).一方「自分が変化しなかった」. は Low 群に比べて,主観的な体験として知覚しやすいた. と答えた者は, 「また同じようなことが起こったら,また落. め,不適応状態へ導きやすいのではないかと推察される.. ち込むんじゃないか」と語った.本研究で用いた「立ち直. Low 群は,High 群に比べてコントロールすることがで. り」を「以前よりもすぐに元に戻れる」という観点から考. きるため,客観的に捉えることができ,出来事によって. 慮した場合, 「また同じようなことが起こったら落ち込む」. 落ち込んでも不適応化をしないのではないだろうか.. と答えた者は,そのような強さまで得ることはできなかっ. ②立ち直りへの過程の違い. たと考えられる.自分が変化することは,自分自身が主導. 出来事が起こり落ち込んでから立ち直るまでの経過に. 権を持って人生を生きるようになり始めていることであり,. ついて,きっかけから「自分が変化した」と感じた中で,. これは Herman(1992)の回復過程の新しい自己を成長させ. High 群は『このままでもいいんだ』 『やればできるんだ』. るという意味の「再結合」に相当すると考えられる.その. など“自分に自信がつく”ことによって立ち直ったと語. ため,自分が変化したと感じることが立ち直りへの必要な. った者が多く, Low 群は「他に好きな人ができた」 「く. 要因であると示唆される.. よくよ考えるのもなんか違う.だから心の持ちようを変. ②自分が変化するきっかけ. えた」など,気持ちそのものを自分の意思で“変化” “切. 「自分がプラスに変化した」と答えた者たちの中でも,. り替え”させることで立ち直ることができていた.これ. 変化するきっかけとなったものとして“周囲からの支え”. は,Low 群の方が High 群よりも,信頼感が高く,コン. が特に自分を変化へ導くきっかけとなっていた.そして,. トロール不可能性も低いため,自分の意思で気持ちを変. その支えによって自分が『誰かに必要とされる』 「いまのま. 化させることができたのではないかと考えられる.反対. まの自分で良いといってくれる」という体験をした者が多. に,High 群は Low 群に比べてコントロール不可能性が.
(4) 高いため,Low 群のように自らの意思で気持ちを切り替え. に,ネガティブな反すうの中でもコントロール不可能性. ることが難しいからではないかと考えられる.また,High. が自分への信頼,他人への信頼に影響を及ぼすことが考. 群は Low 群に比べて信頼感も低く,まず「自信」を見出し. えられる.. 「自己信頼」を高めることで自分が変化したと感じた者が. ( 3) 立ち直りへの過程について. 多かった.つまり,香取(1999)や Herman(1992)が述べて. 以上の結果から,青年が落ち込んだ出来事から立ち直. いる, 「自分はできる」という自己信頼感を高めることは立. る過程について検討した.まず,出来事が起こった当時. ち直り(回復)にまず必要な過程なのではないかというこ. は,ネガティブな反すうの高低によって違いがみられ,. とが,ここでも示されたと解釈される.. ネガティブな反すうの高い者ほど不適応状態へ導かれる ことが示唆された.しかし,立ち直りへ導く過程につい. Ⅳ.総合考察. てはネガティブな反すうの高低に関係なく全体に共通し. ( 1) ネガティブな反すうについて. てみられた部分もあった(Figure3 参照).. ネガティブな反すうが高い者ほどネガティブな出来事が. また,これまでネガティブな経験から立ち直るために. 起こった際に,低い者よりも不適応状態になりやすいとい. 「どうすればいいのか」という研究はされている. うことが示された.ネガティブな反すうは神経症傾向,完. (Herman,19992 ; 香取,1999)が,本研究では,立ち直り. 全主義,メランコリー型性格といった代表的な抑うつの心. への過程を当時の影響とその後立ち直りへ導かれる過程. 理的要因以上にうつ状態を生起させる影響力をもつ可能性. という二つの視点で考察した.その当時どのような影響. があること(伊藤・上里,2001),社会不安障害の認知的側面. を受けて,現在どう影響されているのかといった視点か. と行動的側面に関連すること (城月ら,2007)からも,ネガテ. らも考察することは,自己のあり方についての疑問を解. ィブな反すうがネガティブな出来事が起こった際に不適応. 決するために,これまでを振り返ることが必要な青年期. 状態を導きやすい要因であるということが考えられる.. (無藤,1995)にとって,重要なことではないだろうか.. ( 2) ネ ガティブな反すうのコントロー ル 不可能性と信頼感について 研究 1 では,ネガティブな反すうが信頼感と関連がある. Ⅴ.今後の展望. ことが示され,特に他者への信頼は,反すう傾向の高低に. 本研究では,面接者の数が少なく,さらに男女差に偏. 関係なく,コントロールできるかどうかが問題であること. りがあった.そのため,今回導き出した立ち直りへの過. が示唆された.また,研究2では,立ち直りへ導く過程に. 程が他の人々にも共通するとは言い難い.今後さらに多. おいて,ネガティブな反すうが低い者は自分の気持ちを自. くの人の立ち直りについてみていく必要がある.また,. 身で切り替えることで立ち直ることができるが,ネガティ. 質問紙調査に用いた尺度は現在の状態について尋ねてい. ブな反すうが高い者は,自分に自信を見出すことで立ち直. るが,面接は過去のことについて尋ねた.信頼感など周. ることができると示唆された.このような違いは,ネガテ. 囲の環境や経験によって左右される(天貝,1999)ものは,. ィブな反すうが高い者は信頼感が低いため,まず自分に自. 過去の信頼感と一致するとは考え難い.今回,面接で尋. 信を見出すことが必要であり,ネガティブな反すうが低い. ねた経験は人からの支えによって立ち直ったと語る者が. 者は信頼感が高く,コントロール不可能性も低いため,自. 多かったことからも,過去に比べて現在の方が信頼感は. 信を見出す必要はなく,気持ちを切り替えることのみで立. 高いのではないかと考えられる.今後,信頼感が過去に. ち直ることができたのではないかと考えられる.このよう. 比べてどのように変化しているのか検討する必要がある.. 不適応状態. ネ ガ テ ィ ブ な 反 す う ︵ 高 ︶. ネ ガ テ ィ ブ な 反 す う ︵ 低 ︶. ネ ガ テ ィ ブ な 出 来 事. 出 来事に つ い て 繰 り返 し 考. 何 が 悪か っ た のかに向く. える. ⇒原因帰属. 反すう. 現 実へ切 り 替える. 出来事の 捉え方. そ のと き感 じ た 気 持ち に 向 く ⇒ 現実へ 意 識. 自分に自信が つく. 身体化 自責など. 立 ち 直 り へ の き っ か け. 影響 (変化). 周 囲 か ら の 支 え が 多 い. 問 題 を 解決 す る ための行動 または変化なし. Figure.3. 立ち直りへの過程. 認 め ら れ る 体 験. 自分が 変化. 自 分 の 意 思で 気 持 ち を 切り 替 え ることができる. 立 ち 直 っ た と 感 じ る.
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