要 約 進化医学によると,190万年前に始まったヒト 種としての進化の過程で,約1万年前の農業導入 前までほとんど 99%の時間を,ヒトは運動量の 多い狩猟採集生活をしていたと考えられる.食は, 自生している植物性食品を主体に動物性食品も加 えた雑食性で,この間の身体活動も含めた生活環 境に適応していたと考えられる.従って,ヒトの 遺伝子にこの時代までの生活環境の情報が分子的 記憶として書き込まれていると言える.旧石器時 代までの植物性食を主体とした食物の代謝後には 体内でアルカリ成分が酸性成分より多く生成され 生理的代謝性アルカローシスが生じていたと推 測される.これに対して,現代食は構成食品の特 色から必ず酸生成量がアルカリ生成量を超えるの で,生理的代謝性アシドーシスを惹起する.この 総説では,酸 ‐ 塩基平衡に関する遺伝子上の適 応条件と現代食の代謝後の生理的条件が合致しな い事が高尿酸血症・痛風発症の一要因になりうる ことを議論する.これを基に,従来からのこの疾 患に対する食の介入に新たに酸-塩基平衡の視点 から下記の条件を提案する.1 )食の代謝により 生成される酸負荷を 70 mEq/day 以下とする.2 ) 食材の準備段階で,たんぱく質含量(P)(g表示) とK+含量(K+)(mEq表示)から求めたP/K+比を1.5 以下とする.3 )尿pHは6.0以上にする. 緒 論 高尿酸血症の発症する背景原因として,メタボ リックシンドローム(脂質異常,耐糖能異常,高 血圧),アルコールの過剰摂取等の複合的要因が 挙げられている.これとは独立に,我々は,食 を通じて生体内に酸が余分に負荷され尿 pH が酸 性化すると,高尿酸血症を促進する因子となり うることを明らかにした.従って,食の調整に より尿 pH をアルカリ化すれば,尿酸排泄が促進 され,高尿酸血症が予防もしくは改善される可能 性を見出した(Kanbara et al. (2010 )1),Kanbara et
al. (2012 )2),神原ら(2012 )3)).これを裏付ける ように虎の門病院の報告は,人間ドックにおけ る 21 年間(1985 年~ 2005 年)に渡る延べ 22 万人 余から集めたデータで,尿 pHは1985年から一貫 して酸性化し,2005 年までには,男性では平均 的に5.8から5.4に,女性では6.0から5.5になって いる事を示した.また,血清尿酸値は男性で 5.5 から 6.2mg/dL に,女性では 4.1 から 4.5mg/dL に 上昇している(辻ら(2007 )4)).この間,痛風患 者数(通院中)も 1986 年では男性で 25.4 万人から 2004 年には 87.4 万人に 3.4 倍増加した(平成 16 年 度国民生活基礎調査5)). 高尿酸血症・痛風の様な複合的要因で発症する 疾患について,現代医学が現在機能している臓器 の生理的機構を解析して病因(近因)に迫ろうと しているのに対し,進化医学は,進化の過程で
1 )広島女学院大学 人間生活学部 管理栄養学科 Issei Seyama, Kiyoko Nomura, Rie Shimooka 2 )元広島女学院大学 人間生活学部 管理栄養学科 Aya Takagawa (Kanbara)
3 )安田女子大学 家政学部 管理栄養学科 Masayuki Hakoda キーワード:高尿酸血症,代謝性アシドーシス,食習慣,進化医学 連絡先:瀨山 一正 〒731-5114 広島市佐伯区美鈴が丘西4-4-2 瀨山 一正1) 野村希代子1) 下岡 里英1) 高川(神原)彩2) 箱田 雅之3)
高尿酸血症・痛風の病因の進化医学的考察とそれに基づく予防対策
遺伝子に刻み込まれた分子的記憶が,現在の環 境に適応しているかという観点(遠因)から,解 析を試みて新たな方向性を示している(Nesse et al. (1998 )6),Trevathan(2007 )7),井村(2000 )8)). 190 万年前に始まったヒトの種としての進化の 過程で(Wood et al. (1999 )9)),1 万年前の旧石器 時代まで,ヒトの利用する食材は,植物性食品 を主体に動物性食品を補助的に使うやり方が持続 した(Milton(1993 )10)).食材の内容は,1万年前 の農業・畜産の導入と更に200年前の産業革命に より質的量的に劇的な変化をした.Cordain et al. (2005 )11)は,旧石器時代食が産業革命以降の現 代食でどのように変化したか具体的に提示してい る.それによると,1 )(glycemic Index×炭水化物 量)=glycemic load(糖負荷)が高い,2 )脂肪の摂 取が多いだけでなく,脂肪酸の構成で,飽和脂肪 酸とω-6 脂肪酸が多く,ω-6/ω-3 比が大きい 特徴がある,3 )たんぱく質,炭水化物と脂肪間 でのエネルギー摂取比率は,炭水化物と脂肪で 70%に及び,逆にたんぱく質摂取比率は低くなっ た,4 )微量栄養素の摂取不足,5 )酸-塩基平衡 の酸性側への偏位,6 )Na/K摂取比の増大と7 )食 物繊維の摂取不足という広範な変化である. 進化医学によると,1 )遺伝子に書かれた分子 記憶は,ヒトの種としての進化から農業導入前 の1万年前の旧石器時代までの食と身体活動状況 を含む生活環境に適応する様に構成されている. 2 )過去の生活環境と比較して,上述の様に現代 食の内容が質的にも量的にも大きく変わったこと と日常的に身体活動が大きく低下するという生 活環境の変化が,時間的に短い200年位の間に起 こった.従って,遺伝子に依る適応が出来ず,生 活環境に関する遺伝子に書かれた適応条件と現在 生活習慣による身体的に発生している生理的反応 の間に乖離が生じているといわれている(Eaton et al. (2002 )12)).現代食のために起こった大きな変 化の中に,酸-塩基平衡の酸性側への偏りも挙げ られており,この総説では,この問題を中心に考 えてみたいと思う. 旧石器時代食と現代食の栄養学的比較について 旧石器時代までの食も含めた生活環境の情報を ヒトの遺伝子に分子的記憶として書き込まれてい るのであれば,その食の情報は高尿酸血症・痛風 を予防するための食の介入を考える際の出発点と なりえる.農業の導入される前までの狩猟採集 社会の植物性食品を推測するのは多くの困難が あり,現在でも意見の一致した旧石器時代食の像 が得られているわけではない.しかし,幸いに現 在の狩猟採集社会に関する人類学者達の残した記 録(Truswell(1977 )13),Neel(1977 )14))は, 今 日 まで現代文明から隔絶されたアマゾン内陸部やア フリカのサバンナ地帯やアジアの島嶼部に住む 人々に関するもので,農業による生活環境の変 化を受ける前の旧石器時代のヒトの生活状況を現 在に伝えるものと考えられている.これらの人々 は,自然界に自生している植物性食品を主体に動 物性食品も加えた雑食性で,ヒトが進化的に適応 した食に近いと考えられる.この環境条件につい て人類学的に考察することを意味あるものにして いるもう一つ理由は,ヒトの生理的適応がこの時 代までの生活環境である事を示唆する身体生理学 的所見がえられていることである.即ち,衛生環 境や栄養状態から,先進国の現代人程平均寿命 は長くないが,事故や感染を乗り越えて高齢に達 した人々の間に,現代人の罹患する生活習慣病 (高血圧,心臓血管障害,糖尿病,脂質異常症等) は,見られないか見られても極めて稀である事 (Truswell(1977 )13))と活動している人々の身体 能力(VO2max)が同年齢の先進諸国の人々より高 いことである(Eaton et al. (1988 )15)). Eaton et al. (1988 )15)は,現在まで狩猟採集社会 を構成している5つの部族が摂取している食事の 調査を基にして43種類の野生動物性食品と153種 類の野生植物性食品を組み合わせた旧石器時代食 を作り出した.動物性食品と植物性食品の摂取量 比を 35:65 として 1 日の摂取エネルギーを 3000 kcalとして,旧石器時代食の栄養学的評価を行っ た.旧石器時代食と現代食を比較して以下の様な 特長があることを指摘している.
エネルギー摂取比で 1 )動物性たんぱく質は旧 石器時代食では 33%であったものが現代食では 12%に減少した.2 )炭水化物摂取量は,旧石器 時代食では穀類や精製糖を含まないにもかかわら ず孰れも 46%で差が無かった.3 )脂質は動物性 たんぱく質摂取量が多いにもかかわらず旧石器時 代食の方が 21%で現代食は 42%であった.これ は野生動物の脂質含有量は,体重当たり 3.9%に 対して現代の家畜は 25~30%も含有しているた めである.また,4 )脂質の質も異なり旧石器時 代食では多価不飽和脂肪酸(p)を飽和脂肪酸(s) よりずっとたくさん摂取していた.p:s比では旧 石器時代食は,1.41に対して現代食では0.44であ る.5 )コレステロール摂取量は孰れも同程度(500 ㎎前後)であった.6 )植物性繊維の摂取量は旧石 器時代食は100~150gであるのに対して現代食は, 19.7g で,前者がずっと多い.7 )Na+摂取量は旧 石器時代食では自然の食材からのみ体に入るので 690 mg であるのに対して,現代食では,食塩と して摂取するので2300~6900 mgとなり,後者は 圧倒的に多い.微量栄養素摂取の指標としてCa2+ を用いているが旧石器時代食では 1500~2000 mg に対して,現代食は 740 mg であった.又,ビタ ミン類の摂取指標としてアスコルビン酸を用いて いるがこれも旧石器時代食では 440 mg に対して 現代食は 87.7 mgであった.従って,ミネラルと ビタミン類の微量栄養素は,旧石器時代には十分 摂取されていたと判断している.8 )アルコール 飲料は,利用していたとしても,稀な祝祭時に限 られていた.日常的に栄養学的影響を及ぼすもの ではなかった. Sebastian et al. (2002 )16)は,人類学者が集めた データを利用して,酸生成量の予測も行った.先 程述べたように旧石器時代食の動物性食品と植物 性食品の摂取割合をエネルギー比で35%:65%を 基準として,1日の総エネルギー摂取量を3000kcal とし159種類の旧石器時代食モデルを用いた.後 述の Remer et al. (1995 )17)式を用い,現在の食品 データから旧石器時代食モデルから生成される内 因性酸生成量を計算した.モデル食の全データに おける平均酸生成量は -82mEq/day で,軽度の代 謝性アルカローシスとなり,尿中には重炭酸イオ ンが排泄され尿がアルカリ性になる事が判った. 酸―塩基平衡から見た現代食の問題点について 旧石器時代までに人間が消費していた食品は代 表1.旧石器時代食と現代アメリカ食の食物構成比較† 旧石器時代食 現代アメリカ食 総食事性エネルギー摂取比(%) タンパク質 33 12 炭水化物 46 46 脂 質 21 42 アルコール ~ 0 (7-10)* P:S 比‡ 1.41 0.44 コレステロール(mg) 520 300-500 繊 維(g) 100-150 19.7 ナトリウム(mg) 690 2300-6900 カルシウム(mg) 1500-2000 740 アスコルビン酸(mg) 440 87.7 *アルコール由来のカロリーを加えると,その他の栄養素,主に炭水化物と脂質から相当 量を差し引く必要がある. P:S比‡は,多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比率である. † Eaton et al. (1988)15)
謝後に尿をアルカリ化するのに対して,現代食は 代謝後に尿を酸性化する.その原因を明らかにす るために,Remer et al. (1995 )17)は,各食品に関して, イオン組成とたんぱく質含量のデータから,日常 的に頻用される食品100余種の酸生成量を計算し た.その結果を各食品に関する値のみならず,食 品群別に平均値でも表示した.参考までに平均値 の値を表示すると,脂肪と油脂類は0(mEq/100 g 可食部分),肉類は9.5(mEq/100 g 可食部分),魚 類は7.9(mEq/100 g 可食部分),果物とそのジュー ス類は-3.1 (mEq/100 g 可食部分),穀類の3種(パ ン,製粉,麺類)は平均で 5.7(mEq/100 g 可食部 分),野菜は-2.8(mEq/100 g 可食部分)であること を明らかにした.現代食では,穀類と脂肪・油脂 類や精製糖の摂取エネルギーに占める割合が70% 程度に達する.これらの食品の内,エネルギーの 高い脂肪・油脂類と精製糖は,生理的状態下では 代謝後炭酸ガスと水にまで分解されてしまうが, 穀類は,植物性食品に関わらず,代謝後酸を生成 する.現代食に新たに加わった加工された穀類・ 脂質・精製糖のエネルギー相当分が,旧石器時代 食で動物性の食品と野生の植物性食品から得てい たエネルギーの中から置換され,縮小し,現代食 では量的に少なくなった.そのためたんぱく質性 食品と穀類の代謝後に発生する酸を中和するに足 る植物性食品由来のアルカリ成分が不足すること になり,残余の酸の排泄のため尿は酸性化するこ とになった.日本においては,穀類と脂肪・油脂 類や精製糖の占める摂取エネルギーの内,穀類が エネルギー比率42.2%である(平成26年国民健康・ 栄養調査18))ことから,尿の酸性化に更に加担し ていることが考えられる.従って,尿の酸性化は, 現代食を摂取する限り必然的に生じるものである. 現代食の代謝後に過剰酸が残ることを追認する 様に,Frassetto et al. (2006 )19)は,アメリカにお ける調査結果を基に平均的な食事の食材について Remer et al. (1995 )17)の式を用いて食材からの直 接的な酸生成量を計算すると 48 mEq/day となっ た.現代食の特徴である油脂,精製糖や穀類を, 旧石器時代食に模して同じエネルギー量の野菜や 果物に代換し摂取したと仮定して計算したとこ ろ,生成酸の量は -53 mEq/dayとなりアルカリ成 分が生成されることになった.現代では,旧石器 時代食と比較してアルカリ成分を生成する野菜・ 果物の摂取量が減少し,穀類やたんぱく質源の代 謝で発生する酸が十分中和されなくなり残ること が判った.これまでの議論を通じて明らかになっ たように,現代食を消費している限り,生理的に 酸負荷状態を招くことになると考えられる. 摂取食品の代謝後の生体内酸生成量計算方法について 旧石器時代食の代謝後,酸生成量を計算す る 科 学 的 根 拠 と な っ た 実 験 結 果 は,Lennon et al. (1966 )20)の仕事に依っている.それによると, 生体内酸生成量は尿中に排泄される化学成分分析 から計算できる.即ち,生体内酸生成量は,1 ) 含硫アミノ酸代謝で生じる硫酸と炭水化物や脂 質の不完全燃焼で生じる有機酸の合計である酸 生成成分から 2 )食材の代謝から生じるアルカリ 成 分{([Na+]+[K+]+[Ca2+]+[Mg2+])-([Cl -]+1.8 [PO43 -])}を差し引くことから求められることを 明らかにした.従って,生体内酸生成量は,生体 内酸生成量=({[SO42 -]+[有機酸]}-{([Na+]+[K+]
+[Ca2+]+[Mg2+])-([Cl -]+1.8 [PO43 -])})(mEq /
day)]の計算式となる.計算に必要な生体内に吸 収された各イオンデータを,それぞれの食材に含 まれる各イオン量から糞便中に出たイオン量の差 として実験的に求めた.
Remer et al. (1995 )17)は,上述の Lennon et
al. (1966 )20)の式の運用に伴う糞便のデータの採 集が必要な事等実験上の制約を避け,摂取食材か ら直接的に酸生成量を計算する式を考案した.各 食材に関して,メチオニンとシステインの含有量 から硫酸生成量を計算し,各陽イオン及び陰イ オンの量も食材表から求め,これに各イオンにつ いて腸管からの吸収率を乗じ体内への移行量を算 出した.その結果食材のイオン分析データさえあ れば摂取食材の段階で予測される尿中に排泄され る生体内酸生成量が予測されるだけでなく,ほ ぼ定数として取り扱える有機酸量を取り除いた
式([SO42 -]-{([Na+]+[K+]+[Ca2+]+[Mg2+])- ([Cl -]+1.8 [PO43 -])})(mEq/day)から直接的に 食材自身から生成される酸の量が予測出来ること になった.一方で,尿中酸排泄量は,従来からの 次式{([滴定酸]+[NH4+])-[HCO3 -]}(mEq/day) を用いて求めた. 食による酸負荷の重炭酸緩衝系に及ぼす影響について ―軽度の代謝性アシドーシスの存在の証明― 食による酸負荷は,硫酸を始めとする不揮発性 の酸であり,これが生体の酸-塩基平衡に影響し ているとすると代謝性アシドーシスである.食に よる酸負荷は通常の食生活下では,狭い範囲のH + 濃度(20~120 nmol/day)の変化であるので,医学 上の定義に則って代謝性アシドーシスとして血漿 H+濃度の変化や血漿重炭酸濃度の変化として捕 捉するには,正常値の範囲が広いため難しい.併 しながら,代謝性アシドーシスなので,負荷H + は重炭酸緩衝系で処理され,血漿H +濃度の変化 を最小限に抑制することになる.従って,食によ る酸生成量と血漿H +濃度との間の関係式が正の 相関を持ち,血漿の重炭酸濃度との間では負の相 関を持つと予測される.しかし乍ら,血漿H +濃 度は,2つの因子1 )内因性の酸生成量と2 )血漿 炭酸ガス分圧の影響を共に受けるので,Kurtz et al. (1983 ) 21)は,被験者の炭酸ガス分圧平均値(PaCO2
=38mmHg)の下に,異なる分圧下で集めた血漿 H +濃度と血漿重炭酸濃度のデータを基準化するこ とにより2)その影響を除外して,等炭酸ガス分圧 下で,内因性の酸生成量に対する2つの関係式を 求めた.その結果予測通り体内における酸生成量 (20~120 mmol/day)と血漿H +濃度(36~40 nmole/ L)の間には正の傾斜を持つ関係があり,内因性の 酸生成量と血漿重炭酸濃度(24~26 mmol/L)の関 係は,逆に負の傾斜を持つ関係式が得られた.血 漿H +濃度も血漿重炭酸濃度の孰れの値も医学上は 正常値(高久ら(2002 )22))の範囲内であるが,食 材の代謝により生じた微量の酸が生体内の重炭酸 緩衝系により捕捉され,軽度とはいえ代謝性ア シドーシス状態になっている事が明白になった. 生体内酸生成量と酸排泄量の関係について Lennon et al. (1966 )20)は,論文の中で生体内酸 生成量が 20~120 mEq/day の範囲で変化した時, 生成された酸が,尿中に全て排泄されると述べて いた.しかし,Kurtz et al. (1983 )21)は,この論文 のデータを精査・再検討し,生体内酸生成量が 20~120 mEq/day の範囲で変化した時,生成され た酸が,尿中に全て排泄されたかを再検討した. その結果,生体内酸生成量が 70mEq/day 以上に なると尿中酸排泄量が不足し,生体内に酸が残留 することを明らかにした. 軽微とはいえ代謝性アシドーシス状態にある事 は,人間の進化の過程で獲得した生理的適応の条 件(代謝性アルカローシス)と乖離していることに なる(Eaton et al. (2002 )12)).進化医学の立場から,
Ames et al. (1981 )23),Nesse et al. (1998 )6), 井 村
(2000 )8)は,霊長類がウリカーゼを失活させ,生 理的高尿酸血症状態を作り出したのは,尿酸の持 つ特に高い抗酸化作用を用いて,活性酸素によ る加齢促進作用を打ち消すための進化的適応で あったと指摘している.従って,霊長類は他の哺 乳類と比較して寿命が長いという進化的適応によ る恩恵を享受していると推測した.しかし,尿 酸は抗酸化活性を有する一方,溶解度が低いと いう側面がある.このため,血漿溶解度(7.0mg/ dL)を容易に超え,高尿酸血症を来す.このよう なリスクがありながら尿酸を残すという道が進化 的に選ばれた背景についての missing link は,旧 石器時代の食事にあると言えるのではないであろ うか.すなわち,代謝性アルカローシスを生じた 結果,尿酸排泄が高いレベルに保たれ(Kanbara et al. (2010 )1), Kanbara et al. (2012 )2)),血中尿酸値
が高めに振れるリスクを防止した可能性が考えら れる.現代食では逆に代謝性アシドーシス傾向の ため尿酸排泄が低下した結果,高尿酸血症がより 著明となり,痛風や腎障害などを来す場合が生じ てきたと言える.現代ではその他に,当然旧石器 時代にはほとんど無かったと考えられる肥満や飲 酒が,体液中の尿酸レベル上昇に寄与している訳 であるが,ヒトの生理的高尿酸血症が進化的適応
であるならば,食を調整することで高尿酸血症・ 痛風は予防できる可能性がある.食の調整を如何 にするかが,重要な課題となって来た. 現代食の問題点の克服を目指した食の改良の方向性について 食文化は,長い人類歴史を通じて磨かれてきた ものであるので,今更旧石器時代食に返すことは不 可能である.現在の食の有り様を出来る限り大切に し,現代食の問題点の改善を最小限に絞り込むのが 実効性のある食を通じた高尿酸血症・痛風の予防策 であると考えている.食を通じた酸負荷が70 mEq/ dayを超えると酸排泄量を超え酸が生成され,体 内に酸が残留するので,当面この数字を上限とし て対応を考えて行くのが実際的ではないだろうか. 我々は既に食品を調理する前の段階で,食に含 まれるたんぱく質量とK+量の比(P/K+)(g/mEq) から尿 pH および尿への酸排泄量を予測する方法 を提案している(Frassetto et al. (1998 )24),神原ら (2012 )3)).それによると食を通じた酸負荷が 70 mEq/day の場合 P/K+は 1.5 であり,尿 pH は 6 に 相当する.この目標値は,偶然であるが当学会が 治療指針で示された尿路結石予防のため尿 pH を 6.0以上とするという事項と一致する. 平成26年国民健康・栄養調査18)の結果より,現在 の成人男性のたんぱく質摂取量は67.7gである.P/ K+1.5以下であるためには,K+として45mEq/dayを生 成する植物性食品を摂取すれば,酸負荷が70mEq/ dayを超えることがなく,つまり,酸排泄量を超 え体内に酸が残留する事態は避けることができる. Demigné et al. (2004 )25)は,多くの野菜が,K+とし て平均15mEq/ 新鮮野菜100gを含むことを明らか にしている.この値を用いると,健康日本21(第2 次)26)による野菜の推奨摂取量350 g/dayを達成し た場合,52.5 mEq/dayのK+が摂取できることにな る.この値は,あくまでも生野菜を全部摂取した 時の計算値であるので,実際に適用する場合は, 調理方法による野菜の成分喪失を考慮しなければ ならない.従って,これは,あくまでも目安であり, この値より出来る限り多く摂る必要がある.また, 酸生成食品の内,炭水化物を構成する穀類を精製 度の低い食品に見直すことで酸生成量の抑制を図 る等の工夫が必要であろう. 高尿酸血症・痛風は,メタボリック症候群の様 な複合的要因が密接に関連する事を考慮すると (嶺尾(2008 )27)),旧石器時代食の食材の構成は, 栄養学的に予防的意義が大きなことが解る.即ち, 旧石器時代食は Eaton et al. (1988 )15)が指摘する 様に 1 )摂取脂肪の絶対量が少なく,その上多価 不飽和脂肪酸:飽和脂肪酸比が大きい,2 )植物 性の繊維摂取量が大きい,3 )微量栄養素の種類・ 摂取量が豊富,4 )たんぱく質摂取が多い,5 )ア ルコール摂取量は日常的には皆無に近い等の特 長があり,孰れも生活習慣病関連学会のガイド ラインに掲載される食事指導内容に合致する(メ タボリックシンドローム診断基準検討委員会 他 (2005 )28)).従って,現代食の枠組みの内で,高 尿酸血症・痛風の予防を目指した植物性食品の摂 取量を増やす事及び酸生成量の抑制を目指すこと で,必然的に生活習慣病全般に良い影響を齎すこ とになると考えている. 著者の COI 開示 開示すべき利益相反状態はない. 文 献
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Summary
According to evolutionary medicine, human beings are considered to have lived as exercise ‐ prone hunter-gatherers from the beginning of the homo lineage from 1.9 million years to the upper Paleolithic period of 10 thousand years ago. During this long period of time, hominids as an omnivorous animal relied mainly on plant content and additionally on animal content. After metabolizing upper Paleolithic foods, an alkalizing component remains, causing light metabolic alkalosis, while contemporary diets produce an excess acidic content, causing light metabolic acidosis. Because hominoids adjusted best to their living environment including food and life style until the upper Paleolithic period, the human genome
should have stored the information on these living environments.
We discuss the possibility that the mismatch between genomic information and the physiological responses to contemporary diets might well be one of the reasons for the prevalence of hyperuricemia and gout. Based on this consideration, in the process of dietary intervention to these diseases, principal conditions are as follows : 1) the amount of acid generated from the metabolic degradation of foods should be less than 70 mEq /day ; 2) on planning a menu, the ratio of the total amount of protein (in g) versus potassium (in mEq) should be below 1.5; and 3) the urine pH should be higher than 6.0.
1 )Hiroshima Jogakuin University 2 )Hiroshima Jogakuin University 3 )Yasuda Women's University
Key words:hyperuricemia, metabolic acidosis, dietary habits, evolutionary medicine
Issei Seyama1) Kiyoko Nomura1)
Rie Shimooka1) Aya Takagawa (Kanbara) 2)
Masayuki Hakoda3)