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Ⅳ. 課題別実施成果 - 9 -

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Academic year: 2021

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-① 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの探索 小 課 題 名 ゲノム情報を活用したマイクロサテライト DNA マーカーの大量開発 主担当者 東京海洋大学・坂本 崇, 岡本信明 分担者 水産総合研究センター・菅谷琢磨, 斉藤憲治 1. 課題目標(期間全体) 本課題においては、クロマグロの全ゲノム解析データベースを活用したマイクロサテライト マーカーの開発を行い、その中で、クロマグロ親魚及び人工種苗での親子鑑定が可能なマイク ロサテライトマーカーを選抜するとともに、マイクロサテライトマーカーが 200 座配置された 連鎖地図を作成することを目標とする。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的: 本課題においては、クロマグロの全ゲノム解析データベースを活用し、これまでに収得され たクロマグロゲノム情報の中からマイクロサテライト領域を探索し、PCR プライマーの設計を 行うことを目的とする。さらに、クロマグロのゲノム DNA を用いて PCR を行い、設計した PCR プライマーで増幅されるマイクロサテライト領域の変異性を分析し、親子判定および個体間の 遺伝子解析に有効な遺伝マーカー候補を絞り込むことを目的とする。 方法: 全ゲノム解析が完了したメダカなどのモデル生物のゲノム解析情報を活用するため、クロマ グロの全ゲノム解析データベースの配列情報とメダカ等の配列情報とを比較ゲノム解析する。 比較ゲノム解析には、種間で塩基配列の保存性の高い遺伝子(候補)配列同士を用い、クロマ グロのスキャフォルドにおいて種間で同祖遺伝子の保存性(シンテニー)領域が多いスキャフ ォルドを選抜し、その配列内にあるマイクロサテライト領域を遺伝マーカーの候補として利用 する。複数個体のクロマグロゲノム DNA を用いて PCR を行い、電気泳動法により、設計した PCR プライマーで増幅されるマイクロサテライト領域の多型性を解析し、遺伝マーカーの開発 を開始する。クロマグロの全ゲノム解析データベースを用いたマイクロサテライト領域の探索 については、東京海洋大学と水産総合研究センターが共同で行い、遺伝マーカーの開発につい ては、個体間の遺伝子解析に有効なマイクロサテライトマーカーの開発を東京海洋大学が行い、 特に、まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)等のクロマグロ親魚で親子鑑定が可能なマイク ロサテライトマーカーの開発を水産総合研究センターが行う。 期待される成果: クロマグロの全ゲノム解析データベースのゲノム情報から、他魚種間とシンテニー領域が多 いスキャフォルドに存在するマイクロサテライトマーカーの開発を行うことができる。また、 その中からまぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)のクロマグロ親魚で親子鑑定が可能なマイ クロサテライトマーカーを選抜することができる。 (2) 23 年度成果概要 ・ 約 17000 本のマグロスキャフォールドの中から、内部に推定遺伝子領域が多く存在すると思わ

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れる長いスキャフォルド上位 1000 本(Ba00000001~Ba00001000)を選択した。 ・ 1000 本のスキャフォルドをメダカゲノム情報と比較し、相同性が見られた754 本のスキャ フォルドを選抜した。 ・ スキャフォルド内に存在するマイクロサテライト領域を挟むかたちで、多型解析用 PCR プライマーを約 400 組設計した。 ・ 多型解析用 PCR プライマーを用いて、マグロ個体間における多型性を解析し、これまでに 105 個の DNA マーカーを開発した。 ・ これにより他魚種間とシンテニー領域が多いスキャフォルドに存在するマイクロサテラ イトマーカーの開発を行うことができた。 ・ まぐろ増養殖研究センター(奄美庁舎)のクロマグロ親魚で親子鑑定が可能なマイクロサ テライトマーカーを開発することができた。 ・ 個体間の遺伝子解析に有効なマイクロサテライトマーカーを開発できた。 図 クロマグロスキャフォルドとメダカゲノム情報との比較結果 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 特になし

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-② 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの探索 小 課 題 名 次世代シーケンサーを用いたクロマグロの成熟及び生体防御関連遺伝子の探索 主担当者 水産総合研究センター・清水昭男 分担者 水産総合研究センター・馬久地みゆき, 尾島信彦, 安池元重, 菅谷琢磨, 藤原篤 志,中村洋路, 玄 浩一郎, 二階堂英城, 久門一紀, 西 明文, 田中庸介, 江場岳史, 樋口健太郎, 塩澤 聡, 岡 雅一, 風藤行紀, 高志利宣 東京海洋大学・廣野育生, 近藤秀裕, 青木 宙 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 神村祐司, 小野寺 純 1. 課題目標(期間全体) 次世代シーケンサーを用いてクロマグロの成熟および生体防御関連組織における発現遺伝子 の網羅的な解析を行い、発現遺伝子情報を整備し、カタログ化を行う。この情報を基に DNA マ イクロアレイを開発し、成熟度の異なる個体間および病原微生物への感受性の異なる個体間で の遺伝子発現パターン比較を行い、成熟および生体防御関連遺伝子を同定する。さらに、成熟 においては成熟度をより詳細かつ適切に把握するための成熟関連遺伝子マーカーを探索すると ともに、生体防御においては耐病性に関連する DNA マーカーを探索する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:次世代シーケンサーを用いたクロマグロの成熟および生体防御関連組織における発現遺 伝子の網羅的解析 方法: 成熟および生体防御関連遺伝子の発現情報を大量に入手するため、水産総合研究セン ターにおいて成熟および生体防御関連組織における cDNA ライブラリーを作製する。次世代シ ーケンサーを用いて発現遺伝子を網羅的に解析し、カタログ化に向けた情報収集を行う。また、 東京海洋大学では仔稚魚期における生体防御関連遺伝子の発現パターンの分析に向けて RNA 抽出および cDNA ライブラリー作製手法の検討を行う。さらに、水産総合研究センターおよび 奄美養魚では、天然由来の親魚群の成熟調査を行い、人工養成親魚の育成のため人工種苗を生 産し、継続飼育する。 期待される成果:クロマグロの成熟および生体防御に関連する遺伝子群を網羅的に解析するこ とでマーカー探索の基盤となる情報を取得できる。 (2) 23 年度成果概要 水産総合研究センター西海区水産研究所奄美庁舎で飼育されている 7 歳メスのクロマグロの性 成熟期(7 月)および未成熟期(12 月)の視床下部、脳下垂体、卵巣より RNA を抽出し、cDNA ライブラリーを作製した。視床下部及び脳下垂体より得た cDNA ライブラリーについて、次世代 シーケンサーを用いてシーケンスを解析し、アセンブルを行った。 視床下部 cDNA ライブラリーからは約 54 Mbの塩基配列データ、11 万個の配列断片を得た。 次にこれらをアセンブルし 3,270 個の cDNA コンティグを得た。さらに、脳下垂体の cDNA ライ ブラリーからは約 53 Mbの塩基配列データ、10 万個の配列断片を得た。視床下部ライブラリー と同様にアセンブルし 1,701 個のコンティグを得た。また卵巣よりは約 59 Mbの塩基配列デー タ、14 万個の配列断片を得た。同様にアセンブルし 3936 個のコンティグを得た。

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得られた情報をもとに、生体防御関連遺伝子を含む約 4 万種類の遺伝子領域の配列をスポットし た試作バージョンのクロマグロ DNA マイクロアレイを開発した。その開発した DNA マイクロア レイの有効性を評価するために、3 種類の免疫賦活剤(LPS、PHA および poly I:C)で刺激したク ロマグロ白血球を用いて網羅的な遺伝子発現解析を行った。仔稚魚期における網羅的な生体防御 関連遺伝子の発現動態を調べるために、孵化後 1 日目から 10 日目,13 日目、15 日目および 25 日目のクロマグロ仔稚魚を回収し、それぞれの経過日数における仔稚魚の形態を観察した。孵化 後 1 日齢から 13 日齢までは 20~40 尾をプールし、孵化後 15 日齢では 5 尾をプールして全 RNA を抽出した。また、25 日齢については 1 尾から全 RNA を抽出した。得られた RNA サンプルか ら cRNA を合成し、試作バージョンの DNA マイクロアレイを用いて網羅的な遺伝子発現解析を 行った。3 種類の免疫賦活剤で刺激したクロマグロ白血球を用いたマイクロアレイ解析の結果、 それぞれの免疫賦活剤に特異的に発現変動する遺伝子を同定することができ、その特異的に発現 変動する遺伝子の中には既知の免疫パスウェイにマップされるものも多く含まれていた。このこ とから、今回開発したクロマグロ DNA マイクロアレイはクロマグロの免疫システムの解明に利 用できることが示された。仔稚魚期のマイクロアレイ解析により、約 28,000 遺伝子の各発生段階 における遺伝子発現パターンが明らかとなった。非特異的な免疫応答に関与する補体因子 C1q お よび C タイプレクチン遺伝子は比較的発生の初期段階である孵化後 3~5 日齢から発現が上昇し ていた。一方で、抗原特異的な免疫応答に関わる MHC class II、免疫グロブリン軽鎖、T 細胞レ セプター関連遺伝子では、孵化後 25 日齢において強い発現上昇がみられた。このことから、ク ロマグロ発生初期では非特異的な免疫機構が重要な役割を担っており、孵化後 25 日齢程で抗原 特異的な免疫機構が成立すると考えられた。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 ポスター発表:

Yasuike M, Fujiwara A, Nakamura Y, Kato G, Kondo H, Hirono I and Sano M, Functional genomics of the bluefin tuna: Development of a 44K oligonucleotide microarray from whole-genome sequencing data for global transcriptome analysis, Plant & Animal Genome XX Conference.

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-③ 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの開発 小 課 題 名 稚魚期生残に影響を及ぼす生理学的・栄養学的関連遺伝子の探索 主担当者 福山大学・伏見 浩 分担者 甲子園大学・川合眞一郎 鹿児島大学・小谷知也, 越塩俊介, 石川学, 横山佐一郎 東京海洋大学・佐藤秀一, 有元貴文, 芳賀穣 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野孝, 伊藤暁, 小野寺純, 神村祐司 水産総合研究センター・馬久地みゆき, 尾島信彦, 安池元重, 菅谷琢磨 1 課題目標(期間全体) 仔稚魚期のクロマグロ人工種苗について、次世代型シーケンサーによる成長ステージ別の網羅 的遺伝子発現解析を行うことによって発現する遺伝子をカタログ化し、DNA、マイクロアレイ を完成する。さらに、仔稚魚期の高生残を達成する栄養条件と生残、体形成、生理活性および 行動との関連性を把握するための試験手法を完成させる。この手法に基づき生産した仔稚魚を 用いて飼育試験での固体別発現遺伝子解析を行い、仔稚魚期の高生残マーカーを開発する。 2 課題実施計画 (1) 23 年度計画 目的:仔稚魚期のクロマグロ人工種苗について発現遺伝子をカタログ化するとともに DNA マ イクロアレイの開発に着手する。また、仔稚魚期の栄養条件と生残、体形成、生理活性および 行動との関連性を把握するための飼育試験手法を検討するとともに、飼育試験での固体別の発 現遺伝子解析手法について検討する。 方法:大型水槽を用いた種苗生産試験から発育ステージ別のサンプルを採取し(マルハニチロ 水産・奄美養魚)、次世代型シーケンサーを用いて網羅的な遺伝子発現解析を行い、発現遺伝子 をカタログ化するとともに DNA マイクロアレイの開発を行う(中央水研)。また、初期生物餌 料シオミズツボワムシの DHA 含量を変えた飼育実験(福山大・奄美養魚)とふ化仔魚およびミ ンチに代替する配合飼料を用いた飼育実験(海洋大)を行い、クロマグロ仔魚の発育初期にお ける栄養条件(福山大・海洋大・鹿児島大)と生残、体形成(福山大・鹿児島大・海洋大)、生 理活性(甲子園大)および行動(海洋大)との関連性を把握するための飼育試験手法を検討す る(福山大)。 期待される成果: クロマグロ人工種苗の仔稚魚期における発現遺伝子のカタログ化が可能になり、DNA マイク ロアレイ分析の可能性が拓かれる。生物餌料摂餌期およびそれ以降の栄養条件が生残、体形成、 生理活性、および行動に及ぼす影響を把握するための飼育試験方法が検討される。 (2)23 年度成果概要 ㈲奄美養魚のふ化場で天然および人工種苗由来親魚から得た受精卵を用いてクロマグロの種 苗生産を4回次にわたって行い、各回次から発育、体成分分析、消化酵素活性、視覚機能、およ び家系組成分析のために必要十分な量のサンプルを採取した。各サンプルはそれぞれ所定の方法 に従って処理し、各機関に送付した。 クロマグロ仔稚魚の発現遺伝子のカタログ化を行うため、受精卵、孵化仔魚および日齢 25 日

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目までの仔稚魚のサンプルから RNA を抽出し、全てをプールして次世代シーケンサー(Roche 454 GS FLX)による分析を行った。その結果、全体で約 185Mb の塩基配列情報が入手でき、約 7400 個の遺伝子の情報が得られた。 小型水槽を用いた飼育実験を奄美養魚と福山大で行い、ワムシ中の DHA 含量などの栄養条件 あるいは飼育条件を変えた初期飼育実験が可能になりつつある。 脂質の利用のされ方を検討するため、エネルギー源として使われる中性脂質 NL と細胞膜構成 成分である極性脂質 PL 中の DHA 含量を調べた。餌料中の NL と PL の比は餌料生物によって異 なることを見出した。また、クロマグロ仔魚の脂質中では PL は 60~70%を占めた。 透明化二重染色法を用いてクロマグロ仔魚の骨格形成とその異常発現時期を調べ、ワムシ摂餌 期に主要な骨格系が形成されることが明らかになった。体形異常の発現防止のために、ワムシの 栄養改善が重要であることが明らかになった。水槽壁に衝突したために生じたと思われてきた骨 格異常が餌料性の異常である可能性を見出した。これらの骨格異常はワムシ摂餌期に発現してい ることから、ワムシ中のタウリン、リン脂質およびビタミン A の機能を明らかにする必要がある。 消化酵素活性と酸素消費量の変化から、7~10 日齢の仔魚の健康状態を改善する必要がある。正常 な遊泳を行っている個体を健常魚、水槽壁付近をふらふら泳いでいる個体を非健常魚とすると、 非健常魚の消化酵素活性は健常魚よりも低かった。したがって、消化酵素活性を健康状態の指標 として用いうることが明らかになった。 ふ化後約 1 ヶ月、全長 50mm の稚魚の遊泳行動をビデオ録画した。群れの主体は水槽の中央を 周回遊泳し,5-10TL/s の速度で移動し続けた。群れから外れたり,壁に接触して遊泳するような 異常行動は 5TL/s 以下の遅い速度での遊泳が多く、壁に衝突した際の観察例では,0.23 秒で全長 の 5 倍の距離を前進し,瞬間的に異常な高速遊泳をしていることが確認された。飼育水槽壁付近 での異常行動は非健常個体によるものと推察された。 3.今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 口頭発表: 井手伸一郎・松尾美土里・佐藤秀一・芳賀 穣・神村祐司・斎藤 誠・赤澤敦司・川本智彦・鎮原正 治・古西健二・小野寺純・伏見 浩・伊藤 暁・草野孝. クロマグロ仔・稚魚の体組成 に及ぼすタウリン・DHA 強 化生物餌料の影響, 平成 24 年度日本水産学会春季大会. 川合真一郎、黒川優子、藤井あや、張野宏也、神村祐司、神村祐司・斎藤 誠・赤澤敦司・川本智彦・ 鎮原正治・古西健二・小野寺純・伏見 浩、草野孝. 消化酵素活性から見たクロマグロ 仔稚魚の健苗性, 平成 24 年度日本水産学会春季大会 宮嶋 暁・伏見浩・小谷知也・佐藤信光・神村祐司・斎藤 誠・赤澤敦司・川本智彦・鎮原正治・古 西健二・小野寺純・伊藤暁・草野孝. 試作栄養強化剤を用いたヒラメ仔魚のワムシ中の DHA 要求量の検討, 平成 24 年度日本水産学会春季大会. 工藤尊世・有元貴文・伏見 浩・神村祐司・赤澤 敦司, 養殖クロマグロ稚魚の遊泳特性と異常行動の 出現について, 平成 24 年度日本水産学会春季大会.

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課題別実施成果 課 題 番 号 1-④ 事業実施期間 平成23 年度 中 課 題 名 ゲノム情報等を活用した DNA マーカーの開発 小 課 題 名 近縁モデル魚種を用いた早期成熟関連遺伝子の探索 主担当者 水産総合研究センター・奥澤公一 分担者 水産総合研究センター・濱田和久, 風藤行紀, 高志利宣, 馬久地みゆき, 尾 島 信 彦, 清水昭男, 中村洋路, 菅谷琢磨, 岡 雅一, 玄 浩一郎, 二階堂英 城 九州大学・松山倫也 長崎大学・征矢野 清 1. 課題目標(期間全体) クロマグロに近縁で、より精密な成熟コントロールが可能となっている魚種であるカンパチお よびマサバを材料として、次世代シーケンサー等を用いて脳下垂体、生殖腺などの各組織で発 現する遺伝子の解析を行い、早期成熟個体と通常個体との間で発現パターンが異なる遺伝子を 探索する。次に、クロマグロゲノムデータベースにおいてバイオインフォマティクス分析を行 い、近縁魚種で検出された遺伝子と相同な成熟関連候補遺伝子を探索する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的: 次世代シーケンサーを用いてカンパチ及びマサバの組織別の発現遺伝子のカタログ化 を行う。また、既知の成熟関連遺伝子及びホルモンについて、生殖腺の発達に伴う発現量の動 態を分析する。 方法: カンパチおよびマサバの脳下垂体、生殖腺などの組織からRNAを抽出しそこからc DNAを合成する。次に次世代シークエンサーを用いてこのcDNAの塩基配列を決定し、両 種の各組織で発現している遺伝子の情報を集めてカタログ化する。この発現遺伝子のカタログ 化は水産総合研究センターが実施する。一方で、水研センターにおいてカンパチを、九州大学 においてマサバを継続飼育し、様々な成熟状態の魚から各組織および血液を採取して成熟度を 把握するとともに、各組織で発現している既知の成熟関連遺伝子のクローニングを実施する。 この一連の分析は、マサバについては九州大学が、カンパチは長崎大学が実施する。 期待される成果: 初回成熟に関連する未知の遺伝子探索の基盤となる近縁種各組織の発現遺 伝子の概要版カタログが得られる。未知遺伝子探索における成熟度の基準となる生殖腺の状態 やホルモン動態が解明される。また、初回成熟に関係する遺伝子発現パスウエイの核となる既 知遺伝子がクローニングされる。 (2) 23 年度成果概要 マサバの発現遺伝子カタログ化: いろいろな成熟段階にあるマサバ(0歳魚)の脳と脳下垂 体からcDNAライブラリーを作製し、次世代シーケンサーを用いて解析したところ、脳およ び脳下垂体からそれぞれ約12,000 個、約 11,000 個の遺伝子を得た。このうち脳では 43%、脳下 垂体では65%が既知の遺伝子配列との類似性が認められず、新規遺伝子の可能性が示唆された。 また脳では26%、脳下垂体では 37%の遺伝子についてはその特徴や機能についてのデータが得 られた。

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カンパチの発現遺伝子カタログ化: 水研センターにおいて飼育した未熟および成熟カンパチ (4 歳魚、雌)の脳下垂体と卵巣のcDNAライブラリーを作製し、次世代シーケンサーを用い て解析した。脳下垂体からは185 個、卵巣からは 1,100 個の遺伝子を得た。脳下垂体では 80%、 卵巣では74%の遺伝子が既知遺伝子との類似性が低かった。脳下垂体で 16%、卵巣で 27%につ いては遺伝子についての情報が得られた。以上、本年度にマサバおよびカンパチで実施した次 世代シークエンサーによる解析の結果、生殖関連組織で発現している遺伝子をカタログ化する ことができた。 マサバの成熟度の把握と既知の成熟関連遺伝子の発現解析: 2010 年 5 月に人工受精により 生まれたマサバを2011 年 7 月まで飼育し、その間、計 27 回(計 170 尾)サンプリングした。 採取した個体の生殖腺の組織学的観察を行い、発達過程を明らかにした。孵化後60 日の卵巣に おいて、第一次成長期の卵母細胞が確認された。卵黄の蓄積は12 月初旬に始まり、翌年 5 月に は全ての雌個体が卵黄形成後期の卵巣をもっていた。雄では、12 月下旬以降に精子が確認され、 翌年 5 月には排精期の個体が大部分を占めた。以上、孵化から飼育したマサバの生殖腺発達過 程が明らかになるとともに、養成マサバは満1年で初回成熟に達することが確認された。 つぎに各成熟段階にある雌マサバ脳下垂体における生殖腺刺激ホ ルモン(GTH)遺伝子(GPα、FSHβ およびLHβ)の定量P CRによる発現解析を行った。FSHβ は、卵黄形成中(EVおよ びLV)、既に高い値を維持していた(図1中段)。GPα およびL Hβ は卵黄形成後期(LV)でピークとなった(図1上段および下 段)。さらに3 種サブユニット全てで発現量は産卵期終了後(PS) に低下した。これらの結果は、今後の早期成熟関連遺伝子探索の指 標として活用できると考えられる。 カンパチの成熟度の把握と既知の成熟関連遺伝子のクローニン グ: 水産総合研究センター増養殖研究所古満目庁舎の海上網生け 簀において自然条件で飼育しているカンパチ(3 歳および 4 歳)を 2011 年 7,9、11、12 月および 2012 年 1 月にサンプリングし、生殖 腺の状態を把握した。カンパチはこの間未熟な状態にとどまった。 また、カンパチ脳下垂体からGTH遺伝子(FSHβ およびLHβ) をクローニングし、定量 PCRによる測定系を構築した。次年度も 定期的なサンプリングを継続し、この測定系を利用して発現量の変 化を調べる予定である。 図 1. 各成熟段階における マサバGTH遺伝子各サブユ ニットの発現量変化 IM, 未熟; EV,卵黄形成初 期; LV, 卵黄形成後期; PS, 産卵後 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表

Nyuji M, Shimizu A, Matsuyama M, et al. (2011) Immunoreactive changes in pituitary FSH and LH cells during seasonal reproductive and spawning cycles of female chub mackerel Scomber japonicus. Fish. Sci., 77, 731-739.

Nyuji M, Shimizu A, Matsuyama M, et al. (2011) Changes in the expression of pituitary gonadotropin subunits during reproductive cycle of multiple spawning female chub mackerel Scomber japonicus. Fish Physiol. Biochem., DOI 10.1007/s10695-011-9576-y

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-①-1 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための DNA マーカーの開発 小 課 題 名 種苗期の高生残 DNA マーカーの開発 主担当者 水産総合研究センター・菅谷 琢磨 分担者 水産総合研究センター・久門一紀, 田中庸介, 西 明文, 江場岳史, 樋口健太郎, 二階堂英城, 塩沢 聡, 高志利宣, 岡 雅一, 斉藤憲治 1. 課題目標(期間全体) 人工種苗生産過程において、経時的な生残の調査および1-①で開発した DNA マーカーを用 いた家系解析を実施し、生残とマーカーとの関連性を分析することによって有効なマーカーを 探索する。F1 自然交配による F2 種苗生産過程でも同様な調査を実施し、より詳細な分析を行 い、マーカーを選別する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:取りあげ時までの人工種苗の生残率の変化の分析と DNA サンプルの入手 方法:天然親魚に由来する人工種苗について、水槽収容時から取りあげ時までの全体的な生残 率を把握するとともに、卵、孵化仔魚、仔稚魚のサンプリングを実施して平成 24 年度以降の家 系判別分析に必要な DNA サンプルを入手する。孵化仔魚から仔稚魚までのサンプリングは餌料 系列(ワムシ、孵化仔魚、ミンチ給餌期)に沿って行う。 期待される成果:家系別の生残率の解析に必要な DNA サンプルが入手できる。また、水槽別 に生残率が大きく変化する時期を把握することで、平成 24 年度以降に重点的に解析すべき DNA サンプルを選別することができる。 (2) 23 年度成果概要 今年度は、7 月 8 日から 9 月 26 日にかけ、水研センター奄美庁舎の延べ 12 面の 50m3水槽に おいて、3 ロットの天然親魚由来の受精卵を用いて種苗生産を行った。飼育初期には 2~3 日お きに約 20 個体について全長および体長の測定を行い、測定時の最小個体が 7mm を超えるまで はシオミズツボワムシを、それ以降はハマフエフキの孵化仔魚を給餌した。次いで、17~30 日 齢の間にアルテミアを給餌し、全長 20~25mm となった時期から冷凍イカナゴシラスの細片を 与えた。また、12 日齢までは沈降死を防ぐため、24 時間照明を行った。 家系判別用のサンプルについては 2 つの生産ロット(12 面のうち 5 面)の水槽から採取に成 功し、採取尾数は、孵化仔魚、15~18 日齢(ワムシから孵化仔魚への餌料の切り替わり時期) および 32~38 日齢(取りあげ時)にそれぞれ 1500 以上、1500 および 305 であった(表 1)。サン プリングを実施した水槽では、概ね良好な飼育が行われており、最終的な生残率は 0.38~0.66% であった(表 1)。また、各水槽における仔稚魚の全長の推移を観察した結果、いずれにおいて も、20 日齢以降に成長速度が上昇し、全長の分散が大きくなる傾向が見られた。特に、3R-2 お よび 4 の生産ロットでは採取したサンプルの体長組成が正規分布に近似できず、必ずしも全て の個体が同一の条件下で生活していない可能性が考えられた。

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生産ロット (採卵日)親魚 飼育期間(日数) 生残率(%) 収容尾数(万尾) 生産尾数(尾) サンプル 1R-1 奄美養魚 (7/8) 7/10-8/11 (32) 0.66 28.8 1,904 孵化仔魚:500尾以上 15日齢:500尾 32日齢:105尾 3R-2 2006年級群 (8/17) 8/19-9/22 (35) 0.68 56.2 3,782 孵化仔魚:500尾以上 18日齢:500尾 35日齢:100尾 3R-4 2006年級群 (8/18) 8/18-9/26 (38) 0.38 56.2 2149.0 孵化仔魚:500尾以上 18日齢:500尾 38日齢:100尾 表1 家系判別用サンプルを採集した生産ロットの親魚, 飼育期間, 飼育尾数および生残率 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 なし

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-①-2 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 名 親魚選抜のための DNA マーカーの開発 小 課 題 名 種苗期の高生残 DNA マーカーの開発 主担当者 福山大学・伏見 浩 分担者 水研センター・菅谷琢磨, 斉藤憲治 甲子園大学・川合眞一郎 鹿児島大学・越塩俊介, 石川学, 小谷知也, 横山佐一郎 東京海洋大学・佐藤秀一, 芳賀穣, 有本貴文 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野孝, 伊藤暁, 小野寺純, 神村祐司 1 課題目標(期間全体) クロマグロ人工種苗について量産飼育水槽中および沖だし後の海面生け簀中の家系判別を 行い、高生残家系の探索を行う。また、沖だし後の稚魚の栄養条件と、生残、体形成、生理活 性および行動との関連性を検討し、高生残家系を探索する。これらを通じて親魚選抜のための 高生残家系に関する DNA マーカーを開発する。 2 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的: 沖だし後の稚魚の栄養条件と生残、体形成、生理活性および行動との関連性を把握し、各条 件下での高生残家系の探索を行う。 方法: 量産飼育水槽および沖だし生け簀から経時的なサンプリングを行い(マルハニチロ・奄美養 魚)、家系分析を行う(水研センター)。また、沖だし後の稚魚の栄養条件を変えた飼育を行い (マルハニチロ・奄美養魚、鹿児島大)、栄養条件と生残(マルハニチロ・奄美養魚、鹿児島 大)、体形成(海洋大、福山大)、生理活性(甲子園大)および行動(海洋大)との関連性を把 握するとともに各条件下での高生残家系の探索を行う(水研センター)。 期待される成果: 種苗の量産過程と沖だし後の育成に及ぼす家系の影響を判別する手法を開発する。また、沖 だし後の栄養条件が生残、体形成、生理活性および行動に及ぼす影響を把握する方法とそれと 家系との関連を検討する手法を開発する。 (2)23 年度成果概要 沖出し後の稚魚の栄養条件と生残、体形成、生理活性、および行動との関連性を把握するため ㈲奄美養魚で行ったクロマグロ仔魚の飼育から必要なサンプルを採取し、各機関に分析のために 送付した。本年は、人工生産魚由来親魚から得た受精卵を用いて 3 回次、天然親魚由来受精卵を 用いて 1 回次の種苗生産を行い、3 回次から沖出し稚魚を生産した。これらは全て人工生産親魚 由来の受精卵による完全養殖魚であった。 クロマグロ人工種苗の量産飼育水槽から約 10 日おきにサンプリングを行い、約 1000 尾の家系 分析用の稚魚が入手された。また、受精卵から DNA が抽出され、既存の 5 つのマイクロサテラ イトマーカーにおけるアリル型が把握できた。

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市販の強化剤でワムシおよびアルテミアに DHA およびタウリンを強化し,DHA およびタウリ ンを含有させることができた。仔魚のタウリン含量は、第1ラウンドでは,やや減少傾向にあっ た(16DPH)。一方,第 2 ラウンドでは、ふ化後 10 目付近で減少することはなく,タウリンはや や増加傾向であった。衰弱個体,死亡個体および異常個体ではタウリンの含有量がほぼ半分にな っていた。その他のアミノ酸については,やや減少傾向がみられた。クロマグロ仔稚魚の粗タン パク質含量は、孵化後徐々に増加し、30 日齢以降は 18~19%となった。死亡個体や非健常個体の 粗タンパク質含量は健常個体と比較して差はみられなったが、衰弱個体で若干低下していた。 沖出し時の非健常個体では、明らかに、トリプシンやキモトリプシン活性が低く、これらの酵 素が稚魚の健康状態の指標になり得ることを確認した。 クロマグロ沖出し後の稚魚(平均体重 127.1g)全魚体の平均総脂質含量は 9.8%(乾重量)を示 した。脂質クラスは中性脂質(NL)よりも極性脂質(PL)が高い含量を示し、平均 NL/PL 比は 0.44 であった。NL 画分中の EPA および DHA はそれぞれ 3.58%および 6.23%(総脂肪酸に対す る%)で、PL 画分中の EPA および DHA は 8.25%および 13.39%となり、体脂質中 PL 画分の EPA および DHA の割合は NL 画分よりも高い値を示した。 日齢 100 日,全長 360~380mm の 3 個体について,魚体の吻端からの距離別に垂直断面で切断 し,デジタルカメラで各断面,及び胸鰭と尾鰭について撮影した。鹿児島・三重・高知で採取さ れた全長 220~378mm の天然ヨコワ 6 個体について,同様に計測・解析を行った。筋肉断面積は 吻端から全長の 40-50%の位置で最大となり、同じ大きさの天然ヨコワに対して養殖個体で 1.17 ~1.48 倍になった。その位置で普通筋と血合筋の面積比率を比較すると全長の 42~54%位置で血 合筋の割合が最も高くなっていた。また,同じ大きさであれば養殖個体で尾鰭面積が 1.08~1.35 倍大きくなっていた。 3.今後の問題点等 特になし 4.成果の公表 口頭発表: 工藤尊世・有元貴文・伏見 浩・神村祐司・赤澤 敦司. 養殖クロマグロ稚魚の遊泳特性と異常 行動の出現について, 平成 24 年度日本水産学会春季大会. 金 扶映・有元貴文・M.Riyanto・工藤尊世・柳瀬一尊・伏見 浩・神村祐司・赤澤敦司. 養殖 クロマグロ稚魚の筋収縮時間測定と最大速度の推定.

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-② 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための有用形質関連 DNA マーカーの開発 小 課 題 名 飼育環境下での親魚の産卵及び交配様式の把握による成熟関連 DNA マーカー の開発 主担当者 水産総合研究センター・二階堂英城 分担者 水産総合研究センター・菅谷琢磨, 斉藤憲治, 久門一紀, 西 明文, 田中庸介, 江場岳史, 樋口健太郎, 塩澤 聡 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 小野寺 純、神村祐司 1. 課題目標(期間全体) 飼育下の親魚群について、産卵様式の異なる受精卵のサンプリングを実施し、1-①で開発し た DNA マーカーを用いた大規模な親子判別により、親魚の産卵及び交配様式を把握する。次に 産卵成績が異なる個体群間で出現頻度が異なるマーカーを選別し、1-②で得られた成熟関連遺 伝子の情報を加え、最終的に成熟関連マーカーを得る。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:3 歳から 7 歳親魚の産卵生態を把握し、得られた受精卵から親子判別に必要な DNA サン プルを入手する。 方法:水産総合研究センターにおいて目視観察およびビデオ撮影によって産卵時刻、産卵行動 数等を観察し、産卵日毎の産卵状況を記録する。併せて、受精卵の採集を行い、卵径、 ふ化率、無給餌生残指数等を測定することによって親魚群毎の産卵行動と特性を把握す る。また、採集した受精卵から DNA の抽出を行い、親子判定に必要な DNA サンプルを 入手する。このうち、親魚の目視観察、ビデオ撮影及び卵からの DNA 抽出は水産総合研 究センターで実施し、受精卵の採集は水産総合研究センター及びマルハニチロ水産/奄美 養魚で実施する。 期待される成果:親魚群毎の産卵成績を把握し、産卵成績の良好な親魚候補を識別する。これ によって産卵成績を基とした成熟関連マーカーの探索を可能とする。 (2) 23 年度成果概要 親魚群の産卵結果 5 月 16 日から産卵チェックネット(近大方式)を設置して産卵確認を行い、産卵が確認されて からは目視による産卵行動の観察を行った。2004 年群(7 歳魚)は、産卵確認を開始した 5 月 16 日に黒化した雄個体が観察された。7 月 4 日に少量の卵が認められ、8 月 24 日まで 52 日間中 28 日で産卵が観察された。今年度は目視により産卵を確認しても採卵できない事が多く、産卵量、 産卵関与尾数が少ないことが推測された。2006 年群(5 歳魚)は、5 月 16 日に黒化した雄が確認 され、7 月 16 日に産卵を確認した。その後 9 月 2 日まで 49 日間中 26 日で産卵が観察された。2008 年群(3 歳魚)は、5 月 17 日に黒化した雄が確認された。7 月 15 日にチェックネットに受精卵が 確認された。9 月 2 日まで断続的に産卵が観察され、50 日間中 9 日で産卵チェックネット内に卵 が認められた。 卵径 水温と卵径および年齢と卵径の関係は明瞭ではなかったが、概ねこれまでと同様、海水温と親

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魚の年齢によって卵径に差異があることが認められた。5 歳魚の卵径は 7 歳魚が 5 歳の時の卵径 と比して有意に小さい結果となった。 産卵時刻と産卵行動 7 歳魚の産卵時刻は目視観察の結果、概ね 12:00~13:00 であった。この親魚群は 3 歳で産卵し て以来、日中に産卵行動が観察されており、今年度も日中の産卵であった。5 歳魚の産卵行動は 7 月 1 日までは 11:30~13:00 に観察されたが 7 月 2 日以降は受精卵の発生ステージと目視観察から 19:00~23:00 に産卵し、産卵時刻に大幅な変化が観察された。3 歳魚の産卵時刻は受精卵の発生 ステージと目視観察から 18:00~23:00 であった。 7 歳魚の 1 日あたりの産卵行動回数を観察した。今年度の産卵は総じて不調であった。日 間の産卵行動は、雌 1 尾に対して 1~数尾の雄が追尾し、連続して数回の産卵行動が発生し た。また、休止時間を挟んで再度数回の産卵行動が繰り返し起こることが観察された。産卵 回数は 1 日あたり 1~9 回であった。1 日の産卵に要した時間は、産卵期初期に長く、産卵期 末期にかけて短くなることが分かった。 DNA 解析 得られた受精卵の卵径、正常発生率等の卵性状を記録した。採取した卵粒数に余裕がある 場合は、ふ化率、無給餌生残指数を測定し、受精卵と合わせて親子判定用サンプルを保存し た。現在、DNA 抽出を実施中である。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 なし

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-③ 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための有用形質関連 DNA マーカーの開発 小 課 題 名 天然及び飼育成熟魚における候補マーカーの探索 主担当者 水産総合研究センター・玄 浩一郎 分担者 水産総合研究センター・菅谷琢磨, 斎藤憲治, 阿部寧, 山崎いづみ, 風藤行紀, 澤口小有美 協力機関 鳥取県水産試験場 1. 課題目標(期間全体) 天然海域で漁獲されたクロマグロ成魚および養殖業者で養成された天然ヨコワ由来の親魚につい て成熟度及び年齢を調査するとともに、課題1-①で開発したマイクロサテライト DNA マーカーを 用いて各個体の分析を行い、早期に成熟している個体に特徴的なマーカーを探索することで成熟マ ーカーを開発する。また、中課題1の小課題で開発された候補マーカーが天然海域及び全国の養殖 魚において普遍的に観察されるかどうか検討し、より確実性の高いマーカーを開発する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:天然魚および養殖親魚のサンプル収集と成熟度調査 方法:鳥取県水産試験場の協力のもと、鳥取県境港市に水揚げされた天然魚の生殖腺を採取す るとともに、奄美大島等で養成された天然ヨコワ由来の養殖親魚においても生殖腺を採取し、 組織学的手法によって各個体の成熟度を明らかにする。さらに、天然魚においては耳石解析等 によって生殖腺サンプルを採取した個体の年齢査定を行う。また、成熟度調査及び年齢査定に 用いた個体から筋肉あるいは血液を採取し、DNA マーカー分析に必要なサンプルを入手する。 期待される成果:組織学的手法によって、天然魚および養殖親魚における各個体の成熟状況が 明らかになると共に、それぞれの個体に対応した DNA マーカー分析用サンプルが収集される。 さらに、天然魚においては、耳石解析等によって年齢が明らかとなり、成熟と年齢に関する知 見の集積がなされる。 (2) 23 年度成果概要 境港水産物地方卸売市場にて水揚げされた天然成魚から計 738 尾を無作為に抽出し、各々か ら生殖腺をサンプリングした。さらに、一部個体から耳石を採取すると共に、耳石が得られな かった個体に関しては Shimose et al. (2008)ならびに Kai (2007) に基づいて年齢査定を行った。 平成 23 年度の操業海域は、①秋田/山形沖(5/29-6/10) ②山陰沖(6/18-6/20) ③兵庫/福井沖(6/26-8/3) と推移したが、年齢査定の結果、秋田/山形沖の漁獲が主に 2~3 歳であったのに対して、兵庫/ 福井沖は 4~5 歳が主群であることがわかった。また、組織学的手法によって、漁獲した 3 歳魚 のうち秋田/山形沖では 24 %、兵庫/福井沖では 99%の個体が成熟していることが明らかとなっ た。他方、秋田/山形沖で漁獲された雌 2 歳魚は全て未成熟であった。 養殖親魚の成熟度調査は、奄美大島ならびに高知県柏島で養成中の雌 3 歳魚を用いて行った。そ の結果、養殖飼育下において 3 歳で成熟が進行する雌個体がみられたものの、成熟雌の出現率は全 体の約 30~40%であることが明らかとなった。また、生殖腺体指数(GSI)の高い個体は卵黄形成 あるいは成熟期の卵母細胞をもつ成熟個体であること、GSI の低い個体は周辺仁期あるいは油球期 の卵母細胞のみを有する未成熟個体であることがわかった。これまでの解析から天然成魚では成熟

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度と体成長(体重・体長)の間に密接な関係があることが知られているが、養殖雌 3 歳魚では両者の 間に明確な相関はみられなかった。 別途、次年度以降の解析のために、成熟度が明らかとなった天然成魚ならびに養殖親魚の心 臓等から DNA マーカー分析用サンプルの調整を行った。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 なし

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課題別実施成果 課 題 番 号 2-④ 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 親魚選抜のための有用形質関連DNAマーカーの開発 小 課 題 名 複数家系の混合飼育試験による耐病性関連マーカーの開発 主担当者 水産総合研究センター・菅谷琢磨 分担者 水産総合研究センター・安池元重, 佐古 浩, 佐藤 純, 米加田徹, 岩崎隆志, 高志利 宣, 岡 雅一, 久門一紀, 田中庸介, 二階堂英城 東京海洋大学・岡本信明, 坂本 崇 マルハニチロ水産/奄美養魚・草野 孝, 伊藤 暁, 小野寺 純, 神村祐司 1. 課題目標(期間全体) 複数の親に由来する人工種苗に対してマダイイリドウイルスを実験的に感染させ、家系間での 感受性の違いを分析するともに、課題 1-①および課題 1-②のマーカー候補から耐病性に関連 する DNA マーカーを探索する。また、民間のクロマグロ養殖場でイリドウイルスによる大量死 亡が発生した場合には、当該養殖会社の協力を得て、その個体群について、死亡個体、生残個 体における DNA マーカー候補の探索・絞り込みを行い、マダイイリドウイルス耐性関連 DNA マーカーを得ることを目標とする。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:クロマグロの人工種苗を用いた感染実験手法の検討 方法:クロマグロの人工種苗を用いたイリドウイルス病の感染実験手法を検討するため、個体 別のウイルスの定量方法、攻撃時期および半数致死量を検討する。このうち、ウイルスの定量 はリアルタイム PCR によって試み、攻撃時期の検討は受精卵、10 日齢、20 日齢および 30 日齢 の仔稚魚を用いて行う。また、同時に死亡率の測定を行い、ウイルス量と死亡率との相関関係 から半数致死量および感染実験系として最適な攻撃濃度および攻撃時期を求める。開始時の感 染試験に供した人工種苗については DNA 抽出を実施し、家系判別に向けたサンプルを蓄積する。 これらのうち、ウイルスの感染試験及び DNA 抽出はそれぞれ水産総合研究センターと東京海洋 大学で実施し、人工種苗の生産は水産総合研究センター及び(株)マルハニチロで行う。 期待される成果:クロマグロ人工種苗に対するイリドウイルスの感染条件が明らかとなり、感 染実験の基礎となるウイルスの攻撃手法が確立される。また、平成 24 年度以降の解析に向け、 個体別のウイルスの定量方法が明らかになる。 (2) 23 年度成果概要 リアルタイム PCR によるウイルスの定量手法の検討 イリドウイルスの感染レベルを把握するために、リアルタイム PCR によるイリドウイルス定 量法の確立を試みた。標的因子には感染初期に迅速に発現する ICP46 遺伝子を選択した。イリ ドウイルスの ICP46 遺伝子の標的領域をプラスミドに組込みリアルタイム PCR による遺伝子 増幅を試みたところ高い検出感度および定量性が認められた。本法により、イリドウイルスを 定量検出することが可能となった。 クロマグロ稚魚への攻撃手法の検討

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感染試験の条件検討に用いた供試魚は 60t水槽で受精卵より 28 日齢まで育成し、この間 100 L 水槽への経時的な移送を試みた。日齢 14 から毎日 20 尾ずつ 100 L 水槽に移送したところ、日 齢 18 の移送魚において翌日の生残が認められた。日齢 20 の仔魚をさらに 23 尾移送し、イリ ドウイルス感染魚の脾臓の摩砕液を 100 L 水槽に添加しウイルスによる攻撃を行った。その後 3 日間で 39 尾が死亡し、リアルタイム PCR による検査に供したところ、全て陰性となった。 実験用仔稚魚の確保に向けた輸送方法の検討 感染試験の供試魚をより安定的に確保するため、西海区水研奄美庁舎から増養殖研上浦庁舎(大 分県)へのクロマグロ稚魚の輸送試験を、航空便および活魚輸送車を用いて行った。航空便につい ては、まず事前に発泡スチロールへの収容のみを行う模擬試験を行い、その後実際の輸送を行っ た。模擬試験では、約 12Lの海水に全長 5~6cm の稚魚を 1、5 あるいは 10 尾入れ、10 時間静置 した。その結果、生残率は 60~100%であり、ほとんどの個体が生残していた。また、実際の輸 送を同様に行った場合でも収容個体が 10 尾以下であれば生残率は 80%以上であった。しかし、 輸送後の生残期間は短く、擦れや衝突の影響についてさらに検討が必要と考えられた。 続いて、活魚輸送車(1.75m3 水槽 3 基搭載)を用いて全長約 7cm の稚魚 168 尾を輸送した。輸送 中は換水を行わず、夜間も蛍光灯による連続照明を行い、水温は約 27℃、DO は約 8.0mg/L を保っ た。その結果、上浦庁舎に 100 尾を活かしたまま運ぶことができ、試験レベルであれば供試魚の確保 に有効と考えられた。また、上浦庁舎で 2m3水槽に収容しシラスミンチを給餌したところ、摂餌は良 好であった。しかし、輸送 1 週間後には生存個体が 8 尾となっており、長期の飼育には必ずしも成功 しなかった。死亡魚では衝突によると思われる傷が頭部に見受けられ、生残魚でも頭部に傷があるも のも観察されたことから、擦れや衝突のない輸送条件についてより検討が必要と考えられた。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 なし

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-① 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 親魚候補魚の遺伝情報管理のためのハンドリング技術の開発 主担当者 近畿大学水産研究所・澤田好史, 家戸敬太郎 分担者 1. 課題目標(期間全体) 1) 稚魚・幼魚期に親魚候補選抜を実施する過程で想定されるハンドリングにおける稚魚・幼 魚の死亡の原因が解明される. 2) 稚魚・幼魚期に親魚候補選抜を実施する過程で想定されるハンドリング方法が改善される. 3) 採卵方法については,その日に産卵された卵を偏ることなく回収可能な採卵装置の開発を ゴールとする. 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:稚魚・幼魚のハンドリング耐性試験と死亡原因解明 方法:クロマグロ人工孵化魚をそれぞれ稚魚、幼魚まで育て試験に供し、各種ハンドリング法 (乾出、タモ網・緩衝材との接触、タグ装着など)における推定される死亡原因、感染症、急 激なストレスなどを調査する.さらにこれらの方法において様々な条件下で耐性試験を行う. 期待される成果:稚魚・幼魚のハンドリングにおいて、推定される死亡原因の程度を解明する ことにより、各種ハンドリングでの死亡原因に関する情報が得られる.各種ハンドリング法に おける耐性の情報が得られる. 目的:生簀内に複数の採卵ネットを設置して卵を回収後,流向・流速と採卵場所との関係の解 析を行い,産卵された卵がどのように採卵ネットに回収されたかを明らかにする. 方法:網生簀内 8 または 16 方位に採卵ネットをセットし,卵を回収する.また同時に流向・流 速計を用いて,流向・流速を測定する.各ネットに回収された卵数,発生ステージおよび DNA タイプを調べ,産卵された卵がどのように回収されたかを検討する. 期待される成果:得られたデータを解析することで,産卵時刻とその卵の動きの概要が明らか となり,データの蓄積を重ねることで,効率的な採卵方法を推定できる. (2) 23 年度成果概要 実験Ⅰ 平成 23 年産人工孵化クロマグロ幼魚(97 日令と 99 日令)55 尾を供試魚とし,標識選 定と装着法試験を行った.ダートタグを各 50 尾の第 1 背鰭後部筋肉に装着した.PIT タグは 5 尾の 腹腔内に挿入した.ダートタグでは 2 通りの装着方法を試した.1 つ目として水タモで海水と共に幼 魚を捕獲し,ビニールシートを敷いたスポンジマットの上で装着した.他の方法では水タモで捕獲 し,そのまま水タモの中で装着を行った.PIT タグは水タモ中で装着した. 実験Ⅱ 装着したタグ除去と,切除した小離鰭から DNA を抽出する遺伝子試料採取を行った. 実験Ⅲ 初めに幼魚 5 尾から採血し,別の幼魚に水タモの中で黄色と緑色のダートタグを各 5 尾 に装着した.また,ビニールシートを敷かないスポンジマットの上でダートタグを 7 尾に装着した. 翌日生残した白色と緑色のダートタグが装着されている幼魚を取り上げ採血を行った.黄色のダ ートタグを装着した幼魚は実験終了まで飼育した.

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【結果と考察】 実験Ⅰ タグを装着 28 日後までの生残率は 76.7%で,タグ残存率は 23.2%であった.タグ装着個体 の斃死率は,ビニールシートを敷いたスポンジマットの上で装着した方法では 28.0 %,水タモの 中で装着した方法では 13.3 %であった. 実験Ⅱ タグ除去と遺伝子試料採取後 43 日までの生残率は 53.4 %であった.全ての個体で小離鰭 からの DNA 抽出が可能で,mtDNA の多型判別法の条件検討ができた. 実験Ⅲ タグ装着を行った翌日の生残率は 58.8 %であった.装着個体の斃死率はビニールシート を敷かないスポンジマット上で装着した方法では 85.7 %で,水タモの中で装着を行った方法では 10.0%であった.また採血は可能な場合とそうでない場合が有り,方法の習熟が必要と考えられた. 以上より一応クロマグロ幼魚への実用化可能な標識装着のためのハンドリング法改善がなされ たが,さらなる生残率向上が必要である.ダートタグ残存率が低く,生残したクロマグロ幼魚に装 着されていたダートタグには,多くの場合海藻がからんでいることが観察されたことから,新た なタグの開発と装着部位についての改善が必要である.遺伝子試料採取について,今回は第 2 小離 鰭の切除を行ったが,生残率を高くするには,切除の容易な胸鰭や尾鰭の先端を切除しての遺伝 子試料採取を試みる必要がある.ハンドリングによる死亡原因解明のための試料採取技術の向上, 検査項目の検討が今後必要と考えられる. 4 歳親魚 50 尾(体重約 80kg)を収容した網生簀内の生簀枠付近 16 方位に,開口部の直径 1 m, 深さ約 70 cm の卵回収装置を夕方に 1 つずつ合計 16 個設置し,翌朝に卵を回収した.また,水深 70cm および 5 m に流向流速計を設置して連続観測し,各方位の卵回収装置の卵数と流向流速と を比較した.その結果,6 産卵日に卵回収した.卵回収装置 1 個に最大で 18,500 粒の卵が入った.卵 の入らなかった卵回収装置が 2 産卵日にみられたが,それ以外は全ての方位の卵回収装置に卵が 入った.多く卵が入った卵回収装置の方位は日によって異なり,流向流速と一致する場合とそうで ない場合とがあった. 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 学会発表: 家戸敬太郎・田中浩太朗・前田茂樹・宮武弘文・山下 洋・中井彰治・加納秀八・澤田好史・ 那須敏朗・宮下 盛(近大水研), 生簀内で自然産卵されたクロマグロ卵の回収状 況, 日本水産増殖学会第 10 回大会.

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-② 事業実施期間 平成23 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 鎮静剤等を用いた安全なハンドリング技術の開発 主担当者 水産総合研究センター・二階堂英城 分担者 水産総合研究センター・服部 薫, 玄 浩一郎, 江場岳史, 樋口健太郎, 田中庸介, 久門一紀, 西 明文, 塩澤 聡 1. 課題目標(期間全体) 人工交配において不可欠な、成熟度判定や移送など必要な操作を行う間、麻酔剤等を用いて成 熟期のクロマグロを不動化し安全に取扱うため、養成親魚を用いて不動化に有効な薬剤の種類と 用量用法、薬剤投与基準判定を目的とした生理条件の把握方法を検討する。同時に、遊泳中のク ロマグロへの薬剤投与を検討し効果的な投与方法を開発する。また、クロマグロの人為催熟を目 的としたホルモン等の投与方法を開発する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:目的:麻酔・鎮静手法を検討し薬剤の選定と用量用法の把握および薬剤の水中投与に 適した手法を選定することを目的とする。 方法:獣医師(北水研)と相談の上、注射用麻酔薬を選定し、クロマグロに麻酔操作を行い麻 酔操作後の行動と麻酔の有効性を検証する。この結果からクロマグロの不動化に有効と 思われる麻酔剤の投与方法および麻酔条件を検討する。 期待される成果:クロマグロの不動下に有効と思われる薬剤候補が選定される。これにより、 クロマグロの現実的な不動化方法の開発が大きく前進し、不動化を前提とした人工授 精周辺技術の開発が進展される。 (2) 23 年度成果概要 ほ乳類で多く用いられる α2-アドレナリン受容体作動薬 medetomidine のクロマグロに対す る 麻 酔 効 果 を 検 討 し 、α2- ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 作 動 薬 の 拮 抗 剤 で あ る atipamezole の medetomidine に対する拮抗効果を予備的に検討した。 供試魚は直径 20m 円形生簀で養成した天然由来クロマグロ 1 歳魚(体重 10kg)とした。 medetomidine の投与量は犬猫で深度鎮静状態にするのに必要な用量 80~150μg/kg を参考に、 魚体重 1kg あたり 50μg、80μg、100μg、200μg を検討した。生簀から釣獲によって海上の作 業筏上に取り上げ、体重測定後、体重に合わせ所定の投与量となるように筋肉注射により薬 剤を投与し、個体識別のため65mm ダートタグを第 1 背鰭付近に装着した後、海面に設置し たキャンバス製プール内に収容した。また、行動比較のため、薬剤を投与しない対照個体 1 尾を同時に収容した。 行動観察に際し鎮静状態をⅠ期:軽度鎮静(遊泳動作が緩慢)、Ⅱ期:中度鎮静(接触刺激 に対して忌避反応が希薄)、Ⅲ期:深度鎮静(捕獲保定可能な状態)、Ⅳ期:不動期(捕獲し ても体を動かさない)に分け、対照個体と行動を比較し薬剤投与後の経過時間と行動・鎮静 状態の変化を記録した。 鎮静状態に陥った個体は、ダイバーにより捕獲し、担架によって筏上に上げ、atipamezole

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をmedetomidine 投与量の 4 倍量を投与した後に直径 20m 円形生簀にもどし、その後の蘇生状 態を観察した。 Medetomidine 50μg/kg 投与では平均 24 分でⅡ期に到達したがⅢ期に到達することはなかっ た。80μg/kg 投与では投与後平均 16 分でⅡ期に到達し平均 20 分でⅢ期となった。Ⅳ期には 1 尾が16 分で到達したが 2 尾は到達しなかった。100μg/kg 投与では投与後平均 9 分でⅡ期、 平均11 分でⅢ期となり、平均 17 分でⅣ期に到達した。200μg/kg 投与では投与後平均 9 分で Ⅱ期、15 分でⅢ期となり、19 分でⅣ期に到達した(表 1)。 atipamezole を投与し蘇生状況を観察したところ、全ての個体で、投与後速やかに遊泳し、 投与後30 分から 60 分後には群れに混ざって遊泳した。 以上の結果から、medetomidine はクロマグロにおいて鎮静効果が認められ、投与量 80μg/kg 以上で麻酔効果が得られた。100μg/kg、200μg/kg でより安定した麻酔効果が得られ、 medetomidine のクロマグロに対する有効性が示唆された。また、atipamezole は、鎮静状態に あるクロマグロを速やかに蘇生させた。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 ポスター発表: 二階堂 英城・西 明文・田中庸介・江場岳史・服部 薫・澤口 小有美・松原 孝博. クロマグ ロにおけるMedetomidine の鎮静効果の予備的検討, 平成 24 年度水産学会春季大会. Ⅰ期 Ⅱ期 Ⅲ期 Ⅳ期 50 4 54.7 (51.2-57.7) 9.2(8.7-9.8) 16.6 (15.0-19.0) 23.8 (22.0-25.0) --- ---80 3 83.5 (80.0-86.8) 10.8(8.1-12.5) 6.7 (5.0-8.0) 16.3 (10.0-20.0) 20.3 (13.0-26.0) 16.0 (1尾のみ) 100 4 118.9 (112.9-130.4) 9.4(8.4-11.5) 7.8 (6.0-9.0) 9.3 (8.0-10.0) 11.5 (11.0-12.0) 17.3 (15.2-19.0) 200 4 227.7 (208.3-277.2) 9.9(9.0-11.6) 7.8 (5.2-9.0) 8.8 (6.4-10.0) 14.5 (12.0-18.0) 19.3 (15.0-22.0) 試験区 MDT投与量 (μg/kg) 観察数 (尾) 魚体重 Avg(Min-Max) 実MDT投与量 (μg/kg) 沈静期到達時間(分) 表1 Medetomidine 投与試験結果

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-③ 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 性判別ならびに成熟度判定技術の検討 主担当者 水産総合研究センター・澤口小有美 分担者 愛媛大学・ 松原孝博, 太田耕平 水産総合研究センター・玄 浩一郎, 二階堂英城, 西 明文, 田中庸介, 江場岳 史, 高志利宣, 岡 雅一 1. 課題目標(期間全体) 性別や成熟の指標となるタンパク質を生化学的に分析、単離し、複数種の特異抗体を作製し、 それらを用いて高感度な酵素免疫測定及びイムノクロマトの 2 種の免疫学的検出・測定系を開 発する。また、飼育下の成熟期において、麻酔等で安全に保持でき短時間のうちに成熟度を判 定するため、成熟指標タンパク質の発現動態を把握し、麻酔を施したクロマグロ成魚で成熟度 を即時に判定する技術を開発する。性判別では、生殖腺の発達に伴って発現する性特異的な遺 伝子またはタンパク質を検索し、分子生物学的な性判別基盤技術を開発するとともに、内視鏡 を利用した生殖腺バイオプシ技術を開発して麻酔を施したクロマグロ未成熟魚での早期性判別 法を確立する。 2. 課題実施計画・成果 (1) 23 年度計画 目的:性判別・成熟度判定指標タンパクの同定及び精製を試みる。精製タンパクに対する抗体 を作製し、定量系の確立を目指す。さらに、内視鏡による生殖腺組織摘出のため、生殖 腺の位置の確認と内視鏡挿入方法の検討を行う。また、生殖腺の性識別に用いる遺伝子 の検索を行い、候補を見出すことを目的とする。 方法:卵黄形成期のクロマグロ卵母細胞を採取し、複数のゲルろ過クロマトグラフィーを組み 合わせてリポビテリン等の卵黄タンパクを精製して抗体を作製する。抗体の特異性を確 認後に酵素免疫測定系を構築する(水研セ)。マグロ類漁獲物を用いて、生殖腺の位置と 大きさ、内視鏡を挿入する位置を検討する。また、脊椎動物に共通の性特異的に発現す る遺伝子、<雌特異的>顆粒膜細胞マーカー:foxl2 (転写因子),エストロゲン合成酵 素:cyp19a1(卵巣型アロマテース), hsd17b1、卵母細胞マーカー:zpc、<雄特異的>セル トリ細胞マーカー:dmrt1,sox9(転写因子)のいくつかについて、縮重プライマーを作製 し、PCR による塩基情報の取得を行う(愛大)。 期待される成果:性判別・成熟度判定の為の新規抗体による測定系を構築することで、判定の ための基準作りが可能となる。これまでにない内視鏡による生殖腺組織摘出と遺伝子に よる生殖腺の性識別基盤とした極早期の性判別法開発の足がかりが得られる。 (2) 23 年度成果概要 雌特異タンパクであるリポビテリン(Lv:卵黄タンパクの一種)を性判別・成熟度判定 指標タンパクとし、精製を試みた。卵黄形成期のクロマグロ卵巣を 0.9%NaCl 水溶液です り潰し、高速遠心分離後に上清を卵巣抽出液として取り分けた。これをハイドロキシアパ タイトカラムおよび Superose 6 ゲル濾過カラムの2種類のゲル濾過クロマトグラフィーに かけ、単離されたタンパクをクロマグロ精製 Lv とした。現在、家兎に免役し抗体を作成

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中である。 愛媛県近海のマグロ類漁獲物を用いて、腹腔内の生殖腺の位置と他の臓器(胃、腸、 幽門垂、胆嚢)との位置関係を観察し、内視鏡(図1)を挿入する位置を検討した。肛門 からやや前方の腹腔後端部では、胃、幽門垂、胆嚢はなく、生殖腺と腸のみが存在し、臓 器を傷つけることなく切開が可能であることを確認した。この位置を体軸と垂直に切開す ることで、内視鏡プローブの生殖腺へのアプローチが可能であり、かつ生検用鉗子の操作 が容易であることが確かめられた。 クロマグロ1歳魚(体重 4.1-11.0 kg)6 尾を用いて、内視鏡による生殖腺生検サンプル の採取手技を検討した。体重 5 kg 程度のクロマグロでは腹腔後端側部の筋肉は約 2 cm の 厚さをもち、短い細径内視鏡プローブが操作性に優れていたが、5 kg を超えるサイズの個 体では長いプローブを必要とする。さらに、生殖腺組織の摘出試験を実施し、解剖により 成功したか否かを確認したところ、全ての個体で生殖腺組織を切除できていた(図2)。 生殖腺生検手技の試行の際の状況から、プローブを手に持つことにより両手での操作 ができなくなるため保定装置を必要とすること、傷口を開いておく開創器が必要であるこ と、生検用の鉗子の刃を鋭利にする必要があることが明らかになった。術後の傷口の融着 に手術用接着剤が利用可能か否かを検討したところ、クロマグロにも有効であることが確 かめられた。 性特異的に発現することが予想される遺伝子、<雌特異的>顆粒膜細胞マーカー:foxl2 (転写因子),エストロゲン合成酵素:cyp19a1(卵巣型アロマテース), hsd17b1、卵母細胞マ ーカー:zpc、<雄特異的>セルトリ細胞マーカー:dmrt1,sox9(転写因子)について、既 知の他魚種の遺伝子配列をもとに中央水研遺伝子解析セのクロマグロゲノム情報からの 遺伝子検索に関する協力を得て、foxl2、cyp19a1、dmrt1、sox9 など候補のいくつかについ てクロマグロ遺伝子の配列情報を得た。これをもとにプライマーを作製し、発達中の卵巣 及び精巣から作製した cDNA を用いて PCR による塩基情報の取得を行っている。 図 1.細径内視鏡システム(AEC-1、AVS 社)の機 材構成。 図 2.クロマグロ1歳魚を用いた生殖腺生検手技の 試行。 3. 今後の問題点等 特になし 4. 成果の公表 なし

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課題別実施成果 課 題 番 号 3-④ 事業実施期間 平成 23 年度 中 課 題 名 DNA マーカーを活用した親魚選抜のためのハンドリング等基礎技術の開発 小 課 題 名 凍結精子の保存技術と精子の評価方法の開発 主担当者 愛媛大学・松原孝博、 分担者 愛媛大学・太田耕平 水産総合研究センター・二階堂英城, 西 明文, 田中庸介, 江場岳史, 玄 浩 一郎, 持田和彦, 澤口小有美 1. 課題目標(期間全体) 精子の運動を高速 CCD カメラにより録画し、画像解析ソフトを用いて運動精子の比率、運動 精子中の前進運動精子の割合、運動速度、精子尾部の振動数、波長及び振幅を解析し、それ らの数値を基盤とした客観的なクロマグロ精子の運動活性評価方法を確立する。その評価法 をもとに、精子運動活性が最も高い時期や時刻を特定し、活性の高い搾出精子を安定して凍 結に供する技術を作る。併せて、新鮮搾出精子の運動活性の高低と凍結保存後の活性の相関 を明らかにする。また、精子の運動活性を高める卵巣腔液中の精子運動活性化因子を生化学 的に特定し、それを用いた凍結保存及び解凍処理方法を検討し、精子凍結保存方法の改良を 行う。 2. 課題実施計画・成果 (1)23 年度計画 目的:現在、計画的に未受精卵を得る技術はクロマグロでは開発されていない。そのため、受 精率に代えて客観性の高い精子運動活性評価法を開発し、それを指標として雄親魚から運動 活性の高い精子を採取する技術を確立することを目的とする。併せて、凍結前後の活性の相 関を明らかにし、運動活性の高い精子を得ることの有効性を明確にする。 方法:1) 高速 CCD カメラと画像解析の組み合わせにより精子運動活性を数値化し、客観的な 評価法を開発する(主担当愛媛大)。 2) 上記精子運動活性評価法より、新鮮作出精子及び凍結保存精子の運動活性の検討を行い、 活性に関する両者の相関を検討する(主担当水産総合研究センター)。 期待される成果:クロマグロの精子運動活性を客観的に評価する技術が得られる。これを利用 することで、凍結後の精子運動活性の低下状況や凍結前後の運動活性の相関を明確にすること ができる。凍結・解凍後に高い運動活性を示す精子を安定的に採集できるようにすることはこ の課題のゴールの一つであり、それに近づくこととなる。 (2) 23 年度成果概要 高速度 CCD カメラ(HAS 220 ディテクト社)を装 着した画像解析装置(DIPP motion pro ディテクト社) により西海区水研奄美栽培セにて採取したクロマグ ロ精子を用いて精子運動活性の各要素について計測 を行った。計測は1)運動精子比率:視野中の運動精

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