総合的な学習のカリキュラム開発に関する学校組織論的研究
一 学 校 教 育 へ の 企 業 組 織 論 モ デ ル の 応 用 ‑学 校 教 育 専 攻 教育方法コース 中 村 明 彦
1 .問題の所在
「総合的な学習の時間」のカリキュラムは,
地域や学校,子どもの実態等に応じて,各学校 が創意工夫を生かして開発しなければならない。
学校に基盤を置くカリキュラム開発には,状況 分析,目標設定,企画立案,実施評価,継承・
改善など,実に多くの要素が入り組み,教師の 組織的な取り組みが必須であるo
したがって,どのような内容の学習をするか を問題にする前に,どのような手続きや方法に よってカリキュラム開発を進めるかが問題とさ れなければならない。しかし,カリキュラム開 発の手続きや方法より学習内容が先行している のが現状である。
そこで,本研究で,教師の組織的な協働活動 による総合的な学習のカリキュラム開発のプロ セスとマネジメントを明らかにする。
2.研究の枠組み ( 1 )研究の目的
①企業組織論モデルを応用して,総合的な学習 のカリキュラム開発のプロセスモデルを構築 し,それを運用するためのマネジメントモデ ルについて考察する。
②総合的な学習のカリキュラム開発の実践事 例を分析し,プロセスモデルの再構築とそれ を運用するためのマネジメントモデルの有効 性を検証する。
(2) 企業組織論モデルの応用
指 導 教 官 村 川 雅 弘
学校に基盤を置いたカリキュラム開発のプロ セスは,企業の製品開発のプロセスと類似して いる。そこで,企業組織論の組織的知識創造理 論に基づく製品開発プロセスモデルを応用して,
「総合的な学習の時間」のカリキユラム開発の プロセスモデルを構築する。
また,プロセスモデルを運用するマネジメン トモデルには,企業統治・風土改革の実践的手 法であるプロセス・コーチングの考え方に基づ
くミドル・マネジメントモデルを応用する。
3.カリキュラム開発モデルの構築 ( 1 )カリキュラム開発プロセスモデル
企業組織論モデルを応用して構築した総合的 な学習のカリキュラム開発プロセスモデルは次 の6段階である。
①準備段階→国人の暗黙知の掘り起こし 総合的な学習には,教師主導の学習観から学 習者主導の学習観への転換を図らなければなら ない。教師は自らの教育実践や教育観を内省し,
参考図書を読む,先進校を視察するなどして,
学習者主導の学習観を獲得する。
② 第 1フェイズーメンタル・モデルの共有 教師同士の対話により暗黙知を共有すること で総合的な学習のメンタル・モデルを共有する。
③ 第2フェイズービジョン3コンセプトの創造 学校教育目標,地域・学校・子どもの実態,
子どもの興味・関心,教師・保護者の願いなど からビジョンとなる自校の総合的な学習のねら
いを創造するo また,それを達成するためのコ ンセプトとなる学習領域や学習形態などのカリ キュラムの柱を創造する。
ここが組織的知識創造の真髄となる局面であ る。各自が持っている暗黙知からビジョンやコ ンセプトという形式知を表出するため,ブレー ンストーミング法や KJ法などの問題解決スキ ルを活用するO
④ 第3フェイズーコンセプトの正当化
②で創造したコンセプトでねらいは達成可能 か,あるいは,単元開発はできるかなどの見通 しを立てるとともに全職員の共通理解を図る。
⑤ 第4フェイズーカリキュラム原案の作成 コンセプトに基づいて
r
単元構成Jr
単元目 標Jr
題材Jr
年間活動計画Jr
支援の手だて」な どカリキュラムの原案を作成する。教師は学習 の状況設定と学びのプロセスを子どもに提示し,学習活動は学習者主導で行う。また,カリキユ ラムに学年間の系統性を持たせるようにする。
⑥ 第
5
フェイズ→陸承・改善と知識の転移 教師用実践ポートフォリオを作成してカリキ ユラムの実施評価を行う。成果と課題を明らか にし,次年度のカリキュラム改善案を作成する。次年度は,それを継承し,改めてコンセプトの 正当化を図ってから実施する。
( 2 )
ミドル・マネジメン卜モデル総合的な学習のように,全く新しい実践を組 織に導入するには, トップの強い意図とそれを 実行するボトムの自律性とが調和し,学校組織 文化を醸成する<公式文化(教育目標・計画) 一実践パターン(日常の教育活動)一実質文化 (教師の価値観・行動規範) >のカルチャー・
トライアングルのバランスをうまく保つように しなければならない。そこで, トップとボトム の中間に位置する中堅教師が両者のコミュニケ
ーションを図るミドル・マネジメントでカリキ ユラム開発を推進する。
4.実践事例の分析
小学校2校,中学校2校,高等学校1校の実 践を分析した結果,カリキュラム開発プロセス モデルの有効性が明らかになった。その一方で,
マネジメントの在り方は学校によって,様々で カリキュラム開発の推進では人的要因を最大限 に考慮しなければならないことが明らかになっ た。また,カリキュラム開発の立ち上げの段階 で組織の意図が強くない場合には,プロジェク
ト・チームを組織するのが有効であることもわ かった。いずれの学校でも,知識創造の種を蒔 き,育てる核となる中堅教師の存在が大きいこ とが明らかになった。
5.研究のまとめと今後の課題
5
つの事例分析の結果,プロセスモデルは有 効であり,カリキュラム開発の手続きとして活 用できることが明らかになった。また,各学校 の実践の違いは,マネジメントの違いに起因す ることが多く,総合的な学習の導入には,活動 の見通しを持つことと,ミドル・マネジメントに より組織の人的要因を最大限に考慮することが 重要であることが明らかになった。今後は,このプロセスとマネジメントのモデ ルを実際に活用してカリキュラム開発を行うこ
とによって実証的にモデルの検証を行うととも に,より詳細にプロセスとマネジメントの在り 方を考察して,カリキュラム開発を支援する具 体的な手だてを開発していきたい。
【参考文献】
野中郁次郎・竹内 弘高 (1996)[J知識創造企 業.J],東洋経済新報社
桑畑 英紀 (2001)[J