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<研究ノート>長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題 ─大規模公共事業と市町村合併を越えて―

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Academic year: 2021

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長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 517. . 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の� 可能性と課題. ──大規模公共事業と市町村合併を越えて── 1). 加藤雅俊. 1 はじめに-本稿の目的と構成-. 2 �諫早市と雲仙市における大規模公共事業と市町村合併-諫早湾干拓事業と. 「平成の大合併」-. 3 �「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査が示すこと①-諫早湾. 干拓事業と「平成の大合併」の影響-. 4 �「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査が示すこと②-地域イ. メージと地域資源-. 5 おわりに-諫早市と雲仙市における地域活性化に向けて-. 1 はじめに-本稿の目的と構成-. 本稿の目的は、著者が共同研究者と実施した大規模なアンケート調査の結果. を手がかりに、長崎県諫早市と雲仙市における地域活性化の可能性と課題を検. 討することにある。具体的には、両市における地域社会に大きなインパクトを. もたらしたと考えられる二つの出来事(諫早湾干拓事業と市町村合併)に関す. る地域住民の認識を確認したうえで、今後の地域の活性化を考える際に重要と. 研究ノート. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 518. なる地域イメージや地域資源に関する意識を確認する。そして、これらのアン. ケート調査が示唆する地域活性化の方向性と課題について検討する。. 先進諸国は、1980 年代以降、経済のグローバル化の進展やポスト工業社会. への移行など、マクロな経済・社会変容に直面してきた。これらの経済・社会. 変容は、一定の共通性を持ちつつも、各国ごとに多様な社会問題を引き起こし. てきた。日本では、高度成長と社会的平等を同時に実現してきた「日本型福祉. 国家」の機能不全が顕著となった。日本型福祉国家は、雇用保障、家族福祉、. 企業福祉に依存する一方で、狭義の社会政策の発展を抑制するという特徴を有. していた(cf.�宮本 2008,�新川�2005,�Estevez-Abe�2008,�Miura�2012 など)。グロー. バル化とポスト工業化は、それが機能する前提条件を侵食し、少子高齢化の進. 展、人口減少の進展、貧困・格差の拡大、財政状況の悪化といった社会問題を. 引き起こした。また、女性の社会進出や家族形態の多様化も進んだ結果、家族. 福祉への依存が困難となり、社会サービスへの多様なニーズが生まれた。さら. に、東京を中心とした大都市圏に人口が集中する一方で、それ以外の地域では. 人口流出が進んでいる(加茂 2017)。加えて、グローバル化やポスト工業化と. は直接の関係を有しないが、最近では、道路、橋、トンネルなどの高度経済成. 長期に作られた社会資本の老朽化や、山地や農地の荒廃、生活排水や工業廃水. による河川や海の水質汚染など、自然環境の劣化も顕著となり、地域住民の経. 済活動や日常生活を支える自然・生活環境も大きく揺らいでいる。これら多様. な社会問題への対応として(再び)注目を集めているのが、「地方」や「地域」. である。. そもそも地方への注目は、必ずしも新しいものではない(加茂 2017)。例えば、. 1970 年代には、高度経済成長期の歪みへの対応として、公害対策や福祉の充. 実を謳う革新自治体が注目を集めた(岡田 2016)。1990 年代には、「第一次地. 方分権改革」(95 年の地方分権推進法、99 年の地方分権一括法が制定される). が進められ、紆余曲折を経て、機関委任事務の廃止や国の関与のあり方の見直. し(言い換えれば、中央地方関係の見直し)をもたらし、地方の自律性が高まっ. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 519. た(西尾 2007,�木寺 2012)。この過程で、地方分権の受け皿となる効率的な基. 礎自治体が必要との認識が広がり、「平成の大合併」と呼ばれる市町村合併へ. の動きが強まった(加茂 2017)。そして、2000 年代に入ると、小泉政権のもと、. 地方交付税、国庫支出金、地方税のあり方を見直す「三位一体改革」が進められ、. 地方は自主財源への転換が求められた(曽我 2017)。さらに、現在でも、個別. の法令における義務付け・枠付けの見直し、事務 ・ 権限のさらなる地方への委. 譲を進める「第二次地方分権改革」が進められており(曽我 2017)、その過程. のなかで、地域経済の活性化を目的として「総合特区制度」の導入や「地方創. 生」の促進など、新たな試みもなされてきた。したがって、現在の地方への注. 目は、長きにわたる地方分権改革のなかで獲得された権限面や財政面における. 自律性を前提とするものであり、地域における社会問題への機動的・能動的な. 対応が可能となった文脈において、地方の主体性に期待が集まっているのであ. る。それゆえ、地方の重要性は、以前とは質的に異なっているといえる。. そして、地方の主体的な試みにより、地域の活性化や再生に成功した事例. は多数存在している。例えば、「地方創生」に関する内閣官房・内閣府のホー. ムページ 2)には、多くの成功事例が紹介されている(一例として、2017 年に. 内閣官房・内閣府が発表した「地方創生事例集」には 88 の取り組みが紹介さ. れている)。また、地域の活性化や再生に関する事例研究やルポルタージュも、. 数多く出版されてきた(一例として、小磯 2020,�枝廣 2018,�小田切 2014,�諸富. 2010,�大江 2008,�本間 2008,�西川 2008)。しかし、忘れてはならない点は、この. ような成功事例の背景には数多くの挫折や失敗が存在することである(山下・. 金井 2015,�飯田ほか 2016,�久繁 2010)。さらに、「限界集落」(大野 2005)や「地. 方消滅」(増田 2014)など、地方そのものが存続の危機に直面しているとする. 議論もある(これらの議論の批判的検討として山下 2012,�2014)。加えて、地. 方にはかなりの多様性があり、経済・社会的文脈や地理的背景、直面する社会. 問題などは大きく異なるため、「唯一の」地域活性化策などは存在しない。言. い換えれば、社会問題の対応に関して主体性の発揮が期待される地方だが、そ. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 520. れぞれ固有性を有していることに加え、資源や能力の不足といった課題も抱え. ているため、活性化に成功し、社会問題を適切に処理するためには、現実に即. した取り組みが不可欠である。. 上記の事例研究やルポルタージュは、地域の活性化や再生が成功するための. 条件として、様々なことを明らかにしてきた。例えば、ハコモノ依存からの脱. 却とソフト面への投資(諸富 2010)、人的資本や社会関係資本への注目(諸富. 2010,�西川 2008)、地域にある有形・無形の資源の発見と活用(小磯 2020,�枝. 廣 2018,�小田切 2014,�大江 2008,�本間 2008)、ガバナンスへの注目(諸富 2010)、. 地域住民の主体的な取り組みや外部者の参入(大江 2008)、新たな価値の創造. (西川 2008,�本間 2008)などである。また、社会的合意形成論は、まちづくり. などに関して、関係する主要な利害関係者が主体的に議論の場に参加し、発. 言・意見交換を繰り返していくなかで、関係者が合意可能な、妥当な結論が導. き出せる可能性を明らかにしている(cf.�猪原 2012,�倉坂 2012,�桑子 2016,�松浦. 2010))。同様に、熟議民主主義論は、無作為抽出で選ばれた住民が合理的な議. 論を行うことで、他者への理解が深まることに加え、自己反省にもつながり、. さらに創造的な解決策へと至る可能性があることを明らかにしている(cf.�田. 村 2008,�2017,�フィシュキン 2011,�アッカマンほか 2015)。これらの先行研究の. 知見を総合すると、地域の活性化や再生の実現のためには、多様な地域住民が. 主体的に参加し、真摯な議論を繰り返し、差異を乗り越え協働することで、地. 域資源を発見し、創造的な活用方法や新たな価値を見つけていくことが重要と. なる。しかし、ここで大切な点は、地域のことを真摯に議論するためには、そ. こに住む人びとが、自らが地域の主体であるという自己認識を有していること. に加え、多様な(自分とは異なる)他者も自分と同様に地域社会を構成する重. 要な主体であるという認識を有していることが不可欠なことである。言い換え. れば、「地域社会を構成する主体」としての自己認識・他者認識が重要といえ. る。というのも、地域社会に関心・愛着を有しない人びとは議論の場に参加し. ないだろうし、地域社会の一員とは思えない/感じない人と地域の将来に関し. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 521. て議論することは難しいからである。. 以上の議論をふまえると、諫早市と雲仙市は、地域活性化の実現に関して大. きな困難を抱えていることが分かる。現在の諫早市と雲仙市は、いわゆる「平. 成の大合併」で誕生した比較的新しい自治体である(諫早市:2005 年 3 月 1. 日、雲仙市:2005 年 10 月 11 日にそれぞれ誕生)。そして、次節で簡単に触れ. るように、両市とも合併に至る過程は複雑なものであり、そのなかで軋轢や対. 立も生じていた。さらに、諫早市と雲仙市は、諫早湾干拓事業(1989 年着工、. 97 年諫早湾締切、2008 年完成)という大規模公共事業を経験しており、その. 過程で激しい対立・分断を経験するだけでなく、現在もその状態が続いている。. このように、両市の地域住民は、地域の単位が変更されるなかで、地域への愛. 着心の揺らぎを経験していることに加え、大規模公共事業によりもたらされた. 対立・分断も経験していると想定される。これらは、地域活性化に向けた前提. である「地域社会を構成する主体」としての自己認識・他者認識を脅かすもの. である。言い換えれば、両市は、地域活性化に関して、地域アイデンティティ. の揺らぎと、外生的な地域対立という二重の困難を抱えていると予想される。. しかし、そうだからこそ、両市における地域活性化の方向性と具体的な道す. じを考察すること(そして、その学術的知見を社会に還元していくこと)に. は、学術的にも社会的にも意義があると考えられる。というのも、地域の活. 性化や再生に関する上述の先行研究は、取り組みに成功した事例(もしくは失. 敗した事例)の紹介と分析に終始することが多く、それ自体重要な知見ではあ. るが、取り組みの前提を欠く地域の困難さとそれを乗り越える手がかりに関す. る分析は十分ではなかった。そのため、困難を抱える地域において地域活性化. を構想する際に参照すべきものがなかったといえる。また、困難を抱える地域. に関する分析から得られる知見は、その他のより困難の少ないと考えられる. 事例にとっても大きな示唆を与える(逸脱事例のもつ理論的意義については、. Castles�1988)。これらの社会状況および学問状況をふまえて、本稿では、諫早. 市と雲仙市に在住の 18 歳以上の男女 2,100 名(諫早市 1,600 名、雲仙市 500 名). 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 522. を対象に実施したアンケート調査(「活力ある地域社会の形成」に関するアン. ケート調査 3))の結果の分析を通じて、市町村合併および大規模公共事業が人. びとの生活に与えた影響に関する認識を明確にし、地域活性化のカギとなる地. 域イメージや地域資源に関する認識を明らかにした上で、当該地域における地. 域活性化の可能性と課題を検討する。. これまで諫早市と雲仙市では、行政が主体となり、総合計画の策定のために、. 市政の現状と課題に関する大規模なアンケート調査 4)が実施されてきた(諫. 早市:2014 年 10 月、雲仙市:2014 年 7・8 月にそれぞれ実施)。これらの調査. は市政に関する住民意識を明らかにする点で大きな意義を有するが、総合計画. の策定が目的ということもあり、市町村合併や大規模公共事業の影響を正面か. ら問う質問項目は存在しない。そのため、この地域における地域活性化の課題. や困難さを十分に検討することはできない。他方で、先行研究の状況について. は、これまで諫早市と雲仙市における市町村合併の影響に関する研究は十分に. 進められてこなかった一方 5)で、諫早湾干拓事業に関する研究は様々な学問. 領域で進められてきた。例えば、法律学者は、現行の法制度のもとで、なぜ/. どのように諫早湾干拓事業に関する裁判がここまで拗れてしまったのかに関す. る分析を進めてきた「特集:諫早湾干拓紛争の諸問題」『法学セミナー』,�樫澤. 2018,�2019)。また、社会学者やジャーナリストは、直接的な当事者である漁業. 者や農業者への聞き取りを通じて、当事者が紛争をどのように理解しているの. かに関する分析を進めてきた(開田 2011,�2013,�2016,�清水 2007,�2013,�永尾 2000,�. 2005,�松橋 2010)。他方、自然科学者は、有明海の水質や潮流の変化、干拓事. 業によって作られた調整池の状況などを実際に調査し、科学的に明らかにして. きた(佐藤 2014,�高橋編 2010)。また、干拓事業を推進してきた関係者(諫早. 湾地域振興基金編 1993)や、反対運動に関与してきた市民活動家(山下 1989). による回顧録も残されている。これらの諫早湾干拓事業に関する先行研究や回. 顧録は、紛争の法的側面、直接的な当事者の見解、物理的な環境変化などを明. らかにする点で大きな意義を有する。しかし、間接的な当事者である地域住民. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 523. の見解を軽視していることに加え、「分断や対立を止揚し、新たな地域社会を. 形成していく」という視点を欠いている点で課題が残されていた。行政主体の. アンケート調査および諫早湾干拓事業に関する先行研究に対して、本稿が依拠. するアンケート調査は、一般住民が有する市町村合併および諫早湾干拓事業の. 影響に関する認識を明らかにすることに加え、今後の地域活性化のカギとなる. 地域イメージや地域資源に関する認識を明らかにする点で、学術的にも社会的. にも大きな意義 6)がある。. 本稿の構成は以下である。第二節では、諫早市と雲仙市における「平成の大. 合併」の経過と、諫早湾干拓事業の展開過程を振りかえる。ここでは、両市の. 概要を紹介し、市町村合併の経過を確認した上で、干拓事業の展開を整理する。. これらを通じて、地域活性化の取り組みの前提となる「地域社会を構成する主. 体」としての自己認識・他者認識を持つことが困難であることを確認する。第. 三節と第四節では、「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査の結. 果を紹介する。なお現在、アンケート調査の結果に関する本格的な分析を進め. ている段階であり、本稿では単純集計の結果を紹介し、そこから読み取れる知. 見を指摘するにとどまる。第三節では、アンケート調査の概要を示した上で、. 市町村合併および諫早湾干拓事業の影響に関する認識を整理する。ここでは、. 実際に地域住民が地域アイデンティティの揺らぎと地域対立の存在を認識して. いることを確認する。第四節では、地域イメージと地域資源に関する認識を紹. 介する。ここでは、「豊かな自然」というイメージと、「その恵み」である関連. 施設や特産品についての認識が共有されていることを指摘する。第五節では、. アンケート調査の結果をまとめ直し、両市における地域活性化の具体的な方向. 性として、地域に関する主体的な学習や地域間交流の促進、地域資源を活用し. た産業(例、六次産業化や体験型観光の育成)、そして自治体間連携の重要性. などを指摘し、これらを実現する上での注意点として、地域住民の主体的取り. 組みと行政のサポートの有機的連関の重要性について言及する。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 524. 2 �諫早市と雲仙市における大規模公共事業と市町村合併-諫早湾干拓 事業と「平成の大合併」-. 本節では、アンケート調査の結果を紹介・分析する準備作業として、今後の. 地域活性化を考える上で重要となる、諫早市と雲仙市が経験した二つの困難(大. 規模公共事業と市町村合併)について、簡単に紹介する。まず、諫早市と雲仙. 市の市役所がホームページで発信している情報 7)や政府統計(国勢調査、住. 民基本台帳人口など)を手がかりに、両市の概要を確認した上で、「平成の大. 合併」の経緯と諫早湾干拓事業の展開を紹介する。なお、本節の記述は、アン. ケート調査の結果を分析・考察するために必要となる歴史的文脈を理解するた. めのものであり、概説的なものにとどまることを指摘しておきたい。両市にお. ける市町村合併の経緯と、諫早湾干拓事業の展開に関する本格的な検討は別の. 機会に行いたい。. 図表1 長崎県の地図の一部(国土地理院作成のものを著者が加工). 赤文字は新しい名称を採用した新市町村名. 青文字は合併前の名称を採用した新市町村名. 緑文字は合併しなかった市町村. 黒文字は合併によりなくなった市町村名. ●は合併があった市町村の役場の位置. う く まち. お ぢ か ちょう. 長崎県 対馬 壱岐. 上県町 かみあがたちょう. 峰町. 豊玉町. 富江町. 福江市. 岐宿町. 有川町. 新 魚 目 町. 崎戸町. 大島村. 生 月 町. い き. つ き. ち ょ う. 平 戸 市鹿町町. 松浦市. 佐々町. 吉 井 町. 江 迎. 町. え. む か え. ち ょ う. 佐世保市. 波佐見町. 川棚町. 東彼杵町 ひがし その ぎ ちょう. 大村市 高 来 町. 大島町. 大瀬戸町 琴 海 町. 時津町. 長与町. 長 崎 市. 伊王島町 い おう じまちょう. こうやぎちょう. 香焼町. 高島町. 野 母 崎 町. 諫早市. 飯盛町. 吾妻町. 千々石町. 国 見 町. 有 明 町. 島原市. 小 浜 町. 西 有 家 町. 有 家 町. 宇久町. し ん. う お の め. ち ょ う. 対 馬 市. 壱岐市. 新 上 五 島 町. し ん. か み. ご. と う. ち ょ う. さ せ ぼ し. 西海市. 雲 仙 市. 五島市. 世知原町. つ. し. ま. し. 愛 野 町. さ ざ ちょう. 小佐々町. 黒島. 高 島. 西海町. 西彼町. 外 海 町. そ と. め. ち ょ う. 佐世保市. 鷹島町. 福島町. 上五島町. 若松町. 奈良尾町. 玉之浦町. 三井楽町 き しくちょう. 厳原町 いづ はら まち. 美津島町. 上対馬町. 深江町. 北有馬町. 南 有 馬 町口. 之 津 町. 南串山町. 石田町. 芦辺町. 勝本町. 小値賀町. い さ はや し. ご とう し. み い らく ちょう. ひ ら. ど. し. 三和町. き ん. か い. ち ょ う. せい ひ ちょう. さき と ちょう. かわ たな ちょう. は さ み ちょう. た か. き. ち ょ う. 小長井町 こ なが い ちょう. あ り. あ け ち ょ う. ち ぢ わ ちょう. お. ば ま ち ょ う. か づ さ まち. あ り. え. ち ょ う. 瑞 穂 町. う ん. ぜ ん. し. 田平町 た びら ちょう. しか まち ちょう. せ ち ばるちょう. い き し. ごう の うら ちょう. 郷ノ浦町. あし べ ちょう. み つ しま ちょう. かみ つ しまちょう. 佐 賀 県. 赤島. 黒島. 宇久島. 野 崎 島. 小値賀島. 赤 島. 頭 ヶ 島平. 島. 江 島. 大 立 島. 大 島. 奈留町 な る ちょう. 奈留島. 久賀島. 多々良島. 椛 島. 黒 島. 赤島. 福江島. 島山島. 嵯 峨 ノ 島. 姫島. 上阿値賀島. 平 戸 島. 生 月 島. 的山大島. 度島. 青島. 黒 島. 鷹島. 大飛島. 福島. あづまちょう. み ず. ほ ち ょ う. く ち. の. つ. ち ょ う. 加津佐町 南島原市 みなみ しま ばら し. ふ つ ちょう. 布津町. 森 山 町. 多良見町. さい かい し. 蛎 浦 島. 松島. 池 島沖. ノ 島. 大 村 湾. 女 島. 寄 島. 男島. 福江市. 五島市 ご とう し. 男女群島. 有明海. 橘湾. 中 通 島. さい かいちょう. 2010.03.31. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 525. 諫早市と雲仙市は、長崎県の中央部に位置しており、上述のように、「平成. の大合併」の 2005 年に誕生した。諫早市は、旧・諫早市、西彼杵郡の多良見町、. 北高来郡の飯盛町、森山町、高来町、小長井町の 1 市 5 町が新設合併すること. で、雲仙市は、南高来郡の国見町、瑞穂町、吾妻町、愛野町、千々石町、小浜. 町、南串山町の 7 町が新設合併することで誕生した。しかし、合併の機運が高. まった初期の段階では、現在の自治体の形が必ずしも予定されていたわけでは. なかった。後ほど簡単に紹介するように、実際の合併協議においては、別の組. み合わせも模索されていたし、合併自体が失敗に終わる可能性もあったのであ. る。合併の過程を振りかえる前に、両市の基礎的な情報を確認しておく。. 地域 項目 2015年度 2010年度 2005年度 2000年度 1995年度 1990年度 1985年度 1980年度 諫早市 総人口 138,078人(100.0%)140,752人(100.0%) 144,034人(100.0%) 144299人(100.0%) 142517人(100.0%) 138918人(100.0%) 134804人(100.0%)127339人(100.0%). 15歳未満人口 18,921人(13.7%) 20,146人(14.3%) 22,360人(15.5%) 24,700人(17.1%) 27,159人(19.1%) 29,742人(21.4%) 32,382人(24.0%) 32,266人(25.3%) 15〜64歳人口 81,661人(59.1%) 87,201人(62.0%) 92,050人(63.9%) 93,074人(64.5%) 92,722人(65.1%) 90,352人(65.0%) 86,753人(64.4%) 81,624人(64.1%) 65歳以上人口 37,472人(27.1%) 32,811人(23.3%) 29,614人(20.6%) 26,496人(18.3%) 22,521人(15.8%) 18,800人(13.5%) 15,664人(11.6%) 13,449人(10.6%). 雲仙市 総人口 44,115人(100.0%) 47,245人(100.0%) 49,998人(100.0%) 52,230人(100.0%) 54,048人(100.0%) 55,408人(100.0%) 57,380人(100.0%) 58,861人(100.0%) 15歳未満人口 5,530人(12.5%) 6,310人(13.4%) 7,401人(14.8%) 8,711人(16.7%) 10,276人(19.0%) 11,526人(20.8%) 12,837人(22.3%) 13,868人(23.6%) 15〜64歳人口 24,559人(55.7%) 27,283人(57.7%) 29,067人(58.1%) 30,944人(59.2%) 32,700人(60.5%) 34,498人(62.3%) 36,122人(63.0%) 37,143人(63.1%) 65歳以上人口 13,978人(31.7%) 13,609人(28.8%) 13,530人(27.1%) 12,575人(24.1%) 11,072人(20.5%) 9,382人(16.9%) 8,421人(14.7%) 7,850人(13.3%). 出典:各年度の国勢調査(図表は著者が作成). 図表2 諫早市と雲仙市における人口動態. 都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系). 地域 項目 2015年度 2010年度 2005年度 2000年度 1995年度 1990年度 1985年度 1980年度 諫早市 就業者数【人】 66,165 64,570 67,644 67,613 67,636 63,666 60,453 57,615. 第1次産業就業者数【人】 4,120 4,250 5,061 5,373 6,609 8,099 10,745 12,615 第2次産業就業者数【人】 14,729 14,341 16,027 18,596 18,851 17,397 14,957 13,101 第3次産業就業者数【人】 44,921 43,406 46,176 43,382 42,136 38,127 34,714 31,868. 雲仙市 就業者数【人】 23,096 23,337 25,350 26,420 27,245 27,608 27,987 28,383 第1次産業就業者数【人】 5,642 5,771 6,481 6,795 7,480 9,062 10,842 11,935 第2次産業就業者数【人】 4,484 4,614 5,453 6,659 6,794 6,454 5,594 5,219 第3次産業就業者数【人】 12,481 12,389 13,404 12,965 12,964 12,088 11,541 11,223. 出典:各年度の国勢調査(図表は筆者が作成). 図表3 諫早市と雲仙市における産業別就業者の推移. 諫早市は、有明海、大村湾、橘湾、多良岳に囲まれており、長崎市、大村市・. 佐世保市、雲仙市・島原市、佐賀県の各方面を結ぶ交通の要衝である。JR 長. 崎本線、JR 大村線、島原鉄道、九州横断自動車道、国道 34・57・207・257 号. が通っており、2022 年秋の開業に向けて長崎新幹線の建設も進んでいる。人. 口は、2021 年 1 月現在で 134,804 人となっている(住民基本台帳人口)。高齢. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 526. 化率は、2015 年で 27.1%であった(国勢調査)。産業面では、諫早中核工業団. 地を中心に製造業(電子機器、半導体、航空宇宙関連など)が盛んである一方. で、江戸時代から始まる干拓によってできあがった農地や丘陵地を利用した農. 業(米、たまねぎ、みかんなど)も盛んであり、長崎県を代表する穀倉地帯で. もある。産業別従事者の割合は、2015 年には、第一次産業が 6.2%、第二次産. 業が 22.3%、第三次産業が 67.9%であった(国勢調査)。なお、2005 年をピー. クに人口減少が進む一方で、高齢化率は近年急速に上昇している(国勢調査)。. また、第一次産業従事者の割合は減少しているが、第二次産業従事者の割合は. 比較的安定している。. 雲仙市は、島原半島の北西部に位置しており、有明海、橘湾、雲仙岳に囲ま. れている。険しい雲仙岳とそれに連なる丘陵地帯、海岸付近の平野部から構. 成されている。有明海に沿う形で島原鉄道と国道 251 号が通っており、橘湾沿. いから雲仙岳を抜け島原市にかけて国道 57 号線が通っている。また、多比良. 港から雲仙岳を通り島原半島を縦断する形で国道 389 号線も通っている。人口. は、2021 年 1 月現在で 42,696 人となっている(住民基本台帳人口)。高齢化率. は、2015 年で 31.7%であった(国勢調査)。産業面では、丘陵地や平野部を中. 心に農業(米、じゃがいも、だいこん、レタスなど)が盛んであることに加. え、小浜温泉や雲仙温泉に代表される観光業も盛んである。産業別従事者の割. 合は、2015 年には、第一次産業が 24.4%、第二次産業が 19.4%、第三次産業が. 54.0%であった(国勢調査)。1950 年代より人口減少が続いており(1955 年に. は 73,789 人)、高齢化率も 90 年代以降に急速に上昇している(国勢調査)。また、. 第一次産業従事者の割合と第二次産業従事者の割合が若干の減少傾向にあるも. のの、第一次産業従事者が多い点は特徴的である。. それでは、現在の諫早市と雲仙市が誕生した過程を、新聞報道を手がかりに. (主に、朝日新聞の長崎県版に依拠している)、簡単に整理する。上述のように、. 第一次地方分権改革の過程で、その受け皿となる効率的な基礎自治体の必要性. が認識され、1990 年代末から市町村合併への動きが強まっていく。長崎県で. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 527. も 90 年代末になると、市町村合併に向けて動きが活発になっていく。2000 年. 2 月には、旧・諫早市、北高来郡の飯盛町、森山町、高来町、小長井町、西彼. 杵郡の多良見町、南高来郡の愛野町、吾妻町、千々石町、小浜町、南串山町. の 1 市 10 町からなる「県央地区市町村合併等調査研究会」が立ち上げられた。. この段階では、南高来郡の愛野町、吾妻町、千々石町、小浜町、南串山町は、. 1999 年に設立された「島原半島市町村合併調査検討委員会」にも同時に加入. していた。「県央地区市町村合併等調査研究会」では、当初、1 市 10 町での合. 併案と、南高来郡の 5 町を除いた 1 市 5 町による合併案、小浜町と南串山町. を除いた 1 市 8 町による合併案も検討された(『朝日新聞』2000 年 11 月 28 日. 版)。しかし、南高来郡の 5 町は、県央地区との合併に関して、町内に反対の. 声が多いことを理由に、2000 年 11 月に、島原半島内での合併を模索する方針. を決め、「県央地区市町村合併等調査研究会」からの離脱を決めた(同上)。. その後、2001 年 4 月に、旧・諫早市、飯盛町、森山町、高来町、小長井町、. 多良見町は、「県央地区任意合併協議会」を立ち上げた。しかし、多良見町は、. 同時に「西彼杵郡市町村合併調査研究会」にも参加しており、合併後の自治体. の形はなお流動的であった(『朝日新聞』2001 年 4 月 25 日版)。法定協議会へ. の早急な移行を求める旧・諫早市と北高来郡の 4 町に対し、多良見町は、西彼. 杵郡内での合併や長崎市との合併も選択肢として検討しており、足並みが揃わ. なかった(『朝日新聞』2002 年 1 月 26 日版)。結局、多良見町を除いた 1 市 4. 町が先行する形で、2002 年 4 月に「県央地区一市四町協議会」という法定協. 議会を立ち上げることになり、各自治体の議会において決定がなされた(『朝. 日新聞』2002 年 3 月 27 日版)。合併に関して町内に多様な意見が存在した多. 良見町は、2002 年 5 月に住民を対象に大規模な意識調査を行い、県央地域へ. の合併を望む声が多数を占めたことを受け(『朝日新聞』2020 年 5 月 8 日版)、. 同年 6 月に、多良見町議会が「県央地区一市四町協議会」への参加を決定した。. ここで現在の諫早市に連なる形が固まることになり、法定協議会において、合. 併方式、名称、新市役所の位置、議員定数などに関する議論を進めていった。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 528. 多良見町も含めた 1 市 5 町による法定協議会は、合併に向けて順調に協議を. 重ねているように見えたが、大きな動きがあったのは 2003 年 6 月である。小. 長井町議会が町内における反対・疑問の声を受け、法定協議会からの離脱を決. 定したのである(『朝日新聞』2003 年 6 月 14 日版)。再び 1 市 4 町体制となっ. た法定協議会はその後も議論を進め、2003 年 11 月には、合併期日を 2005 年 3. 月 1 日とすることを決め(『朝日新聞』2003 年 11 月 12 日版)、12 月 13 日には. 合併調印式が行われた(『朝日新聞』2003 年 12 月 14 日版)。なお、この間に、. 多良見町では、県央地区との合併に対して疑問の声が残っていたこともあり、. 再び意識調査を行ったが、県央地区との合併に賛成の声が多数を占めた(『朝. 日新聞』2003 年 12 月 3 日版)。その一方で、小長井町は、2004 年 1 月に、合. 併の是非を問う住民投票を実施した(告示 8 日、投票 18 日)。合併の賛成派は、. 生活圏が共通する県央地区での合併こそが生き残る道と主張し、反対派は、合. 併によりきめ細かな行政サービスが実現しなくなると主張していた(『朝日新. 聞』2004 年 1 月 17 日版)。「すぐ合併」、「いずれ合併」、「合併に反対」の選択. 肢からひとつを選ぶ小長井町の住民投票の結果は、「すぐ合併」が多数であっ. た(『朝日新聞』2004 年 1 月 19 日版)。この住民投票の結果を受けて、小長井. 町は再び法定協議会への参加を表明し、町議会の決定と法定協議会側の規約変. 更を経て、2004 年 3 月に再び加盟が認められた(『朝日新聞』2004 年 3 月 26. 日版)。その後、同年 4 月 28 日は、合併協定書への調印式が行われた。このよ. うな過程を経て、2005 年 3 月 1 日に、現在の諫早市が誕生している。. 現在の雲仙市が誕生する過程は、より複雑である。上述の「島原半島市町. 村合併調査検討委員会」は 1999 年 7 月に設立され、島原半島の 1 市 16 町村が. 加盟して、島原半島における市町村合併のあり方を検討していた(『朝日新聞』. 1999 年 7 月 3 日版)。ここには、現在の雲仙市を構成するすべての自治体が参. 加していたが、愛野町、吾妻町、千々石町、小浜町、南串山町の 5 町は、旧・. 諫早市などの県央地区との合併の可能性も残していた。この委員会では、合併. の枠組として、島原半島全体での合併、二分割案、三分割案、四分割案などが. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 529. 検討されていた(『朝日新聞』1999 年 12 月 28 日版)。その後、島原半島全体. での合併と、二つの四分割案が検討されることになった(『朝日新聞』2000 年. 1 月 29 日版)。現在の雲仙市に関係する自治体について、四分割案のひとつは、. 「有明町、国見町、瑞穂町、吾妻町、愛野町」と「千々石町、小浜町、南串山町」. に分けるものであり、もうひとつの四分割案は「有明町、国見町、瑞穂町」と「吾. 妻町、愛野町、千々石町、小浜町、南串山町」に分けるものであった。このよ. うに、合併が議論された当初は、現在の雲仙市とは違う枠組が有力な選択肢と. して想定されていたのである。. 「島原半島市町村合併調査検討委員会」では上記の三つの合併案が議論され. てきたが、大きな転機となったのが、上述のように、旧・諫早市との合併も視. 野に入れていた愛野町、吾妻町、千々石町、小浜町、南串山町の 5 町が 2000. 年 11 月に「県央地区市町村合併等調査研究会」を離脱したことである(『朝日. 新聞』2000 年 11 月 28 日版)。これにより、島原半島内部での合併が基本路線. となった。しかし、合併後の新しい自治体の形に関する合意が形成できず、協. 議が続いていたが、合併調査検討委員会の解散の時期が迫る 2001 年 3 月に、. 新たな動きが現れた。まず、有明町、国見町、瑞穂町の 3 町と、小浜町、南. 串山町、加津佐町、北有馬町の 4 町がそれぞれ任意協議会の設立を目指すこ. とになったのである(『朝日新聞』2001 年 3 月 27 日版)。これを受け、千々石. 町、愛野町、吾妻町は 3 町での合併を視野に議論を続け、同年 9 月には 3 町で. の「北西部任意合併協議会」の設立を決め(『朝日新聞』2001 年 9 月 11 日版)、. 2002 年 4 月には法定協議会(「北西部合併協議会」)へと発展していった。一. 方で、小浜町、南串山町、加津佐町、北有馬町は、20001 年 9 月に、4 町での「南. 西部任意合併協議会」の設立を決定した(『朝日新聞』2001 年 10 月 13 日版)。. また、2002 年 3 月には、有明町、国見町、瑞穂町は、3 町による「北東部任意. 合併協議会」を設立した(『朝日新聞』2002 年 3 月 30 日版)。しかし、同年 6. 月には、有明町は 3 町による合併に対して町内の反対・疑問の声が大きいとし. て、「北東部任意合併協議会」から離脱を表明し、島原市との合併を模索する. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 530. ことになった(『朝日新聞』20002 年 6 月 5 日版)。その後、残された瑞穂町と. 国見町は、千々石町、愛野町、吾妻町との合併を模索し、3 町が設立していた「北. 西部合併協議会」に加入することになった(『朝日新聞』2002 年 6 月 19 日版)。. また、6 月には、小浜町と南串山町が、北部との合併を求める声が大きいとして、. 「南西部任意合併協議会」からの離脱を表明し、「北西部合併協議会」への加入. を求めて働きかけることになった(『朝日新聞』2002 年 6 月 25 日版、同 2002. 年 6 月 29 日版)。この動きに対して、2002 年 8 月に、「北西部合併協議会」側. は、「現段階での加盟は困難」としていったん加入拒否を表明するが、引き続. き協議を続けていくことになった(『朝日新聞』2002 年 8 月 20 日版)。その後. も、「北西部合併協議会」内部で議論が繰り返されたが、国見町、愛野町、千々. 石町は、財政基盤の優れた小浜町などの加入を認める一方で、瑞穂町と吾妻町. は、産業基盤の違いを強調し、加入の拒否を主張し、内部対立が深刻化した(『朝. 日新聞』2002 年 10 月 13 日版)。小浜町と南串山町への対応をめぐり、「北西. 部合併協議会」内部で、5 町合併派と 7 町合併派の間の亀裂が表面化すること. になったのである。. 「北西部合併協議会」が行き詰まるなかで、新たな動きが模索され始めた。. 2003 年 3 月には、小浜町と南串山町が任意協議会として「雲仙地域合併推進. 協議会」を設立し(『朝日新聞』2003 年 3 月 26 日版)、同年 4 月には、愛野町. と千々石町が同じく任意協議会を設置した。さらに、2003 年は、4 年に一度の. 統一地方選挙の年であり、町議会選挙が市町村合併の方向性に影響を与えるこ. とになる。統一地方選後、吾妻町では、7 町合併派が議会多数派を占め、小浜. 町と南串山町の加入を認める方向に転換したのに対して、瑞穂町では、5 町合. 併派が引き続き議会多数を占め、加入反対を維持することになった(『朝日新聞』. 2003 年 5 月 30 日版,同 2003 年 6 月 17 日版)。瑞穂町の強い反対の態度が変. わらないことを受けて、2003 年 8 月に「北西部合併協議会」はいったん解散. を決定し(『朝日新聞』2003 年 8 月 12 日版)、同年 9 月に、小浜町と南串山町. も含めた 7 町で新たな任意協議会(「雲仙地区任意合併協議会」)を設けること. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 531. にした(『朝日新聞』2003 年 9 月 4 日版)。その後、法定協議会(「雲仙合併協. 議会」)へと移行することになり(『朝日新聞』2003 年 10 月 1 日版)、合併方式、. 名称、新市役所の位置、議員定数などに関する議論が進められることになった。. ここに来て、現在の雲仙市に連なる形が固まったのである。. しかし、その後も合併は一筋縄には進まなかった。吾妻町、瑞穂町、国見町. に住む地域住民の有志が中心となり、2004 年 9 月に、合併の枠組みに関する. 住民投票の実施を求めて、各町長に対して、住民投票条例の制定を直接請求し. たのである(『朝日新聞』2004 年 9 月 2 日版)。吾妻町と国見町の議会は住民. 投票条例を否決したのに対して(『朝日新聞』2004 年 9 月 25 日版・10 月 2 日. 版)、瑞穂町は可決した(『朝日新聞』2004 年 9 月 11 日版)。瑞穂町の住民投. 票は、「瑞穂町、吾妻町、国見町、愛野町、千々石町、小浜町、南串山町によ. る 7 町合併」と「瑞穂町、吾妻町、国見町による 3 町合併」の選択肢から選択. するものとなり、10 月 3 日に実施された。結果は、「3 町合併」が多数を占め. た(『朝日新聞』2004 年 10 月 4 日版)。この結果を受けて、「雲仙合併協議会」. 側は、瑞穂町を除いた 6 町での合併に向けて、法定協議会(「新雲仙合併協議会」). を再設置し、2005 年 10 月の合併に向けて動き出し(『朝日新聞』2004 年 10 月. 10 日版)、同年 12 月には合併協定書への調印を行った(『朝日新聞』2004 年. 12 月 11 日版)。一方で、上記の住民投票を働きかけた地域住民は、3 町合併に. 関する法定協議会の設置を求めて、各町の選挙管理委員会に署名を提出した. (『朝日新聞』2004 年 11 月 5 日版)。これに対して、吾妻町、国見町の各議会. は 3 町合併に関する条例案を否決し、三町合併が事実上困難になったことを受. けて、瑞穂町の議会も条例案を否決し、「新雲仙合併協議会」への参加を表明. した(『朝日新聞』2005 年 2 月 3 日版)。その後、2005 年 2 月に、「新雲仙合併. 協議会」側は瑞穂町の加入を了承し、同年 10 月の合併に向けて、七町での合. 併協定書への調印式を行った(『朝日新聞』2005 年 2 月 24 日版)。このような. 複雑な過程を経て、現在の雲仙市は、2005 年 10 月 11 日に誕生したのである。. ここまで現在の諫早市と雲仙市が誕生する過程を簡単に整理してきた。両市. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 532. における地域活性化の可能性と課題を検討する本稿にとって重要な点は、第一. に、現在の形は、市町村合併が議論された当初は、必ずしも自明ではなかった. こと、第二に、様々な利害や思惑が絡みつつ、首長や議員を中心に協議が進め. られるだけでなく、地域住民の関与・参加などもあり、多様な主体が関係した. 複雑な交渉・調整の過程が繰り広げられ、最終的に現在の形が選び取られたこ. と、そして第三に、この過程において激しい対立も経験してきたことにある。. 続いて諫早湾干拓事業の経過について、簡単に整理する。上述のように、諫. 早湾干拓事業は、「国営諫早湾干拓事業」8)を正式名称とし、1989 年に着工し、. 97 年に諫早湾を締め切り、2008 年に完成したものであるが、長い歴史的背景. を持つものでもある。というのも、第二次世界大戦後、諫早湾(や諫早湾がそ. の一部である有明海)を埋め立てる事業構想が何度も提起され、その都度反対. 運動に直面し、計画の見直しを行うなどの紆余曲折を経て、ようやく国営諫早. 湾干拓事業として結実した経緯があるからである。ここでは、先行研究や当事. 者による回顧録 9)を手がかり(樫澤 2018,�2019,�山下 1989,�諫早湾地域振興基金. 1993)に、その流れを簡単に整理する。. 諫早湾を干拓する構想の端緒は、1952 年の「長崎大干拓構想」に遡る。こ. の構想は、戦後の食糧危機への対応として、水田を作り、稲作を進めることを. 目的としており、当初の計画では、国見町(現・雲仙市)と小長井町(現・諫. 早市)を潮受堤防で結び、諫早湾全体を干拓することが検討されていた。しかし、. 諫早湾内の漁業関係者からの反対に加え、1960 年代に顕著になった米の余剰. 問題に直面して、「長崎大干拓構想」は頓挫することになった(樫澤 2018,�p.14)。. その後、1970 年に、長崎県と農林水産省は、「長崎南部地域総合開発計画」. を示す。ここでは、事業目的が稲作の促進から、土地造成(工業用地と農業・. 酪農用地の確保)および水の確保(農業用水と都市用水)に変更され、事業規. 模もわずかに縮小された。諫早湾内の漁業者が行政の働きかけにより少しずつ. 賛成へと態度を変化させる一方で、諫早湾外の漁民や市民運動家を中心に反対. 運動が強まった(樫澤 2018,�p.15)。これらの反対運動に加え、事業計画が楽観. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 533. 的すぎるなどの批判も受け、1982 年には「長崎南部地域総合開発計画」は撤. 回されることになった。. その後、事業目的をあらため、規模を縮小することで再提案されたのが、「国. 営諫早湾干拓事業」である。ここでは、事業目的として、優良農地の造成に加. え、洪水や高潮対策などの防災対策が前面に出され、事業規模は、吾妻町(現・. 雲仙市)と高来町(現・諫早市)を潮受堤防で結ぶ形に縮小された。1985 年. に農林水産省と漁業関係者の間で合意が成立し、「国営諫早湾干拓事業」は、. 89 年に着工され、97 年には諫早湾が締め切られ、2008 年に完成した。しかし、. この過程で、工事の影響(とくに諫早湾の締め切り)によって漁業被害が生じ. ているとして、漁業者が中心となり、工事の差し止めを求めた裁判が提起され. た。この裁判は、2004 年に佐賀地裁において工事の差し止めが認められたが、. 05 年の福岡高裁において佐賀地裁の判断が覆され、事業は再開されることに. なった。その後も、漁業者らの開門賛成派は潮受堤防の開門を求める裁判を起. こし、08 年に佐賀地裁で開門を認める判決を得て、10 年には福岡高裁もそれ. を支持した。その後、国が上告を断念し、開門判決が確定することとなった。. その一方で、旧干拓地の住民や農民を中心に、開門が実施されると日常生活や. 農業に影響が出るとして、2011 年に、開門の差し止めを求める裁判が長崎地. 裁に提訴された。長崎地裁は、2013 年に、開門反対派の原告の訴えを認めて、. 開門の差し止めの判決を下した。その後、2015 年の福岡高裁でも、長崎地裁. の判断が支持された。つまり、国は、開門賛成派および開門反対派の各原告と、. 異なる裁判を繰り広げるなかで、潮受堤防の開門に関して相矛盾する義務を負. う状態に至ったのである(なお、現在でも諫早湾干拓紛争に関する複数の裁判. が展開されており、司法制度による統一的な判断が下されるかは、現状では明. らかではない)。. このように、長い歴史的背景を持つ諫早湾干拓事業は、多数の地域住民を巻. き込む形で展開され、地域社会を二分するような対立を引き起こしながら展開. された。現在では、司法制度のもとで紛争処理が目指されているが、上記のよ. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 534. うに、開門をめぐり相矛盾する判断を並立させるなど、紛争処理に失敗するだ. けでなく、それを固定化・悪化させてしまっている。紛争が長期化するにつれ、. 地域社会にも大きな影響を与えており、狭義の当事者を越えて、地域社会全体. を巻き込む形で、対立や分断を引き起こしているのである。. 本節では、諫早市と雲仙市が経験した地域社会に大きな影響をもたらしたと. 考えられる二つの出来事(「平成の大合併」と諫早湾干拓事業)の経過を簡単. に振りかえった。重要な点は、「平成の大合併」も諫早湾干拓事業も、それぞ. れが持ち上がった当初の段階では現在とは異なる形が模索・検討されており、. 紆余曲折を経て現在に至るが、その過程で地域社会に深刻な対立や分断が引き. 起こされたことにある。対立や分断をはらんだ地域社会の単位の見直しは、地. 域アイデンティティの揺らぎをもたらすだけでなく、新しくできた地域社会に. 愛着心を持ちにくくするものと考えられる。また、大規模公共事業によって引. き起こされた地域社会における対立・分断の固定化・悪化は、自らとは異なる. 立場の他者とのコミュニケーションを困難にさせることが予想される。言い換. えれば、諫早市と雲仙市の地域住民は、「平成の大合併」と諫早湾干拓事業に. より、地域活性化の取り組みの前提となる「地域社会を構成する主体」として. の自己認識・他者認識を持つことが困難になったと想定される。しかし、これ. らはあくまでも理論的な推察であり、実際に地域住民がこれらの二つの出来事. の影響をどのように認識しているかは、調査を行わなければ分からない。次節. では、筆者が共同研究者と実施した「活力ある地域社会の形成」に関するアン. ケート調査を手がかりに、地域住民の認識を明らかにする。. 3 �「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査が示すこと① -諫早湾干拓事業と「平成の大合併」の影響-. 本節では、「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査の概要を示. した上で、諫早湾干拓事業と「平成の大合併」の影響に関する地域住民の認識. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 535. を明らかにする。. 「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査は、市町村合併や大規. 模公共事業を経験した地域の住民が、合併後の地域社会や行政サービスに対し. て何を思い、公共事業がもたらした社会生活の変化などをどのように感じてい. るかを明らかにし、地域活性化に関する学術的分析や政策策定に役立てていく. ことを目的として企画された。上述のように、諫早市と雲仙市に住む 18 歳以. 上の住民 2,100 名を住民基本台帳から無作為抽出し(諫早市 1,600 名、雲仙市. 500 名を対象)、質問票を送付する「郵送調査」という調査法を用いて実施した。. 調査期間は 2020 年 9 月 1 日から 10 月 31 日とし、合計で 731 通の回答を得た. (諫早市 556 通、雲仙市 175 通)。有効回収率は、34.8%となる(諫早市 34.7%、. 雲仙市 35.0%)。質問項目は、「市政とまちづくりについて」、「歴史と自然環境. について」、「市町村合併とその影響について」、「諫早湾干拓事業とその影響に. ついて」、「諫早湾干拓紛争をめぐる裁判と紛争処理について」、「回答者の属性. について」から構成されている。まず本節では、上記の質問のなかから、「平. 成の大合併」と諫早湾干拓事業の影響に関するものに注目して、地域住民の認. 識を確認する。. 31.7. 35.9. 14. 16.2. 32.8. 30.7. 28.7. 25.1. 33.7. 32. 55.1. 52.5. 1.7. 1.5. 1.3. 0.2. 0.9. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問18(1)合併前の旧5町間の交流の必要 性. 問18(2)旧諫早市と旧5町間の交流の必 要性. 問18(3)旧自治体に活力が生まれた. 問18(4)合併後の諫早市全体に活力が生 まれた. 諫早市:市町村合併に関する認識(n=463). 感じる+少し感じる どちらともいえない 感じない+あまり感じない 無回答 合併後に移入のため、分からない. 22.2. 27.8. 9.3. 16.7. 27.8. 35.2. 25.3. 29. 46.3. 34.6. 63.6. 51.9. 3.7. 2.5. 1.9. 2.5. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問18(1)雲仙市の一体感. 問18(2)旧7町間の交流の必要性. 問18(3)旧自治体に活力が生まれた. 問18(4)雲仙市全体に活力が生まれた. 雲仙市:市町村合併に関する認識(n=162). 感じる+少し感じる どちらともいえない 感じない+あまり感じない 無回答. 図表4:市町村合併に関する認識①. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 536. 22.9. 33.3. 27.6. 19.2. 5.2. 62.9. 59.4. 63.5. 62.4. 80.1. 12.7. 6.3. 7.6. 17.1. 11.7. 1.5. 1.1. 1.3. 1.3. 3. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問18(5)保険・医療・福祉サービス. 問18(6)生活基盤サービス. 問18(7)文化・教育、スポーツに関する サービス. 問18(8)役所への相談しやすさ. 問18(9)市議会議員への相談しやすさ. 諫早市:市町村合併の影響に関する認識(n=463). 改善した+やや改善した 変化なし 悪化した+少し悪化した 無回答. 35.8. 33.3. 21. 21.6. 8.6. 54.9. 61.1. 67.3. 58.6. 76.5. 7.4. 3.7. 9.9. 16.7. 11.1. 1.9. 1.9. 1.9. 3.1. 3.7. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問18(5)保険・医療・福祉サービス. 問18(6)生活基盤サービス. 問18(7)文化・教育・スポーツに関する サービス. 問18(8)役所への相談しやすさ. 問18(9)市議会議員への相談しやすさ. 雲仙市:市町村合併の影響に関する認識(n=162). 改善した+やや改善した 特に変化なし 悪化した+少し悪化した 無回答. 図表5:市町村合併に関する認識②. 図表 4 と図表 5 は、「市町村合併の影響」に関する質問項目の回答結果をま. とめたもの 10)である。まず、「平成の大合併」によって、旧自治体と新しく誕. 生した自治体のそれぞれについて、活力が生まれたと感じている人が少数であ. ることが分かる。また、雲仙市に関しては、合併により一体感が生じたと感じ. る人が少ないことも分かる。そして、地域間の交流に関しては、雲仙市の住民. に対して、諫早市の住民の方がその必要性を感じていることが分かる。各種行. 政サービスに関しては、諫早市と雲仙市のそれぞれにおいて、悪化したと感じ. る人に比べて、改善したと感じる人の方が多いことが分かる。それに対して、. 役所への相談のしやすさは、改善したと答える人と、悪化したと答える人が拮. 抗しており、議員への相談しやすさは、悪化したと答える人が多い。これらの. 結果は、「平成の大合併」により、地域住民は、各種行政サービスにおける改. 善を感じる一方で、活力や一体感が生まれるなどの経済的効果や地域統合に関. する効果については感じられず、また地域代表へのアクセスについても負の影. 響を感じていることを示している。. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 537. 69.4. 66.4. 57. 54.5. 40.6. 65.5. 19.2. 20.3. 28.1. 32.9. 37.1. 25.5. 10.8. 12.6. 12.9. 11.2. 21.2. 7.7. 0.5. 0.7. 2. 1.4. 1.1. 1.3. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. (ア)現在お住まいの近所. (イ)現在お住まいの町内. (ウ)現在お住まいの小学校区. (エ)現在お住まいの合併前の旧自治体. (オ)現在の諫早市(平成の合併後の諫早 市). (カ)長崎県. 諫早市:愛着を感じる単位(n=556). 愛着を感じる+少し愛着を感じる どちらともいえない. 愛着を感じない+あまり愛着を感じない 無回答. 72.6. 72. 61.7. 63.4. 48.6. 72. 17.7. 19.4. 26.9. 24. 34.9. 20. 8. 6.9. 8.6. 10.3. 14.9. 5.7. 1.7. 1.7. 2.9. 2.3. 1.7. 2.3. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. (ア)現在お住まいの近所. (イ)現在お住まいの町内. (ウ)現在お住まいの小学校区. (エ)現在お住まいの合併前の旧自治体. (オ)現在の雲仙市. (カ)長崎県. 雲仙市:愛着を感じる単位(n=175). 愛着を感じる+少し愛着を感じる どちらともいえない. 愛着を感じない+あまり愛着を感じない 無回答. 図表6:愛着を感じる単位. 図表 6 は、「愛着心を感じる単位」に関する質問項目の回答結果をまとめた. もの 11)である。まず、もっとも身近な単位である近所と、選択肢のなかでもっ. とも大きい単位である長崎県に愛着を感じている人が多いことが分かる。そし. て、単位が大きくなるにつれて、愛着心は低下する傾向があり、現在の諫早市. や雲仙市に対する愛着心が最も低いことが分かる。これらの結果は、地域住民. の間で、合併後の自治体に対する愛着心が十分に育まれていないことを示唆し. ている。. 5.9 18.2 20.7 15.8 20.5 15.6 2.5. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 諫早市:諫早湾干拓堤防道路の利用頻度(N=556). ほぼ毎日 週に1、2回程度 月に1回程度. 半年に1回程度 1年に1回程度 数年に1回程度. 利用したことがない 無回答. 2.3 6.9 30.9 23.4 10.3 17.7 5.13.4. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 雲仙市:諫早湾干拓堤防道路の利用頻度(N=175). ほぼ毎日 週に1、2回程度 月に1回程度. 半年に1回程度 1年に1回程度 数年に1回程度. 利用したことがない 無回答. 図表7:諫早湾干拓事業でできた設備・施設の利用・訪問頻度①. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 538. 1.1. 3.1. 5.9. 7.4. 12.8. 10.4. 41.4. 32.6. 36.5. 44.2. 2.3. 2.3. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問21潮受堤防展望所. 問22中央干拓地. 諫早市:諫早湾干拓事業関連施設の訪問頻度 (n=556). よく訪れる(月に1回以上) しばしば訪れる(半年に1回以上). まれに訪れる(1年に1回以上) 数度訪れたことがある. 訪れたことがない 無回答. 2.9. 2.3. 5.1. 3.4. 13.7. 3.4. 32.6. 24.6. 42.3. 62.3. 3.4. 4. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 問21潮受堤防展望所. 問22中央干拓地. 雲仙市:諫早湾干拓事業関連施設の訪問頻度 (n=175). よく訪れる(月に1回以上) しばしば訪れる(半年に1回以上). まれに訪れる(1年に1回以上) 数度訪れたことがある. 訪れたことがない 無回答. 図表8:諫早湾干拓事業でできた設備・施設の利用・訪問頻度②. 図表 7 と図表 8 は、「諫早湾干拓事業によってできた設備・施設の利用頻度. や訪問頻度」に関する質問項目の回答結果をまとめたもの 12)である。諫早湾. を締め切るために、高来町と吾妻町を結ぶ形で潮受堤防(約 8㎞)が作られた. が、それは諫早湾干拓堤防道路(雲仙多良シーライン)としても活用されてお. り、諫早湾の両岸を、諫早市内中心部を通過することなく移動することを可能. にするものである。諫早湾干拓堤防道路の中間地点付近には、展望所が設置さ. れており、中央干拓地や調整池と有明海のそれぞれを眺めることができる。今. 回のアンケート調査では、地域住民が諫早湾干拓堤防道路や展望所を利用する. 機会が少ないことが明らかとなった(とくに、諫早市の住民)。同様に、中央. 干拓地を訪問する機会も少ないことが分かった(とくに、雲仙市の住民)。こ. の結果は、地域住民が、諫早湾干拓事業で実際にできた設備・施設に直接触れ. る機会が少ないことを示している。. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 539. 20.3. 70. 12.9. 11. 49.3. 43.2. 15.5. 43.5. 30. 34.7. 53.8. 63.8. 65.1. 11.3. 20.7. 21.6. 11. 42.4. 16.4. 44.1. 46.9. 32.6. 40.5. 54.1. 41.4. 50.7. 48. 38.3. 30.4. 27. 59.2. 57.4. 53.1. 60.8. 35.8. 11.7. 41.2. 39.4. 16.4. 13.8. 28.1. 13.5. 16.9. 14.7. 5.9. 4. 6.3. 26.4. 19.4. 22.8. 25.5. 1.4. 2. 1.8. 2.7. 1.8. 2.5. 2.3. 1.6. 2.3. 2.5. 2. 1.8. 1.6. 3.1. 2.5. 2.5. 2.7. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. (ア)諫早市域に活力が生まれた. (イ)諫早湾干拓堤防道路ができて便利になった. (ウ)観光客が増えた. (エ)地域経済が豊かになった. (オ)新しくできた干拓地で農業が盛んになった. (カ)諫早市域の農地で塩害が減った. (キ)調整池付近を中心に動植物の生態系が豊か…. (ク)諫早湾・有明海の漁業が衰退した. (ケ)諫早湾・有明海の水質が悪化した. (コ)有明海の海流が変化した. (サ)低地の排水が改善した. (シ)高潮への防災機能が高まった. (ス)河川の氾濫が防げるようになった. (セ)悪臭がひどくなった. (ソ)害獣・害鳥・害虫が増えた. (タ)夏の暑さが厳しくなった. (チ)冬の寒さが厳しくなった. 諫早市:諫早湾干拓事業の生活・自然環境への影響に関する 認識(n=556). そう思う+ややそう思う どちらともいえない そう思わない+あまりそう思わない 無回答. 21.1 81.7. 21.1 10.9. 44 22.9. 10.9 43.4. 34.3 38.3. 34.9 48.6 48.6. 12 21.7 25.7. 13.7. 38.9 9.7. 50.3 56. 33.7 55.4. 56.6 43.4. 50.3 46.3 52. 41.7 43.4. 64.6 62.3. 56 64. 37.7 7.4. 25.7 29.7. 19.4 19.4. 28.6 10.9. 11.4 11.4 9.1 7.4 5.7. 21.1 12.6 16. 19.4. 2.3 1.1 2.9 3.4 2.9 2.3 4 2.3 4 4 4 2.3 2.3 2.3 3.4 2.3 2.9. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. (ア)雲仙市域に活力が生まれた. (イ)諫早湾干拓堤防道路ができて便利になった. (ウ)観光客が増えた. (エ)地域経済が豊かになった. (オ)新しくできた干拓地で農業が盛んになった. (カ)雲仙市域の農地で塩害が減った. (キ)調整池付近を中心に動植物の生態系が豊か…. (ク)諫早湾・有明海の漁業が衰退した. (ケ)諫早湾・有明海の水質が悪化した. (コ)有明海の海流が変化した. (サ)低地の排水が改善した. (シ)高潮への防災機能が高まった. (ス)河川の氾濫が防げるようになった. (セ)悪臭がひどくなった. (ソ)害獣・害鳥・害虫が増えた. (タ)夏の暑さが厳しくなった. (チ)冬の寒さが厳しくなった. 雲仙市:諫早湾干拓事業の生活・自然環境への影響に関する 認識(n=175). そう思う+ややそう思う どちらともいえない そう思わない+あまりそう思わない 無回答. 図表9:諫早湾干拓事業が生活・自然環境に与えた影響. 16.4 14.9. 59 61.9. 48 46.9. 27.5 20.1 23.7 21. 20.1 52. 37.8 64.9. 24.8 38.5. 17.3 59.7. 44.6 45.1. 26.4 25.9. 37.4 36.5. 48.4 54 50.4 53.4 53.6. 31.5 42.1. 24.5 52.9. 44.4 44.1. 29.9. 37.6 38.5. 12.8 11.2. 12.6 15.1. 22.5 24.1 24.3 24.1 23.6. 14.6 18.3. 9.2 20.3 15.1. 36.7 9. 1.4 1.4 1.8 1.1 2. 1.4 1.6 1.8 1.6 1.4 2.7 2. 1.8 1.4 2 2 2. 1.4. 0 20 40 60 80 100. (ア)諫早市域に一体感をもたらした. (イ)諫早市域への誇りをもたらした. (ウ)諫早湾・有明海への意識を高めた. (エ)諫早湾干拓事業への関心を高めた. (オ)郷土の自然環境への意識を高めた. (カ)政治・行政に対する関心を高めた. (キ)国政(衆議院・参議院)選挙に影響を与えた. (ク)県知事選挙に影響を与えた. (ケ)市長(や旧町長)選挙に影響を与えた. (コ)県議会議員選挙に影響を与えた. (サ)市議会(や旧町議会)議員選挙に影響を与…. (シ)異なる地域の住民の間に対立を生じさせた. (ス)同じ地域内の住民の間に対立を生じさせた. (セ)農業者と漁業者の間に対立を生じさせた. (ソ)農業者同士の間に対立を生じさせた. (タ)漁業者同士の間に対立を生じさせた. (チ)諫早湾・有明海のことを話題にしにくくした. (ツ)諫早湾干拓事業に関する裁判への関心を高…. 諫早市:諫早湾干拓事業の社会環境への影響に関する認識 (n=556). そう思う+ややそう思う どちらともいえない そう思わない+あまりそう思わない 無回答. 8.6 9.7. 54.9 56.6. 38.3 40.6. 28.6 24. 18.3 17.1 16.6. 42.3 28.6. 54.9 17.7. 24.6 13.1. 51.4. 45.7 49.7. 26.3 25.7. 40.6 37.7. 42.9 44. 45.1 48.6 47.4. 37.1 48.6. 33.1 56.6. 53.1 45.1. 33.7. 42.3 37.1. 14.9 13.7 17.7 17.7. 24 27.4 32 29.7 31.4. 16 18.3. 7.4 21.1 17.7. 37.7 10.9. 3.4 3.4 4 4. 3.4 4. 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4.6 4 4. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. (ア)雲仙市域に一体感をもたらした. (イ)雲仙市域への誇りをもたらした. (ウ)諫早湾・有明海への意識を高めた. (エ)諫早湾干拓事業への関心を高めた. (オ)郷土の自然環境への意識を高めた. (カ)政治・行政に対する関心を高めた. (キ)国政(衆議院・参議院)選挙に影響を与えた. (ク)県知事選挙に影響を与えた. (ケ)市長(や旧町長)選挙に影響を与えた. (コ)県議会議員選挙に影響を与えた. (サ)市議会(や旧町議会)議員選挙に影響を与…. (シ)異なる地域の住民の間に対立を生じさせた. (ス)同じ地域内の住民の間に対立を生じさせた. (セ)農業者と漁業者の間に対立を生じさせた. (ソ)農業者同士の間に対立を生じさせた. (タ)漁業者同士の間に対立を生じさせた. (チ)諫早湾・有明海のことを話題にしにくくした. (ツ)諫早湾干拓事業に関する裁判への関心を高…. 雲仙市:諫早湾干拓事業の社会環境への影響に関する認識 (n=175). そう思う+ややそう思う どちらともいえない そう思わない+あまりそう思わない 無回答. 図表10:諫早湾干拓事業が社会環境に与えた影響. 図表9は、「諫早湾干拓事業が生活・自然環境に与えた影響」に関する質問項. 目の回答を、図表10は、「諫早湾干拓事業が社会環境に与えた影響」に関する質. 問項目の回答をまとめたもの 13)である。諫早市と雲仙市の住民は、諫早湾干拓. 事業の影響として、低平地の排水改善、高潮への対策、河川氾濫の防止などの「防. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 540. 災機能の向上」を感じ(とくに諫早市の住民)、また干拓堤防道路がもたらした. 「交通の利便性の向上」も実感している。また、諫早湾・有明海における漁業の. 衰退を感じる一方で、中央干拓地で農業が盛んになっているとも感じている。そ. して、諫早湾・有明海と自然環境への意識の高まりや、干拓事業やその裁判へ. の関心の高まりなど、「地域(問題)への関心の向上」も感じている。その一方で、. 地域経済を豊かにしたり、地域に活力を生んだという「地域経済への貢献」や、. 地域の一体感や誇りを生んだという「地域統合への貢献」については感じてい. ない。むしろ、地域間の対立や、農業者と漁業者の間の対立を生んだと感じている。. 以上のように、地域住民は、干拓事業に関して、両義的な評価(すなわち、防災. 機能と交通の利便性の向上を感じる一方で、経済的効果や地域統合に関する効. 果を感じず、むしろ対立・分断を生じさせた)を下していることが分かる。. 43.7 34.9 14.7 6.7. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 諫早市:諫早湾干拓事業への認識の変化(N=556). 良いものへと変化した+良いものへと少し変化した 変化していない 悪いものへと変化した+悪いものへと少し変化した 無回答. 34.3 43.4 17.1 5.1. 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 雲仙市:諫早湾干拓事業への認識の変化(N=175). 良いものへと変化した+良いものへと少し変化した 変化していない 悪いものへと変化した+悪いものへと少し変化した 無回答. 図表11:諫早湾干拓事業が社会環境に与えた影響. 図表 11 は、「諫早湾干拓事業に関する認識の変化」に関する質問項目の回答. をまとめたもの 14)である。興味深いことに、「良いものへと変化した」が、「悪. いものへと変化した」を大きく上回っている。この結果は、地域住民が、長い. 年月(1989 年着工、97 年諫早湾の締め切り、2008 年完成)のなかで、諫早湾. 干拓事業に関して上記のような複雑な思いを抱えつつも、現状を受容する形で. 認識を変化させていることを示唆している。. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 541. 28 13. 50 50. 62 56. 12 40. 35 50. 31 13. 21 10. 66 43. 9 7. 31 2. 11. 0 10 20 30 40 50 60 70. 首相による判断 地元選出の国会議員による調整. 国会による立法措置 中央省庁(農水省や国交省など)による調整. 裁判所による統一的な判断 裁判所による和解の働きかけ. 裁判以外の紛争解決機関の活用 知事(長崎県や佐賀県など)による調整 市長(雲仙市や諫早市など)による調整. 住民投票 当事者同士の話し合い. 当事者それぞれの弁護士による話し合い 当事者と一般住民による話し合い. 一般住民同士の話し合い 専門家(環境問題や地域問題など)による調整. 専門家と当事者・一般住民による話し合い 市民団体による働きかけ. 町内会や自治会などの地縁組織による働きかけ 業界団体(農協、漁協、商工会など). その他 無回答. 雲仙市:諫早湾干拓紛争の解決方法として望ましいもの(5 つまで選択可、回答数合計). 回答数. 69 61. 111 136. 190 172. 58 101. 76 162. 99 30. 67 31. 219 150. 19 34. 89 18. 36. 0 50 100 150 200 250. 首相による判断 地元選出の国会議員による調整. 国会による立法措置 中央省庁(農水省や国交省など)による調整. 裁判所による統一的な判断 裁判所による和解の働きかけ. 裁判以外の紛争解決機関の活用 知事(長崎県や佐賀県など)による調整 市長(諫早市や雲仙市など)による調整. 住民投票 当事者同士の話し合い. 当事者それぞれの弁護士による話し合い 当事者と一般住民による話し合い. 一般住民同士の話し合い 専門家(環境問題や地域問題など)による調整. 専門家と当事者・一般住民による話し合い 市民団体による働きかけ. 町内会や自治会などの地縁組織による働きかけ 業界団体(農協、漁協、商工会など). その他 無回答. 諫早市:諫早湾干拓紛争の解決方法として望ましいもの(5 つまで選択可、回答数合計). 回答数. 図表12:諫早湾干拓紛争の解決方法に関する認識. 図表 12 は、「諫早湾干拓紛争の処理方法として望ましいもの」として 5 つま. で選んでもらい、それらを集計したもの 15)である。上位を占めるのは、地域. 問題や環境問題の専門家による調整、裁判所による統一的な判断、裁判所によ. る和解の働きかけなど、「広義の専門家への委任」であり、それに続くのが「住. 民投票」である。その一方で、国会による立法措置、中央省庁による調整、首. 相による政治判断などの「従来的な処理方法」への期待は高くない。また、当. 事者同士の話し合い、当事者と一般住民の話し合い、一般住民同士の話し合い. など、「自治的な手法」への期待も低い。このように、地域住民は、諫早湾干. 拓紛争の処理方法として、広義の専門家による調整を期待しており、民主的基. 盤を有する政治(や政治による統制を受ける行政)による解決には期待してお. らず、また自らが当事者として能動的に働きかけ、解決していくという意識を. 有していない。言い換えれば、民主性や自主性ではなく、専門性への期待が大. きいといえる。. 本節では、「活力ある地域社会の形成」に関するアンケート調査のうち、「平. 成の大合併」と諫早湾干拓事業の影響に関する地域住民の認識を確認してきた。. 横浜法学第 29 巻第 3 号(2021 年 3 月). 542. 重要な点は、まず第一に、地域住民は、両者に関して両義的な評価をなしてい. る。すなわち、市町村合併によって、各種行政サービスの改善を感じる一方で、. 経済的効果や地域統合に関する効果を感じることができていない。同様に、諫. 早湾干拓事業によって、防災機能の向上や交通の利便性の向上を感じる一方で、. 経済的効果や地域統合に関する効果を感じることができていない。第二に、地. 域住民は、地域における対立・分断を感じていることに加え、愛着心の揺らぎ. や地域代表へのアクセスの悪化を感じているなど、地域の諸問題や活性化に主. 体的に取り組む意欲と条件を欠いている。上述のように、地域活性化に取り組. むためには、「地域社会を構成する主体」としての自己認識・他者認識が必要. である。しかし、地域住民は、干拓事業により地域に対立(地域間の対立およ. び漁業者と農業者の対立)が生じたと考える一方で、諫早市と雲仙市への愛着. 心がもっとも低くなっており、これらの調査結果は、「地域社会を構成する主. 体」としての自己認識・他者認識を持つのが困難であることを示唆している。. 加えて、市町村合併により地域代表である議員へのアクセスも困難となってい. ると感じており、地域の諸問題や活性化に取り組む意欲だけでなく、その条件. も欠いていることが分かる。なお、干拓事業に関する認識の好転や、干拓紛争. の処理方法における専門性への期待は、地域問題に主体的に取り組む意欲と条. 件を欠いていることを間接的に証明するものと考えられる。というのも、地域. 社会に対立があることを認識しながらも、主体的に取り組む意欲や条件が揃わ. ない以上、安寧な生活を送るためには、現状を肯定的に捉えることで納得した. り、専門家に委ねることによって現状が改善していくことに期待することは合. 理的といえるからである。. 以上のように、アンケート調査の結果は、「平成の大合併」と諫早湾干拓事. 業によって、地域活性化の取り組みの前提となる「地域社会を構成する主体」. としての自己認識・他者認識を欠く状態が生み出されたため、諫早市と雲仙市. における地域活性化が非常に困難であることを示唆している。この困難を乗り. 越えて、当該地域における活性化を実現するための手がかりはないのであろう. 長崎県諫早市・雲仙市域における地域活性化の可能性と課題. 543. か。次節では、この点に関する考察を行う。. 4 �「活力ある地域社会の形成」に関するア�

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