Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
歯周病系「歯周病の際の歯根齲蝕への対応について教え
てください?」
Author(s)
渋川, 義宏
Journal
歯科学報, 109(5): 494-496
URL
http://hdl.handle.net/10130/1623
Right
1.はじめに 近年,歯周治療が進歩して重度の歯周炎罹患歯も 保存可能となってきたが,同時に根面齲蝕の発生が メインテナンス時の予後不良要因の1つとなってい ます(図1,2)。メインテナンス時にプラークコン トロールが良好で歯周組織の安定が得られていても 根面齲蝕が発生することは稀ではありません。特 に,歯周病が重度であるほど治療後の歯根露出が多 くなり根面齲蝕のリスクが高くなります。歯肉退縮 により露出した根面はエナメル質と比較してミネラ ル濃度が低く耐酸性に劣るため,齲蝕のリスクが高 く,一般に齲蝕の進行が速いことや,隣接面部や根 分岐部病変部に発症する根面齲蝕など部位的に処置 が困難なことが多いため対応に苦慮するケースが少 なくありません。種々の研究から根面齲蝕の有病者 は根面齲蝕がない者と比較して,歯の喪失リスクが 高まることが示されており,残存歯を維持するため には根面齲蝕を予防することが非常に重要となりま す。したがって,歯周病患者では歯周治療における プラークコントロールと根面齲蝕の予防とは異なる 対応が必要と考えられます。 2.根面齲蝕の発症に関与する因子 根面齲蝕のリスクファクターは歯肉退縮による根 面露出が第一の要因となります。歯頚部や露出した 根面のプラークコントロールが十分に行えるかどう かが,根面齲蝕の発生を左右する大きな要因の1つ
臨床のヒント
Q&A
歯周病系
Q&Aコーナーを新設しました。まず東京歯科大学の3 病院の臨床研修歯科医から寄せられた質問に対しての回 答です。回答は本学3施設の専門家にお願い致します。 内容によっては基礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数 の回答者に依頼する場合もあります。毎号掲載いたしま すので,会員の皆様もご質問がございましたら,ぜひ東 京歯科大学学会までeメールかファックスで依頼してい ただきたいと存じます。必ずご期待に添えることと思い ます。今号は歯周病の際の根面齲蝕への対応に関する質 問です。Question
歯周病の際の根面齲蝕への対応について教えて下さい?Answer
図1 歯周疾患と根面齲蝕が併発している 図2 くさび状欠損が根面齲蝕になっている 歯科学報 Vol.109,No.5(2009) 494 ― 42 ―です。義歯のクラスプがかかっている歯や義歯床に 接している歯はプラークが停滞しやすくなるため, 自浄性を考慮した設計や鉤歯の状態に応じた注意深 いプラークコントロールが必要となります。さら に,歯周病患者の多くが中高年であるため,メイン テナンスしている間に高齢になり,さまざまな全身 疾患とそれに伴う薬剤の服用が生じてきます。加齢 に伴う唾液の減少や口腔乾燥を副作用とする薬剤の 服用により唾液分泌量の減少や唾液の緩衝能の低下 が生じ,自浄作用が低下します。図3に口腔乾燥を 生じやすい薬剤を示します。単独で口腔乾燥を引き 起こす薬剤はむしろ少なく,複数の薬剤を併用する ことによって口腔乾燥が引き起こされる危険性が高 いとされています。また,メンテナンス中に食生活 や嗜好品の変化などが生じ,齲蝕活動性を高めるこ とも多く十分な注意が必要です。 3.予防法 1)食生活の改善 頻繁に甘味食品を口にしている患者や口腔乾燥の ため飴をなめている患者は短期間に根面齲蝕が多発 することがあり,これらの習慣を改善する必要があ ります。予防としては口腔乾燥の場合は食事をよく 噛むことで唾液の分泌を促したり,飴の代わりにキ シリトールガムなどを使用することが考えられます。 2)セルフケア ⑴ フッ化物の使用 ①フッ化物配合歯磨剤 フッ化物は歯質周囲の環境中,つまり唾液中に微 量に存在することで脱灰抑制と再石灰化促進を果た すといわれています。したがって,根面齲蝕の予防 にはフッ化物配合歯磨剤を毎日用いることが効果的 と考えられます。歯周病を改善し,メインテナンス しながらフッ化物配合歯磨剤を併用するには,まず 最初に歯磨剤を用いずにブラッシングをした後に改 めて歯磨剤を用いて歯面全体に行き渡らせるように 再度,ブラッシングする方法が効果的です(0.5g 以 上の歯磨剤を使用し,ブラッシング後の洗口は2∼ 3回にとどめます)。 ②フッ化物配合洗口剤 1日1回,食後または就寝前に使用します。歯全 体に行き渡るように含み洗いをして吐き出した後, しばらく飲食や洗口は控えるようにします。フッ化 物配合歯磨剤との併用が効果的です。 ⑵ ブラッシング 根面は歯冠部エナメル質より磨耗しやすいためブ ラッシング圧やストロークの大きさなどに注意が必 要です。また,露出根面のブラッシングは歯間ブラ シやデンタルフロスなどの補助的清掃器具の併用が 効果的です。歯間ブラシは隙間に挿入したとき,軽 い抵抗感があるサイズのものを選びます。鉤歯の欠 損側隣接面や孤立歯にはヘッドの小さい歯ブラシを 選択し,根面や歯頸部にしっかりと毛先があたって いるかをチェックをします。ブラッシングが上手く 行えない高齢者では軽量で小回りが利く電動歯ブラ シの使用が効果的です。 3)プロフェッショナルケア リコール時にフッ化物配合ペースト(メルサー ジュ;松風,PTC ペースト;ジーシーなど)を併用 した PMTC を定期的に行います。高濃度で停滞性 の高いフッ化物バーニッシュは齲蝕リスクの高い患 者さんに対するプロフェッショナルケアとして推奨 さ れ,象 牙 質 知 覚 過 敏 症 用 と し て F バ ー ニ ッ シュTM (東洋製薬化成㈱),ダイアデントTM (昭和薬 品化工㈱)が販売されており根面齲蝕にも応用され ています。 4.処 置 歯周病による歯肉の炎症が強い場合には,はじめ プラークコントロールを徹底して行い,消炎後に修 復処置を行うことが重要です。しかし,高齢者ある いは薬剤の服用による口腔乾燥によって唾液の流れ が悪く,プラークが付着しやすい場合には,欠損部 に対する早めの対応が必要なケースもあります。歯 ・利尿薬:ラシックスⓇ 、フルイトランⓇ など ・カルシウム拮抗薬:アダラートⓇ 、アムロジンⓇ 、ノルバ スクⓇ 、ヘルべッサーⓇ など ・その他降圧剤:レニベースⓇ など ・抗うつ薬:トフラニールⓇ 、トリプタノールⓇ など ・抗不安薬:コンスタンⓇ 、セルシンⓇ など ・抗コリン薬(消化器潰瘍):プロ・バンサインⓇ など ・消炎鎮痛薬:非ステロイド抗炎症薬、ステロイド薬など ・抗ヒスタミン薬:レスタミンⓇ 、ホモクロミンⓇ など 図3 口腔乾燥を生じやすい薬剤 歯科学報 Vol.109,No.5(2009) 495 ― 43 ―
肉に接する部分の欠損が充填されて形態が回復すれ ばプラークの付着も少なくなりブラッシングを行い やすくなります。修復材料はフッ化物徐放性を有す る充填材料を用いることが推奨されています。充填 材から放出されるフッ化物の作用によって,二次的 な齲蝕の発生が抑えられる可能性があります。 以上のことから,歯周病の際の根面齲蝕への対応 には,プラークコントロールの継続に加え,間食を 含めた食事指導や,フッ化物の使用による齲蝕予防 が重要です。 文 献 1)今里 聡,尾崎和美編:やさしい説明,上手な治療〔4〕 根面う蝕 永末書店,京都,2004. 2)眞木吉信,荒川浩久:フッ化物配合歯磨材,歯界展望 Vol.113,No.4,2009‐4,743∼750. 3)菅谷 勉,加藤 凞:根面齲蝕,歯界展望別冊 歯周病 のメインテナンス治療 2000,183∼187. 4)杉原直樹:根面齲蝕を防ぐ!メインテナンスの秘訣,① 根面齲蝕についての基礎知識 デンタル ハイジーン第28 巻第10号,974∼978. 5)加藤まり,深井浩一,富井信之,大森みさき,長谷川 明:歯周メインテナンス患者の根面カリエス発生におよぼ す因子の解明 日歯周誌 43⑶:308∼316,2001. Answer:渋川義宏 東京歯科大学歯周病学講座 歯科学報 Vol.109,No.5(2009) 496 ― 44 ―