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畑作地帯における多湿黒ボク土の土壌有機物動態

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 関 谷 長 昭

学 位 論 文 題 名

畑作地帯における多湿黒ボク土の土壌有機物動態 学位論文内容の要旨

  1.背景と目的

  産 業革 命以 降の150年 間、 大気 中の 二酸 化炭 素(C02)濃 度を 上昇 させ てき た 原因 の3分の1 は食糧生産のための土地利用転換によると見積もられている。なかでも、耕起をともなう畑土壌 で土壌炭素の減耗が大きいこと、およ び、炭素濃度の高い土壌のC02放出速度が速いとの指摘が なされている。したがって、地球温暖化防止の観点から、畑地における炭素濃度の高い土壌の炭 素動態に注目する必要がある。また、土壌炭素の動態は、土壌ヘ還元される有機物量と土壌有機 物分解量の収支に左右されるが、その実態はよくわかっていない。本論文は、十勝管内の畑作地 帯において泥炭土についで炭素濃度の高い多湿黒ポク土の有機物動態の特徴を明らかにするため、

畑作圃場における有機物管理と排水改良が土壌炭素の収支に与える影響について検討し、適正な 管理について考察した。なお、多湿黒ポク土の炭素動態の特徴をより明確にするため、土壌は、

炭素 濃度 が低 い黒 ポ ク土 と対 比し 、年次は2007年を現状として1970年と対比して検証した。

  2.調査地と方法

  十勝管内の耕地面積は26万haで、日本有数の畑作地帯である。多湿黒ポク土の分布面積割合 は管内耕地面積の17%、黒ボク土は32%で、両土壌群で耕地の約半分を占める主要土壌である。

  1)十勝管内の耕地土壌の土壌群ごとの炭素賦存量を見積もるため、地力保全基本調査成績書

(1965〜1988)を用いて395地点の表層Imの炭素量を算出した。

  2)土壌のC02フラック スの特徴を明らかにし、土壌有機物分解量を見積もるため、多湿黒ポ ク 土( 帯広 市) と黒 ボク 土( 芽室 町) の裸 地で 、2007年6月から10月の間の4時期7回、ク口 ー ズド チャ ンパ ー法 によ り土 壌からのC02フラックス を測定した。得られたC02フ ラックスを 地温および気温で指数回 帰し、地温あるいは気温を用いて積算C02フラックス(有機物分解量)

を求めた。ついで、畑土壌への有機物還元量と土壌有機物分解量の収支を算出するため、年間の 土 壌有機物分解量を算出した。また、経年的な変化を 検討するため、2007年におけるC02フラ ックスと気温との回帰式 に1970年の気温を用いて1970年における多湿黒ポク土の年間有機物分 解量を見積もった。

  3)農林統計資料、その他の資料を基に作物の収穫残渣(茎葉十刈株十根)を算出した。刈株 と根は全量還元されるものとした。茎葉還元量は、茎葉産出量に北海道農政部による資料から求 めた係数を乗じて見積もった。

  4)畑地における多湿黒ポク土の有機物動態を解析するため、以下の4つのシナリオ(Sc.)を設 定した。Sc.A;(1970年)排水不良、残渣還元なし、Sc.B;(1970年)排水不良、残渣全量還元、

Sc.C;(2007年、現状)排水良、残渣の67%還元十畜産からの堆肥供給あり(0.381 MgCha‑1 yr‑1)。 こ のSc.Cは2007年の現状を想定したものである。Sc.D:(2007年、改善試案)排水 良、残渣全 量還元。

3.結果と考察

1)十勝管内における耕地の土壌炭素賦存量

十勝 管内 の全 耕地 面積 の17% を占 める 多湿 黒ボ ク土の表層Imの土 壌炭素量は、全体の31%

(12 Tg)を占めた。第1層の炭素濃度の平均値(標準偏差)は、多湿黒ボク土が70 (25.8)gkg.1

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(2)

であり、全土壌群の55 (44.6) gkg.1より有意に高かった。

  2)多湿黒ポク土の理化学性およびC02フラックスの特徴

  C02フラック スの7回の測定値の平均値(標準偏差)は多湿黒ポク土76.7(31.6)mgCm.2 h‑lで、

黒ポク土43.2(16.9) mgCm.2 h.lより高かった。両土壌のC02フラックスと地温の間にはそれぞ れ有意な相関関係があった(癶0.01)。伽ロは、多湿黒ポク土1.8で黒ポク土1.3より高く、多湿 黒ポク土は有機物分解の温度に対する感受性が高いことが示された。1969年に十勝農試により同 じ場所で測定された結果では、多湿黒ポク 土のC02フラックスと黒ポク土のそれとの間には有意 な差が見られなかった。このことは当時の多湿黒ポク土は排水不良であり、微生物の活性が抑制 されたため両土壌のC○2フラックスはほぽ 同じであったものと思われる。2007年の多湿黒ポク 土の作土含水率は、黒ポク土と有意差がなく、排水改良の効果が現れた結果、多湿黒ポク土のG02 フラックスを高めたと考えられた。

  3)多湿黒ポク土における土壌有機物分解量と有機物還元量の収支

  年 間有 機物 分解 量は 、多 湿 黒ポ ク土(3.260 MgCha‑1 yr‑1)で、黒ポク土(1.894 MgCha.l yr‑l)より高か った。2007年における十勝管内の主要畑作物の残渣量は平均2.874 MgCha.l yr'l であった。残渣のうち、小豆の茎葉(0.064 MgCha‑l yr.1)は病害予防のため焼却処分され、また、

小麦の茎葉(1.001 MgCha‑1 yr‑1)の70%(0.701 MgCha‑1 yr‑1)が畜産農家へ敷料として搬出さ れたが、畜産農家からの堆肥の還元量はそ の約1/3  (0.381 MgCha‑1 yr‑1)にとどまった。した がって合計2.490 MgCha.lyr.1の炭素が圃場へ還元された。炭素収支は、黒ポク土では、+0.596 MgCha‑1 yr'1となり、土壌有機物が蓄積し たが、多湿黒ポク土では、ー0.770 MgCha'l yr'1と なり、土壌有機物が減耗することが認められた。

  4)多湿黒ポク土の炭素収支に関する4つのシナリオによる解析

  1970年の土壌の炭素収支は、残渣全量を還元する場合(Sc.B)、‑ 0.910 MgCha'1 yrlとなり、

茎葉を還元しない場合(Sc.A)の−1.785 MgCha‑1 yr'lの半分に抑えられるものの、土壌炭素は 減耗 して いた 。1970年 から2007年 にか けて畑作物の総炭素固定量は2.668から5.951 MgCha‑1 yr.1に倍増し 、その結果、残渣産出量も1.006から2.874 MgCha.l yr'1と2.8倍に増加した。一 方、土壌有機物分解量は2007年には1970年 の1.7倍に増加した。このために、残渣が全量還元 された場合(Sc.D)の炭素収支は―0.386 MgCha.1 yr'1となり1970年より改善したものの、土 壌炭素は減耗していた。さらに、茎葉の一 部が還元されていない現状の場合(Sc.のにはー0.770 MgCha'l yr'lと土壌炭素の減耗はほとんど改善されていなかった。

  4.結論

  排水不良地であ るために生産性が低かった多湿黒ポク土は、生産性向上を目的とした排水改良 の効果が発現し、 現在では、排水の良い土壌と同等の収量水準となった。作物の生育量が増加し た こと で、残渣量が2007年には1970年の2.8倍に増 加した。一方では、排水改良の効果が発現 し有機物分解速度 は1970年の1.7倍へ増加した 。しかし、麦稈が畜産農家へ持ち出され、その3 分の1に相当する堆肥しか還元されていないた め、多湿黒ポク土の土壌炭素は減耗していると見 積もられた。この 改善のために少なくとも畜産農家へ搬出した麦稈と同等量の有機物量を、堆肥 として供給を受け るなど対応の必要性が示唆される。

70―

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   波 多 野 隆 介

副査   教授   長谷川周一 副査    教授    平 野高司

学 位 論 文 題 名

畑作地帯における多湿黒ボク土の土壌有機物動態

  本論 文は7章からな り図11、 表22、引 用文献134を含む74ベージ の和文論 文であり、他に参 考論 文1編 が添えら れてい る。

  1.背景と目的

  大気 中 の 二酸 化炭素(C02)濃度 を上昇さ せてき た原因の3分の1は 、食糧生 産のため の土地 利用転換による。なかでも、土壌炭素濃度の高い土壌、とくに畑土壌の土壌炭素の減耗に伴うC02 放出が大きいことが指摘されている。本論文は、十勝管内の畑作地帯において炭素濃度の高い多 湿黒ポク土の有機物動態の特徴を明らかにするため、畑作圃場における有機物管理と排水改良が 土 壌 炭 素 の 収 支 に 与 え る 影 響 を 検 討 し 、 適 正 な 管 理 に つ い て 考 察 し た も の で あ る 。   2.調査地と方法

  1) 十 勝管 内 の 耕 地土 壌 の 炭素 賦 存 量を 、 地 力保 全 基 本調 査 成 績書 を 用いて算 出した。

  2) 土壌有 機物分解 量を見 積もるた め、多 湿黒ポク 土と黒ポ ク土の 裸地で、 土壌からのC02 フラックスを測定した。得られたC02フラックスを地温あるいは気温で回帰した指数回帰式を用 いて積 算C02フラック スを求 めた。つ いで、2007年、1970年の年間の土壌有機物分解量を算出 した。

  3) 農林統 計資料、 その他 の資料を基に主要畑作物(小麦、大豆など8作物)の収穫残渣(茎 葉 十 刈 株 十 根 ) を 算 出 し た 。 茎 葉 還 元 量 は 、 北 海 道 農 政 部 に よ る 資 料 か ら 求 め た 。   4)十勝管内畑地帯における多湿黒ポク土の有機物動態を解析するため、4つのシナリオ(Sc.)

を設定した。Sc.A;(1970年)排水不良、茎葉還元なし、Sc.B;(1970年)排水不良、残渣全量 還元、Sc.C;(2007年、現状)排水良、茎葉の67%還元十畜産からの堆肥供給あり(0.381 MgCha.1 yr.1)。このSc.Cは2007年の現状を想定したものである。Sc.D:(2007年、改善試案)排水良、

残渣全量還元。

  3.結果と考察

  1)十勝管内における耕地の土壌炭素賦存量

  十 勝 管 内 の 全耕 地 面 積26万haの 表 層Imの 土 壌炭 素 量 は37Tgで あ っ た。 耕 地 面積 の17% の多湿黒ポク土の土壌炭素は31%の12Tgを占めた。

  2)多湿黒ポク土の理化学性およびC02フラックスの特徴

  C02フ ラッ ク ス は多 湿 黒 ポ ク土76.7mgCm.2 h.lで、黒 ポク土43.2 mgCm‑2 h‑1より 高かっ た。1969年には 、多湿黒 ポク土 のC02フ ラック スと黒ボ ク土のそれとの間には有意な差が見ら れな かった。このことは当時の多湿黒ポク土は排水不良であり、両土壌のC02フラックスはほば 同じであったものと思われる。2007年の多湿黒ポク土の作土含水率は、黒ポク土と有意差がなく、

排 水 改 良 の 効 果 が 現 れ た 結 果 、 多 湿 黒 ポ ク 土のC02フラ ッ ク スを 高 め たと 考 え られ た 。     ー71−

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    3) 多 湿 黒 ポ ク 土 に お け る 土 壌 有 機 物 分 解 量 と 有 機 物 還 元 量 の 収 支   年 間有機物分解量は、多湿黒ポク土(3.43 MgCha‑1 yr‑1)で、黒ポク土(1.95 MgCha‑1 yr‑1) より高かった。2007年における十勝管内の主要畑作物の残渣量は平均2.87 MgCha.lyr.1であっ た 。小麦の茎葉(1.00 MgCha‑1 yr‑l)の70%(0.70 MgCha‑1 yrl)が畜産農家へ敷料として搬出 さ れたが、畜産農家からの堆肥の還元量はその約1/2  (0.38 MgCha'lyr‑1)にとどまった。した がって合計2.49 MgCha‑l yr'lの炭素が圃場へ還元された。炭素収支は、黒ポク土では、+0.54 Mg C ha‑1 yr'1となり、土壌有機物が蓄積したが、多湿黒ポク土では、―0.94 MgCha.1 yr'1となり、

土壌有機物が減耗することが認められた。

    4)多湿黒ポク土の炭素収支に関する4つのシナリオによる解析

  1970年の土壌の炭素収支は、残渣全量を還元する場合(Sc.B)―0.97 MgCha'1 yr'lとなり、

茎葉を還元しない場合(Sc.A)の―1.85 MgCha‑l yr'1の半分に抑えられるものの、土壌炭素は 減 耗 し てい た 。1970年か ら2007年 にか け て 畑 作物の総 炭素固定 量は2.67か ら5.95 MgCha‑1 yr'1に 倍増し、その結果、残渣産出量も1.01から2.87MgCha‑l yr'1と2.8倍に増加した。一方、

土 壌有機物 分解量 は2007年には1970年の1.7倍に増 加した 。このために、残渣が全量還元され た 場合(Sc.D) の炭素収 支付一0.56 MgCha‑l yr'1となり1970年より改善したものの、土壌炭 素 は減耗し ていた 。さらに 、茎葉の 一部が 還元され ていな い現状の場合(Sc.のには‑0.94 MgC ha'1 yr.1と土壌炭素の減耗はほとんど改善されていなかった。

  4.結論

  排水不良地であるために生産性が低かった多湿黒ポク土は、現在では、排水の良い土壌と同等 の収 量水準と なった 。作物の 生育量が 増加し たことで 、残渣量が2007年には1970年の2.8倍に 増加 した。一 方では 、排水改 良の効果 が発現 し有機物 分解速度は1970年の1.7倍へ増加した。

しかし、麦稈が畜産農家へ持ち出され、その2分の1に相当する堆肥しか還元されていないため、

多湿黒ポク土の土壌炭素は減耗していると見積もられた。この改善のために少なくとも産出残渣 全量を還元するなど対応の必要性が示唆される。

  以上のように本研究は、畑土壌の中でとく炭素濃度の高い多湿黒ポク土における土壌炭素の減 耗の要因について、炭素収支法を用いて検討し、その改善を述べたものであり、今後の農業によ る地球温暖化防止策を策定するに貢献するものである。よって審査員一同は、関谷長昭が博士(農 学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認めた。

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参照

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まとめ

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