博 士 ( 農 学 ) 中 井 博 之
学位論文題名
イネ伍 ‑Glucosidase の構造と機能に関する研究 学位論文内容の要旨
植物種子が発芽する際に、貯蔵物 質(澱粉粒)の分解に関与する各種の加水分解酵素が発 現する。
これ らの 中 には 、乾 燥種 子中 に既 に含 まれ 水和によって 活性を示すもの、プロテアーゼの作用を 受け 活性 型 とな るも の、 そし て新 たに 合成 される酵素が 存在する。本研究では12品種のイネ種子 を用 いて 、 品種 間に おけ るa‑glucosidaseの 活性 発現 様式 の差 異を 調べ 、2種類に大 別した。2種 のイ ネ品 種 の中 から日本晴お よび赤米を選択し、乾燥および発芽種子を用いてa‑glucosidaseの精 製を 行い 、 諸性 質お よび 一次 構造 を解 析し た。 さら に日 本晴 では 、 精製した酵素と は異なる3種 のaーglucosidase様遺伝子の単離 およぴ機能解析を行った。
植 物種 子 の貯 蔵物 質で ある 澱粉 は不 溶性 の澱粉粒とし て存在する。そのため澱粉粒吸着能を持 つa‑amylaseのみが澱粉粒分解の初期段階に作用する酵素であり、u―glucosidaseは、a‑amylaseによ り生成した可溶性のdextrinをdebranching enzymeやp‑amylaseと協同的に加水分解し、glucoseに転 換する酵素と考えられてきた。し かし本研究により、植物a‑glucosidaseが澱粉粒吸着部位を持ち、
かつ 単独 で 分解 することを示 した。すなわち、植物における澱粉代謝の際にa‑amylaseのみが澱粉 粒に 単独 で 作用 するのではな く、a‑glucosidaseが澱粉粒 に直接作用する分解系も存在することを 初めて明らかにした。
(1)異なる品種間 でのイネ0 ‑glucosidaseの発現解析
12品種 のイ ネ種 子を暗所下30゜Cにおいて発芽させ、Q ‑glucosidase活性の経日変 化を調べた。
発芽種子には可溶性のQ ‑glucosidaseの他に、 界面活性剤(Triton X‑100)でのみ可溶化される不溶 性Q―glucosidaseが存在することを見出し、さらにそれ らの発現様式からイネ品種を2っに分類し た 。I)可 溶 性お よび 不溶 性の 酵素 が乾 燥種 子に 検出 され る品 種( 日 本晴 など ): これ らのQ− glucosidaseが登熟 期で合成されることを明らかにした。発芽期間中では両酵素の活性は変化せず、
一定のレベルで推移する。II冫不溶性酵素のみ が乾燥種子に検出されるイネ品種(赤米など):不 溶性a ‑glucosidaseが登熟期で合成され、完熟 に伴い種子中に保存されるが、発芽の進行にっれ消 失 し た 。 こ れ ら の 品 種 で は 発 芽 後 に 可 溶 性 酵 素 が 新 た に 合 成 さ れ る こ と が 分 か っ た 。
)イネa ‑glucosidaseの単離および一次構造 解析
I)のタイプから は日本晴を、H)のタイプで は赤米を実験対象に選び、oc‑glucosidaseの精製を
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行 っ た 。日 本 晴 の乾 燥 種 子か ら2種の可 溶性酵素(ONG2ーLONG2―II)を精 製した。 両酵素は プロ テ アーゼ限 定分解 を受け、2つの ポりペ プチド鎖 からなる成熟タンパク質として構築されることを 明 らかにし た。ONG2‑IとONG2ーIIは限 定分解の 部位の 異なるア イソフ オームであった。一方、赤 米 の 乾 燥種子に プロテ アーゼ限 定分解を 受けて いない不 溶性酵 素(OAG2―II)とOAG2‑IIがプ ロテ ア ーゼ限定 分解を 受けるこ とで生成 するOAG2−Iを見出し、限定分解は基質特異性に変化を与える こ と を 確 認 し た 。 赤 米 の発 芽 種 子か ら 乾 燥 種子 由 来 のOAG2と は 一 次構 造 が 異な る 可 溶性a‐ glucosidaseアイ ソ ザ イム(OAGI) を精製し た。発芽 時に特 異的に発 現するOAG1はOAG2と比 べ、
各 種基質に 対する 親和性お よび分子 活性が 高いこと が分か った。
(3)日本晴oc‑glucosidase様遺伝子の単離と発現ならびに機能解析
日 本 晴 の 乾 燥 種 子に 存 在 するONG2のcDNA (ong2)を ク ロ ーニ ン グ した 際 に 、さ ら に3種 の ぱ ーglucosidase様遺伝子(ong´,3,のの存在を確認した。イネゲノム配列から、ong2およびong3 は エキソン1の 選択的ス プライ シングに よって生 成され る遺伝子 産物であることが分かった。ong
´から推定されるアミノ酸配列は、既知の植物起源のa‑glucosidaseのそれと高い一致性を示すこと か ら、a‑glucosidaseをコードすると予想された。一方、ongイから推定されるアミノ酸配列は植物 起 源のa−xylosidaseと高い一致性を示した。これらの酵素の機能解析を行うため、3種の遺伝子に コ ードされ るタン パク質(ONG1,ONG3,ONG4)を 、Pichia pastorisを用いた 異種宿 主発現により 生 産 し た 。ONG1お よ びONG3組 換 え 酵 素 は 、 培 養 液1Lあ た り172お よ び110 mgと 大 量生 産 さ れ たため、 精製し 諸性質を 調べた ところ、糖含量を除いて既知のイネa‑glucosidaseと同様な性質 を 示した。ONG1に関し ては、 日本晴a‑glucosidaseアイソザイムの中で特にisomaltoseに対する特 異 性 が 高い こ と が明 ら か とな っ た 。ONG4では 培 養液1Lあたり14 mgの組 換え酵 素の生産 が認め られた。本酵素を精製し、dーglucosideおよびa‑xylosideに対する基質特異性を調べた。a‑glucoside を ほとんど 分解せずa‑xylosideに対して特異性を示すことから、ONG4がa‑xylosidaseであることを 明らかにした。
(4)植物 起源のa‑glucosidaseの 澱粉粒へ の作用 および吸 着部位 の解明
植物起 源(イネ 、ソバ、 トウモ ロコシ、およびテンサイ)のa,‑glucosidaseを用いて澱粉粒に対 する吸着 能およ び分解能 を解析 したとこ ろ、用 いた全て の酵素が 澱粉粒 に吸着し 、単独で分解す ることが 分かっ た。植物 酵素と 一次構造 上の類 似性が高 いカビおよび酵母a‑glucosidaseは、全く 澱粉粒に 吸着・ 分解しな かった 。これら のこと から、植 物a‑glucosidaseはカビと酵母の酵素に存 在しない 澱粉粒 吸着部位 を有す ると予想 した。 これら酵 素の一次 構造を 比較し、 植物酵素にのみ 存在 す る 特異 的 な配 列がC末端領域 に認め られたた め、本 領域を澱 粉粒への 吸着部 位と考え た。
澱粉 粒 吸 着能 を 持 たな い 酵 母Schwanniomyces occidentalis (SOG)の 酵素のC末端 領域(Leu876‑
Trp960)を イネ 酵 素(OAG1)のC末 端領 域(Phe793−Tyr906)に 組 み 換え たキ メラ酵素 を作製 し、
澱 粉 粒 へ の 作 用 を 調 べ た 。 キ メ ラ 酵 素(N末 から 中 央 部分 がSOGでC末端 領 域 がOAG1)が 、 澱 粉粒 吸 着 能お よ び 分解 能 を 獲 得し た こ とか ら 、OAG1のC末 端 領域 が 澱 粉粒吸 着部位で あるこ と
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を明らかとした。さらに、この領域に存在する芳香族アミノ酸残基(OAGIのW803およびF885 に相当)に部位特異的変異を導入したキメラ酵素において澱粉粒吸着能および分解能に低下が認 め ら れ た た め 、 こ れ ら 芳 香 族 ア ミ ノ 酸 残 基 が 澱 粉 粒 吸 着 に 関 与す る と 推 定 し た 。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
イネ Q ‑Glucosidase の構造と機能に関する研究
本 論 文 は 、 和 文303頁 、 図216、 表51、7章 か ら な り 、 参 考 論 文3編 が 添 え ら れ て い る 。 植物の種子発芽におけ る澱粉粒(生澱粉)の分解にはa‑glucosidaseなどの複数の加水分解酵素 が 関与 する 。本研究では、イネ発芽種子におけるa‑glucosidase活性発現の品種間差異 から2つの グ ルー プに 各品種を大別した。それぞれの代表として日本 晴と赤米を選択し、乾燥種子や発芽種 子 を 用 い て 本 酵 素 の 分 子 解 析 な ら び に 生 理 的 機 能 を 究 明 す る こ と を 目 的 と し た 。
(1)異なる品種間で のイネa‑glucosidaseの発現 解析
12品種のイネ種子を発芽させ、a‑glucosidase活性の経日変化を調べた。発 芽種子に可溶性の酵 素の他に界面活性剤でのみ可溶化される不溶性酵 素を見出し、それらの発現様式からイネ品種を2 っに分類した。I)可 溶性と不溶性のa‑glucosidaseが乾燥種子に検出される品種(日本晴など):
これ らの 酵素 は登熟期で合成 された。発芽時では両酵素の活性は変化せず、一定のレ ベルを保持 する。II)不溶性酵素のみが乾燥種子に検出されるイネ品種(赤米など):不溶性a‑glucosidaseが 登熟 期で 合成 され、乾燥種子 に保存されるが、発芽の進行に伴い消失する。発芽後に 可溶性酵素 が新たに合成される。
(2) イネa‑glucosidaseの単離お よぴ一次構造解析
I) のタイプからは日本晴を、II)のタイプでは赤米を選び、a‑glucosidaseの精製を行った。日 本晴 の乾 燥 種子 から2種 の可 溶性 酵素(ONG2‑I,ONG2‑II)を精 製し た。両酵素は、 プロテアーゼ 限定 分解 を 受け2つ のポ リペ プチ ド鎖 か らなる成熟タンパク質として存在した。こ れらは限定分 解の 部位 が 異なるアイソフ オームであり、澱粉粒に対する吸着能が異なった。一方 、赤米の乾燥 種子 にプ ロ テア ーゼ 限定 分解 を受 けて いな い不 溶性 酵素 (OAG2‑II)とOAG2‑IIが プロ テア ーゼ 限定 分解 を 受け るこ とで 生成 するOAG2‑Iが 見出 され た。 限定 分解 は基質特異性や 澱粉粒への吸 着 能 を 変 化 さ せ た 。 赤 米 の 発 芽 種 子 か らOAG2と 一 次 構 造が 異な る 可溶 性酵 素(OAGI)を 精製 した 。発 芽 時に 特異 的に 発現 するOAG1はOAG2に 比べ 各基 質に 対す る親和カと分子 活性が高い。
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夫
雄 英
淳
芳 春
村 野
木 佐
森
授 授
授
教
教 教
助
査 査
査
主 副
副
(3)日本晴a‑glucosidase様遺伝子の単離と発現 ならぴに機能解析
日 本 晴 の 乾 燥 種 子 に 存 在 す るONG2のcDNA (ong2) を クロ ,ニ ング した 際に 、さ らに3種の a‑glucosidase様遺伝 子(ongl,3,イ)を確認した。イネゲノム配列との比較から、ong2およびong3 はエ キソ ン1の 選択的スプライシングにより生成される遺伝子産物であ った。3遺伝子にコードさ れ る 蛋 白 質 ( そ れ ぞ れONG1,ONG3,ONG4)を 異 種 宿 主 発 現 に よ り 生 産 し た 。ONG1とONG3は a‑glucosidaseであり 、精製した酵素の性質は既知のイネ酵素と同様であった 。ONG1は、日本晴ア イ ソ ザ イ ム の 中 で 特 にisomaltoseに 対す る作 用が 高い 。ONG1とONG3の 遺伝 子は 大量 に発 現し た( 培養 液1Lあた り110から170 mgの 生産 )。 これ まで 植物a‑glucosidase遺伝子に関し少量発 現は 報告 され ていたが、本研究のような大 量発現は初めてである。ONG4はa‑xylosidaseであり、
性質を明らかにした。
( 4) 植 物 起 源 の a‑glucosidaseの 澱 粉 粒 へ の 作 用 お よ び 吸 着 部 位 の 解 明 植物(イネ、ソバ、 トウモロコシとテンサイ)a‑glucosidaseを用いて澱粉粒に対する吸着能お よ ぴ分 解能 を解析した。用い た全ての植物酵素が澱粉粒に吸着し、単独で分解するこ とを見出し た。植物酵素に一次構 造が相同するカビおよび酵母a‑glucosidaseは、全く澱粉粒に吸着・分解し な かっ た。 この結果は、植物 酵素にのみ澱粉粒への吸着部位が存在することを暗示す る。植物と 微 生物 酵素 の一 次構 造を 比較 する と、 植物酵素のみに認 められる特異配列がC末端領 域に認めら れたので、本領域を澱 粉粒への吸着部位と予想した。吸着能がなぃSchwanniomyces occidentalis酵 素(SOG、 酵 母 ) のC末 端 領 域 を イ ネ 酵 素(OAGI) のC末 端 領 域 に 置 換 し た キ メ ラ 酵 素 を 作 製 し 、 澱 粉 粒 へ の 作 用 を 調 べ た 。 キ メ ラ 酵 素(N末 端 か ら 中 央 部 分 がSOGでC末 端 領 域 がOAG1由 来 )が 吸着 能お よび 分解 能を 獲得 した ので 、OAG1のC末端 領域 が澱 粉粒 吸 着部 位で ある と決 定 し た。 本領 域のTrpとPhe(植 物酵素にのみ存在)に部位特異的変異を導入すると、吸 着能および 分 解能 が失 われ たた め、 これ ら2残 基の 芳香 族ア ミノ 酸が 澱粉 粒吸 着に 寄 与す ると 推定 した 。 植物種子の貯蔵物質 である澱粉粒は不溶性である。そのため吸着能を持つa‑amylaseのみが澱粉 粒の分解における初期 段階に作用し、a‑glucosidaseは、a‑amylaseが生成する 可溶性のdextrinを debranching enzymeやf3‑amylaseとともに協同的に加水分解しglucoseに転換する酵素と考えられて きた。しかし本研究に より、植物a‑glucosidaseが 澱粉粒への吸着部位を持ち、かつ単独で分解す ることが示された。す なわち植物においてa‑glucosidaseが澱粉粒に直接分解する代謝経路を初め て明らかにした。
以上 のよ うに本研究は、イネ 発芽時のa‑glucosidase活性 の発現に品種間格差を見出し2種に大 別した後に、それぞれの 代表品種の登熟・発芽種子に見出されたQ‐グルコシダーゼ・アイソザイ ム やア イソ フオームに関し、単 離、性質および構造の解析、それらの遺伝子の転写や翻 訳さらに 翻 訳後 修飾 の機構究明、ホモロ グ遺伝子の大量発現に成功しコードされた蛋白質の機能 解明、特 に植物酵素のみが示す澱 粉粒への吸着・分解の分子解析から新たな澱粉粒の代謝機構の発見など、
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イネの みならず 植物Q‐グ ルコシダ ーゼに関し 学術的に重要な基礎的知見を提供した。
よって審査員一同は、中井博之が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認 めた。
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