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コグニティブ無線機の実現に向けた要素技術の研究開発

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あらまし 本論文では,2005 年 12 月から 2008 年 3 月まで,独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が総 務省より受託した電波利用料研究開発(R&D)プロジェクト “コグニティブ無線端末機の実現に向けた要素技術 の研究開発” の研究成果をまとめている.具体的には,400 MHz∼6 GHz 帯で動作することが可能なコグニティ ブ無線端末機を実現する上で必要となるマルチバンド/周波数可変デバイス(増幅器,フィルタ,ミクサ),また これらデバイスで構成されるハードウェアプラットホーム,そしてこのハードウェアプラットホーム上で動作す るセンシング機能,学習機能,意思決定機能を具備したソフトウェアプラットホームについてその研究成果をま とめている. キーワード コグニティブ無線,ダイナミックスペクトルアクセス,ソフトウェア無線,デバイス,マルチバ ンド

1.

ま え が き

2015年ごろの移動通信システムにおいて非常に大き な問題として考えられるのはブロードバンド化に伴う 周波数不足の問題である.現状では,移動通信に適した VHF/UHF帯から6 GHz帯までの周波数において,今 後標準化されていく数十MHz以上のブロードバンドワ イヤレス通信システム等を収容していくのに十分な周 波数帯域があるとはいえない.この周波数帯で現状数十 MHz帯以上の空き周波数があるのは,(1) 2011年7月 のアナログテレビサービス終了に伴い開放される周波数 帯(90∼108 MHz,170∼222 MHz,710∼770 MHz), 若しくは,(2) 2.3∼2.4 GHz,3.4∼3.6 GHz等である が,前者については放送系システム(90∼108 MHz), 公共ブロードバンドシステム(170∼205 MHz),放送 系システム(205∼222 MHz),ITS(715∼725 MHz) 及び移動通信システム(730∼770 MHz)に使用する 方針が決定されており[1],後者は第4世代移動通信 独立行政法人情報通信研究機構,横須賀市

National Institute of Information and Communications Technologies, 3–4 Hikarino-oka, Yokosuka-shi, 239–0847 Japan a) E-mail: harada@nict.go.jp に使用されることが決定されている.特に第4世代移 動通信に関してはこの周波数以外にも698∼806 MHz (108 MHz幅),450∼470 MHz(20 MHz幅)が割り 当てられている.このような状況の中,更に2010∼ 2015年以降に必要になると予想される新しいワイヤ レス通信システムでは更なるブロードバンド化が求め られる可能性が高く,今後,周波数不足がいっそう深 刻になることは明らかである. この周波数不足の問題に対処するために,現在,相 異なる事業者(利用者)による周波数共用技術につい て検討が行われている.特に「無線機が周囲の電波利 用環境を認識し,その状況に応じて適宜学習等を行い, ネットワーク側の協力を得ながら複数の周波数帯域, タイムスロット等の無線リソース並びに通信方式をシ ステム内,システム間問わず適宜使い分け,ユーザが 所望する通信容量を所望する通信品質で周波数の有効 利用を図りつつ実現する無線通信技術」であるコグニ ティブ無線技術[2]∼[5]は,この周波数共用を行う有 力な技術として,内外を問わず検討が行われている. 総務省においてもこの状況をかんがみ,2005年12 月から2008年3月まで電波利用料研究開発(R&D) プロジェクト「移動通信システムにおける高度な電波 の共同利用に向けた要素技術の研究開発」の中で「コ

(2)

グニティブ無線端末機の実現に向けた要素技術の研究 開発」並びに「コグニティブ無線通信技術の研究開発」 というテーマを掲げ,このコグニティブ無線技術実現 のための各種検討を行ってきた.本論文では,この中 でも特に独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が 受託した“コグニティブ無線端末機の実現に向けた要 素技術の研究開発”の研究成果をまとめる.具体的に は,400 MHz∼6 GHz帯で動作することが可能なコグ ニティブ無線端末機を実現する上で必要となるマルチ バンド/周波数可変デバイス(増幅器,フィルタ,ミク サ),またコグニティブ無線で使用可能なハードウェ アプラットホーム,そしてこのハードウェアプラット ホーム上で動作するセンシング機能,学習機能,意思 決定機能を具備したソフトウェアプラットホームの開 発成果である.本論文ではその概要を紹介する.

2.

研究成果の概要

図1に複数の無線システムに対する周波数の割当方 法の例を示す.現状は同図(a)に示すようにいくつか のシステムがある時間にある周波数を占有して運用を 行っている.そして,これらのシステムが使用する周 波数の間には,システム間の干渉を防ぐために未割当 の周波数が存在している.このような現状に対して新 規のブロードバンドワイヤレス通信システムが使用す る周波数を割り当てるには次の二つの方法が考えられ る.一つは,既存のシステムに別の周波数を割り当て 直し,必要な帯域幅を確保する方法である.しかし, 既存システムの使用周波数帯の移行は非常に困難を極 める.もう一つは新しいシステムに既存のシステムと 同一の周波数を割り当てるとともに,その出力電力を 低く制限することにより既存のシステムに干渉を与え ないよう共存させる方式である.この代表例がUWB (Ultra Wideband)システムである.しかし,この方 式では,既存システムごとに干渉に対する許容電力が 異なるため,その条件を守ることが非常に難しく,ま た出力電力を低く抑える必要があるため近距離通信に 限定される. これに対してコグニティブ無線技術では同図(b)及 び(c)に示す割当法により周波数の共用を行う.いず れのシステムとも無線機に電波利用環境の認識技術 (センシング技術)を具備することが特徴である.(b) の方式では,ユーザが必要とする周波数帯域を確保す るために,利用されていない周波数,時刻をセンシン グし,その周波数と時刻において,コグニティブ無線 図 1 本論文で検討するコグニティブ無線技術 Fig. 1 Cognitive radio used in this paper.

技術を具備した端末同士が決めた通信方式で通信を行 う.また,(c)の方式では,既存の通信システムをセン シングし,ユーザの希望する周波数帯域を確保可能な, 通信システムを選択,多重する.これを実現するため には,ネットワーク上に蓄積されている各ユーザのセ ンシング情報をもとに構築されたデータベースからの 情報(これをポリシーと呼ぶ)を必要に応じて加味し つつ,センシング結果をもとに学習を行い,ユーザの 情報の送付に適した無線システムを選択(意思決定) して,選択したシステムを実現できるよう無線機を再 構築する必要がある.本プロジェクトでは主に(c)の 方式を実現することを目標にコグニティブ無線端末機 の開発を行った. 図2に本プロジェクトで想定するコグニティブ無線 端末機の基本構成を示す.本コグニティブ無線端末機 はソフトウェア無線(Software Defined Radio:SDR) 技術を用いることを前提に構成した.本論文ではこれ をソフトウェアコグニティブ無線(Software Defined Cognitive Radio:SDCR)機と呼ぶ[6].このSDCR

無線機は,広帯域に各種通信システムの送受信を行う ことができるRFユニット(RF unit:RFU)及び信 号処理ユニット(Signal Processing Unit:SPU)か らなる.そして各種通信システムを実現するための信

号処理を行うソフトウェア並びにRFUに対する設定

パラメータ(図中ではSoftware and parameters for communication system)を読み込むことにより所望 の通信システムを実現させる.本論文では,各種通信 システムを実現するためのLayer1及びLayer2の信 号処理を行うソフトウェア並びにRFUに対する設定 パラメータを総称してWaveform若しくは無線プロト コル[7]と呼ぶ. このWaveformが利用されているときには,その無

(3)

図 2 コグニティブ無線端末機の基本構成例 Fig. 2 Concept of cognitive radio equipments.

図 3 コグニティブ無線機実現のための研究課題 Fig. 3 Research topics to realize cognitive radio equipments.

線システムにおいて取得可能な情報が直接RFU,SPU

若しくは,通信リンクを管理しているLink aggregator

またはConvergence layerを経由して, Reconfigura-tion Management Unit(RMU)に取得される.また, ネットワーク側より伝えられる,例えば無線機のいる 位置に応じて推奨される通信システムリスト等のポリ シーがある場合はTCP/IP経由でRMUに取得され る.そして,これらの情報をもとにRMUは使用すべ き通信システムを選択し,SPU並びにRFUに対して 選択した通信システム構築を指示する. 図1及び図2に示すコグニティブ無線を実現するた めの研究課題を図3に示す.まず,RFUにおけるマル チバンド/周波数可変デバイスである.コグニティブ無 線を実現するためには,一つのデバイスを用いてでき るだけ広い周波数帯域にわたってセンシングを行うこ とが望ましい.これにより,センシングのための部品 数も少なくでき非常に効率的な無線機が実現できるた めである.また,そのためには,単にブロードバンド であるだけでなく,周波数可変である特性が要求され る.本プロジェクトでは,図3に示す研究課題のうち, 特にマルチバンドでかつ周波数可変機能をもつ増幅器, フィルタ,ミクサについて検討/開発を行った.方針と して,CMOS,BiCMOSなど現時点で使用可能な半導 体プロセスを用いて集積可能であること,400 MHz∼ 6 GHzまで対応させることを目標に,まず,使用可能 な周波数帯域を可能な限り拡張し,不足する場合は, 帯域の異なる回路をスイッチングにより切り換える 構成とすることにした.また,RFU,SPUからなる ハードウェアプラットホーム(Hardware platform: HWP)の構成方法について検討し,試作を行った.最

(4)

表 1 開発したマルチモード/周波数可変増幅器の仕様 Table 1 Specification of the developed amplifier.

図 4 開発した増幅器のブロック図と写真

Fig. 4 Configuration and photograph of the developed amplifier.

後に,このHWP上で動作するセンシング,学習,意 思決定機能を具備したソフトウェアプラットホームの 開発を行った.

3.

マルチバンド

/

周波数可変デバイス

3. 1 マルチバンド/周波数可変増幅器 図3のRFU送信部におけるマルチバンド/周波数可 変増幅器は,今回の目標周波数帯域である400 MHzか ら6 GHzにおいて平たんな利得特性を有し,その利得 を変更できることが要求される.この要求を満たす増 幅器の開発を90nmRF-CMOSプロセスを用いて行っ た.表1に仕様を,図4にブロック図と開発した増幅 器の写真を示す.この増幅器は12 dB程度の利得を有 する増幅器を3段従属接続して全体利得を36∼38 dB とし,雑音指数(Noise Figure:NF)を5 dBとして 設計した.また第1の増幅器の直後に帯域外のスプリ アス及び雑音を低減する目的で帯域フィルタ(BPF) を設けた.このBPFは高周波数(2.5∼6.2 GHz)用 と低周波数(0.4∼2.5 GHz)用の二つのBPFによっ て構成され,レジスタを用いて切換制御を行ってい る.また,別のレジスタの設定を変更することでバ イアス電流値を制御して利得を変更することができ る.この増幅器の評価結果を図5に示す.400 MHz∼ 4 GHzにおいて30 dB以上の利得を有するが4 GHz から6 GHzにおいて設計値に対して10∼25 dBの利 得低下が見られる.評価治具等様々な影響が考えられ, 測定法も含めた検討が今後必要である. 3. 2 マルチバンド/周波数可変帯域フィルタ 図3のRFU受信部におけるマルチバンド/周波数可 変帯域フィルタ(BPF)は,所望の帯域の信号をろ波 し,ろ波された信号は後段の広帯域受信ダイレクトコ ンバージョンミクサによってベースバンド信号に変換 される.一方,RFU送信部においては広帯域送信ダイ レクトコンバージョンミクサから出力された所望帯域 の信号をろ波し,スプリアスを抑制する.したがって, 今回の目標周波数帯域である400 MHzから6 GHzに おいて,通過帯域の中心周波数と通過帯域幅を変更で きることが必要である.この条件を満たすマルチバン ド/周波数可変BPFの開発を90nmRF-CMOSプロ セスを用いて行った.表2にその仕様を,図6にブ ロック図と開発したBPFの写真を示す.開発したマ ルチバンド/周波数可変BPFは六つの周波数モード

(5)

図 5 開発した増幅器の評価結果

Fig. 5 Evaluation results of the developed amplifier.

表 2 開発したマルチモード/周波数可変帯域フィルタの仕様 Table 2 Specification of the developed bandpass filter.

を有し,この各モードに対応する六つのBPFを切り 換える構成である.それぞれのBPFは高域フィルタ (HPF)と低域フィルタ(LPF)から構成され,HPF とLPFの構成素子であるキャパシタは,スイッチや バリキャップを用いて,その容量値を変更できるよう に設計されている.そしてレジスタを用いて,周波数 モードやキャパシタの容量値を変更することで,目標 帯域における中心周波数の変更と,約100 MHz程度 から最大数GHzに及ぶ通過帯域幅の変更を実現して いる. 3. 3 広帯域送受信ダイレクトコンバージョンミクサ RFUにおいては,部品数削減のため,ベースバンド の信号と高周波帯の信号とを直接,変換できることが 望ましい.本プロジェクトでは,400 MHzから6 GHz 帯の高周波数帯の信号とベースバンドの信号とを直接, 変換するダイレクトコンバージョン型広帯域送受信ミ クサの検討と試作を行った.表3にその仕様と基本 性能を,図7にブロック図と写真を示す[8].試作は 180nmSiGe BiCMOSプロセスを用い,送受信ともに 全帯域において,変調精度(Error Vector Magnitude:

(6)

図 6 開発した帯域フィルタのブロック図と写真

Fig. 6 Configuration and photograph of the developed bandpass filter. 表 3 開発した広帯域送受信ダイレクトコンバージョンミクサの仕様及び基本性能 Table 3 Specification and basic performance of the developed broadband up- and

down-conversion mixer. は5 GHz帯では高いが,2 GHz以下では5 dB以下で ある.また,QPSK信号の入力時にEVMが11%以 下となるダイナミックレンジは50 dB以上である.本 ミクサを用いると40 dBを超える受信信号強度の変動 を吸収でき,開発したミクサの有効性が示された.

4.

ハードウェアプラットホーム

前章に示すマルチバンド/周波数可変デバイスの開 発を行うとともに,RFU,SPUからなるハードウェア プラットホームの構成方法について検討と試作を行っ た.特にRFUに関しては,(1)広帯域受信ダイレク トコンバージョンミクサ(800 MHz∼5.2 GHz)を用 いたRFU,及び,(2)複数のスイッチング回路を用い たマルチバンドRFUを試作した. (1) 広帯域受信ダイレクトコンバージョンミクサ (800 MHz∼5.2 GHz)を用いたRFU

図8に開発したRFUを示す[9].RFUはUHF帯 に加え,文献[10]に示す構成の広帯域受信ダイレクト

(7)

図 7 開発した広帯域送受信ダイレクトコンバージョンミクサのブロック図と写真 Fig. 7 Configuration and photograph of the developed broadband direct conversion mixers.

図 8 広帯域受信ダイレクトコンバージョンミクサを用いた RFU Fig. 8 RFU using a broadband mixer for direct conversion receiver.

表 4 広帯域ダイレクトコンバージョンミクサを用いた RFU の仕様 Table 4 Specification of the RFU with a broadband direct down-conversion mixer.

(8)

図 9 開発した複数のスイッチング回路を用いた RFU のブロック図 Fig. 9 Block diagram of RFU using multiple switching circuits.

図 10 開発した複数のスイッチング回路を用いた RFU Fig. 10 RFU using multiple switching circuits.

コンバージョンミクサ(800 MHz∼5.2 GHz)を用い ることにより,2 GHz帯及び5 GHz帯において動作す る.ミクサはベースバンド帯域幅100 MHzを有する もので,図8に入力信号周波数に対する利得と,IQの 位相誤差を示す.また表4にこのRFUの仕様を示す. (2) 複数のスイッチング回路を用いたマルチバン ドRFU 図 9に開発したRFUのブロック図を,図 10に RFUの写真を示す[11].試作したRFUの大きさは 90 mm×135 mmである.また,送信側においては信 号系統を32 MHz帯と380 MHz帯に,受信側において は信号系統を190 MHz帯と32 MHz帯に集約し,部品 数を減らしている.また,図10中の右下の基板は,こ のRFU内のプログラマブルPLLに各周波数帯の信号 を供給するシンセサイザユニットである[11].このユ ニットは10 MHzから130 MHzまでの信号の生成をプ

(9)

(a) FPGA board (b) CPU board 図 11 開発した SPU

Fig. 11 Developed SPU.

ログラマブルに行うことができる.RFUが対応する通 信システムは,IEEE802.11a/b/g,IEEE802.16e,地 上波デジタルテレビ,W-CDMA,PHSである.表5 にその詳細をまとめる.また,SPUとして図11に示 すFPGAを搭載した基板とCPUを搭載した基板を 開発した.表6にその仕様を示す.

5.

ソフトウェアプラットホーム

図12にハードウェアプラットホーム上で動作させ るコグニティブ無線用ソフトウェアプラットホーム (図中のReconfigurable Management Unit)のアー キテクチャを示す.このソフトウェアプラットホーム は(a) SDCR Viewer,(b) SDCR administrator,(c) SDCR manager,の三つの機能ブロックにより構成さ れる.各ブロックは以下の機能を有する. (a) SDCR Viewer ソフトウェアプラットホームのユーザインタフェー ス部である.機器の構成の表示,無線状態の表示,バー ジョンの表示,インストーラの表示,センシング情報 を整理するためのファイル(これをプロファイルと呼 ぶ)の設定用画面表示を行う. (b) SDCR administrator 無線機中のWaveformの管理,並びにWaveform のインストール及びアンインストール,Waveformの プロファイルの編集等を行う. (c) SDCR manager

SPU,RFUとのインタフェースと管理,Waveform

の管理,周波数のセンシング,ネットワーク側からの ポリシーの検出,学習,使用する通信システムの決定 と決定後のSPU,RFUの再構築の機能を有する.

基本動作としてはまず,SPU,RFUの管理を行う

(10)

図 12 2ソフトウェアプラットホーム Fig. 12 Software platform. 表 6 SPUの仕様

Table 6 Specification of the SPU.

有無を確認する.見つけた信号の詳細情報を入手した い場合は,SDCR managerが有するSPU,RFUの 再構築の機能と無線機内に有するWaveformを用いて

表 7 ソフトウェアプラットホームの各機能の容量 Table 7 Volume of software platform (exe file).

通信システムを構築する.そして周波数センシングの 結果とネットワーク側からのポリシーを利用して,適 用する通信システムを決定する.そして再度,SPU, RFUに対して所望のWaveformを入力し,通信シス テムを構築する.表7に各機能ブロックの容量を示す.

6.

コグニティブ無線機の試作

図10に示すRFUと図11に示すSPU及びソフト ウェアプラットホームを用いてコグニティブ無線機の

(11)

(d) (e) (f ) 図 13 開発したコグニティブ無線機

Fig. 13 Developed cognitive radio equipment.

試作を行った.図13 (a)に試作したコグニティブ無線 機を,図13 (b)に基本動作画面を示す.まず基本動作 画面上のセンシングのアイコンをクリックすると,無 線機はRFUがカバーする周波数帯のセンシングを開 始する(図13 (c)).そして,センシング結果を示す とともに,この無線機にあらかじめ用意されている通 信システムの機能を実現するソフトウェアのリストを 表示する(図13 (d)).この段階では,受信信号電力 に基づいたセンシングを行っているだけであり,各周 波数帯の信号がどの通信システムによるのか,かつ, 接続可能かどうかが分からない.そこで,信号が見つ かった周波数帯において各通信システムのWaveform をSPUとRFUに入力し,接続の可能性を含めて各 周波数帯の信号の同定を行う(図13 (e)).そして通 信可能なシステムがセンシング結果としてユーザに通 知される(図13 (f)).この通信可能なシステムにつ いて,ユーザが必要とする通信速度,料金体系等の希 望情報を無線機にあらかじめ入力していた場合,この 情報をもとに,ソフトウェアプラットホームが学習し, ユーザにとって最適な通信システムに接続する.また, ユーザに対して,通信可能なシステムをセンシング結 果として示し,この情報をもとにユーザが通信システ ムを選択して,通信を始めることも可能である.本試 作機に関しては文献[12]にその評価結果を示している. 各周波数帯に対して受信信号電力に基づいたセンシン グを行う時間は個別に設定可能であり,数秒程度まで 平均化して,プロファイルとして蓄積することができ る.また,信号を同定するために必要な無線機の再構 築時間は,IEEE802.11b,IEEE802.11a,W-CDMA

の各方式においてそれぞれ,414 ms,452 ms,896 ms である.これらのセンシング時間と同定に要する時間 の和が,図13 (f)に示す詳細なセンシング結果が出力 されるまでの時間となる.

7.

む す び

本論文ではコグニティブ無線端末機の実現に向け た要素技術の研究開発の成果を示した.特にRFU に関しては,一部特性が劣化する帯域があるものの, 400 MHzから6 GHzまで対応可能な広帯域送受信ミ クサ,マルチバンド/周波数可変増幅器及びBPFの IC化に成功し,コグニティブ無線端末の実現に向け て大きく前進した.また,コグニティブ無線機を実現 するソフトウェアプラットホームを搭載した世界初の 新しい小型コグニティブ無線プロトタイプを完成させ, コグニティブ無線端末の実証実験に成功した.これら の成果は,端末のみならず基地局にも大きなインパク トを与える.文献[4]において筆者は,究極のコグニ ティブ無線技術として,端末だけでなく基地局にもコ グニティブ技術を取り入れ,対応周波数,出力に応じ ていくつかのクラスに分けることで,基地局,移動局

(12)

を問わず相互に協調し,干渉を制御しつつ自律的に出 力,周波数,帯域をコントロールし通信エリアを作っ ていくことを提案した.本論文の研究成果はまさにこ のシステム実証が可能な段階に達したことを示したと いえる.このコグニティブ無線ネットワークに関して は文献[13]等でCognitive Wireless Cloudとして検 討を開始しており,今後はこのコグニティブ基地局と 端末とからなる,端末・ネットワーク協調コグニティ ブ無線ネットワークについて検討を行っていく予定で ある.また,コグニティブ無線に関しては既に標準化 が進みつつあり[14],今後はこの成果を反映していく ことも重要である. 文 献 [1] 小泉純子,“総務省の電波政策と最近の動向,”信学技報, SR2007-60, Nov. 2006.

[2] J. Mitora, III, “Cognitive radio for flexible mobile multimedia communications,” MoMuC’99, pp.3–10, Nov. 1999.

[3] H. Harada, “Software defined radio prototype toward cognitive radio communication systems,” IEEE Dys-pan 2005, vol.1, pp.539–547, Nov. 2005.

[4] 原田博司,“コグニティブ無線を利用した通信システムに 関する検討,”信学技報,SR2005-18, May 2005. [5] 原田博司,“コグニティブ無線端末機の実現に向けた要素

技術の研究開発,”信学技報,SR2006-10, April 2006. [6] 原田博司,“Cognitive wireless cloud を実現する無線機

の研究開発:ソフトウェアプラットフォーム,”信学技報, SR2006-76, March 2007.

[7] H. Harada, “Software defined radio prototype for W-CDMA and IEEE802.11a wireless LAN,” IEEE VTC2004-Fall, vol.6, pp.26–29, Sept. 2004.

[8] 堤 恒次,末松憲治,原田博司,“コ グニティブ無線用 0.4 GHz–5.8 GHz帯マルチバンド SiGe-MMIC 送受信ダ イレクトコンバータ,”信学技報,SR2007-35, July 2007. [9] 原田博司,“Software Defined Cognitive Radio を実現す る無線機の実証試験,”信学技報,SR2007-40, July 2007. [10] 蔭山千恵美,中島健介,堤 恒次,谷口英司,下沢充弘,

末松憲治,“0.8–5.2 GHz 帯マルチバンド/マルチモード, ダイレクトコンバージョン受信機用 SiGe MMIC Q-MIX,” 信学技報,MW2004-31, May 2004.

[11] 原田博司,“Cognitive wireless cloud を実現する無線機 の研究開発:ハードウェアプラットフォーム,”信学技報, SR2006-74, March 2007.

[12] H. Harada, “A small-size software defined cognitive radio prototype,” IEEE PIMRC2008, Sept. 2008. [13] 原田博司,石津健太郎,長谷川幹雄,飯草恭一,船田龍平, 辻 宏之,黒田正博,“コグニティブワイヤレスシステム の実現に向けた研究開発,”信学技報,SR2006-31, July 2006. [14] 原田博司,“コグニティブ無線の標準化動向,”信学通誌, no.5,pp.46–56, June 2008. (平成 20 年 5 月 27 日受付,6 月 23 日再受付) 原田 博司 (正員) 平 7 阪大工通信博士後期課程了.同年郵 政省通信総合研究所(現 独立行政法人情報 通信研究機構(NICT))入所.以来ディジ タル信号処理を用いた移動通信技術,ソフ トウェア無線技術,コグニティブ無線技術, ダイナミックスペクトルアクセス技術,ミ リ波 WPAN システムの研究,開発,標準化に従事.平 8∼9 オ ランダ・デルフト工大,ポストドクトラルフェロー.平 17∼19 ソフトウェア無線研究専門委員会専門委員長,平 18∼電気通信 大学客員教授,平 19∼米国ソフトウェア無線(SDR)フォーラ ム,Board of Directors,平 20∼IEEE SCC41 (1900) Vice Chair,平 20∼IEEE1900.4 Vice Chair.現在,NICT,新世 代ワイヤレス研究センター,ユキビタスモバイルグループ,グ ループリーダ.工博.平 17 本会業績賞受賞.IEEE 会員.

図 2 コグニティブ無線端末機の基本構成例 Fig. 2 Concept of cognitive radio equipments.
表 1 開発したマルチモード/周波数可変増幅器の仕様 Table 1 Specification of the developed amplifier.
図 5 開発した増幅器の評価結果
図 6 開発した帯域フィルタのブロック図と写真
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