戦後・韓国の地方自治制度の今日
著者名(日)
佐藤 俊一
雑誌名
東洋法学
巻
47
号
2
ページ
83-100
発行年
2004-02-25
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000166/
︻研究ノート︼
戦後・韓国の地方自治制度の今日
佐
藤
俊
一
はじめに 一 第二次大戦後の韓国・地方自治制度の展開 二 韓国・地方自治制度の現状と間題状況 三 韓国・地方自治制度の改革状況 むすびにかえて はじめに東洋法学
筆者は、二〇〇二年度の学術フロンティア海外調査計画に係わる東洋大学アジア文化研究所の﹁韓国にみる経 済発展と都市化による伝統文化の変容−大都市・地方都市・農村の比較1﹂調査メンバーの一人として、 二〇〇三年八月一八日∼二五日まで韓国調査を行った。主たる調査・ヒアリング先は、以下である。東洋大学と 83戦後・韓国の地方自治制度の今日 の提携校である韓国外国語大学校・法科大学の李鋸博士、憲法裁判所の徐輔健博士、韓国政府・行政自治部︵情 報流通課︶の権永錫氏、全南大学・行政学科の呉在一博士、全北大学・法科大学の徐巨錫博士、金大貞博士、洪 春義博士、金同根博士と名誉教授で全北教育綜合研究所理事長の郭泳宇博士である。筆者の専門研究分野は地方 自治であるので、主として韓国の地方自治制度や地方自治の現況などについて調査・ヒアリングした。その結果、 数々の貴重な資料や説明などを得ることができた。とりわけ、現在、政府革新地方分権委員会の委員でもある呉 在一博士には、地方分権改革などに関するホットな資料の提供を受けるとともに、同委員会の活動状況について の生々しい説明や今後の課題などをお聞きすることができた。 そこで、本稿は、第二次大戦後の韓国の地方自治制度の歴史i特に一九九〇年代の民主化に伴う地方自治制 の復活iを踏まえつつ、さらに地方自治の拡充を図ろうとする状況を考察したい。その意味で、政府革新地方 分権委員会の活動に注目したい。 しかし、地方自治制度の実際の作動は、単に中央・地方︵政府間︶関係のみならず、それぞれの地域の草の根 との在り様によって大きく左右される。まさに、そうした点を含めたアジア文化圏の地方自治の比較研究は、学 術フロンティア計画に係わる東洋大学アジア文化研究所プロジェクトの狙いの一つであるといえる。そのため、 次には台湾やタイ、マレーシア、インドネシアなどの調査を予定している。言いかえれば、近年、アジア地域の 地方自治制度研究も始まっているが、筆者は単なる制度の比較研究以上に、草の根社会との関係における自治制 度の作動実態まで眼くばりした比較を行いたいと考えているからである。それには、プロジェクトの対象である
アジア文化圏に一般的に共通するといえる草の根の地縁・血縁的社会と経済発展・都市化との交錯という観点を とりたい。 とはいえ、本稿は、ひとまず韓国の地方自治制度とその改革状況についての研究報告といってよい。しかし、 これは単なるリポートで終るものではなく、以上で述べたようなアジア社会における地方自治の比較研究の第一 歩となるものである。
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一 第二次大戦後の韓国・地方自治制度の展開 韓国の地方自治制度の展開に関する歴史的な時期区分の仕方には、幾つかあるようだ。戦前、日本の植民地支 配期に入ると、西欧的制度をモデルにした近代的地方自治制度が登場することになったとみられているが、しか し、現在ではそれ以前に自生的な固有の地方自治が既に存在していたというのが通説になっているという。だか ら、例えば○冨づひQ−ω8寓09博士は、次のように大きく三つの時期区分を行っている。すなわち、高麗による朝 鮮統一︵九三六年︶から、第二次大戦後の第一共和国成立︵一九四八年︶前までの第一期、次いで第一共和国の 成立︵一九四八年︶から第五共和国終結︵一九八八年︶までの第二期、そして第六共和国の成立︵一九八八年︶ から現在に至る第三期である。しかし、本稿の焦点は、第二次大戦後にある。 匡09博士は、大戦後における地方自治制度の展開を政権︵共和国︶の転換によって時期区分している。鄭光攣 博士や鄭在吉博士も、同様に政権ごとの区分を行っている。そこで、以下では地方自治制度の戦後展開をおさら 85戦後・韓国の地方自治制度の今日 いし、各政権︵共和国︶ごとの特性などを押えながら、韓国地方自治制度の現状を整理してみることにしたい。 まず、第一は、李承晩政権の第一共和国期である。一九四八年七月に成立した大韓民国憲法は、地方自治を保 障した。そして、初代大統領となった李承晩は、同年一一月に﹁地方行政に関する臨時措置法﹂を制定したが、 それは日本の植民地下で形成された地方制度をほとんどそのまま適用することにしたものであった。その上で、 翌一九四九年七月に地方自治法が制定・公布され、朝鮮戦争終結後の一九五二年には、自治体の首長の直接公選 制を骨子とする改正が行われ、戦後初の統一地方選挙が実施された。にもかかわらず、その後、数度の地方自治 法改正が行われ、地方自治に対する中央統制が強化された。特に一九五八年改正では、基礎自治体の市・邑・面 の首長を任命制に変えたり、法定会議日数を超えた地方議会は閉会せしめることができるなどとした。そのため、 地方自治法は、李承晩政権の独裁体制を支えるための道具に転落したとされる。 第二は、一九六〇年八月に成立した張勉政権の第二共和国期である。一九六〇年三月の大統領選挙をめぐる不 正投票に端を発した四月革命により李大統領は辞表を提出し、ハワイに亡命した。その後を担うことになった張 勉政権は、一九五二年の改正地方自治法以上に自治を拡大する民主的な改正を行った。すなわち、選挙権を二一 歳から二〇歳にひき下げたことや、ソウル特別市長、道知事、市、邑、面の首長を任期四年の住民による直接公 選制へもどし、かつ、その被選挙権を二五歳にしたこと、定例地方議会の日数制限を解除したことなどである。 そして、一九六〇年末には、首長・議員選挙に入り、戦後韓国の地方自治はようやく花開き、民主主義の基礎を 築くことになるかにみえた。しかし、この民主化、︿地方自治の春﹀は、短命であった。というのも、一年弱後の
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一九六一年五月に勃発した朴正煕を中心とする軍事革命により、地方自治関連法は全面的に停止されることにな ったからである。 第三は、まさにその軍事革命政権と一九六三年の選挙で大統領に就任した朴正煕政権の二〇年弱にわたる第 三・四共和国期である。軍事革命政権は、全国を非常戒厳令下に置き、地方自治制度を全面停止した。そして、 一九六一年九月、地方自治に関する臨時措置法を公布し、︿地方自治の中断﹀を図った。その主要点は、以下のよ うであった。⑨邑・面から基礎自治体の性格︵法人格︶を奪い、基礎自治体を市と郡に再編した。口全国の地方 議会を解散させ、その機能を当該自治体の首長に代行せしめた。日地方自治体の首長を国家公務員の任命制︵い わゆる官選官吏制︶にした。四ソウル特別市を国務総理に直属させ、釜山を政府の直轄市とした、などである。 このように、地方自治を軍事的・官僚制的な集権的統制の中に封印したのである。 そして、一九六三年末に大統領に就任した朴は、上からの強権的な経済開発を進めた。この開発独裁体制のも とで、韓国は急速な経済成長をとげることになった。しかし、それに政治的な民主化はともなわなかった。一九七一 年に大統領の三選を手中にした朴は、翌七二年に憲法改正の国民投票を実施し、維新憲法を制定・公布した。こ の維新憲法は、国力の組織化と国政の能率化の基礎を築くため、地方自治制の実施を祖国統一に関連させること より祖国統一までは地方議会は設けないと、︿地方自治の猶予﹀を規定した。実は、これは在野政治家と学生運動 などが地方自治制の実施をせまることを憂慮し、地方自治制の実施要求をてこにした反政府運動を事前に封鎖す るためであったとされる。 87戦後・韓国の地方自治制度の今日 第四は、一九七九年一〇月に朴大統領が暗殺された後、政府は民主化要求の運動と激突をくりひろげたが、そ れを武力鎮圧して登場した全斗燥政権の第五共和国期である。全政権は、強権的に形成されたにもかかわらず、 自治体の行財政改革や地方公務員法の改正による人事制度の改革を図った。それだけでなく、朴政権が否定して いた地方議会の設置を自治体財政の自立化に応じて順次実施するとし、一九八七年にはそのための地方自治法改 正案を国会に上程し、成立せしめた。だから、全政権期は、ふり返ってみると、続く︿地方自治の蘇生﹀の準備 段階だったとみなしうる。 第五は、一九八七年の﹁六・一〇市民抗争﹂の結果、同年末の大統領選挙で盧泰愚政権が成立し、戦後の韓国 において初めて平和的な政権移行をみることになった第六共和国期である。今日、韓国では、一様に現在の地方 自治制は一九九一年の基礎自治体と広域自治体の議会選挙に始まったと言う。盧政権は、政治体制の民主化とと もに、まさにそうした︿地方自治の蘇生﹀をもたらしたのである。盧政権は、一九八八年四月から一九八九年末 にかけ、戦後韓国の地方自治制を中断した朴政権の臨時措置法を廃棄すると同時に、憲法上の地方自治の猶予規 定も削除し、新法といってよい程の改正を地方自治法にほどこした。その主要点は、次のようなものであった。 の自治体の種類をほぼ現在の特別市、直轄市、道︵広域自治体︶と市、郡、自治区︵基礎自治体︶とした。口自 治体の首長と議員の任期を四年とした。日基礎自治体から地方議会を設置することにした。四特別市、直轄市に ついては大都市特例措置を設けた、などである。 その後、数次にわたる補完的な改正が行われた。その中で、最も重要な改正は、各級の地方議会議員の選挙を
一九九一年六月以前に実施するとともに、各級自治体の首長選挙を一九九二年六月︵後には一九九五年六月とさ れた︶以前に実施することとし、︿地方自治の蘇生﹀をもたらすことになった一九九一年改正であろう。そして、 一九九五年には、各級自治体の首長と議員選挙がともに実施され、蘇生後の地方自治制度は本格的に作動するこ とになったのである。 二 韓国・地方自治制度の現状と問題状況
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現在の韓国の地方自治制度は、日本のそれとかなり類同的である。それは、戦後、日本の植民地下で形成され た地方制度を継承する形で出発することになったことに由来するのか、それとも盧政権による︿地方自治の蘇生﹀ に際して日本の地方自治制度を参考にしたことに帰因するのか、今回の調査では十分に認識することができなか った。今後の課題としたい。ともかく、まず、日本との類似性を念頭に現在の韓国の地方自治制度を、議会、首 長・行政部、税財政の点で要点的に概要化しておこう。 そもそも現在の韓国の自治体は、日本の普通地方公共団体の都道府県と市町村からなる二層制と同様に、広域 自治体としてのソウル・特別市、広域市、それらの区域以外の道と基礎自治体としての自治区、市、郡の二層制 をとる。これ以外に、日本の特別地方公共団体に当る特別自治体がかつて教育区として存在したが、現在、それ は道・市・郡に統合された。また、既述したように、かつて基礎自治体であったものの一九六三年の軍事革命政 権で法人格が剥奪された邑・面の他、最末端の洞という下部行政単位も根を張っている。二〇〇三年二月におけ 89戦後・韓国の地方自治制度の今日 表一1 韓国の地方自治体等の数と人ロ 広域自治体 基 礎 自 治 体 下 部 行 政 単 位 人口 (%〉 16 市 郡 自治区 計 邑 面 洞 計 48,229,950(1000) 74 89 69 232 208 1,214 2,105 3,527 特別市 ソウル 25 25 522 522 10,207,296(212) 広域市 釜 山
1
15 162
3
216 221 3,730,125(77) 大 邸 1 78
3
6
129 138 2,525,803(52) 仁川2
8
101
19 117 137 2,577,989(53) 光 州5
5
87 87 1,397,452(29〉 大 田5
5
79 79 1,419,573(29) 蔚 山1
4
5
4
8
46 58 1,065,037(22) 道 京畿 256
31 30 118 346 494 9,927,473(206〉 江 原 7 11 18 24 95 74 193 1,538,720(32) 忠 北3 8
11 13 90 49 152 1,492,713(31) 忠 南6 9
15 24 145 37 206 1,907,725(40) 全 北6 8
14 14 145 89 248 1,953,846(41) 全 南5
17 22 30 199 69 298 2,054,204(43)慶北
10 13 23 34 204 99 337 2,756,745(57) 慶 南 10 10 20 22 177 115 314 3,124,418(65) 済 州2 2
4
7
5
31 43 550,831(11) 注)行政自治部『地方自治團龍行政匠域と人口現況』(20032 なお、ソウル市、仁川市、京畿道は首都圏とされる。 1現在)より作成。束洋法学
る以上の現状は、表1一のようになっている。 ここで留意すべきことが二点ある。第一に、表⊥から明臼にみてとれるように、首都圏︵ソウル市、仁川市、 京畿道からなるとされる︶の人口が全人口の50%弱に至るという、日本以上の一極集中化を示していることであ る。このことは、単に人口だけでなく富︵資本︶や情報などの一極集中化となって地方の産業・経済や高等教育 などに大きな間題をもたらしているようである。第二は、表⊥には示されていないが、基礎自治体の人口規模が 世界に類例がない程大きいことである。日本の基礎自治体の人口規模も国際的にみればかなり大きく、平均四万 弱だが、韓国のそれは約二〇万である。これは、前述したところの旧来、自治体であった邑・面を否認した上で 市・郡・自治区という基礎自治体へ再編した結果といえる。したがって、現在の日本のような全国規模での大合 併は大きな問題とならない。 それはともかく、二層制にある現在の韓国の地方自治制度の要点は、次のようである。 第一は、議会制度である。地方議会の議員は、いうまでもなく住民により公選され、任期は日本と同様に四年 であるが、選挙区制は日本と大きく異なる。ソウル・広域市・道が小選挙区制と比例代表制の並立制をとるのに 対し、市・郡・自治区は小選挙区制となる。また、日本と異なる点は、議員が名誉職とされていることである。 とはいえ、実際には有給の職業政治家化しつつあるという。その上で、広域自治体と基礎自治体との間には、議 会に若干の差違が設けられている。例えば、広域自治体では副議長が二名、常任委員会の必置、定期会が年一回、 四〇日以内で年間会期数一二〇日以内とされているのに対し、基礎自治体では副議長が一名、常任委員会の任意 91戦後・韓国の地方自治制度の今日 設置、定期会が年一回、三五日以内で年間会期数八○日以内とされていることなどである。 第二は、首長・公務員制度である。行政︵執行機関︶の首長も一九九五年以降、住民の直接公選制をとり、そ の任期は四年である。したがって、日本と同様の二元代表制の自治制度となる。しかし、日本と異なる点は、首 長とともにいわゆる理事者となるメンバーの数と身分である。すなわち、広域自治体における副知事・副市長が 行政・政務担当として複数であるのに対して、基礎自治体の副市長・副郡長・副区庁長は一名であることと、後 者は一般職地方公務員として当該自治体の首長が任命するのに対し、前者は政務職または一般職国家公務員とし て行政自治部長を経由して大統領が任命することであることだ。それだけでなく、地方公務員の一般職の中にい わば日本でいう出向ともいえる国家公務員が存在し、上位の管理職を占めているのである。これらは、中央政府 と広域自治体・基礎自治体との間の人事交流を促しているともされるが、自治体の人事権を阻害するものだとい う批判も強い。 第三は、税財政制度面である。自治体の歳入は、主として日本と類似の地方税、地方交付税、国庫支出金、地 方債などからなるが、ここには次のような問題があるとされる。一つは、韓国の税総額のうち国税と地方税の比 率はほぽ八対二で、日本の用語に従えば二割自治の状態にあることと、そのため地方税収入が人件費も充当しえ ない基礎自治体が五割以上を占めることである。もう一つは、そうした中で、国税が所得税と消費税を基軸にし ているのに対して地方税は財産税を中心にしているため、自治体は税収拡大を図るため住宅開発を促進し、その 結果、環境破壊や都市間題を誘発しているとされることである。
以上は、一九九〇年代以降における韓国の地方自治制度の間題状況を示唆する。すなわち、第一に、地方議員 の名誉職制は、議会活動に専念することの障害になっているとされていることである。第二は、広域自治体の副 知事・副市長の任命権が大統領に与えられていたり、自治体職場に国家公務員が出向して管理職を占めるなど、 自治体の人事権がかなり制約されていることである。特に後者は、地方公務員の自律性を制約し、モラールの低 下をまねいているとされる。第三は、自治体−特に基礎自治体1の税財政的基盤がきわめて脆弱なことである。 しかし、これら以外にも、中央・地方間の事務権限の配分に合理的な原則と基準がなく、ほとんどが中央政府の 便宜によって決定されてきただけでなく、新しい地方自治法でも自治体行政に対する﹁国家の指導・監督﹂とい う中央集権的な行政統制が依然として広く認められていること、住民参加の制度化などが不十分であることなど が指摘されている。 三 韓国・地方自治制度の改革状況
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︿地方自治の蘇生﹀後、中央省庁の事務の地方への委任・移譲という分権改革が持続的に進められた。その結 果、かなりの事務の委任・移譲をみたが、次のような限界があったという。e主として中央政府の視角による枝 葉的で件数中心の移譲であること、口委任をも含めた不完全な移譲であること、日事務移譲のみで税財源の移譲 が伴っていないこと、などである。しかも、移譲を根拠づけ推進する法制的な措置が不十分であった。そのため、 地方分権を推進する法律−特別法の制定あるいは地方自治法の改正などーが求められた。韓国地方自治学会 93戦後・韓国の地方自治制度の今日 や地方議会議長協議会、国会議員などの努力により、一九九九年一月に﹁中央行政権限の地方移譲促進などに関 する法律﹂が制定された。 同法は、事務移譲の原則として、e地方自治体の与件・能力に配慮、口基礎自治体の優先、日地方自治体の意 思の尊重、四地方自治体の自主性・責任性、㈲中央による行財政的な支援の並行、を掲げた。そして、事務移譲 を審議・決定する大統領直属の地方移譲推進委員会︵大統領指定の中央政府・地方自治体の委員と大統領任命の 民間委員−過半数ーの一五名∼二〇名以内︶を設置するとした。この委員会の役割・権限は、e地方移譲基 本計画の策定、⇔地方の意見の聴取・調査、日移譲対象事務の発掘、四移譲対象事務の決定、㊨中央政府と地方 自治体との間の事務所管区分、因移譲推進の実態調査と移譲の履行勧告、などである。 この法律により、従来までの非体系的で断片的であった事務移譲が体系的で総合的に推進されることになった といわれることは、大きな前進であった。その意味で、この法律以降、蘇生したところの︿地方自治の改革﹀期 に入ったといえる。しかしながら、この法律は、あくまで事務移譲の推進のみにかかわり、しかも事務移譲に並 行すべき税財源の移譲ではなく、行財的な支援に留まっている点などで、全般的な地方分権化には限界があると されてきた。 そこで、二〇〇二年末の大統領選挙で金大中政権の基本方針を継承するとして当選した盧武鉱大統領は、翌年 の政権発後、大統領の諮間機関として政府革新地方分権委員会を設置し、全般的な地方分権化に着手することに した。同委員会の委員である呉博士によると、現在、任期二年の委員数は政府委員七名の他、自治体や民間委員
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一六名の計二三名︵一名は欠︶であるという。そして、五つの専門委員会が設置され、この中の地方分権専門委 員会は二〇〇三年九月末までには実現可能な分権化の方針を提示する予定であるという。今回の調査では、その 前提となる地方分権専門委員会作成の﹁参加と地方分権の推進ロードマップ∼分権型先進国家の建設﹄︵二〇〇三 年七月︶を呉博士より提供いただいた。そこで、最後に日本の世紀末分権改革にもかなりの眼配りをしたという 同報告を概要的に紹介することにしたい。 さて、同報告は、四章から構成される。第一章・地方分権の推進背景とその方向、第二章・地方分権の主要課 題、第三章・地方分権の課題別ロードマップ、第四章・地方分権ロードマップの総合、である。 第一章では、e地方分権の時代的要請とその必要性、口外国の地方分権の推進事例、日韓国の地方分権の現状、 四地方分権のビジョン、㈲地方分権の推進原則と戦略、が示される。特に、日韓国の地方分権の現状では、既述 したような間題状況が、すなわち中央への権限集中︵地方への過大な関与︶、国家財政と地方財政の不均衡、不完 全な自治制度、自治の力量と住民参加の不足が指摘されている。そして、その克服を図るための四地方分権のビ ジョンは、図1一のようなトータルな革新︵分権型先進国家の建設︶構想の中に位置づけられる。そのもとで、 ㊨地方分権推進の基本原則として三点があげられる。すなわち、なによりも先ず行財政的な分権化の原則であり、 次いで補完性︵ω昌ω目四ユ昌︶の原則と包括的移譲の原則である。 それでは、以上のような現状認識と改革理念などのもとで、具体的にはどのような地方分権を図ろうというの であろうか。第二章は、地方分権のロードマップ作成過程のチャートを描きながら、地方分権推進の七つの基本 95戦後・韓国の地方自治制度の今日 図一1 分権型先進国家の建設をめざして 国家の再構造化 中央政府の革新 全国的課題の解 決にカを集中 地方自治体の革新 自治能力の強化と 責任性の確保 地域社会の革新 住民の積極的な 参加と連帯
地方分権
注)政府革新地方分権委員会・地方分権専門委員会「参加と地方分権の推進ロードマップ」6頁。 方針とそれにそくした二〇の主要課題を示す。それは、まさに体 系的で全般的な分権改革に取り組まんとするものだが、具体的に はこうである。第一は、中央・地方間の事務権限の再配分で、具 体的には、e地方分権推進基盤の強化、口中央の事務権限の画期 的な地方移譲、日地方教育自治制度の改革、四地方自治体警察制 の導入、国特別地方行政機関の整備、である。第二は、画期的な 財政分権の推進で、そのために、因地方財政力の拡充と不均衡の 緩和、㈹地方税制の改革、㈹地方財政の自立性強化、σQ地方財政 運営の透明性と健全性の確保、が必要であるとする。第三は、地 方自治体の行政能力の強化で、具体的には、唇人事・組織などの 自治権の強化、口自治体の内部革新と職員の能力向上、を図るべ きとする。第四は、地方議会の活性化と選挙制度の改革で、日地 方議会の活性化、目地方選挙制度の改革、が求められるとする。 第五は、地方自治体の責任性の強化で、そのために、国自治体に 対する民主的な統制体制の確立、国自治体行政の評価制度の改 革、を行うべきとする。第六は、市民社会の活性化で、輿多様な東洋法学
住民参加制度の導入、㈲市民社会活性化の基盤強化、を図るべきであるとする。第七は、協力的な政府間関係の 確立で、㈲中央・地方間の協力体制の強化、㈲地方自治体間の協力体制の強化、目政府間の紛争の調整機能の強 化、が必要であるとする。 これらの基本方針のもとにおける主要課題は、さらに第三章で各課題別の現状・間題点と改革方向及び改革の ロードマップに具体化される。例えば、第一の中央・地方間の事務権限の再配分における、e地方分権推進基盤 の強化をみると、こうである。まず、現状・問題点としては、e地方分権推進の法体制の脆弱性、口事務区分基 準の曖昧性と個別的移譲、日分権化の成果の測定評価システムの未整備、四地域特性を無視した画一的な地方自 治制度、が指摘される。したがって、改革方向とそのための施策などのロードマップは、次のようになる。e分 権推進の法体制の強化で、そのため二〇〇三∼四年にかけて地方分権推進法の策定・成立を図る。口事務区分基 準の明確化などを図ることで、そのためには改革案の法制化を図りながら二〇〇四年度中に委任事務の廃止を推 進する。日分権化の成果を持続的に評価するため、二〇〇四年にかけて指標開発を行う。四地方自治制度の多様 化を図る改革を行い、二〇〇四年以降、多様化のためのモデル的実施を進める、である。 以上のような各課題別の改革方向と改革ロードマップを第四章で総括し、五年後には表ー二のような状態になる ことが期待されている。そうであれば、まさに実現可能な改革方策などのより詳細なプログラムが求められるで あろう。ところが、二〇〇三年九月に入ると分権化の具体的な推進そのものが懸念される事態が生じている。そ れは、政権与党である民主党の分裂や盧武鉱大統領に対する支持率の低迷にくわえ、側近の秘密政治資金の授受 97戦後・韓国の地方自治制度の今日 表一2 地方分権5年後の姿 現 在 5 年後
事務権限
中央政府に依存する間題解決 地方自治体中心の問題解決地方財政
51:地方49)中央依存的な地方財政(中央 自主的な地方財政(中央45:地 方55) 自 治 権 自治権が制限された地方自治体 十分な自治権が付与された地方 自治体 地方議会政治 基盤が脆弱な地方議会政治・住 民の代表性が微弱 信頼される地方議会政治・住民 の代表性の確保 責 任 性 体・中央の過剰な統制中央に責任を転嫁する地方自治 住民に対して責任をもつ地方自治体・自律的な統制が基軸住民参加
地方行政制限された住民参加・供給型の 共同作業者としての住民・協働 型の地方行政 政府間関係 確執的な政府間関係・協力的な行政文化の未成熟 相互協力的な政府間関係・双方的な意思疎通の構造 注〉図一1と同資料、46頁。 疑惑にからみ、大統領が国民投票による再信任を間う 意向を示し、政権ひいては韓国政界の先行きがきわめ て流動化・不透明化する気配を呈しているからである。 ただ、これによって、改革の一時的な足踏みが生じた としても、中長期的には韓国の地方自治が後退するこ とはもはやないように思う。 むすびにかえて 本稿は、第二次大戦後の韓国の地方自治制度の展開 過程や今日的な改革状況のほんの表層にふれたにすぎ ない。今回調査では、韓国は依然として﹁地縁・血縁・ 学縁﹂の強い社会であるという声も聞かれた。それに また、首長・議員は住民の直接公選によることになっ たものの、地方になればなるほど日本でいうかつての 地域ボス支配や恩顧政治︵宕一置8一〇一δ簿Φ房ヨ︶が依 然強力で、自治体での情実人事も見られるという。そうした点からしても、首長・議員の選挙実態などにも関心が持たれるところである。しかし、今回の調査では、 そこまで手を広げて報告する時間的な余裕がなかった。そこで、韓国の政治文化や首長・議員選挙の実態などの 点については、ひとまず参考文献などに譲り、後日、補充することにしたい。 ︹参考文献・資料︺
東洋法学
○森田朗編﹃アジアの地方制度﹄東京大学出版会、一九九八年。 ○﹃都市間題﹄第八三巻第八号、一九九二年と第八四巻第二号、一九九三年の特集﹁アジアの大都市行政1︾ω国︾乞諸国を 中心にー﹂e口所収の諸論文。 ○服部民夫﹃韓国ーネットワークと政治文化﹄︵東アジアの国家と社会・4︶東京大学出版会、一九九二年。 ○李憲模﹁韓国における近代的地方自治制度の形成と発展﹂﹃早稲田政治公法研究﹄第五七∼五八号。 ○︵韓国︶地方自治学会編﹃韓国地方自治論﹄三英社、一九九六年。 oO鼠轟−ωoo困OoP①α4一8巴Oo<o旨日Φ再日囚oお辞ωΦo巳鼠巳賦Z900.﹂8P o鄭光墜﹁韓国の地方自治の成立過程と現状﹂﹃月刊自治研﹄第五一九号、二〇〇二年一二月。 ○鄭在吉﹁韓国地方自治制度の歴史的展開﹂﹃濁協法学﹄第六〇号、二〇〇三年四月。 ○呉在一﹁韓国における地方自治法改正の主な論点﹂︵日本行政学会・報告レポート︶、二〇〇一年。 ○︵韓国︶行政自治部﹃地方自治團艦行政匠域と人口現況﹄二〇〇三年二月一日現在。 o崔昌浩﹁韓国の地方分権の推進状況と課題﹂、日本地方自治学会編﹃公共事業と地方自治﹄︵地方自治叢書13︶、敬文堂、 二〇〇〇年。 o︵韓国︶行政自治部﹃FY二〇〇一地方自治團龍財政分析綜合報告書﹄︵二〇〇三・七︶ o︵韓国︶行政自治部﹃地方自治法﹄︵二〇〇三・五・増補版︶ 99戦後・韓国の地方自治制度の今日 ○政府革新地方分権委員会・地方分権専門委員会﹃参加と地方分権の推進ロードマップ∼分権型先進国家の建設﹄︵二〇〇 三・七・四︶。なお、この翻訳は、東洋大学大学院・文学研究科博士後期課程の朴明溶君にお世話になった。改めて、お 礼申し上げたい。 ○小林良彰編著﹃地方自治の実証分析−日米韓の3力国の比較研究﹄慶慮義塾大学出版会、一九九八年。 ○ヂ永沫﹁今後の地方議会のあり方について﹂﹃月刊自治研﹄第五一九号、二〇〇二年一月。 o呉在一・朴恵子﹁韓国における地方議会の現状と活性化策﹂、日本地方自治学会編﹃どこまできたか地方自治改革﹄︵地方 自治叢書15︶、敬文堂、二〇〇二年。 ※本研究は平成十四年文部科学省﹁私立大学学術研究高度化推進事業﹂に係わる﹁学術フロンティア推進拠点﹂による共同 研究﹁東アジア・東南アジア諸国にみる経済発展と都市化による伝統文化−大都市・地方都市・農村の比較1﹂︻拠点・ 東洋大学アジア文化研究所︵旧アジア・アフリカ文化研究所︶︼の研究成果の一部である。