判
例
を
通
じ
て
も
最
高
裁
が
処
分
性
公
式
を
放
棄
し
て
い
な
い
と
解
す
る
(
13)
と
、
処
分
性
拡
大
判
例
に
お
い
て
は、
「行
政
行
為」
を
そ
れとして認識する枠組みが問題となっているのではない
(
14)
か
。そしてそうであるなら、このような裁判所の「認識枠
組み」が伝統的な行政行為論に対していかなる理論的展望をもたらしうるのかを、学説として探っていくべきでは
ないか。換言すれば、処分性拡大判例に関しては、これまで多くの学説がそうしてきたように、行政救済法上の問
題――行政訴訟の訴訟類型のあり方いかん――としてその意義を議論していくばかりではなく、行政法総論上の問
題――行政行為の認識枠組みのあり方いかん――としてもその意義を議論していく必要があるのではないか。
以上の問題意識に立ち、筆者はこれまで処分性拡大判例の検討をすすめてき
(
15)
た
。しかしながらいまだ検討すべき
判
例
が
残
さ
れ
て
い
る。
そ
こ
で
本
稿
で
は、
そ
う
い
っ
た
判
例
と
し
て、
保
育
所
廃
止
条
例
事
件
最
高
裁
判
決
(平
成
二
一
年
一
一
月
二
六
日:
民
集
六
三
巻
九
号
二
一
二
四
頁、
以
下「本
判
決」
)
を
と
り
上
げ、
か
つ、
こ
の
判
例
に
対
象
を
絞
っ
て
考
察
し
て
い
く。
以下本稿の構成は、第二章で本判決の概要を紹介し、第三章でその解釈の筋道を検討する。また第四章では、本判
決をめぐる学説の理解を手掛かりとしながら、本判決の仕組み解釈の解釈手法としての特徴を解明し、さらにその
解釈手法の背景にある認識枠組みにまで考察を展開していく。そして第五章では、本稿の考察結果を整理するとと
もに、従来からの筆者の研究結果をも踏まえつつ、今後の研究課題に関して述べたい。
第二章
判決の概要
被
上
告
人
(被
告、
控
訴
人)
横
浜
市
は
四
つ
の
保
育
所
(以
下「各
保
育
所」
)
を
設
置・
運
営
し
て
い
た。
上
告
人
ら
(原
告、
被
控
訴
人)
は
各
保
育
所
で
保
育
を
受
け
て
い
た
児
童
又
は
そ
の
保
護
者
で
あ
る。
被
上
告
人
は
各
保
育
所
を
民
営
(
16)
化
の
対
象
と
す
べ
く、
市
議
会
の
議
決
を
経
て、
横
浜
市
保
育
所
条
例
の
一
部
を
改
正
す
る
条
例
(以
下「本
件
条
例」
)
を
制
定、
公
布
し
た。
そ
の
内
容は既存の条例の別表から各保育所の記載を削除するものである。本件条例施行に伴い各保育所は廃止された。上
告人らは本件条例が上告人らの保育所選択権等を侵害する違法な条例であるとして、その制定行為の取消訴訟等を
提
起
し
(
17)
た
。
一
審
判
決
(横
浜
地
判
平
成
一
八
年
五
月
二
二
日:
民
集
六
三
巻
九
号
二
一
五
二
頁)
は
処
分
性
を
認
め
た
が、
二
審
判
決
(東
京
高
判
平
成
二
一
年
一
月
二
九
日:
民
集
六
三
巻
九
号
二
二
六
〇
頁)
は
そ
れ
を
認
め
な
か
っ
(
18)
た
。
上
告
を
受
け
た
最
高
裁
は
以
下
の
理由から原判決を変更し、処分性を認める判断を下した
(以下判決理由の要
(
19)
約)
。
⑴市町村は、保育に欠ける児童について、その保護者から特定の保育所への入所申込みがあった場合には、申込者
多数のための選考の必要がある等のやむを得ない場合を除き、その児童を当該保育所において保育せねばならな
い
(児
童
福
祉
法[以
下「児
福
法」
]
二
四
条
一
項
~
三
項)
。
こ
の「仕
組
み」
は、
女
性
の
社
会
進
出
や
就
労
形
態
の
多
様
化
に
伴って、多様な保育サービスの必要がある状況を踏まえ、特定の保育所に受入れ能力がある限りは、希望どおり
の
入
所
を
図
ら
な
け
れ
ば
な
ら
な
い
と
し
て、
保
護
者
の
選
択
を
制
度
上
保
障
し
た
も
の
で
あ
る。
そ
し
て
被
上
告
人
に
お
い
て
は、保育所への入所承諾の際には保育の実施期間が指定される。
⑵このように、被上告人における保育所の利用関係は、保護者の選択に基づいて、保育所及び保育の実施期間を定
め
て
設
定
さ
れ、
「保
育
の
実
施
の
解
除
が
さ
れ
な
い
限
り
([児
福]
法
三
三
条
の
四
参
照)
、
保
育
の
実
施
期
間
が
満
了
す
る
ま
で
継
続
す
る
も
の
で
あ
る」
。
そ
う
す
る
と、
特
定
の
保
育
所
で
保
育
を
受
け
て
い
る
児
童
及
び
そ
の
保
護
者
は、
保
育
実
施
期
間
満
了までの間、当該保育所において「保育を受けることを期待し得る法的地位」を有するものといいうる。
⑶
と
こ
ろ
で、
公
の
施
設
で
あ
る
保
育
所
を
廃
止
す
る
に
は、
市
町
村
の
条
例
に
よ
る
必
要
が
あ
る
(地
方
自
治
法[以
下「地
自
法」
]
二四四条の二)
。条例制定は立法作用に属するから、一般的には抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらない。た
そ
し
て
⑶
は、
保
育
所
が
地
自
法
上
の「公
の
施
設」
に
当
た
る
と
し
て、
そ
の
廃
止
は
条
例
制
定
に
よ
ら
ね
ば
な
ら
な
い
と
す
る。その上で、原則として条例制定行為に処分性が認められないとしつつも、本件条例に関しては例外扱いが妥当
とする。というのも本件条例は、保育所を廃止するという特定の効果を持ち、かつ、この効果が発生するのに行政
処分の介在が不要であること。またこの「効果」を受けて、入所中の児童及びその保護者という特定の者に対し、
上記法的地位が直接に奪われるという結果が生じること。そしてこの「結果」を踏まえると本件条例制定行為が行
政処分と同視しうるこ
(
20)
と
。
以
上
⑴
~
⑶
の《行
政
処
分
と
の
実
質
的
同
視》
論
は、
条
例
の
処
分
性
を
め
ぐ
る
伝
統
的
な
通
説
的
理
解
(限
定
的
肯
定
説)
に
立
脚
す
る
と
と
も
(
21)
に
、
こ
の
理
解
を
踏
ま
え
た
従
前
の
判
例、
と
り
わ
け
旧
高
根
町
給
水
条
例
事
件
(最
判
平
成
一
八
年
七
月
一
四
日:
民
集
六
〇
巻
六
号
二
三
六
九
頁、
以
下「高
根
町
事
(
22)
件」
)
の
定
式
を
踏
ま
え
る
も
の
で
も
あ
る。
そ
の
限
り
で
本
判
決
は、
最
高
裁
が
は
じ
め
て
条
例
の
処
分
性
を「肯
定」
し
た
と
い
う〈結
論
と
し
て
の
新
し
さ〉
は
と
も
か
く、
〈議
論
と
し
て
の
新
し
さ〉
は
さ
ほ
ど
ない。
他
方
で
⑷
の《実
効
的
な
行
政
対
応》
論
は、
従
来
の
判
例
に
は
み
ら
れ
な
か
っ
た、
本
判
決
特
有
の
議
論
で
あ
(
23)
る
。
こ
の
議
論
は、本件条例制定行為に処分性が認められず、取消訴訟の提起が認められないとなると、当事者訴訟ないしは民事
訴訟しか訴訟手段がなくなってしまうことを指摘する。そしてこれらの訴訟を通じて原告が勝訴したとしても、そ
の判決には「第三者効」がないことから、敗訴した行政主体としては、とりわけ訴訟外市民との関係での本件条例
の取扱いをめぐって、実際的な困難を来してしまう。それゆえこのような〈ちぐはぐ状態〉を回避し、実効的な行
政対応を図るためにも、本件条例制定行為について処分性を認め、取消訴訟を通じて他の関係市民をも含めた統一
的解決をはかる必要があるとす
(
24)
る
。
または利害関係者の特定性と、法効果の発生ないし法的地位の侵害の直接性」が問題となっている点で共通すると
いう。その上で両要件に関する他の処分性拡大判例として、土地区画整理法事件と建基法事件とを挙げ、前者では
直接性要件が、後者では特定性要件が厳しく要求されず、処分性が肯定されていたと指摘する。もっとも、立法作
用に属する条例が問題となる場合に処分性を肯定するに当たっては、上に挙げた行政機関の行為が問題となる場合
以上に慎重でなければならないとする。
その上で山本氏は、高根町事件とは異なって、本件事案で両要件が充足する理由を次のように述べる。すなわち
本
件
事
案
で
は、
「権
利
侵
害
を
受
け
る
者
が
条
例
制
定
行
為
の
時
点
で
特
定
(限
定)
さ
れ」
⒜、
ま
た
本
件
条
例
が「行
政
機
関
によりそのまま『直接』に実現ないし執行される」⒝からである、と。そして同氏は、⒜⒝の観点を手掛かりに、
行
政
処
分
と
実
質
的
に
同
視
さ
れ
う
る
条
例
(=
処
分
性
の
認
め
ら
れ
う
る
条
例)
の
解
釈
上
の
画
定
を
試
み
る。
す
な
わ
ち
⒜
か
ら
し
てこの種の条例は、内容上法関係の早期確定が強く要請され、出訴期間制限を伴う抗告訴訟を通じて争わせる必要
が
あ
る
も
の
で
あ
る
こ
と
(「プ
ラ
グ
マ
テ
ィ
ッ
ク
な
考
慮」
)
。
他
方
で
⒝
か
ら
し
て
こ
の
種
の
条
例
は、
あ
く
ま
で
も
条
例
と
行
政
作
用との間に不可分性がなければならず、そうすることによって議会による立法作用への裁判所の過度の介入が抑え
られるものであること
(「権力分立という原理の考慮」
)
。
つ
い
で
神
橋
一
彦
(
27)
氏
は、
「行
政
庁
の
処
分」
に
つ
き、
「直
接
性
(個
別・
具
体
性)
」
の
有
無
と
い
う
観
点
か
ら、
「典
型
的
な
処
分」
と「非
典
型
的
な
執
行
行
為」
と
で
区
別
す
る。
前
者
は「従
来
の
公
式」
が
想
定
す
る
も
の
で、
「①
個
別
の
名
宛
人
に
対
し
て
(直接性)
、②法律関係に具体的な内容の変動をもたらす法律効果を有するもの
(法的効果の発生)
」。後者は、
「規
律
の
内
容
と
い
う
点
で
は
具
体
的
で
あ
る
と
は
い
え、
名
宛
人
が
不
特
定
と
い
う
意
味
で
個
別
的
と
は
い
い
難
く、
《一
般
的》
な
段
階でとどまって完結しているもの――いわば《一般的・具体的》とでもいうべき」ものである。そして後者の「非
こ
こ
で
手
掛
か
り
と
な
る
の
が、
判
示
部
分
⑵
の
終
わ
り
に
あ
る「当
該
保
育
所
で
保
育
を
受
け
る
こ
と
を
期
待
し
得
る
法
的
地
位」である。学説ではこの法的地位につき、保護者に保育所選択権が与えられていることとの関係で、いわば⑴か
ら
⑵
に
か
け
て
の
議
論
の
流
れ
に
重
点
を
置
い
た
上
で
理
解
さ
れ
て
い
(
45)
る
。
こ
の
点
確
か
に、
「条
例
の
処
分
性」
を
否
定
し
た
区
立
小学校廃止条例事件
(最判平成一四年四月二五日判自二二九号五二
(
46)
頁)
と本件事案との相
(
47)
違
を理解するにあたっては、
重
要
な
視
点
で
あ
ろ
う。
し
か
し
な
が
ら
本
判
決
を
理
解
す
る
に
当
た
っ
て
は、
こ
の
法
的
地
位
論
が
⑵
か
ら
⑶
に
か
け
て
の、
「行
政処分との実質的同視」論へと至る議論の流れのなかでどのような意味を持っているのかということも検討する必
要があるのではないか。
そこでこの観点から、あらためて法的地位論を読み直してみると、まず⑴から⑵にかけての部分では、児福法に
おける保育所利用をめぐる行政主体と関係市民との関係が論じられ、関係市民に対し「保育実施解除処分」がなさ
れない限りでの「法的地位」の保障が認められていることがわかる。他方で⑵から⑶にかけての部分では、地自法
上
の
公
の
施
設
の
廃
止
を
め
ぐ
る
行
政
主
体
と
関
係
市
民
と
の
間
の
関
係
が
論
じ
ら
れ、
「本
件
条
例
制
定
行
為」
に
よ
る
関
係
市
民
に対する「法的地位」侵害が認められている。いわば前者では、保育所選択制度を踏まえつつ、行政主体と関係市
民
と
の
間
で
は、
「保
育
実
施
解
除
処
分」
が
な
さ
れ
る
こ
と
に
よ
っ
て「法
的
地
位」
の
侵
害
が
起
こ
り
う
る
こ
と
を
前
提
と
し、
後
者
で
は
こ
の「法
的
地
位」
侵
害
と
同
様
の
事
態
が、
「本
件
条
例
制
定
行
為」
を
め
ぐ
る
行
政
主
体
と
関
係
市
民
と
の
間
で
も
起
こっていることを、条例の処分性をめぐる特定性・直接性要件の文脈を通じて議論しているのである。
このように本判決では、児福法と地自法とでそれぞれ形成されている、行政主体と関係市民との間での手続をめ
ぐ
る
制
度
的
な
関
係
性
を
踏
ま
え
た
上
で、
「法
的
地
位」
侵
害
と
い
う
事
態
を
導
き
出
し、
ま
た
こ
の
関
係
性
を
媒
介
と
し
て、
伝
統的な行政行為に属する「保育実施解除処分」と、行政による立法行為に属する「本件条例制定行為」とを同視す