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湾岸産油国「多外国人国家」における他者との関係性――フィリピン・ムスリム女性家事労働者(MFDW)の視点から 利用統計を見る

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湾岸産油国「多外国人国家」における他者との関係

性――フィリピン・ムスリム女性家事労働者(MFDW)

の視点から

著者

石井 正子

著者別名

ISHI Masako

雑誌名

白山人類学

16

ページ

75-91

発行年

2013-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00006197/

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研究ノート

i

湾岸産油国「多外国人国家」における他者との関係性

一一フィリピン・ムスリム女性家事労働者

(MFDW)

の視点から一一

石 井 正 子 *

The Relationship among Nationals and Expatriates in the Gulf States:

A

Case of Muslim Filipina Domestic Workers

ISHII Masako合

Abstract

This paper describes the relationship among nationals and expatriates in the Gulf States from a perspective of Muslim Filipina Domestic Workers (MFDW). The Gulf States have a large expatiate population due to the scarceness of their labour force. However, nationals and expatriates in the Gulf States are said to have little relationship one another. In the Gulf States, the nationals have asymmetrical power over the expatriates and the majority of the latter is temporal contact workers. Their labour market is sharply divided by nationalities. However, because of the division by nationality, class, religion and gender, some forms of relationship are being emerged among them. This paper takes the case of MFDW in the Gulf States to explore their relationship with the others by looking into the following three dimensions; 1) MFDW and nationals, 2) MFDW and the other Filipino workers, 3) MFDW and the other foreign domestic workers.

キーワード:湾岸産油国,外国人労働者,フィリピン,家事労働者,ムスリム Keywords: Gulf States, foreign workers, Philippines, domestic workers, Muslim

I

は じ め に

本稿は,湾岸産油国で外国人労働者が他者ととりむすぶ関係性の一局面を,フィリピン人ム スリム女性家事労働者 (MuslimFilipina Domestic Workers:以下, MFDWと略す)の視点か

* 大阪大学大学院人間科学研究科;Graduat巴Schoolof Human Sciences, Osaka University, 1.2

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白山人類学 16号 2013年3月 ら考察しようとするものである1)。湾岸産油国では,アラブ首長国連邦 (UAE) やカタルのよ うに在住外国人の割合が8割を超える国家が出現している。彼らの出自は多様であり,一部ド パイのような都市ではコスモポリタン的な空間も誕生している。しかし,自国民と外国人労働 者が非対称的な権力関係にあること I非定住移民受入国」であり外国人労働者の大多数が一 時的な契約労働者であること,労働市場が国籍によって分割していること,などの理由により, 湾岸産油国では,国籍や階層を超えた関係は,ほとんどとりむすばれないことが指摘されてい る [Kapiszewski2007 ;松尾 2010J

しかし,湾岸産油国の他に類をみない特徴は,外国人は不可視なマイノリティではない,と いうことである。国籍や階層をこえた親密な社会関係はとりむすばれにくくとも,階層格差が 大きく,非定住移民受入国で,国籍による分割労働市場であるからこそみられる社会現象があ る。湾岸産油国における自国民と外国人,あるいは外国人どうしは,関係性をとりむすばない, と単純にいえるものでもなく,その関係性の実態を実証的に検証することが必要である。 そこで筆者らは,外国人が総人口の一定の割合を占める湾岸産油国の国民国家を「多外国人 国家」と呼び,そこに生きる外国人労働者がどのような局面で他者と関係性をとりむすぶのか を分析し,そのダイナミズムを湾岸型共生・分断モデルとして提示することを目的とした共同 研究を2011年より開始した2)。筆者は, 2011年以前にも UAEおよびフィリピンにおいて, MFDWにインタビューをするなどの調査を行ってきた3)。本稿では,このような筆者の現地調 査と先行研究を参考にしながら, l)MFDWと湾岸産油国の自国民, 2)MFDWと他のフィリピ ン人労働者, 3)MFDWと他の外国人家事労働者の三側面における「他者」との関係性を整理す る。三側面における MFDWの経験を提示することにより,湾岸産油国における外国人労働者 の関係性の実態に関する研究に一つの貢献をしたいと考える4)。 1) 本稿でいう湾岸産油国とは,アラブ首長国連邦 (UAE) ,オマーン,カタル,クウェート,サウディ アラビア王国 (KSA),パハレーンの6カ国である。 2) 本研究は,科学研究費補助金基盤研究(B) I湾岸諸国における外国人労働者

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多外国人国家」におけ る共生・分断モデルの構築J (研究代表者:細田尚美;2011-13年度)として実施されたものである。 3) 筆者はフィリピン南部ミンダナオ島のサランガニ州およびジェネラルサントス市のムスリム社会にお いて1995-96年までフィールド調査を行い,元 MFDWにインタビ、ューを行った。また, 2001-04年ま では,同州岡市においてMFDWに関する世帯調査を行った。 2008-10年度までは,科学研究費補助金 基盤研究(B)

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ド、パイで働くフィリピン女性のアイデンティティの再編.キリスト教徒とムスリムの比 較J (研究代表者.細田尚美)に参加し, 2009年 2月4日から 17日まで, UAEにおいて MFDW26 人に対してインタビューを行った。 4) 湾岸産油国 6カ国には,外国人労働者受け入れ政策において共通性がみられる[堀抜 2009J。しかし 6カ国の外国人受け入れ状況には,違いもある。本稿は,その違いのなかで MFDWの経験を論じるこ とをできていないという隈界がある。

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本稿の構成は以下の通りである。はじめに,湾岸産油国のフィリピン人労働者の特徴と,そ の分割化された労働市場におけるMFDWの位置づけを確認する。つぎに, MFDWの三側面に おける経験を分析的に記述する。最後に,湾岸産油国「多外国人国家」における他者との関係 性の一局面に関して, MFDWの視点からみるとどのようなことがいえるかについて,述べ る。

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湾 岸 産 油 国 に お け る フ ィ リ ピ ン 人 労 働 者 と

MFDW

1 多様な職種に就労するフィリピン人労働者 フィリピンは世界でも有数の海外労働者送り出し国であり,フィリピン人労働者は 2010年 現在,世界170カ国以上で働いている [POEA2010J。湾岸産油国6カ国は,フィリピンが海外 出稼ぎを国策として推進しはじめた 1970年代以来,主な送り先である。その特徴を,他の主 要な海外出稼ぎ先と比較すると以下の通りである(表1)。まず他国では,最大職種の比率が 5 割以上をしめるのに対して,湾岸産油国では最大職種は家事労働者であるが,クウェートとオ マーンをのぞ、いては,その比率は3割以下である。すなわち,クウェートとオマーンをのぞ、く 湾岸産油国では,家事労働者の数は一番多いが,他にも多様な職種に就労するフィリピン人労 働者が存在していることがわかる。 一方,フィリピン人にとって湾岸産油国で働くことは,他の主要な海外出稼ぎ先と比べて, 必ずしも好まれているとはいえない。家族呼び寄せの厳しい基準や長年働いても永住権が取得 できないなど,外国人労働者の権利を認めていないこと,自国民と外国人労働者が非対称的な 権力関係にあり,前者の後者に対する蔑視があること,文化的な差異が大きく,行動の自由が 制限されるとのイメージがあること,などが理由である[石井2011J。 2 分割化された労働市場と MFDW 多国籍の外国人労働力の移入によって成立する湾岸産油国の労働市場は,世界で最も分割化 と差別化が進んでいるという [Kapiszewski2007: 107・109J。女性の労働市場も国籍,セクタ ー,宗教的属性よって階層的に分かれており,つぎのように外国人の家事労働者はその底辺に 位置づけられる。 2-1 自国民女性と外国人女性のあいだの非対称な関係 湾岸産油国においては,クウェートとパハレーンをのぞいて女性の労働力参加率は低い。自 国民の女性が労働市場に参加しないのに対して,外国人の女性は賃労働にたずさわっている。 労働力化した一部の自国民の女性が教師や公務員などの公的部門で働くのに対して,外国人労

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白山人類学 16号 2013年3月 働者の女性の大多数はサービス労働者および家事労働者である。公的部門においては自国民が 優先的に雇用され,給与水準は民間部門よりも高い。湾岸産油国の労働市場においては,自国 民と外国人は非対称的な存在として位置づけられている [Kapiszewski2007: 107・109;松尾 2010: 148-168;石井 2011:32-33J。 表 1 フィリピン人海外労働者 (OFW) 主要送り出し固における最大職種 (2006年) 国 │新規雇用OFWの数(人:J最大職業の比率 事事帰居老

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働督者関 バハレーン 26%女性家事労働者 クウェート

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26,322 72%女性家事労働者 オマーン

I

3,130 79%女性家事労働者 カタノレ

I

27,814 23%女性家事労働者 UAE 38,523 31%女性家事労働者 サウディアラビア 89,777 13%女性家事労働者 アジア 香 港 19,598 97%女性家事労働者 シンガポール 4司398 71%女性家事労働者 USA 15%女性教師 沼 山 口 ツ パ 1,880 者 一 者 働 一 働 労 一 労 事 一 ア 家 一 ケ 性 一 性 女 一 女 % 一 %

a -A 吐 凸 U -n o イタリア イギリス 621 出典:Johnson 2010

p.9. 2-2 家事労働者のあいだの格差 一方,家事労働者の労働市場も国籍,宗教的属性によって差別化が進んでいる。家事労働者 の賃金相場は,教育水準や技能で、はなく,国籍によって決定される。これは,一つには外国人 労働者は出身固において賃金契約を行うため,出身国の経済水準に応じた賃金契約をむすぶた めである。また,フィリピン人は教育水準が高く,近代的で英語を話すというイメージがある ため,インド人やスリランカ人の家事労働者よりも高い賃金で雇われる傾向がある。一方,フ

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ィリピン人が権利主張や異議申し立てを行う傾向があるのに対して,インドネシア人は従順で あるとのイメージがあるため,フィリピン人の家事労働者の雇用が倦厭される場合もある。最 近では,エチオピア人の家事労働者がスリランカ人よりもさらに安く雇われている [Sabban 2004: 88-89J。しかし,全体的にみれば家事労働は湾岸産油国のなかで,もっとも賃金水準が 低い底辺労働者である。 一方, 2009年の UAEにおける筆者の調査では, UAE在住の欧米系の外国人に雇われるフィ リピン人家事労働者のほうが,自国民や非欧米系の雇用主に雇われるフィリピン人家事労働者 よりも,高額の賃金が支払われ,前者には定期的な休日も与えられるなど,比較的良好な労働 条件が与えられていた5)。前者の場合,雇用の条件とされるのは,英語などの言語能力があるこ とで,この点において英語が堪能なフィリピン人のクリスチャンの女性が好まれて雇われてい た。 MFDWは,フィリピン人クリスチャンの家事労働者よりも比較的に悪い労働条件で雇用さ れている[石井2011:32・33J。 湾岸産油国のMFDWの賃金は 1ヶ月あたり 15,000-20,000円ほどであり,これは全世界で 働くフィリピン人家事労働者の賃金とくらべると,最低レベルである。日給に換算すると,わ ずかにフィリピンの法定最低賃金を上回るにすぎない。こうした低賃金の家事労働者になるの は, MFDWのような,フィリピンでも低所得者層が多い。フィリピンのムスリム社会は,過去 40年以上にもわたる武力紛争の結果,全国でもっとも貧しい地域となっている。こうした貧し い地域の女性が, リクルーターやエージェントに支払う手数料が安く,手元にまとまった資金 がなくても渡航できる湾岸産油国の家事労働者になるのである6)。彼女たちの教育水準は比較的 に低く,それゆえに,もっとも脆弱な労働者として湾岸産油国に送り出されている。労働条件 が悪くても渡航するのは,自国では働き口を見つけることが困難であり,湾岸産油国で家事労 働者になるほうが,まだ人生を向上させる可能性があるからである[石井2011:35J。

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MFDW

の経験 ここで,筆者が 2009年 2月に UAE (アブダピ, ドパイ,アル・アイン)で行った26人の 5) 2006年 12月 6日,フィリピン海外雇用庁は UAEで働く家事労働者の最低賃金を 400USドルにする ことをUAE政府と合意した。したがって, UAE在住の外国人はこれを守り,家事労働者に 400USド ルを支払っているようであった[GovernmentofDubai 2009J。 6) 中東諸国における家事労働者になるために MFDWがリクルーターやエージェントに支払う手数料の 平均は5,000-1,000ペソ(10,000-20,000円)である。これは他の海外労働の職種の手数料と比べて最 も安い。いくつかのエージェントは,中東諸国での家事労働者に隈って,手数料を渡航後の給料から の天引きで支払うことを許している。それゆえに,手元にまとまった資金がない低所得者層のムスリ ムの女性でも,中東諸国の家事労働者になら応募することができる[石井2011:31J。

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白山人類学 16号 2013年3月

MFDWへのインタビューをもとに7),ILOによるクウェート,パハレーン,レバノンにおける

家事労働者の調査報告 [Esim& Smith eds. 2004J, UAE (ドパイ)の中産階級に雇われる 51 人の家事労働者への調査結果をまとめたサパンの研究書 [Sabban2012J を参考にしながら

ω

, MFDWの平均的な経験を描くことを試みたい。 1 搾取的な労働条件 まず,渡航手数料などとして, リクルーターとエージェントに給与の 2-3ヵ月分を支払うこ とを要求される。出国前に支払うことができない場合には,給与から天引きされることに合意 する

ω

。給与は 1カ月 15,000-20,000円ほどである。仕事は,洗たく,掃除,アイロンを行い, 場合によっては料理や子どもの養育,高齢者の介護にもあたる。育児,介護のためのみに雇わ れる場合もある。雇用主の家にメイドルームをあてがわれ,住み込みで働く。用事があるとき は昼夜を問わずいつでも呼び出される[石井 2011:34-35J。労働時聞は,サパンによると 1日 11~20 時間である場合がもっとも多い [Sabban2012: 197J。家事労働者は家庭内の労働であ るために,労働法の適用外におかれている10)。 2 孤立 家事労働者は家族から離れて単身で渡航し,雇用主の家庭という私的な空間で働くこととな る。休日はほとんどなく11),行動の自由は制限される。戸建の家で働く場合,家の周囲には壁 がはりめぐらされ,雇用主の留守のあいだはドアに鍵がかけられる場合がある。雇用主がパス ポートをあずかるケースが多く,容易に逃げることもできない12)。雇用主の家庭空間もジェン ダー化,階層化されており,自由に行動することが許されない。同じ都市や固にいるフィリピ 7) 雇用主夫婦の出自は, UAE人 (14世帯),イラン人 (3世帯),イギリス国籍ノ奇キスタン人 (2世帯), UAE人とレバノン人 (1世帯),パレスチナ人(1世帯),パキスタン人 (1世帯),エチオピア人(1 世帯),イラン人とエジプト人 (1世帯),エジプト人とモロッコ人 (1世帯),ヨルダン人 (1世帯) であった。 8) 家事労働者の出自はフィリピン人(16人) ,スリランカ人 (19人) ,インド人 (11人) ,インドネ シア人 (3人) ,その他 (2人)である。調査をおこなったドバイのアルミムザ(Al-Mimza)地区は, 住民の 82パーセントが UAE人であり,残りは大多数が家事労働者である。調査は 1994年6-8月にか けて行われた。 9) 本来,航空券代などは雇用主負担であるので,これは違法行為である場合が多い。 10) これに対して,各国はそれぞれの取り組みを行っている。たとえばクウェートや UAEは,それぞれは 家事労働者の標準雇用契約 (standardemployment contract) を整え,休暇や給与支払に関する雇用 条件を定めている。しかし,労働時間や超過勤務などに関する条件を盛り込んでいるものは少なく, 国際人権団体は,家事労働者保護には十分ではないと批判している [HumanRights Watch 2007・113;

Human Rights Watch 2010a: 7; Human Rights Watch 2010b: 12J。

11)インタビ、ューした MFDW26人中,雇用主が UAE人であった 14人はすべて休日がなかった。 12)たとえばクウェートや UAEでは,雇用主が家事労働者のパスポートを預かることは規則違反だが,家

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ン人の友人や知人,フィリピンの家族とのコミュニケーションには雇用主の許可が必要である。 フィリピンの家族や親族への送金は,雇用主によって代行される。サパンは, UAEでは,程度 の差はあっても,家事労働者は物理的,心理的,社会的,文化的に隔離と孤立の状況にあり, これが他の外国人労働者とは大きく異なる特徴であるという [Sabban2012: 169-170J。 3 蔑視,ことばの暴力 国際人権団体の報告書は,湾岸産油国の家事労働者の問題として,労働条件の悪さとならん で,虐待や性的暴力の多さを問題視する [HumanRights Watch 2007; 2008J。世界170ヵ国 に労働者を送り出しているフィリピンでも,もっとも多く問題が生じているのが,湾岸産油国 で働く家事労働者である。このように湾岸産油国で働く家事労働者は,全般的に労働条件が悪 いうえに,彼女たちを保護する法律や NGOなどの制度が欠如しているために,人権侵害に対 して脆弱な立場におかれている13)。しかし,全体的にみれば,脆弱な立場が過度な酷使や人権 侵害につながる例のほうが少ない14)。むしろ,多くが体験するのが,孤立,耐えられる範囲の 家事労働者に対する蔑視やことばによる暴力,労働条件の悪さであり,こうしたことには折り 合いをつけながら働いている[石井2011:35J。 IV 他 者 と の 関 係 性 :MFDWの 視 点 か ら つぎ、に, MFDWが湾岸産油国の自国民,他のフィリピン人労働者,そして他国籍の外国人家 事労働者とどのような関係性をとりむすぶか,についてみていきたい。 1 自国民(雇用主の家族)と MFDWの関係性 1・1 非対称的な権力関係・搾取的関係 MFDWは行動の自由が制限されているため,自国民との接点は基本的に雇用主の家族やその 親族に限られる。家事労働者は,湾岸産油国に欠かすことのできない再生産労働者である。一 方,フィリピン以外のアジア,アフリカの国々も家事労働者を送り出しており,労働市場は供 13)クウェート,バハレーン, UAEなどでは,虐待を受けた女性のためのシェルターを開設している [Human Rights Watch 2010a: Human Rights Watch 2012: 7; UAE Interact 2007J。しかし,雇用 主のもとを逃げだした家事労働者は当局に助けをもとめると逆に逮捕されるのではないかとの懸念も つものが多いとし寸。また,国際人権団体は,官制のシェルターは保護する場所というよりは,拘禁 する場所のようである,と批判している [HumanRights Watch 2010bJ 14)国際人権団体の調査では,クウェートでは,家事労働者がもっとも苦情を寄せたのが給与未払いや休 息なしの長時間労働であるという [HumanRights Watch 2010aJ。サウディアラビアで80人のフィ リピン人家事労働者に対して話をしたジョンソンによると,その3分の 1がよい雇用主に恵まれてい ると述べた [Johnson2011J。

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白山人類学 16号 2013年3月 給過剰である。それゆえに家事労働者に対する依存度が高い割には,家事労働者は使い捨て可 能 (disposability),消費可能 (expendability),代替可能 (interexchangeability),そして送 還可能 (deportability) である [Mahdavi2011: 415; 421J。 湾岸産油国では,外国人労働者を受け入れに関してカファーラ (kafa1a) 制度を適用してい る15)。これは,自国民が外国人労働者受け入れの身元保証人となり手続きを行う制度であり, 身元保証人に契約解除や更新に関する権利を認めている。家事労働者の場合,身元保証人が雇 用主である場合がほとんどである。それゆえに,家事労働者はパーゲ、ニング、パワーをもちにく く,雇用主との関係において非対称的な権力関係におかれ,搾取的な労働条件で働くことを余 儀なくされる [HumanRights Watch 2010aJ。

1-2 自国民のジェンダ一関係への編入 湾岸産油国においては,石油輸出の富の分配によるレンティア経済が発展した結果,自国民 の女性は生産労働市場に送り出されることなく,自国民人口や文化,伝統を再生産する「家庭」 という領域の要として位置づけられていった [Sabban2012: 43J。少子化が進まず,富裕層が 増えることと並行して物理的に近代的な家の空聞が拡大し,家庭内の再生産労働は増大してい った。女性の労働力参加率が低いなか,妻は家庭内の主婦として,家事労働者を使って家庭内 の再生産労働をきりもりするマネージャーとなり,家事労働者はその実質的な労働に必要不可 欠な存在になっていった。 湾岸産油国では, I公的領域」と「私的領域=家庭」が明確に区別される傾向がある。このよ うななか,家事労働者は家庭のなかの「ハーレム」に入り,自国民のジェンダ一規範が適応さ れ,家庭における女性の役割を果たす最下位メンバーと位置づけられる [Sabban2012: 176J 16)。また前述のカファーラ制度や家事労働者雇用時に雇用主が払う手数料などにより,後者の 前者に対するオーナーシップが強められる傾向がある [Johnson2011: 461J。こうして,家事 労働者は家族の成員ではなく,賃金と対価に労働を提供する「他者」でありながら,行動やセ クシャリティが雇用主の家族の強い管理下におかれることになる。 一方,雇用主と家事労働者のあいだに大きな階層格差があり,両者が非対称的な権力関係, 搾取的な関係にあるなかで,同じイスラムという宗教に属することはどのように作用するだろ 15)バハレーンは 2009年にカファーラ制度見直しを行い,個人ではなく,バハレーン労働市場規制庁 (Bahrain LabourMark巴tR巴gulatoryAuthority) が外国人労働者のスポンサーになることとした。 これにより,外国人労働者が一定の要件を満たせば,雇用主の同意なしに仕事を変更することが可能 になった。しかし,この制度改革は家事労働者には適用されない[HumanRights Watch 2010b: 17J。 16)サウディアラビアでは,外国人の家事労働者に頼らざるをえない一方,彼女たちの単独渡航がジェン ダー規範に逸脱しているとみなし,彼女たちに対する蔑視を強める傾向があることも指摘されている [Johnson 2010J。

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うか。湾岸産油国のムスリムの家庭は,信仰心の厚さや,子どもに与える影響への配慮から, ムスリムが非ムスリムよりも好まれて雇用される傾向がある程度存在する。たとえばフィリピ ン人ではクリスチャンよりもムスリムが,スリランカ人では仏教徒よりもムスリムが好まれて 雇われる傾向がある [Ismail1999J。しかし一方で,家事労働者の逃亡件数が一番多くなるの がラマダンの時期であり [Sabban2012: 214J,それはムスリムの家事労働者にとっても例外で はない[石井 2011J。同じムスリムであることが両者の親密性を増すことがあっても,それが 階層格差を超えることはない。 1-3 I倒錯するエージェンシー」によって可能になる「共生」 家事労働者のなかには,当初は長期で滞在する意図はなくとも,同じ雇用主のもとで契約更 新を繰り返しながら長期にわたって雇用される人がいる。このような家事労働者のなかには, 雇用主に搾取的な労働条件で雇われながら「家族のように扱われ」たり,雇用主の子どもに愛 着がわいて離れがたくなった,などという場合がある。このように「家族イデオロギー」に家 事労働者が包摂されることについては,それにより彼女たちが悪い労働条件に抗議しない環境 が作られているという指摘がある [Asis2005: 42; Gamburd 2010: 7J。 また,独身であったり,海外で働いているあいだに夫との関係が悪化したりして,出自の家 族に居場所がなくなる一方,家事労働者として送金をすることによって,出自の家族に存在意 義が与えられる場合もある。出国当時は短期で帰国する予定が,海外労働を行う個人のなかで 「家族の一員」であるという意味合いが倒錯することによって,長期に滞在する場合がある。 すなわち,家事労働者のエージェンシーが倒錯したことによって,雇用主と家事労働者の「共 生」関係が築かれているといってもいいのかもしれない [Sabban2012: 257-259J17)。 1-4 家事労働者に対する世論 湾岸産油国は,家事労働者をふくむ外国人労働者に対する依存度が高く,もはや彼らの存在 なしでは国家が成り立たない。しかし,外国人労働者に対する世論は,彼らとの交流や共生社 会の必要性を唱えるものではなく,彼らへの脅威を強調するものが多い。家事労働者に関して は,それが子どもの社会化に与える悪影響,言語や文化が多様化することの問題点などが指摘 され,国家発展のために家族やライフスタイルが変わってし、く過程に必要な存在であるとはみ 17)サパンは,女性家事労働者が雇用主の家族と情緒的にむすばれ,家庭内の責任を負うようになる過程 で,彼女たちの感情の統ーがとれなくなり,文化的に出自の社会から遠くなる(emotionally fragmented and culturally alienat巴d) ことがあるという。そのため,出自の家族と生活したいのか, 雇用主の家族と生活したいのかについて,判断をうしなっていく家事労働者がいる,と述べる[Sabban 2012: 258J。

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白山人類学 16号 2013年3月 なされない18)。一方,国際人権団体が湾岸産油国の家事労働者や建設労働者などの底辺労働者 の労働条件の悪さを指摘する報告書を発表しており [HumanRights Watch 1995; 2007; 2008; 2010a; 2012; IRIN 2006J,労働者を搾取しているとの否定的なイメージが国際的に形成される ことは,湾岸産油国にとって否定的な要因である。 2 同じ国籍(フィリピン人)の聞の共生と分断 2-1 階層格差による分断 湾岸産油国においては,多様な職種のフィリピン人が働いている。たとえばUAEにおいて, 彼らは自分たちを主に1)Iプロフエツショナル」とよばれる専門職従事者,2) I普通(ordinaryo)J のサービス業や事務職員,警備員,溶接工機械工,そして3) IDH (domestic helper)J の家 事労働者と,階層によって区別している。うち, Iプロフェッショナル」と「普通」の職種につ く多くのフィリピン人は「アソシエーション」とよばれる団体を作り,週末などに交流をして いる[細田 2013J。それらの種類は,職業団体,趣味サークル,同郷組織,大学同窓会,フラ タニティ,ボランティア団体,宗教関連組織などである[細田2013J。しかし, MFDWなどは 休日を与えられず,行動の自由が制限されているため,こうした「アソシエーション」を通じ て,同じ国出身者と交流をもっ機会は少ない。ただし MFDWのなかでも,雇用主に許可をあ おげば比較的簡単に外出できるものや,休日が与えられているものは,アソシエーションへの 参加を通じて,他の職種のフィリピン人との出会いがある。しかし,アソシエーションは中間 層の専門職が会員の中心であり,家事労働者がその積極的なメンバーになることは,ほとんど ない。 2・2 分断を超えたアイデンティティと互助関係の形成 湾岸産油国では,海外労働者のほとんどが一定期間で雇用される契約労働者である。そのた めに,彼らの受け入れ国に対する所属意識はうながされない。一方,労働市場が国籍によって 分割されていることは,フィリピン人のあいだの交流と,フィリピン人労働者としてのゆるや かなアイデンティティの形成をうながしている。こうしたゆるやかなアイデンティティの形成 は,時として見ず知らずの同国人を手助けする互助網として機能することがあり,細田はそれ 18)一方で, UAEの新聞は外国人労働者の多様な側面を報じることもある。たとえば, UAEで働くフイ リピンのムスリムが,民族集団の違いを超え,ムスリムに改宗したフィリピン人も含めて組織化し, 不当な扱いに対して支援する活動を開始したことが報じられたり [TheNational 2010a] , ドバイと ノーザン・エミレーツに存在する 80のフィリピン人のグ、ループが連帯して, UAEの諸首長政府やフ ィリピン政府に対して,労働者の権利擁護を呼びかけたことなどが取りあげられた[TheNational 2010b]。

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を「カパヤン・ストリート・コミュニティ瑚」とよぶ[細田 2013J。湾岸産油国では,外国人 はマイノリティではなく,街頭にはフィリピン人も多く,このことが家事労働者が雇用主のも とから逃げること (takas)を可能にするセーフテイネットになっている [Johnson2011J。 フィリピン人労働者に聞かれた大使館の存在もまた,顔見知りではない同国人をゆるやかに つなぎ,家事労働者が保護をもとめて逃げる候補地の一つで、ある。むろん,大使館はすべての フィリピン人労働者に信頼されているわけではなく,大使館での逃亡家事労働者に対するケア やサービスが十分ではないという批判はある20)。とはいえ,たとえばUAEへの主要送り出し国 のなかではフィリヒ。ン大使館が一番熱心に労働者の保護を行っており [Sabban2012: 302J,海 外労働者の保護を怠れば,フィリピンの世論は政権批判に大きく傾くことがある[石井 2010: 208・210J。 フィリピン人労働者としてのアイデンティティがゆるやかに形成されている集団のなかでは, 労働条件が悪い家事労働者が一番脆弱な存在であり,同胞から同情を集めている。なかでも MFDWは,教育水準が低く,若年層が多く21),フィリピン人家事労働者のうちではもっとも労 働条件が悪く,開されたり,酷使されるなどして,大使館に駆け込むものが比較的多い22)。こ

のような大使館に併設された POLO-OWWA (Philippine Overseas Labor Office-Overseas Workers Welfare Administration,フィリピン海外労働事務所/海外労働福祉庁)23)のシェルタ ーにいる家事労働者や拘留所に入れられたフィリピン人に対しては,先にのべたアソシエーシ ヨンが支援活動を行っている[細田2013J。 2-3 帰国後の家事労働者聞のつながり 人権侵害にあった家事労働者の一部は,帰国後に NGOなどを通じて,フィリピン政府に対 してフィリピン人家事労働者の労働条件改善,権利要求を交渉することがある。 MFDWも出国 当初は湾岸産油国の同じムスリムの雇用主に,信仰が同じだからこそよく扱われると,期待す るところがあった。しかし,実際のところは,同じムスリムとはいえ,階層格差で大きく分断 されていた。同じムスリムとしてのアイデンティティを強めるものもいる一方で,フィリピン 19)カパヤン (kabayan)とは,フィリピン語で同郷人/同国人とし、う意味である。 20)たとえば, 2009年 2月にMigrante-UAEというフィリピン人海外労働者の権利擁護と保護を目的とす るNGOを訪れた際に,代表よりこのような批判が述べられた。 21)筆者の調査の対象となったムスリムの女性のあいだは,地元の労働市場で就職することがむずかしく, 年齢や学歴を偽って応募することが慣行していた[石井2005;2011J。しかし近年では,年齢や学歴 を偽って渡航することの危険性が喚起され,こうした慣行は減少する傾向にある。 22) 2009年 2月6日にドパイの領事館に併設された POLO-OWWAのシェルターを訪れたときに,関係者 がそのように話した。シェルターにいた71人の女性家事労働者のうち, 11人がムスリムであった。 23)POLOは労働大臣の直属下におかれ,受け入れ先での労働契約違反などの問題対処にあたる。 OWWA は労働省の付属機関であり,海外労働者とその家族の福祉向上にあたる。

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人労働者や他国籍の家事労働者とのアイデンティティを強めるものもいる。たとえば,ド、パイ, アブダピのPOLO-OWWAのシェルターには,つねに数十人が雇用主のもとを逃れてきている が,そのすべてがMFDWをふくむ女性家事労働者である24)0MFDWたちは,シェルターや拘

留所などで出会う他のフィリピン人の家事労働者と, Gamburdがいう「逃げてきた人びとのコ ミュニティ (communityof survivors) Jを形成している [e.g.Gamburd 2004: 177; Gamburd 2009: 4J。そして帰国後には,出自の社会において「アラブ人の雇用者」を否定的に語ること で Iアラブ人」に対するステレオタイプ化したイメージを形成している [Gamburd2009;石 井2011]0 MFDWとして湾岸産油国で働く経験は,帰国後のフィリピンにおいて「クリスチャ ン」や「ムスリム」という宗教的属'性を超えたエージェンシーを形成している。 3 異なる国籍の外国人家事労働者の聞の共生と分断 3-1 公共空間における家事労働者アイデンティティの形成 湾岸産油国「多外国人国家」に特徴的なのは,外国人が決して不可視なマイノリティではな く,公共空間において目にみえて多く存在していることである。家事労働者についても同様で, 彼女たちは雇用主の外出にともなってベビーカーを押していたり,スーパーマーケットでカー トを引いていたり,またゴミだしをしていたりと,あきらかに家事労働者とわかるかたちで公 共空間に存在している。サパンは,家事労働者が,互いがみえるかたちで存在することにより, 「集団としてのアイデンティティ (collectiveidentity) Jを形成しているという [Sabban2012: 169-171J。またレバノンの家事労働者の例ではあるが,ムーアらは,やはり彼女たちが教会や 市場などの公共空間でみえるかたちで存在することが「ある種のサバルタンの公共性 (some form of subaltern publicness)Jを形成すると指摘する [Moorset al.2009: 158J。家事労働者 たちは,可視化された存在を通じて,階層にもとづくアイデンティティを形成している。こう したアイデンティティは,同国人の互助網と同様,家事労働者のセーフテイネットとして機能 する場合がある。たとえば家事労働者が雇用主のもとを逃げるとき,隣家の家事労働者に支援 してもらったり,飛び込みでかくまってもらうことがある。知人宅や大使館に逃れるためには, タクシードライパーに助けを求めるということが,広く行われている。 3-2 同じ雇用主のもとで働く経験 家事労働者はまた,雇用主の家庭内で,他の外国人労働者とともに働く経験をすることがあ る。 MFDWの場合,海外に行くことも,外国人と接するのもはじめての女性が多く,こうした 24) 2009年2月にドパイとアブダビのPOLO/OWWAのシェルターを訪れたとき,担当者の話では,シェ ルターにいるのは常にすべて女性家事労働者であるということだった。 ドバイのシェルターでは,寝 泊りする部屋がムスリムとクリスチャンとで分かれていた。

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「他者」との出会いもまた,国籍を超えて同じ階層にもとづいたアイデンティティを形成する ことの一契機になっている。家庭内での他の家事労働者との関係は,敵対的な関係に発展する 場合もあれば,互助関係に発展する場合もある。インドネシア人の家事労働者とともに働いた ことのある MFDWは,インドネシア人とは文化的親和性が高く,コミュニケーションが容易 であったため,協力しあった経験を語る傾向がある[石井 2011J。また,雇用主から食事を与 えられない,コミュニケーションをほとんど許されない MFDWは,同じ家に雇われているド ライパーにこっそり食事を分けてもらったり,携帯電話のプリベイドカードを購入してもらう などの支援を受けることがある。

V

お わ り に か え て 本稿では,湾岸産油国「多外国人国家」でMFDWが他者ととりむすぶ関係性を l)MFDWと 湾岸産油国の自国民, 2)MFDWと他のフィリピン人労働者, 3)MFDWと他の外国人家事労働 者の三側面にわけで整理した。湾岸産油国では,自国民と外国人労働者が非対称的な権力関係 にあるが,外国人は決して不可視なマイノリティではない。「非定住移民受入国」であり,外国 人労働者の大多数が一時的な契約労働者である。そして,その労働市場は国籍によって分割さ れている。このような,他に類をみない湾岸産油国の外国人労働者受け入れの特徴があるから こそ取り結ぼれる関係性をMFDWの視点から描いてきた。 まず, MFDWと自国民雇用主とは,超えがたい階層格差によって分断されている。カファー ラ制度や自国民雇用主が支払う手数料,そして自国民社会のジェンダ一関係に組み込まれるこ とより,自国民の MFDWに対するオーナーシップが強められる傾向がある。同じムスリムで あることが両者の親密性を増すことがあっても,それが階層格差を超えることはない。 つぎに, MFDWと他のフィリピン人労働者との関係については,湾岸産油国には多様な職種 につくフィリピン人労働者がおり,そのなかでは MFDWは最も脆弱な低賃金労働者である。 中間層との MFDWとのあいだには,階層格差がある。しかし,多数のフィリピン人が目にみ える形で公的空間に存在すること,労働市場が国籍によって分割されていること,ほぼすべて が一時契約労働者であり湾岸産油国への所属意識が促進されにくいことから,同じフィリピン 人労働者としてのゆるやかなアイデンティティと互助網を形成する傾向がみられる。労働条件 が悪い家事労働者はフィリピン人中間層から同情を集め,支援を受けることがある。そこにお いては,ムスリムとクリスチャンの差異は大きく表明されない。むしろ,ムスリムのほうがク リスチャンよりも境遇が悪く,より多くの同情を集めている。 MFDWと他の外国人家事労働者は,同じ雇用主のもとで働く経験や,湾岸産油国の底辺労働 者として位置づけられることにより,国籍を超えて同じ階層としての集団アイデンティティを

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白山人類学 16号 2013年3月 形成する傾向にある。こうしたアイデンティティの形成は,家事労働者が困難な状況に直面し たときに,セーフテイネットとして機能することがある。 これまで,湾岸産油国における自国民と外国人,あるいは外国人どうしの関係は,分断の面 が強調されてきた。しかし,その実態を実証的にみれば,自国民と外国人労働者が非対称的な 権力関係にあること, I非定住移民受入国」であり外国人労働者の大多数が一時的な契約労働者 であること,労働市場が国籍によって分割していること,などの特徴ゆえに形成される関係性 がある。本稿はそうした関係性をMFDWの視点から明らかにした。 謝 辞 本調査は,アガリン・サラ・長瀬さんの補助なしには,実施することができなかった。また, 家事労働者としての経験を共有してくださった多くの方々にも感謝いたします。 参 考 文 献 〔外国語〕 Asis

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松尾昌樹

参照

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