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火傷病菌及び類縁病原細菌の系統解析と検出方法

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胴枯病の誤同定である可能性が高い」と結論づけてい る。一方,北海道では,1980 年代に火傷病に類似した ナシ枝枯細菌病が報告されている。この病原細菌は,チ ュウゴクナシから分離され,細菌学的性質が火傷病菌と 極めてよく似ていたが,その病原性が火傷病菌とは異な り,ナシのみに限定されたため,谷井(1983)は E. amylovorapv. pyri を提案した。しかし,この提案は認め られなかった。その後,MIZUNOet al.(2000)は火傷病 菌,ナシ枝枯細菌病菌,また,E. amylovora に近縁の E. mallotivora などを用いて細菌学的性質の調査および DNA ― DNA ハイブリダイゼーション試験を行い,ナシ 枝枯細菌病菌は E. amylovora の中の一つの biovar(E. amylovorabiovar 4)であるとし,火傷病菌とは異なる 細菌であるとした。なお,ナシ枝枯細菌病は 1999 年ま でに植物防疫法に基づく緊急防除が行われ,それ以降, 現在に至るまで本病が再発したという報告はない。 さらに,韓国においてはニホンナシに壊そ(えそ)を 引き起こす Erwinia 属菌が分離され,火傷病菌との DNA ― DNA ハイブリダイゼーション試験,16S ― 23S rDNA の塩基配列等の違いにより新しい病原菌として E. pyrifoliae が提案された(KIMet al., 1999)。 かつて国内で発生したナシ枝枯細菌病菌と火傷病菌, E. pyrifoliae との関係については,菌体外多糖質合成酵 素の遺伝子解析(KIMet al., 2001 a)や groEL 遺伝子の

解析(MAXSON― STEINet al., 2003)から「ナシ枝枯細菌病

菌は,火傷病菌より E. pyrifoliae に近縁である」ことが 示されている。 本稿では, I 火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifoliae の 16S rRNA,gyrB,rpoD 遺伝子の部分塩基配列を用い た系統解析 II グループ 1,2 検出・識別用特異的プライマーの 設計とその特異性の調査 III ニホンナシ花器の表生菌の調査 IV 直接的 PCR 法による火傷病菌の検出法 の 4 項目について中央農業総合研究センター報告第 13 号に取りまとめたものを概説する。 は じ め に 火傷病は火傷病菌(Erwinia amylovora)によって引 き起こされるナシ,リンゴの最も重要な細菌性病害の一 つである。火傷病の病徴は 1793 年にアメリカで初めて 報告された。その報告によると 1780 年代からハドソン 川流域で発生しているとされている。その原因について は,害虫(キクイムシ)説,樹液が凍結することによる 障害説,糸状菌説等様々な説が報告されていたが,どれ も決定的なものではなかった。その後,1880 年前後に BURRILLにより,罹病樹から細菌が分離され,それを接 種したセイヨウナシで病徴が再現されたことにより,火 傷病は細菌病であることが明らかになった。分離された 細菌は Micrococcus amylovorus と名付けられたが, 1920 年  WINSLOWet al. によって Erwinia 属が確立され, Erwinia amylovora と命名された(Van der ZWETand

KEIL, 1979)。 1780 年代に,北米大陸の東側で確認された火傷病は, その後次第に発生地域を西部に拡大し,1900 年代前半 までにはアメリカ全土に広がった。さらに,カナダでも 1840 年以前からこの病気が確認され,1924 年には,カ ナダのリンゴ・ナシ栽培地全域に分布することが確認さ れている。また,1919 年にはニュージーランドで, 57 年  には英国で,64 年にはエジプトで発生が報告され ている。火傷病は現在も欧州地域,中東地域等 40 か国 以上で発生し,時に甚大な被害を及ぼしている。なお, 現在の発生地域は図― 1 のとおりである(OEPP/EPPO, 2007)。 日本国内においても 1900 年代前半に火傷病の発生報 告がある(上田,1903;卜蔵,1915)が,現在は日本 において,火傷病は発生していない。これらの報告につ いて水野ら(2003)は,日本における火傷病の発生報告 および海外における火傷病菌の侵入,定着,まん延の報 告に関して詳細に検討し,「日本での火傷病菌によるナ シ,リンゴの病害の発生報告は,リンゴ腐らん病やナシ

Phylogenetic Analyses and Detection Method of Fire Blight Pathogen and its Closely Related Plant Pathogen. By Takayuki MATSUURA (キーワード:火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌,Erwinia amylovo-ra,biovar,Erwinia pyrifoliae,PCR)

火傷病菌および類縁病原細菌の系統解析と検出方法

まつ

うら

たか

ゆき 横浜植物防疫所

(2)

に お け る 様 々 な 細 菌 の 系 統 解 析 が 行 わ れ て い る (YAMAMOTOand HARAYAMA, 1995 ; SAWADAet al., 1999 ; YANEZ

et al., 2003)。 そこで,火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifoliae あわせて 39 菌株の 16S rRNA,gyrB,rpoD 遺伝子の部 分塩基配列を決定し,分子系統解析を行った。 ( 1 ) 16S rRNA,gyrB,rpoD 遺伝子および 3 種類の 遺伝子を連結した配列の系統樹 供試した 39 菌株の 16S rRNA,gyrB,rpoD 遺伝子の 部分塩基配列を決定し,系統樹を作製したところ,16S rRNA 遺伝子の系統樹は三つのグループ(グループ 1: 火傷病菌,グループ 2 :ナシ枝枯細菌病菌,グループ 3: E. pyrifoliae)に分かれた。しかし,グループ 1 とグ ループ 2 のブートスラップ値がそれぞれ 71.0%,61.0% と低く,形成された樹においても各グループの分岐が 3 本にわたることから,この系統樹の信頼性は低いと判断 された。rpoD 遺伝子の系統樹(図― 2 A)は,二つのグ ループ(グループ 1:火傷病菌,グループ 2:ナシ枝枯 細菌病菌および E. pyrifoliae)に分かれた。またグルー プ 1 と グ ル ー プ 2 の ブ ー ト ス ラ ッ プ 値 は , 9 9 . 0 ∼ 100.0%と非常に高く,十分に信頼性が高い系統樹と判 断された(gyrB 遺伝子の系統樹も rpoD 遺伝子の系統樹 と同じ系統樹が作成された)。また,16S rRNA,gyrB, rpoD 遺伝子を連結し,系統樹を作成したところ,gyrB, rpoD 遺伝子の系統樹と同じ形の系統樹が作成された (図― 2 B)。このことからも火傷病菌,ナシ枝枯細菌病 菌,E. pyrifoliae は,分子進化的には,三つのグループ に分かれるのではなく,二つのグループに分かれること が強く示唆された。 I 火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌,Erwinia pyrifoliaeの 16S rRNA,gyrB,rpoD 遺伝子の系統解析 16S rRNA 遺伝子は原核生物に普遍的に存在する保存 性の高い核酸分子であり,微生物の系統進化の研究に最 も有効な分子マーカーとして使われている。しかし, DNA ― DNA ハイブリダイゼーション試験の相同値が 70%以上の菌株間の 16S rDNA の相同性は 99%以上に なることから,種の識別評価に用いるのには限界がある (STACKEBRANDTand GOEBEL, 1994)。

近年,細菌の種間の類縁関係を解析するためにいくつ かの特定遺伝子の配列が用いられている。それらの遺伝 子に求められることは,①プラスミド DNA のように水 平移動しない遺伝子であること,②進化速度が 16S rRNA 遺伝子より速いこと,③細胞が普遍的にもってい ること等が挙げられる。これらの条件を満たす遺伝子の うち,gyrB 遺伝子と rpoD 遺伝子を選択した。

gyrB 遺伝子は DNA ジャイレース(II 型のトポイソメ ラーゼ)のサブユニット B タンパク質をコードしてい る遺伝子である。DNA ジャイレースは DNA の複製な どにおいて必要ならせん構造のねじれを解消するための 酵素である。一方,rpoD 遺伝子は RNA ポリメラーゼ酵 素のシグマ因子の一つで,一般的に働くσ70をコードし ている遺伝子である。σ70は転写開始部位の選択を行う。 両タンパク質とも細菌細胞内の至るところに存在し,細 胞の生存に必須である。これらの遺伝子の水平移動は, rRNA 遺伝子と同じくらいまれであると考えられる。現 在までこの 2 種の遺伝子(gyrB と rpoD)を用いた種間 欧州 欧州 欧州 アフリカ アフリカ アフリカ 南極大陸 南極大陸 オセアニア オセアニア アジア アジア 南米国 南米国 北米国 北米国 南極大陸 オセアニア アジア 南米国 北米国 120 60 180 120 60 0 60 120 180 120 60 0 00

図 −1 火傷病菌発生国(Erwinia amylovora Distribution map Edition 8(2007) の情報をもとに作成)

アミかけ部分の国々で火傷病の発生が報告されている(中央農業総合研究

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グループ 1 グループ 2 火傷病菌 E. amylovora bv. 1,2,3 ナシ枝枯細菌病菌 E. amylovora bv. 4 E. pyrifoliae

E. carotovora subsp. carotovora

Escherichia coli E. mallotivora 0.01 substitutions/site 100 99 99 99 100 61 Ea bv1 ―1 Ea bv2 ―1 Ea bv2 ―2 Ea bv2 ―17 Ea bv2 ―24 Ea bv2 ―3 Ea bv2 ―4 Ea bv2 ―5 Ea bv2 ―6 Ea bv2 ―7 Ea bv2 ―8 Ea bv2 ―9 Ea bv2 ―10 Ea bv2 ―11 Ea bv2 ―12 Ea bv2 ―13 Ea bv2 ―14 Ea bv2 ―15 Ea bv2 ―16 Ea bv2 ―18 Ea bv2 ―19 Ea bv2 ―20 Ea bv2 ―21 Ea bv2 ―22 Ea bv2 ―23 Ea bv3 ―1 Ea bv3 ―2 Ea bv3 ―3 Ea bv4 ―1 Ea bv4 ―3 Ea bv4 ―4 Ea bv4 ―5 Ea bv4 ―8 Ea bv4 ―9 Ea bv4 ―2 Ea bv4 ―6 Ea bv4 ―7 Ep1 Ep2

(A)近隣結合法で推定された rpoD 遺伝子の系統樹.進化距離は HKY85 にて計算した.数 字はブートスラップ値(1,000 回反復)を示している.Bar は進化距離尺度を示す グループ 1 グループ 2 火傷病菌 E. amylovora bv. 1,2,3 ナシ枝枯細菌病菌 E. amylovora bv. 4 E. pyrifoliae

E. carotovora subsp. carotovora

Escherichia coli E. mallotivora 0.005 substitutions/site 98 100 100 100 100 57 100 Ea bv1 ― 1 Ea bv2 ―5 Ea bv2 ―8 Ea bv2 ―9 Ea bv2 ―12 Ea bv2 ―13 Ea bv2 ―21 Ea bv2 ―6 Ea bv2 ―14 Ea bv2 ―24 Ea bv2 ―17 Ea bv2 ―18 Ea bv2 ―7 Ea bv2 ―2 Ea bv2 ―3 Ea bv2 ―4 Ea bv2 ―15 Ea bv2 ―23 Ea bv2 ―20 Ea bv2 ―22 Ea bv2 ―10 Ea bv2 ―16 Ea bv2 ―11 Ea bv2 ―1 Ea bv2 ―19 Ea bv3 ―1 Ea bv3 ―2 Ea bv3 ―3 Ea bv4 ―1 Ea bv4 ―5 Ea bv4 ―9 Ea bv4 ―8 Ea bv4 ―3 Ea bv4 ―4 Ea bv4 ―2 Ea bv4 ―7 Ea bv4 ―6 Ep1 Ep2

(B)近隣結合法で推定された 16S rRNA 遺伝子,gyrB 遺伝子,rpoD 遺伝子の遺伝子を連結 した配列の系統樹.進化距離は HKY85 にて計算した.数字はブートスラップ値 (1,000 回反復)を示している.Bar は進化距離尺度を示す

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照的に,グループ 2 に含まれるナシ枝枯細菌病菌は菌株 間でわずかに配列が異なっていた。供試した bv. 1 と 2 は,世界各地の菌株を用いており,分離年度も宿主も異 なる。一方でナシ枝枯細菌病菌は,チュウゴクナシとセ イヨウナシから,北海道でのみ分離されており,分離さ れた年もわずか数年間に収まる。このことは,ナシ亜科 の火傷病菌が分子系統学的には,ほぼ単一の系統が広く 世界に伝搬したのに対して,ナシ枝枯細菌病菌は,ごく 限られた地域に多様な系統が存在していることを示唆し ている。 II グ ル ー プ 1, 2 検 出 ・ 識 別 用 特 異 的 プライマーの設計とその特異性の調査 I 章において,火傷病菌とその類縁細菌は,火傷病菌 を含むグループ 1 と,ナシ枝枯細菌病菌および E. pyri-foliae を含むグループ 2 に分けられることを明らかにし た。そこで次に,それらを迅速・正確に検出・識別する ための特異的な PCR プライマーの設計を試みた。 火傷病菌の特徴的な性質の一つとして,29 kb のプラ スミド(pEA29)を共通してもっていることが報告され ていたことから,このプラスミドをターゲットとしてい くつかの特異的プライマーが報告されている(BERESWILL

et al., 1992 ; MCMANUSand JONES, 1995 ; LLOPet al., 2000)。

しかし,LLOPet al.(2006)は,pEA29 をもたない火傷 病菌を自然界より分離し,上記の特異的プライマーで は,検出できないことを報告した。 一方で,ゲノム DNA からの特異的プライマーとして は,火傷病菌の菌体外多糖質の合成に関与する遺伝子か ら設計されたプライマー(BERESWILLet al., 1995),ゲノ ム D N A の 特 異 的 領 域 か ら 設 計 さ れ た プ ラ イ マ ー

(GUILFORDet al., 1996),23S rRNA 遺伝子より設計された

プライマー(MAESet al., 1996)がある。

また,E. pyrifoliae についても 16S rRNA 遺伝子と ITS 領域から設計された特異的プライマーおよび菌体外多糖 質の合成に関与する遺伝子から設計された特異的プライ マーがある(KIMet al., 2001 b)。 本研究では,rpoD 遺伝子の分子系統解析において, 火傷病菌とナシ枝枯細菌病菌および E. pyrifoliae が二つ のグループに分かれたことから,同遺伝子のグループ 1 (火傷病菌),グループ 2(ナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifo-liae)のそれぞれ特異的な領域から新たなプライマーを 設計し,その特異性について調査を行った。 ( 1 ) EarpoD,EprpoD プライマーセットについて シークエンスを行った 39 菌株の rpoD 遺伝子の塩基 配列のうち,分子系統解析でグループ 1 に属する火傷病 グループ 1 を形成した火傷病菌は,三つの biovar を 含んでいる。bv. 1 はカナダで分離された 1 菌株,bv. 2 は type strain を含む大部分の火傷病菌,bv. 3 は,キイ チゴにのみ病原性を示すいわゆるキイチゴ分離菌株と呼 ばれている火傷病菌である。今回作成された系統樹にお いて,bv. 1 と bv. 2 の違いは得られなかった。また,供 試した 25 菌株の bv. 1,2 は,gyrB,rpoD 遺伝子ともに ほとんど同じ配列であった。 グループ 2 を形成したナシ枝枯細菌病菌と E. pyrifoli-ae は,ともに細菌学的性質や同じ宿主における病徴な どが火傷病菌とよく似ている菌であるが,今回作成され た系統樹において,火傷病菌と同じグループには入ら ず,独自のグループを形成した。特に gyrB 遺伝子, rpoD 遺伝子,三つの遺伝子配列を連結した系統樹にお いて,100.0%と高いブートストラップ値を示したこと から,分子進化において,これらが同じグループに属す る一つの集団を形成することが示唆された。 ( 2 ) 火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifoliae の 分子系統学的関係 火傷病菌,ナシ枝枯細菌病菌および E. pyrifoliae は, gyrB,rpoD 遺伝子,さらに 16S rRNA 遺伝子を含めた 3 種  類の遺伝子を連結した配列の系統樹ではっきりと二 つのグループに分かれ,それらは高いブートストラップ 値を示したことから,分子系統学的に違うグループであ ることは十分信頼できると考えられた。MIZUNO et al. (2000)は火傷病菌とナシ枝枯細菌病菌の分類学的関係 について細菌学的性質の調査と DNA ― DNA ハイブリダ イゼーション試験の結果から,四つの biovar に分類し, ナシ枝枯細菌病菌を bv. 4 と分類した。その後,さらに 血清学的な調査を行い,これら四つの biovar は三つの 血清型(bv. 1 と 2,bv. 3,bv. 4)に分かれることを明 らかにした(MIZUNOet al., 2002)。一方で E. pyrifoliae は,

DNA ― DNA ハイブリダイゼーションの結果や,16 ― 23S rRNA intergenic transcribed spacer(its)領域の遺伝子 解析,Biotype 100 strips を用いた細菌学的性質調査から 火傷病菌と近縁であるが,異なる種として提案されてい る(KIMet al., 1999)。今回の系統樹の結果からは,bv. 4 と E. pyrifoliae が同じグループを形成したことから,分 子系統学的には,bv. 4 は,火傷病菌より E. pyrifoliae に より近縁であることが示唆された。これは,今まで報告 さ れ て い る 他 の 遺 伝 子 の 分 子 系 統 解 析 ( KI M et al.,

2001 a ; MAXSON― STEINet al., 2003 ; JOCKand GEIDER, 2004)

の調査結果とも一致する。

グループ 1 に含まれる火傷病菌の bv. 1,2 の gyrB, rpoD 遺伝子の塩基配列はほとんど同一であったのと対

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る選択培地も,これらの表生菌を抑制できるか否かは不 明である。 そこで,これらの問題点を解決するために,火傷病菌 および E. pyrifoliae の宿主であるニホンナシの花器に存 在する表生菌について調査を行うこととした。火傷病菌 は,その伝染環の中で訪花昆虫により花器を介して新た な宿主に伝搬すると考えられており,花器は火傷病菌の 伝染環の中で重要な役割を果たしていると考えられてい る。また,ナシにおける表生菌の報告は少なく,国内の ニホンナシの花器における菌相は明らかにされていない ことから,以下の調査を行うこととした。①ニホンナシ 花器に存在する表生菌を分離し,その種類およびおおよ その数の調査。②同じニホンナシ花器を用いて,火傷病 菌用選択培地に分離されてくる表生菌の種類およびおお よその数を調査およびその培地上で火傷病菌とコロニー 形態が類似したものについてはナシ幼果に対する病原 性,簡易同定キットのプロフィールインデックス(21 項目の細菌学的性質を七つの数字で表す方法)調査。③ 火傷病菌を同定するための特異的プライマーを用いて, 分離された表生菌が陽性対照株と同じサイズの遺伝子増 幅を示すかの調査。 ( 1 ) 表生細菌の調査 茨城県,鳥取県,長野県の 3 箇所で採集したナシ花器 から LB 平板培地を用い,4 回の分離を行い,表生細菌 278 菌株を得た(畔上ら,2007)。このほかに 16 菌株の 酵母が得られた。表生細菌 278 菌株の 16S rRNA 遺伝子 の部分塩基配列解析を行ったところ,半分以上の 155 菌 株が Bacillus 属および Pseudomonas 属と推定された (佐々木ら,2007)。各県の結果は表― 2 にまとめた。こ の結果から,開花後のニホンナシ花器における表生細菌 の大部分は Pseudomonas 属であることが示された。ま た,表生細菌の構成に地域間差異は見られなかった。し かし,茨城県の園地における開花後間もない第 1 回目の 分離結果は,同じ園地における 1 週間後の第 2 回目の分 離結果や他県の園地での分離結果と明らかに異なってお 菌から配列が異なる 4 菌株,グループ 2 に属するナシ枝 枯細菌病菌から配列が異なる 3 菌株,E. pyrifoliae から 1 菌株の配列を比較し,グループ間で配列が異なる部分 から,EarpoD プライマーセット(グループ 1 特異的検 出用)と EprpoD プライマーセット(グループ 2 特異的 検出用)を設計した(表― 1)。また,PCR 反応条件につ いては,後述するニホンナシ花器表生菌に対して,非特 異反応が出ないようにアニーリング温度とサイクル数 (94℃ 1 分,65℃ 45 秒,72℃ 1 分を 30 サイクル)を定 めた。EarpoD プライマーセットは,供試した火傷病菌 71 菌株においてのみ特異的な 375 bp の遺伝子産物を増 幅した。ナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifoliae,その他の “Amylovora” グループでは,遺伝子産物の増幅は全くな かった。一方で EprpoD プライマーセットは,供試した ナシ枝枯細菌病菌 14 菌株,E. pyrifoiae 3 菌株において, 特異的な 375 bp の遺伝子産物を増幅した。火傷病菌で は遺伝子産物の増幅は全くなかったが,“Amylovora” グ ループに属する E. nigrifluens,E. quercina において 375 bp とは明らかに異なる大きさの非特異産物を増幅 した。それぞれの検出限界は,EarpoD プライマーセッ トがおよそ 104cfu/ml で EprpoD プライマーセットが 104∼ 105cfu/ml であった。 III ニホンナシ花器表生菌の調査 現在,日本国内には火傷病菌,E. pyrifoliae は存在し ないが,国内において,火傷病類似症状が発見された場 合,直接分離はもちろん必要であるが,迅速な検出とそ れに続く防除措置,あるいは発生樹からどれくらい広が っているかの調査には,血清学的手法や分子生物学的手 法(PCR など)が十分役に立つと考えられる。ここで, 問題となるのは,これらの手法の精度と信頼性である。 すなわち,これらの手法を用いた場合,火傷病菌ではな いにもかかわらず,特異的な抗体反応や PCR における 特異的な遺伝子増幅を引き起こす表生菌が存在するか否 かが問題となってくる。また,直接分離の際に用いられ 表 −1 rpoD 遺伝子配列より設計した特異的プライマー グループ 特異性 プライマー 配列 増幅産物の 大きさ 1 火傷病菌(E. amylovora bv. 1,2,3) EarpoD 2f 5′― GGCGCGTGAAAAGTTCAA ― 3′ 375 bp EarpoD 1r 5′― AGGCCGCGGTTCACATCT ― 3′ 2 ナシ枝枯細菌病菌(E. amylovora bv. 4) E. pyrifoliae EprpoD 2f 5′― GGCGCGTGAGAAGTTCGG ― 3′ 375 bp EarpoD 1r 5′― AGGCCACGGTTCACATCG ― 3′

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P s e u d o m o n a s 属および E n t e r o b a c t e r i a c e a e で あ る Pantoea 属,Rahnella 属,Serratia 属の細菌に対しては, 抑制効果が弱いことが示された。しかし,これらの M ― MS 平板培地上でのコロニー形態は,火傷病菌とは明ら かに異なった。数菌株で似た形態を示す菌株が分離され たが,幼果に対する病原性,簡易同定キット(API20E および API20NE)による同定を試みたところ,病原性 はなく,簡易同定結果も火傷病菌とは明らかに異なった。 ( 3 ) LB および M ― MS 平板培地で分離された菌株 の火傷病菌特異的プライマーによる PCR の結果 火傷病菌の特異的プライマーセットとして,pEA29 を標的としたプライマーセット(BERESWILLet al., 1992), ゲノム DNA を標的としたプライマーセット(GUILFORD et al., 1996),今回設計した rpoD 遺伝子の特異的領域を 標的とした EarpoD プライマーセットを用いた。また, EprpoD プライマーセットについても同様に調査に用い り,開花後 1 週間で細菌相が著しく変化することが示さ れた。これは,開花直後の花器の表面には様々な細菌が 存在しているが,その中で Pseudomonas 属細菌がより 多く増殖することを示唆している。このことは,他県で も同様のことが起きていると推察される。 ( 2 ) 火傷病菌用選択培地で分離された表生細菌 茨城県,鳥取県,長野県の 3 箇所で採集したナシ花器 から M ― MS 平板培地(水野ら,2002)を用い,4 回の 分離を行い 60 菌株を得た。16S rRNA 遺伝子の部分塩基 配列解析を行ったところ,大部分が Pseudomonas 属と Enterobacteriaceae(Enterobacter 属,Pantoea 属, Rhanella 属,Serratia 属)と推定された。各県の結果は 表― 3 にまとめた。この結果と表― 2 の結果から,M ― MS 平板培地におけるニホンナシ花器表生細菌の抑制効 果は,グラム陽性菌である Bacillus 属,Curtobacterium 属,Actinomycete に対しては顕著であったが,ある種の 表 −2 各園地におけるニホンナシ 1 花器当たりの表生細菌の種類と菌量および比率 分離県(分離日) 推定された属名 推定菌量(cfu/花) 比率(%) 茨城県 (2006.4.7) 茨城県 (2006.4.14) 鳥取県 (2006.4.17) 長野県 (2006.4.24) Bacillusspp. Pseudomonasspp. Curtobacteriumspp. Streptomycesspp. その他 不明 小計 Pseudomonasspp. Enterobacteriaceae Curtobacteriumspp. Bacillusspp. その他 不明 小計 Pseudomonasspp. Enterobacteriaceae Bacillusspp. Curtobacteriumspp. その他 不明 小計 Pseudomonasspp. Bacillusspp. Curtobacteriumspp. Streptomycesspp. その他 不明 小計 1.9 × 103 8.0 × 102 4.5 × 102 1.8 × 102 6.0 × 102 6.5 × 102 4.5 × 103 6.0 × 106 7.0 × 105 1.4 × 104 4.1 × 103 4.2 × 104 2.6 × 104 7.0 × 106 3.1 × 104 1.0 × 104 2.6 × 102 1.4 × 102 2.0 × 102 1.8 × 102 4.2 × 104 1.6 × 108 2.9 × 102 1.2 × 102 7.5 × 102 1.8 × 103 3.0 × 102 1.6 × 108 40.9 16.6 10.0 4.0 13.6 15.0 100.0 88.2 10.6 0.2 0.1 0.6 0.4 100.0 74.2 23.9 0.6 0.3 0.5 0.4 100.0 99.9 0.01 以下 0.01 以下 0.01 以下 0.01 以下 0.01 以下 100.0 中央農業総合研究センター研究報告第 13 号より引用.

(7)

特異反応が最も起きにくいのは,EarpoD プライマーセ ットであり,それに次いで GUILFORDのプライマーセッ

トとなった。BERESWILLのプライマーセットは,非特異

反応を発現する菌株が 4 割以上存在した。このプライマ ーは以前より非特異反応が生じることが知られていたが (MCMANUSand JONES, 1995 ; LLOPet al., 2000),今回の試

験ほどに多数の表生菌についてプライマーの特異性を検 討した報告は今までなかった。火傷病菌は,このプライ マーセットでの PCR において,0.9 kb のバンドのみを 増幅する。しかし,様々な菌が混在する自然界において 火 傷 病 罹 病 植 物 か ら の 直 接 P C R を 想 定 し た 場 合 , BERESWILLのプライマーセットを用いた PCR は,多数の 非特異バンドの中に 0.9 kb のバンドが隠されてしまう 可能性もあることから,診断に用いることは実際上は難 しいと考える。 また,BERESWILLのプライマーセットを用いた場合, 陽性対照株と同じサイズのバンドが確認された菌株が存 在した。この菌株の 16S rRNA 遺伝子からの推定属名は, Pseudomonas 属であった。一方で,GUILFORDのプライマ ーセットおよびグループ 1 特異的プライマーセット (EarpoD プライマーセット)では,この菌株に対して 陽性対照株と同じサイズのバンドの増幅が認められない ことから,特異性が十分にあると考えられた。 さらに,同様の試験を行った結果,グループ 2 特異的 た。各特異的 PCR において,M ― MS 培地で分離された 60 菌株を用いて予備試験を行い,PCR 条件を定めた。 LB 平板培地で分離された 294 菌株(酵母も含む)に ついて,BERESWILL,GUILFORD,EarpoD,EprpoD の各プ

ラ イ マ ー セ ッ ト を 用 い て P C R を 行 っ た と こ ろ , BERESWILLのプライマーセットによる PCR では,約半数 の菌株において非特異反応と見られるバンドが検出さ れ,1 菌株は陽性対照株と同じサイズのバンドが確認さ れた。GUILFORDのプライマーセットによる PCR では, 2 菌  株に非特異反応と見られるバンドが検出された。 EarpoD および EprpoD プライマーセットでは,非特異 反応および陽性対照株と同じサイズのバンドは確認され なかった。 M ― M S 平 板 培 地 で 分 離 さ れ た 6 0 菌 株 に つ い て ,

BERESWILL,GUILFORD,EarpoD,EprpoD の各プライマー

セットを用いて PCR を行ったところ,BERESWILLのプラ イマーセットによる PCR では,53 菌株において非特異 反応と見られるバンドが検出されたが,陽性対照株と同 じサイズのバンドは確認されなかった。また,GUILFORD, EarpoD および EprpoD のプライマーセットでは,非特 異反応および陽性対照株と同じサイズのバンドは確認さ れなかった。 これらの結果から,供試した 3 種の火傷病菌特異プラ イマーセットのうち,ニホンナシ花器表生菌に対して非 表 −3 各園地における M ― MS 平板培地に分離されたニホンナシ 1 花器当たりの表生 細菌の種類と菌量および比率 分離県(分離日) 推定された属名 推定菌量(cfu/花) 比率(%) 茨城県 (2006.4.7) 茨城県 (2006.4.14) 鳥取県 (2006.4.17) 長野県 (2006.4.24) Aurantimonassp. Bacillussp. Curtobacteriumsp. 小計 Pseudomonasspp. Serratiasp. Pantoeaspp. Enterobactersp. Pantoeasp. or Erwinia sp. 小計 Pantoeasp. Rahnellasp. Pseudomonasspp. 小計 Pseudomonassp. Pantoeasp. 小計 3.0 × 106 1.5 × 106 1.5 × 106 6.0 × 106 1.1 × 106 3.2 × 105 4.8 × 104 7.0 × 103 6.0 × 106 1.5 × 106 1.0 × 104 1.6 × 103 8.6 × 102 1.3 × 104 6.9 × 105 4.5 × 106 6.9 × 105 50.0 25.0 25.0 100.0 73.8 22.4 3.3 0.5 0.01 以下 100.0 80.8 12.5 6.7 100.0 99.9 0.01 以下 100.0 中央農業総合研究センター研究報告第 13 号より引用.

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ることから,温州萎縮ウイルス(Satsuma dwarf virus : SDV)の迅速診断法(草野,2006)に用いられていた簡 易磨砕容器を用いることとした。これは,ソフトラバー 製のチューブで,その内側に溝がついており,容器内に 試料と緩衝液を入れ,指で試料を磨砕することが可能な ものであり,完全に密閉することができる(現在はアシ スト(株)でフィンガーマッシャーという名前で販売中)。 植物体には PCR を阻害する物質があることから,これ らを除去するために様々な手法があるが,どの手法が優 れているかは判然としない。手法が煩雑化すると,それ に伴い,試料間の相互汚染の危険性や熟練度による結果 の違いが顕著になることから,手法としてはできるだけ 簡 便 で あ る こ と が 望 ま し い と 考 え ら れ る 。 村 元 ら (2004)は,抗酸化物質を含ませたガラス繊維ろ紙を用 いることで,迅速,簡便かつ低コストで植物から DNA を抽出する方法を考案し,この手法と PCR を用いてウ イルス罹病葉から,ウイルスの検出を行っている。そこ で,この手法を利用して火傷病罹病植物から DNA の抽 出を試みることとした。これらの手法を用いるに当た り,発光遺伝子標識された火傷病菌を用いて,接種植物 における火傷病菌の存在の有無を,病徴の発現および発 光測定から視覚的に確認し,罹病部位,発光が観察され た部位および観察されなかった部位から試料の採取を行 うこととした。 ( 1 ) 発光遺伝子標識された火傷病菌の接種と再分離 および直接的 PCR による検出

発光遺伝子標識された火傷病菌(AZEGAMIet al., 2004)

を樹高約 15 cm,4 ∼ 5 年生の盆栽仕立てのヒメリンゴ の新梢 4 本に段階希釈(1.5 × 105cfu,1.5 × 104cfu, 1.5 × 103cfu,1.5 × 102cfu)して接種し,2 次元ルミノ メーターによる発光および病徴発現について 14 日間観 察した。新梢への接種は火炎滅菌した白金線を用いて新 梢を穿刺し,段階希釈した発光遺伝子標識された火傷病 菌液を置床した。 分離は,火傷病菌を接種した新梢の各部位(接種部位, 枯死部位,健全部位等)を 5 mm の長さで切り出し,滅 菌水 500μl を入れた簡易磨砕容器を用いて破砕した後, その破砕液から M ― MS 培地を用いて行った。その結果, 調査したほぼすべての部位から火傷病菌が分離された。 また,同時に各部位からガラス繊維ろ紙を用いた直接的 PCR を行ったところ,火傷病菌が 105cfu/部位以上分離 された部位では,2 種類の特異的プライマーを用いた PCR で特異的なバンドが検出された。 発光遺伝子標識された火傷病菌は,1.5 × 105,1.5 × 104,1.5 × 103,1.5 × 102cfu のいずれの菌量を接種し プライマーセット(EprpoD プライマーセット)につい ても非特異反応がなかったこと,および陽性対照株と同 じサイズのバンドが確認されなかったことから,このプ ライマーセットがナシ枝枯細菌病菌,E. pyrifoliae に対 しても十分特異性が高いことが示された。 今回供試したニホンナシ花器の表生菌 354 菌株(LB 平板培地分離 294 菌株および M ― MS 平板培地分離 60 菌株)についての結果から,BERESWILLのプライマーセ ットは分離した細菌の同定には十分有用であるが,罹病 植物体からの直接検出には向いていないと考えられた。 そこで,火傷病罹病植物体から PCR で火傷病菌を直 接的に検出するには,GUILFORD,EarpoD プライマーが 適していると考えられ,両プライマーを用いて試験を行 った。 IV 直接的 PCR による罹病植物からの 火傷病菌の検出法 国内で火傷病または火傷病類似症状が発見された場合 に,迅速な同定,検出法の一つとして罹病植物からの直 接的 PCR の利用が考えられる。これは,罹病植物組織 から DNA を抽出し,それを鋳型として特異的プライマ ーを用いた PCR を行うことで,その症状の原因菌の検 出,同定を行う手法である。現在までに様々な植物病原 菌で利用されており(HENSON, 1993 ; ROWHANIet al., 1993 ;

MINSAVAGEet al., 1994 ; DINGet al., 2005),火傷病罹病植

物 か ら の 火 傷 病 菌 の 検 出 に つ い て も 報 告 が あ る (MCMANUSand JONES, 1995 ; MAESet al., 1996 ; LLOPet al.,

2000 ; TAYLORet al., 2001)。これらの手法は,検出感度が

十分に高いことから,利用価値も高いと考えられるが, 特異的な DNA 断片の増幅が確認された宿主植物試料か ら,火傷病菌が分離されていない事例があり(MAES et

al., 1996 ; LLOPet al., 2000),PCR のみでの判定に不安が

残っている。そこで,本研究で設計した特異的プライマ ーが,火傷病罹病植物からの直接検出に利用できるか否 かの調査を行うこととした。その際,以下の点について 考慮した。火傷病菌は,日本に存在しない病原細菌であ るため,植物への接種試験を行うためには,農林水産大 臣の許可を受け,厳重に管理された実験室内の定温器も しくは隔離温室内で行う必要がある。一方で,火傷病菌 の宿主であるリンゴやナシなどのバラ科植物は木本植物 であり,通常栽培された樹は,あまりにも大きくなりす ぎてしまい,試験材料としては適していない。そこで, 盆栽を用いることとした。また,PCR 結果を担保する ために同時に細菌の分離を行うこととした。その際に, 各試料を相互汚染させないようにして供試する必要があ

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界部位および前年枝に隣接する部分から,火傷病菌の M ― MS 培地による分離と直接的 PCR による検出を行っ た。接種,分離,PCR による検出は上述した手法を用 いた。接種した 12 本の新梢は 1 本を除き,接種部位か ら上位が,4 日目から黒変し始め,火傷病に特有の「羊 飼いの杖」症状を示した。接種部位から下位は病徴を示 さなかった。黒変しなかった 1 本の新梢は,外観上ほぼ 健全であった。 発病部と健全部の境界部位からは,新梢 5 mm 当たり 105∼ 106cfu の火傷病菌が分離され,2 種の特異的プラ イマーセットを用いた PCR で特異的なバンドが検出さ れた。また,新梢基部においては,6 本の新梢から新梢 5 mm 当たり 101∼ 103cfu の火傷病菌が分離されたが, PCR では検出できなかった。なお,残りの 6 本の基部 からは火傷病菌は分離されなかった。黒変しなかった新 梢からは新梢 5 mm 当たり 103∼ 104cfu の火傷病菌が 分離されたが,PCR では検出できなかった。 火傷病菌野外株(野生株)を用いた再接種試験におい ても発病部と健全部の境からは,すべての試料からガラ ス繊維ろ紙を用いた本 PCR 検出手法で火傷病菌を検出 することができたことから,本手法は,火傷病の侵入警 戒調査において,火傷病類似症状が発見された場合に十 分に活用できると考えられた。また,本手法は PCR に 用いた試料から同時並行的に細菌を分離することが可能 であり,PCR で DNA の特異増幅が確認された場合に, それが本当に火傷病菌であるか否かの確認,さらに生菌 であるか否かの確認を行うことができると考えられた。 お わ り に 農業生産に多大な被害を与える病害虫の侵入,まん延 の防止には,水際での検疫措置だけではなく,国内にお ける侵入警戒調査が重要であり,万が一発生が確認され た場合には,根絶,封じ込めの措置が必要となることか ら,その「発生の確認」は迅速で正確であることが望ま れる。今回はその手法の一つとして,火傷病菌の PCR による特異的な検出の結果について報告したが,そのほ かにも LAMP 法やリアルタイム PCR,抗原抗体反応を 利用したイムノストリップ等も迅速で正確な手法として あげられ,侵入を警戒する日本未発生の病害虫に対し て,これらの手法を総合的に利用した発生確認手法の確 立が,今後さらに重要になってくると考える。 なお,EprpoD プライマーセットは 2007 年に発生し たセイヨウナシ新梢黒変細菌病菌についても,特異的な 375 bp の遺伝子増幅が確認されたことから,現在行わ れている発生園地および周辺園地における調査に用いら た部位においても上下両方向へ移行していることが確認 され,その移行距離は,いずれも上下方向を合わせて 10 cm 程度であった。宿主植物内における火傷病菌の増 殖について,BOGS et al.(1998)は,発光遺伝子または 緑色蛍光タンパク質遺伝子で標識した火傷病菌が葉の葉 毛から木部に侵入し,導管における水の流れに逆らって 増殖し,導管壁を崩壊させていることを報告している。 このことから,今回新梢に接種した発光遺伝子標識され た火傷病菌も接種部位より導管を伝って上下方向へ移行 し,増殖が著しい部分で病徴が発現したと考えられる。 しかし,発光領域は 6 日目を境に徐々に減少していき, 14 日後にはほとんど観察されなくなった。一方で発病 部において,火傷病菌は高濃度で分離された。分離され た火傷病菌のコロニーを 2 次元ルミノメーターで観察し たところ,そのコロニーの大部分が発光しなかったこと から,接種時までにあるいはそれ以降に発光遺伝子を喪 失した火傷病菌が発生し,植物体内でその割合を徐々に 増大させていったことにより,発光遺伝子標識された火 傷病菌が減少したことが考えられた。 火傷病菌を 1.5 × 104∼ 105cfu 接種した新梢では顕著 な黒変および枯死が観察されたが,1.5 × 102∼ 103cfu 接種した新梢では,ごく一部でのみ黒変が観察された。 これら病徴が確認された部位からは,106∼ 107cfu/部 位の火傷病菌が分離され,ガラス繊維ろ紙を用いた直接 的 PCR でも DNA の特異増幅が確認された。しかし, 病徴が発現している部分でも火傷病菌の分離および PCR による検出ができない場合もあった。一方で発病 部と健全部の境界部位からは,つねに火傷病菌の分離と PCR による検出ができた。このことから,直接的 PCR の試料として最適な部位は,必ずしも発病部とは限ら ず,発病部と健全部との境界部位がより適していると考 えられた。一方で,外観上健全な部位からも,火傷病菌 は,切り出し部位当たり 103∼ 104cfu 分離されたが, これらの部位からは,直接的 PCR で検出できなかった。 今回使用した GUILFORDおよび EarpoD のプライマーセッ トの検出限界は両方ともおよそ 104cfu/ml であり,外観 上健全な部位における火傷病菌の濃度が検出限界かそれ 以下に当たるため,この二つのプライマーセットで検出 するのは困難であると考えられた。 ( 2 ) 火傷病菌野外株(野生株)を接種した植物体か らの火傷病菌の分離と直接的 PCR による検出 上記の試験を,火傷病菌野外株(野生株)を用いて同 様に行った。盆栽仕立てのヒメリンゴ(樹高約 15 cm, 4 ∼ 5 年生)3 樹の新梢 12 本に付傷接種(接種菌量 2.4 × 104cfu)し,14 日後に新梢の発病部と健全部の境

(10)

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参照

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