妊娠高血圧症候群:予知マーカーの新たな開発に向けて
A:予知・予防の進歩
キーワード 妊娠高血圧症候群、発症予知、発症予防、抗血管増殖因子 昭和大学医学部産婦人科関
せき沢
ざわ明
あき彦
ひこ、小
こ出
いで馨
けい子
こ、新
しん城
じょう梓
あずさ、岡
おか井
い崇
たかしはじめに
妊娠高血圧症候群は全妊娠の 3 ~ 5%に発症す る妊娠に特異的な症候群であり、妊産婦死亡の主 要な原因の一つでもある。WHO によると年間 10 万人の妊婦が妊娠高血圧症候群で死亡していると 推計されている。この疾患の病因については古く からいろいろな研究が行われているが、未だその 病態には不明な部分が多い。しかし近年、徐々に その病態の一端が明らかになりつつあり、その予 知や予防についての研究も行われるようになって いる。1.絨毛細胞の脱落膜への侵入障害
妊娠高血圧症候群の病態形成には、母児間の 免疫応答異常、遺伝的な背景、環境因子がその first step として複合的に関与している1 ~ 3)。そ の結果、絨毛細胞の脱落膜への侵入が阻害され、 さらに、絨毛細胞のラセン動脈の血管壁への置換 (remodeling)も阻害される。脱落膜に侵入する 絨毛細胞は、extravillous trophoblasts(EVT) といわれ、HLA-G という多型性に乏しい主要組 織適合性抗原(Class Ib 抗原)を発現しており、 この HLA-G の発現が母体の natural killer cell (NK cell)からの攻撃に防御的に働き、母児間の 免疫寛容の成立に重要な役割を果たしている4)。 事実、妊娠高血圧症候群を発症した患者の胎盤 では、この HLA-G 発現が低いことや妊娠高血圧 症候群患者の脱落膜に侵入する EVT の数が少な いことが報告されている5)。また、多産婦で妊娠 高血圧症候群の発症率が低下するにもかかわら ず、パートナーが代わった場合には、その発症リ スクが再上昇するなどの疫学的な報告からも、胎 盤形成過程における免疫応答異常が妊娠高血圧 症候群の病態形成に重要な役割を果たすと考えら れる。2.絨毛の低酸素曝露
妊娠初期、ラセン動脈の血管内皮細胞が EVT に十分に置換されると、血管径は拡大し、血管抵 抗も低下するため、絨毛間腔に多量の母体血が流 入し、絨毛間腔の酸素分圧は急上昇する。通常 妊娠では、妊娠 12 週以前には 18 ㎜Hg 程度であ るところが、EVT の置換後の妊娠 12 週以降には 90 ~ 100 ㎜Hg と急激に上昇するとされる。一 方、妊娠高血圧症候群をその後に発症する症例 では、この時期の EVT の置換不全のため、絨毛 間腔の酸素分圧の上昇が十分に起こらないため絨 毛細胞は慢性的に低酸素環境に曝されることにな る3, 6, 7)。 結果として、その環境が絨毛細胞にいろいろ な変化を惹起し、絨毛傷害の原因になるととも に、絨毛細胞は各種のサイトカインや血管作動 性物質などを産生する。絨毛は絨毛間腔に浮遊 するという解剖学的な特徴により(図 1)、絨毛細 胞が産生した物質は容易に母体血中に流入する。 母体循環に入った物質は、母体の血管内皮障害や 臓器障害の原因となり、妊娠高血圧症候群で現れ る高血圧、蛋白尿などのさまざまな臨床症状を引 き起こす。が起こり、その状態で起こった血管内皮障害が VEGF や PlGF の投与で改善することを報告した8)。 また、VEGF や PlGF の投与で誘導されたラット 腎動脈の細小血管の弛緩を、soluble FLT1 の投 与が抑制する9)。また、血管内皮細胞に妊娠高血 圧症候群患者血清を添加すると血管増殖が抑制さ れ、その反応が soluble FLT1 の除去で見られな くなる10)。さらに、妊娠していない動物にアデノ ウイルスを介して soluble FLT1 を移入すると妊娠 高血圧症候群症状を起こすことから、胎盤の存在 が病態形成に必須ではないと考えられる8)。正常 経過をとっている妊婦の soluble FLT1 は、妊娠 33 ~ 36 週まで変化はないが、その後急増する11)。妊 娠高血圧症候群では、母体血中の soluble FLT1 濃度は高値を示し、その濃度は、蛋白尿の程度と 正の相関を示し、逆に、血小板数、児体重と負 の相関を示す12)。さらに、soluble FLT1 濃度は、 経産婦に比較し初産婦で高い傾向を認める13)。 また、妊娠高血圧症候群の臨床症状発現の 5 週 間前から soluble FLT1 濃度の増加が観察される など11)、妊娠高血圧症候群の病態形成に soluble FLT1 が主要な因子として関わっていることを示 す多くの報告がある。 現在、低酸素負荷が絨毛細胞の soluble FLT1 産 生を増加させることが示されており14)、soluble FLT1 は、虚血胎盤から母体循環中に放出され、 血管内皮障害や血管増殖抑制などを引き起こし、 妊娠高血圧症候群の発症に重要な役割を果たすと 考えられている。 一方、ENG は、血管内皮細胞や絨毛細胞(S 細胞)の細胞膜で強く発現する TGF-β 1 及び TGF-β 2 のレセプターであり、妊娠高血圧症候 群の胎盤で高発現で、その発現量は、疾患の重症 度とも相関し、母体循環中に soluble ENG とし て放出される15)。soluble ENG は、血管の TGF-β 1 シグナリングを抑制することで、血管増殖作 用に拮抗する。ENG は、その遺伝子の変異で、 動静脈奇形や毛細血管の部分的な欠損を伴う遺伝 性出血性毛細血管拡張症を起こすことが知られ ている16)。妊婦血中の soluble ENG 濃度は、妊 図 1. 胎盤の構造 絨毛は、絨毛間腔に浮遊する構造になっており、 絨毛細胞がその表面を覆っている。そのため、絨 毛が産生した蛋白や核酸などの物質は容易に母体 循環中に流入すると考えられる。
3.絨毛細胞が産生し、妊娠高血圧症候群
と関与する因子:血管増殖関連因子
胎盤の産生する多くの物質が妊娠高血圧症候群 の患者血漿(血清)中で増加することが報告さ れているが、近年、妊娠高血圧症候群の病態に、 vascular endothelial growth factor(VEGF)、 placental growth factor(PlGF)や transforming growth factor-β 1(TGF-β 1)などの血管増殖因 子とそれに拮抗する因子である soluble fms-like tyrosine kinase 1(soluble FLT1)や endoglin (ENG)のアンバランスが強く関与していること が注目され、その変化が妊娠高血圧症候群の病態 の主要な部分を占めると考えられるようになって いる。 VEGF は、血管内皮細胞を特異的に増殖させ る因子である。soluble FLT1 は、VEGF receptor 1 の分泌型で、VEGF と PlGF と結合し、その作 用を抑制する。妊娠高血圧症候群においては、胎 盤での soluble FLT1 の産生増加により、母体循 環で soluble FLT1 濃度が増加し、その増加に 伴って、母体血中の free VEGF や free PlGF の濃 度は低下する。Maynard らは、ラットに soluble FLT1 を投与すると高血圧、蛋白尿、腎機能変化娠高血圧症候群発症の 2 ~ 3 か月前から著明に 増加することも報告されている17)。また、アデ ノウイルスでマウスに ENG 発現を移入すると血 管透過性亢進、中等度の高血圧が起こる。さら に、ENG と FLT1 の両者を過発現させると高度 な血管障害、腎症、高度な高血圧、胎仔の発育障 害や血小板数の減少、肝酵素上昇、溶血などの HELLP 症候群様の病態が起こることも報告され ている15)。このように、胎盤で産生される抗血 管増殖因子である ENG と FLT1 の両者が、血管 内皮障害や重症妊娠高血圧症候群の病態形成に中 心的な役割を果たすと考えられる。 TGF-β 1 と VEGF は、endothelial nitric oxide synthase(eNOS)の活性を調節することで、局 所的な血管緊張をコントロールしている。TGF-β 1 は、eNOS の Thr495 を、また、VEGF は、 Ser1177 を脱リン酸化することで eNOS を活性化 し、血管の Ca 感受性の増強、酵素活性の増強、 NO 産生の増加を起こす15)。さらに、TGF-β 1 と VEGF は、prostacyclin(PGI2)の産生を増加さ せる作用も有している。ENG と FLT1 は、この ような eNOS 活性化を抑制し、また、PGI2産生 を抑制することで、妊娠高血圧症候群の臨床症状 発現に働くと考えられている(図 2)。
4.母体血を用いた妊娠高血圧症候群の
発症予知
1)母体血漿中 cell-free RNA を用いた胎盤機能 評価法 2000 年、Poon らが、母体血漿中に cell-free RNA として胎盤に由来する HLA-G 遺伝子が循 環していることを初めて報告した18)。この cell-free RNA は、0.22 μm のフィルターで除去される サイズの microparticle 内に存在し、比較的に安 定な状態で血漿中に存在している19)。我々のグ ループは、まず最初に、hPL と hCG-βの遺伝子 発現を血漿中で定量し、妊娠経過に伴う変化及び それらの血漿中蛋白濃度との相関を検討した。そ の結果、血漿中 hPL 発現量は妊娠経過と共に漸 増する傾向を、また、hCG-β発現量は、妊娠 10 週頃にピークを形成し、以降漸減する傾向を認め た。さらに、両者とも血漿中のそれぞれの蛋白濃 度と強く相関することから、胎盤機能評価に cell-free RNA が応用可能と考えられた20)。 このことを踏まえ、妊娠高血圧症候群において 蛋白レベルで母体血中で増加し、また、その産 生が胎盤であると報告されている Plasminogen Activator Inhibitor-1(PAI-1)、tissue-type Plasminogen Activator(tPA)、CRH、Selectin P、 図 2. 抗血管増殖因子の作用機序 胎盤 sFlt-1 sEndoglin VEGF 拮抗 拮抗 eNOSPGI
2 TGFβ1 Thr495 脱リン酸化 Ser1177 脱リン酸化 Ca 感受性の増強 酵素活性の増強 NO 産生の増加 生産刺激 (活性化) (活性化)Placenta-Specific 1(Plac 1)、VEGF、FLT1、 ENG の遺伝子発現を母体血漿中 RNA 中で定量 し、妊娠高血圧症候群との関連を検討した。その 結果、妊娠高血圧症候群でこれら 8 種類の全ての 遺伝子発現が上昇していることが分った。さらに、 妊娠高血圧症候群の重症化に伴い、患者血漿中で それぞれの遺伝子発現量が増強し、HELLP 症候 群では全ての遺伝子がさらに高発現であった。ま た、それらの発現量と蛋白尿、高血圧の臨床症状 の重症度との相関を検討したところ、両者の重症 化に伴い、有意に全ての遺伝子発現量が増加する ことも分った。さらに、多変量解析の結果、これ ら遺伝子の中で PAI-1、tPA と蛋白尿の程度の 間に特に強い相関が確認され、PAI-1、tPA と妊 娠高血圧症候群の発症に強い関連のあることが推 察された21 ~ 23)。また、これらの遺伝子発現量の 分娩後の消退を検討したところ、これらの遺伝子 発現量は半減期 60 分程度で、どれも急速に濃度 低下したことから、これらの mRNA の大部分が 胎盤に由来していると考えられた。 次に、妊娠 15 ~ 20 週の臨床症状のない妊婦 660 例から採血したところ、結果として、660 例 中 62 例がその後に妊娠高血圧症候群を発症した。 そこで、妊娠高血圧症候群を発症した 62 例とコ ントロール 310 例(1:5 マッチ)について、妊 娠高血圧症候群で遺伝子発現が増強していた上 述の 8 遺伝子の内、妊娠中期に発現が低かった CRH を除く 7 遺伝子について、血漿中で遺伝子 発現量を測定した。その結果、その後に妊娠高血 圧症候群を発症する症例で PAI -1、tPA は、そ れぞれ 8.9 倍、8.0 倍と上昇していた。それ以外 の遺伝子も、この時期に既に有意に遺伝子発現が 高値を示すことを確認した24)。 このデータをもとに、ROC curve を用いて妊娠 高血圧症候群の発症予知の可能性について解析し たところ、7 種類の遺伝子の中で、FLT1 が、次 いで、ENG が特に優れた妊娠高血圧症候群の予 知マーカーであることが分かった。さらに、個々 の遺伝子による予知精度に比較し、7 種類全てを 組み合わせることで、その精度が最大限に高まり、 その組み合わせで妊娠高血圧症候群の 84%が、 疑陽性率 5%で予知できることが分かった。この 診断感度は、従来、妊娠高血圧症候群の予知に用 いられている子宮動脈の血流計測評価、FLT1 や ENG などの生化学的な評価の報告に比較して明 らかに優れている24)。 2)母体血細胞成分由来遺伝子を用いた妊娠高血圧 症候群の発症予知 母体血細胞成分の中に絨毛細胞が存在し、それ を出生前診断の標的にする研究が行われていた。 我々は、母体血中の細胞成分から抽出した RNA から hPL や hCGβ を定量的 PCR 法で同定する ことで絨毛細胞が母体循環中に確実に存在する ことを確認した20)。さらに、その遺伝子発現量 は、cell-free RNA の 10 倍にも及び、血中 hPL、 hCGβ の蛋白濃度とも有意な相関を示すことを 確認した20)。このことは、母体血中細胞の分析 で、cell-free RNA 同様、胎盤機能の評価が可能 なことを示すものである。さらに、細胞成分は PAXgene Blood RNA kit(Quiagen)を用いる ことで、細胞成分中の RNA の安定化が可能であ り、cell-free RNA に比して臨床検査としての可 能性が高い検査法と考えられた。 そこで、まず、妊娠高血圧症候群を発症した妊 婦と正常に経過した妊婦で細胞成分由来の血管 増殖因子関連遺伝子の発現がどのように変化して いるかを検討した。その結果、FLT1、ENG の抗 血管増殖因子と TGF-β 1 の遺伝子発現は高値を 示し、VEGF、PlGF の遺伝子発現は低値を示し た。これらの遺伝子発現量は、臨床症状の重症 化とも相関した変化を示した25)。さらに、抗酸 化ストレス関連遺伝子である heme oxygenase-1 (HO-1)、HO-2、superoxide dismutase(SOD)、 Catalase などの遺伝子発現についても検討したと ころ、これらの抗酸化因子はどれも臨床症状の重 症化にともない低下する傾向を示した26)。 次に、発症予知への応用の可能性を検討するた め、cell-free RNA と同時に採取した妊娠 15 ~ 20 週の臨床症状のない妊婦の末梢血(660 例)を 対象に、発症予知の可能性を検討した。この結果、
FLT1、ENG、P-selectin、PLAC1 は妊娠高血圧 症候群をその後に発症した群で高値を示し、PlGF と HO-1 は 低 値 を 示 し た。TGF-β 1、VEGF、 SOD には有意な変化は見られなかった。ROC curve を用いて妊娠高血圧症候群の発症予知の 可能性について解析したところ、ENG が、次い で、FLT1 が特に優れた妊娠高血圧症候群の予知 マーカーであることが分かった。さらに、ENG、 FLT1、PlGF と経産か否かの 4 因子の組み合わせ で、妊娠高血圧症候群の 66%が、疑陽性率 10% 水準で予知可能であることがわかった27)。 このように、母体血漿中 cell-free RNA や母体 血細胞成分中 RNA を分析することで、いままで "Black Box" であった胎盤の機能的な変化が real-time にモニターできることが確認された。この 方法により、妊娠高血圧症候群の発症予知のみで はなく、その他の妊娠合併症の予知も可能と考え られる。さらに、妊娠高血圧症候群やその他の妊 娠合併症の病態形成メカニズムの研究にも応用で きると考えられる。この方法を用い、胎盤の機能 解析の研究が進歩することで、妊娠中の各種合併 症の病態が解明され、それらを基に新しい治療法 や予防法の開発が期待される。
5.妊娠高血圧症候群の発症予防
我々は妊娠 11 週で染色体検査目的で絨毛検査 を行った 90 例の症例を対象に、余剰絨毛を採取 し、凍結保存した。90 例中 5 例がその後に妊娠 高血圧症候群を発症し、1:5 マッチでその後に 妊娠高血圧症候群を発症した 5 例と正常に妊娠 経過した 25 例とで、絨毛での抗酸化因子、抗血 管増殖因子の遺伝子発現の違いについて比較し た28)。その結果、抗酸化因子である HO-1、SOD の発現は低値を示した。血管増殖因子関連では、 FLT1、ENG、VEGF、TGF-β 1 遺伝子発現は高 値、PlGF 発現は低値を示した。これらの遺伝子 発現の変化は、妊娠高血圧症候群を発症した妊婦 の cell-free RNA 解析における変化と同様で、妊 娠 11 週で既に、妊娠高血圧症候群の病態が形成 されていることを示すものと考えられた。また、 この結果は、妊娠高血圧症候群の発症に酸化スト レスが強く関与していることを示す結果でもあ る。 酸化ストレスが妊娠高血圧症候群の病態に大き く関与していることを示す報告は多くあり、そ の病態を抗酸化剤を用いて是正し、妊娠高血圧症 候群の発症を予防する研究が世界中で行われてい る。抗酸化剤(1000 ㎎のビタミン C と 400 単位 のビタミン E)を用いた妊娠高血圧症候群の発症 予防のランダム化比較試験(RCT)は確認でき るだけで 8 件行われている。その中の一つである オーストラリアで行われた RCT では平均 17.1 週 から low risk 妊婦に対して抗酸化剤の連日投与 が行われたが、妊娠高血圧症候群の発症率の減 少は観察できなかった29)。イギリスでも 14 ~ 21 週の妊婦をビタミン群とプラセボ群に振り分け、 同様な RCT が行われたが30)、その有効性は実証 されなかった。このように、現在までのところい くつかの RCT 31)の結果が報告されているが、抗 酸化剤の有効性は証明されていない。 そのような中、我々は、インドネシア大学と共 同で妊娠 10 週以前にインドネシア大学を妊娠で 初診した妊婦を対象に、妊婦血清中の SOD 活性 を測定し、その活性が低値で酸化ストレスがある と推定される妊婦 324 例を対象に、同様にビタミ ン群とプラセボ群に分ける RCT を行った。その 結果、軽症妊娠高血圧症候群の発症がビタミン群 でオッズ比 0.372 と有意に低下することを証明し た。また、抗酸化剤投与後 4 ~ 8 週経過した時点 で測定した母体血液中細胞成分由来 mRNA 発現 の検討で、HO-1 及び SOD 発現は上昇し、抗血 管増殖因子の ENG 発現は低下していた(論文投 稿中)。このことは、妊娠高血圧症候群のハイリ スク妊娠において抗酸化剤が胎盤局所の酸化スト レスを軽減し、その状態が ENG の産生を増加さ せない方向で働いたことを示している。さらに、 この結果は妊娠高血圧症候群の病態に酸化ストレ スが強く関与し、そのストレスが ENG 産生増加 に関与し、それが血管内皮障害の発症につながっ ていることを直接証明する画期的なものであり、今後、妊娠高血圧症候群の発症予防に道を拓くも のと考えられる。
おわりに
妊娠高血圧症候群の病態は、妊娠初期の絨毛細 胞の母体脱落膜への侵入障害と関連している。こ の機序には、TNF 遺伝子多型などの遺伝的な要 因や免疫学的な要因、環境要因など関与してい る。絨毛侵入障害の結果として起こる事象は、絨 毛間腔の低酸素であり、それが局所での酸化スト レスを引き起こす。そのような環境が、絨毛細胞 の FLT1 や ENG などの血管増殖因子に拮抗する 物質の産生に働き、それらが母体循環に流入する ことで血管内皮障害を引き起こし、結果的に蛋白 尿・高血圧などの臨床症状を顕在化させると考え られる。 母体血漿中 cell-free RNA や母体血細胞成分由 来 RNA を用いることで、絨毛の機能的な変化を とらえることが可能であり、妊娠高血圧症候群の 発症予知に応用可能である。さらに、妊娠初期か らの抗酸化剤の投与により ENG 産生が抑制でき たことから、妊娠高血圧症候群の発症予防も今後 可能になっていくと考えられる。 文献 1.Kovats S, Main EK, Librach C, Stubblebine M, Fisher SJ, DeMars R, A class I antigen, HLA-G, expressed in human trophoblasts, Science, 248 (4952):220-223, 19902.Loke YW, King A, Immunology of human placental implantation: clinical implications of our current understanding, Mol Med Today, 3 (4):153-159, 1997
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