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バスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生要因 予防要因に関する研究 松本崇司, 丸山友希夫, 山本久志 スポーツ傷害の予防は, スポーツを行う上で最も重要視されるべき課題の つである. 近年, 傷害発生の危険因子を導出し, 事前に予防策を講じることで, スポーツ傷害の発生率を減少させる取り組みがな

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シェア "バスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生要因 予防要因に関する研究 松本崇司, 丸山友希夫, 山本久志 スポーツ傷害の予防は, スポーツを行う上で最も重要視されるべき課題の つである. 近年, 傷害発生の危険因子を導出し, 事前に予防策を講じることで, スポーツ傷害の発生率を減少させる取り組みがな"

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(1)

The Research of Onset and Prevention Factors of

Sports Injuries in Basketball

Takashi M

ATSUMOTO †1

, Yukio M

ARUYAMA†2

and Hisashi Y

AMAMOTO †1

Abstract

One of the most important problems in sports injuries. Recently, one issue is to reduce

the incidence of sports injuries through advanced preventive measures regarding the

leading risk factors of sports injuries. However, the criterion for these advanced preventive

measures are not clear. The purposes of this paper are to determine the leading indexes of

preference factors for preventing sports injuries in basketball and presenting these indexes

to the basketball players or coaches using data with actual recorded basketball practice

logs in order to construct a model for preventing sports injuries. In this paper, the onset

and preventive factors for muscle and joint sports injuries in basketball are determined by

logistic regression analysis and poisson regression analysis, which are typical analyses

used for quantitative data. From the results of these analyses, we suggest preventive

measures that decrease the incidence of sports injuries in basketball.

Key words: sports injuries, logistic regression analysis, poisson regression analysis

data mining

†1

Tokyo Metropolitan University

†2

Nippon Institute of Technology

Received: November 7, 2014

Accepted: March 23, 2015

J Jpn Ind Manage Assoc 66, 249─256, 2015

Original Paper

(2)

バスケットボールにおけるスポーツ傷害の

発生要因・予防要因に関する研究

松本 崇司

†1

,丸山 友希夫

†2

,山本 久志

†1 スポーツ傷害の予防は, スポーツを行う上で最も重要視されるべき課題の 1 つである. 近年, 傷害発生の 危険因子を導出し, 事前に予防策を講じることで, スポーツ傷害の発生率を減少させる取り組みがなされ ている. しかし, どの危険因子を優先して予防策を講じるかについて明確な基準が存在していないのが現 状である. 本論文の目的は, スポーツ傷害の予防介入に関するモデル開発の手助けとなるよう, 現場デー タからバスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生要因と予防要因を導出し, 予防策を講じる際に優 先されるべき項目の基準設定を手助けすること. また, 指導者や選手自身がスポーツ傷害の予防策を講じ る際の一助とすることである. そこで, 本論文では, ロジスティック回帰分析, ポアソン回帰分析を行い, 筋肉・関節のそれぞれのバスケットボールにおけるスポーツ傷害について発生要因, 予防要因を導出し, それを基にそれぞれに発生率を減少させる予防策を示した. キーワード: スポーツ傷害,ロジスティック回帰分析,ポアソン回帰分析, データマイニング

1 は じ め に

スポーツを行う上で, スポーツ傷害の予防は最も重 要視されるべき課題の1つであると言える. そのため 選手のメディカルチェックを行い, 危険因子を把握す ることで予防策を講じ, スポーツ傷害の発生率を減少 させるといった取り組みが全国的になされている. こ の「スポーツ傷害」とは, 「スポーツ外傷」と「スポ ーツ障害」の総称である. なお, 「スポーツ外傷」と は, 骨折, 脱臼や靭帯損傷などの人と接触した場合の 強い外力によって起こるケガを指し, 「スポーツ障 害」とは, 腰痛, 疲労骨折やジャンパー膝などの, 使い すぎ(オーバーユース)よるケガを指す. このスポー ツ傷害について, どの危険因子を優先して予防策を講 じるかという明確な基準が存在していないのが現状 である. これは, 日本におけるスポーツ傷害に関する 疫学的研究が, 独立行政法人日本スポーツ振興センタ ーや財団法人スポーツ安全協会などの保険金の支払 い実績をもとにした報告[1], 医療機関の受診状況から の報告[1][2]や各競技種目における傷害発生状況の報 告[2][3]などが中心となっており, 実際に現場の状況 を踏まえた予防介入に関するモデル研究がほとんど なされていないことが原因の1つであると考えられる [3]. さらに, 現場ではスポーツ傷害の予防について十 分な知識を持つ指導者が不足しており, 選手が身体 的・心理的に大きな不安を抱えたままの状態で競技 復帰を果たしている現状もある[4]. これらのことから, スポーツ傷害について, どの危 険因子を優先し予防策を講じるべきかという基準を 設定し, スポーツ傷害の明確な発生要因や予防策を示 すことで, 指導者や選手自身に対して警告を発する必 要があるといえる. 以上のことから, 現場のデータを 用いてスポーツ傷害の予防介入に関するモデルを開 発する必要性があることがわかる. 本論文では, その 第一段階として, スポーツ傷害の予防介入に関するモ デル開発の手助けとなるよう, 現場データからスポー ツ傷害の発生要因と予防要因を導出し, 予防策を講じ る際に優先されるべき項目の基準設定を手助けする こと. また, 指導者や選手自身がスポーツ傷害の予防 策を講じる際の一助とすることを目的としている. 以下, 第2章において分析の前提について, 第3章に おいて提案する分析方法について, 第4章において分 析結果について述べ, 第5章においてロジスティック 回帰分析, ポアソン回帰分析それぞれの結果から, バ スケットボールにおけるスポーツ傷害の発生要因と 予防要因について検討し, それをもとに予防策を示す.

2 分析の前提と予備解析

本章では, 分析の前提と予備解析について述べる. まず, 2.1節でバスケットボールにおけるスポーツ傷 害の一般的な特徴について述べ, その後, 2.2節でデー タの予備解析の結果について述べる. 最後に, 2.3節で 先行研究から得られたバスケットボールにおける †1 首都大学東京 †2 日本工業大学受付: 2014 年 11 月 7 日,再受付(1 回) 受理: 2015 年 3 月 23 日

(3)

スポーツ傷害の発生と練習時間の関係について述べ る. 2.1 バスケットボールにおけるスポーツ傷害の特徴 バスケットボールは, ルール上は相手との接触は禁 じられている非接触型の競技である. しかし, 実際に はかなり強い当たりあいがみられる. その結果, 故意 ではないとしても空中での接触でバランスを崩し, 傷 害の発生につながることがある. さらに, 身体接触や それに伴う着地が傷害の発生に大きな影響を及ぼし ているという報告もある[5]. また, 競技の特性上, ジャ ンプやダッシュを繰り返すため, 下肢への外傷や障害 が多く認められる[3]. 受傷部位別には, 上肢では手部 (含む手関節, 手指)と前腕が多く, 下肢では足関節 (含む足部, 足趾)膝関節, 腰背部の頻度が高い. 試合 出場に支障があるほどの重症は, 2/3が膝関節の傷害 で, 次いで足関節の傷害である. 発生しやすい傷害の 種類は, 足関節靭帯損傷(捻挫), ACL(膝前十字靭 帯)損傷, 膝半月板損傷, ジャンパー膝と腰椎椎間板 ヘルニアである[3]. 2.2 予備解析 2.2.1 調査対象 調査対象は静岡県東部地域の県立高等学校A校とB 校の男子バスケットボール部である. この2校は同じ スポーツトレーナーが所属し練習メニューを提案し ていることから, ほぼ同じ練習メニューを行っている. また, 大会の成績から各部活の選手の競技レベルは同 程度であると考えられる. なお, 各部活の部員数はA 校が23人, B校が19人の計42人である. 本論文では, こ の2校のマネージャーが定期的に記入している日報デ ータを分析に使用した. 調査期間は2011年6月~2012 年5月の12ヶ月間である. 日報データの記載事項は, 日 付, 名前, 治療方法, スポーツ傷害の発生部位, 練習内 容と練習時間となっている. 2.2.2 受傷部位1 に2校の受傷部位ごとのスポーツ傷害の合計発 生件数を示す. 横軸が受傷部位, 縦軸が発生件数を表 している. 2校のスポーツ傷害の全発生件数は 317 件 である. 図1 に示す通り, 大腿部, 膝, 下腿部と足関節 が計 218 件となり全体の69%を占めている. 2.1節に記 載の通り, 下肢(特に上記の4つの部位)のスポーツ 傷害の発生率が高いことがバスケットボールにおけ るスポーツ傷害の特徴であるといえる[3][5]. そこで, 本論文では図1において枠で囲んだ4つの部位(大腿 部, 膝, 下腿部, 足関節)のスポーツ傷害について分析 と考察を行った. 0 0 6 4 4 0 4 8 15 1 6 24 5 6 55 29 45 89 1 4 2 9 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 頭 部 頚部 肩部 上腕 肘 前腕 手関 節 指 胸 部 腹部 肩胸 部 腰 部 股関 節 臀 部 大腿 部 膝 下 腿 部 足 関 節 前 足 部 足 根 部 踵 骨 足趾 発 生 件 数 (件 ) 受傷部位 発生件数(件) 図1 受傷部位ごとの発生件数 2.2.3 トレーニング内容 本論文では, 日々の練習のうちボールを使用するも の, つまりバスケット特有の練習を「競技特性」と定 義し, ボールを使用しないもの, つまりバスケット以 外の競技でも行う練習を「共通トレーニング」と定 義する. さらに, それぞれのトレーニングを目的別に, 競技特性をラントレーニング(BR), スキルアップ (BS)とゲーム形式(BG)の3種類に, 共通トレーニ ングをラントレーニング(CR), 動作づくり(CP) と体幹トレーニング(CT)の3種類の計6種類に分類 した(()内は略号). また, データ提供元のスポー ツトレーナーの協力のもと, 身体への負荷を考慮した 上で強度をつけた. この強度は, 言い換えれば「練習 の辛さ, きつさ」となる. 2.3 スポーツ傷害の発生と練習時間の関係 先行研究では, 重回帰分析を用いてバスケットボー ルにおけるスポーツ傷害について検討し, 「共通トレ ーニングがスポーツ傷害の発生・予防に強い影響力 を持つ」, 「筋肉のスポーツ傷害の発生には, 練習時 間の長短が大きく影響するが, それ以外の要因の影響 力は小さい」という結果を得ている[6]. また, 葛原ら [5]によれば, 過密日程での練習や試合は傷害発生のリ スクが高まるということが数値的に報告されている. そこで, 具体的にどのようなトレーニングを行うと, スポーツ傷害の発生や予防につながるのかについて 探るため, 本論文では, ロジスティック回帰分析を用 いた. しかし, データが従う分布が不明確であるため, さらにカウントデータ分析の手法の一つであるポア ソン回帰分析を用い, これら2つの分析方法から得ら れた分析結果から, バスケットボールにおけるスポー ツ傷害の発生や予防の要因について検討した. 分析方 法の詳細は第3章に後述する.

3 分析方法

本章では, ロジスティック回帰分析とポアソン回帰 分析の分析方法について述べる. 3.1節でロジスティ ック回帰分析による要因分析の方法ついて述べ, 3.2

(4)

節でポアソン回帰分析による要因分析の方法ついて 述 べ る. なお , こ れらの 分析 には統 計処 理ソフ ト SPSS21.0を使用した. 3.1 ロジスティック回帰分析による要因分析の方法 本論文では, 高田[7]の方法(概要は4.1節に後述) を応用しロジスティック回帰分析を行うために, 分析 データの変換を行った. 表1にデータ変換の詳細を示 す. その後, ロジスティック回帰式の目的変数に表1に 示すような各部位ごとのバスケットボールにおける スポーツ傷害が発生したか否かのダミー変数を設定 した.また, 説明変数の候補には, スポーツ傷害の発生 に関わる, 各トレーニングの強度, 気温, 練習時間中の 温度変化, 気温の前日差, 練習時間と高校別(ダミー 変数)を設定し, それらを変数増加法により選択し回 帰式を導出した. ここで, 各トレーニングの内容, 練習 時間および高校については, 2.2.1項において述べた日 報データに記載されている. また, 気温については, 静 岡地方気象台のHP[8]に10分ごとに観測した気温が記 載されているため, 記載された値から練習時間中の平 均値を算出した. なお, 練習時間中の温度変化につい ては, 静岡地方気象台のHP[8]に記載されている10分 ごとの気温から練習時間中の最高気温と最低気温の 差を算出した. さらに, 気温の前日差については, 算出 した平均気温の値から同様に算出した前日の平均気 温の値を引くことで値を算出した. 3.2 ポアソン回帰分析による要因分析の方法 本論文では, ポアソン回帰分析の目的変数に各部位 ごとのバスケットボールにおけるスポーツ傷害の発 生件数を設定した. また, 説明変数の候補には, スポー ツ傷害の発生に関わる, 各トレーニングの強度, 気温, 練習時間中の温度変化, 気温の前日差, 練習時間と高 校別(ダミー変数)を設定し, Newton-Raphson法によ り選択し回帰式を導出した. ここで, 各トレーニング の内容, 練習時間および高校については, 2.2.1項にお いて述べた日報データに記載されている. また, ロジ スティック回帰分析と同様に, 気温については, 静岡 地方気象台のHP[8]に10分ごとに観測した気温が記載 されているため, 記載された値から練習時間中の平均 値を算出した. なお, 練習時間中の温度変化について は, 静岡地方気象台のHP[8]に記載されている10分ご との気温から練習時間中の最高気温と最低気温の差 を算出した. さらに, 気温の前日差については, 算出し た平均気温の値から同様に算出した前日の平均気温 の値を引くことで値を算出した. 表1 データの変換 日付 発生件数足関節 BG BR BS CR CP CT 日付 足関節 BG BR BS CR CP CT 2011/6/2 2 0 15 10 0 5 0 2011/6/2 1 0 15 10 0 5 0 2011/7/7 0 0 13 13 0 4 0 2011/6/2 1 0 15 10 0 5 0 2011/8/20 3 25 0 8 5 9 0 2011/7/7 0 0 13 13 0 4 0 2011/8/20 1 25 0 8 5 9 0 2011/8/20 1 25 0 8 5 9 0 2011/8/20 1 25 0 8 5 9 0 *二項ロジスティック回帰分析が可能となるよう,  分析データを左の表から右の表のように変換した.  右の表において,発生:1,発生なし:0 である. 表2 決定係数の値 大腿部 下腿部 膝 足関節 ロジスティック回帰 Nagelkerke R^2 0.546 0.485 0.463 0.654 ポアソン回帰 Heinzlら 0.623 0.549 0.475 0.596

4 分析結果

本章では, ロジスティック回帰分析とポアソン回帰 分析の分析結果について示す. まず, 各回帰分析から 得られるそれぞれの回帰式の評価について, 表2に示 す よ う に, ロ ジ ス テ ィ ッ ク 回 帰 分 析 に つ い て は Nagelkerkeの疑似決定係数の値[9]を使用し, ポアソン 回帰分析については, Heinzlら[10]の疑似決定係数の 値を使用する. 本論文においては, 二つの回帰分析の 結果について, 疑似決定係数が0.5以上となり, 双方の 回帰式の適合度が高くなると評価できる大腿部及び 足関節について分析結果を示す. 4.1節でロジスティ ック回帰分析により算出された回帰係数, オッズ比の 値と作成したレーダーチャートを示し, 4.2節でポア ソン回帰分析により算出された回帰係数の値を示す. 4.1 ロジスティック回帰分析の結果 本節では, ロジスティック回帰分析の結果について 示す. 本論文では, 分析結果をよりわかりやすく表現 するために高田[7]の方法を応用した. 以下に概要を示 す. まず, ロジスティック回帰分析の結果には通常オッ ズ比の値を使用する. しかし, オッズ比からは説明変 数の増減がバスケットボールにおけるスポーツ傷害 の発生率の増加と減少のどちらに作用するかを読み 取ることは可能だが, 実際にバスケットボールにおけ るスポーツ傷害の発生率をどの程度増減させるかに ついて具体的な数値を読み取ることが困難である. こ れを解決するために(1)式(ロジスティック回帰式) に下記の式変形を行う.

{

( )

}

exp 1 1 ) ..., , , ( 2 2 1 1 2 1 n n n x x x x x x P β β β α+ + + + − + = K (1) n nx x x z=α+β1 1+β2 2+L+β として,

( )

z P(x1,x2,...,xn) P =

(5)

{

+βx +β x + +βnxn)

}

+ = K 2 2 1 1 exp 1 1

( )

| Z dz dP P + z= 0 ⋅ ≈ 0

( )

0 21 , P = ここで また,

( )

{

1 exp

}

2 1 z = dz dP − + より, 4 1 0= = z | dz dP したがって,

( )

z21 41a 41 1x1 14 2x2 41 nxn P + + β + β +L+ β (2)

( )

( ,12, , ) 4 1 x i n i x P i K r = ∆ ⋅ ⋅ = ∆ β ただし, (x1,x2,...,xn)=(x1,x2,...,xn z=0) とする. (βiは回帰係数) これは, (1)式をz=0の近傍でテーラー展開し, その 1次近似を取ったものに相当する. これにより, ある 説明変数が1単位増加すると回帰係数βi41倍した 分だけ, 発生確率P が変化することがわかる. 本論

( )

z 文では, この値によりロジスティック回帰分析から得 られる結果を評価する. ただし, 変化分はスコア”0.5” の近傍で有効であり, スコア”1”に近づくほど, その 変化の大きさは小さくなる. 表3 ロジスティック回帰分析 回帰係数, オッズ比の値(大腿部) 大腿部 BG BS CR 気温 練習時間中の 温度差 気温 前日差 練習時間 定数項 β -0.066 0.194 0.079 0.109 -0.353 -0.175 0.532 -4.429 β/4 -0.016 0.049 0.02 0.027 -0.088 -0.044 0.133 -1.107 オッズ比 0.936 1.214 1.082 1.116 0.703 0.84 1.702 0.012 -0.5 0 0.5 1 1.5BG BS CR 気温 練習時間中の温度 変化 前日差 気温 練習時間 2011/8/5 2011/8/20 2011/8/18 図2 レーダーチャート(大腿部) 次に, ロジスティック回帰分析の結果を数値的にで はなく, 視覚的に示すためにレーダーチャートを作成 する. 以下にレーダーチャートの作成手順を示す. ま ず, (2)式から(3)式への式変形を行う. その後, 受傷部 位ごとに, 発生件数が上位3つの事象の各説明変数に ついて, 式(3)に示される ⋅βixi′ 4 1 の値を算出し, その 値をプロットすることでレーダーチャートを作成す る. 本論文では, このレーダーチャートを使用するこ とで, 各説明変数が持つスポーツ傷害発生への影響を 視覚的に考察する.

( ) (

z Px x xn

)

P = 1, 2,L, n nx x x′+ ′+ + ′ + = β β β 4 1 4 1 4 1 2 1 2 2 1 1 L

(3) ここで, xi=xixi0 xixiとする. (βiは回帰係数) 表3と表4に大腿部と足関節の回帰係数, 回帰係数を 4 1倍した値とオッズ比を示す(β は回帰係数). このβ 4 の値は, 説明変数の値が1増えたときにバ スケットボールにおけるスポーツ傷害の発生率が増 減する大きさを表している. 例えば表3の気温の 4β の値は0.027である. これは気温が1℃上がるとバスケ ットボールにおける大腿部のスポーツ傷害の発生率 が0.027上昇することを意味する. また, 図2と図3に大 腿部と足関節のレーダーチャートを示す. このレーダ ーチャートでは, 外側に点がプロットされるほど, バスケット 表4 ロジスティック回帰分析 回帰係数, オッズ比の値(足関節) 足関節 (A:0, B:1)高校 BG BR CR CT 前日差気温 定数項 β -2.989 -0.065 -0.187 -0.116 0.062 0.217 3.154 β/4 -0.747 -0.016 -0.047 -0.029 0.015 0.054 0.789 オッズ比 0.05 0.937 0.829 0.891 1.064 1.242 23.434 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0 0.2BG BR CR CT 前日差 気温 2011/12/29 2011/10/6 2011/6/24 図3 レーダーチャート(足関節)

(6)

ボールにおけるスポーツ傷害の発生率の増加に影響を 与えていることとなり, 内側に点がプロットされるほどバス ケットボールにおけるスポーツ傷害の発生率の減少 に影響力を持っていることとなる. 例えば, 図3では, CR(ラ ントレーニング)は点が外側にプロットされ, 逆にCT(体幹 トレーニング)は点が内側にプロットされている. つまり, こ の場合は, CR(ラントレーニング)は, バスケットボールに おける足関節のスポーツ傷害の発生率を増加させる要因 であり, CT(体幹トレーニング)は, バスケットボールにおけ る足関節のスポーツ傷害の発生率を減少させる要因であ るということが読み取れる. 4.2 ポアソン回帰分析の結果 本節では, ポアソン回帰分析の結果について示す. 表5と表6に下腿部と足関節のポアソン回帰分析の結 果を示す(βは回帰係数). 表5に示すように, 練習時間の回帰係数の値は0.214 となっており, 他の要因と比べて, バスケットボール における筋肉のスポーツ傷害の発生率の増加に非常 に大きな影響力を持っていることがわかる. また, 表6 に示すようにラントレーニング(BR, CR)が負の値 を取っていることから, これらはバスケットボールに おける関節のスポーツ傷害の発生率を減少させる 要因であることが読み取れる.

5 スポーツ傷害の発生要因

本章では, 分析の結果からバスケットボールにおけ るスポーツ傷害の発生要因と予防要因について検討 し, それをもとにバスケットボールにおけるスポーツ 傷害の予防策を示す. 5.1節では, ロジスティック回帰 分析の結果からバスケットボールにおけるスポーツ 傷害の発生要因, 予防要因について検討し, 5.2節でポ アソン回帰分析の結果からバスケットボールにおけ るスポーツ傷害の発生要因と予防要因について検討 する. そして, 5.3節では, 5.1節と5.2節で検討したバス ケットボールにおけるスポーツ傷害の発生要因と予 防要因をもとに予防策を示す. 表5 ポアソン回帰分析 回帰係数(大腿部) 大腿部 (切片) BS CR 気温 練習時間中 の温度変化 練習時間 (h) β -3.356 0.116 0.046 0.084 -0.231 0.214 表6 ポアソン回帰分析 回帰係数(足関節) 足関節 (切片) 高校 (A:0, B:1) BG BR CR CT β 0.16 0.387 -0.013 -0.049 -0.033 0.01 5.1 バスケットボールにおけるスポーツ傷害の 発生要因(ロジスティック回帰) 本節では大腿部のスポーツ傷害を筋肉のスポーツ 傷害, 足関節のスポーツ傷害を関節のスポーツ傷害と する.そして, それぞれについて, ロジスティック回帰 分析により得られた結果(表3, 表4, 図2および図3) から発生要因と予防要因について検討する. 5.1.1 筋肉のスポーツ傷害(大腿部) 3に示すように, 筋肉のスポーツ傷害の発生には 練習時間が大きく影響していること, 気温などの練習 時間以外の要因の影響が小さいことの2点を今回の分 析結果から読み取ることができる. これは図2からも, 練習時間のみが外側にプロットされ, 他の要因は中心 付近にプロットされているため同様のことが言える. なお, これは重回帰分析による先行研究においても 同様の結果を得ている[6]. また, 表3に示すように, 説明変数の候補の1つであ った高校のダミー変数が実際には説明変数として 選択されていないことから, 今回の分析結果から, 筋肉のスポーツ傷害においては, 高校別で差が見られ ないことも読み取ることができる. これは2.2.1項にお いて述べたように, この2校がほぼ同じ練習メニュー を行っており, 競技レベルにもほとんど差がないこと が原因と考えられる. 5.1.2 関節のスポーツ傷害(足関節) 4に示すように, 高校のダミー変数が説明変数と して選択されたため, 今回の分析結果から, 高校別で 関節のスポーツ傷害の発生に差があると読み取るこ とができる. しかし, 2.2.1項で述べたように, この2校 がほぼ同じ練習メニューを行っており, 競技レベルに もほとんど差がないことがわかっている. そのため, それぞれの地域の気候などの外部要因によって関節 のスポーツ傷害の発生に差が出ていると考えられる. また, 表4に示すようにラントレーニング(BR, CR)がスポーツ傷害の予防に効果があることがわか る. しかし, 図3に示すようにバスケットボールにおけ るスポーツ傷害の発生率が高いものに共通して, ラン トレーニング(CR)の影響が大きくなっている. つ まり, 今回の分析結果から, ラントレーニング(CR) がバスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生率 を増加させる要因となっていると読み取ることがで きる. しかし, これは図2に示した練習時間のような単 独の要因ではなく, ゲーム形式(BG)と気温の前日 差も大きな影響力を持っている. つまり, 今回の分析 結果から, ラントレーニング(CR), ゲーム形式 (BG)と気温の前日差の3つの要因が互いに影響す ることにより, バスケットボールにおける関節のスポ

(7)

ーツ傷害の発生率が増加していると読み取ることが できる. 以上のことから, ラントレーニングは単独で行えば スポーツ傷害の予防に効果があるが, ゲーム形式の練 習と組み合わせるとバスケットボールにおけるスポ ーツ傷害の発生率を増加させる要因へと変化してし まう傾向がある. さらに, 気温の前日差が大きいとい う外部要因が加わることにより, 極端にバスケットボ ールにおけるスポーツ傷害の発生率が増加してしま うと推察することができる. 5.2 バスケットボールにおけるスポーツ傷害の 発生要因(ポアソン回帰) 本節では, 5.1節と同様に大腿部のスポーツ傷害を 筋肉のスポーツ傷害, 足関節のスポーツ傷害を関 節のスポーツ傷害とする. そして, それぞれについて, ポアソン回帰分析により得られた結果(表5および 6)から発生要因と予防要因について検討する. 5.2.1 筋肉のスポーツ傷害(大腿部)5に示すように, 筋肉のスポーツ傷害の発生には 練習時間が大きく影響し, 気温などの他の要因の影響 力が小さいことが今回の分析結果から読み取ること ができる. これは, 2.3節で述べた重回帰分析を用いた 既存研究[6], 5.1節で述べたロジスティック回帰分析 と同様の結果を得た. また, ポアソン回帰分析においてもロジスティック 回帰分析と同様に説明変数に高校のダミー変数が選 択されなかったことから, 筋肉のスポーツ傷害におい て高校別で差は見られないということが今回の分析 結果から読み取ることができる. 5.2.2 関節のスポーツ傷害(足関節)6に示すように, ラントレーニング(BR, CR)が スポーツ傷害の予防に効果があることが今回の分析 結果から読み取ることができる. これは, 5.1節で述べ たロジスティック回帰分析からも同様の結果を得て いる. 以上のことから筋肉のスポーツ傷害, 関節の スポーツ傷害ともに, 今回のロジスティック回帰分析 およびポアソン分析から同様の結果を得た. 表7 スポーツ傷害の発生・予防要因と予防策 受傷部位 筋肉のスポーツ傷害(大腿部・下腿部) 関節のスポーツ傷害(膝・足関節) 発生要因 予防要因 練習時間の長短のみが傷害の発生に影響. 他の要因(気温など)の影響力は小さい. ラントレーニング(CR)が予防に有効. ただし, ゲーム形式の練習(BG)などの目的が 違う練習と組み合わせると, ラントレーニング(CR)は 傷害の発生率を増加させる要因に変化. 予防策 過度な練習を控えること. ラントレーニング(CR)を他の練習と組み合わせず,単独で行うこと. 5.3 スポーツ傷害の予防策 本節では, 5.1節と5.2節で示したバスケットボール におけるスポーツ傷害の発生要因をもとに, 筋肉のス ポーツ傷害と関節のスポーツ傷害のそれぞれについ て予防策を表7に示す. 筋肉のスポーツ傷害については, 練習時間の長短が バスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生率に 大きな影響力を持ち, 他の要因の影響力が小さいこと から, 過度な練習を控えることが単純かつ最も有効な 手段であることが今回の分析結果からの予防策とし て得られる. 関節のスポーツ傷害については, ラントレーニング が予防に有効であるが, ラントレーニングは, ゲーム 形式の練習などの目的が違うものと組み合わせると バスケットボールにおけるスポーツ傷害の発生率を 増加させる要因に変わってしまうことから, ラントレ ーニングを行う際はラントレーニングのみを単独で 行う必要があることが今回の分析結果からの予防策 として得られる.

6 お わ り に

本論文では, バスケットボールにおけるスポーツ傷 害の予防介入に関するモデル開発の手助けとなるよ う, 現場データからスポーツ傷害の発生要因を導出し, 予防策を講じる際に優先されるべき項目の基準設定 を手助けすること, また, 指導者や選手自身がスポー ツ傷害の予防策を講じる際の一助とすることの2点 を目的とし, ロジスティック回帰分析およびポアソン 回帰分析により検討した. その結果, 表7に示すように, 今回の分析結果の範囲内で言えることではあるが, 筋肉のスポーツ傷害については, 過度な練習を控える こと, 関節のスポーツ傷害については, ラントレーニ ングを他の練習と組み合わせずに単独で行うことを バスケットボールにおけるスポーツ傷害の予防策と した. 今後の課題については, ①関節のスポーツ傷害のみ 高校別で差が出た原因を検討すること②受傷機転を 考慮した分析から, より具体的な予防策を示すこと ③一般性を示すために, 他の高校および高校生以外の データからの検討を行うことの3点が挙げられる.

参 考 文 献

[1] 枇岩噌弘志, 内山英司, 平沼憲治, 武田寧, 中嶋寛 之:“スポーツ整形外科外来における外傷・ 障害の変遷:20 年間の動向”, 日本臨床スポーツ 医学会誌, Vol. 13, No. 3, pp. 402-408 (2005)

(8)

[2] 高橋佐江子, 鈴木仁人, 河村真史, 坂田 淳, 玉置龍 也, 清水邦明, 高田秀臣, 中嶋寛之:“スポーツ医 科学センターリハビリテーション科におけるス ポーツ損傷の疫学的研究 : 第 1 報-スポーツ損 傷の全般的統計”, 日本臨床スポーツ医学学会誌, Vol, 18, No. 3, pp. 518-525 (2010) [3] 林 光俊, 石崎愉純:「ナショナルチームドクタ ー・トレーナーが書いた種目別スポーツ障害の 診療」, 南江堂, pp. 123-146 [4] 中 村 浩 也 : “ 大 学 に お け る ス ポ ー ツ 傷 害 の 疫学的研究 ~アスレティックトレーニング支援 の可能性~”, プール学院大学研究紀要, Vol, 52, pp. 227-237 (2012) [5] 葛原憲治, 井口順太, 井上鎮子, 間瀬泰克:“bj リーグにおけるプロバスケットボールチームの 傷害分析~3 年間の前向き研究~”, 日本臨床 スポーツ医学会誌, Vol. 21, No. 1, pp. 187-193 (2013) [6] 松本崇司, 丸山友希夫, 山本久志:“スポーツ 傷害の発生要因に関する研究”, 日本経営工学会 平成25 年度春季大会予稿集, pp. 180-181 (2013) [7] 高田直樹:“ロジスティック回帰分析結果の 解 釈 ・ 利 用 の た め の 新 手 法~ 信 用 リ ス ク ・ スコアリングモデルを例に~”, IBM プロフェッ ショナル論文 (2007) [8] 静岡地方気象台 http://www.jma-net.go.jp/shizuoka/ (2014 年 4 月) [9] 内田 治:「SPSS によるロジスティック回帰分 析」, オーム社 (2011)

[10] Heinzl, H. and Mittlbock, M.: “Pseudo R-squared Measures for Poisson Regression Models with Over- or Underdispersion”, Comput. Stat. & Data Anal., Vol. 44, pp. 253-271 (2003)

参照

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