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海外の大学における業務プロセス等に関する調査報告書

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IV. 調査結果(2) 業務プロセス

第Ⅳ章では、National University of Singapore(以下、「NUS」)における財務会計 及び人事給与等に関連する業務プロセスについて整理する。また、その前提となる、シ ンガポールにおける研究資金制度の概要についても言及する。

1. シンガポールの研究資金に関する前提 ① 研究資金の概要

シンガポールには政府系資金提供機関(Funding Agencies、以下、「FA」)は National Research Foundation of Singapore(以下、「NRF」)、Ministry of Education(以下、 「MoE」)、Agency for Science, Technology and Research(以下、「A*Star」)そして National Medical Research Council(以下、「NMRC」)の4つが存在する。それぞれの 組織により、資金を提供する研究分野や用途が異なる。

NRF は 2006 年 1 月 1 日に首相府に設置された組織で、以下の 4 点をミッションとし ている。なお、配布資金の対象となる研究の分野は後述の 3 つの FA と重複するが、2 つ目のミッションのとおり、将来的には他の FA との調整を図り、国家として戦略的に 研究資金の配分をすることが期待されている。

 首相が議長を務める研究・イノベーション・企業評議会(Research, Innovation and Enterprise Council、以下「RIEC」)の事務局として支援する。  国家の総合的枠組みの中で、異なる政府機関による研究の調整をはかり、戦略的な 展望と方向性に一貫性を持たせる。  国家研究開発アジェンダに定められている5つの戦略的重点を実施するための政策 と計画を作成する。  RIECが承認した国家研究イノベーション企業戦略を実施し、NRFの戦略目的に適う プログラムに予算を配分する。 A*STAR は、2002 年に貿易産業省の下に設置された組織で、バイオ医療研究評議会 (Biomedical Research Council、以下「BMRC」)や科学・工学研究評議会(Science & Engineering Research Council、以下、「SERC」)などを含む 5 つの下部組織と事務局か ら成っている。FA としての役割は以下の通りである。  主に科学技術領域の研究活動の支援とプロジェクト単位で競争的資金を配分して いる。  バイオ医療分野であれば、BMRC が政府研究機関や公立の大学・病院などにおける医 学研究や学際研究など、医療の進歩につながる研究活動の支援と監督を行う。  科学・工学分野であれば、SERC が製造業(特にエレクトロニクス、情報通信、化学、 精密工学などの分野)を重視した、公共セクターによる研究開発活動を支援・監督 している。 NMRC は 1994 年 MOH の下に設置された組織で、その特徴は以下の通りである。

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主に医学分野の研究開発の推進を目的とし、ヘルスケア関連の研究に対し、プロ ジェクト単位で競争的資金を配分している。 MoE はシンガポールの教育を管轄する行政組織で、その特徴は以下の通りである。  研究資金についてはプロジェクト単位で幅広い分野に対して交付する。 他の FA と異なり、大学に対して研究資金だけではなく、運営資金も交付する。 図表 26 シンガポールには政府系資金提供機関の概要 シンガポールの大学は、各 FA の特性を踏まえ、適切な FA に研究費を申請する必要が ある。申請方法は FA によって異なり、例えば A*star の申請はデジタル化されている が、NMRC は一部のみデジタル化、NRF や MoE は申請がすべて紙媒体で行われている。 これらの申請業務は、Office of the Deputy President(Research and Technology) (以下、「ODPRT」)の所管であり、同部署の職員が窓口となって実施している。ただし、 A*Star の申請に関しては、教員が直接システムに入力し、申請する形式となっており、 Research Office がサポートしている。 シンガポールの政府系資金提供機関 • シンガポールの教育を管轄する行政組織。 • 研究資金についてはプロジェクト単位で幅広い分野に対して補助金を交付する。 • 他のFAと異なり、大学に対して研究資金だけではなく、運営資金も交付する。 シンガポール教育庁 Ministry of Education, Singapore

• 2006年1月1日に首相府に設置された組織。

• 国家の総合的枠組みの中で、異なる政府機関による研究の調整をはかり、戦略的な 展望と方向性に一貫性を持たせる役割を担う。

シンガポール国立研究財団 National Research Foundation of Singapore

• 1994年にMOHの下に設置された組織。

• 主に医学分野の研究開発の推進を目的とし、ヘルスケア関連の研究に対し、プロジ ェクト単位で競争的資金を配分している。

シンガポール国立医学研究会議 National Medical Research Council

• 2002年に貿易産業省の下に設置された組織。

• 主に科学技術領域の研究に対し、プロジェクト単位で競争的資金を配分している。

シンガポール科学技術研究庁 Agency for Science,Technology and Research

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図表 27 Agency for Science, Technology and Research の申請画面32

なお、2017 年 7 月にシンガポール政府は 4 つの FA の補助金申請プロセスを一元化す るシステムの導入を決定している。このシステムを Integrated Grant Management System (以下、「IGMS」)33といい、NRF、MOH、MoE 及び A*STAR への補助金申請者(研

究者や補助金の担当者)のために運用される。なお、この IGMS のガイドラインは既に 策定されており、現在はシステム移行のための検討が進められているところである。 こうした仕組みが実現することで、研究費などの科学技術予算管理の一元化、さらに FA と大学などの資金提供先とのシームレスなデータ連携も物理的には可能となり、よ り適切な資金管理(Grant Management)につながることが期待されている。今後、注力 して調査すべき事項と考えられる。 ② NUS における研究資金の概要 NUS の会計期間の締めは会計年度ごとに行い、四半期毎にも仮締めを実施している (見越額計上や前払い処理除く)。NUS では 3 年以上にわたる研究プロジェクトも多い が、同様に四半期ごとに仮締めをしている。

NUS では年間約 6~7,000 万 SGD の学費等による収入(Operating Income) があり、

32 NUS より提供

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加えて政府から年間約 2 億 SGD の補助金を受けている。一方で支出は年間約 2 億 5000 万 SGD の支出(Operating Expenditure)があるため約 70%の支出を補助金でまかなっ ていることになる。 収入に着目すると、NUS の予算は次の 3 つの観点で区分される。 (a) 用途が研究資金又は大学の運営資金という観点 (b) 競争的資金か非競争的資金かという観点

(c) 使途制限資金(restricted funding)又は使途非制限資金(unrestricted funding) という観点 以上の観点から NUS の補助金収入を整理すると下表の通りとなる。その内訳につい ては、(c)のうち使途制限資金、すなわち制限のある補助金に関して(a)の観点から 整理をすると、近年では研究資金が 75%、運営資金が 25%程度である。また、FA のう ち唯一運営資金を交付する MoE から交付される資金に関しては、(c)の観点から整理を すると、年によって変動はあるもののその割合は約 50%ずつである。

図表 28 National University of Singapore に対する主な補助金の種類

(a) 財源 (b)財源の種類 金額・期間 (c)使途制限の有無

研 究 資 金

NUS 非競争的資金 N/A N/A

行政補助金 (MoE Tier1) 非競争的資金 金 額 : 50,000 ~ 500,000SGD 期間:最大 3 年間 制限なし(使途非制限資金) ・基本的に人件費として使用され ることはないが、NUS に着任したば かりの新規研究者のチームを育て るための Seed Grant として使用さ れることはある。 行政補助金 (MoE Tier2) 競争的資金 金 額 : 250,000 ~ 500,000SGD 期間:最大 3 年間 制限あり(使途制限資金) ・研究用途にのみ使用可 行政補助金 (MoE Tier3) 競争的資金 金額:3,000,000~ 5,000,000SGD 期間:最大 5 年間 制限あり(使途制限資金) ・研究用途にのみ使用可 行政補助金(MoE SSRC34) 競争的資金 情報なし 情報なし 行 政 補 助 金 ( Research Centres of Excellence35 の研究費) 競争的資金 情報なし 情報なし 行 政 補 助 金 ( NRF Competitive Research Programme36 競争的資金 期間:上限 5 年 制限あり(使途制限資金) ・研究用途にのみ使用可 行政補助金 (その他 FA) 競争的資金 情報なし 制限あり(使途制限資金) ・研究用途にのみ使用可 運 営 資 金 NUS (学費、その他) 非競争的資金 N/A N/A 行政補助金 (MoE) 非競争的資金 情報なし 制限なし(使途非制限資金) ・人件費としても使用可 ・MoE から受ける運営資金の 50% 制限あり(使途制限資金) ・研究用途にのみ使用可 ・MoE から受ける運営資金の 50%

34 The Social Science Research Council (SSRC)

35 NRF と MoE が共同設立した研究機関。NUS も 4 つの機関の運営を行っている。

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NUS の「Annual Report 2017」によると、NUS の 1 年間の外部資金の収入は 7 億 4500 万 SGD であった。その内訳については、 図表 29 NUS が収入とする補助金の内訳37 一方、支出(Operating Expenditure)に着目をすると、使途制限資金が年間約 1 億 1000~2000 万 SGD、そして使途非制限資金が年間約 1 億 4000 万 SGD となっている。使 途制限資金は約 30%が、使途非制限資金に至っては約 70%が人件費(Expenditure on Manpower)として使用されている。

37 NUS「National University of Singapore Annual Report 2017」 MoE (Tier1) 3% MoE (Tier2) 6% MoE (Tier3) 4% MoE (SSRC) 2% MoE (その他) 1% NRF (プロジェクト) 26% NRF・MoE(RCE's) 6% MoH・NMRC 16% A*STAR 6% Research Scholarship Block 14% その他の省庁・法定機関・ 産業界 16%

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2. 財務会計業務プロセス ① 予算計画プロセス

シンガポールにおける各国立大学の定員は MoE により毎年決定される。そのため、 NUS における定員数、入学者数はその年によって変動する。こうした背景があり、NUS はその年により学納金等の総収入の観点より学費を変更する必要がある。実際に ORP が 予算案を作成するにあたって、Office of Administration、(以下「OAM」)が MoE より 提供される各大学の定員情報等を収集、それを ORP やシニアマネジメントに情報提供 する。Office or Resource Planning(以下、「ORP」)はこれらの情報及び独自に収集し た市場データ(予測入学者数、授業料、補助金等)を踏まえ、予算計画案を作成してい る。例えば授業料の予測においては前年度の上昇率をもとに次年度の値を算出してい る(例えば、前年度授業料が 1%上昇したとするとその年も授業料が同様に 1%上昇する という仮説をたてる)。

作成された予算計画案は ORP がシニアマネジメントに提案し、そこで承認が下りれ ばそれを NUS の次年度予算計画として BOT に最終提案する。BOT が ORP に対し予算の最 終承認をするが、間接的にシニアマネジメントが Board of Trustees(以下、「BOT」) に提案し承認するようなプロセスである。 図表 30 予算計画承認のためのプロセス38 38 NUS ヒアリングをもとに有限責任監査法人トーマツがドラフト作成、NUS 確認後、最終化 Senior Management Ministry of Education 各大学の定員の公示 Board of Trustees 予算の承認 Office of Administration 情報収集

Office of Resource Planning 収入・売上予測 予算計画の作成 情報提供 ①予算計画の提案 ②予算計画の承認 ③予算計画の最終提案 情報提供 情報開示

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② 研究資金の管理プロセス

シンガポールで一般的にプロジェクト毎におかれる Principle Investigator(通称 PI)と呼ばれる各プロジェクトの研究責任者が NUS にもおり、その者が研究費申請書類 を作成の上、OFS を通じてファンド申請を行う。申請が通過すると、NUS の SAP システ ム内でプロジェクトアカウントが生成される。具体的には、Office of Finacial Services(以下、「OFS」)が Project System(以下、「PS」)で WBS(Work Breakdown Structure)を作成することにより、システム上にプロジェクトアカウントが作成され る。PS には開始日と終了日を入力することができ、プロジェクト終了日以降に支出が 発生しないよう、システム上で管理している。プロジェクト遂行中は、研究責任者(PI) にのみ PS のアクセス権を付与されているため、タイムリーに予算の動向を閲覧してプ ロジェクト管理をする必要がある。そのため、PS にはリアルタイムで執行状況をモニ タリングできる機能が備わっている。加えて、アニュアルレポートの作成やその他報告 も求められている。

一方、OFS は、Funds Management(以下、「FM」)モジュールを用いて補助金の管理を している。FM は FI、FA、MM、PS といったその他の SAP モジュールと連携している。FM を資金の予算内に調達や支払がなされていることを担保することを最大の目的として 利用しているが、実際にファンドに報告をあげるにあたってはより詳細な情報が必要 とされており、その際には PS からデータが抽出される。 プロジェクトの遂行が完了する時期には収支報告を含めた最終報告をし、監査に備 えるのだが、シンガポールでは補助金を請求する際、日本と異なり、研究資金は精算と いう形で支給される。そのため、補助金の使用実績は会計年度の四半期毎に締めがあり、 翌月に 3 か月分の使用状況を報告する。また、シンガポールでは行政ではなく、外部監 査を受けることとなっており、この事実もサンプルでの監査を実施する日本と異なり、 すべての補助金プロジェクトが外部監査の対象となっている。そのような背景もあり、 SAP の FM や PS 等を使った予算管理が徹底されている。

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③ 調達に関する契約管理プロセス NUS 全体では、900 万件の調達を毎年行っており、そのうち約 300~400 万件は設備投 資関連の事案で占められている。NUS は国立大学、すなわち政府系機関であるので透明 性を担保するために WTO 及び FTA の基準に準拠する形で調達行為を行っている。 NUS の調達の契約までのプロセスはその調達案件の価格に応じて異なり、少額のもの から順に、少額購入案件(5,000SGD 以下の取引)、簡易見積書案件(5,000SGD を超え、 15,000SGD 以下の取引)、見積書案件(15,000SGD を超え、100,000SGD 以下の取引)、そ して一般入札案件(100,000SGD を超える取引)の4つのタイプがある。 いずれの場合においても業務プロセスには 6 つのステージがある。すべて調達案件 は、その調達行為の必要性の検討や市場調査を行うステージ1から始まる。 その後、ステージ 2 の段階では一般入札案件以外は調達担当部署(University Procurement Entities(以下、「UPE」))のバイヤーにより調達文書が検査される。一方 で入札案件では CPO のソーシングサポートメンバー(以下、「CPO SS」)により入札文書 一式が検査される。 ステージ 3 はソーシングと呼ばれる、見積もり行為が発生する業務である。15,000SGD 以下、の案件では UPE が直接サプライヤーとやりとりを行い見積書を入手するが、 15,000SGD を超える案件では調達チームが SESAMi 上で見積書公告又は入札公告 (Invitation to Tender)を発行することで、同システム上で各業者から見積書や入札 書類を受理する。なお、ここでいう調達チームは依頼者の所属によって異なるが、例え ば学部所属の教員による依頼であれば学部長室付きの調達チームがこれに該当する。 続くステージ 4 では各案件の見積価格又は入札価格が規定の評価基準に基づき評価 される。UPE は必要に応じ、サプライヤーから追加説明等を受け、その後 UPE 及び CPO SS は調達文書・入札文書の評価を行う。UPE は入札推薦書(Tender Recommendation Report(以下、「TRR」))を準備、その後 CPO SS がレビューを行う。一般入札における 業者の選定者は、入札評価委員会で決定される。NUS では価格・品質評価(Price-Quality Evaluation)を採用しており、業者の選定にあたり、価格と質の双方から検討を行う。 なお、現地ヒアリングにおいて、当該評価の評価項目や評価基準について聴取したもの の、具体的な回答は得られなかった。500,000SGD を超える入札の場合は CPO Compliance によるコンプライアンスレビューも受けることとなっている。 ステージ 5 は、ステージ 4 で承認を受けた案件について、決裁(award)が行われる 段階である。15,000SGD 以下の案件では発注書の作成と承認がなされ、15,000SGD を超 える案件では SESAMi 上で見積書又は入札公告が決裁され、その後サプライヤーと契約 が結ばれる。 契約が結ばれた事業者による調達の契約管理が行われるのがステージ 6 となる。契 約管理は UPE が行い、調達物品が納品されたり、サービスを受けたりした後に調達チー ムが SESAMi 上で領収書を発行する。 なお、調達に要する期間は状況によるが、入札文書を発行日から 3 か月が一般的であ る。

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図表 31 金額別調達業務における業務プロセス39

39 NUS ヒアリングをもとに有限責任監査法人トーマツが作成

少額購入

Small Value Purchase Simplified Quotation簡易見積書 Quotation (ITQ)見積書 一般入札Tender

5,000 SGD以下の取引 5,000SGDを超え、 15,000SGD以下の取引 15,000SGD を超え、 100,000SGD以下の取引 100,000SGDを超える取引 ステージ1 ニーズ確認 UPEが調達の必要性を検討し、市場調査を実施する。その後、UPE又は事案に応じてCPO SSが調達のアプローチを決定する。 ステージ2 獲得前準備 100,000SGD以下の購入についてはUPE内のバイヤーが調達文書を検査する。 予定調達価格が500,000SGDを超える 事案については入札文書案を検査(3 営業日) ①UPE が 要 求 承 認 書 (Approval of Requirement(AOR))を準備し、必要 に応じてCPO SSが要求承認書のレ ビューを行う。 ②UPEが要求承認書を承認する。 ③UPEが入札文書を準備し、CPO SSに よるレビューを受ける。その際、 CPO SSはOLAと連携し、入札文書を 精査する。 ステージ3 ソーシング UPEは予定調達価格が適切と認められれ ば直接サプライヤーとやりとりするこ とが認められる。 UPEは直接サプライヤーとやりとりす ることが認められている、3事業者以 上の見積価格が必要。 SESAMi上で見積書公告を発行(1営業 日) ※SESAMi上で見積書をダウンロードす ることができる。 調達チーム(e.g.学部での調達であれ ば学部長付の調達チーム)がSESAMi上 で 入 札 公 告 (Invitation to Tender(ITT))を発行(1営業日) ※SESAMi上で入札されたデータをダ ウンロードすることができる。 ステージ4 評価 全ての入札価格は規定の評価基準に基づき評価される。 ①UPEは必要に応じ、サプライヤーから追加説明等を受ける。 ②UPE及びCPO SSは調達文書・入札文書に基づき評価。

③UPEは入札推薦書(Tender Recommendation Report(TRR))を準備、その後CPO SSがレビューを行う。 ※500,000SGDを超える入札の場合はCPO Complianceによるコンプライアンスレビューを受ける。 ステージ5 裁定 発注書が作成され、承認を受ける (1営業日) ①調達チームが発注書を作成し承認を受ける。 ②サプライヤーに発注する。 見積書の裁定(1営業日) ①調達チームがSESAMi上で見積書を裁 定する。 ②サプライヤーと契約する。 入札公告(ITT)の裁定(1営業日) ①UPE は 入 札 承 認 者 (Tender Approving Authority(TAA))に入札 推薦書を提出して承認を受ける ②UPE が 調 達 受 諾 書 (Letter of Acceptance(LAA)) を 準 備 し CPO SS はOLAと連携し、調達受諾書を精査 する。 ③調達チームがSESAMi上でITTを裁定 する。 ④サプライヤーと契約する。 ステージ6 契約管理 SESAMi内で入荷を登録 (1営業日) ①UPEが契約管理を行う。 ②UPEが調達物品やサービスを受領した後、調達チームがSESAMi上で領収書を発行する。

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3. 人事給与業務プロセス ① 人事給与業務プロセスの前提(教員の雇用形態) NUS にはフルタイム及びパートタイムの両方が存在するが、教員の職種はそれ ぞれさらに細分化される。特に教員のキャリアパスが 4 つに分かれていることは 当然のようで特筆すべき事項である。NUS では米国などと同様、Tenure(終身雇 用)が審査制となっている。終身雇用となるためには Tenure Track(以下、「終 身雇用コース」)を選択しなければならず、研究実績(論文数や研究費の獲得実績 など)、教育実績(授業や学生指導)、その他サービス分野(大学雑務など)など において総合的に高い評価を受けなければならない。 NUS では終身雇用コースの審査に通らない限り、終身雇用契約を結ぶことはで きない。終身雇用コースで就任をする教員は、基本的に一度目の契約は 4 年間とな っており、契約が切れるタイミングで終身雇用審査を受けることができる。審査 に通ると定年 65 歳と規定された終身雇用が担保される。審査に通らなかった教 員の中にはそのまま契約更新をされない者もいるが、再考の余地があると考えら れた場合は、基本的に 3 年契約で更新を行う。その場合、一度の契約更新を含む 7 年間の勤務及び終身雇用審査の合格をもって 終身雇用が与えられることとなる。 一方で研究に主軸をおいた教員が属する Research Track(以下、「研究者コース」) や、教育に主軸をおいた教員が所属する Educator Track(以下、「教育者コース」)、産 業界における現場経験が豊富な教員が所属する Practice Track(以下、「専門職コー ス」)なども整備され、教員は自身の希望や適正に応じたキャリアパスを選択する環境 が整っているといえる。上述の終身雇用の教授が学部に所属するのに対し、研究者コー スの教員は NUS の研究機関(National University of Singapore Research Institutes and Centres や Research Centres of Excellence 等)に所属することも多く、研究を 強化している NUS を支えている。 また、特に研究において優秀な実績を上げた者には Chair という役職が学部長やそ れ以上の職位の者から任命される。この役職はその能力を NUS が正当に評価している ことを示すことを目的としている。それを具現化する形で Chair には個人で獲得した 研究資金や NUS から通常配布される予算とは別に、追加で研究資金や学会旅費等が支 給される。Chair の任期は 3 年間で、3 年毎に更新の有無が判断される。 なお、非常勤の雇用形態も充実しており、客員教員、非常勤講師、非常勤指導員など がある。客員教員は海外在住の教員と契約をすることも多く、例えばサバティカル休暇 等の長期休暇を利用して 3 か月だけ NUS で勤務するということもある。

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図表 32 NUS における教員の契約形態 職種 契約形態 概要 常勤 Tenure Track 終身雇用コー ス  該当する職級は教授、准教授、助教のみ。 採用時の契約は 4 年間。  初回契約終了のタイミングで、当人が申請をすれば終身雇用 審査が実施される。  審査の結果合格の場合、終身雇用が決定。  不合格の場合でも、見込みがある場合、一般的には 3 年間の 契約更新がされる。(場合によっては 1 年間のみ契約すること もある)  退職年齢は 65 歳。 Research Track 研究者コース  研究を主とした教員が該当。  該当する職級は教授(Research)、准教授(Research)、上席研 究員、主任研究員、研究員、研究助手。  契約期間は最短 6 か月間、基本的には 1~5 年間。 学部だけではなく、大学の教育機関にも関与する。 実績を積み、またその他要件も満たせば終身雇用コースに移 行可能。  人件費は補助金から出ることも多い。  約 15 年前に導入された比較的新しいコース。 Educator Track 教育者コース  授業を主とした教員が該当。事務仕事にも関与することが求 められている。  該当する職級は准教授、上席教員、教員、インストラクター、 ティーチング・アシスタント。  契約期間は最短 6 か月間、基本的には 1~5 年間。  実績を積み、要件を満たせば終身雇用コースに移行すること も可能。  教授になるためには研究でも実績を残し終身雇用コースに移 行する必要がある。 Practice Track 専門職コース  それぞれの専門の業界での現場経験が評価された教員が多 い。  該当する職級は教授(Practice)、准教授(Practice)のみ。 契約期間は最短 6 か月間、基本的には 1~5 年間。 要件も満たせば終身雇用コースに移行可能であるが、研究者 コース及び教育者コースと比べ、そのような事例は少ない。  4 つのコースの中で最も新しいコース。 Chair Professors  以上 4 つコースにおける業績を評価(compliment)する制度 として存在。  基本的に終身雇用コースの教員が一定条件を満たした場合 (研究実績のことが多い)に認定される。  Chair となれば、個人で確保する研究資金以外に、大学より 追加の研究資金が付与されたり、学会等への旅費資金が与え られたりする。  基本的に任期は 3 年間だが、その後審査の上で延長されるこ ともある。

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非常勤 Visiting Scheme 客員教員  契約期間は短期(数か月から数年間)。 契約はフルタイムであるが、あくまで外部での所属は残った 状態での契約となるため、他の所属先で過ごす期間も存在。 ※シンガポール国内にいるときは 100%NUS に在籍するため、 内部ではフルタイムとして整理されることもある。 Adjunct Scheme 非常勤教員  時間数は少ないが、長期的にプロジェクトに関与する教員。 (例えば週に 1 日)  契約期間は決まっていないが、最大 3 年間。 Part-time Teaching 非常勤指導教 員  産休や育休、病気休暇等で休んでいる教員の代理(主に授業 や学生の指導)を務める教員。  契約期間は決まっていないが、最大 3 年間。 ② 教員等の採用プロセス 常勤採用となる教員の採用については大学レベルでの関与と実際に採用する研究科 レベルでの関与がある。大学レベル、すなわち Office of Human Resource(以下、「OHR」) では NUS 全体の予算計画を行う段階で大学全体の採用計画も策定する。当該採用計画 は大学の経営戦略や各学部の戦略に基づき、向こう 3 年間に必要な人材を検討し、計画 に落とし込んだものである。また、策定時には候補者のターゲッティングも行う。 その後、研究科レベルでの採用フェーズに移行し、このフェーズでもまずは戦略的な 採用のための計画が作られる。内容は採用ターゲットへの接触場所や方法の洗い出し、 そして優秀な人材に NUS への関心を高めてもらうための企画などである。これらの採 用戦略に基づき、候補者が集められ、スクリーニングを行い最終候補者のリストが作成 される。ここまで残った最終候補者には直接連絡がとられ、NUS のキャンパスに招待さ れる。キャンパス訪問は通常 3 日間に渡り実施される。細かい内容は研究科によって異 なるが、面接はもちろん、プレゼンや講義の実施、そして学生や他の教員との交流など が行われる。 図表 33 NUS における教員の採用プロセス① (選考対象者の選定) 40 40 NUS ヒアリングをもとに有限責任監査法人トーマツが作成 採用計画策定 採用方法の検討 スクリーニング候補者の 最終候補者へのコンタクト キャンパス訪問への招待 志望意思を確認候補者の 大学レベル (OHR) 研究科レベル マンパワーレビュー 予算計画の段階で ①大学及び各学部の戦略 に基づき、向こう3年間 必要な採用計画をたて、 ②ターゲットを選定する。 採用戦略の構築 ①適切な採用案内の掲載場所を選定 ②個人ベースや紹介による採用 ③ターゲットの所属するネットワークを通じた採用 ④卒業生やポスドク又はそれらの人材による発掘 ⑤Endowed chairによる優秀な人材の採用 ⑥シンポジウムや講義に優秀な人材を招待 ⑦国内外の学会などでターゲットと接触 キャンパス訪問の実施 3日間のキャンパス訪問には ①面接、 ②プレゼンや講義、 ③学生や教員との交流 等が含まれる。 選考プロセスへ

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図表 34 NUS における教員の採用プロセス② (採用選考) 41 41 NUS ヒアリングをもとに有限責任監査法人トーマツが作成 Search Committee 選任委員会 研究科長Head FPTC 昇進・終身雇用 審査委員会(学部) Dean 学部長 UPTC 昇進・終身雇用 審査委員会(大学) • 終身雇用コース以外の助教 候補者 副学長 • 終身雇用コースの助教 • 終身雇用コース以外の准教授 • 終身雇用の教授 • 終身雇用の准教授 副学長+学長 外部有識者報告/ キャンパス訪問 契 約 プ ロ セ ス へ 採用前健康診断等

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③ 教員・職員の能力評価プロセスと報酬連動プロセス

NUS では教員も職員も年俸と Discretionary Components(賞与含む)の給与体系を採 用しているが、これらは毎年実施される人事評価によって決定される。 人事評価は基本的に直属及び 2 階級上の上長に評価され、複数の視点を入れるよう な配慮がなされている。教員であれば、例えば教授は自分が属する研究科の科長に評価 され、科長は学部の学部長に評価される。これらの評価の結果は、給与の増減、賞与の 有無及び金額、コースの変更、昇進などに反映される。なお、シニアマネジメント(学 長や副学長)は企業の取締役会にあたる大学の理事会である BOT に評価を受ける。 この人事評価プロセスを実施するにあたり、NUS では教職員は自己評価・業績の提出 によって評価を受ける。加えて、教員においては自己評価・業績以外に、学生からの評 価や、ピアレビューと呼ばれる同じ分野の研究者からの評価などを踏まえ、総合的に行 われる。ただし、学生からの評価が直接的に給与や賞与の金額決定に大きく寄与するこ とは基本的にない。 人事評価の際の評価軸は(Ⅰ)研究領域、(Ⅱ)教育領域、(Ⅲ)サービス(事務)領 域の 3 つがあり、これら 3 つの軸のうち、どの分野にどれだけのウェイトがあるかは 職種によって異なる。例えば研究コースの教授であれば基本的に(Ⅰ)、終身雇用コー スであれば(Ⅰ)~(Ⅲ)全ての軸で評価される。また、職員であれば(Ⅲ)のみで評 価される。教員と職員は共にその 1 年間の実績で評価され、研究実績に関しては基本的 にその 1 年間を含めた過去 3 年間の実績を総合的に評価される。 3 つの領域それぞれの具体的な評価項目は下表のとおりとなっているが、今回の現地 調査では領域及び項目ごとの比重などは開示されなかった。

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図表 35 NUS における教員・職員の評価軸及び評価項目 42 (Ⅰ)研究領域 (Ⅱ)教育領域 (Ⅲ)サービス領域 項目  著作物(出版物、学術論文、国 際学会及びその他学術関連著 書)  学会発表への招待  同僚からのレビューを受けた研 究資金(Peer-reviewed funding)  編集委員会への登録状況 --- 以下、該当者のみ  専門分野(医療、法律等)にお ける実践的領域の改善やイノベ ーションに係る実績  創作分野(デザインや作曲等) における実績  学生に対する講義  学部や大学院の学生への指導  モジュールやカリキュラムの開発  アカデミック分野における改革  研究科、学部、大学、産業 界、国内外組織への事務的貢 献 以上の評価制度とは別に、同僚や部門長の推薦により表彰を受ける制度も存在し、表 彰を受けると大学内外に通知され、研究資金が追加で受けられることもある。 42 NUS ヒアリングをもとに有限責任監査法人トーマツが作成

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4. 意思決定・経営管理プロセス

最後に、NUS での重要な意思決定の際の基本的な方針、プロセスについて言及する。 NUS の大学経営方針や重要なポストの採用等、大学全体に係る重要な決定はシニアマ ネジメント承認の上、Board of Trustees(以下、「BOT」)に提案を挙げ、最終承認を受 けることとなる。なお、BOT は 21 名で構成されており、学長、行政機関(現在は外務 省、経産省)、銀行、航空会社等、NUS の学部・研究領域などの構成に沿って、様々な産 業界から人材が選定されている。 一方、各学部の予算計画や予算執行など、財務関係の業務における決定権、すなわち 実質的な意思決定権限は、その事案に応じて各学部長、研究科長又は Principle Investigator(通称 PI)と呼ばれる各プロジェクトの研究責任者に任される。一方、 書面上の決済権限、すなわち署名権限(Signing Authority)は事案に応じて Office of the President 又は OFS に与えられていることが多い。

図表 36 NUS の Board of Trustees 一覧(2018 年 3 月現在)43

氏名 職位/所属

Mr. HSIEH Fu Hua Chairman / NUS Board of Trustees Chairman / United Overseas Bank Limited

Ambassador CHAN Heng Chee Ambassador-at-Large / Ministry of Foreign Affairs Dr. CHEONG Koon Hean Chief Executive Officer / Housing & Development Board Mr. GOH Choon Phong Chief Executive Officer / Singapore Airlines

Mr. GOH Yew Lin Managing Director / G.K. Goh Holdings Ltd

Dr. Noeleen HEYZER Social Scientist and Former United Nations Under-Secretary-General Mr. Peter HO Senior Advisor /Centre for Strategic Futures

Prof. HO Teck Hua Senior Deputy President and Provost / Tan Chin Tuan Centennial Professor Prof Dr Olaf KUBLER President Emeritus /ETH Zurich

Mdm. Kay KUOK Oon Kwong Executive Chairman, Shangri-La Hotel Limited

Mr. LAI Chung Han Second Permanent Secretary (Education) /Ministry of Education Mr. Michael LIEN Executive Chairman / Wah Hin and Company

Mr. Andrew M LIM Partner / Allen & Gledhill LLP

Mr. LOH Chin Hua Chief Executive Officer and Director /Keppel Corporation Limited Mr. Chaly MAH Chee Kheong Former Chief Executive Officer /Deloitte Southeast Asia

Mr. NG Wai King Managing Partner / WongPartnership LLP Prof. TAN Eng Chye President / National University of Singapore Mr. Phillip TAN Director / EQ Insurance Company Ltd

Mr. Abdullah TARMUGI Member / Presidential Council for Minority Rights Former Speaker of Parliament

Dr. Leslie TEO Chief Economist and Director / Economics & Investment Strategy, GIC Private Limited

Ms. Elaine YEW Wen Suen Member of Global Executive Committee / Egon Zehnder

43 NUS ウェブサイト上の情報をもとに有限責任監査法人トーマツが作成

(17)

V.

調査結果(3)マネジメントの高度化

第Ⅴ章では、Enterprise Resource Planning (以下、「ERP」)やその他業務システム に蓄積された情報が大学経営においてどのように活用されているかについて言及する。 言い換えれば、各大学が何を重視し大学運営を行っているか、またそのためにどのよう な管理指標を重視しており、その指標のためにデータ収集をしているのかを確認する ことになる。なお、マネジメントの高度化における National University of Singapore (以下、「NUS」)の事案は、比較的組織ガバナンスやマニュアルによる業務対応が中心 であると認識したため、以下、補足的にグローバル・北米における当法人のメンバーフ ァームである Deloitte の事例や、米国の大学事案などを用いて検討する。 1. NUS におけるマネジメントの高度化 今回の訪問調査により NUS におけるマネジメントの高度化の特徴は大きく 2 点であ ると認識した。1 点目は ERP やその他周辺システムから収集したデータを Office of Resource Planning(以下、「ORP」)において特定の目的に応じてデータ抽出し、Infor BI を用いてシニアマネジメントに対してレポーティングしていることである。現時点 で、ORP において必要なデータを各システムよりマニュアルで抽出しで、Infor BI で利 用可能なデータ形式にマージし業務遂行している。Infor BI は、スプレッドシートベ ースでのインターフェースを可能にしている点が特徴的である。この点では、各業務か らの「データ収集」段階と「データ利活用」の段階にシステム上の非連続性があること は否めない。この点に関して、多くの日本の大学においても似たような状況にあると認 識している。 一方で特徴の 2 点目として、意思決定ガバナンスの強化を組織体制によって担保し ているということである。米国の大学と同様に Board of Trusttes(以下、「BOT」)を 組織し、ORP からの情報提供、シニアマネジメントからの提案に BOT により客観性を担 保しつつ、提案の承認・意思決定がなされている。前述の通り、BOT には NUS の教育・ 研究領域とも関連のある産業界等から人選され、大学の意思決定を支えている。日本の 大学においては、経営協議会が設置されているがあくまで諮問機関であり BOT のよう な外部有識者から構成される委員(会)が意思決定をすることは稀であり、意思決定の 在り方の差が伺えた。最後に、Infor BI では what if 分析を中心に実施し、シニアマ ネジメントへレポーティング、BOT で意思決定を行っていることからも、多くは財務パ フォーマンス管理(部門別収支や事業別収支、また中長期シミュレーションなど)の指 標や KPI を重用している。つまり、大学は教育や研究の発展のために存在するという社 会的使命・特徴があり、事業活動の持続性、事業活動の収支均衡、経営の健全性などの 管理は欠かせないわけだ。また大学役務の提供先である学生等に対する成果、例えば研 究員、事務職員、学生の生産性管理、学生管理を徹底的に把握している。個別具体的な データや指標の種類など大学にとって機密性の高い情報は取得することが叶わなかっ たため、次節において Deloitte メンバーファームの事例や他大学の事例により補足す る。

(18)

2. 事例から考えるマネジメントの高度化

Deloitte メンバーファームは、各種 ERP パッケージや BI ツール(ERP 標準搭載の場 合 を 含 む ) の 導 入 等 実 績 を 多 数 保 有 し て い る 。 北 米 地 区 だ け で Johns Hopkins University(SAP)、New York University(Oracle)など約 90 大学へのプロジェクト関 与を実施している。こうした事例より、大学経営の観点で ERP や周辺システムより収集 し、確認されているデータは以下のような分類で検討することが出来る。

図表 37 BI ツール等を利用した管理指標の観点

参考 A Admissions and Recruitment の UI イメージ

1. Admissions and Recruitment:参考A

 採用・学生確保の改善や教職員の配置の最適化に関する情報 など  学生の入学から離学・退学(リテンション)、卒業までの予測と実態の管理 (リアルタイム管理含む)  志願状況:学科別、プログラム別、エントリー窓口別、リクルーター別などの指標 2. Student Financials:参考B  学生の財務情報の管理(学納金、奨学金等)  学生のニーズ・関心に関する情報 など 3. Student Records  学生への役務提供の効率化に関する情報 など A:Student Information (学務情報) 1. General Ledger(総勘定元帳)  キャッシュフロー、経費、予実管理、運転資本、流動性などの業績管理 など 2. Receivables & Payables(債権債務管理)

 債務側の健全性管理、支払い状況、信用リスク、回収効率管理 など 3. Budgetary Control(予算コントロール):参考C  予算額、引当額、支出額、経費予算に関する情報 など 4. Other  大学組織の従業員関連の支出管理  有形固定資産、建設中資産などの長期固定資産のライフサイクルに関する情報 など B:Financial Information (財務情報)

(19)

参考 B Student Financials の UI イメージ

(20)

これらのデータ特性に鑑みるに、学生のエンロールメント・マネジメントなど大学経 営特有の論点は含んでいるものの意思決定のために特別なデータ・マネジメントを行 っているというよりは、むしろ ERP システムとデータ連携している BI ツールを活用す ることにより大学経営におけるデータ管理をリアルタイムに行うことで意思決定の迅 速性を求めているということがわかる。

次に University of Cincinnati(シンシナティ大学)などで ERP や各種業務システ ムからどのようなデータを採用し KPI として管理されているかについて言及したい。 まず、大学経営における KPI の標準的な体系や事例の調査の過程で、「図表 38 大学 経営の外観」の通り、各大学が大学経営上、重視している指標管理の姿を垣間見ること が出来た。そしてそれは NUS における大学経営にも通ずる考え方であると認識してい る。 図表 38 大学経営の外観 大学経営における KPI の考え方として、各矢印(サービス提供の適切さ、法人戦略の 浸透、経営資源配分の適正さ)の迅速、精緻な管理の重要性が伺える。「図表 39 University of Cincinnati の管理指標」では、Student(受益者)と Finance(経営・ 運営)という観点で同様の重要性を確認でき、また NUS においても「経営資源配分の適 正さ」や「サービス提供の適切さ」は重視していると認識できた。

例えば University of Cincinnati(シンシナティ大学)の”UC 2019 Accelerating Our Transformation, Academic Master Plan44”では、”Learning”、“Discovery”、

“Community” 、 “Economy” 、 “Sustainability” 、 “Global Engagement” 、 “Diversity”、“Mission-Based Health Care”、“Collaboration”という 9 つのセ クションへの注力を示している。各セクションで KPI 管理をしており、その詳細は以下 の通りである。

44 UC 2019 Accelerating Our Transformation, Academic Master Plan http://magazine.uc.edu/issues/1210/strategic-plan.html

①サービス提供の適切さ

②法人戦略の浸透

③経営資源配分の適正さ

に沿って大学経営を遂行

し、KPIマネジメントを

行う

経営資源配分の適正さ 大学経営 教育・研究 等サービス サービス等 受益者 (学生等) 法人運営 サービス提供の適切さ サー ビス 提供 の 適 切さ 経営資源 配分の 適 正さ

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図表 39 University of Cincinnati の管理指標45

45 UC 2019 Accelerating Our Transformation, Academic Master Plan Report Card

http://www.uc.edu/content/dam/uc/president/docs/PresidentsReportCard-2012.pdf サービス提供の適切さ

Learning Discovery Community

First-Year Retention Rate Total Research Funding Number of Mainstreet Visitors Six-Year Retention Rate Total Research Expenditures Attendance at UC Events (Football, Men’s Basketball and CCM) Articulation and Transfer from UC

Regional Campuses Rank Among Publics Students Participating in Volunteer Activities Transfer Students from Non-UC

Schools & Universities Federal Research Expenditures Participation in Artswave Campaign Number of Merit Scholars (Total

Enrolled) Rank Among Publics Participation in United Way/Community Shares Campaign Number of Merit Scholars (New) Corporate Research Investment in UC University Athletics Winning Percentage (Big East Only)

U.S. News Ranking Number of Patent Applications SSI Measure (Overall Satisfaction) Number of Patent Issued NSSE Measure –Freshmen (All

Categories Combined) Number of Invention Discoveries NSSE Measure –Seniors (All

Categories Combined) National Academies Members Graduate Student Satisfaction Survey

(Masters Students -Overall

Satisfaction) Faculty Awards

Graduate Student Satisfaction Survey (Doctoral Students -Overall

Satisfaction)

Research / Scholarship Doctoral Degrees Awarded

ACT Scores of Entering Class Post-Doctoral Fellowship Awarded University Athletics Academic Progress

Rate (Multi-Year)

E-Classrooms –(% of Centrally Scheduled Rooms)

Libraries: Number of Volumes Libraries: National Ranking (ARL) Out–of–State Enrollment (Percentage) Wireless Coverage (Estimated)

(22)

サービス提供の適切さ

Learning Discovery Community

First-Year Retention Rate Total Research Funding Number of Mainstreet Visitors Six-Year Retention Rate Total Research Expenditures Attendance at UC Events (Football, Men’s Basketball and CCM) Articulation and Transfer from UC

Regional Campuses Rank Among Publics Students Participating in Volunteer Activities Transfer Students from Non-UC

Schools & Universities Federal Research Expenditures Participation in Artswave Campaign Number of Merit Scholars (Total

Enrolled) Rank Among Publics Participation in United Way/Community Shares Campaign Number of Merit Scholars (New) Corporate Research Investment in UC University Athletics Winning Percentage (Big East Only)

U.S. News Ranking Number of Patent Applications SSI Measure (Overall Satisfaction) Number of Patent Issued NSSE Measure –Freshmen (All

Categories Combined) Number of Invention Discoveries NSSE Measure –Seniors (All

Categories Combined) National Academies Members Graduate Student Satisfaction Survey

(Masters Students -Overall

Satisfaction) Faculty Awards

Graduate Student Satisfaction Survey (Doctoral Students -Overall

Satisfaction)

Research / Scholarship Doctoral Degrees Awarded

ACT Scores of Entering Class Post-Doctoral Fellowship Awarded University Athletics Academic Progress

Rate (Multi-Year)

E-Classrooms –(% of Centrally Scheduled Rooms)

Libraries: Number of Volumes Libraries: National Ranking (ARL) Out–of–State Enrollment (Percentage) Wireless Coverage (Estimated)

経営資源配分の大切さ

Economy OBR Financial Health Composite Score

Institutional Liquidity (As% of Total Expenditures)

Annual Giving (CASE) Annual Giving (CAE) Rank Among Publics

Overall Alumni Giving Participation Rate

Faculty / Staff Campaign Participation Endowment Assets

Endowment Assets Rank Among Publics

(23)

これらの管理指標は、大学経営の外観で示した 3 つの領域(サービス提供の適切 さ、法人戦略の浸透、経営資源配分の適正さ)と極めて強い関連を持ちつつ管理さ れていることがわかる。学生のリテンションや卒業率などの Learning に関する KPI は、適切な品質の教育を実行し、離脱することなく一定期間内に卒業させることを 目指しての管理指標(First-Year Retention Rate や Six-Year Graduation Rate) であり、これは大学が適切な役務提供を行っているかどうかの判断を行うために 管理していることがわかる。研究資金の総額(Total Research Funding)などの Discovery に関する KPI は、研究領域における大学の発展を目指したものである。 Diversity 指標は米国特有とも考えられるが、学生・学びの多様性を尊重する大学 運営には欠かせない指標である。これらの指標の目標値の設定及び経年管理を実 施することで、日ごろの大学経営の適正化、迅速・的確な意思決定を実行している。 ま た 、 多 く の 米 国 の 大 学 に お い て は Times Higher Education ( THE ) や QS Quacquarelli Symonds(QS)などのランキングに代表される、世界大学ランキング を PR 戦略上重視している傾向にあり、上記の管理指標を達成することで、それら のランキング構成要素を満たすことも考えた上で設計されているということだ。 University of Cincinnati(シンシナティ大学)では、Oracle 社の PeopleSoft Student Administration Integration Pack 、 Oracle Student Information Analytics、Oracle Exadata Database Machine、Oracle GoldenGate、Oracle Data Integrator、Oracle Service Cloud、Oracle Marketing Cloud などを導入してお り、上記方針に沿ったシームレスなデータ取得・管理を実現している。

図表 40 データ利活用とシステム46

46 Deloitte Resources より有限責任監査法人トーマツ作成 Data Sources ETL Mappings Data Warehouse

Schema

Business Metrics Business Insight

• Campus • Financial Legacy Data 3rdParty Custom Appa Pre-built ETL Adaptors Custom ETL Custom ETL

Oracle Business Intelligence Application

E xtrac t Sta g in g T ab les T ran sf o rm & L o ad

Business Analytics Warehouse

A/R Activity Admissions

A/P Activity Student

Conforming Dimensions

Spread Sheets, etc (OOBC) Analytics BI Server A n aly tics Bu siness mo d el

(24)

3. 業界標準的な財務関連指標(Composite Financial Index)

シンガポールへの現地調査や机上調査において、多くの高等教育機関が採用してい る財務指標があることが判明した。最後に、その財務指標である Composite Financial Index(CFI)47について紹介したい。CFI は、Prager & Co., LLC の“Strategic

Financial Analysis for Higher Education” の中で紹介されている。それは、1980 年に初めて報告されて以来、現在までに第 7 版までがリリースされており、特に米国 の高等教育業界において広く活用されていることがわかった。

CFI は、高等教育機関の運営の持続性に係るリスクが、財務の流動性に表れること に着目し、観測し続けるべき KPI とそのスコアリングの枠組みを提唱したものである。 この数値が高いほど、大学の目的達成に潤沢なリソースを投入することが可能である ことを示している。“Primary Reserve Ratio(財務の柔軟性の尺度)”、“Viability Ratio(利用可能なリソースで債務をカバーする尺度)”、“Return on Net Assets Ratio(資産収益率とパフォーマンスの尺度)”、“Net Operating Revenues Ratio (事業成績の尺度)”の 4 つで算出されており、先の University of Cincinnati(シ ンシナティ大学)においても Economy の指標の一つにこれと類似の指標での管理をし ていることが確認出来た。この枠組みは、National Association of College and University Business Officers(NACUBO)や National Association of Independent Colleges and Universities(NAICU)などの組織も活用を推奨している。また、逆に 活用している高等教育機関が多くあるため、主要なシステムパッケージベンダーの各 種ソリューションにおいてもこの枠組みを前提としているということが確認出来て いる。

図表 41 業界標準的な財務関連指標

47 “Strategic Financial Analysis for Higher Education” Prager & Co., LLC Composite Financial Index(CFI)

• 「Expendable Net Assets/Total Expenses」

• 支払などに充当可能な流動性を、総費用と比較して、短期的な財務の機動 性を測定

Primary Reserve Ratio

• 「Change in Unrestricted Net Assets/Total Unrestricted Income」

• 使途制約のない純資産の変動(留保額)を使途制約のない総収入と比較し 、収支の均衡状態を測定

Net Operating Revenues Ratio

• 「Expendable Net Assets/Long-Term Debt」

• 支払などに充当可能な流動性を、長期債務と比較し、長期的な債務返済 能力を測定

Viability Ratio

• 「Change in Net Assets/Total Net Assets」 • 純資産(リソース)の変動率を測定

(25)

つまり、大学経営において重要である、大学のミッション達成のために十分かつ流動性 の高いリソースがあるかどうか(Primary Reserve Ratio)、流動性の高いリソースを頼り に十分な事業収入を得ているか(Net Operating Revenues Ratio)、資産効率の適正さ (Return on Net Assets Ratio)、またミッション達成のためにデッド・マネジメントが戦 略的に行われているかどうか、これらの考え方を指標管理している、ということである。

図表 42 Oracle 社の Hyperion での CFI 対応のイメージ48

最後に、このように広く財務指標の管理を重視する背景として、日本のみならず米国にお ける高等教育機関向けの各州予算の減少傾向がある。持続可能な大学運営のため、マネジメ ントにおいてこのような指標を継続的に測定しているようだ。

(26)

図表 43 米国の州補助金と学費の傾向49

49 Deloitte Resources より有限責任監査法人トーマツ作成

Year Tuition and Fees in 2015 Dollars Tuition and Fees and Room and Board in 2015 Dollars

Private Nonprofit Four-Year Five-Year % Change Public Four-Year Five-Year % Change Public Two-Year Five-Year % Change Private Nonprofit Four-Year Five-Year % Change Public Four-Year Five-Year % Change

1975-76 $10,088 N/A $2,387 N/A $1,079 N/A $16,213 N/A $7,833 N/A

1980-81 $10,438 3% $2,320 -3% $1,128 5% $16,143 0% $7,362 -6% 1985-86 $13,551 30% $2,918 26% $1,419 26% $19,708 22% $8,543 16% 1990-91 $17,094 26% $3,492 20% $1,658 17% $24,663 25% $9,286 9% 1995-96 $19,117 12% $4,399 26% $2,081 26% $27,202 10% $10,552 14% 2000-01 $22,197 16% $4,845 10% $2,268 9% $30,716 13% $11,655 10% 2005-06 $25,624 15% $6,708 38% $2,665 18% $35,106 14% $14,797 27% 2010-11 $29,300 14% $8,351 24% $3,002 13% $39,918 14% $17,710 20% 2015-16 $32,405 11% $9,410 13% $3,435 14% $43,921 10% $19,548 10%

図表 27  Agency for Science, Technology and Research の申請画面 32
図表 28  National University of Singapore に対する主な補助金の種類
図表 31  金額別調達業務における業務プロセス 39
図表 32  NUS における教員の契約形態  職種  契約形態  概要  常勤  Tenure Track  終身雇用コー ス    該当する職級は教授、准教授、助教のみ。  採用時の契約は 4 年間。    初回契約終了のタイミングで、当人が申請をすれば終身雇用 審査が実施される。    審査の結果合格の場合、終身雇用が決定。    不合格の場合でも、見込みがある場合、一般的には 3 年間の 契約更新がされる。 (場合によっては 1 年間のみ契約すること もある)    退職年齢は 65 歳
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参照

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