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第 13 回定期演奏会 C シリーズインバル 0 歳記念 / 都響デビュー 周年記念 CSeries Subscription Concert No.13 C Series 広瀬大介 HIROSE Daisuke エルガー : チェロ協奏曲ホ短調 op.5 スピッカート 弓をはずませながら急速に歯切

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Academic year: 2021

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4 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。 お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:イスラエル大使館、   東京都、東京都教育委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金    (舞台芸術創造活動活性化事業)

第813回 定期演奏会Cシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.813 C Series

2016年

9

10

日(土) 14:00開演 

Sat. 10 September 2016, 14:00 at Tokyo Metropolitan Theatre

指揮 ●

エリアフ・インバル

 Eliahu INBAL, Conductor チェロ ●

ターニャ・テツラフ

 Tanja TETZLAFF, Violoncello コンサートマスター ●

矢部達哉

 YABE Tatsuya, Concertmaster

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調

op.85 (28分) Elgar: Cello Concerto in E minor, op.85 Ⅰ Adagio - Moderato Ⅱ Lento - Allegro molto Ⅲ Adagio Ⅳ Allegro - Moderato - Allegro ma non troppo 休憩 / Intermission (20分)

シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944 《ザ・グレート》

(48分) Schubert: Symphony No.8 in C major, D944, “The Great” Ⅰ Andante - Allegro ma non troppo Ⅱ Andante con moto Ⅲ Scherzo. Allegro vivace Ⅳ Finale. Allegro vivace 曲目解説(本文P.18~21をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

C

Series 東京芸術劇場コンサートホール ヤングシート対象公演(青少年を年間500名ご招待) 募集はP.17を、協賛企業・団体はP.57をご覧ください。

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18 第813回 定期演奏会Cシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 ※ スピッカート。弓をは ずませながら急速に歯 切れよく奏すること。

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85

ヴァイオリンを習ってはいたものの、作曲家としての職業的訓練を 積むのが比較的遅かったイギリスのエドワード・エルガー(1857 ~ 1934)。高い知名度を得るきっかけとなったのは、1899年に初演さ れた《エニグマ》変奏曲であり、このときすでにエルガーは42歳になっ ていた。ブラームス(1833~97)やR.シュトラウス(1864~1949)など、 同時代のドイツの管弦楽作品に範をとり、大規模な交響曲などで20 世紀初頭に成功を収めるも、第一次世界大戦(1914 ~ 18)の時期 には都会の生活に疲弊し、イングランド南部ウェスト・サセックスのフィ トルワースに屋敷を借り、ここで英気を養う。 チェロ協奏曲は1918 ~ 19年、大戦末期に手がけられ、同時期 に作曲した弦楽四重奏曲ホ短調op.83を演奏したチェロ奏者フェリッ クス・サモンド(1888 ~ 1952)の助言によって完成され、初演された。 ホ短調(♯が1つ)という調性は、弦楽器の有名な協奏曲では数少 ない(メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲など)。あるいは、ロ短調 (♯が2つ)で同じ2管編成を有するドヴォルザークのチェロ協奏曲を 意識したものかもしれない。 第1楽章 アダージョ~モデラート 冒頭におかれた短い独奏チェ ロの序奏は、曲全体を支配する陰鬱な雰囲気を代表するかのような 響きを持ち、また第2楽章冒頭や第4楽章の最後にも登場し、作品 全体を統一する主要モティーフの役割をも果たす。この主題に導か れ、おずおずとヴィオラが歌い始める第1主題は、都会暮らしで体調 を崩し、静養していた時期に手がけられた。8分の9拍子(時に8分 の12拍子)による、引きずるような、ためらうような旋律と、室内楽 的な管弦楽の響きは、みずからの音楽が向かうべき先をあてどなく 探しているかのよう。 第2楽章 レント~アレグロ・モルト 全体で4つの楽章を有した、 本格的な交響曲とも呼ぶべき体裁を整えた曲ではあるが、第1楽章 から第2楽章にかけては切れ目なく演奏されるため、協奏曲の通例た る3楽章形式とも考えられる。主要モティーフが変化した4分の4拍 子の無窮動を、ひたすら細かい音符として独奏チェロがスピッカート で刻み続ける。

第813回 定期演奏会Cシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.813 C Series

広瀬 大介

HIROSE Daisuke

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19 第813回 定期演奏会Cシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 第3楽章 アダージョ この楽章だけは主調のホ短調からやや遠 い変ロ長調(♭が2つ)に設定されている。伴奏はクラリネット、ファゴッ ト、ホルンが各2本と弦楽5部だけに制限され、独奏チェロは徐々に 下降しながら、時にオクターヴの跳躍を挟む、ひたすら息の長い旋 律を紡ぎ続ける。 第4楽章 アレグロ~モデラート~アレグロ・マ・ノン・トロッポ  前楽章の変ロ長調を変ロ短調で引き継いだ短い序奏の後、「レチタ ティーヴォのように」と記されたチェロの独奏が挟まれ、軽快な主要 主題がホ長調で登場する。この主題が何度も登場することを考えれ ば、変形されたロンド形式と考えるのが妥当か。終結部前に、第3 楽章の主題と第1楽章冒頭が続けて回顧されるところなど、《エニグ マ》変奏曲と同様、その真意は謎めいている。 作曲年代: 1918~19年 初  演: 1919年10月27日 ロンドン フェリックス・サモンド独奏 作曲者指揮 ロンドン交響楽団 楽器編成: フルート2(第2はピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファ ゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティン パニ、弦楽5部、独奏チェロ

シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944《ザ・グレート》

これまでの音楽史では、フランツ・シューベルト(1797 ~ 1828)は 比較的小さな歌曲や室内楽曲などの分野で、次の世代の「ロマン 派」への道を切り拓いた作曲家として紹介されることが多かった。だ が、革新的な歌曲を作る一方で、シューベルトはベートーヴェン(1770 ~ 1827)が完成させた古典派交響曲の伝統を愚直にも引き継ごうと もしている。あまりに完成された作品を作ったベートーヴェンに対して、 後世の作曲家はそれを取り入れるにせよ、反発するにせよ、自身の 立ち位置を明確に示すところから始めなくてはならない。シューベル トはこの困難な課題に直面させられた最初の世代であり、それに真っ 向から立ち向かった音楽家でもあった。 シューベルトの後期交響曲に対する番号付けは、かなり解決の方 向へと向かっているように見受けられる。第6番までの作品は、いず れも1818年春までの間にコンヴィクト(寄宿学校)のオーケストラ、あ

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20 第813回 定期演奏会Cシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 るいはオットー・ハトヴィヒ(1776 ~ 1834)が主宰するアマチュア・オー ケストラのために作曲されている。作曲された年代順に番号が振って あり、番号の混乱はない。 その後、1818年から21年にかけて、シューベルトは3曲の交響曲 (ニ長調D615 /ニ長調D708A /ホ長調D729)を手がけるもの の、いずれも未完・断片のままで終わった。D729は、ほとんどが 総譜として残っており、シューベルトの創作過程が比較的追いやすい ため、メンデルスゾーン(1809 ~ 47)やブラームス(1833 ~ 97)らが 補作を試みている。20世紀前半に活躍した指揮者ヴァインガルトナー (1863 ~ 1942)は、自身が補作したこの作品に「交響曲第7番」とい うタイトルをつけて出版した。この後にロ短調D759 《未完成》が続 くことになる。 1825年、シューベルトはウィーンからザルツブルクへと旅行し、こ の際に交響曲を1曲完成させている。この曲はウィーン楽友協会の 補欠理事に推挙された際の返礼曲とされたが、なぜか当の楽友協 会や作曲家の遺品の中には見つからず、消失してしまったものと考え られてきた。旅行した土地の名前をとって《グムンデン・ガスタイン》 交響曲と呼ばれ、D849という番号が与えられている。 後に、シュトゥットガルトでホ長調の交響曲(D729とは別作品)の 筆写譜が発見され、D849であるとして1982年にスコアも出版され たが、この曲がシューベルトの真作かどうかの判断は定まっていない。 最後に完成されたハ長調D944 《ザ・グレート》は、1839年に シューマン(1810 ~ 56)が再発見するまでその存在が忘れられていた こともあって作曲年代が判然とせず、自筆譜の記載から長らく1828 年作と考えられていた。そもそも《ザ・グレート》の呼称は、本来は 同じハ長調で作曲された交響曲第6番よりも規模の大きな(それもか なり大規模な!)交響曲というほどの意味に過ぎない。 後年、「1828」の記載は「1825」の読み違いであり、五線紙の 鑑定でも1825年当時のものと確定した。結局、《グムンデン・ガス タイン》交響曲の行方にはっきりとした結論は出ていないが、今日で は、D849はその共通点の多さからD944の前段階にあたる作品と して、《グムンデン・ガスタイン》=《ザ・グレート》と見なす傾向が 強い。 従って、ヴァインガルトナーによって出版された未完作品D729に 「第7番」を与えるか、同様にD759 《未完成》にも番号を与えるか が問題となる。現在では、ドイチュ作品目録改訂版(1978年)に基づ くベーレンライター社の新シューベルト全集が、(1)D729には番号 を与えない(2)D759 《未完成》は、その知名度・完成度から交

第801回 定期演奏会Bシリーズ

Subscription Concert No.801 B Series

都響スペシャル

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TMSO Special

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21 第813回 定期演奏会Cシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 響曲と見なし「第7番」とする(3)《グムンデン・ガスタイン》交響曲は 《ザ・グレート》と同一曲と見なし、これに「第8番」を与える、という 解決策を提示しており、近年ではこの提案に従って、第7番《未完 成》、第8番《ザ・グレート》とすることが多くなっている。 第1楽章 アンダンテ~アレグロ・マ・ノン・トロッポ 冒頭、当 時の交響曲にはあまり例を見ないホルンの斉奏は、1841年に作曲さ れたシューマンの交響曲第1番冒頭に直接の霊感を与えることになっ たのではなかろうか。非常にゆったりと演奏される序奏主題の3度上 行モティーフがその後の楽章にも登場し、曲全体を結びつけるのも、 後世の作曲法を先取りしている。長大なソナタ形式の前半部分に当 たる提示部では、都合3つの主題が扱われるが、リズムの統一が図 られているために、聴き手に複雑な印象は与えない。シューマンが「天 国的な長さ」と評したのは有名だが、この作品はシューマン自身の交 響曲創作にも大きな影響を与えている。 第2楽章 アンダンテ・コン・モート 「動きをもって、歩くように」 の指示をそのまま活かしたかのような、オーボエによるイ短調の第1 主題、穏やかな下降旋律によるヘ長調の第2主題が交互に繰り返さ れ、最後に第1主題が回帰する(展開部を欠くソナタ形式とも解釈で きよう)。 第3楽章 スケルツォ/アレグロ・ヴィヴァーチェ スケルツォ部分、 トリオ部分それぞれにABA形式を有する、いわゆる複合3部形式。 その規模の大きさや曲調には、後年のブルックナー作品のスケルツォ 楽章を彷彿とさせる無骨さを感じさせる瞬間も多い。 第4楽章 フィナーレ/アレグロ・ヴィヴァーチェ ソナタ形式。冒 頭の総奏による付点と、その後に続く弦楽器の3連符が執拗に用い られ、この2つのリズムが全曲を支配する。この付点と3連符の用法 は、シューベルトが得意とする息の長い旋律と、ベートーヴェン風の 作曲法(主題労作)を、オリジナリティ豊かに結びつけた最良の例だ ろう。 この後、シューベルトはより複雑な書法を究め、ベートーヴェンの 高みへと近づくべく、新たな交響曲ニ長調D936Aに挑戦するが、 彼にはもはやこれを完成させる時間は残されていなかった。 作曲年代: 1825~26年 初  演: 1839年3月21日 ライプツィヒ フェリックス・メンデルスゾーン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァント ハウス管弦楽団 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン 2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦楽5部 ※ 主題労作。 主題から 部分モティーフを抽出 して展開、曲を有機的 に構成する作曲法。

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5 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s 9 お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:イスラエル大使館、 シンガポール大使館、 東京都、東京都教育委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金    (舞台芸術創造活動活性化事業)

第814回 定期演奏会Aシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.814 A Series

2016年

9

15

日(木) 19:00開演 

Thu. 15 September 2016, 19:00 at Tokyo Bunka Kaikan

指揮 ●

エリアフ・インバル

 Eliahu INBAL, Conductor ピアノ ●

アンナ・ヴィニツカヤ

 Anna VINNITSKAYA, Piano コンサートマスター ●

矢部達哉

 YABE Tatsuya, Concertmaster

グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲

(5分) Glinka: Overture to “Russlan and Ludmila”

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第2番 ト短調

op.16 (30分) Prokofiev: Piano Concerto No.2 in G minor, op.16 Ⅰ Andantino - Allegretto Ⅱ Scherzo. Vivace Ⅲ Intermezzo. Allegro moderato Ⅳ Finale. Allegro tempestoso 休憩 / Intermission (20分)

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

Sz.116 (37分) Bartók: Concerto for Orchestra, Sz.116 Ⅰ Introduzione. Andante non troppo - Allegro vivace 序章 Ⅱ Giuoco delle coppie. Allegro scherzando 対の遊び Ⅲ Elegia. Andante non troppo 悲歌 Ⅳ Intermezzo interrotto. Allegretto 中断された間奏曲 Ⅴ Finale. Pesante - Presto フィナーレ 曲目解説(本文P.22~25をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

A

Series 東京文化会館 日・シンガポール 外交関係樹立50周年

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22 第814回 定期演奏会Aシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15

グリンカ:歌劇『ルスランとリュドミラ』序曲

ミハイル・グリンカ(1804 ~ 57)の歌劇『皇帝に捧げる命』は1836 年に初演され、ロシア初の本格的オペラとして大成功を収めた。そ の後、彼は2作目の歌劇の題材として、アレクサンドル・プーシキン (1799~1837)が1820年に書いた民話的な詩『ルスランとリュドミラ』 を採り上げることを決心した。 当初は原作者本人に台本を書いてもらうつもりであったが、プーシ キンは1837年2月に、自らの妻をめぐる決闘の際に受けた傷がもと で急逝してしまった。仕方なしにグリンカは、台本を待たずに先に全 体のプランと各場面の詳細を固め、作曲を開始する。その後、数 人の台本作者がグリンカの旋律に詩をあてはめるなどして台本を作 り、歌劇は完成に至った。 物語は、キエフ大公国のリュドミラ姫が、婚礼の宴のさなかに魔 術師チェルノモールに連れ去られ、花婿である騎士ルスランが様々な 冒険を重ねた末に、白魔術師フィンの力を借りて姫を取り戻すという もの。ニコライ・リムスキー=コルサコフ(1844 ~ 1908)のいくつか の歌劇や、セルゲイ・プロコフィエフ(1891 ~ 1953)の『三つのオレ ンジへの恋』といったメルヘン・オペラの草分けと言える。 序曲は第5幕フィナーレの素材に基づき、初演のリハーサルと並行 して作曲された。短い序奏に続いてあらわれる急速で華麗な第1主 題と、流麗に歌われる第2主題とによるシンプルなソナタ形式をとる。 作曲年代: 1837年~1842年12月 初  演: オペラ全曲/1842年12月9日(ロシア旧暦11月27日) サンクトペテルブルク 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラ ファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパ ニ、弦楽5部

プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第 2 番 ト短調 op.16

セルゲイ・プロコフィエフ(1891 ~ 1953)は1912年に自らピアノ独 奏を受け持ってピアノ協奏曲第1番を初演し、その尖鋭な内容でた いへんな話題を呼んでいた。続くピアノ協奏曲第2番は第1番の1年

第814回 定期演奏会Aシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.814 A Series

相場 ひろ

AIBA Hiro

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23 第814回 定期演奏会Aシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 後に作曲され、賛否共にさらに激しい反応を引き起こした。 青年期の彼が追求したモダンな音響と、第1番に比べて長足の進 歩をみせる作曲書法とが相まって、彼の遺した5曲のピアノ協奏曲中 でも最も力強く、かつスケールの大きなものとなっている。その一方 で楽曲全体が暗い影と強い緊張に覆われているのは、サンクトペテ ルブルク音楽院での親しい友人マクシミリアン・シュミトホフの自殺に プロコフィエフが強い衝撃を受けたことに由来するともいわれる。作 品はシュミトホフに捧げられた。 この作品の総譜はロシア革命(1917年)の混乱の中で一度散逸し たが、後にプロコフィエフが草稿を基に復元し、かつ大幅な改作を施 して、1924年5月8日に作曲者独奏、セルゲイ・クーセヴィツキー指 揮によりパリで蘇演された。こんにちではピアニストに超絶的な技巧 を要求する難曲であると同時に、続く第3番と並ぶプロコフィエフの 傑作として、演奏会のレパートリーに定着している。 第1楽章 アンダンティーノ~アレグレット 弦とクラリネットの弱音 による短い序奏の後ただちにピアノが入り、どこか郷愁を帯びた第1 主題を歌い出す。ピアノのモノローグを挿みながらこの主題がひとし きり歌い交わされると、リズミカルで諧謔味をたたえた第2主題があら われる。その後ピアノに第1主題が回帰すると、楽章の半分近くを 占める長大なカデンツァに突入する。高い技巧と強靱な響きを要求 されるこのカデンツァが頂点に達したところで、管弦楽が回帰し、凄 絶なトゥッティを築き上げる。程なくして音楽は沈静化し、ピアノの歌 う第1主題と共に静かに楽章は終わる。 第2楽章 スケルツォ/ヴィヴァーチェ 4分の2拍子で開始される 第2楽章は、スケルツォというよりもトッカータ風の曲想をもち、弦楽 器のピツィカートや木管楽器の歯切れよい楽句を背景に、ピアノが 無窮動の動きと共に一気に楽章を駆け抜けていく。 第3楽章 間奏曲/アレグロ・モデラート 重々しい足どりとシニカ ルな哄笑に彩られた、行進曲風の楽章である。抒情的なエピソード も時折顔をのぞかせるものの、すべてはやがて行進曲の強烈な性格 がもたらす雰囲気に呑み込まれてしまう。 第4楽章 フィナーレ/アレグロ・テンペストーソ 規模の大きさで は第1楽章と対をなす。管弦楽の鮮やかな色彩を従えて辛辣に開始 されるものの、仄暗くも抒情的な主題に基づく中間部によって、先行 する3楽章と大きく雰囲気を変える点がユニークである。ピアノが長 いカデンツァを奏して後、独奏と管弦楽が競うように力強い音楽を繰 り広げて、熱狂のうちに全曲の幕を閉じる。

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24 第814回 定期演奏会Aシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 作曲年代: 1912年末~1913年4月 初  演: 1913年9月5日(ロシア旧暦8月23日)パヴロフスク 作曲者独奏 アレクサンドル・アスラーノフ指揮 楽器編成: フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン 4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、タン ブリン、小太鼓、大太鼓、シンバル、弦楽5部、独奏ピアノ

バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116

1940年、ベラ・バルトーク(1881~1945)は第二次世界大戦(1939 ~45)の戦禍を逃れて祖国ハンガリーを離れ、アメリカ合衆国へと渡っ た。移住にあたって彼はコロンビア大学から客員研究員のポストを与 えられ、演奏活動を行うこともできたものの、渡米直後より体調不良 に悩まされるなどして、バルトークと彼の家族の暮らし向きはけっして 楽なものではなかった。 苦境にあったバルトークを救おうとしたのが、彼と親交のあった音 楽家たちである。経済的な援助も兼ねて彼らはバルトークに次々と新 作を依頼し、バルトークもそれに応えて次々と力作を書き上げた。後 に彼の患っていた病気は白血病であることが判明し、1945年にはそ れが原因でこの世を去ることになるが、死去までに完成させた作品 のひとつが《管弦楽のための協奏曲》である。 指揮者フリッツ・ライナー(1888 ~ 1963)をはじめとする彼の友 人たちの働きかけを受けて、クーセヴィツキー財団が委嘱したこの作 品を、バルトークは体調の悪化にもかかわらずわずか2ヵ月弱で書き 上げた。1944年に行われた初演は大成功に終わり、《管弦楽のた めの協奏曲》は彼の代表作として多くの人から愛されるようになる。 独奏楽器を伴わない楽曲に「協奏曲」というタイトルをつけるのは 異例であるが、これは当時、合衆国で有数の腕前を誇ったボストン 交響楽団が初演するとのことで、オーケストラの各楽器を独奏楽器 のように扱っていることに由来するとされる。またバルトークの僚友 だったゾルタン・コダーイ(1882 ~ 1967)が1939年にやはり《管弦楽 のための協奏曲》と題する作品を完成しており、それにちなんでタイ トルがつけられたとする説もある。 全曲は5楽章からなり、バルトークの好んだアーチ状構成をとって いて、第1楽章と第5楽章、第2楽章と第4楽章がそれぞれ曲想的に 対応する関係にある。 第1楽章「序章」 アンダンテ・ノン・トロッポ~アレグロ・ヴィヴァー チェ ソナタ形式で書かれている。長大な序奏はバルトークが長年 研究していたハンガリー民謡の香りをたたえて濃厚な雰囲気を醸す。 続く主部は力強い第1主題と、管楽器の歌い継ぐ舞曲風の第2主題

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25 第814回 定期演奏会Aシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 を持ち、展開部にあらわれる、第1主題に基づくフーガが印象的で ある。 第2楽章「対の遊び」 アレグロ・スケルツァンド 3部形式で書か れ、2人ずつ対となった管楽器が次々と舞曲風の音楽を繰り広げてい く、ユーモアをたたえた嬉遊曲風の主部と、荘重なコラールが金管 楽器によって歌われる中間部との対比がユニークである。

なおこの楽章は、「対の遊び(Giuco delle coppie)」というタイト ルで知られているが、 後に作曲者自身によって「 対による提 示 (Presentando le coppie)」と改められたことが判明、近年は後者の ように表記されることがある。 第3楽章「悲歌」 アンダンテ・ノン・トロッポ バルトークの得意と した、神秘的な雰囲気をたたえた“夜の音楽”が聴かれる。3部形式 により、様々な旋律断片が明滅するなか、中間部では第1楽章序奏 にあらわれた動機が採り上げられ、ひとときの気分の高まりを描き出 す。 第4楽章「中断された間奏曲」 アレグレット おおよそ3部形式を採 り、民謡風の旋律が歌われる主部(ヴィオラに登場する旋律はハンガ リーの作曲家の手になるものの引用とされる)と、「中断」と題され、 ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906 ~ 75)の交響曲第7番《レニング ラード》第1楽章に登場する旋律をパロディ風に扱った部分とが鋭い 対立を成す。 トロンボーンのグリッサンドや木管楽器のトリルがこの旋律を嘲笑す るくだりは、時局に乗じた音楽を作ったショスタコーヴィチへの批判と も、ナチスへの非難とも受け取れる(ショスタコーヴィチの原曲自体が この旋律をレハールの喜歌劇『メリー・ウィドウ』から借用していること が、この部分の解釈を難しいものとしている)。 第5楽章「フィナーレ」 ペザンテ~プレスト ホルンの雄壮な咆哮 に続く主部は、無窮動風の主題を中心に展開する、一種のロンド・ ソナタ形式をとる。民俗舞曲風のリズムをベースとした二重フーガが 織り成され、力強く華麗なクライマックスが描き出される。 作曲年代: 1943年8月15日~10月8日 初  演: 1944年12月1日 ボストン セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 楽器編成: フルート3(第3はピッコロ持替)、オーボエ3(第3はイングリッ シュホルン持替)、クラリネット3(第3はバスクラリネット持 替)、ファゴット3(第3はコントラファゴット持替)、ホルン4、 トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライア ングル、小太鼓、大太鼓、シンバル、タムタム、ハープ2、弦楽5部 ※ 『メリー・ウィドウ』は ヒトラーが愛好した作 品といわれることか ら、それへの皮肉を 込めたとされる。

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7 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。

第815回 定期演奏会Bシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.815 B Series

2016年

9

20

日(火) 19:00開演 

Tue. 20 September 2016, 19:00 at Suntory Hall

指揮 ●

エリアフ・インバル

 Eliahu INBAL, Conductor ヴァイオリン ●

オーギュスタン・デュメイ

 Augustin DUMAY, Violin コンサートマスター ●

山本友重

 YAMAMOTO Tomoshige, Concertmaster

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調

K.216 (25分) Mozart: Violin Concerto No.3 in G major, K.216 Ⅰ Allegro Ⅱ Adagio Ⅲ Rondeau. Allegro 休憩 / Intermission (20分)

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調

op.65 (65分) Shostakovich: Symphony No.8 in C minor, op.65 Ⅰ Adagio - Allegro non troppo Ⅱ Allegretto Ⅲ Allegro non troppo Ⅳ Largo Ⅴ Allegretto 曲目解説(本文P.26~29をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

B

Series サントリーホール 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:イスラエル大使館、         シンガポール大使館、    東京都、東京都教育委員会 シリーズ支援: 助成:文化庁文化芸術振興費補助金   (舞台芸術創造活動活性化事業) サントリーホール30周年記念参加公演 日・シンガポール 外交関係樹立50周年

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26 第815回 定期演奏会Bシリーズ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15

モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番 ト長調 K.216

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756 ~ 91)が優れたピ アニストだったことはよく知られているが、彼はまた、ヴァイオリンやヴィ オラの名手でもあった。有名なヴァイオリン教則本の著者でもあった 父レオポルト・モーツァルト(1719 ~ 87)に学んだ腕前は相当なもの だったらしく、彼は13歳という年齢でザルツブルクの宮廷楽団のコン サートマスターに任命されている。 モーツァルトのヴァイオリン協奏曲は、真作と認められているもので 5曲が残されている。作曲時期は短い間に集中していて、第1番は 1773年、他の4曲は1775年6月から12月までの間に書かれた。本 日演奏される第3番ト長調が完成したのは1775年9月12日、当時 モーツァルトは19歳で、第2番からは3ヵ月しか経っていなかった。他 の4曲はすべて、オーケストラはオーボエ、ホルン各2本と弦楽器と いう編成なのに対し、この曲では第2楽章のみオーボエの代わりにフ ルートが使われているのが特徴的である。 ところでこの曲は、《シュトラスブルク》協奏曲と呼ばれることがあ る。1777年10月のモーツァルトと父レオポルトとの手紙のやりとりの 中で、彼らはある曲をこの名前で言及している。以前はこれは第4番 を指していると考えられていたが、研究により、当時知られていた「シュ トラスブルガー」なる舞曲の旋律と、第3番の終楽章の旋律の1つが 一致することが判明し、現在はこの第3番が《シュトラスブルク》協奏 曲であったとされている。 カデンツァはすべての楽章にあるが、作曲者自身によるカデンツァ は、他のヴァイオリン協奏曲同様、まったく残っていない。比較的知 られているのはサム・フランコ(1857 ~ 1937)やウジェーヌ・イザイ (1858 ~ 1931)の書いたものだが、ヴァイオリニスト自身が書く場合も 多い。 第1楽章 アレグロ ト長調 4分の4拍子 協奏風ソナタ形式  快活な第1主題は、1775年4月に初演された歌劇『羊飼いの王様』 K.208のアミンタのアリア「穏やかな空気と晴れた日々」から採られて いる。穏やかな第2主題はオーボエとホルンに現れる。 第2楽章 アダージョ ニ長調 4分の4拍子 ソナタ形式 この

第815回 定期演奏会Bシリーズ

インバル80歳記念/都響デビュー 25周年記念

Subscription Concert No.815 B Series

増田 良介

MASUDA Ryosuke

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27 第815回 定期演奏会Bシリーズ 楽章のみ、オーボエの代わりにフルートが登場する。モーツァルトの 時代は、オーボエ奏者がフルートに持ち替えて演奏していたと思われ る。オーケストラの第1&第2ヴァイオリンとヴィオラは弱音器を付け、 低弦は大半をピッツィカートで演奏するなど、繊細でやわらかな音色 が志向されている。 第3楽章 ロンドー/アレグロ ト長調 8分の3拍子 ロンド形式 フランス語で Rondeau と表記されている。ロンド形式のフィナーレ だが、第3エピソードにあたる部分がユニークだ。全休止のあと、8 分の3拍子から2分の2拍子になって雰囲気が変わり、ピッツィカート の弦に乗せて独奏ヴァイオリンがト短調の旋律を弾く。それが終わる と、今度はト長調の明るい民謡風の旋律になる。これが「シュトラス ブルガー」の引用とされる部分である。 作曲年代: 1775年9月12日(完成) 初  演: 不明 楽器編成: フルート2、オーボエ2、ホルン2、弦楽5部、独奏ヴァイオリン

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調 op.65

ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906 ~ 75)は、第二次世界大戦 (1939 ~ 45)中に書いた交響曲第7番《レニングラード》(1941年)で、 ドイツ軍に封鎖されたレニングラード市民の英雄的な戦いと勝利を描 き(少なくともそのように受け止められ)、世界中でセンセーショナル な成功を収めた。そんな彼が第8番に着手したのは、第7番の完成 から1年半以上が経った1943年7月初旬だった。わずか2ヵ月後の9 月9日、作品は完成する。初演は同じ年の11月にエフゲニー・ムラヴィ ンスキー(1903 ~ 88)の指揮で行われ、この曲は彼に献呈された。 さて、この交響曲はいったい何を表現しているのだろうか。まずは 作曲者がこの曲について語ったコメントを見てみよう。ショスタコーヴィ チが作品について語ったことは全部が嘘のように思われがちだが、 実際はそうでもなく、肝心なところははぐらかしつつも、案外本音が 含まれている。 「……そこに具体的な出来事は何も描かれていません。ただ私の 考え、経験、創作に向けて高められた気分を表現しましたが、これ C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15

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28 第815回 定期演奏会Bシリーズ らはもちろん、赤軍の度重なる勝利に関する喜ばしいニュースに影響 を受けています。この新しい作品は未来、戦後の時代を覗いてみよ うという試みなのです。(中略)交響曲第8番は悲劇的であり、なお かつ劇的な多くの内面的対立を秘めています。しかし、全体的に見 れば楽観的で人生肯定的な作品です」(『ショスタコーヴィチ ある 生涯』p.184 /ローレル・E. ファーイ著、藤岡啓介・佐々木千恵訳/ アルファベータ、2002年) 曖昧でわかりづらいが、このコメントからは、少なくとも作曲者がこ の曲をどう受け取ってほしいと考えていたかが読み取れる。まず1点 は、この曲を戦争の具体的な描写と取らないでほしいということだ。 当時の人々や政府当局は彼に、第7番の続編にふさわしい英雄的な 交響曲を期待していた。スターリングラード攻防戦の勝利を経ていく らか好転した戦況を反映した、肯定的な作品だ。しかしショスタコー ヴィチは、この曲が具体的な出来事の描写であることを否定する。 もう1点は、この曲を「楽観的で人生肯定的」な曲と考えてほしい ということだ。当時の彼にとって、交響曲をどう終わらせるかは大問 題だった。第5番の初演から間もないころ、ショスタコーヴィチは指揮 者のボリス・ハイキン(1904 ~ 78)にこう言ったという。「この交響曲 (第5番)の最後はフォルティッシモで長調にした。みんな、楽天的で 人生肯定的な交響曲だと言っている。でも、もし短調のピアニッシモ で終えたら、みんなどう言うだろうね」 「短調のピアニッシモ」とは、初演を取り下げた第4番が念頭にあっ たのだろう。第8番は、第4番以来のピアニッシモで終わる交響曲だ。 この曲の終楽章は消え入るように終わる。一応穏やかな長調ではあ るが、勝利の大団円という感じでもない。「楽観的で人生肯定的」と いう発言は、実際にこの曲がそうだというよりも、特に政府当局者に そう考えてほしいというアリバイ的な意味があったのだろう。本当のと ころ、この結末は希望なのか諦めなのか。 だが、もう1つ押さえておかなければならないことがある。この曲に、 バロック音楽の要素がたくさん取り入れられているということだ。第4 楽章がパッサカリアであることはもちろんだが、第1楽章は、複付点 音符をもつ荘重なリズムではじまり、緩-急-緩という構成を取るフ ランス風序曲の形式を下敷きにしているし、当初はピアノ独奏付き の協奏的楽章になる予定だった第2楽章は、ガヴォット風のリズムを もつ。つまりこの曲は、全体をバロックの組曲風の構成と見ることが 可能なのだ。この曲に限らず、当時のショスタコーヴィチは、作品に しばしばバロック的な要素を取り入れている。パッサカリアもピアノ三 重奏曲第2番や弦楽四重奏曲第3番などいくつもの作品で使われて いる。 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 ※ 赤 軍。1918 ~ 46年 にソ連に存 在した 軍 隊。本来の名称は「労 働 者・ 農 民 赤 軍 」。 1937年 に 海 軍 が 独 立、以後は陸軍を指 す名称となった。

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29 第815回 定期演奏会Bシリーズ 作曲者がバロックの組曲をこの曲の構成のモデルに用いたならば、 第8番は、第7番の物語性よりも、むしろ第9番の古典性に近い性格 をもつ作品だということになる。そうなると結末がハッピーエンドかど うかという問題も意味が無い。 実際のところ、この曲が何を表しているかについて確実に言えるこ とは何もないのだ。極端な話、戦争に関係があるのかどうかというこ とも確かではない。まさかと思われるかもしれないが、あの第5番や 第10番に、親しい女性たちへの私的なメッセージを込めていた彼の こと、どんな可能性も否定はできない。当たり前だが、われわれは 音楽そのものに虚心に耳を傾けるしかないのだ。 第1楽章 アダージョ~アレグロ・ノン・トロッポ ハ短調 4分の 4拍子 複合3部形式 全曲の3分の1以上を占める長大な楽章。 冒頭の「ド-シ♭-ド」という音型、そしてそれを裏返した「ド-レ-ド」 という音型は、全曲のあちこちに現れる。 第2楽章 アレグレット 変ニ長調 4分の4拍子 ソナタ形式  作曲者は「スケルツォの要素を持つ行進曲」とする。ガヴォット風の第 1主題は、ドイツの流行歌《ロザムンデ(ビア樽ポルカ)》の引用とする 見方もある。第2主題ではピッコロ独奏が走りまわる。 第3楽章 アレグロ・ノン・トロッポ ホ短調 2分の2拍子 3部 形式 無窮動的なトッカータ。中間部ではトランペット独奏が活躍す る。暴力的なクライマックスから切れ目なしに次の楽章に入る。 第4楽章 ラルゴ 嬰ト短調 4分の4拍子 パッサカリア 葬送 行進曲の性格を持つ主題が11回変奏される。最後の変奏のあと、 長調に転じて、やはり切れ目なしに終楽章に入る。 第5楽章 アレグレット ハ長調 4分の3拍子 ロンド・ソナタ形 式 ファゴットをはじめとする様々な管楽器のソロが活躍するパスト ラーレ風のフィナーレ。音楽はやや明るさを帯びる。最後は第1&第 2ヴァイオリンの持続音をバックに、「ド-レ-ド」の音型が繰り返され、 静かに全曲が閉じられる。 作曲年代: 1943年7月2日~9月9日 初  演: 1943年11月4日 モスクワ エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮 ソヴィエト国立交響楽団 楽器編成: フルート4(第3、第4はピッコロ持替)、オーボエ2、イングリッ シュホルン、クラリネット2、小クラリネット、バスクラリネット、 ファゴット3(第3はコントラファゴット持替)、ホルン4、トラン ペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シロフォン、小 太鼓、シンバル、大太鼓、タムタム、トライアングル、タンブリン、 弦楽5部 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15

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8 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。

プロムナードコンサートNo.370

Promenade Concert No.370

2016年

9

25

日(日) 14:00開演 

Sun. 25 September 2016, 14:00 at Suntory Hall

指揮&ピアノ ●

ロバート・レヴィン

 Robert LEVIN, Conductor & Piano ピアノ ●

ヤーフェイ・チャン

 Ya-Fei CHUANG, Piano * コンサートマスター ●

四方恭子

 SHIKATA Kyoko, Concertmaster

モーツァルト:交響曲第29番 イ長調

K.201(186a) (25分) Mozart: Symphony No.29 in A major, K.201 (186a) Ⅰ Allegro moderato Ⅱ Andante Ⅲ Menuetto Ⅳ Allegro con spirito

モーツァルト:2台のピアノのための協奏曲

変ホ長調

K.365(316a)* (24分) Mozart: Concerto for 2 Pianos and Orchestra in E-flat major, K.365 (316a) * Ⅰ Allegro Ⅱ Andante Ⅲ Rondeau. Allegro 休憩 / Intermission (20分)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番 イ長調

K.488 (26分) Mozart: Piano Concerto No.23 in A major, K.488 Ⅰ Allegro Ⅱ Adagio Ⅲ Allegro assai 曲目解説(本文P.30~33をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

P

Promenade サントリーホール 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:東京都、東京都教育委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金   (舞台芸術創造活動活性化事業) ヤングシート対象公演(青少年を年間500名ご招待) 募集はP.17を、協賛企業・団体はP.57をご覧ください。 サントリーホール30周年記念参加公演

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30 プロムナードコンサート No.370 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 作曲家の生涯と作品を必要以上に結びつけて考えるのは、好まし いことではない……。楽曲解釈をめぐってよく言われることである。 特にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756 ~ 91)の場合、 両者は必ずしも一致しないどころか、一致する場合のほうが珍しい、 という指摘もある。 しかしだからこそ、あえてモーツァルトの生涯のどのような時期に、 それぞれの作品が生まれたかを考えてみる必要があるのではないか? そうした作業を通じてこそ浮かび上がってくるモーツァルト本人の不 思議、モーツァルト作品の魅力も存在するのだから。

モーツァルト:交響曲第 29 番 イ長調 K.201 (186a)

「神童」と呼ばれたモーツァルトが初めて交響曲を手がけたのは、 8歳の時、1764年のことだった(翌年説もある)。以降、彼は折に 触れて交響曲を発表してゆく。 交響曲は、劇場で開幕ベル代わりに演奏される序曲にルーツがあ る。やがて交響曲は演奏会のレパートリーにも取り入れられてゆくが、 それでも演奏会の開始や終了を告げるべき存在(場合によっては楽 章が繰り返されたり分割されたりした)と相場が決まっていた。そうし た意味では、プログラムの前半にあえて交響曲を置いた本日の曲順 は、モーツァルト時代のスタイルを意識したものといえる。 ところが、上に書いた交響曲のイメージを払拭するほどの完成度 と充実度を備えているのが、交響曲第29番だ。 当時のモーツァルトは、ザルツブルクでの宮仕えの真最中だった。 しかも神童時代の彼を応援してくれた大司教が亡くなった後、新たに 大司教に就任したヒエロニムス・コロレード(1732 ~ 1812)の緊縮財 政政策のもと、モーツァルトにとっては以前のようにザルツブルクを長 い間留守にして旅行をすることが難しくなっていた。だがそれゆえに、 モーツァルトはザルツブルクでコロレードらの求めに応じて演奏・作曲 活動に勤しまざるを得ず、そこから当作品も誕生したのである。 モーツァルトはこの頃から交響曲のスタイルを、従来のイタリア風 (序曲のスタイルを踏襲して急-緩-急の3つの楽章から成る)から ウィーン風(前者にメヌエットを加えた4つの楽章から成る)へと変化さ せている。音楽的内容が濃密になる形式を取り入れたということで あって、交響曲第29番もウィーン風で書かれている。しかも、第3楽 章メヌエットを除く他の3つの楽章には、作曲構成の腕前を披露する

プロムナードコンサートNo.370

Promenade Concert No.370

小宮 正安

KOMIYA Masayasu

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31 プロムナードコンサートNo.370 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 10 25 8 10 15 9 にふさわしいソナタ形式が取り入れられている。 おそらくは、コロレードが自らの宮殿で主催する演奏会で初演され たのだろう。それにふさわしく一見典雅な表情を湛える一方、優美 に開始されたはずの第1楽章がすぐさま疾走するような煌きを帯びた り、同楽章冒頭のテーマが実は1オクターヴ下降する大胆な音型か ら始まったり、それが第4楽章のテーマにもそのまま受け継がれたり ……といった具合に、内容的にも才気溢れる仕掛けがそこかしこに 施されている。 第1楽章 アレグロ・モデラート 第2楽章 アンダンテ 第3楽章 メヌエット 第4楽章 アレグロ・コン・スピーリト 作曲年代: 1774年4月6日(完成) 初  演: 不明 楽器編成: オーボエ2、ホルン2、弦楽5部

モーツァルト:2台のピアノのための協奏曲

       変ホ長調 K.365(316a)

1777年、ザルツブルクでの宮仕えに嫌気が差したモーツァルトは この街を出て、マンハイムやパリに求職旅行に出かけるものの、狙 いは失敗。父レオポルト(1719 ~ 87)がコロレード大司教に取りなした のが功を奏し、モーツァルトは1779年の初頭ふたたびザルツブルク の宮廷に音楽家として仕えることとなった。 2台のピアノのための協奏曲K.365はまさにそうした鬱屈した時代 に書かれたと考えられてきたが、近年では直筆譜に用いられた紙の 年代を手がかりに、1775年から77年の間、つまり彼が求職の旅へ 飛び出す以前の作品ではないか、という説もある。 もしも後者であるならば、モーツァルトは1776年にパトロンの貴族 であったロドローン一家から委嘱を受け、この家の夫人と2人の娘が 演奏するために3台のピアノのための協奏曲K.242を書いていること から、当曲はいわばその姉妹篇にあたるとも考えられる。仮にK.365 が1779年作曲だったとしても、モーツァルトはK.242を同じく1779 年頃に2台ピアノとオーケストラのために編曲しており、両者の類似 性は高い。 といってもK.365は、何らかの人物の依頼を受けて書かれたという 証拠はない。そのため、モーツァルトが姉のマリア・アンナ(1751 ~ 1829)と共演するために作られたという説も存在する。 この作品は、2人の演奏者が互いに親密な音楽的対話を交わす 点において、家族や親しい友人たちが演奏することを前提に、モー

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32 プロムナードコンサート No.370 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 ツァルトが何度も手がけた2台ピアノのための作品の性格を宿してい るのが特徴だ。初演もザルツブルクにおいて、おそらくはモーツァル トの同僚である宮廷楽団のメンバーがバックを務めて行われた。 その一方で、モーツァルトが書いたピアノ協奏曲の例に漏れず、 ピアニストの腕前を披露するという目的も充分に備えていることは見 逃せない。モーツァルト自身、1781年以降ウィーンでフリーの音楽 家として活躍するようになって以降、私的な集いだけでなく公開演奏 会でK.365を手がけているほどだ。それに際し、彼(もしくは第三者) の手によってオーケストレーションが拡大され、クラリネット、トランペッ ト、ティンパニが追加された(本日は追加楽器のないオリジナル編成 で演奏される)。 モーツァルトの協奏曲あるいは2台ピアノ用のものも含めた各種ソ ナタで慣例の3楽章形式に基づいており、溌剌としたソナタ形式によ る第1楽章、優美な緩徐楽章としての第2楽章、ロンド形式に基づく ユーモラスな第3楽章(フランス語でRondeauと記されている)と、 お馴染みの構成となっている。 第1楽章 アレグロ   第2楽章 アンダンテ 第3楽章 ロンドー/アレグロ 作曲年代: 1775~77年もしくは1779年頃 初  演: 不明 楽器編成: オーボエ2、ファゴット2、ホルン2、弦楽5部、独奏ピアノ2

モーツァルト:ピアノ協奏曲第 23 番 イ長調 K.488

1781年、モーツァルトとコロレード大司教の関係は完全に破綻す る。モーツァルトは二度とザルツブルクで宮仕えを行うことはなく、 ウィーンでフリーランスの音楽家として演奏活動や作曲活動を展開し ていった。 そんな状況に至ったモーツァルトにとって、自分自身の腕前を華々 しく示し、多額の収入を見込める手段として、予約演奏会があった。 その際、ピアノの名手として知られた彼は新作のピアノ協奏曲を引っ さげ、自身の演奏技術と作曲技術で聴衆を魅了したのである。 1786年には3月から4月にかけて予約演奏会が開かれたが、そのた めに書かれたと思われる作品の一つがこの第23番である。 1786年は、ウィーンにおけるモーツァルトの活動が一つのピークを 迎えた年である。この年、彼は予約演奏会を含む大小の演奏会や 催し物に出演し、ピアノのレッスンでも引っ張りだこの人気を誇る中、 そうした人気商売を減らしてまでオペラ『フィガロの結婚』の作曲に時 間を割き、それでもなお極めつきの高収入を得ていた。やがて念願 の同オペラの初演が行われたものの、貴族を痛烈に風刺した過激な

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33 プロムナードコンサートNo.370 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 内容に対する妨害や批判が起こり、その後ウィーンにおけるモーツァ ルトの人気は下降線を辿っていった。 ……というのがこれまでの定説だった(最近の研究によると、必ず しもそうとはいえない模様であるが)。あるいはこの説を踏まえ、たと えば当協奏曲の第1楽章の美しさを、モーツァルトの人生に対する達 観のように唱える評伝もかつては存在した。 だが、上の説が真実ならば、なぜモーツァルトが人生の絶頂期と もいえるタイミングで人生を達観する曲を書いたのか説明がつかない (この年、たしかに予約演奏会の客数は減りつつあったが、破滅的 な激減というわけではなかった)。むしろいっそのこと、そうした達観 が否応なく迫り来るほど、彼はその絶頂期において、ピアノ協奏曲 そのものの内実すらも変えてしまったのではないか? もともと18世紀前半まで、演奏会における協奏曲といえば、複数 のソリストが華やかに腕を競う合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)と 相場が決まっており、しかも演奏会で人気のレパートリーといえば、 オペラのアリアをはじめとするオーケストラ伴奏付きの声楽曲だった。 ところが後者において、声楽に負けじとオーケストラをバックに器楽に も華麗な技巧が施された独奏協奏曲が広まってゆき、その花形とし てピアノ協奏曲が人気を博するようになった。 そうした中で、この比較的新しいジャンルに対し、実験精神旺盛だっ たモーツァルトが反応し、単なる名人芸を超えた作品を書くようになっ た。例えば先ほど触れた第1楽章は、モーツァルトをはじめとする古 典派の協奏曲に典型的なソナタ形式で書かれているが、展開部では 提示部に示されたのとは異なる別の主題が現れる。あるいはシチリ アーノのリズムを基に短調で書かれた第2楽章に満ちる深い憂鬱や、 主題はもちろん副主題に至るまで聴き手を魅了するロンド形式の第3 楽章といった具合に、従来のピアノ協奏曲にはなかった斬新な要素 が溢れている。 なお他のピアノ協奏曲とは異なり、モーツァルトはピアノ独奏パート を第1楽章のカデンツァに至るまで、最初から丹念に楽譜に書き込ん でいる。またオーボエ・パートをクラリネット・パートに書き換えたり、 あえてオーケストラからトランペットとティンパニを省いたりして、オー ケストラに単なる「伴奏」以上の役割を持たせる工夫を随所で行って いる。 第1楽章 アレグロ   第2楽章 アダージョ 第3楽章 アレグロ・アッサイ 作曲年代: 1786年3月2日(完成) 初  演: 不明 楽器編成: フルート、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、弦楽5部、 独奏ピアノ

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9 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。

都響・調布シリーズNo.18

モーツァルト&ベートーヴェン名曲選

Chofu Series No.18

2016年

10

8

日(土) 14:00開演 

Sat. 8 October 2016, 14:00 at Chofu Green Hall

指揮 ●

藤岡幸夫

 FUJIOKA Sachio, Conductor フルート ●

高木綾子

 TAKAGI Ayako, Flute コンサートマスター ●

山本友重

 YAMAMOTO Tomoshige, Concertmaster

モーツァルト:歌劇『劇場支配人』序曲

K.486 (5分) Mozart: Overture to “Der Schauspieldirektor” K.486

モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調

K.314(285d) (20分) Mozart: Flute Concerto No.2 in D major, K.314 (285d) Ⅰ Allegro aperto Ⅱ Adagio ma non troppo Ⅲ Rondeau. Allegro 休憩 / Intermission (20分)

ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調

op.68

《田園》

(44分) Beethoven: Symphony No.6 in F major, op.68, “Pastorale” Ⅰ Allegro ma non troppo 田舎に着いた時の愉快な気分のめざめ Ⅱ Andante molto mosso 小川のほとりの情景 Ⅲ Allegro 田舎の人々の楽しい集い Ⅳ Allegro 雷鳴、嵐 Ⅴ Allegretto 牧人の歌。嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち 曲目解説(本文P.34~36をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

T

調布市グリーンホール 主催:公益財団法人東京都交響楽団 提携:公益財団法人調布市文化・コミュニティ振興財団 後援:調布市教育委員会、府中市教育委員会、多摩市教育委員会、 稲城市教育委員会 TMSO

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34 都響・調布シリーズ No.18 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15

モーツァルト:歌劇『劇場支配人』序曲 K.486

18世紀にオーストリアで活躍した作曲家ヴォルフガング・アマデウ ス・モーツァルト(1756 ~ 91)が、1786年に作曲した歌劇『劇場支 配人』の序曲です。この『劇場支配人』は、便宜上「歌劇」に分類さ れていますが、正確には「1幕の音楽付きコメディ」であり、音楽は 序曲以外にアリアなどが4曲しかありません。その他の場面は演劇の みで行われます。 劇の内容も、興行を計画している劇場支配人のところに、次から 次へと女優や俳優、歌手たちが売り込みに来て、プリマドンナ同士 が喧嘩になってしまうけれど、最後はみんなで力を合わせようと大団 円で終わるという他愛のないものです。 この台本でオペラを作曲するように依頼したのは、皇帝ヨーゼフ2 世(1741 ~ 90)でした。ヨーゼフ2世は、ウィーンを訪れたオランダ総 督夫妻を歓迎する祝宴のために、モーツァルトとサリエリ(1750 ~ 1825)にそれぞれ違う台本を渡し、オペラを作曲させたのです(モー ツァルトとサリエリを宿命のライバルとして描いた映画『アマデウス』を 思い出しますね)。サリエリには出来の良い台本が渡されたというこ とですから、もしかしたら、あまりにも台本がつまらないと思ったモー ツァルトは、5曲しか音楽を書かない形にしたのかもしれません。しか し、そんな事情があるにもかかわらず、その音楽は素晴らしく、序曲 は、本日のように単独でコンサートで演奏されるレパートリーになって います。 明るいハ長調で書かれた序曲は、傑作オペラ『フィガロの結婚』と 同時期に書かれただけあって、充実した内容を持っているので、劇 のあらすじを知らなくても充分に楽しむことができます。

モーツァルト:フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314(285d)

モーツァルトは、1778年に、オランダの商人でフルート愛好家のフェ ルディナン・ドゥ・ジャン(1731 ~ 97)の依頼でフルート協奏曲を2曲 書きました。そのうちの1曲が、このフルート協奏曲第2番です。フルー トのために書かれた名曲として世界中の音楽ファンに親しまれている

都響・調布シリーズNo.18

モーツァルト&ベートーヴェン名曲選

Chofu Series No.18

佐伯 茂樹

SAEKI Shigeki

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35 都響・調布シリーズNo.18 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 名曲ですが、実は、この曲の原曲はフルートではなくオーボエのため の協奏曲として作曲されたものでした。おそらく、ドゥ・ジャンに依頼 された時に、新規で作曲せずにその前に書いたオーボエ協奏曲をフ ルート用に編曲したのでしょう。 ちなみにモーツァルトは、フルート協奏曲3曲とフルート四重奏曲2 ~3曲を依頼されたにもかかわらず、協奏曲2曲と四重奏曲3曲しか 渡さなかったので、報酬を半額にされたと手紙に書いています。もし かしたら、オーボエ協奏曲を使いまわしたこともバレてしまったのかも しれませんね。 フルート協奏曲第2番とオーボエ協奏曲は全く同じわけではありま せん。オーボエ協奏曲はハ長調で書かれていますが、フルート協奏 曲は1音高いニ長調で書かれているのです。これは、当時のオーボ エの最低音がドだったのに対して、一般的なフルートの最低音が1音 上のレだったので、それに対応するために移調したのでしょう。 他にも、独奏パートには細かい部分で違いがあり、フルート協奏曲 の独奏パートには当時のオーボエでは困難な高音域や跳躍が出てき たりします。もっとも、2曲とも、モーツァルトの自筆譜が残っていな いので、どちらが作曲者の意図に近いのかわかりませんが、両方と も素晴らしい曲であることは間違いありません。 曲は3つの楽章でできており、協奏風ソナタ形式で書かれた第1楽 章(アレグロ・アペルト)は、明るく溌剌としたロココ趣味に溢れており、 ソナタ形式の第2楽章(アダージョ・マ・ノン・トロッポ)は、一転して 叙情的に歌う曲に。ロンド風ソナタ形式の第3楽章(ロンドー/アレグ ロ)は、いかにもモーツァルトらしい軽快な雰囲気になります。どの楽 章にも独奏フルートが1人で吹くカデンツァが入ります。

ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 op.68《田園》

モーツァルトの少し後の時代、同じウィーンで活躍した作曲家ルー トヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)が作曲した交響曲です。 ベートーヴェンは生涯に9曲の交響曲を作曲しましたが、この第6番 《田園》は第5番《運命》、第9番《合唱付》と並んで特に人気があり ます。 《田園》は、完成した1808年に《運命》と共にウィーンで初演され ました。《田園》というタイトルどおり、牧歌的な田園風景が描かれて いる曲で、力強い《運命》とは対照的な音楽ですが、実は、この2つ ※ ロンドー。フランス語 でRondeauと記され ている。

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36 都響・調布シリーズ No.18 C o nc er t Pr o gr am s T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 の交響曲には、どちらも既成の交響曲の常識を打ち破る革新的な試 みがなされたという共通点があります。そういう意味では兄弟作品と 言っていいかもしれません。 その試みの1つは、それまで独立していた楽章の間をつないだこと。 《運命》では、第3楽章と第4楽章をつなげることで、苦しみから解 放へという転換のスリリングさを演出し、《田園》では、第3楽章から 第5楽章までをつなげることで、突然雷雨が襲い、やがて嵐が去ると いう転換を味わうことができるようにしたのです。 もう1つの試みは、交響曲でトロンボーンとピッコロを使用したこと。 この当時、トロンボーンは教会や軍楽隊の楽器で、オーケストラでは 宗教曲とオペラぐらいでしか使われることがありませんでした。交響 曲で使うというのは本当に大胆な試みだったのです。軍楽隊の楽器 だったピッコロも同様でした。《運命》では、第4楽章でこれらの楽器 を大活躍させることで軍楽隊のパレードのような賑やかさを表現して います。《田園》での使用法は控えめですが、それでも、ピッコロは 第4楽章の嵐の場面でキラリと目立ちますし、トロンボーンも嵐の場 面と第5楽章で新しい響きを加えることに貢献しています。 他にも《田園》に関しては、通常は4つの交響曲の楽章を5つにし た点も新しい試みでした。この曲の各楽章には標題が付いているの で、どのような場面を描いているか知る手がかりになります。 第1楽章は「田舎に着いた時の愉快な気分のめざめ」。ソナタ形式 で書かれていて、第1ヴァイオリンが弾く穏やかな第1主題から始まり ます。この楽章にはトランペットやティンパニが使われていないので、 オーケストラの響きも牧歌的な雰囲気があります。第2楽章は「小川 のほとりの情景」。こちらもソナタ形式で、川のせせらぎのような8分 の6拍子のパッセージが続き、最後はナイチンゲール、ウズラ、カッ コウの鳴き声が木管楽器で描写されます。 第3楽章は「田舎の人々の楽しい集い」。複合3部形式で、4分の3 拍子の踊りのリズムが続き、中間部では4分の2拍子になります。し かし、踊りは突然中断され、第4楽章「雷鳴、嵐」に。これまで休んで いたティンパニも加わって激しい嵐の様子が描写されます。やがて嵐 が遠ざかると、そのまま第5楽章「牧人の歌。嵐の後の喜ばしい感謝 の気持ち」へ。ロンド形式とソナタ形式の両方を合わせたロンド・ソナ タ形式で書かれていて、冒頭では羊飼いが吹く角笛の音がクラリネッ トとホルンで描写されます。トロンボーンも加わった豊かな響きで自然 や神に対する感謝の気持ちが謳歌され、最後は弱音器を付けたホル ンによる角笛の合図が静かに吹き鳴らされる中、終わりを迎えます。

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11 プログラム T o p ic s fr o m T M SO 9 20 15 10 9 9 9 10 25 8 10 15 C o nc er t Pr o gr am s お願い−演奏中は携帯電話、アラーム付き時計、 補聴器などの音が鳴らないように ご注意ください。 写真撮影、 録音、 録画はお断りいたします。 音楽の余韻を楽しむ拍手をお願いいたします。

第816回 定期演奏会Cシリーズ

Subscription Concert No.816 C Series

2016年

10

15

日(土) 14:00開演 

Sat. 15 October 2016, 14:00 at Tokyo Metropolitan Theatre

指揮 ●

下野竜也

 SHIMONO Tatsuya, Conductor ヴィオラ ●

鈴木 学

 SUZUKI Manabu, Viola * コンサートマスター ●

四方恭子

 SHIKATA Kyoko, Concertmaster

ペンデレツキ:シャコンヌ─《ポーランド・レクイエム》より

(1984/93/2005) (7分) Penderecki: Ciaccona from “Polish Requiem” (1984/93/2005)

武満 徹:ア・ストリング・アラウンド・オータム

(1989)*(17分) Takemitsu: A String Around Autumn (1989) * 休憩 / Intermission (20分)

チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調

op.64 (48分) Tchaikovsky: Symphony No.5 in E minor, op.64 Ⅰ Andante - Allegro con anima Ⅱ Andante cantabile, con alcuna licenza Ⅲ Valse. Allegro moderato Ⅳ Finale. Andante maestoso - Allegro vivace 曲目解説(本文P.37~40をご覧ください。) 演奏時間と休憩時間は予定の時間です。

C

Series 東京芸術劇場コンサートホール 主催:公益財団法人東京都交響楽団 後援:東京都、東京都教育委員会 助成:文化庁文化芸術振興費補助金 (舞台芸術創造活動活性化事業) ヤングシート対象公演(青少年を年間500名ご招待) 募集はP.17を、協賛企業・団体はP.57をご覧ください。

参照

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表 2.1-1 に米国の NRC に承認された AOO,ATWS,安定性,LOCA に関する主な LTR を示す。No.1 から No.5 は AOO または ATWS に関する LTR を,No.6 から No.9 は安定性に 関する