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目次 はじめに 第 1 章日本の非正規雇用の概要と現状第 1 節非正規雇用 正規雇用の定義第 2 節非正規雇用増加の背景第 3 節非正規雇用の現状 課題 第 2 章オランダ社会 雇用モデルの成立について 第 1 節 第 2 節 歴史的背景 オランダ社会の雇用モデル 1 フレックスワーク 2 パートタ

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黒田ゼミ 卒業論文

非正規雇用のこれから

~オランダの奇跡の再現と限定正社員制度の活用~

明治大学

4 年 18 組 10 番

黒田ゼミ

B 班 北尾 公志

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2

目次

・はじめに

・第

1 章 日本の非正規雇用の概要と現状

1 節 非正規雇用・正規雇用の定義

2 節 非正規雇用増加の背景

3 節 非正規雇用の現状・課題

・第

2 章 オランダ社会・雇用モデルの成立について

第1節 歴史的背景

第2節 オランダ社会の雇用モデル

① フレックスワーク

② パートタイム労働

3 節 オランダにおけるワークシェアリング

3 種類のワークシェアリング

・第

3 章 日本におけるワークシェアリング

1節 日本におけるワークシェアリングの可能性

第2節 ワークシェアリングの必要性

第3節 ワークシェアリングの具体的な方法

・第

4 章 限定正社員にみる「日本の奇跡」

1節 限定正社員とは

2節 限定正社員は非正規労働者のニーズを満たしうるのか

3 節 限定正社員の求められる水準と許容しうる水準

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・終わりに ~今後の展望 起こせ日本の奇跡~

・参考文献

・あとがき

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はじめに

経済・産業のサービス化、IT 化、グローバル化が進展していくとともに、働き方が多様 化している現代社会で、いわゆる非正規労働者が増している。日本における非正規労働者の 多くは、雇用保障のあり方の程度や賃金水準が正社員と異なるため、企業にとっても使いや すく、企業の財務的なフレキシブルさを補う調整弁としてされてきたのだ。総務省「労働力 調査」によれば、「役員を除く雇用者」のうち、「パート」、「アルバイト」、「労働者派遣事業 所の派遣社員」、「契約社員・嘱託社員」、「その他」といった、いわゆる非正規労働者の割合 は、1984 年には 15.3%であったのに対し、2000 年には 26.0%、2010 年には 33.7%、2012 年には35.2%へと上昇してきている。 これにともない、非正規労働者問題が深刻化していて、少なくない非正規労働者が、雇用 不安に直面している。厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」によれば、 「雇用の安定性」に「満足」または「やや満足」と回答する者の割合は、「正社員」では58.1% もあるのに対して、「正社員以外の労働者」では39.8%にとどまってしまうのである。非正 規労働者にとっては自分の働き場所すら満足に思える人が約 4 割しか存在しないのがこの 日本の現状である。雇用の安定のほかにも非正規労働者には賃金・福利厚生の不十分さ・技 術向上の機会損出など様々な問題を抱えている。1 「正規雇用労働者」として働きたいと思っているのに採用されず、仕方なく非正規労働者 として働いている人たちを『不本意型非正規労働者』というが、私は大学3年次においてこ の「不本意型非正規労働者問題」について研究した。 非正規労働者の人達が将来的には、非正規社員ではなく、正規雇用である正社員になりた いかの意向を非正規労働者 1000 人に求人広告会社アイデム社が独自にアンケートをして みたところ、40.8%の人達が正社員として「働きたい」、23.5%の人達が「働きたくない」、 35.7%の人達が「わからない」と回答していることから、非正規労働者の約4割は不本意型 非正規労働者となることが判明した。 そして、そこでどうして非正規労働者の人たちが正規労働者になりたがっているのかの 理由を調べたところ雇用が安定しているからが81.6%、福利厚生が手厚いからが 61.9%、 賃金が高いからが55.3%、自身のキャリアを維持・向上させたいからが 38.2%、自分自身 を成長させたいから 30.7%となっている。この下記のグラフからもわかるように「雇用が 安定しているから」という理由が、一番非正規労働者が正社員になりたいと思う理由である ことがわかる。これは非正規労働者が有期雇用であるためいつ解雇されるかわからない状 況にあり福利厚生も正社員のような保証もない。そのため自分が暮らしている生活にも影 響が出てしまうからであろう。結婚したくても生活が安定しないために結婚をあきらめて しまう。雇用が安定しさえすれば、非正規労働者たちは報われていくのに。2 1JILPT「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究」より非正規雇用問題の概念を参考 2「非正規、これから!~労働者が闘う社会へ~」黒田ゼミB班共同論文

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5 ※求人広告会社アイデム「平成25年 パートタイマー白書」:質問項目3-11「正社 員意向」より作成 参考文献URL https://apj.aidem.co.jp/upload/chousa_data_pdf/161/file.pdf そして、3年次の授業内でオランダという国にはパートタイマーとして働きながらも正 社員として扱われ、待遇も福利厚生も保障されているということを聞き、オランダはどのよ うに雇用が不安定だった時期を、「オランダの奇跡」と呼ばれるような奇跡的な復活をした のか。そして、このオランダを参考に、雇用が不安定になっている日本において、日本の奇 跡が起こせないかと考えた。そこで、ここでは第1章で日本の非正規雇用の現状についても う一度述べなおし、第2 章でオランダの奇跡について詳しく検証し、第 3 章で日本でのオ ランダ雇用の必要性、可能性について述べ、第4章で限定正社員とは何かについて説明し、 最後に今後の展望について述べていくことにする。 ※図表―① 非正規労働者が正規労働者になりたい理由

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1 章 日本の非正規雇用の概要と現状

第1節 非正規雇用・正規雇用の定義

非正規雇用とはなんであろうか。日本における非正規雇用とは、正規雇用者つまり正社員 以外の雇用であり、雇用期間に定めのある有期雇用の事を指す。就業形態は多様で、具体的 にはパートタイマー・アルバイト・契約社員・派遣社員・などが非正規雇用となる。一般的 に観て有期雇用であるために雇用が不安定であることやキャリア形成の仕組みが整備され てないため、キャリアアップが厳しいこと、退職金や賞与がなく基本給が低いなどの要素が ある。3 他方で正規雇用とはどのような雇用形態であろうか。正規雇用の定義とは①労働契約の 期間の定めのない無期労働契約であること。②所定労働時間がフルタイム労働であること。 ③直接雇用であること。という三つの条件をいずれも満たす雇用形態である。 また長期雇用慣行を背景とする大企業での典型的な形態の条件として、上記の雇用条件 以外にも以下の条件を満たすものが正規雇用と論じられることが多い。その条件とは④勤 続年数に応じた処遇、⑤雇用管理の体系(勤続年数に応じた賃金体系、昇進・昇格・配置転 換・能力開発など)となっている。期間の定めのない雇用である為、定年まで雇われること が多い。また近年では年功序列をとらない企業も増えているものの、多くの企業では年功序 列賃金が一般的となっている。一定の年齢になれば一定の役職に就けることが多く、非正規 雇用と違いキャリア形成がしやすくなっているものである。 法令上の定義があるわけではないため、定義にも差が出てきてしまうが、一般的には会社 員や正社員を指す正規雇用は、上記でも述べたように①・②・③を満たすもので、④・⑤は 絶対条件ではない。4 今まで見てきたように、その境界線をおこうと思う。非正規雇用と正規雇用に違いはあ るものの、その厳密な定義があるわけではない。そこで本論では、「雇用期間の有無」にあ ると考えられる。つまり、有期雇用であれば非正規雇用、無期雇用であれば非正規雇用であ るとする。実際問題としても序論部分において言及したが、非正規労働者が一番に望む待遇 とは「雇用が安定している」ことであり、日本における非正規労働者にとっても雇用期間の 定めが一番の違いだと考えていると感じる。そのため、本論では無期雇用として雇うことを 正規雇用、期間の定めがある雇用を非正規雇用とする。 3「望ましい働き方ビジョン」(厚生労働省「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」検討 結果)の定義より引用 4 注脚 4 に同じ

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2 節 非正規雇用増加の背景

非正規雇用労働者は 1995 年から 2005 年までの間に増加し、その後も微増を続け、 2013 年には 1879 万人に達している。役員を除く雇用者全体の 36.2%を占める一方、正規 雇用者は同期間中に減少し、今までほぼ横ばいの傾向にある。 非正規雇用労働者の増加の理由として、1999 年の労働者派遣法の改正を挙げることが多 くあるが、法改正をきっかけに突然増加が始まったわけではない。非正規労働者は1980 年 代からほぼ一貫して増加し続けてきたのである。(下記の図2)非正規労働者の増加はいくつ かの複合的な理由が重なり合いその結果として生まれてきたものである。 一つ目の要因としては、企業側に正規雇用労働者の求人意欲が低下していることが挙 げられる。これまでの日本企業は、景気循環の過程で不況になり固定費の削減が必要になっ た場合には雇用調整助成金などの国の制度を利用し可能な限り正規雇用労働者を解雇しな いように努力することで、景気回復の際には彼らの技術を即座に活用して需要増に対応し てきた。しかし、1990 年代以降日本経済はグローバル化が進行し国際競争が激化すると、 より安価な労働力を求めて、生産拠点を移す企業が相次いで増加したために、国内産業が空 洞化してしまったのである。さらにデフレ不況の長期化も追い討ちをかけ、業績が悪化する なか、経営の健全化の名の下、早期退職者導入等により正規雇用労働者の雇用調整が行われ るようになっていく。国内ではとりわけ製造業などで正規雇用の機会が減少する一方で、非 正規労働者を積極的に採用していくことで、企業を取り巻く環境の変化に対応していく傾 向になっていく。非正規労働者を積極活用することが企業のトレンドとなっていったのだ。 二つ目の要因としては、ICT(情報通信技術)の革新の影響である。具体例を挙げると、ATM の登場によって銀行の窓口業務に人的サービスが不必要になっていき、POS システムの導 入により経験により培われる勘や技術を必要とした仕事をコンピュータにとって代われた のです。これにより、熟練労働者が行ってきた仕事の多くが経験の浅い労働者でもこなせる ようになり、非正規労働者の需要増を促したのである。 そして三つ目の要因は国内産業の中心が製造業からサービス産業へ移り、第3 次産業化の 急速な進展という産業構造の変化による影響である。正規雇用の比率が高かった製造業等 の第2 次産業で雇用機会が減少する一方で、非正規雇用の比率が高い小売業・卸売業・飲食 業などのサービス業での消費増大が、固定的な労働力ではなく変動的な労働力の需要を促 した。このような変化も非正規雇用労働者の増加の背景一因となっている5 しかし、要因が企業側の事情だけにあるわけではない、労働者側にとっても「労度時間を 自分で調整しながら働きたい」「もっと自由に働きたい」というニーズが高まっていること も事実である。正規雇用労働者の減少にともなって、正規雇用労働者の仕事が複雑化・多様 化し、質・量の両面できつくなっている。サービス残業が社会問題化し、労働者の過労死や 自殺件数が高まりだしていることなどもこのことが背景となっているのであろう。正規雇 用労働者には例外を除き一般的には、勤務時間や勤務地などに関する決定権がないために、 このような働き方をよしとせず「収入は少ないけれど、自分にあった労働条件などで働きた い」「労働時間を自分で管理したい」などの理由から、フリーターやパートタイマーなどの 非正規雇用を積極的に選択する人もいる。あるいは派遣労働者・契約社員として仕事をこな 5 広報誌「厚生労働」平成 25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」16 ページ

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8 しながらキャリアアップを図り、企業の枠を超えて活躍したいという人もいる。労働形態の 多様化により、自ら望んで非正規雇用を選択する労働者が存在するのも事実である。また女 性の高学歴化が進み就業意欲が高まっている。主に家事や育児・介護を抱える労働者を短時 間労働社員や在宅勤務者として活用し、ワーク・ライフ・バランスの実現を進めている企業 は増えている。しかし、未整備の企業も多く正規雇用では労働時間の管理が硬直的で、残業 時間が長くならざるを得ないため、非正規雇用を選択する女性も少なくない。長引く不況の なかで家計を補助する女性が増えたこともあり、パートタイマーが増える一因となったの である。6 ※図表- ② 正規雇用者と非正規雇用者の推移 ※出展URL http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3240.html (2015年1月29日ログイ ン) 6広報誌「厚生労働」平成25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」17 ページ

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3 節 非正規雇用の現状・課題

非正規労働者のなかには、低賃金で不安定な雇用から抜け出せず経済的な理由から結婚 や出産を躊躇する人も少なくない。また、本人が望んでいながら正規労働者になれない「不 本意型非正規労働者」も約4割程度も存在し、正規雇用への転換含めた処遇改善が急務とな っている。非正規雇用の課題としてはいくつか存在するが、主なものとして処遇の格差問 題・キャリア形成の問題が挙げられるだろう。 非正規雇用の課題の一つである正規雇用との処遇格差であるが、賃金については若いこ ろには両者の格差は小さくても年齢を重ねるに従いだんだんと大きくなってしまう。正規 雇用労働者の賃金が毎年上がっていくのは、経験により培われた技術・能力・職業勘等に企 業が価値を認めるからである。一方、非正規雇用労働者は職務のみによって評価されるため、 長年勤務しても同じ仕事続けている限り賃金はほとんど変わらない。そのため、一つの仕事 では生活を維持していくのは困難になるため、セカンドジョブ・サードジョブの掛け持ちで 働いている人も少なくない。低賃金労働を繰り返すワーキングプア問題もこのような背景 に起因するものなのである。 定年まで勤務可能な正規雇用労働者に比べ、雇用期間が定められている非正規雇用労働 者の雇用は不安定である。日本企業が正規雇用労働者を出来るだけ解雇しないように勤め てきたのは、若いころから積み上げてきた技術・能力・職業勘に価値を見出す傾向にあるた めである。この傾向は職業上の訓練との関係からも明らかで、費用をかけて訓練を行い、能 力を高めた後に従業員に退職されてしまうと企業にとっては大きな損出である。 一方、非正規労働者はこのような初期投資がかからなくてすむため、景気が悪くなったと きの雇用調整の調整弁として利用されてきた。非正規労働者の生活の安定を維持していく ためには、さらなるセーフティーネットの整備が必要不可欠となっていく。なかでも雇用機 会の拡大のためには能力の開発が不可欠である。7 すでに何度か言及しているが、能力開発の機会が乏しいことによる雇用の不安定さを招 いていることは明らかである。たとえば高校や大学卒業後すぐに非正規労働者として働く と、新入の社員に対して行われる初期職業訓練の機会を失ってしまうことになる。職業能力 を磨く上ではこの若い時期の教育・訓練は非常に重要なものであって、この時期に身につけ るべきスキル形成をおろそかにしてしまうと、将来的に安定した職に就くことが難しくな る場合がしばしば見られる。後に改めて能力開発をしようとしても、非正規雇用の立場では 費用の負担や職業訓練がどのように使用する機会がないために無意味に終わってしまうの である。正社員として入社してもすぐに辞めてしまう若者が約 3 割近くもいることが問題 になっているが、入社して初期キャリアが形成される前の離職にはキャリア形成上のリス 7広報誌「厚生労働」平成25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」18 ページ

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10 クがともなう。このように非正規労働者の雇用の安定化のためには、各個人の能力開発が必 要不可欠になってくるのである。8 かつて非正規雇用労働者といえば、学生アルバイトや主婦パートタイマーが主流であ り「縁辺労働者」という位置づけであったが、現在では全労働人口の約 4 割にも及ぶ人が 「非正規労働者」となっている。今、彼らが主たる稼得者となり家庭を支えているケースも 少なくない。今後は非正規労働者をメジャーな存在としてとらえ、労働政策を考えなければ ならないだろう。必要とされることは、正規雇用とそれ以外の雇用形態の間にあるあらゆる 格差を少なくしていくことであり、そのためには教育訓練のための環境整備を行うことが 求められる。教育訓練なしに安定した雇用形態での勤務を可能にしていくこと困難である といわねばならない。 では具体的にはどのように取り組んでいくことが必要になるだろうか。今日の日本と同 様に多くの非正規雇用者を抱え、格差拡大の一途をたどる社会を見事回復させた「オランダ の奇跡」とも呼ばれる抜本的な構造改革を日本の再生の指標として参考にしていきたいと 考える。次の章では、オランダではどのような時代背景でどのような改革が行われ、再生し てきたのか具体的に見ていくことにする。9

2 章 オランダ社会・雇用モデルの成立について

オランダは、パートタイマー労働を推進し、ワークシェアリングを行うことによって労 働時間を短縮し雇用の拡大とともに多様な働き方を定着させることに成功した。かつては フルタイマー(日本における正社員あたる)だけに手厚い待遇を与えていたが、あがり続ける 失業率を防ぐためにパートタイマーにも待遇を保障していくことでオランダの社会情勢は 復活し、劇的に変化した。このプロセスは「オランダの奇跡」と呼ばれている。現在のオラ ンダはパートタイマーと呼ばれる正規雇用待遇を受ける労働者層が約半分を占めている。 そこで日本の非正規労働者の安定した働き方を提案するに当たり、本論分ではオランダの ワークシェアリング・パートタイマー政策による雇用拡大からヒントを得たいと考えた。そ こで、この章ではオランダ社会の成り立ちと「オランダの奇跡」と呼ばれる雇用対策につい て研究し述べていくこととする。

第1節 歴史的背景

第二次世界大戦後、海外植民地を失ったオランダは貿易立国として復興した。1970 年代 8広報誌「厚生労働」平成25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」18 ページ 9広報誌「厚生労働」平成25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」19 ページ

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11 に入り製造部門に衰退傾向が見られたが、天然ガスの収入が高度な社会保障制度を可能に した。オイルショック後のエネルギー価格の暴落はこのような社会福祉バブルを崩壊させ、 80 年代に入り失業率は 12%に迫った。この状況を打破する為、政労使による「ワッセナー の合意」が行なわれる。 この合意は、競争力確保のため経営者側の主張する賃金抑制と、労働者側の主張する労働 時間短縮を認め合い、政府は減税等の施策で支援するという枠組みであった。これにより、 企業競争力の回復や雇用創出、財政再建が図られたのである。その結果、パートタイム雇用 が創出され女性の労働参加が促進された。労働者の賃金上昇は抑制されたが、女性が労働進 出することで家計収入は補われた。 オランダ企業の競争力は製造業からサービス業への構造転換によって次第に回復の方向 に向かい、サービス業が女性の労働参加の受け皿となるパートタイム労働を供給した。その 一方、退場した高齢者や障害者を社会保障制度で負担することになり、その受給者が飛躍的 に増加することとなる。 その後,「ワッセナー合意」の方針を再確認し,更に次のステップを目指すものとして1993 年,「ニュー・コース」と呼ばれる政労使合意が行なわれた。この時期には,正規雇用の解 雇条件の緩和とあわせてパートタイム労働,フレックスワークの待遇が改善され,働き方の 多様化が促進された。1998 年には「フレキシビィリティー&セキュリティー法」が制定さ れ、政府は企業側に派遣社員などを行う雇用調整を認める代わりに、十分な社会保障を与え ることを義務付けた。政府はフルタイマー(正社員)並みの賃金と安定した社会保障と職業 訓練の提供を義務付けたのである。現在では、費用を企業もちでフレックスワーカー(非正 規労働者)が国立の職業訓練学校に通い、毎年 3 割が正社員として登用されている。また派 遣社員も正社員と同等の給料と、失業保険では3 年間給料の 7 割を支給される。 このようにオランダでは政労使が「パートタイム労働の促進」に合意し、世界で初めて「パ ートタイム革命」が起きたのである。この結果、ワークシェアリングが発生し、パートタイ ム労働を促進することによって、雇用が増え、失業が減少した。その結果、世帯の所得が増 加し、消費が増加し、経済が復興したのである。これら一連の改革と経済復興が「オランダ の奇跡」と呼ばれるものであった。10

第2章 オランダ社会の雇用モデル

オランダでは、上記で行われた雇用改革を機に、パートタイマーとフルタイマーの格差解 消に成功し、新たな働き方としてのパートタイムの働き方を促進した。2000 年における就 業者に占めるパートタイマーの割合は 42.3%となっている。本論分の定義で解釈すれば、 オランダにおけるパートタイマーの多くは、パートタイマーとはいえ雇用期間の定めがな いので正規雇用である。日本のようにフルタイマーでないために非正規雇用と分類される のではなく、賃金も保証も同一であるれっきとした正規雇用なのである。 それでは、オランダには有期雇用や派遣労働はないのであろうか。日本での非正規雇用に あたるフレックスワーカーと呼ばれる雇用である。その就業数は2000 年において 53 万人 で約7.7%となり、それほど多くない。働き方の多様化、フレキシビリティの増加はパート 10 オランダにおける働き方の多様化とパートタイム労働 2 ページ参照(参考文献URL)

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12 タイムを中心に進んでいる。また、オランダの失業率は他国と比べ低い水準と言われるが、 雇用障害給付制度の受給者は依然として多い。雇用障害給付制度は早期引退促進のため高 齢労働者の受け皿であったとも言われるが、現在、雇用障害者の労働への復帰が大きな課題 とされ、パートタイム労働を中心とした雇用障害者にも無理なく働ける働き方を実現させ るため、パートタイム労働を利用した、多様な働き方の利用が推進されている。雇用の安定 が保証された制度のなかで、フルタイマーの労働者にも規制緩和を行い、多能性・柔軟性を 求めることで、より多くの人々に雇用機会を与えているのである。 以下、このフレックスワークとパートタイム労働について詳しく見ていくことにする。

① フレックスワーク

フレックスワークとは、有期雇用や派遣労働などを指したものである。従来、オランダの 労働法ではこのような働き方は望ましくないものとして非常に制限されていた。しかし、90 年代における規制緩和の流れの中で、経済の変容に伴い働き方の多様性を認める労働財団 の「雇用の柔軟性と安定に関する提言」があり、この考え方がほぼ1999 年の「雇用の柔軟 性と安定のための法律」にとり入れられた。正規雇用の解雇を厳しく制限する労働市場の硬 直性を緩和することと、不安定であったフレックスワークの地位を法的に強化することで 柔軟と安定が行なわれ多様な働き方の可能性が広がった。 次に、フレックスワークの労働条件について簡単に述べていく。有期雇用契約(臨時雇用 契約)においては、4 回目の更新、または、全体の雇用期間が 36 ヶ月以上(契約と契約の 間が3 ヶ月以上ない場合)ある場合、期間の定めのない契約に切り替わる。また、派遣契約 においては、派遣労働者と派遣事業主との雇用契約とみなされる。ただしこれには特別なル ールがあり、最初の26 週間においては 3 回を超えて更新されても自動的に期間の定めのな い契約に切り替わることはない。26 週間を超えると上述の臨時の雇用契約と同じ扱いとな る。 フレックスワークの魅力は働き方における柔軟性と多様性にあるが、しかし安定性にお いては正規雇用に劣る。経済状況の良かった90 年代後半では多くのフレックスワーカーの 雇用が創出されたが、2000 年代に入り景気が後退し労働市場が緊縮すると、フレキシビリ ティというメリットより安定面におけるデメリットが目立つことになった。労働時間法の 改正により労働時間の規制が緩和され、需給変動に企業内部の労働時間の調整で対応する 可能性が高まったという事情もフレックスワーカーの雇用に影響していたのである。上述 のようにオランダにおいてフレックスワークの普及が限定的なのは、短時間勤務正社員で あるパートタイム労働に比べて得られるフレキシビリティと安定性の比較衡量において劣 っていると思われているからであろう。11

② パートタイム労働

オランダにおいても最初からパートタイム労働が顕著であったわけではない。ワッセナ 11オランダにおける働き方の多様化とパートタイム労働 3ページ(参考文献URL)

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13 ー合意により労働者の賃金は抑制され、女性がパートタイム労働に進出し家計を助けた。当 初、パートタイムは劣った就業形態であまり推進されるべきものではないと組合は考えて いたが、製造業からサービス産業へという産業構造変化の動きと連動してフレキシブルな 働き方が支持されるようになり、パートタイム労働の飛躍的増加をもたらした。オランダの 労働人口は1980 年では約 500 万人であったが 2000 年には約 700 万人と、この 20 年間で 大きく増えている。これは主にパートタイム労働によるものであり、女性の労働参加が寄与 したものである。家庭、あるいはプライベートな生活と調和させることができる働き方とし て評価されたわけである。 その後、1996 年「労働時間差別禁止の法律」が導入され、パートタイムは労働時間に関 する以外はフルタイムと同等の働き方となった。オランダでは多くのパートタイム労働は 期間の定めのない正規雇用であり、賃金、休暇、年金等において労働時間比に応じて均等な 権利を持つものとなり、安定した雇用形態としてオランダに広く浸透していくこととなっ た。12

2 節 オランダにおけるワークシェアリング

第1 節のなかでも言及してきたが、オランダは経済的な不況をパートタイマーの促進に よって、雇用分配(ワークシェアリング)を行うことで就業率を高め、消費を増加させ経済復 興につなげてきた。島垣友里恵によれば、オランダでは三種類のワークシェアリングが会っ たという。そこでオランダで行われたワークシェアリングがどのようなものであるかを述 べていくことにする。

3 種類のワークシェアリング

オランダが80 年代以降に導入した「ワークシェアリング」大きくわけて 3 つに分類され る。島垣氏に依拠してまとめてみよう。 一つ目は「時短型ワークシェアリング」であり、これによる雇用の増加を期待したもので ある。週労働時間を40 時間から 38 時間に短縮することによる、フルタイムの労働時間の 短縮をおこなった。1993 年には週労働時間を 38 時間から 36 時間にまで短縮した。これに より、減少した仕事量を新たな人材に託すことで新たな雇用の創出を行った。 二つ目は「世代のワークシェアリング」である。1982 年に導入された「早期退職制度」 によって、若年層の失業率改善のため、退職が間近に迫った高齢者層の人々は、年金の優遇 措置を与え、若者に仕事を譲るというものである。第 1 節でも言及したがこの優遇措置を 利用する人が増加しすぎてしまったため、現在ではパートタイマーを新たな受け皿として 高齢者への職の復帰を図っている。 三つ目は「労働時間差のない『均等待遇』によるパートタイム労働促進のワークシェアリ ング」である。これを導入した途端に、パートタイマーの割合が増加し、雇用が増加し、失 業率が低下したのである。 12オランダにおける働き方の多様化とパートタイム労働 6・7ページ(参考文献URL)

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14 オランダ2005 年のパートタイマー労働者比率は、46.2%であり、他欧州諸国が 25%であ るのに対して約 2 倍近くの数値を示しているのである。そして、パートタイム労働が家事 との両立などを可能にし、女性の労働者も増え、ワークシェアリングが成立した。 現在のオランダの人々は大きく分けて3 つの雇用形態の中から、自分のライフスタイルや ライフステージの変化に応じて自由に選択し働いている。そのパターンは第1に週35 時間 以上で週休2 日のフルタイム労働であり、第 2 に週 20 時間から 34 時間以下で週休 3 日の 大パートタイム労働、最後に週半分の19 時間以下で週休 4 日以上の労働である。これに加 えて、上司との相談のもと、出勤時間を多様にずらすなどの選択も出来るのである。これ以 外にもフレックスワーカーとしてより短時間の労働も可能にしている。13

第3章 日本でのワークシェアリング

前章において何度も言及してきたが、オランダの社会の不況からの復活はパートタイマ ーを活用したワークシェアリングを達成したことで成し遂げられた。失業率が高まり、経済 が衰退する中でオランダは一人ひとりが働く時間を短くし、短時間でも保証された雇用(パ ートタイマーの正規雇用化)を行うことで達成された。 ではこのワークシェアリングは日本では活用できないのだろうか?低賃金・無権利の非 正規雇用労働者が大量に活躍しているこの日本ではオランダと同様なワークシェアリング は達成できないのであろうか? 日本の労働の実情を検証し、その必要性と可能性について論じていくことにする。

1 節 日本におけるワークシェアリングの可能性

先進国内では、「正規雇用が当たり前で、非正規雇用は例外」というルールが基本となっ ている。例外的に非正規雇用を雇用する場合においても、「均等待遇の原則」が適用される ようなっている。日本の雇用慣行や賃金の決定が「仕事」ではなく「ヒト基準」である以上、 今すぐこのようなルールの実現とは行かないはずである。しかし、そうした方向を目指しつ つも非正規労働者が安定した正規労働者として仕事に就けるように確保することが緊急に 求められる状態に日本経済は陥ってしまっているのである。そこで日本でのワークシェア リングを実行に移すことが雇用機会の創出につながると考えられる。 日本には、他の先進資本主義国では考えられない労働時間の事情がある。それは「サービ ス残業」の存在である。不払い労働は、労働基準法違反の犯罪行為であるにも関わらず、日 本ではこの「サービス残業」が蔓延してしまっている。また年次有給休暇の完全取得も他の 先進諸国では常識だが、日本では平均取得日数が8.8 日、取得率が 48.1%と約半分という 低い水準にある。加えて、完全週休2 日制にしても、週休 2 日制が実施されてから 20 年に なるが、まだ実施してない職場も存在する。そして、オランダのフルタイマーと同様に年間 約2000 時間という労働時間を年間労働時間の 1800 時間への短縮(週平均 4 時間の短縮)を 13 島垣友里恵「オランダの雇用政策から学ぶ日本のも未来」第 2 章(2)三種類のワークシ ェアリング

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15 行うことも考えられよう。これらの働くルールの徹底を行うこと労度時間の短縮でいった いどれほどの雇用の創出が図れるのだろうか?以下では雇用創出の可能性について、この 観点から計算していく。具体的に見てみよう。 第1にサービス残業の根絶で281.3 万人の雇用創出が可能であるということ。 「サービス残業」を総務省「労働力調査」と「毎勤統計」の差とすると、194 時間が賃金 不払いの「サービス残業」時間となる。企業規模5 人以上の事務所で働く一般労働者が 3190. 7 万人。「労働力調査」の年間労働時間は2200.4 時間であるから、これらの数字で計算する と 194.0 時間×3190.7 万人÷2200.4 時間=281.3 万人となる。 2011 年の完全失業者が 284 万人なのでサービス残業をなくすだけでそのほとんどを正規雇 用者として雇用することが出来る計算なのである。14 第2 に年次有給休暇と週休 2 日の完全取得で 139,3 万人の雇用創出できる。 年次有給休暇の完全取得と週休 2 日制の完全実施による雇用創出効果はそれぞれ 130.8 万人、8.5 万人、あわせて 139.3 万人の新規雇用が創出される。(下記の図表参考)15 ※図表- ③ 働くルールの徹底と時間短縮による雇用創出と経済波及効果 ※資料:厚生労働省「毎月勤労統計調査」「就業構造基本調査」「賃金構造基本講座」 総務省「労働力調査」「家計調査」「平成17 年産業関連表」から作成 出展:「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出展 「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より) http://blogos.com/article/80531/?p=1 (2015 年 1 月 29 日ログイン) 14 記事「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出 展「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より)<参考文献 URL> 15 注脚 15 に同じ 現金給与 総額の増 加 国内需要 (家計消 費支出) の増加 国内生産 誘発額 付加価値 ≒(GDP) 誘発額 税収増 (国・地 方) 新規雇用 (兆円) (兆円) (兆円) (兆円) (兆円) (万人) 1 働くルールの徹底(1-1, 1-2,1-3 の合計) 11.17 6.69 11.84 5.91 0.93 420.6 1-1 不払い労働根絶 7.47 4.47 7.92 3.96 0.62 281.3 1-2 年休完全取得 3.47 2.08 3.68 1.84 0.29 130.8 1-3 週休 2 日制完全取得 0.23 0.14 0.24 0.12 0.02 8.5 2 年間労働時間 1800 時間 への短縮 9.72 5.82 10.3 5.14 0.8 365.9 合計 20.89 12.51 22.14 11.05 1.73 786.5

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16 第3 に年間一人当たり 206.4 時間の労働時間時短で 365.9 万人の雇用創出が見込めると いうことである。現在の日本の年間労働時間は2006.4 時間。これを年間 1800.0 時間まで 時短すると一人当たり206.4 時間の減少。そこに従業員規模 5 人以上の一般労働者数を掛 けると全体の削減時間が算出され、またそれを平均時間で割ることで新たに雇用できる労 働者数が出てくる。 206.4 時間×3190.7 万人(労働者数)÷1800 時間(平均労働時間)=365.9 万人 年間一人当たり206.4 時間(約週 4 時間)の労働時間の時短で 365.9 万人の新規雇用創出がで きる計算となる。 つまり上記三つのそれぞれの課題を改善していった場合、281.3 万人(サービス残業の根 絶)+139.3 万人(年次有給休暇・週休 2 日完全取得)+365.9 万人(年間 206.4 時間の労働時間 時短)=786.5 万人となり、786.5 万人もの新規雇用創出が見込める計算となる。16 上記で述べた可能性は数字のみの可能性であり、実際には顧客との関係や、事業内容の繁 閑の関係もあり単純に働きすぎの分を新たな労働力に託すのは簡単なことではないだろう。 しかし、実際になぜ残業するのかのアンケートを調査した結果を見ると下記の 2 つの図の ように仕事の多さが目立っている。 ※図表- ④ 残業する理由(en のアンケート結果) ※出展:en 人事のミカタ「残業についてのアンケート」Q2:月平均 1 時間以上残業する 人の残業する理由の項目より引用 http://partners.en-japan.com/edit_enquetereport/old/062.cfm (2015 年 1 月 29 日ログイ ン) 16記事「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出 展「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より)<参考文献 URL>

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17 ※図表- ⑤ 残業する理由(JILPT 調査の結果) ※出展;生産性新聞「働きすぎ日本人の実情-残業する理由-」より引用 http://www.jpc-net.jp/paper/jitsuzou20080525.html (2015 年 1 月 29 日ログイン) このように、仕事量の多さが残業する理由の一番に挙がっているのである。 またJILPT の「年次有給休暇の取得に関する調査」でも年次有給休暇を取り残す理由は何 ですかという質問について「病気や急な用事のために残しておく必要があるから」が64.6% でもっとも多く、次いで、「休むと職場の他の人に迷惑をかけるから」(60.2%)、「仕事量が 多すぎて休んでいる余裕がないから」(52.7%)、「休みの間仕事を引き継いでくれる人がい ないから」(46.9%)となっている。残業・年次有給休暇それぞれのアンケート内での回答 内に一人の仕事量が多すぎることが大きな要因となっているのである。 つまり現場働いている人にとっては、一人一人に割り当てられている仕事量が多いと感 じていると同時に、ただでさえ多い一人の仕事量を休んだりすると周りに迷惑を掛けてし まうため、休みを取れない状況になってしまっているのである。このことからもわかるよう に仕事を分配する余裕は労働時間の面から見ていくと大いに余っていると考えることがで きるのである。17

2 節 ワークシェアリングの必要性

第 1 節でも述べたように日本では、サービス残業がひどく横行している。このことから も日本は労働時間がきわめてなのである。しかし不思議なことに、日本の公式統計では日本 17 JILPT「年次有給休暇の取得に関する調査結果」 1 ページ目を参考

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18 の労働時間は年々減少していることになっている。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」では 2011 年の日本の年間労働時間は 1747 時間となっている。1990 年代当初の年間労働時間は 2000 時間代であったため、20 年で 250 時間以上も減少したことになる。国際比較を行っ ても、日本の労働時間はそんなに長くない計算になっている。労働政策研究・研修機構『デ ータブック国際比較2012』によると主要諸国の労働時間は、イタリア 1778 時間・アメリ カ1778 時間・イギリス 1647 時間・フランス 1562 時間・ドイツ 1419 時間となっているた め、イタリアやアメリカよりも労働時間が短い計算となる。 なぜ日本の労働時間が短く見えてしまうのか、そのカラクリは、見た目の労働時間の短縮 が、非正規労働者の比重が高まってきているために、労働時間が短くなったように見えてし まうだけというものである。サービス残業時間を含めて、実際の日本の労働時間を見ると、 公式統計「毎勤統計」では考えられないような“長時間労働の国”日本の現実が浮かび上が ってくる。総務省「社会生活基本調査」の調査では、就業雇用形態別の就業時間についても 調査しており、最新の2011 年調査では、「正規の職員・従業員」の年間労働時間は、平均で 2634.1 時間、男性 2767.9 時間、女性 2299.5 時間となっている。「毎勤統計」の 2011 年の 一般労働者の労働時間2006 時間と比べると、実に 628.1 時間も長い結果が出た。この調査 は、全国の世帯から無作為に選定した約8 万 3,000 世帯に居住する 10 歳以上の世帯員約 20 万人を対象に実施した調査で、事業所調査である毎勤統計とは性格が異なり、この調査の方 が実態を反映していると考えられる。18 ※図表-⑥ 雇用形態・男女別年間就業時間

平均

正規の職員

2,634.10

2,767.90

2,299.50

パート

1,514.80

1,831.10

1,478.30

アルバイト

1,362.70

1,526.90

1,204.50

契約社員

2,299.50

2,469.80

2,110.90

嘱託

2,001.40

2,098.80

1,818.90

派遣

2,044.00

2,202.20

1,934.50

その他

1,697.30

1,958.80

1,478.30

※ 出展:「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」 出展「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より) http://blogos.com/article/80531/?p=1 (2015 年 1 月 29 日ログイン) 「長時間労働の国」日本の現実が浮かび上がってきた。デフレ不況が長期化するなかで、雇 用の減少→賃金低下→内需縮小・外需依存→国内生産縮小→雇用の減少という最悪の負の スパイラルに陥っている。こうした状況の打開には、内需を拡大し、経済構造をしっかりと 再構築する必要がある。解決の鍵は、国民の圧倒的多数を占める勤労者世帯の生活を改善す ることであり、国際競争力強化・企業利潤第一主義の経営を、国民生活重視・従業員重視の 方向に転換しなければならない。これを実現するのが長時間労働を改善することで新たな 雇用を生むという「日本型ワークシェアリング」である。長時間労働の改善によって実際に 見込まれる雇用機会は786.5 万人もの新規雇用創出が見込める。これによって、日本経済を 18記事「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出 展「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より)<参考文献 URL>

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19 雇用の増加→賃金収入の増加→内需の拡大→国内生産の増加→雇用の増加というプラスの 循環に変えていくことができるのである。日本型のワークシェアリングを行うことは新規 雇用の創出によって、デフレからの脱却までをも達成してしまうと考えうるのである。19

3 節 ワークシェアリングの具体的な方法

ワークシェアリングを行う際に、補充していく人員を非正規雇用者で補っていては結局 のところ無意味になってしまう。実際に引き継ぐ際にも、職業能力開発やキャリアアップの 整備がされていないために安心して仕事を任せるに至らず、結果として現在のような有給 休暇を緊急のためにとっておかなくてはならないことに加えて、信頼の薄さから仕事を分 配することができず残業をしなくてはならなくなってしまう。かといって、一気に正規雇用 に転換してしまっては企業にも大きな負担となりかねない。そして、特に女性にとっていき なりフルタイマーとして働いてくれという要求は、家事との両立などを考えたときに、断ら ざるを得ないものとして仕事すら失ってしまう危険性もある。ではどのような分配をして いくのが良いだろうか。オランダで以前に行われたように、労働時間を短縮しながら、雇用 が安定した働き方はできないだろうかと考えたとき、「限定正社員」が活用できるのではな いかと考えた。 「限定正社員」とは、働く時間や勤務地などが無限定な正社員とは異なり、転勤や残業を 限定することができるために生活との両立もしやすく、また非正規労働者とも異なり無期 雇用であることが特徴的である。賃金は現在のところ、正規社員よりは少し劣るものの保険 などは適用されるため、非正規雇用よりも安心して働くことができ、正規雇用よりも自由に 働くことができるというものである。 第 1 節、第 2 節でも述べてきたが、日本には働きすぎという現状があり、一人ひとりの 仕事量を減らすことで、十分な雇用創出を見込むことができる。そして、長時間労働を改善 し、新たに雇用を生むという日本型ワークシェアリングを達成するための架け橋として「限 定正社員」制度が活用していけるだろう。「限定正社員」は日本型ワークシェアリングを達 成していくための重要な雇用形態として、そして最適な雇用形態として本論ではとらえる こととする。 次の章では、限定正社員について詳しく述べていくことにする。

第4章 限定正社員にみる「日本の奇跡」

アベノミクスの雇用政策の中に含まれている「限定正社員制度」。この制度は労働者・企 業双方にとって有益なこれからの日本にふさわしい働き方を実現させる可能性がある。す なわち、労働者にとっては「正社員としての安定的な雇用である上に、育児や介護をはじめ とする個人的な事情への配慮がなされる」制度であり、企業にとっては「スキルが構築され た人材を、安定的かつ正社員比9 割弱程度の給与水準で活用できる」制度であるといえる。 ここからは「限定正社員」について、不本意型非正規労働者のニーズと企業における制度運 19記事「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出 展「国公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より)<参考文献 URL>

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20 用実態の観点から見ていくことにする。20

1節 限定正社員とは

限定正社員とは、従来の正社員と非正規労働者の間の、中間的な雇用形態として位置づけ られるものであり、「多様な正社員」「ジョブ型正社員」などと呼ばれることもある。第1 章 でも述べたが、そもそも「正規労働者」と「非正規労働者」の定義は法律上でも明確化され ているわけではない。一般的なこれらの違いは原則として「雇用契約上の雇用期間の定めの 有無」のみである。一般的な正規雇用の特徴として、「①担当する職務(職種)が変わる可 能性、②所定労働時間を超えて働く(残業を行う)可能性、③勤務地が変わる(転勤する) 可能性」を持つ雇用形態であると広く認識されている。そのため、正社員と非正規労働者の 中間的雇用形態である限定正社員とは、「雇用契約上の雇用期間に定めがなく、『①職種、② 労働時間、③勤務地』などのいずれかあるいは複数に限定がある正社員」と定義することが できる。21

第2節 限定正社員は非正規労働者のニーズを満たしうるのか

ここでは、第1 章でも述べた、非正規労働者の働き方のニーズを満たし、また企業はニ ーズを満たす仕組みを整備できているかについて、その可能性を考える。これに関連して 「平成23 年度『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査」(みずほ情報総研(厚 生労働省委託事業))の企業調査・従業員調査をもとにして、非正社員の働き方に対するニ ーズを満たす仕組みとして限定正社員の可能性を見ながら、上記の点を明らかにする。 この調査では非正規労働者を「雇用期間の定めがあり、企業に直接雇用されているもの」 として定義されている。つまり、派遣労働者は省かれている。その上で、働き方の観点から 「a. 仕事内容」「b. 週当たり所定内労働時間」の 2 つの要素、就業意識の観点から「c.正社 員希望」「d.今の働き方に対する満足度」の 2 つの要素、計 4 つの要素に着目してタイプ分 けし、「今の働き方を選んだ理由」「今の働き方のメリット」「今の働き方のデメリット」を 把握することで、非正社員の働き方に対するニーズを把握されている。 具体的なタイプは以下の通りであり、タイプごとに上位 3 位の項目について下記の図表 に示されている。 a.仕事内容:2 タイプ(基幹的非正社員、非基幹的非正社員) b.週当たり所定内労働時間:3 タイプ(35 時間未満、35~40 時間未満、40 時間以上) c.正社員希望:2 タイプ(正社員希望あり、正社員希望なし) d.今の働き方に対する満足度:2 タイプ(満足、不満足)22 20みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託 事業)」(2013 年) 21 みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委 託事業)」(2013 年)1 ページ (1)限定正社員とは 22みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託 事業)」(2013 年) 4 ページ

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21 ※図表-⑦ 非正規労働者の「今の働き方を選んだ理由」「今の働き方のメリット」「今の働 き方のデメリット」についての解答 ※ (注 3)「平成 23 年度『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査」のデータ を筆者(小曽根 由実氏)が再集計したもの ※出典:みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労 働省委託事業)」 http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2013/pdf/mhir06_koyou.pdf (2015 年 1 月 30 日ログイン)

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22 図表-⑦からも確認できるが、非正規労働者はタイプに関わらず、まずは「雇用の安定」 を強く求めていることを確認できる。「雇用の安定」以外で重視しているポイントについて、 仕事内容の観点から見ていくと、「労働日数・時間が短く、遠方への転勤の心配のない」こ とが挙がる。また、週当たり所定内労働時間の観点からみると、「35 時間未満」では「労働 日数・時間が短く、仕事と育児や介護の両立が可能であること」、「35 ~ 40 時間未満非正 社員」「40 時間以上非正社員」では「遠方への転勤の心配がないこと」であることがわかる。 後者2 タイプでは「担当する仕事範囲が限定されていること」をメリットと考える者が 2 割 以上いる点も注目される。 他の観点から特徴的な傾向をみると、「正社員希望あり」の3 割以上と「今の働き方に不 満足」の5 割以上で「その他の働き方がなかった」ために今の働き方を選択しているという 消極的選択を強いられている実態が認められる。ただ、両タイプとも今の働き方に「遠方へ の転勤の心配がないこと」や「労働日数・時間が短いこと」に相応のメリットを見出してい る。また、すべてのタイプの非正社員が共通して感じるデメリットとしては「給与が低いこ と」「昇進・昇格の見通しがないこと」「雇用が安定していないこと」が挙げられている。 これらの調査結果を総合して考えると、「限定正社員としての働き方、すなわち職種・労 働時間・勤務地のいずれかあるいは複数に限定があり、かつ雇用の安定している働き方は、 (現在の仕事内容、週当たり所定内労働時間、正社員希望の有無等に関わらず)非正社員の ニーズを反映した働き方の選択肢として、相応の有効性がある」といえるだろうという。23

第3節 限定正社員の求められる水準と許容しうる水準

前節で述べたように、非正規労働者のニーズを満たしうる雇用形態として、職務・労働時 間・勤務地のいずれかあるいは複数に限定がある正社員を挙げることができる。企業調査 によると職種限定正社員区分を導入している企業は44.2%、時間限定正社員区分は 7.3%、 地域限定正社員区分は 19.2%に過ぎず、現状では企業が非正規労働者のニーズを満たしう る限定正社員は十分に提供している状況にはない。 ところで限定正社員は、正規労働者と比較して、様々な制約があるため、水準的に差異が 生まれてしまう。その際に、どの程度の処遇水準であれば許容できるのだろうか、「平成23 年度『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査」(みずほ情報総研(厚生労働省 委託事業))ではこの点においても調査している。調査項目は時間当たりの給与水準・昇進 や昇格・教育訓練・雇用保障となっている。24 まず第 1 は時間当たりの給与水準についてである。正規雇用労働者の時間当たりの水準 を100 とした場合の許容水準を表したものが下記の表の「非正社員」欄からも読み取れる。 その結果、限定正社員希望者は、いずれの限定区分においても、また、勤務先に当該限定区 分があるかどうかに関わらず、許容できる処遇水準は90 弱程度であることがわかる。25 23みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託事 業)」(2013 年)5 ページ 24 みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託事 業)」(2013 年)5・6 ページ 25みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託事

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23 ※図表-⑧ 限定正社員として働くと仮定した場合に許容できる時間当たりの給与水準 ※出典:みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働 省委託事業)」 http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2013/pdf/mhir06_koyou.pdf (2015 年 1 月 30 日ログイン) 第2 に昇進・昇格についてであるが、限定正社員を希望する非正社員全体において「限定 なし正社員と比べ、上限が低い」を許容できる比率は、職種限定正社員では59.7%、労働時 間限定正社員では59.5%、勤務地限定正社員では 53.3%という結果になっている。 第 3 に教育訓練の機会についてであるが、限定正社員を希望する非正社員全体において 「限定なし正社員と比べ、制限される」を許容できる比率は、勤務地限定正社員で27.7%と いう結果になっている。 第 4 に雇用保障の点ではどうであろうか。限定正社員を希望する非正社員全体において 「限定なし正社員と比べ、雇用保障の程度が弱い」を許容できる比率をみると、職種限定正 社員では30.9%、勤務地限定正社員では 27.1%という結果となっている。26 ※図表-⑨ 限定正社員として働くと仮定した場合に許容できる昇進・昇格、教育訓練の 機会、雇用保障の水準 ※出典:みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働 省委託事業)」 http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2013/pdf/mhir06_koyou.pdf (2015 年 1 月 30 日ログイン) 業)」(2013 年) 6 ページ 26みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託 事業)」(2013 年)6 ページ

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24 自身が許容できる処遇水準の下での限定正社員を希望する人の比率を示したものが下記 の図表-⑩である。非正規労働者全体での同比率はいずれの限定区分においても、非正規労 働者の正社員希望の比率の47%を上回って 51.3%~55.2%となっているため、これらの 結果から、限定正社員という雇用形態が非正規労働者の働き方のニーズに対応しうるもの であることを示していると結論づけられている。 ※図表-⑩ 自身が許容できる処遇水準の下での限定正社員希望比率 ※出典:みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働 省委託事業)」 http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2013/pdf/mhir06_koyou.pdf (2015 年 1 月 30 日ログイン) 上述のことからもわかるように正社員と比べて低い水準であっても、限定正社員を希望 する非正規労働者が少なくない傾向が強いということが明らかになったとされている。さ らに各限定正社員希望者の6 割以上が、時間当たりの給与水準が正規雇用者と比べて 9 割 程度の水準でならば許容できると考えている。また、時間当たり給与水準と同様、昇進・昇

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25 格についても、各限定正社員希望者全体の5~6 割が、限定なし正社員と比べて、上限が低 くても許容できるとしているが、この一方で教育訓練の機会と雇用保障は、各限定正社員希 望者全体の7 割弱が限定なし正社員と同様の水準を望んでいると示されている。 これらの結果から、限定正社員制度は、教育訓練の機会と雇用保障について正規雇用と同 等の水準を整備することができれば、「スキルが構築された人材を、安定的かつ正社員比 9 割弱程度の給与水準で活用できる」制度であるということが確認することができた。つまり 企業側としても、正規雇用よりも低いハードルで雇用でき、労働者の許容する労働形態であ るということであるとされている。

終わりに ~今後の展望 起こせ日本の奇跡~

日本には、全労働人口の約 4 割もの人が非正規労働者として働いている。この非正規労 働者たちは雇用の不安に駆られながら働いている。雇用の安定化を実現するためには、労働 者自身のキャリアアップを図りながら、正規労働者の労働時間の時短、そしてサービス残業 根絶・年次有給休暇の完全取得を行える仕組みづくりをしていかなければならない。上記の 三つの条件を達成することで、莫大な新規雇用の創出を生み出すことができる。働きすぎの 日本の正規労働者たちから、非正規労働者や非労働力人口にワークシェアリングすること で正規労働者として雇うことができる可能性が十分にありえるのである。 しかし、日本の働きすぎという習慣をすぐに変えていくことは当然厳しいであろう。 国全体で取り組み、準備が整った状態でなければ、オランダのようなワークシェアリングを 達成することはできない。だが将来的に全員が正規雇用として安定した雇用のもと働くこ とができ、結婚や育児に躊躇することなく、自分のスタイルの下働くことができるようにな る為の下準備としてキャリア形成を図りつつも、安定した雇用を行うことができる限定正 社員の積極採用していくことで、日本型ワークシェアリングの達成を目指すべきである本 論のまとめとする。 しかし、限定正社員の積極採用を推進するときの注意点と正規雇用の解雇を容易にして しまうのではないのかという懸念の払拭もある。限定正社員をめぐるいくつかの問題点も 指摘しておこう。 第 1 に、限定正社員制度は正社員の減少を招き、格差を生むのではないかという懸念が ある。これまでマスメディアや専門家等の議論のなかには、 ※<「限定正社員」は正規雇用における『総合職』・『一般職』の区分のなかで一般職に当たる 就業形態であり、安定的ではあっても、実質的には正規雇用との間に、賃金や昇格・昇進、 教育訓練などの格差が生じ、『正社員』の不合理な階層化が進み、正規雇用が少数な雇用形 態になっていくのでは> (「限定正社員を意義ある制度にするには」朝日新聞の記事より引 用)、※<「限定正社員」はある特定の事業所や事業(仕事)がなくなると企業側が解雇しやす くなるのではないか> (「限定正社員」を意義ある制度にするには」朝日新聞の記事より引 用)といった懸念が示されている。 そして、改正労働契約法の施行にともなって、非正規労働者の無期雇用転換ルールのもと では、限定正社員として転換される可能性が高まっている。しかし、無期転換後に必ずしも、 満足の行く処遇水準が必ずしも保障されているわけではないという点も懸念の要因となる

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26 だろう。 これらの懸念を払拭するには、企業は限定正社員と正社員との処遇均等を図るように取 り組まなければ、現在の非正規雇用と同じで意味を成さなくなってしまうだろう。 併せて、労使間での話し合いがしっかり行われる制度作りも必要だろう。解雇のルールを法 律で定めるのではなく、契約を結ぶ段階で、双方納得のいく話し合いを行える環境づくりが 必須である。またその際には、解雇に関わるルール(たとえば「勤務地限定正社員が勤務す る事業所を業務縮小により閉鎖する際には、まずは企業側が「転勤」を提案するなどの解雇 回避努力を行うが、それを本人が受け入れない場合には解雇する」といったルール)や再就 職支援のために、職業訓練の保障は義務にすることや、職業を紹介した上で解雇するといっ たルールはあらかじめ聞いておく必要があるだろう。 第 2 に限定正社員を、キャリアアップを図る仕組みとして正規雇用への架け橋として活 用すべきであろう。非正規雇用労働者から限定正社員へのステップアップ、さらに限定正社 員から正社員への登用制度を整備し、段階的なキャリアアップが図れる制度として限定正 社員区分を活用することで、日本型ワークシェアリングの達成の大きな助けとなるだろう。 また、正規雇用から育児や介護などの当該期間が来た場合には限定正社員として登用する ことができる仕組みを整備しておくと、限定正社員の価値はさらに高まると考える。 これらの留意点に気をつけつつ、限定正社員を積極的に採用していくことができれば、安心 して働くことのできる非正規労働者も増加し、さらには日本型ワークシェアリングの実行 に対する準備も進んでいくだろう。そして、管理形態の複雑さなどが残る限定正社員の運用 にも先進事例が集まることで、制度としての正確さが増し、新たな働き方としてスタンダー ドになっていくことも考えられる。ある程度のリスクは伴うであろうが、私はこの「限定正 社員制度」を強く推進し、日本型ワークシェアリング実現の架け橋とすることを提案する。

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27 参考文献 ・「非正規、これから!~労働者が闘う社会へ~」黒田ゼミB班共同論文 ・脇坂明(2002) 『日本型ワークシェアリング』PHP 新書 ・樋口美雄編著(2002) 『日本型ワークシェアリングの実践』生産性出版 ・広報誌「厚生労働」平成25 年 10 月号「雇用の安定化に向けて 目指すべき将来像」 ・島垣友里恵「オランダの雇用政策から学ぶ日本のも未来」 ・JILPT「年次有給休暇の取得に関する調査結果」 参考文献URL .・JILPT「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究」 (2014 年 12 月 30 日ログイン) http://www.jil.go.jp/institute/reports/2014/documents/0164.pdf ・「望ましい働き方ビジョン」(厚生労働省「非正規雇用のビジョンに関する懇談会」検討結 果)の定義(2014 年 12 月 30 日ログイン) http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000025zr0-att/2r98520000026fpj.pdf ・オランダにおける働き方の多様化とパートタイム労働(2014 年 12 月 30 日ログイン) http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/535/535-01.pdf ・「日本型ワークシェアリングで若者の雇用は改善できる-サービス残業の根絶」出展「国 公労調査時報」(2013 年 4 月号 No.604 より)<2014 年 11 月 13 日ログイン> http://blogos.com/article/80531/?p=1 ・みずほ情報総研「『多様な形態による正社員』に関するアンケート調査(厚生労働省委託 事業)」(2013 年)<2015 年 1 月 6 日ログイン> http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2013/pdf/mhir06_koyou.pdf ・「限定正社員」を意義ある制度にするには)朝日新聞の記事<2015 年 1 月 6 日ログイン> http://www.nikkei.com/article/DGXDZO60196670W3A920C1EA1000/

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28 あとがき この卒業論文はゼミの活動としてだけではなく、4 年間の勉学のなかでもっとも興味をもち、 もっとも力を注いだテーマでした。このテーマは私にとってはゼミプレのなかでも取り上 げたテーマの延長線上で、今まではグループのメンバーと話し合って何かしらの答えが出 ていたものが、自分ひとりになるとまるで浮かんでこなくなることばかりで、この論文作成 をとおして、みんなで話し合うことの重要さ、ゼミという活動の大切さを理解できた気がし ます。これから先セールスプロモーションという業界に進む私にとって、このゼミで学んだ プレゼンの仕方、資料の作り方などはとても貴重な経験でした。黒田ゼミに入ってなければ 自信を持たないまま社会人になっていたかもしれないです。 ゼミの活動の中では、サークル活動などでイベントや授業をしばしば休むことがあり大 変申し訳ありませんでした。そんな僕でも出席したときにはやさしく迎えてくれる同期が いて、先輩がいて、後輩がいて、そして黒田先生がいました。時には厳しくお叱りを受ける ことがありましたが、いつも優しくて、悩んでいるときには心配してくださる黒田先生のゼ ミに入って本当に幸せでした。これから社会人として尊敬される先輩になれるように頑張 りたいと思います。ありがとうございました。 北尾公志

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