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レ ー サ ビ リ テ ィ に つ い て
コーヒー業界でも、「トレーサビリティ」という言葉を聞くようになって久しい のですが、本当にトレーサビリティへの取り組みがされているのなら、どのよ うな手順で実施しているのかは、お客さま向けに公開されて然るべきです。 しかし、コーヒー関係のサイトを見てもトレーサビリティについて説明された 資料を読んだ事がありません。 高品質な豆や品評会入賞の豆を売るのには大袈裟で一生懸命ですが、トレーサ ビリティを臭わせておいて、具体的な説明や提示も無いまま「ある」とはどこ まで信憑性があるのか。トレーサビリティシステムへの取り組みは、それなり の準備を要します。JAS法の食品表示(品質表示基準)などとは違います。 日本における食品トレーサビリティへの具体的な取り組みは、牛肉のBSE問 題(2001年3月)が契機となり、本格的な導入が検討されるようになりま した。 牛肉に関しては、2003年6月に「牛肉トレーサビリティ法」が定まり、同 年12月から、個体識別番号の表示が法的に義務付けられました。それに伴い、 他の加工食品のJAS法、食品衛生法も一部改正され、2010年10月から は「米・米加工品トレーサビリティ法」も施行されています。その実施手順は、 政府機関のWEBサイトで消費者向けに公開されています。 トレーサビリティ(trace - ability)とは trace(トレース:追跡)と、ability(アビリティ:できること)を組み合 わせた言葉で、一般的には「追跡可能性」と言い換えられています。 別な表現で、「生産履歴」「履歴管理」という言い換えも目にしますが、これ は適切な解釈ではありません。 食品トレーサビリティの基本的なコンセプトは、コーデックス委員会(国際食 品規格)にその規定があり、現在では2004年に採択された定義が国際的に 広く採用されています。 コーデックス委員会とは 消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保などを目的として、1962 年にFAO(国際連合食糧農業機関)と、WHO(世界保健機関)の合同に より設立された国際政府間機関のことで、国際食品規格(コーデックス規格) の策定を行っています。コーデックス委員会による「食品トレーサビリティ」(追跡可能性)の定義は次 の通り。 「生産、加工および流通の特定の一つまたは複数の段階を通じて、食品の移動 を把握できること」(Cdex,2004) 概要は実に明快で、「食品の移動を追跡、遡及(そきゅう)できる仕組みを構築 しなさい」という要求事項です。 この定義は、2008年3月に農林水産省から発行された「食品トレーサビリ ティシステム導入の手引き」第2版 第2刷(以下、「手引き」という)や、 2005年9月に発行された、国際標準化機構:ISO22000(2005) 「食品安全マネジメントシステム」にも取り入れられています。 しかし、コーデックス委員会におけるこの定義が採択される以前にも、国際標 準化機構「ISO」などでは、すでに同様の定義があり、広義においては生産 管理であり、狭義においては品質管理の一端を担うものと位置づけられて来ま した。 国際標準化機構:ISO 9000(2005)では、次のように定義されてい ます。 識別及びトレーサビリティ(品質マネジメント) ・考慮の対象となっているものの履歴、適用又は所在を追跡できること 参考 : 製品に関しては、トレーサビリティは次のようなものに関連 することがある - 材料及び部品の源 - 製品の処理の履歴 - 出荷後の製品の配送先及び所在 とあり、生産から加工、流通の各段階において適切な手段で製品の「識別」を 行い、それを管理、記録して、追跡、遡及(そきゅう)できるシステムが要求 されています。 この定義の中で、「移動を把握できる」とか「追跡できる」という表現の解釈に は、川上から川下へたどる場合と、川下から川上へたどる場合があります。こ れを「対応づけ」といいますが、いずれも個々の識別があることが必須です。
・ 追跡とは ・・・ 一歩川下に追いかけること (トラッキングまたは、トレースフォワードという) ・ 遡及とは ・・・ 一歩川上にさかのぼること (トレーシングまたは、トレースバックという) コーデックス委員会の定義では、一部の段階で追跡、遡及できることもトレー サビリティと呼べることになっていますが、最終的な目標として、あらゆる(複 数)段階を通じて、「管理、記録されたものを手段として、追跡し、さかのぼっ て調べられる能力」が要求されていることに変わりありません。 食品トレーサビリティシステムの目的(「手引き」より抜粋) 食品の安全性に関わる事故や不適合が生じた時に備え、また表示など情報の 信頼性が揺らいだときに正しさを検証できる仕組みである。 いつ作られたの? 誰が作ったの? どこで作られたの? どのような経路で届いたの? どこに出荷したの? これらの情報を記録によって把握できるシステムを構築することです。 食品トレーサビリティシステムの基本事項(「手引き」より抜粋) 各段階の事業者は、少なくとも食品(製品および原料)とその仕入先および 販売先を識別し、それら相互の対応づけを行うルールを事前に定め、対応づ けの記録と保管をする事が必要である。 ・識 別 ・・・ 製品および原料を識別し、分別管理する方法を定める。 ・対応づけ ・・・ 製品を追跡、遡及できる方法と記録する様式を定める。 ・記録伝達 ・・・ 識別や対応づけを記録、保管、伝達する方法を定める。 ・手 順 書 ・・・ 上記の作業をいかに行うかを定めた手順書を作成する。 運用にあたっては上記の事項を原則として満たしている必要があります。 食品の移動が分かる状態は、当事者それぞれの責任を明確にし、最終的には消 費者に生産者のポリシーを伝える手段にもなります。 自分たちの信条が消費者に届くとなれば、生産者は勇気づけられ、品質の良い 食品を継続的に生産しようという意識向上に結びつきます。この様な取り組み はサスティナビリティの基本理念とも連動させる必要があります。
なぜ産地、農園にこだわるのか それは、そこにしかない、他では補うことのできない産物があり、ポリシー を持つ人がいるからです。それをお客さま(消費者)に届け、それを繋ぎ止 める情報こそがトレーサビリティです。 トレーサビリティの表示とは 単に「生産履歴」を記入することではありません。その製品の源を「客観的 に追跡・遡及できる情報」をお客さまに提示することです。 トレーサビリティという概念 国際的な定義があって、それに伴う要求事項があり、それを正しく解釈し、 それを運用することで、食品流通の透明性を図ろうというものです。 指導者の方でも事例として「ワインのラベル」を引き合いに出す人もいます が、それは間違いです。優先される規格の源は、あくまでコーデックス委員 会が示す定義であって、ワインに貼られるラベルではありません。 なぜトレーサビリティに取り組まなければならないのか やはり、「お客さまにウソをつかない」という思いを基本理念に据える必要が あります。お客さまが知りたがっている情報とは何かを把握し、それを端的 な形の情報として提供出来なければ、信頼は得られません。 トレーサビリティの情報はお客さまが求めている情報であって、事業者が独 占し、これ見よがしに付加価値とするような情報ではありません。 運用の問題点 牛肉や米・米加工品は法的に義務化されましたが、その他の食品に関しては 正式に義務化されておらず、農林水産省も事業者の自発的な取り組みとして、 「要求事項であるが、強制ではない」というのが建前です。また、「要求事項 を満たす」という適合性の判断には多様性があり、一律に規定できないとい う側面もあります。 当面は事業者の自発的なトレーサビリティが広がって行くものと思われます が、その全てが「自己申告」ではお客さまの信頼は薄いものになります。 第三者機関の認証や、既存の「HACCP」(ハサップ)や、国際標準化機構 「ISO」などとの整合を図ることが望まれています。 「ISO 22005」では、食品チェーンにおけるトレーサビリティシステ ムの設計及び実施のための一般原則及び基本要求事項をすべて満たすように 考慮して作成されています。
HACCP(ハサップ)とは アメリカで宇宙食の安全性を確保するために開発された食品衛生管理の手法 です。1993年にコーデックス委員会からガイドラインが示されて、北米 やEU諸国では法的に義務づけられるようになりました。 ISO 22000:2005とは 食品安全マネジメントシステムの規格であり、食品ハザードの分析方法をコ ーデックス委員会が原則を定める「HACCP」から導入し、マネジメント システムの考え方を「ISO 9001」から取り入れたものです。 運用の現状 ネットでも産地の情報を目にする事があるのですが、トレーサビリティとい う観点からすると適切な情報とは言えないものがほとんどです。農園はどこ も似たような風景にあるので、どこか特定できない場所で、その農園主と思 われる人との写真を公開されても、第三者的には「いつ、誰が、どこで」と いう情報が読み取れません。 これが後日に加筆され、現地に行った本人しか知らない自己申告として報告 されても、「真相が判断できない客観性の無い情報」になります。本人を信用 してあげればいいのですが、信用出来ない業者がいるから偽装がある訳です。 あたかも「俺を信用しろ」と言うような表現は、今までの偽装事件にあった ように、ミートホープの社長や、三笠フーズの社長、二人羽織の女将が言っ ている事と大差がないのです。真相は本人しか知りません。 わざわざ農園に自社の看板を建てて本人が写り込む人や、農園主の顔写真を 添付する人までいます。 顔写真は何も保証しません。生産者と顔が見える関係とは、見たくもないの に一方的に貼られる顔写真のことではありません。 また、トレーサビリティは、食品の移動を把握する仕組みなので、食品の安 全性を保証するものではありません。 「トレーサビリティができているので安全です」とは言えません。 安全なくして安心とはいえないので、よく「安全」と「安心」はセットで使 われますが、決してイコールではなく別けて考える必要があります。 グローバル化されたネット社会では、国境を越えるのは「お金」や「情報」 だけではなく、その国のレベル(文化水準)までも問われる結果になります。 それ故、トレーサビリティという国際ルールは、基本的な要求事項を正しく 認識し、正しく運用する必要があります。(お里が知れる)
国や県などの公共事業を行っている会社では、工事の進捗状況などが後日第三 者にも確認できるように、その施工内容が具体的に分かる工事看板を入れた写 真を撮りながら施工管理を行います。 これは税金で行われる工事の品質管理と工程管理を客観的に行う管理記録にな ります。ISO 9001の規定では、品質マネジメントにおけるトレーサビリ ティの手順に準じる記録です。当社では、企業向けに納める焙煎機は同じ手順 で管理記録を行いお客さまに提出をしています。 この写真は、「ミ カフェート」さんへ、焙煎機を納品した時の現場写真です 工事看板にトレーサビリティ情報を書き込んでいます。 この様式だと「いつ、誰が、どこで」という情報が客観的に読み取れます。 い つ : 平成20年 9月 23日、火曜日 誰 が : 販売元はバッハコーヒー、施工業者は大和鉄工所(対応づけ) ど こ で : ミ カフェートの店舗にて(識別) 誰 に : 注文主の川島さまに(対応づけ) 何 を : マイスター2.5を(識別) どうした : 搬入した 写真には写っていませんが、周りには関係者の方達が大勢いて、この看板に記 入する日付やお客さまの宛名にはウソが書けない状況にあります。
情報の提供が後日になり、自己申告として公開されても客観性が認められ、製 品の源を追跡、遡及できる記録として認識ができます。まさにリアルタイムで 「動かぬ証拠」を記録しています。ここに店主の顔写真など必要ありません。 この他にも焙煎機のロット番号や出荷前のテスト焙煎を実施した品質管理記録 も添付しており、第三者の認証も可能な資料を提出して納品を行っています。 コーデックス委員会が提起するトレーサビリティとは 管理、記録されたものを手段として追跡し、さかのぼって調べられる能力が 要求されています。トレーサビリティがJAS法の食品表示や、ワインのラ ベルとは違う理由です。 誰のための制度か あくまで、お客さま(消費者)のためのトレーサビリティであって、事業者 が振り回す記録でもなければ、それによって付加価値がつくものでもありま せん。 また、過剰に成り過ぎてシステムのためのシステムになりお客さま(消費者) を置き去りにしては意味がありません。端的に解り易く客観性がある情報を 提示というのが基本です。 このように検証すると、どこか分からない農園に自社の看板を建てて本人が写 り込むというような行為や、農園主の顔写真だけを添付する行為が、いかにト レーサビリティとは掛け離れ、何の保証も無いことが判断できると思います。 (お客さまが顔写真を求めているという主張は論外) トレーサビリティシステム導入の効果 コーヒー豆の輸入には、複雑な流通経路や異なる生産国の事情があって足並 みが揃わないのは予想がつきます。整備にはまだまだ多くの課題が山積して いるはずです。 しかし、小回りの効く小規模の事業者だからこそ出来ることもあり、トレー サビリティ情報の提供を基に品質管理を行い、生産者のポリシーをお客さま に伝え、農園と直接パートナーシップを築く活動も可能になります。これは、 サスティナビリティの理念を根底で支えます。 追跡、遡及可能な商品を生むことによって責任の所在が明確になり、生産者 のポリシーをお客さまに伝えることが出来れば、種からカップまでという概 念が本質的なものになり、持続可能な産物を生み出せる可能性を秘めていま す。それにはトレーサビリティの正しい解釈と、正しい運用が不可欠です。
現実に、日本のマイクロロースターの中でもダイレクトトレードにより、あ る特定の農園とパートナーシップを築いている方々もいるようですが、トレ ーサビリティをどこまで理解し、どのように運用しているのかは、現状では よく見えて来ません。 事業者がトレーサビリティの実施を臭わせ、それを商業目的とするなら、対 象となる範囲を明確にし、識別と対応づけのルールぐらいは、WEBサイト などで事前に広報するのが当然の配慮です。 記)大和鉄工所 岡 崎 注 記) 写真提供は、ミ カフェートさまのご協力によります。 出典・参考資料 ・農林水産省 WEBサイトから 「食品トレーサビリティシステム導入の手引き」 平成20年3月 第2版 第2刷 http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/pdf/tebiki_rev.pdf 「食品とレーサビリティについて」 平成26年 4月 http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trace/pdf/tore2604.pdf ・日本トレーサビリティ協会 WEBサイト ・国際標準化機構 ISO 9001/22000 規格条文