ll
(
3)温 泉 の 物 理 探 査
京都大学理学部地質学鉱 物学教室初
田
物理探査法の中で温泉の探査に適用 される のは主に地温探査法,電気探査法,放射能探 査法である. 1.地 温 探 査 これに就ては既に発表1:2)したこと もあ る ので,こゝでは全般に互 ることを避 けて唯一 二注意すべ き点 を述べ るに止 める. (a)地温探査の時期 :地温の分布を調査す るのは1年中でいつ頃がよいか とい う問題が ある.熱源が浅 くて高温の場合は大 して問題 にならないが,そ うでない場合には測定時期 を誤まると気温の影響のためコン トラス トの 不明瞭な結果になる. 普通採用 されている測定深度 1mの場合 に ついて見 ると,京都に於ける 1年の地温変化 は第1図のよ うに2月に極小6oC;8月 末 に 極大24oCとなって居 り,これは気温の変 化 とは約1カ月位相が遅れている. この地温曲 線の一番変化の大 きな部分では1E]に0・2oC甚
一 郎
に も達 し,この時期には地温測定に時間的変 化の修正が必要 となる.結局深度 1mの測温 に好条件 (即 ちなるべ く低温で且つ変化の少 ない)の季節は1- 3月 とい う事になる. こ れよ り深度が増す と地温変化の振幅は械ず る が,位相は次第に遅れ る.5
月下旬 和歌山県 田辺市で調査 した時には平均3.7mに極小 が あ り,9月初旬福井県吉崎では7-8mになっ ている.京都 ・田辺 ・吉崎では緯度 も異 り土 壌の熱拡散率 も異 るが,気温の位相は大 して 変 らないか らこれ らの値 を比較す ると,毎月 約 1m 弱づつ極小の深 さは移動 してい る.戻 都測候所の最近10年間の資料を整理す ると第 2図の如 くな り,これか らも同じ事が結論 さ れ る.依て測定深度に応 じて調査の時期を適 当に選ばねばな らぬ. (ち)立体的地温探査:深度 1m では気温 ・ 日射 ・地形その他地表の状態が複矧 こ影響す るので解釈に当って周到な注意が 必 要 で あ 第 1図 京都に於 ける気温 ・地温 (深 さ1m) の年変化 A竹 Sや 0くt・ N。y D- JLれ ftb・ ML- Ap- MlJ J-e J JJ AuS S・pt.1
2
第2
図 異なる深 さに於 ける 地温の年変化 (京都) ●、 初 田 甚 一 郎 1 2 5 J4 5 6 7 る.10数mになると気温の季節変化の利かな いいわゆる地温の不易層がある.この深度以 下に於て温度分布に異常があれば,その原因 はほ とん どそれ以下の深所にあるといえる. 10数m位 な らば地中に鉄管を打込む事の可能 な場合が多い.泉源の予想 され る深 さが100 m以上 となると最小限 50-60mの探査用試錐 が必要である.試錐井内温度の測定にはサー ミスタ-抵抗素子を用いると0
.
lo
C
は充分正 確に測れる.圏点寒暖計では水圧のために実 際よ り高 く出ることが多いほか,気温の方が 高い時には用い られない不便がある.読錐中 は切削のための機械的熱や循環水の影響で正 しい温度 は測れない.掘 さく中止後少 くとも 1昼夜以上を経てか ら測温する. 自噴する場 合 は水頭を上げて湧 出を停止 させて1昼夜以 上置いて後測定を行 な う. このよ うにして求 めた深 さ-温度 曲 線 の 傾斜或は形は地層の変化や熱源の存在,接近 等に就て知識を与える.深 くて高温の熱源や 水平的に相当な広が りを もった熱源の有 る場 合には地下増温率が標準値3oC/100m よ り大 である.熱拡散率の大なる地層に入 ると地下 増温率は小 さくなる.温泉脈のよ うな局部的 の熱源に近づ くときは増温率は深 さと共に増 す.これ らのことも深 さ一温度 曲線の 解 釈 に役立つ.参考 として各地の試錐井内温度分 布の実測例を第3図に示す.2.
電 気 探 査 法 (a)自然電位法による探査では,高温の湧 泉がある部分で 自然電位が負の方向に大 きな 値を示す とい う結果が報告 され て いる.3)し か し蔵田氏4)によれば逆に正電位を示す場合 もあ り,特に冷,鉱泉の湧出箇所附近は正電 位を示す とい うことである. 自然電位の発生機構 と考え られているもの の中には流動電位,電解物質の濃淡やPHの 第 4図 良導体の裂韓が地表 の電位に及ぼす影響 ii
5
度 馳 -
→
.一・
・
一ナ ・
一 一
J 一
・
一
九 T
T
す
、
・・
「
㌻
ナ● -
、
_
_
ノ
ー
ナL
→
.
一
一
Tナ
第 3図 試 錐 井 内 温 度 分 布 図申点線 は 自噴井.矢 印は泉脈 の所在 を示 す・ 三国 ・宝塚 の井戸 は温度勾配 が標 準値 に近 いので深 く掘 って も泉源 にあた る見込 はない. 田辺No.1号井 は44mで岩盤 に入 る・30m以下 で急激 な増 温率 を示 すのは この岩 盤表面 を20ウC位 の水 が局 部的 に流 れ てい るた め と見 られ る. 和 倉No.1号 井 は30mで水脈 を切 ったので急 に温 匿 が低下 して い る. 入 ノ波 3)ものは深 さ40m位 の ところに附 近 に泉脈 が あ るが, この試錐井 で は外 れ てい るた め深 く入 って温度 の増加 が次第 に減 ってい る.
温 泉 の 物 理 探 査 相違による電位,温泉水中のイオン又はガス による電位,その他温泉 と関係のある種々の 因子が存在するので,簡単な一般的法則が得 られるか否かは今後の研究に挨たねばな らぬ 地電流が表土層中を流れているとき温泉水 などで充 された基盤中の割れ目の上を通 る時 第
4
図のよ うに電流が割れ目に吸い込 まれる よ うな傾向を示 し,負の電位 を生ず る場合 も 考 え られ る. (b)比抵抗法では垂垣探査によって 3点以 13 いづれの場合に も泉脈が平面的に相当な広が りを持 っていることが必要である. 3.放射能探査法 放射鱈泉の探査 は等放射能 曲 線 (Isorad) を作ればよい.放射能泉でない温泉の場合に もこの方法が適用 され ることが多い.このこ とは次のよ うに考えると了解で きる.即 ち温 泉の演出す る場所は断層破砕帯 とか,亀裂 ・ 節理 の発達 した部分 とか,いづれにして も水 やガスに対す る透過度の大 なる部分で,地下 第5図 垂直探査による泉脈の決定 第6図 水平探査に現れ る泉脈の影響巨
∃ 巨
∃ 巨∃
=- 丁 -丁
上の地点で深度 を押 えると泉脈面を決定する の物質が地表 に向 って発散する通路を提供す ことがで きる (第5図),また水平探査 に よ る.つま りこの部分は地下 よ り地表に向 って れば垂直な泉脈を も決 められ るが (第6図), 放射能元素の供給 きれ る通路になるわけであ14 初 田 甚 一 郎 る. ところで,適 当な速度で地中ガスの上昇 さえあれば,特別に放射能鉱物等の集中的存 在を考 えないで も通路にあたる岩 石中 の
Ra
か ら奪 って くるRn
だけで,他の透過度 の悪 い部分 よ りは造かに多 くのRn
を輸送 して く る.すなわ ち岩盤の亀裂 は一つのRn
源 と見 倣 し得 るので,こ ゝよ り表土層中にRn
は拡 散 してゆ く.同様の ことはガスの代 りに水が 亀裂を上昇す る場合に も考 え られ, この場合 には運ばれ る ものはRn
のみでな くU塩やRa
塩が主で, これ らが表土層中に出 ると通路の 制約がないので速度 も落 ち,Ae
r
at
i
o
n
も あ るので物理 ・化学的環境の変化のため表土層 中に沈積す る. これによって亀裂の露頭 (表 土層下の) を放射能源 と見放 した場合 と同様 に取扱 うことがで きる. このよ うな考 えを裏付 けるのは次の事柄で あ る. i)γ線計数装置に よって断層探 査が成功 し てい る.例 えば落合氏5)は神奈川県真鶴町で 既知断層の延長をガイガ-計数器で追跡す る ことに成功 して居 り,その他 に も例 は多い. ii) 文第7図に示す洛北修学院で初 田 が 行 なった数種類の方法による探査で もすべての 方法が よ く似 た結果 を与 えてい る】6)i
i
i
)
西宮市塩瀬の温泉探査では γ線計数 法 と地中空気の ラ ドン法 とが相似 の 結 果 を 与 え,大和多武峯では γ線計数法 と土嚢試料の α線法がやは り同様 の結果を示 し た. (図省 略). 裂 け目を上昇 して くるのがRn
のみであ れ ば,γ線 を出すのはその壊変生成物中Ra
B,RaC,RaC
〟のいづれ も極 めて短寿命の元 素 で平衡相対量 も少 ないか ら実際に計数管で観 測 され る程の放射能 の変化は恐 らく出ないで あろ う.まして土壌試料を採集 して数 日後に 第9図 推定地下構造図 (放射能の両最高中心 を通 る断面)第 7 図 同 一 測 線 に 沿 う た 5種 類 の 放 射 能 深 査 結 果
A
8
C
D
〟oof tTl)CJ'S 亡OunnJ a/,I珂
Ema〝蒜 「 蒜 300 280 260 2〃0 220 20
0 /80 160 /斗0 /20 /// 80 oLl lO 20 0 ββ 78 74 7+ 72 7(7 88 ′0 ル ー クJ 一〇 人 Y /o 5 LI。 E , EX a ,'f(i IFytl I30 120 //0 /00 甜 ;Ii.E
L?
rZ <u C) Au 〃T っJ 2○
第 8図 城 崎 中 学 校 々 庭に 於 け る 地 下 深 査 地温 (左),放射錐 (中), 自然電位 (右) rr) rr) へへ JYl P,
0
.
○
○
0 やL■』■J
-
j
i
i
i
ii
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i
i-
j
i
-
- ■
■ ■ ■ " ■h
〇
十
」
」
B O / や丁
∫
やA
-
-
-
-
/
○∼
(
O \
A
-
JIニ て
\ -
1も
1う - \\ ノ\ 亭 亡も \ ぐ\ ′○
○ \ l′
0 Ni) ○ o 'o
三
見.プ o 勺 ・♪ rll 一 ・ (Iv7 彩 o o 酬 ∼ Ct \ヽ
o 】 ∈「 oけ- o. / :h か ノ /J//○
0 0 ○ 判 長 ・tTb 、∼ 7. I1 __一一■一■--- -\ \ 、ゝ\\ 、 ㍗ 4- -( ./ .. ∵○
/
ノ
a
/,
'
t
≧
、
\
、
\弓
ノ
l
∼
\
r
v
4
'
'
t
き
o
.
/
f
O
ヽ
=
,
F
:
-
W
I
\
、
′
T
J
「
I/
♂
_/I /i
/ / _小利
臭
&
預
I
I
l
級
O
・
亨 ____ ___:1,0爪 70 .TS, .15∫
Yt
l<
ー7
LJ
.
*
J
o
勺
○
〇
r
十
q
○
,b+
∵
10 や 16 へ0 ○ゝ′
♂
fヽ\
▲
/ _
q
l
t
Q
○
○ 二審 ぐ ○ ′ / / / ノ○/ ′′
ノ
′ ′ ′ / / / / I) L7○0 ?荷
・I
E馳 イ
捕(
食 イ軌 立立腹
血の.. 主リ剰 え一
ウ1
*
IL/ト)bも.
<
Q*
S,
∼
b
温 泉 の 物 理 探 査 α-放射能 を測 った結果 (第
7
図折線E
参照) が前述の如 く他の方法によるもの と余 り変 ら ないのは寿命の長い元素でα線を出す もの ゝ 存在を示 し, どうして もRnのみでな くU塩 か Ra塩の如 きものが水溶液の形で裂埠を上 昇 して来て表土中に沈積 しているもの と考え ざるを得ない. 4.磁 力 探 査 法 最後に温泉探査に磁力探査が用い られた例 を紹介す る.三井地球物理研究所の越川氏7) は伊豆下賀茂温泉で磁力探査を行 い,温泉の 多い地域は然 らざる地域に くらべて鉛直磁力 が弱いことを見出 した.また伊豆片瀬温泉で も温泉地帯の中央部に鉛直磁力の非常に小 さ い所を見出し,これは試錐の結果 とも一致 し 15 た.尚同氏は山梨県増富鉱泉附近に於て も鉛 直磁力が比較的小 さい (100-300り こ と を 見 出 している. 5.諸種の方法を組合せた一例 温泉に限 らず一般に地下探査には可能な限 り,二つ以上の異 った方法を組合せて行 うに 越 したことはない.第8図は兵庫県城崎温泉 で地温,自然電位,放射能探査を重ねておこ なった例である.地温の高い部分 と放射能の 極大部 とが少 しずれて現われているが,これ か ら地下構造を第9図及び第10図の如 く推定 した.第 8図の 自然電位の分布に も第 4図に 示 した原理に基づ くと思われ る傾向が見 られ る. 第10図 推定地下構造図 (地温及放射能の最高中心を通 る断面) AA・前払 い%虫A棚 'tINL【f
t
=
・
‖ヽ
▲ltJ.dT恥) 雛16 初 田 甚 一 郎 :温 泉 の 物 理 探 査 参 考 文 献 1)初 田甚一郎 (1955):地温分布による温泉探査,温泉科学第6巻第4号,P.57-61. 2)初 田甚一郎 (1955):地温分布による温泉探査, 日本地質学会関西支部 第26号,西 日本 支部報第16号合併号. 3)近藤忠三 (1947):自然電位法による温泉の調査,鉱物 と地質第1巻第2号,P.60. 4)蔵 田延男 (1953):地下水の探査について,物理探鉱第6巻第3・4号,五周年記念 特 別 号,P.179. 5)落合敏郎 (1951):断層の放射能探査 について,物理探鉱第4巻第2号,P.78.
6)Z.Hatuda (1952):A New MethodofRadioactive Exploration Using Nuclear Emulsionsand Comparison with Other Methods,Men.Coll.S
°
i
,Univ. uf Kyoto,B.XX,No.2,P.92.7)Z.Hatuda (1954):RadioctiveMethod for GeologicalExploration,Men.Coll. Sc
i
.,Univ.ofKyoto,B.XXI
.No.2P.253.8)越川善明:伊豆下賀茂温泉附近の地磁気測量,Wm42.01;伊豆片瀬温泉附近の地磁気測 量,Wm42.02;山梨県増富 ラヂ ウム鉱泉附近 の地磁気測量Wm43.01;物理探鉱調査研 究一覧第2号 (昭和24年)P.65,66. 質 疑 応 答 岡部 (鳥取大) vein や 湧出孔 に関係 な く,温泉の近 くで放射能 のふえ ることが あ るのは どうい うわ けか. 初 田 温泉1)あ る附近 は一般 に全体 として発散帯で あ り,深所 よ t)水 や ガスの上昇 が きかん な部分で ある,地温の高 い こともラ ドンの上昇 を助 けてい るか も知 れない.放射能探 査の ところで述べ た理 由で, このよ うな部分 は放射能 が大 きくな る・簡表土 の放射能 が影 響 し温泉 と関係 7)ない場合 もある・ また温泉 の近 くで土壌 が深 く,他 の部分 で極 端 に浅 い場合 も,後者 では大気 と地中空気 の交流 で ラ ドンが逃 げて低 い値 を示 す こと があ る. (以 上)