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DNPIノックアウトマウスの作製

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(1)

平 成16年12月(2004年) 一g一

DNPIノ

ッ ク ア ウ ト マ ウ ス の 作 製

中 西 祐 子1),山 田 祐0郎2),木 戸 詔 子1)

Generation

of DNPI knockout

mouse

Yuko Nakanishi,

Yuichiro Yamada and Shoko Kido

A gene-knockout mouse is a mouse in which a particular gene has been artificially destroyed and made dysfunctional. By analyzing symptoms which appear in the gene-knockout mouse's body, we are able to learn the essential function of the knocked-out gene in vivo. Utilizing a gene-knockout mouse, we can ana-lyze the differences between the mouse and a normal mouse of their growth, activity, or abnormalities of their tissues including brains, livers, kidneys and bones. These information from analyzing of a gene-knockout mouse is quite important. For instance, unknown gene functions or connections between genes and diseases can be clarified.

Differentiation-associated Na+-dependent inorganic phosphate (Pi) cotransporter (DNPI) is protein that is reported to be associated with transdifferentiation of insulin-secreting cells and regulation of blood glucose levels. We tried to generate DNPI-knockout mouse. The analysis of this mouse clarifies the mech-anism of DNPI and leads to development of future diabetes medical treatment. This review article explained the background of this study and generation of knockout mouse.

は じ め に 近 年,糖 尿病 有 病 者 の数 は 急 速 に 増 加 し,2002年 に行 わ れ た糖 尿 病 実 態 調 査 で は,わ が 国 で 「糖 尿 病 が 強 く疑 わ れ る人(現 在 治 療 中 の 人 を 含 む)」 は 約 740万 人,「 糖 尿 病 の可 能 性 を否 定 で き ない 人 」 を 合 わ せ る と約1,620万 人 で あ り,前 回 の調 査(1997年) よ り著 し い 増 加 傾 向 を 示 し て い る こ とが 報 告 さ れ た1)。そ の 原 因 と し て は 食 習 慣 の 欧 米 化,特 に脂 肪 摂 取 量 の 増 加 と消 費 エ ネ ル ギ ー の 減 少(運 動 不 足) が あ げ られ る。 わ が 国 で は1型 糖 尿病 に 比 べ 圧 倒 的 に2型 糖 尿 病 が 多 い 。2型 糖 尿 病 の 発症 に は遺 伝 素 因 と環 境 因子 が と も に重 要 な 役 割 を演 じ,イ ン ス リ ン分 泌 の低 下 と イ ン ス リン感 受 性 の低 下 が 種 々 の程 度 に組 み 合 わ さ って イ ン ス リン作 用 不 足 が 起 こ る。 1)京 都 女子 大 学家 政学 部 食物 栄養 学 科第 一調 理 学研 究 室 2)京 都 大学 大 学 院医学 研 究科 糖 尿病 ・栄 養 内科 学 日本 人 の イ ン ス リ ン分 泌 代 償 能 は 欧 米 人 に 比 べ て 低 く,高 血 糖 状 態 に 陥 っ た 際,早 期 か ら こ の 代 償 能 が 破 綻 し て し ま い,イ ン ス リ ン 作 用 不 足 に 陥 っ て 糖 尿 病 を 発 症 す る 。 膵 ラ ン ゲ ル ハ ン ス 島 の β細 胞 か ら イ ン ス リ ン が 分 泌 さ れ る メ カ ニ ズ ム は,図1の よ うに 考 え ら れ て い る 。血 液 中 の ブ ド ウ 糖 は,糖 輸 送 担 体(Glucose trans-porter 2:GLUT2)を 通 っ て β細 胞 に 取 り込 ま れ,グ ル コ キ ナ ー ゼ に よ る リ ン 酸 化 を 受 け て グ ル コ ー ス6 リ ン 酸(G-6-P)に な る 。G-6-Pは 解 糖 系 で 分 解 さ れ て ピ ル ビ ン酸 と な り,さ ら に 代 謝 を 受 け てATPが 産 生 さ れ る 。ATPの 濃 度 が 上 昇 す る とATP感 受 性 カ リ ウ ム チ ャ ネ ル が 閉 鎖 さ れ,細 胞 内 の カ リ ウ ム イ オ ン 濃 度 が 上 昇 す る こ と に よ っ て 細 胞 が 脱 分 極 を 起 こ し,電 位 依 存 性 カ ル シ ウ ム チ ャ ネ ル が 活 性 化 さ れ る 。 こ の 結 果,カ ル シ ウ ム イ オ ン が 細 胞 内 に 流 入 し,細 胞 内 カ ル シ ウ ム 濃 度 の 上 昇 が 引 き 金 と な っ て イ ン ス リ ン の 分 泌 が 起 こ る 。 こ の よ う な イ ン ス リ ン 分 泌 の メ カ ニ ズ ム を は じ め,血 糖 調 節 に 関 わ る様 々 な タ ン

(2)

- 10-パク質の機能はマウスなどのモデ、ル動物を使った分 子生物学的手法によって,次々に明らかにされてき た。しかしまだ機能解析の行われていないものも 数多く存在しそれらの解明が待ち望まれている。 今回,我々は,インスリン産生細胞への分化転換 や血糖調節機構に関与するという報告のあるDiffer司 entiation-associated Na+-dependent inorganic phos -phate (Pi) cotransporter (DNPI)に注目しこの遺伝 子を欠損させたノックアウトマウスの作製を計画し た。このマウスを様々な角度から解析することに よって, DNPIの機序を明らかにするとともに,今 後の糖尿病治療の一端に貢献することを目的として 研究に取り組んでいる。本総説では, この研究の背 景やノックアウトマウスの作製方法を中心として以 下に解説することにする。

1

.

ノックアウトマウス

ノックアウトマウスとは 遺伝子操作によってゲ ノム DNAのある特定の遺伝子領域を破壊し,全身 の細胞においてその機能を喪失させたマウスのこと であり,標的遺伝子欠損マウスとも呼ばれる。ゲノ ムDNAは生物の体を構築するタンパク質や酵素な 食物学会誌・第59号 どの生命維持に必須のタンパク質を作るのに必要な すべての情報をもっ設計図に相当する。ヒトの体は 約 60兆個の細胞から構成されており,その一つ一 つの核の中に同じゲノム DNAをもっている。それ は,

r

受精卵」という一つの細胞が分裂を繰り返して 生物の体を構成していることを考えれば容易に理解 できる。しかしどの細胞も同じゲノム DNAをもっ ているにも関わらず,体内には神経細胞や皮膚細胞 といった,約200種類に及ぶ実に様々な細胞が存在 する。これは,すべての細胞に関する情報が書かれ ているゲノム DNAの中で,例えば神経細胞なら神 経細胞をつくるための遺伝子領域だけが,皮膚細胞 なら皮膚細胞をつくるための遺伝子領域だけが利用 されて,その遺伝子群にコードされているタンパク 質が発現して神経細胞や皮膚細胞を形成しているか らである。ノックアウトマウスの体内では破壊され た遺伝子領域のa情報をもとにして作られるはずのタ ンパク質のみが作り出されないか, または不完全な ものとなる。すなわち 破壊された遺伝子領域が利 用されるはずだった組織・臓器においてのみ異常が 出現し,体の他の部分は遺伝子操作を行っていない 野生型のマウスとなんら代わりがない。したがって,

Ca

2+ 電位依存性 カルシウムチャネル

インスリン

図1 醇臓ランゲルハンス島.

s

細胞からのインスリン分泌機構

(3)

平成16年 12

(2004年) ノックアウトマウスと野生型のマウスを比較するこ とによって,破壊した遺伝子から作り出されるタン パク質がマウスの体内でどのような機能を果たして いるかを推定することができる。

1

1

.

DNPI (VGLUT2)

の発見と機能

1. インスリン産生細胞の分化に関与する無機リン 酸トランスポーター (DNPI) 当初, DNPI の遺伝子は,醇臓の外分泌細胞に由 来する細胞株AR42Jがアクチピン Aとベータセルリ ンという物質の作用によってインスリン産生細胞に 分化する過程で発現する未知の遺伝子として発見さ れた2)。その後,この遺伝子が脳特異的ナトリウム 依存性無機リン酸トランスポーター (Brain-specific Na+ -dependent inorganic phosphate (Pi) cotransporter:

BNP

I)遺伝子と高い相同性をもつことが判明し,実 際 に ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル の 卵 母 細 胞 に DNPI の mRNAを発現させると, BNPIと同様に細胞膜上で 細胞内外のナトリウムイオン濃度勾配に依存してナ トリウムイオンと一緒に無機リン酸イオンを細胞内 に輸送するトランスポーターとして機能することが 明らかになった3)。これらのことから,インスリン 産生細胞の分化に関与するナトリウム依存性無機リ ン酸トランスポーターという意味でDNPIと名付け られた。 2. 小胞性グルタミン酸トランスポーター (VGLUT) としての機能 2001年になると, DNPIが BNPIと同様に中枢神 経系のシナプス小胞でグルタミン酸のトランスポー ターとして機能していることが明らかになった4)。 また, DNPI遺伝子の脳内での発現が, BNPIの発現 している部位(大脳皮質,海馬,小脳など)では見 られず,それ以外の視床下部や視床などで多く見ら れ,BNPIと DNPIの発現は相補的であることも報告 された4)。それゆえ, BNPIが VGLUT1 (小胞性グ/レ タ ミ ン 酸 ト ラ ン ス ポ ー タ ー1:Vesicular glutamate transporter 1) と呼ばれるようになっていたのに続 き, DNPIは VGLUT2と呼ばれるようになった。以 後, DNPI (VGLUT2) に関する研究はグルタミン酸 トランスポーターとしての機能を中心として行われ るようになった。 図2は神経系でのグルタミン酸の化学伝達におけ る小胞性グルタミン酸トランスポーター (VGLUT) の役割を示したものである。グルタミン酸は晴乳類

シナプス前

ニュー口ン

シナプス後

ニューロン

図2 神経系でのグルタミン酸の化学伝達における小胞性グルタミン酸トランスポーター (VGLUT) の役割

(4)

- 12-の脳内に多量に存在し,記憶・思考・行動といった 精神活動を支える興奮性の神経伝達物質である。神 経終末において,グルタミン酸はVGLUTによって シナプス小胞へ輸送・濃縮され,神経終末に活動電 位が到達すると,細胞質内のカルシウムイオン濃度 の上昇に伴って,開口分泌により放出される。放出 されたグルタミン酸は隣接した標的細胞表面に存在 するグルタミン酸受容体に結合してシグナルを伝達 する5)。最近では,このような中枢神経系だけでな く,内分泌細胞でも VGLUTがグルタミン酸トラン ス ポ ー タ ー と し て の 機 能 を 果 た し て い る こ と が わ かってきため。さらに,松果体細胞のシナプス小胞 様オルガネラ (Synaptic-likemicrovesicle: SLMV)と 醇臓ランゲルハンス島のα細胞(グルカゴン分泌頼 粒)および

F

細胞(醇ポリペプチド分泌頼粒)に

VGLUT1 (BNPI)と VGLUT2 (DNPI)の両方が存 在し,胃粘膜に存在するペプチド yy含有細胞の分 泌頼粒や精子のアクロソームにVGLUT2が存在する ことも確認された7)。 3.ランゲルハンス島におけるVGLUT2 (DNPI)

機能 VGLUT2が内分泌細胞である醇臓のα細胞に発現

GABA

受容体

¥

食物学会誌・第59号 していることは 2001年に報告され6),続いて 2003 年にはα細胞に発現した VGLUT2が,図3に示す ようなグルタミン酸による血糖調節ホルモンの分泌 制御に関与するというデータが報告された8)。この 報告によると, α細胞のVGLUT2はグルカゴン分泌 頼粒の膜上に局在し, ATPの加水分解エネルギーに より形成された膜電位(内側正)を利用してグルタ ミン酸を分泌頼粒内に輸送・濃縮している。血糖の 低下によって,グルタミン酸はグルカゴンとともに 分泌され,分泌されたグルタミン酸は

p

細胞表層に 存在するグルタミン酸受容体に結合すると

p

細胞を 刺激し,シナプス様小胞 (SLMV)に蓄積されてい る

r

アミノ酪酸 (GABA)を放出させる。放出され たGABAはα細胞表層の GABA受容体を介してグ ルカゴンとグルタミン酸の分泌を抑制する。した がって, ランゲルハンス島における VGLUTの発現 は, グルタミン酸を介したグルカゴン分泌の抑制系 に関与することで血糖調節に重要な役割を果たして いると考えられる。

B

ω/

川 端

v h v

川 ⋮

. 6 h v

α

細胞

グルタミン酸受容体

8

細胞

図3 醇臓ランゲルハンス島における小胞性グルタミン酸トランスポーターのグルカゴン分泌抑制機構 VGLUT:小胞性グルタミン酸トランスポーター (Vesicularglutamate transporter) SLMV:シナフ。ス様小胞 (Synaptic-likemicrovesicle) GABA:y田アミノ酪酸 (y-aminobutyric acid)

(5)

平成

1

6

1

2

(

2

0

0

4

年)

マウスの

ゲノム

DNA

mRNA

前駆体

エクソン '--ー-y-一一」 イント口ン

DNPI

遺伝子

-

13-:η:

7

:

:

:

:

-

_

.

.

.

:

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

.

¥

.

.

;

:

:

:

.

:

.

:

:

.

.

.

:

♂ I

mRNA

スプライシング

mRNA

mRNA

前駆体

4

-

2

CAP ポIJA

雪量

DNPI

タンパク質の生成

4

-

1

野生型マウスでの

DNPI

タンパク質の生成

DNPI

ノックアウトマウスでの

DNPI

タンパク質の生成 核肉 細 胞 質 核 肉

細胞質

(6)

- 14

1

1

1

.

DNPI

ノックアウトマウス作製の概要

1. DNPI遺伝子のノックアウト DNPI遺伝子は,遺伝情報を含む

1

0

個のエクソン と遺伝情報を含まない9個のイントロンから構成さ れており,このゲノムDNAから mRNAが転写され, スプライシング,翻訳というステップを経て DNPI というタンパク質が作り出される(図 4-1)0 DNPI のノックアウトマウスでは図4・2に示すように, こ のDNPI遺伝子のエクソンの一部を破壊することに よって DNPIタンパク質が作り出されなくなるか, 不完全なものが作られて DNPIとしての機能を失っ ていると考えられる。このようなDNPIノックアウ トマウスを作製しそのマウスの解析を行うことに よって,① DNPI (VGLUT2) は牌臓の外分泌細胞 がインスリン産生細胞へと分化する過程で発現する という報告から, DNPIが醇臓の内分泌細胞の発生 や分化転換にどのように関わっているかというこ と , ② 醇 臓 のα細胞に発現する VGLUT2 (DNPI) が血糖調節にどのような役割を果たすかということ を明らかにで‘きると期待される。 2. ES細胞(匪性幹細胞:Emb叩onicstem cell) ノックアウトマウス作製の手順を図 5 に示した。 ノックアウトマウスの作製にはマウスのES細胞(匪 性幹細胞:Embryonic stem cell) が必要である。 ES 細胞とは,マウス受精卵3.5日目の匪盤胞の内部細 胞塊から単離・株化した未分化かっ多分化能を有す る細胞のことである。図6に示したように,受精後 3.5日目にあたる匪盤胞期の匪は外側に胎盤を形成 する栄養芽細胞,内側に胎児本体を形成する内部細 胞塊をもっている。この内部細胞塊は,肺や肝臓, 心臓などの臓器から表皮,生殖巣に至るまで,あら ゆる性質をもった細胞に分化することができる多分 化能を有する細胞であり この時点ではまだ最終的 にどのような細胞になるかは決定されていない。こ の内部細胞塊を多分化能をもった状態で体外に取り 出 し 株 化 し た も の が ES 細胞で, LIF (Leukocyte inhibitory factor) を添加して培養することによって 未分化状態を保ちながら増殖させることができる。 3. DNAコンストラク卜の作製 ノックアウトマウスを作製するには,上述の ES 細胞にコンストラクトを導入しなければならない。 そのため,最初にコンストラクトを作製する。コン ストラクトとは短い DNAの断片で,その塩基配列 のほとんどは目的とする遺伝子と同じだが,ノック アウトしたい部分だけが他の遺伝子に置き換えてあ 食物学会誌・第59号 るものである。図 7に示すように, DNPIノックア ウトマウス作製用のコンストラクトでは, 目的とす るDNPI遺伝子をマウスゲ、ノムライブラリーよりク ローニングし,標的の遺伝子部位にあたる場所にネ オマイシン耐性遺伝子を挿入しである。このネオマ イシン耐性遺伝子と末尾に付けた単純へルベスウイ ルス (Herpessimplex virus: HSV)のチミジンキナー ゼ遺伝子は,後述するように目的の遺伝子がノック アウトされているかどうかを確認するための目印と なる。 4.エレク卜ロポレーション このようにして作製したコンストラクトをエレク トロポレーション法によってES細胞に打ち込む。エ レクトロポレーションでは 図

8

に示すようにキュ ベットにコンストラクトとES細胞の懸濁液を入れ, 電気刺激を与えることによって,ES細胞の細胞膜に 小さな穴を開け,そこから溶液中のコンストラクト を細胞内に取り込ませる。 5.相同組換え 細胞内に取り込まれたコンストラクトは,ES細胞 のゲノム DNAのうち,同じ塩基配列をもっ部分と 対をつくり, ここで相同組換えが起こる。これまで ノックアウトすることを「破壊する」と表現してき たが,正確には目的の遺伝子部分を全く別の遺伝子 に「置き換える」ことでその遺伝子の機能を喪失さ せることであり,この際の方法が相同組換えである。 相同組換えそのものは人為的なものではなく,減数 分裂の際に自然に生じる現象である。コンストラク トとES細胞のゲノム DNAの間に相同組換えが起こ ると,ES細胞にある DNPI遺伝子の標的部分が欠落 し,代わりにコンストラクト由来のネオマイシン耐 性遺伝子が挿入される(図的。その結果, DNPI遺 伝 子 本 来 の 機 能 は 喪 失 し そ の 代 わ り に 薬 剤 ネ オ マ イシンに対して耐性をもった細胞となる。しかし このような相同組換えは晴乳類など高等動物の細胞 ではごく稀にしか起こらず 実際に導入されたコン ストラクトのほとんどは場所を間わずランダムに挿 入 さ れ て し ま う た め エ レ ク ト ロ ポ レ ー シ ョ ン を 行 っ た 細 胞 の 中 か ら 本 当 に 相 同 組 換 え が 起 こ っ た ES細胞だけを選び出すため,薬剤による選択を行う 必要がある。

6

.

薬剤選択 一般的に,相同組換えが起こったES細胞だけを選 ひ、出すマーカーとしてよく用いられるのは,ネオマ イシン耐性遺伝子である。前述のように,我々もこ の遺伝子をマーカーとして用いているため,エレク

(7)

平成

1

6

1

2

(

2

0

0

4

年) -

15-三三戸

プローブ

i

l

c

D

N

A

ライブラリー│

マウスCDNA~三三トー

il

ゲノムライブラト

マウスゲノムDNA~ト

受 精 卵 ⑪

ι

ES細胞

目 。

ノックアウトコンストラクト 匪盤胞 HSVのチミジン キナーゼ遺伝子 エレクトロポレーション 。ランダム挿入 ・相同組換え 干二

LL

J

誘導体イシン(G418)

隠。ぬ?州

¥ご

o

.

τ

w

・ / 11 ガンシクロピル(GANC) ~・~ ¥ ・ - / サブクローニング 匪盤胞 注入(マイクロ インジェクション法) 偽妊娠状態 のマウス -dT 高齢 (仮親の子宮に移植

)

i

F1

ç~己ダ三三戸へで?)合体

(ヘテロ接合体同士を交配

)

i

F2

(-1-)

I

図5 ノ ッ ク ア ウ ト マ ウ ス の 作 製 過 程

(8)

ハhu 受精 分裂中の庇 食物学会誌・第59号 (栄養芽細胞)

胎盤の形成

│多分化問

肺 心臓 肝臓 図

6

多分化能をもっマウス

E

S

細胞

DNPI

遺伝子

(DNA)

l

1

図7 DNPIノックアウトマウス作製のためのコンストラクトの構造 破線部分が相同遺伝子領域を示している。 トロポレーション後の

E

S

細胞は抗生物質ネオマイ シンの誘導体

(

G

4

1

8

)

を添加した培地で培養した。 この処置により,通常の

E

S

細胞は抗生物質によっ て死滅するが,相同組換えの起こった

E

S

細胞は,上 記川-5で述べたようにネオマイシン耐性遺伝子を導 入 し て い る た め 生 き 残 る こ と が で き る (positive selection)。また,ガンシクロビル(Ganciclovir:GANC) という薬剤を同時に添加することで,相同組換えが 起こらずコンストラクト全体が取り込まれてしまっ た

E

S

細胞などを除外することができる (negative selection)。これは,コンストラクトの末尾にGANC と反応して細胞を死滅させてしまうチミジンキナー ゼの遺伝子が挿入しであるからである。つまり,正 しく相同組換えが起こった細胞で、は,ネオマイシン 耐性遺伝子は入っているがチミジンキナーゼの遺伝 子は入らないので,細胞はGANCに反応することな く生存する。しかし相同組換えが起こらず不適切 な場所にコンストラクト全体が取り込まれてしまっ た場合には,末尾のチミジンキナーゼの遺伝子も一 緒に取り込まれてしまうため, GANCと反応して細 胞は死滅してしまうのである(図 10)0 negative selectionによく用いられるマーカーとしては,我々 の用いた単純へルベスウイルス (HSV)のチミジン キナーゼ遺伝子の他に 特別な薬剤を必要としない ジフテリア毒素の A鎖 (DT-A) などがある。 7.サザンプロット解析 理論的には,薬剤選択によって生き残るのは相同 組換えが起こった

E

S

細胞のみであるが,最終的な 確認はPCR法やサザンブロット法により行われる。 本実験で採用したサザンプロット法は,電気泳動の

(9)

平成16年 12月 (2004年) - 17-図8 図9 ES細胞

d

t

エレクトロポレーション 右図のように専用の電極付きキュベットにコンストラクトと ES細胞の懸濁液を入れ,左図のように セットして通電する。これによって ES細胞膜に穴があき, コンストラクトが細胞内に取り込まれる。 ネオマイシン耐性遺伝子 HSVのチミジンキナーゼ遺伝子

│コンストラクト

j

:・./

相同組換え│

."""""".,."""",.""",,,,,.,,,,.,,.,,.,~工?一…一

'

欄 醐 覇 覇

抑 協 働 必 倣 相同組換えの概略図 ①エレクトロポレーションによって ES細胞内に導入されたコンストラクトは核に移行し, ES細胞の DNAの内,同じ塩基対をもっ部分と対をつくる。破線は相同遺伝子領域を示している。 ②相同組換えが起こると, ES細胞の DNA上にある標的遺伝子とコンストラクトのネオマイシン耐'性 遺伝子が置き換えられる。 ③相同組換えの起こった ES細胞のDNAでは,標的遺伝子の代わりにネオマイシン耐性遺伝子が挿入 され, DNPIの遺伝子機能を喪失するかわりにネオマイシンに耐性をもつようになる。 高い分離能とハイブリダイゼーションの高感度検出 を組み合わせて特異的に DNAを検出する方法であ る。薬剤選択によって生き残ったES細胞からDNA を 抽 出 し こ れ と 相 同 組 換 え の 起 こ っ て い な い 野 生 型 ゲ ノ ム DNAとを区別することができる制限酵素 部位で、酵素を使って処理する。相同組換体では,標

(10)

食物学会誌・第59号

A

.

正しい相同組換えが起こったもの│

チマンキナーゼ遺伝子

………畠

盤盤覇覇

-

18-子 伝

a a

遺 務 血 性 窃 盤 酎 窃盤 +l

窃 盤 、

γ

霞回国イ

=今ネオマイシンに耐性を持ち、ガンシクロビルにも影響されない白

B

.

コンストラクトがランダムに取り込まれてしまったもの│

チミジンキナーゼ遺伝子

ネオマイシン耐性遺伝子

=今ネオマイシンに耐性を持つが、チミジンキナーゼを持つため

ガンシクロビルで死滅する白

~

:州

e

o

4

の薬剤による選択

(

EcoR 1

)

とランダム挿入された遺伝子 (B)

ふい脚

M勝 附ω J少勾誌静馳附と=志桜斡掛;::お挽梓'"企鍔:主穆時と寧彦

(

EcoR 1

)

i

相同組換え遺伝子 (A) 図10

野生型

4

i

相同組換型

9

.

8

kb

プローブ

サザンプロット法による野生型と相同組換型ゲノム

DNA

の判別 野生型の標的遺伝子中には,矢印(↓)で示した位置に制限酵素・

E

c

o

R

1の認識部位が存在する。一 方,ネオマイシン耐性遺伝子(斜線で示す)の塩基配列中には

E

c

o

R

I

の認識部位が存在しない。

E

c

o

R

I

DNA

を処理し,あらかじめ設定したプロープとハイブリダイズさせてサザンプロット法で解析する

と,野生型

DNA

では

6

.

3k

b

,相同組換えの起こった

DNA

では

9

.

8

k

b

DNA

フラグメントが検出される。 図

1

1

識部位が存在するが 相同組換体のネオマイシン耐 性遺伝子の塩基配列中には

E

c

o

R

I

認識部位が存在し ないため,これらを

E

c

o

R

I

で処理し,あらかじめ設 定したプローブとハイブリダイズさせると,相同組 換体と野生型ゲノム

DNA

のそれぞれに特異的な長 的遺伝子部分の代わりにネオマイシン耐性遺伝子が 挿入されることにより,その部分の塩基配列がもと の配列と異なったものとなっている。したがって, 図 11に示すように,相同組換えの起こっていない 野生型のゲノム

DNA

中には制限酵素

(

E

c

o

R

1)の認

(11)

平成16年 12月 (2004年) さの DNAフラグメントが検出され,相同組換えが 起こったか否かを確認することができる。 8. キメラマウスからノックアウトマウスの誕生 サザンプロット解析による確認を行った後,相同 組換えが起こった ES細胞を匪盤胞の腔内にマイク ロインジェクション法で注入しこれを偽妊娠状態 にした仮親の子宮に戻す。生まれてくるマウスの40 ~70% は,もとの匪盤胞由来の細胞と匪に注入した ES細胞由来の細胞の両方が混在したキメラマウス になる(図 5)。この際, ES細胞が白色マウス由来 であれば,黒色マウス由来の匪盤胞を用いると,生 まれてくるキメラマウスは ES細胞由来の白い毛色 と匪盤胞由来の黒い毛色が混在するため,体毛の色 で容易に識別することが可能となる。次に,キメラ マウスの生殖系列にも ES細胞由来の細胞があるこ とを期待して, このマウスと野生型マウスとの交配 により交雑第一世代(F1)を得る。 ES細胞由来 DNA の匪細胞への移行はF1の毛色によって判定でき,そ の50%が変異遺伝子を受け継いだヘテロ接合体(ヘ テロノックアウトマウス)であることが期待できる。 さらに,ヘテロノックアウトマウス同土を交配する と1/4の確率でホモ接合体(ホモノックアウトマウ ス)を得ることが期待できる(図5)。

I

V

.

ノックアウトマウスを用いた解析

こうして作製した DNPIホモノックアウトマウス と遺伝子操作を行っていない野生型マウスを比較解 析することによって, DNPI というタンパク質が生 体内でどのような機能を果たしているかを推定する ことができる。しかし, DNPIの mRNAは胎生期か ら脳内に発現し,成熟マウスでは生命の維持に重要 な脳幹に高発現していることがわかっており,作製 したノックアウトマウスは胎生期のうちに死亡して しまう可能性もある。もし, DNPI ノックアウトマ ウスが胎生期に死亡してしまうような場合,胎児を 用いて DNPIの胎生期における醇内分泌細胞発生へ の影響を免疫組織化学的に検討していきたい。無事 にノックアウトマウスが生まれた場合には,耐糖能 試験や醇ランゲルハンス島における細胞レベルで、の 検討を予定しており, DNPI (VGLUT2) の血糖調節 機構への関与を解明していきたい。 - 19

V

.

お わ り に

今回のDNPIノックアウトマウスの作製では, こ れまでES細胞へのコンストラクトの打ち込みを,条 件を変えて3回繰り返したが,サザンプロット解析 の結果,いずれも相同組換えが起こっていないこと が確認されている。その原因としては,ノックアウ ト部位の設定やコンストラクトの相同遺伝子領域の 長さなど,様々な要素が考えられる。今のところ, ノックアウトマウスの解析によって DNPIの生理作 用を明らかにするには至っていないが,今後の研究 に期待したい。

V

I.謝

本研究を行うにあたり お世話になりました京都 大学医学研究科糖尿病・栄養内科学,豊田健太郎先 生をはじめ,教室員の皆様に心から感謝いたします。

V

I

I.引用文献

1)厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室:平 成14年糖尿病実態調査報告書 (2003)

2) H. Mashima, S. Yamada, T. Tajima, M. Seno, H. Yamada,]. Takeda and 1.Kojima:Diabetes, 48, 30 4-309 (1999)

3) Y. Aihara, H. Mashima, H. Onda, S. Hisano, H. Kasuya, T. Hori, S. Yamada, H. Tomura, Y. Yamada,

1 .Inoue, 1.Kojima and]. Takada:].Neurochem., 74, 2622-2625 (2000) 4) S. Takamori

J

.

S.Rhee

C. Rosenmund and R. Jahn

:

j

.

Neurosci., 21

RC182 (2001)

5

)

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図 1 1 識部位が存在するが 相同組換体のネオマイシン耐 性遺伝子の塩基配列中には E c o R I 認識部位が存在し ないため,これらを E c o R I で処理し,あらかじめ設 定したプローブとハイブリダイズさせると,相同組 換体と野生型ゲノム DNA のそれぞれに特異的な長的遺伝子部分の代わりにネオマイシン耐性遺伝子が挿入されることにより,その部分の塩基配列がもとの配列と異なったものとなっている。したがって,図11に示すように,相同組換えの起こっていない野生型のゲノム DNA 中には制限酵素 (

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