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自己受容度と孤独感が失恋に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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自己受容度と孤独感が失恋に及ぼす影響

Effects of self-acceptance and loneliness on broken heart

馬形緒里 MAGATA, Shiori キーワード:自己受容、孤独感、片思い、両思い、失恋 0.はじめに 青年期は、異性への関心とともに多くの恋愛を経験していく時期である。この時期の 恋愛は、青年自身の不安定な内面的問題などにより成就することが難しいという面もあり、 破綻してしまうことが多いとされている。失恋は珍しくない出来事とはいえ、当事者にと っては命に関わるケースもでてくる。しかし、たとえ一時はうつ的な状態になったり、情 緒的に強い落ち込みを経験したとしても、大部分の人は時間の経過とともに失恋の痛手か ら回復していく。ただし、ごく短期間のうちに失恋から回復する人と、回復するまでに長 期間が必要な人とが区別されるようである。そこで本研究では、自己受容度と孤独感が失 恋時にどのように関連しているかを調べることを目的として、調査した。調査対象者は関 西の大学生210 名(男性 68 名、女性 142 名)であった。 自己受容度は失恋の原因帰属に関連はなかったが、片思いの失恋の場合において、孤独 感と失恋からの回復期間が関連しているということがわかった。また、回復期間に焦点を あててみると、片思いでも両思いでも失恋の回復時間に差はないということがわかった。 しかし、男女で見てみると、片思い時の失恋において1 か月未満で回復した男性は 60%で あるのに対し、女性は35%、両思い時の失恋において 1 か月未満で回復した男性は 80%で あるのに対し、女性は 42%というように差が見られ、男性は比較的回復が早いことがうか がえる。孤独感と自己受容の関連を見てみると、孤独感が高くて自己受容度が低い人が圧 倒的に多かった。孤独感が低くて自己受容度が高い人は少なく、自信に満ち溢れて積極的 に行動している若者は多くはないのだろう。 1.問題 1-1.親密な対人関係の崩壊に関する研究 Simpson(1987)は、関係の崩壊を予測する変数として、満足度、関係の長さ、性経験 の有無、他のデート相手の可能性といった10 の要因のそれぞれが、3 カ月後の関係の存続 をどの程度予測するかを検討している。その結果、最初の調査の時点で、性交渉を伴って いたカップルほど、長く付き合っていたカップルほど、そして、相手との関係に満足して いたカップルほど、3 カ月後の時点で関係が存続している割合が多かった。また、急進的な 性解放に賛同的であったカップルほど、排他的ではなかったカップルほど、3 カ月後に関係

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が存続している可能性が少ないことを示している。また、Simpson(1987)は、親密な関 係の崩壊に伴う、うつ的な感情反応に注目し、長く付き合っていたカップルほど、親密で あったカップルほど、そして、替わりの相手が見つかりそうもない人ほど、その関係の崩 壊に伴ううつ的な感情反応が強く、また、その感情が長期に持続する傾向にあることを示 している。親密な関係の崩壊に伴い、うつ的な感情だけでなく、孤独感を強くもったり、 あるいは自分に対する自身や自己許容感が低下したりするということも考えられるだろう。 1-2.自己受容 沢崎(1984)は、自己受容が可能になるためには正確な自己認知がなされていることが必要 であり、さらに自己受容が深まるほど防衛的心性が減少するから、自己認知も深くなると している。すなわち、自己認知は自己受容の前提条件あるいは必要条件と考えられ、この 両者は相互依存的な関係にあり、両者が相まって深まっていくものと考えられる。したが って、この両者は密接な関係にあるものではあるが、概念的には本来区別されなければな らないものであると考える。 1-3.孤独感 孤独感は、社会的関係が崩壊したときや、社会的喪失が起こる変化があるときに感じら れるのだと、よく考えられている。青年期に起こる発達的変化は、この意味では特に破壊 的であると思われる。友人との児童期的な関わりが失われ、両親との深い情緒的アタッチ メントが変化するとともに、特に同年齢の友人や異性との関係に対する要求が強まる。そ のため、青年期の変化は、すでにあるアタッチメントを破壊し、やがて情緒的なアタッチ メントの強力で新しい要求を生み出す。この変化が、情緒的関係が欠如した状態を生じさ せるように思われる。出現してくる独立、自律、個性化への動機もまた、分離と責任の感 覚を増大させると考えられる。そのため、青年は親和要求が強まり、情緒的および社会的 孤独感を感じやすくなると思われる。自己意識が高まることと結びついた、個別性を持つ 有限な存在として自分をとらえる新しい意識から生じる実存的な孤独感は、この年齢で現 れてくると思われる。 1-4.失恋 青年期における男女の多くにとって、恋愛関係は最も強い関心ごとの一つであり、また、 それだけに悩みの主要な原因でもある。現代の青年男女にとって、失恋はきわめてありふ れた出来事である。恋愛が社会的に容認されるようになったり、恋愛結婚が一般化したの に伴い、ほとんどの若者が、失恋や実らなかった片思いを経験するようになった。ただし、 誰もが経験するようなありふれた出来事であるからといって、失恋は、当事者達にとって の影響が少ないというわけではない。失恋は、時には人の命に関わるほどの大きな影響を もたらすこともまた多いのである。しかし、たとえ、一時はうつ的な状態になったり、情 緒的に強い落ち込みを経験したとしても、大部分の人は時間の経過とともに失恋の痛手か ら回復していく。ただし、ごく短期間のうちに失恋から回復する人と、回復するまでに長 期間が必要な人とが区別されるようである。

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1-5.仮説 以上の先行研究をもとに、自己受容度と孤独感が失恋時にどのように関連しているかを 調べることを目的として、以下の仮説を立てた。 ① 自己受容度が低い人は、高い人に比べて、失恋の原因を内的帰属する。 ② 孤独感が大きい人は、低い人に比べて、失恋からの回復に時間がかかる。 ③ 両思いのときのほうが、片思いのときよりも失恋からの回復に時間がかかる。 2.方法 調査対象者:関西の大学生210 名(男性 68 名、女性 142 名)。 調 査 期 間:2006 年 10 月 5 日~11 月 27.日 調 査 方 法:質問紙調査を行った。心理学基礎研究の授業時間内で質問紙を配布し、また、 友人に質問紙を配布してもらうように依頼して調査を実施。 調 査 項 目:以下に述べる項目。 (1) 自己受容測定尺度(沢崎,1993) 「ありのままの自分をそのまま受け入れている状態」である自己受容の個人差を測定す る尺度。①直接に受容のあり方を問う、②トータルな自己を対象とする、③生涯発達的な 変化に対応できるなどの点を尺度作成の基本的な考え方として、自己に関して「身体的」「精 神的」「社会的」「役割的」「全体的」の5 領域を設定した。質問項目は 35 項目 5 件法で問 い、自己認知を問わない形式になっている。 (2) 孤独感の類型判別尺度(落合,1983) 落合(1974:1983 など)によると、青年期の孤独感は①人間同士共感しあえると感じて いるか、②人間(自己)の個別性に気づいているかどうか、という 2 つの次元で構成され ており、この 2 次元のクロスによって分類される 4 つの類型が、孤独感の代表的な類型で あることが示されている。この尺度は上記の 4 つの類型のいずれに当てはまるのかを判別 する尺度である。16 項目を 5 件法で問い、2 因子から構成されている。 (3) 失恋経験の有無 失恋をした経験があるかどうか、あればどのような類の失恋であったかを問うた。 (4) 失恋時の経験 失恋をしたときに、どのような心理的反応が現れたかを鳴島(1993)のデータを基に作 成し、選択してもらった。 (5) 失恋の原因 宮下ら(1991)が作成したものを用いた。原因が内的なものなのか外的なものなのかを 調査した。 (6) 失恋からの回復期間

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深野・鹿野(1985)が作成したものを用い、失恋からの回復にどのくらいの期間を必要 としたかを調べた。1 ヶ月未満、4 ヶ月未満、4~10 ヶ月未満、10 ヶ月~3 年未満、3 年以 上、未回復、の6 つに分けた。 (7) 失恋回復のきっかけ 回復した契機は何だったのかを質問した。周囲の励まし、新しい恋の可能性、時間、髪を 切る、相手を憎む、今の自分では仕方がない、相手に幻滅、他の事に打ち込む、思い出の 品を処分、その他、の11項目に分けた。 (8) フェイス項目:性別、学部、学年の3 項目。 ※ (3)~(6)は片思い・両思いについてそれぞれ調査している。 3.結果 【自己受容測定尺度の因子分析】 自己受容測定尺度35 項目を主因子法により因子分析した結果、3 つの因子が得られた。 第一因子は、「体力」「健康状態」「顔立ち」「体つき」「知性(学力)」「運動能力」「現在の 自分」などの 15 項目に高い因子負荷を示すもので、自身の中に存在する自己を表す因子と 考えられる。これを「内在的自己」と名づけた。また、第二因子は「年齢」「性別」「職業」 「家族」「住居」「人間関係」「社会的地位(立場)」などの 11 項目に高い因子負荷を示し、 日常の生活に関連する自己を示す因子と考えられる。これを「日常的自己」と名づけた。 最後に第三因子は、「やさしさ」 「まじめさ」「協調性」「情緒安定 度」「忍耐力」「思やり」「責任感」 などの 9 項目に高い因子負荷を示 し、性格に関連する自己を示す因 子と考えられる。これを「性格的 自己」と名づけた。これは、沢崎 (1993)の調査結果とは異なる因 子になった。この 3 因子の信頼性 分析をした結果、内在的自己と日 常的自己において高い信頼性は 得られた。表 1 に示しておく。 内在的自己 日常的自己 性格的自己 0.88 0.80 0.65 表1 自己受容度各因子の信頼性 図 1 自己受容度測定尺度の因子分析結果

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内 在 的 自 己 日 常 的 自 己 性 格 的 自 己 3 .体 力 0 .5 2 - 0 .2 1 0 .1 8 4 .健 康 状 態 0 .4 1 0 .1 5 0 .0 8 5 .顔 立 ち 0 .6 6 - 0 .1 6 - 0 .0 5 6 .体 つ き 0 .7 1 - 0 .4 4 0 .1 6 7 .知 性 0 .4 7 - 0 .1 3 0 .1 4 8 .運 動 能 力 0 .6 6 - 0 .2 7 0 .1 2 9 .服 装 0 .7 4 0 .0 1 - 0 .2 0 1 1 .経 済 状 態 0 .4 9 0 .1 5 0 .0 6 1 2 .性 的 能 力 ( 魅 力 ) 0 .5 3 - 0 .0 7 0 .0 4 1 6 .生 き 方 0 .4 4 0 .4 0 - 0 .0 1 2 1 .積 極 性 0 .6 2 0 .2 9 - 0 .1 7 2 5 .指 導 力 0 .5 5 0 .0 8 0 .0 9 2 7 .決 断 力 0 .4 7 0 .0 6 - 0 .0 5 3 0 .や る 気 0 .3 9 - 0 .0 4 0 .3 5 3 5 .現 在 の 自 分 0 .5 2 0 .2 5 0 .1 1 1 .年 齢 - 0 .0 9 0 .3 6 0 .0 5 2 .性 別 - 0 .2 2 0 .4 9 0 .1 4 1 0 .職 業 0 .0 6 0 .6 0 - 0 .2 1 1 3 .家 族 - 0 .2 2 0 .7 0 0 .0 1 1 4 .住 居 - 0 .1 3 0 .4 6 0 .0 4 1 5 .人 間 関 係 0 .2 2 0 .5 5 - 0 .0 7 1 7 .社 会 的 地 位 ( 立 場 ) 0 .1 5 0 .6 7 - 0 .1 1 2 0 .明 る さ 0 .4 2 0 .5 0 - 0 .0 6 2 6 .の ん き さ - 0 .1 1 0 .3 5 0 .1 3 3 2 .親 に 対 す る 子 供 と し て の 自 分 - 0 .0 3 0 .3 8 0 .3 7 3 3 .兄 弟 の 一 員 と し て の 自 分 - 0 .1 2 0 .5 5 0 .2 4 1 8 .や さ し さ - 0 .1 6 0 .2 4 0 .6 9 1 9 .ま じ め さ 0 .1 5 0 .2 2 0 .3 6 2 2 .協 調 性 0 .0 2 0 .2 8 0 .2 9 2 3 .情 緒 安 定 度 0 .1 9 - 0 .1 0 0 .4 2 2 4 .忍 耐 力 0 .0 4 - 0 .2 0 0 .7 3 2 8 .思 い や り - 0 .0 9 0 .1 3 0 .7 5 2 9 .責 任 感 0 .2 4 0 .1 0 0 .5 1 3 1 .男 ま た は 女 と し て の 自 分 0 .2 8 0 .0 1 0 .3 6 3 4 .過 去 の 自 分 0 .3 0 0 .1 3 0 .3 9 表 2   自 己 受 容 尺 度 の 因 子 分 析 の 結 果 【孤独感の類型判別尺度の因子分析】 孤独感の類型判別尺度 16 項目を主因子法により因子分析した結果、2 つの因子が得られ た。第一因子は、私のことに親身に相談相手になってくれる人はいないと思う」「人間は、 他人の喜びや悩みを一緒に味わうことが出来る」「私のことをまわりの人は理解してくれて いると、私は信じている」など、9 項目に高い因子負荷を示すもので、人間同士の理解・共 感の可能性についての感じ方を示す因子と考えられる。これを「共感性因子」と名づけた。 また、第二因子は「結局、自分はひとりでしかないと思う」「自分の問題は、最後は、自分 で解決しなくてはならないのだと思う」「人間は、本来、一人ぼっちなのだと思う」など 7 項目に高い因子負荷を示すもので、人間の個別性の自覚についての次元を示す因子と考え られる。これを「個別性因子」と名づけた。この 2 因子の信頼性分析をした結果、第一因 。これは、元となった落合(1983)の因 子分析結果と同じ結果が得られた。 子では高い信頼性が得られた。表 4 に示しておく 共感性因子 個別性因子 0.81 0.64 表3 孤独感各因子の信頼性係数

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図 2 孤独感類型判別尺度の因子分析結果 共感性因子 個別性因子 1.私のことに親身に相談相手になってくれる人はいないと思う。* 0.48 0.05 2.人間は、他人の喜びや悩みを一緒に味わうことができると思う。 0.60 0.38 3.私のことをまわりの人は理解してくれていると、私は感じている。 0.47 0.00 4.私は、私の生き方を誰かが理解してくれていると信じている。 0.51 0.10 6.私の考えや感じを何人かの人はわかってくれると思う。 0.71 0.23 7.私の考えや感じを誰もわかってくれないと思う。* 0.67 0.11 10.私の生き方を誰もわかってくれはしないと思う。* 0.70 0.04 14.誰も私をわかってくれないと、私は感じている。* 0.73 -0.07 15.人間は、互いに相手の気持ちをわかりあえると思う。 0.48 -0.02 5.結局、自分はひとりでしかないと思う。 -0.44 0.46 8.自分の問題は、最後は、自分で解決しなくてはならないのだと思う。 0.23 0.51 9.人間は、本来、一人ぼっちなのだと思う。 -0.40 0.51 11.結局人間は、ひとりで生きるように運命づけられていると思う。 -0.36 0.40 12.私とまったく同じ考えや感じを持っている人が、必ずどこかにいると思う。* 0.02 0.26 13.私の人生と同じ人生は、過去にも未来にもないと思う。 0.23 0.39 16.どんなに親しい人も結局、自分とは別個の人間であると思う。 0.08 0.46 *逆転項目 表4 孤独感類型判別尺度の因子分析結果 【仮説①の検証:自己受容度が低い人は、高い人よりも失恋の原因を内的帰属する。】 (1)片思いの場合 自己受容が高い人と低い人とでは、低い人のほうが失恋の原因を内的帰属するかどうか を調べるために、片思いの場合を取り出してt検定を行った。その結果、有意差は見られ なかった(t=0.85, df=118, n.s.)。自己受容度低群において、内的帰属の選択個数平均が -0.12 であり、外的帰属をしていることがわかった。

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自己受容度 N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 t値 自由度 有意確率(両側) 高 53 -0.15 0.99 0.14 低 102 -0.12 1.13 0.11 内的帰属個数 表5 自己受容と片思い失恋原因帰属の分析結果 -0.19 118 0.85 (2)両思いの場合 また、自己受容の低い人のほうが失恋の原因を内的帰属するかどうかを、両思いの場合 を取り出してt検定を行った。その結果、有意差は見られなかった(t=0.80, df=135, n.s.)。 両思いで失恋をしたときは、原因を内的・外的のどちら片方にのみ帰属するということは ないことがわかった。 自己受容度 N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 t値 自由度 有意確率(両側) 高 47 0.45 1.40 0.20 低 90 0.28 1.04 0.11 内的帰属個数 表6 自己受容と両思い失恋原因帰属の分析結果 0.80 135 0.42 【仮説②の検証:孤独感が高い人は、低い人に比べて失恋からの回復に時間がかかる。】 (1)片思いの場合 孤独感が高い人と低い人とでは、高い人のほうが失恋からの回復に時間がかかるかどう かを調べるために、片思い 175 名の場合を取り出してt検定を行った。その結果、有意差 が見られ(t=3.54, df=58, p< .01)、孤独感が高い人の方が失恋からの回復に時間がかか るということがわかった。 孤独感 N 平均値 標準偏差 平均値のt 値 自由度 有意確率 (両側) 高 142 2.40 1.44 0.12 低 33 1.58 1.15 0.20 表7 孤独感と片思い時の失恋回復期間の分析結果 片思い時の失恋回復 3.54 58 0.00 (2)両思いの場合 また、孤独感が高い人の方が失恋からの回復に時間がかかるかどうかを、両思いの場合 を取り出してt検定を行った。その結果、有意差は見られなかった(t=0.35, df=141, n.s.)。 つまり、両思いの時は失恋の回復に孤独感は関係ないということがわかった。 孤独感 N 平均値 標準偏差 平均値のt 値 自由度 有意確率 (両側) 高 112 2.10 1.37 0.13 低 31 2.00 1.51 0.27 表8 孤独感と両思い時の失恋回復期間の分析結果 両思い時の失恋回復 0.35 141 0.73

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【仮説③の検証:両思いのほうが、片思いの時よりも失恋からの回復に時間がかかる。】 片思いと両思いに対して、両分野で 失恋経験のある 124 名のデータを使用 してt検定を行った。この結果、有意 差は見られなかった(t=0.70, df=117, n.s.)。つまり、片思いでも両思いで も失恋の回復時間に差はないという ことがわかった。 失恋からの回復期間 片思い 両思い 1カ月未満 41.13 48.39 4カ月未満 22.58 15.32 4~10か月未満 21.77 18.55 10か月~3年未満 7.26 8.06 3年以上 0.81 0.81 未回復 5.65 5.65 数値は% 表9 失恋からの回復期間 N 平均値 標準偏差 平均値の標準誤差 t値 自由度 有意確率(両側) 片思い 118 2.21 1.38 0.13 両思い 118 2.11 1.44 0.13 無回答 6 表10 失恋時と回復期間の分析結果 失恋回復 0.70 117 0.48 4.考察 仮説①は支持されず、自己受容と失恋の原因を帰属することは関連しないということが わかった。片思いの場合では、内的よりもむしろ外的に失恋原因を帰属している傾向が見 られた。お互いのことをさほどよく知っているというわけでもないので、自分のことが理 由でふられたと考えない、考えたくない傾向にあるのではと考えられる。両思い時の場合 では、原因帰属が内的にも外的にも片寄る傾向はないということがわかった。お互いを良 く知っているので、良いところも嫌なところも知っている上で関係を解消し、失恋した理 由も片思いの人よりは納得できるのではないだろうか。 仮説②では、片思いの時のみ仮説が支持された。つまり、孤独感が高い人ほど片思いの 時の失恋からの回復に時間がかかるということである。両思いの場合では、孤独感と失恋 の回復期間に関連はなかった。両思いだったひとの場合、孤独を感じるときは今まで当然 のように隣にいた人がいなくなったために寂しく感じるのだろう。また、孤独感が高くて も、ひとりで生きていけると考える人は、短期間で回復するのではないだろうか。 仮説③は支持されず、片思い・両思いの違いによって回復時間に差があるわけではにあ ということがわかった。どちらの分野でもすぐに回復する人は回復し、回復しない人はな かなか回復しないということである。個人のあいだで差があるということである。男女で 見てみると、片思いでも両思いでも女性の方が回復に時間がかかる傾向にあった。片思い 時の失恋において1 か月未満で回復した男性は 60%であるのに対し、女性は 35%、両思い 時の失恋において1 か月未満で回復した男性は 80%であるのに対し女性は 42%というよう に、男性は比較的回復が早いことがうかがえる。 本研究では、想定した結果が得られなかった。仮説が間違っていたとも考えられるが、 データの取り方が間違っていたと思われる。第一の問題として、質問紙調査の量が多く、

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無回答の項目も見られ、調査対象者が全てを答える集中力の妨げが起こったのではないだ ろうか。第二の問題として、友人に質問紙の配布を依頼したために、調査対象者が回答し ている間、わからないことがでてきても質問を受け入れられない状態にあり、調査対象者 の混乱を招いたのではないかとも考えられる。今後は、このようなことがないようにもっ と検討してから調査するよう、今後の研究につなげる。

引用文献

・落合良行 1979 大学生における孤独感の構造 静岡大学教育学部研究報告人文・社会 科学編,30,143-155. ・落合良行 1999 青年期における孤独感の構造 風間書房

・Simpson, J. A. 1987 The dissolution of romantic relationships : Factors involved in relationship stability and emotional distress. Journal of personality and social psychology, 53, 683-692 ・沢崎達夫 1993 自己受容に関する研究(1)―新しい自己受容測定尺度の青年期にお ける信頼性と妥当性の検討― カウンセリング研究,26(1),29-37. ・沢崎達夫 1994 自己受容に関する研究(2)―男女大学生における自己受容の様相を 中心として― カウンセリング研究,27(1),46-52. ・大坊郁夫・奥田秀宇(編) 1996 対人行動学研究シリーズ③親密な対人関係の科学 誠 信書房 ・飛田操 1989 親密な対人関係の崩壊過程に関する研究 福島大学教育学部論集,46, 47-55 ・飛田操 1997 失恋の心理 松井豊(編) 悲嘆の心理 サイエンス社,205-218. ・松井豊 1990 青年の恋愛行動の構造 心理学評論,33(3),355-372. ・松井豊 1993 セレクション心理学 12 恋ごころの心理学 サイエンス社 ・宮下一博・臼井永和・内藤みゆき 1991 失恋経験が青年に及ぼす影響 千葉大学教育 学部研究紀要,39(1),117-126. ・山本眞理子(編) 2001 心理測定尺度集Ⅰ-人間の内面を探る<自己・個人内過程> サイエンス社 32-36,214-221. ・和田実 2000 大学生の恋愛関係崩壊時の対処行動と感情および関係崩壊後の行動的反 応―性差と恋愛関係進展度からの検討― 実験社会心理学研究,40(1),38-49. [転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記までご連絡ください。] 著作責任者: 土田昭司[関西大学] 連絡先: tsuchida@kansai-u.ac.jp 最終更新日: 2007 年 8 月 17 日

参照

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