経済原論Ⅱ(7/3①)・マンキュー第 10 章①
第 10 章 開放経済下の総需要
① 主要な目的:財政・金融政策が開放経済下の総所得にどのような影響を及ぼすかを分析すること。
② マンデル=フレミング・モデル(Mundell-Fleming Model):IS-LM モデルの開放経済版
価格が一定という想定の下で、小国開放経済の総所得の変動を引き起こす要因を分析
(③ 最後に「大国の開放経済モデル」について若干言及する。)
10.1 マンデル=フレミング・モデル
鍵になる仮定:資本の完全移動を伴う小国開放経済
「小国」の仮定:この国の経済が世界市場の中ではごく小さく単独では、国際価格には何の影響も与
えない。 国際価格:例)財・サービスの世界価格、世界利子率、
ここではさらに、資金の完全移動(世界のどこの金融市場にもアクセスが可能である)を仮定する
⇒ 国内利子率(r)=世界利子率(
r
∗)
小国の仮定=この経済のいかなる活動も
r
∗に影響も与えない
財市場と IS*
曲線
IS 関数 :
Y =
C(
Y−
T)+
I(
r)+
G+
NX(
e)、
* ここでは第 5 章と同様に、
e
は自国通貨(日本円)表示の名目為替レートであると想定する。
それゆえ、
e
=何円/1ドルで、
e
の上昇はこの小国(日本)の為替レートの減価(円安ドル高)、
e
の低下は為替レートの増価(円高ドル安)を意味する
*
e
が上昇する(円安になる)と日本の純輸出
NX(e)は増加する。逆は逆。
NX'(e)>
0
(* 純輸出は実質為替レート
e
=
ep /*
p
= e PF / PH の関数であるが、
ここでは物価水準
p /*
pが一定なので、
NX(e)と考えても何の問題もない。)
e
Y
−
グラフ上のモデル
e
IS∗
小国の仮定(
r
= r
∗)より、
∗
IS 関数
)
(
)
(
)
(
Y
T
I
r
G
NX
e
C
Y
=
−
+
∗
+
+
⇒
Y
−
[
C
(
Y
−
T
)
+
I
(
r
∗
)
+
G
]
=
NX
(
e
)
⇒
(
Y
−
T
)
−
C
(
Y
−
T
)
+
T
−
G
−
I
(
r
∗
)
=
NX
(
e
)
⇒
SP +
SG−
I(
r∗)=
NX(
e)
Y
経済原論Ⅱ(7/3③)・マンキュー第 10 章③
10-2.変動為替相場制下の小国開放経済
変動為替レート制下:為替レート(
e
)は経済状態の変化に対応して自由に変動可能
財政政策
拡張的財政政策
e
LM∗
IS∗
⇒
IS*曲線が右にシフト
(
LM∗曲線はシフトしない)
[結果]
国民所得は変化せずに
e
∗
為替レートだけが増価
∗
Y Y
メカニズム:拡張的財政政策 ⇒ 乗数効果による国民所得の増加(通常の IS-LM 分析)
(一方で) ⇒ 国内総貯蓄の減少(利子率への上昇圧力:通常の IS-LM 分析)
⇒ 為替レートの増価(
e
の低下)
⇒ 純輸出の減少 ⇒(負の乗数効果)
⇒ 国民所得の減少(=乗数効果による国民所得の増加の効果)
金融政策
拡張的金融政策 ⇒ ∗
LM
曲線が右にシフト&
IS∗曲線はシフトしない
⇒ 国民所得が増大&為替レートの減価
メカニズム:貨幣供給の増大 ⇒ 利子率への低下圧力(⇔資本の海外流出圧力: 通常の IS-LM 分析)
⇒ 為替レートの減価 (
e
の上昇)
⇒ 純輸出の増加 ⇒(乗数効果)⇒ 国民所得の増加
貿易政策
輸出促進的(=輸入制限的)貿易政策⇒ ∗
IS 曲線が右にシフト&
LM
∗曲線はシフトしない
⇒ 国民所得は変化せずに為替レートだけが増価
メカニズム:輸出促進的政策 ⇒ 純輸出の増加 ⇒乗数効果による国民所得の増加
(一方で) ⇒ 為替レートの増価 ⇒ 純輸出の減少 ⇒(負の乗数効果)
⇒国民所得の減少(=輸出促進的政策による国民所得の増加の効果)
経済原論Ⅱ(7/7①)・マンキュー第 10 章④
10-3.固定為替相場制下の小国開放経済
固定為替レート制下:為替レート(
e
)は事前に決定された一定にレートで固定される
固定為替レート制はどのように機能するか
中央銀行は「固定レート」を維持するために常に為替市場に介入(ダーティフロート制)
例:日本円を「1 ドル=100 円に固定した」(
e
=
100
)としよう。
日本銀行:外国為替市場で
1 ドル=110 円⇒円買いドル売り介入、1 ドル=90 円⇒円売りドル買い介入
⇒ 金融政策は為替相場の維持のためだけに使われる ⇔ 実質的に金融政策が出来ない。
財政政策
拡張的財政政策
e
LM∗
IS∗
⇒
IS*曲線が右にシフト
(LM*曲線はシフトしない)
⇒ 国民所得は変化せずに
為替レートが増価(するだけ)
e∗
(しかしこれは許されない)
⇒ 自国通貨を供給(円売りドル買い介入)
(固定相場を維持するために
)
[結果]
為替レートは元の固定水準へ
国民所得は増加
Y∗
Y
金融政策
拡張的金融政策 ⇒
LM
∗曲線が右にシフト&
IS∗曲線はシフトしない
⇒「国民所得が増大&為替レートが減価」
⇒ (固定相場を維持するために)自国通貨を需要(吸収)(= 縮小的金融政策)
⇒
LM
∗曲線は左にシフトし元の位置へ ⇒ 国民所得も為替レートも元の水準へ
つまり、「固定レートの採用 ⇔ 金融政策の放棄」
貿易政策
輸出促進的(=輸入制限的)貿易政策
⇒
IS∗曲線が右にシフト&
LM
∗曲線はシフトしない
⇒(固定相場を維持するために)自国通貨を供給
⇒
LM
∗曲線が右にシフト
⇒ 為替レートが減価して元の固定水準へ&同時に国民所得の増加
経済原論Ⅱ(7/7②)・マンキュー第 10 章⑤
マンデル=フレミング・モデルの政策効果のまとめ
為替レート制度
変動制 固定制
政策
Y、
e
、
NX
Y 、
e
、
NX
拡張的財政政策 0 ↓ ↓ ↑ 0 0
拡張的金融政策 ↑ ↑ ↑ 0 0 0
輸出促進的貿易政策 0 ↓ 0 ↑ 0 ↑
(注意:
NX
=
NX
(e
)
,
e
↑=為替レートの減価=円安)
(10-4.利子率格差は省略します)
10-5.変動為替相場制と固定為替相場制のどちらがよいか
それぞれの相場制度への賛成論と反対論
経済学者における多数派:変動為替レート制を支持
主要な理由:金融政策を雇用や物価安定等の「為替レート」以外のものに自由に使える。
一部の経済学者が固定為替レートを支持する理由
為替レートの不確実性 ⇒ 国際貿易を阻害する。
為替レートの(投機的要因による)過度の変動 ⇒ 実体経済に破壊的な影響
(1997 年~98 年のアジア通貨危機)
金融政策への自己規制
しかし、変動為替相場制か固定為替相場制かは、それほど厳密な二者択一ではない!!
固定為替相場制下でも、為替レートの変更はある程度可能
変動為替相場制下でも、実質的な為替目標を持って行動している国も!!
投機攻撃、カレンシーボード;ドル化
投機攻撃
例:1997 年から 1998 年にかけて起きた東アジアの通貨危機、
固定相場を維持するためには、自国通貨が減価したら、ドル(外国通貨)で買い支える必要
しかし、大量の自国通貨「売り」があれば、大量のドルが必要 ⇒ 外貨準備がゼロになる可能性
⇒ これを避けるための工夫:
カレンシー・ボート:自国通貨を支えるために十分な外貨(ドル)を準備すべき
⇒ ドルの準備が大量に必要なら、最初からドルを自国で使った方が良いのでは? ⇒ ドル化?
経済原論Ⅱ(7/7③)・マンキュー第 10 章⑥
<投機攻撃>
* 架空の国を用いて本質的と思われる部分だけを示す
Tという国が存在し、その国の通貨をバーツと呼ぶ
国際通貨が存在し、それをドルと呼ぶ。
前提① T国は小国である
前提② T国の通貨バーツは最初、実力以上の水準でドルと固定されていた。
T国:(危機の前)1 ドル=25 バーツの固定相場を維持(しかし、バーツは過大評価)
投機によって儲けようと考える機関や人々(例えば、ヘッジファンド)
1ドル=25 バーツの時に「1ドル=25 バーツ」でのドル買いバーツ売りの先物の契約
危機の前:少しずつ「1ドル=25 バーツ」でバーツを買う
投機攻撃:「1ドル=25 バーツ」でバーツを一度に大量に売る
ヘッジファンド以外も「バーツが危ない」と思って、バーツを売る
*この段階でヘッジファンドは得も損もしない
T国: バーツを買い支えるのが不可能に ⇒ 固定相場を放棄(せざると得ない)
市場価格:1 ドル=50 バーツ(バーツの暴落…バーツの実力に近い)
投機によって儲けようと考える機関や人々
バーツ暴落後:直物でバーツを買い戻す(1 ドル=50 バーツ)
先物のバーツ売りを実行(25 バーツ=1 ドル、つまり 50 バーツ=2 ドル)
1 ドル ⇒ 50 バーツ ⇒ 2 ドル ⇒ 100 バーツ ⇒ 4 ドル ⇒
(直物市場) (先物契約) (直物市場) (先物契約)
1 ドルの元手で何ドル儲けることが可能だろうか?
危機を防ぐ方法
例:通貨スワップ: もしもの時に通貨を融通し合う取決め
例: “日韓通貨スワップ”(協定はすでに終了)
3目標同時達成の不可能性
1つの国が以下の3つを同時に達成することは不可能
① 自由な資本移動、② 固定相場、③ 独立した金融政策
アメリカ:①と③を選択 ⇒ ②は放棄
利子率が世界市場で決定されるとすると、変動相場制下の小国に近くなる。
(しかし、アメリカの場合は自国の利子率が世界利子率に大きな影響を与えている)
香港 :①と②を選択 ⇒ ③は放棄
利子率は世界市場で決まるので、固定相場制下の小国に近い。
中国 :②と③を選択 ⇒ ①を放棄
国内利子率が世界利子率と異なるので、②と③が可能に!!(閉鎖経済と近くなる)
経済原論Ⅱ(7/7④)・マンキュー第 10 章⑦
10-6.短期から長期へ:価格水準の変化を伴うマンデル=フレミング・モデル
価格水準が変化する場合:名目為替レート(
e
)と実質為替レート(
e
=
eP
∗
P
)の区別が必要
IS*関数 :
Y
=
C
(
Y
−
T
)
+
I
(
r
∗
)
+
G
+
NX
(
e
)
=
C
(
Y
−
T
)
+
I
(
r
∗
)
+
G
+
NX
(
eP
∗
P
)
、
LM*関数:
M
P
=
L
(
r
∗
,
Y
)
、但し、
P=国内価格、
P
∗=国際価格。
現実の GDP(
Y)が自然率水準(
Y
)より大きければ
P↑&
e
↓(円高)、
逆に
Y
<
Y
であれば
P↓&
e
↑(円安)
価格調整が完了した状態=(第 6 章で分析した)長期均衡
e
*
LM
*
IS
P↓&
e
↑
e
*
*
Y
Y Y
10-7.結論的覚書
現実の経済には、モデルが想定しているような「小国」は存在しない。
日本やアメリカのような国は、閉鎖経済と小国開放経済の両方の側面をもっている。