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熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repositor Title 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の Granular Osmiophilic Material の光学顕微 出 Author(s) 植田, 明彦 Citation Issue date 20

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熊本大学学術リポジトリ

Kumamoto University Repository System

Title 皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の

Granular Osmiophilic Material の光学顕微鏡による検 出

Author(s) 植田, 明彦

Citation

Issue date 2009-03-25

Type Thesis or Dissertation

URL http://hdl.handle.net/2298/16552

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学位論文

Doctoral Thesis

皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の

Granular Osmiophilic Materialの光学顕微鏡による検出

(Detection of Granular Osmiophilic Material of CADASIL by Light Microscopy)

植田 明彦

Akihiko Ueda

熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻神経内科学

指導教員

内野 誠 教授

熊本大学大学院医学教育部博士課程臨床医科学専攻神経内科学

2009年3月

(3)

学位論文

Doctoral Thesis

論文題名:皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症の

Granular Osmiophilic Materialの光学顕微鏡による検出

Detection of Granular Osmiophilic Material of CADASIL

by Light Microscopy

著者名:

植田 明彦

Akihiko Ueda

指導教員名:

熊本大学大学院医学教育部博士課程 臨床医科学専攻 神経内科学

内野 誠 教授

審査委員名:

脳機能病態学担当教授

池田 学

細胞病理学担当教授

竹屋 元裕

病態情報解析学担当教授

安東 由喜雄

医療情報医学担当教授

宇宿 功市郎

2009年3月

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目次 1. 要旨 1 2. 学位論文の骨格となる参考論文 2 3. 謝辞 3 4. 略語一覧 4 5. 研究の背景と目的 5 5-(1) はじめに 5-(2) CADASIL の歴史 5-(3) CADASIL の臨床像 6 5-(4) CADASIL の画像所見 8 5-(5) CADASIL の遺伝子変異 11 5-(6) CADASIL の病理所見 12 5-(7) 当施設での CADASIL の診断の現状 14 5-(8) GOM の研究 15 5-(9) 当施設での CADASIL 研究の現状 17 5-(10) 研究の目的 19 6. 実験の方法 20 7. 実験結果 23 8. 考察 27 8-(1) 本結果の解説 8-(2) 今後の展望 28 9. 結語 31 10. 参考文献 32

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1. 要旨

Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy (CADASIL)は、Notch3 の点変異を原因として発症する常染 色体優性の遺伝性脳血管障害である。臨床像は、片頭痛、危険因子のない脳梗 塞、認知症、精神症状であり、画像所見では、多発性の脳梗塞を認め、大脳白

質に特異的画像所見を形成する。病理学的には、光学顕微鏡レベルで PAS 陽性

の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration を認め、電子顕微鏡レベルで Granular Osmiophilic Material (GOM) が観察される。遺伝子変異は主に点変異で

あり、Notch3 の細胞外ドメインに不対のシステイン残基が形成される。 症例の

蓄積により、このような臨床像、画像、病理、遺伝子変異といったCADASIL の

特徴が明らかにされてきたが、その病態生理は十分解明されていない。

GOM は電子顕微鏡レベルで 1 μm 未満の電子密度が高い顆粒状物質として、 血管平滑筋の基底膜上でその細胞膜に近接して観察される。光学顕微鏡レベル のPAS 陽性の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration は主に脳に観察され、 生検可能な皮膚・骨格筋には観察されないが、GOM は脳だけでなく、皮膚・ 骨格筋組織でも観察されるため、病理学的診断に用いられているとともに研究 の対象としても注目されている。しかし、GOM は電子顕微鏡レベルの所見で あり、皮膚・骨格筋の GOM を光学顕微鏡レベルで観察し、診断や研究に用い た報告はない。 本検討で我々は GOM を光学顕微鏡レベルで観察する方法を見いだした。骨 格筋の凍結切片をCarnoy 液(クロロホルム:エタノール:無水酢酸= 6:3:1)で固定 し、PAS -ヘマトキシリン染色を行った。GOM に相当する 1 μm 未満の顆粒が PAS 陽性の基底膜上に並ぶヘマトキシリン陽性の顆粒として観察された。本所 見は他の疾患の患者には観察されず、CADASIL に特異的であることから GOM に相当する光学顕微鏡所見であると考えられた。 本研究成果により、GOM の観察を光学顕微鏡レベルでも可能となった。本 方法は電子顕微鏡による GOM 検出による病理学的診断法と比較し、簡易でど の施設でも施行可能であるため、病理診断としてのスクリーニング方法として 有用であると考えられた。また、今後、GOM の性質を解明する研究を光学顕 微鏡レベルでも行うことが可能になった。

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2 2. 発表論文リスト

1. A Ueda, T. Hirano, K. Takahashi, R. Kurisaki, H. Hino, E. Uyama, M Uchino. Detection of granular osmiophilic material of cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy by light microscopy in frozen sections. Neuropathology and Applied Neurobiology 2009; 35: 618-622. 2. 植田明彦、平野照之. CADASIL/CARASIL Clinical Neuroscience 中外出 版社2009; 27: 1258-1259.

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3. 謝辞 本研究を行うにあたり、素晴らしい研究環境を整えていただき、かつ終始あ たたかく全般的に御指導下さいました熊本大学大学院医学薬学研究部神経内科 学分野教授・内野誠先生に深く感謝を申し上げます。 また、本研究の全般のご指導を賜りました熊本大学大学院神経内科学分野の 医学博士・平野照之先生に心から感謝致します。 本研究において、病理組織の技術的なご助言を賜りました熊本大学大学院機 能病理学分野教授 伊藤隆明先生、同助教の宇高直子先生、同研究補佐員の加 賀矢間元子、上妻宏子様、当教室の研究補助員であります岡本シヅノ様に深く 感謝致します。 本疾患の特異的な抗体を分与くださいました国立長寿研究センターの高橋慶 吉先生に深く感謝致します。 本研究にあたり有益なご助言をくださいました熊本大学医学薬学研究部神経 内科学分野 日野洋健先生(現 江南病院)、宇山英一郎先生(現 熊本託麻台 病院)に深く感謝致します。 最後に本研究は患者様のご協力の賜物であることをここに銘記致します。 平成21 年 11 月 植田明彦

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4 4. 略語一覧

CADASIL: Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy

GOM: Granular Osmiophilic Material PAS: Periodic acid Schiff

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5. 研究の背景と目的 5-(1) はじめに

脳卒中は高血圧や耐糖能異常などの危険因子に加齢などの要因が加わって発 症に至る環境因子の影響が大きい疾患とされていたが、近年の分子遺伝学的研 究の進歩とともに脳卒中の発症に脳卒中感受性遺伝子の関与も少なくないこと が 明 ら か に さ れ て い る 。Cerebral Autosomal Dominant Arteriopathy with Subcortical Infarcts and Leukoencephalopathy (CADASIL) はそのような遺伝性脳卒 中の一つであり脳血管障害の病態を解明するうえで極めて重要な疾患である。 5-(2) CADASIL の歴史 CADASIL の発端者は、フランス西部の Loire-Atlantique 地方の 50 歳男性であ る (Tournier-Lasserve E, et al., 1991) 。1976 年、発端者は脳梗塞を繰り返したた め受診し、その際に撮影した頭部 X 線 CT にて大脳白質に広範な低吸収域を認 めた。その患者には脳血管障害の危険因子、特に高血圧の既往はなかった。そ の10 年後、その娘が同院を受診した。片頭痛および一過性脳虚血発作の既往が あり、頭部 X 線 CT にて小梗塞および父親と同一の大脳白質の広範な低吸収域

を呈していた。本疾患については、1988 年に “recurrent stroke with abnormal white matter with new mitochondrial myopathy”として初めて報告された (Bousser MG, et al., 1988)。その後の遺伝子解析により 1993 年 19 番染色体の短腕に連鎖す ることが明らかとなり、Cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopthy (CADASIL)と命名された (Tournier-Lasserve E, et al., 1993)。1996 年に Notch3 の点変異であることが示され (Joutel A, et al., 1996) 、 本 疾 患 の 病 態 生 理 の 解 明 に お い て 重 要 な 1 歩 と な っ た 。 そ の 後 相 次 い で CADASIL 症例が報告され、全大陸で数百家系に及んでいる。本邦でも熊本大 学神経内科で1995 年に経験した 52 歳の男性が発端者となり、2000 年に宇山ら によって本邦で初めての家系として報告された (Uyama E, et al., 2000)。 5-(3) CADASIL の臨床像 CADASIL の臨床像については、1995 年にフランスの Chanbriat らにより 7 家 系148 例の臨床像が (Chanbriat, et al., 1995)、1998 年にはドイツの Dichgans らに より 29 家系 102 例の臨床像が報告されている (Dichgans, et al., 1998)。

(10)

6 CADASIL の4大症状は、片頭痛、虚血性脳血管障害、精神症状、認知症であ る。 前兆を伴う片頭痛 CADASIL 患者の 20-40%に前兆を伴う片頭痛が観察され、その頻度は、一般 人口における頻度の約 5 倍程度である。一方、前兆のない片頭痛の頻度は一般 人口と同程度である。前兆を伴う片頭痛が初発症状であり、平均年齢は 30 歳 (6-48 歳 、 平 均 年 齢 は 女 性 26 歳 、 男 性 36 歳 ) で あ る (Chabriat H, Tournier-Lasserve E, et al. 1995; Vahedi K, et al., 2004)。ほとんどの片頭痛発作は、

感覚や視覚の前兆が 20-30 分続いた後、頭痛が 2-3 時間続く。しかし、

CADASIL 患者の 50%に運動麻痺や遷延する前兆など通常の片頭痛発作では見 られない症状が観察され、時には、意識の混濁、発熱、髄膜炎、昏睡といった 重度の発作が生じることもある (Feuerhake F, et al., 2002; Schon F, et al., 2003) 。 片頭痛発作の頻度は、ばらつきがあるが、そのきっかけは通常の典型的な片頭 痛と変わらない。片頭痛は脳梗塞を発症する40 歳には消失する (Dichgans M, et al., 1998)。一過性全健忘を認める片頭痛も報告されている(Sathe S, et al., 2009)。

皮質下の脳虚血

一過性脳虚血発作と脳梗塞は CADASIL 患者で最も高頻度に起こる症候であ

り、その60-85%に発症する (Chabriat H, Vahedi K, et al., 1995; Dichgans M, Mayer M, et al., 1998; Bousser M, et al., 2001; Peter N, et al., 2004)。繰り返す脳梗塞は CADASIL の重要な臨床像である。その頻度は、1 年間に 100 人あたり 10.4 人と される (Peter N, et al., 2004)。脳梗塞の発症年齢は平均 49 歳(20-70 歳)であり、 ほとんどの患者では、糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症などの脳血管障害の 危険因子がないことが特徴である (Tournier-Lasserve E, Joutel A, et al., 1993; Bousser MG, et al., 1994; Chabriat H, et al., 1995; Dichgans M, et al., 1998; Desmond DW, et al. 1999)。しかし、一部に危険因子を有する患者もあり、高血圧がある

例が20%、高脂血症や喫煙は 50%に認め、CADASIL 例における喫煙習慣と早期

の脳梗塞発症との関連が指摘されている。脳梗塞のほとんどは皮質下梗塞で、

その 67%がラクナ症候群 (純粋運動型、感覚障害、片麻痺、運動感覚障害、構

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り返し、徐々に歩行障害が進行し、排尿障害や仮性球麻痺へと進展する。症候 性の脳梗塞のほとんどは皮質下梗塞で白質や基底核、時に脳幹部に梗塞巣が形 成されるが、脊髄梗塞は稀である。 気分障害と無気力 精神症状として、気分障害を CADASIL 患者の 20%以上に認め、一般に重度 のうつ症状を認める。ときに躁症状を伴うこともあり、MRI で CADASIL に特 徴 的 な 白 質 病 変 が み ら れ る ま で 双 極 性 障 害 と 誤 診 さ れ て い る こ と も あ る (Baudrimont M, et al., 1995; Chabriat H, et al., 1995; Dichgans M, et al., 1998; Desmond DW, et al., 1999; Kumar SK, et al., 1997)。無気力は、自発的な行動の低

下に関連したやる気の欠如であり、患者の 40%にみられ、うつ症状と独立した 主要な臨床症状と認識されている (Reyes S, et al., 2009)。精神病はフランスの 1 家系で報告されており、統合失調症を認めた症例報告もある。脳血流の障害が 認知機能障害につながり、脳梗塞発症前にすでに前頭葉機能が低下する場合も ある。CADASIL 患者では遂行機能が障害され、精神機能や集中力が低下し、 運動も遅くなる。 認知症 認知機能障害はCADASIL で2番目に多い臨床症状である。認知症は 40 歳か ら70 歳の CADASIL 患者で 80%以上に認める。ほとんどの症例で、早期の症候

として実行機能障害がみられ、Wisconsin カードテストや trail-making test などで 異常が検出される (Taillia H, et al., 1998; Dichgans M. 2009)。42 例の症候性患者 の検討では、35-50 歳の症例全例に実行機能障害を認めている (Buffon F, et al., 2006)。認知障害は年齢とともに重度となる。

その他の症状

その他の臨床症状はCADASIL で一般なものはない。痙攣は 5-10%の患者に認

める(Baudrimont M, et al., 1993; Chabriat H, et al., 1995; Dichgans M, et al., 1998; Desmond DW, et al., 1999)。脳出血は、CADASIL の症状として注意が必要であり、 高血圧を呈した数例で報告されている (Baudrimont M, et al., 1993; Choi JC, et al., 2006)。特に抗血小板薬を使用中に脳出血を合併する例が多く、今後、 CADASIL 患者の脳梗塞発症予防に抗血小板薬を使用すべきか否か検討が必要

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8 である。 CADASIL では、脳以外に臓器障害を認めないことも、特徴のひとつに挙げら れる。心筋梗塞や腎障害を発症した例が数例報告されているに過ぎない。 CADASIL の 4 大症状はそれぞれ独立したように見えるが、それらは大半が連続 している。前兆を伴う片頭痛が30 歳頃に起こり、虚血性脳障害と気分障害が 40 歳から 60 歳で発症し、50 歳から 60 歳で認知症が生じる (Bousser MG, et al., 1994; Chabriat H, et al., 1995; Dichgans M, et al., 1998; Vahedi K, et al., 2004) 。60 歳で歩行障害が出現し、65 歳では寝たきりになる。平均年齢は男性が 65 歳、女 性が71 歳である (Opherk C, et al., 2004)。少数例の報告であるが、典型的な経過

より急速に進行する例や進行の遅い例、あるいは60 歳以上の高齢になって発症

する例もある (Opherk C, et al., 2004; Mourad A, et al., 2006)。総じて、CADASIL は若年、中年で発症し、25 年以内に末期に至る疾患で、完全に寝たきりになり、 認知症を発症する。 本邦の CADASIL の臨床像 1987 年から 2008 年に報告された CADASIL と診断された患者は 38 家系 48 例 であった。発症年齢を局所神経症候の発現した時期とすると、15 歳から 71 歳に またがり(平均年齢 42.3±11.4 歳)、血圧は境界型の1例を除き、正常ないし 低血圧であった。初発症状としてはTIA/脳虚血発作が 21 例で最も多く、次い で浮動性めまいや回転性めまいが 7 例、次いで片頭痛が3例であり、眼筋麻痺 による複視が 2 例、うつ症状が 2 例である。経過中に片頭痛は 45 例中 18 例 (40%)にみられ、TIA/脳虚血発作は 37 例(82.2%)、認知症は 45 例中 22 例 (48.9%)にみられ、うつ症状などの情動異常は 44 例中 17 例(38.6%)にみら れている (Uchino M. 2008)。 本邦の CADASIL の出血合併例の特徴 本邦においてこれまで抗血栓療法中に脳出血を合併した例が少なからず報告 されている(Kotorii S, et al., 2006)。自験例においても抗血栓療法中に脳出血を発 症した例が数例ある。韓国からも日本と同様に脳出血合併例が報告されている (Oh JH, et al., 2008)。一方、欧米からは、抗血栓療法中の脳出血発症例の報告は 少なく(Werbrouck BF, et al., 2006)、東洋人の CADASIL の特徴かもしれない。今 後、CADASIL の抗血小板薬使用状況に関して、全国規模の実態調査が必要で

(13)

ある。

5-(4) CADASIL の画像所見

大脳の白質病変およびラクナ梗塞は CADASIL の重要な臨床像である。MRI

で検出される大脳の白質病変は CADASIL に特徴的であり、特に側頭極、前頭

極の白質病変は特異性が高く、CADASIL 患者の抽出に用いられている。

CADASIL に特異的な白質病変 MRI FLAIR 左図 前頭極の白質病変、右図 側頭極の白質病変

前兆を伴う片頭痛の早期発症例では、MRI が例外的に正常なこともあるが (Golomb MR, et al., 2004)、MRI 変化は片頭痛以外の症状より 10 年から 15 年ほど 前に先行して生じる。MRI の異常は 30 歳前後で起こりはじめ、年齢とともに進 行する (Tournier-Lasserve E, et al., 1993; Bousser MG, et al., 1994; Tournier-Lasserve E, et al., 1991; Chabiat H, et al., 1998; Dichgans M, et al., 1999)。35 歳以降では、遺

伝子変異のあるすべての症例にMRI 異常を認める。早期から起こり、最も高頻 度の異常は T2 強調画像と FLAIR 画像の高信号である。初期では点状、結節状 で側脳室周囲や半卵円中心に形成される。それらの異常はのちにび漫性に形成 され、多くは左右対称性である。ほどんどの症例で側脳室周囲や外包に大脳の 白質病変を認め、CADASIL に特徴的である。ただ、側脳室周囲や外包の白質 病変は高血圧患者やBinswanger 病の患者でも観察されるため、特異的所見では ない。一方、側頭極および前頭極の白質病変は CADASIL 以外の疾患では稀で

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前頭極の白質病変はCADASL患者を抽出する際に重要である。また、基底核 や視床も障害され、時に脳幹や帯状回も障害されることもあるが、これらの所 見はCADASⅡに類似した白質病変を形成する多発性硬化症との鑑別点である (Chabriat,Hetal,1999)。 ラクナ梗塞はTl強調l画像で結節性またはより大きな領域の低信号域として検 出される。それらの梗塞は大脳の白質病変であるT2強調画像の高信号域と同じ 領域に形成されるが梗塞の方が白質病変より年齢的には高齢で生じる(Chabriat H,etal,1998;HerveD,etaL,2009)。通常、高血圧を基礎疾患としたラクナ梗塞 は血行力学的に負荷がかかりやすい基底核領域の穿通動脈領域に梗塞が形成さ れるが、CADASⅡ患者では、基底核領域だけでなく、大脳の表在枝領域に梗 塞が形成されることもある1大脳Q表正枝領域1二.睦通賞ユー高.血圧性の.ZZ士梗 塞住jI鍼{貞狐量.二上I主な.f、曇.、素荏技領域1M、梗塞囚多.f・陸勇一塞栓性磯」EEl二よる ものであるため、CADASⅡ患者に形成される表在枝領域の梗塞はラクナ梗塞 カミ篝陰性磯庄I二よ則]梗塞カミ鑑別jnS必要蚕めゑ具一 ,..-ず_E二二一:三宅Z苦-.丑・ニー努努 毎由 ‐“‐■乎乎刮刮¥》邪早哩リリD伊ロ七山 CADASL患者の大脳表在枝の小梗塞、 図左および中:IVmlFLAm画像;図右:拡散強調画像 1V皿IのT2*で検出される微小出血もCADASⅡの特徴の一つである。 CADASⅡ患者の25~69%に観察されのichgansM,etaL,2002)、年齢とともに増 加する(vandenBoomR,etaL,2003ルラクナ梗塞と同様、通常は高血圧を基礎 疾患とした微小出血は基底核領域や視床に形成されるが、CADASLではそれ らの領域だけでなく、皮質領域にも微小出血が形成される。 、 10 ■

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CADASIL の皮質領域の微小出血(矢印)MRI T2* 左 CADASIL Notch3 R133C, 右 Notch3 R75P

5-(5) CADASIL の遺伝子変異

CADASIL は Notch3 の遺伝子変異により生じる常染色体優性遺伝の疾患であ る (Joutel A, et al., 1996)。Notch3 は血管平滑筋の細胞膜上に発現する一回膜貫 通型のレセプターであり、290kD, 2,321 のアミノ酸から構成される。細胞外ド メインは34 個の epidermal growth factor repeats (EGFR)、3 個の Notch/Lin12 リピ ート、1個の膜貫通ドメイン、細胞内ドメインから構成されている。

Notch3 の機能としては、Notch3 過剰発現モデル動物はないが、Notch3 のノッ クアウトマウスでは、血管は形成されるが、動脈の形成不全が生じ、動脈の血 管壁が肥厚しないことが明らかにされている (Domenga V, et al., 2004)。

1996 年に Notch3 遺伝子が同定され、現在に至るまで 150 以上の Notch3 の遺 伝子変異が報告されてきた。Notch3 は 33 exon あるが、CADASIL における遺伝 子変異はexon 2-24 であり、EGFR をコードしている。特に exon 3, 4 は EGFR の 2-5 をコードしているが、既知の遺伝子変異の 40%以上、家系の 70%以上が exon 3,4 に集中する。遺伝子変異の 95%以上が missense 変異であり、残りは、 small in-frame deletions か splice-site mutations である。このように大多数の遺伝子 変異は、Notch3 細胞外ドメインにおける点変異であり、細胞外ドメインに不対 のシステイン残基が形成されることで共通している。EGFR は 3 対のジスルフ ィド結合で構成されている。CADASIL のアミノ酸変異は、そのジスルフィド 結合のシステイン残基が別のアミノ酸に置換したものと、ジスルフィド結合と は別の場所にあるアミノ酸がシステイン残基に変異したものとがある。このよ うに CADASIL において、Notch3 の細胞外ドメインに不対のシステイン残基が 形成されることが本病態にとって重要なことと考えられる。

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12 5-(6) CADASIL の病理所見

CADASIL では、脳血管に光学顕微鏡レベルで観察される PAS 陽性の顆粒状 変 性 と 全 身 の 血 管 に 電 子 顕 微 鏡 レ ベ ル で 観 察 さ れ る Granular Osmiophilic Material (GOM) の2つの特徴的な病理所見がある (Ruchoux MM., 1997)。PAS 陽性の顆粒状変性は主に脳に観察され、皮膚や骨格筋では観察されないが、 GOM は皮膚・骨格筋でも観察されるため、GOM の電子顕微鏡による検出は病 理学的診断に用いられている。

脳血管障害を来す CADASIL では、脳の髄膜血管や髄質動脈に PAS 陽性の顆

粒状変性が観察される。この顆粒状変性は、100-300μm の小動脈の変性した中 膜に観察され、HE 染色ではエオジン好性に PAS 染色では PAS 陽性の顆粒とし て観察される。このようなPAS 陽性の顆粒状変性は、心臓 (Baudrimont M, et al., 1993)、脾臓 (Gutierrez-Molina M, et al., 1994) などの一部の動脈にも観察される が、皮膚や骨格筋などの生検可能な組織では観察されない。皮膚や骨格筋の光 学顕微鏡観察では、動脈の血管平滑筋は保たれており、脳のような特徴的な病 理像は報告されていない。

一方、電子顕微鏡による観察では、皮膚・骨格筋に電子密度の高い顆粒状物 質が観察される。本病理所見は、Granular Osmiophilic Material (GOM)と命名さ れており、CADASIL に特異的な病理所見である。皮膚や骨格筋では、主に細 動脈に観察され、動脈の血管平滑筋細胞の基底膜上で細胞膜に近接する部位に 局在する。その全体の大きさは1μm 未満であり、8 nm 程度の小顆粒が集合し たものとして観察される。 これまでの報告では、GOM は皮膚や腓腹神経では電子顕微鏡レベルで無数 に観察されるが、皮膚や腓腹神経のパラフィン切片を光学顕微鏡検で観察して も、GOM の存在を検出できないと記載されている(Ruchoux MM, et al., 1994, Schröder JM, et al., 1995)。また、骨格筋においても細動脈には、無数の GOM が 存在することが電子顕微鏡による観察で確認されているが、光学顕微鏡による

観察で骨格筋の凍結切片にてGOM の存在を検出した報告はこれまでにない。

GOM の歴史

GOM は、1991 年に家族歴のない 40 代男性 3 例の脳血管性認知症の患者で初 めて報告された (Estes ML, et al., 1991) 。脳の生検組織にて、脳の小血管の中 膜に観察される電子密度の高い顆粒 granular electron-dense material を報告して

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いる。本顆粒は、PAS 陽性であり、HE ではエオジン好性の顆粒とヘマトキシリ ン好性顆粒の複合体であると記載されている。CADASIL においては 1993 年に Braudimont により、エオジン好性の顆粒として報告され (Braudiomot M, et al., 1993)、1994 年には Gutiérrez-Molina により PAS 陽性の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration として報告されている (Gutiérrez-Molina M, et al., 1994)。こ れらの顆粒状変性は、CADASIL に類似した脳血管性認知症と大脳の白質病変 を 呈 す る 疾 患 で あ る Binswanger 型 白 質 脳 症 で は 観 察 さ れ な い こ と か ら CADASIL に 特 徴 的 な 病 理 所 見 と さ れ て き た (Baudrimont M, et al. 1993; Gutiérrez-Molina M, et al., 1994; Gray F, et al., 1994; Lammie GA, et al., 1995)。また、 こ の PAS 陽 性 の 顆 粒 状 変 性 は 主 に 脳 組 織 で 観 察 さ れ る が 、 時 に 脊 髄 (Gutiérrez-Molina M, et al., 1994) や脾臓 (Gutiérrez-Molina M, et al., 1994)、心臓 (Baudrimont M, et al., 1993) にも観察されることが報告され、全身性の血管病で ある可能性が考えられるようになっていた。1994 年に Rouchoux らは、電子顕 微鏡にて皮膚・骨格筋組織を再度検索したところ、皮膚・骨格筋組織の血管平 滑筋周囲にも granular, electron-dense, osmiophilic material が検出されている (Rouchoux MM, et al., 1994)。1995 年には、腓腹神経の動脈で観察されている (Schröder JM, et al., 1995)。このように脳で観察された高い電子密度顆粒が電子 顕微鏡下で観察されることが相次いで報告され、CADASIL は全身の血管病で あることが明らかになった。1995 年 Rouchoux の報告のなかでそれまで granular, electron-dense, osmiophilic material と記載されていた CADASIL に特徴的な病理

所見を GOM と省略され、本病理所見は GOM と記載されるようになった

(Rouchoux MM, et al., 1995)。Rouchoux の報告以降、皮膚・骨格筋生検による GOM が数多く報告されている(Goebel HH, et al. 1997; Furby A, et al., 1998; Mayer M, et al., 1999; Schröder JM, et al., 2005)。

CADASIL の病理学的診断において GOM の存在は歴史的にも重要である。 GOM は CADASIL の原因遺伝子が Notch3 と同定された 1996 年より以前から CADASIL に特徴的な病理所見として知られていた。2000 年には Notch3 の細胞 外ドメインの抗体が作成された。2001 年には抗体を作成したフランスの一部の 施設で、その Notch3 の細胞外ドメインの免疫染色による病理学的診断で、 CADASIL 症例を抽出できることが報告されている。しかし、本方法は Notch3 の細胞外ドメインを有する一部の施設により行われているのみであり、多くの 施設では、電子顕微鏡による GOM の検出により病理学的診断を行っているの

(18)

14 が 現 状 で あ る 。 し た が っ て 、 電 子 顕 微 鏡 に よ る GOM の検索は、いまだ CADASIL の病理学的診断の重要な位置を占めている。 GOM による病理学的診断の意義 CADASIL の確定診断は遺伝子検査により Notch3 の遺伝子変異を確認するこ とであるが、診断のために全例、exon の 2-24 を調べることは、膨大な費用と 時間がかかるため、ほとんどの施設では、exon 3,4 の hot spot のみを遺伝子検査 している。exon 3,4 陰性例では、Notch3 に遺伝子変異がないのか、Notch3 の exon 3,4 以外に遺伝子変異があるのかを判別できない。Notch3 の exon 3,4 以外に

遺伝子変異のある CADASIL 患者を抽出するには、病理学的検討が必要不可欠

である。GOM の存在を電子顕微鏡で検出することは、exon 3,4 以外に遺伝子変

異のある CADASIL 患者を抽出する方法として用いられている。しかし、電子

顕微鏡での GOM の検出感度には、ばらつきがあることが問題視されている

(Markus HS, et al., 2002; Malandrini A, et al., 2007)。GOM の検出感度が低い要因

としては、皮膚生検組織を電子顕微鏡にて観察した際に GOM の観察に適した

血管を検出することができずに偽陰性になることが推定されていた。2009 年に フランス、フィンランドの病理学者らのチームにより、131 例の遺伝子変異が

確認されたCADASIL 患者を後ろ向きに検討したところ、全例に GOM が検出さ

れ、すべての動脈にGOM が観察されることが報告された (Tikka S, et al., 2009)。

電子顕微鏡によるGOM の検索は exon 2-24 を検査する費用や時間に比べれば、 専門施設では容易であり、費用もそれほどかからないため、exon 3,4 陰性例に 対して、さらに exon 3,4 以外の検査を行うか否か決定する際に重要な情報とな ると報告されている。しかし、本検討は後ろ向きの検討であり、実際には、 GOM を電子顕微鏡で検出することが容易ではないこともある。GOM 検出によ る病理学的診断を行う際に、電子顕微鏡による観察のみでは、GOM が検出さ れない場合にGOM 陰性と判断するか、GOM を観察するのに適した血管を検出 できずに偽陰性であるのかといった区別をつけることが困難である。 5-(7) 当施設の CADASIL の診断の現状

当施設でもCADASIL が疑われる患者に対して、まず Notch3 exon 3, 4 の遺伝 子検査を行っている。2006 年から 2009 年の間に 46 例 40 家系の患者に対して、 Notch3 の exon 3,4 の遺伝子検査を行ったところ、9 例 7 家系(20%)に exon 3,4

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の遺伝子変異が確認された。しかし、Notch3 exon 3,4 陰性例は 37 例 33 家系 (80%) あり、これらの症例に対して、Notch3 exon 2-24 の全 exon を検索するの は、時間と費用の問題があり、困難であった。したがって、exon 3,4 陰性例に 対して、どのような症例に対して、Notch3 exon 2-24 の全 exon を検索するかを 決定するかが我々の重要な課題であった。 2006 年-2007 年までは CADASIL 特異的画像所見を有する症例に対して、exon 2-24 の全 exon 検索を行っていた。しかし、CADASIL 特異的な白質病変は全症 例に確認されるわけではなく、特異性が高いものの感度は高くなく、見過ごさ れる症例が存在すると考えられた。一方、当時の病理学的診断は、電子顕微鏡 によるGOM の検索により行われていたため、数回の電子顕微鏡検索で GOM が 検出されなくても GOM 陰性であるのか偽陰性であるのかの区別ができず、電 子顕微鏡による病理的診断のみでは、見過ごされる症例が少なからず存在する 状況であった。当施設でも画像では CADASIL 特異的な画像所見があり、exon

3,4 の hot spot 検索では、Notch3 陰性であった症例が存在した。電子顕微鏡での GOM 検索を数回ほど試みたが GOM は検出されず、確定診断には至っていなか った。また、他施設からも皮膚生検によるGOM 検索を行い、GOM 陰性であっ たため、抗血小板薬を継続したところ、重篤な脳出血を発症した例が報告され、 その例では、血腫除去術の際に得た脳組織で GOM が検出され、確定診断に至 っている。電子顕微鏡によるGOM 検索は特異度は高いものの、GOM 検索の困 難さから感度は決して高くなく、検索方法により左右されることが大きな問題 であった。 そこで我々は光学顕微鏡によってGOM が観察できれば、exon 3,4 陰性例であ っても病理学的スクリーニングが可能となり、exon 3,4 陰性例から CADASIL 症 例を抽出できるのではないかと考えた。 5-(8) GOM の研究(その性質と構成成分について) GOM の性質を解明することが CADASIL の病態を解明する鍵とされているが 未だその正体は不明である。過去には、Estes が 1991 年に初めて報告した際、 energy dispersive spectroscopy による解析 (Estes ML, et al., 1991) や Baudrimont らにより1993 年に Wavelength dispersive electron microscopy では電解質や金属に

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16 特異的な所見が得られてなかった (Baudrimont M, et al., 1993) 。また、カルシ ウム特異的な染色方法で金属や電解質ではないことが確認されている。また形 態学的には、免疫グロブリンの沈着やアミロイドにも類似しているが、免疫グ ロブリンやアミロイドの組織化学的性質を有していなかった。 本疾患の原因遺伝子であるNotch3 と GOM の関係に関する研究も行われてき

た(Joutel A, et al., 2000)。2000 年に Joutel らは Notch3 細胞外ドメインの 657-846 番のアミノ酸に対するモノクローナル抗体(1E4 抗体)を作成し、脳の凍結切片を 免疫電気泳動により解析したところ、Notch3 の細胞外ドメインが過剰に蓄積さ れていることが明らかにされた。さらにその研究の中で、脳のパラフィン切片 を用いて免疫電顕が行われたが、Joutel らの予想に反して、脳血管の中膜に観 察される電子密度の高い顆粒には、1E4 抗体による免疫反応性を検出できず、 血管平滑筋の細胞膜のみに免疫反応性が確認された。また、2001 年には、 Takahashi らにより Notch3 細胞外ドメインに対する抗体(AbN2)が独自に作成 され (Takahashi K, et al., 2001)、CADASIL の剖検例の脳組織を用いて免疫染色 が行われた (Santa Y, et al., 2003)が、CADASIL 患者の脳のパラフィン切片におい

て血管中膜に観察されるGOM には Notch3 の免疫反応性は観察されなかった。

ところが 2005 年、慶応大学の皮膚科の Ishiko らにより AbN2 抗体を用いた

Post-embedding 法による免疫電顕の結果が報告された。CADASIL 患者の皮膚生

検組織の血管にて細胞膜に近接する基底膜上に位置するGOM に Notch3 の免疫

反応性が確認された (Ishiko A, et al., 2005)。Notch3 の細胞外ドメイン抗体と GOM の関係を調べた免疫電顕はこの2報のみであり、GOM の構成成分が Notch3 の細胞外ドメインであるのか否かは議論の余地が残されている (Chabriat H, et al., 2009)。Ishiko らは、本論文のなかで 2000 年の Joutel らの報告に関して その問題点を指摘している。Joutel らの免疫電顕では、8 µm のパラフィン切片 上で免疫反応を行い、その後、エポン包埋するPre-embedding 法で行われている。 本方法では、抗体の浸透性などが問題となり、免疫電顕で技術的な問題により 偽陰性になった可能性が指摘されている。脳の髄膜動脈の中膜の GOM に Notch3 細胞外ドメインの免疫反応性が確認されなかったのは、Ishiko らが指摘 するような技術的な問題か、皮膚・骨格筋と脳の GOM では両者に免疫反応性 が異なるのか、今後、検討の余地が残されている。 GOM の形成と Notch3 細胞外ドメインの代謝

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Notch3 および GOM がどのようにして蓄積されるか解明されていない。 Notch3 は全長鎖蛋白質が産生された後、ゴルジ体で N 末端側の細胞外ドメイン 230 kD と細胞内ドメインに切断される。細胞外ドメインと細胞内ドメインが2 つのジスルフィド結合により再度結合して、ヘテロな2量体を形成し、細胞膜 上に発現し、レセプターとして機能する。Notch3 は隣接する細胞により提示さ れるNotch のリガンド(Jagged 1, 2, Delta-like 1, 3, 4)と結合すると、distintegrin とmetalloprotease により細胞外ドメインが切断され、続いて膜貫通領域で γ セク レターゼによる切断を受け、細胞内ドメインは核内に移行する。核に移行した Notch3 細胞内ドメインは DNA-binding protein RBP-J 別名 CSL およびその coactivator である Mastermind(Mam)と相互作用して、RBP-J を抑制している蛋

白を遊離させる。この過程によりトリガーとして Notch のターゲット遺伝子で

あるbasic helix-loop-helix(bHLH)蛋白質や、Hairy/Enhancer of Split(Hes)、 Hes-related proteins(Hey)を転写させる。またこれらの転写因子はその下流にあ る遺伝子の転写制御因子として機能する (Roca C, et al., 2007; Wang T, et al., 2008)。一方、切断された細胞外ドメインは隣接する細胞のリガンドとともに隣

接する細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれる。取り込まれた Notch

のリガンドはその後ユビキチン化されることが報告されており、Notch3 の細胞 外ドメインは最終的には隣接細胞によって分解されていると考えられている (Roca C, et al., 2007)。

Joutel らの解析では、CADASIL 患者の剖検において、Notch3 細胞外ドメイン のみが過剰に脳内に蓄積していることが示されている (Joutel A, et al., 2000)。 一方、細胞内ドメインはほとんど検出されない。通常、Notch3 の細胞外ドメイ ンは隣接する細胞にそのリガンドとともに取り込まれ、隣接細胞内で分解され るが、その代謝/分解経路をはずれ、どのような経路で細胞外に蓄積するのか 不明である。また、Notch3 の細胞外ドメインが細胞外に蓄積することで、細胞 にどのような影響を与えるのかも全くわかっていない。先の免疫電顕による検 討により、Notch3 が蓄積して、GOM を形成することが示されているが、蓄積 したNotch3 がどのようにして GOM を形成するのか、不対のシステインが形成 させるNotch3 の遺伝子変異とどのように関係があるのか全くわかっていない。 5-(9) 当施設の CADASIL の研究の現状 CADASIL の研究を行うにあたり、GOM の性質を解明することを目的とした

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18 研究が注目されている。しかし、多くは電子顕微鏡による形態学的研究にとど まっている。また、皮膚や骨格筋は患者から採取可能であり、皮膚や骨格筋で 観察される GOM は、入手可能であり、研究の対象と成り得た。これまで電子 顕微鏡レベルでの研究にとどまっている GOM を光学顕微鏡で観察することが 可能となれば、光学顕微鏡を用いたGOM の研究が可能となると考えた。

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5-(10) 研究の目的

皮膚・骨格筋の生検組織でCADASIL の GOM を光学顕微鏡で観察すること

皮膚・骨格筋など生検可能組織で観察されるGOM は、CADASIL の診断およ

び研究の対象として注目されている(Rhuchoux MM, et al., 1995; Tikka S, et al., 2009)。しかし、GOM の検出には、これまで電子顕微鏡が不可欠とされ、一般 に行われている組織化学染色による光学顕微鏡では検出困難とされてきた。今 後、CADASIL の病理学的診断を普遍化し、病態解明研究を促進するためには、 光学顕微鏡レベルでGOM を検出できるか否かが重要なポイントとなる。そこで、 本研究では GOM が光学顕微鏡で検出可能であるか、またその所見がどのよう なものであるかを詳細に検討することを目的とした。

(24)

20 6. 研究の方法 対象 CADASIL と診断され、Notch3 に遺伝子変異を認めた 3 例の皮膚・骨格筋 組織を用いた。1 例は Notch3 R133C 変異のある 62 歳男性剖検組織である。2 例目はNotch3 R133C 変異のある 54 歳女性である。3 例目は Notch3 R449C 変異 のある54 歳男性である。3 例とも電子顕微鏡で皮膚・骨格筋に GOM が存在す ることが確認されている。 組織の処理 上腕部または腹壁から長さ3 cm、幅 1 cm の皮膚組織を採取した。GOM は真 皮深層の細動脈に観察されるため、真皮深層も含め、皮下組織まで含めて採取 した。皮膚組織は6 分割し、1) 電子顕微鏡用の固定液に 2 つ、2) 免疫染色用の 固定液として PBS に 4%パラホルムアルデヒドを溶解した液に 2 つ、3) 凍結切 片用に2 つ、それぞれ処理した。 1) 電子顕微鏡用の固定液として、半永久保存が可能なカコジル酸溶液を用い た。カコジル酸溶液には、0.2M カコジル酸塩緩衝液 pH 7.2~7.4 1000 ml、10%パ ラホルムアルデヒド(最終濃度 4%) 800 ml、グルタルアルデヒド(最終濃度 1%) 80 ml、蒸留水 120 ml の長期保存用固定液を用いた。3) 凍結組織は、液 体窒素で冷却したイソペンタンに未固定の状態の組織を浸し、可能な限り急速 に凍結した。 凍結切片の作成 病理所見と組織の固定10μm 厚の皮膚または骨格筋の凍結切片を Carnoy`s 固 定し、PAS-ヘマトキシリン染色を行い、光学顕微鏡にて観察した。Carnoy’s 固 定とは、Carnoy’s 液(クロロホルム:メタノール:無水酢酸=6:3:1)を冷蔵庫 で 4℃に冷やし、Carnoy’s 液の中に組織を 10 分間浸して固定した。Carnoy’s 液 から取り出した組織を5-10 分間水洗した。その後、1%の過ヨウ素酸水溶液に 5 分間浸した。取り出した切片を蒸留水で洗浄した。 組織の染色 PAS 染色にはシッフ試薬を用いた。過ヨウ素酸処理を行い、蒸留水で洗浄し た組織をシッフ試薬に2分間浸し、その後、蒸留水で洗浄した。ヘマトキシリ

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ン液で2分間染色し、その後水道水で2分間洗浄した。ヘマトキシリン染色に はHarris のヘマトキシリン液を用いた。以上を modified PAS-ヘマトキシリン染 色とする。通常、PAS-ヘマトキシリン染色では、シッフ試薬に10分程度、ヘ マトキシリンには 30 秒程度、浸して染色する。通常の PAS-ヘマトキシリン染 色では、基底膜の染色性が濃くなりすぎて、基底膜上の構造物と基底膜の区別 がつかなくなる。PAS 染色が濃い場合、PAS が赤紫となり、ヘマトキシリンの 色彩に近くなるため、ヘマトキシリン陽性の顆粒が見えにくくなる。そこで PAS とヘマトキシリン染色の色彩が明瞭に区別できるように、PAS 染色をでき るだけ薄く染色し、ヘマトキシリンを濃く染色できるように染色時間を調整し た。 Harris のヘマトキシリン液 1)ヘマトキシリン(結晶) 2.5 g (C16H14O6・3H2O) 100%アルコール 25 ml 2) ミヨウバン 50 g 加熱しながら溶解する。 蒸留水 500 ml 1) 2)をあわせて直ちに沸騰させる。用心して酸化第二水銀を 1.25 g をいれて溶かす。 免疫染色による確認 Notch3 細胞外ドメインの免疫染色を行った。細胞外ドメインの免疫染色では、 過去の報告においてPost-embedding 法により GOM の内部に Notch3 の細胞外ド メインが染色されているN2 抗体を用いた (Takahashi K, et al., 2001; Low WC, et al., 2006)。N2 抗体は 1,497-1,624 のアミノ酸残基のペプチドを用いて作成された ポリクローナル抗体である。また細胞内ドメインに対する抗体として C2 抗体 を用いた。C2 抗体は Notch3 の細胞内ドメインに相当する 2,261-2,321 のアミノ 酸残基のペプチドを用いて作成された抗体である。 組織の観察とGOM の定義 電子顕微鏡によるGOM の形態学的特徴と定義 GOM 自体は、大きさが 1μm 未満の顆粒状物質である。その局在は血管平滑 筋細胞膜に接した部位で基底膜上に位置する。したがって、1μm 未満の顆粒と いう形態学的特徴と基底膜上に位置するという局在により定義しうる。このよ

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22

うな局在が明確なものをGOM と定義する。厳密に電子顕微鏡レベルで GOM を

認識するには、その局在が極めて重要であり、血管平滑筋の基底膜や細胞膜と の関係を確認することが必要不可欠である。したがって、Small artertial granular degeneration でみられる局在の不明瞭なものも、一般には GOM と呼ばれている が、本検討では、GOM 様の顆粒状物質として、GOM と区別した。

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7. 実験結果

電子顕微鏡所見とSemi-thin 切片およびパラフィン切片との対比

脳の髄膜血管をパラフィン切片の PAS-ヘマトキシリン染色とエポン包埋の semi-thin 切片の光学顕微鏡像と ultra-thin 切片の電子顕微鏡像の三者にて比較した (Figure A-C)。

CADASIL 患者の脳組織 (A-C): PAS 陽性の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration(括弧) と granular osmiophilic material (GOM) (矢頭). (A) パラフィン切片、(B) semi-thin 切片、(C) 超薄切片. (D, E) Small arterial granular degeneration (括弧)と basophilic submicron granules (矢頭). (D) パラフィ ン切片,(E) 凍結切片. (A, D, and E) PAS-ヘマトキシリン染色; (B) トルイジン青染色; (C) 酢酸ウラニ ルと硝酸鉛の二重染色. (A, B, D, E) : Bar = 10 µm; (C): bar = 1 µm; inset: bar = 1 µm

パラフィン切片の PAS-ヘマトキシリン染色では、中膜の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration が PAS 陽性顆粒の帯状の蓄積として観察される Figure A 括弧。

ただ、本顆粒自体の大きさは 3μm 程度の大きさであり、個々の顆粒が 1μm 未満の

GOM に相当する顆粒として同一視できなかった。

次にエポン包埋した組織から電子顕微鏡用の ultra-thin と光学顕微鏡用の

semi-thin 切片の連続切片を作成し、GOM の電子顕微鏡所見と光学顕微鏡所見を 比較したFigure B and C。エポン包埋の semi-thin 切片のトルイジン青染色では、 中膜の顆粒状変性はトルイジン青陽性の無数の顆粒の集合体である帯状の沈着

(28)

24

筋細胞は消失し、無数のGOM 様の顆粒状物質が中膜全体に蓄積していた Figure

C 括弧。

一方、GOM は電子顕微鏡レベルで明瞭な電子密度の高い顆粒として観察さ れた Figure C 矢頭。GOM 様の顆粒状物質が中膜全体に蓄積する(Figure C 括 弧)ことに対し、GOM は血管平滑筋細胞が保たれている肥厚した新生内膜に観

察されたFigure C 矢頭。その局在は血管平滑筋細胞の基底膜上でその細胞膜に

近接した部位に位置した。GOM は、トルイジン青で染色した semi-thin 切片で は、極めて小さく、かろうじて光学顕微鏡で観察可能な程度の顆粒として観察 されたFigure B注注:Figure B の四角内は、Figure C と連続切片の同一部位

脳の凍結切片における観察

脳の凍結切片ではGOM の大きさに一致する好塩基性の 1 µm 未満の顆粒が観

察されたFigure E。好塩基性の 1 µm 未満の顆粒は、パラフィン切片では観察困

難であるが、凍結切片では観察可能であったFigure A, D, and E。好塩基性の 1 µm 未満の顆粒は変性した中膜よりも新生内膜で観察され、中膜の顆粒状変性 Small arterial granular degeneration の局在よりも GOM の局在に一致していた Figure D and F。

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皮膚・骨格筋凍結切片でのGOM の光学顕微鏡による観察

皮膚・骨格筋の切片に PAS-ヘマトキシリン染色を行い、GOM に相当する顆

粒を検出できるか検討した。CADASIL 患者の骨格筋パラフィン切片では GOM に相当する顆粒の検出は困難であった(data not shown)。しかし、同一患者の 骨 格 筋 凍 結 切 片 で は 同 じ 染 色 方 法 を 用 い て 好 塩 基 性 の 1 µm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules が動脈壁に観察された Figure F inset 矢頭。

(F-H) 骨格筋凍結切片における好塩基性の 1 µm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules と非特 異的な顆粒 (F, G) CADASIL 患者、(H)対照患者 (F-H): Bar = 10 µm; inset: bar =1µm

矢頭:好塩基性の1µm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules, 矢印:非特異的顆粒

好塩基性で1 µm 未満の顆粒状物質と非特異的顆粒との鑑別

血管平滑筋の基底膜が PAS 陽性の線として観察され、血管平滑筋の細胞質は

PAS 陰性の部位として観察される動脈壁では、その好塩基性の 1 µm 未満の顆粒 がPAS 陽性の基底膜上に存在することが確認できた Figure G inset 矢頭。その好

塩基性で1 µm 未満の顆粒は、時に点線模様であったり、点による装飾のような 模様として観察された。一方、非特異的なリポフスチン様の顆粒も時に PAS 陽 性の顆粒として観察されたが、PAS 陽性の基底膜上には存在せず、常に PAS 陰 性の細胞質内に観察された Figure G inset 矢印。また、コントロールの症例の PAS-ヘマトキシリン染色でも非特異的な顆粒が観察されるが、PAS 陽性の基底 膜上には観察されず、点線模様としても観察されることはなかった(Figure H inset 矢印)。

(30)

26

皮膚組織においても、同様の結果が得られた。50µm 未満の小細動脈の輪郭を

観察すると好塩基性の1 µm 未満の顆粒が点線状に並んで観察された(Figure I

inset 矢頭)。別の症例の骨格筋組織でも、小細動脈では好塩基性の 1 µm 未満 の顆粒が点線状に並んでいた(Figure J inset 矢頭)。

(I, J) 小細動脈における好塩基性の 1 µm 未満の顆粒, (I) CADASIL 症例 1 の皮膚凍結切片, (J) CADASIL 症例 2 の骨格筋凍結切片; (K, L) CADASIL 症例 3 の 好塩基性の 1µm 未満の顆粒と Notch3 細胞外ドメインの濃い顆粒状の免疫反応性 (I-L): Bar = 10 µm; inset: bar = 1 µm

免疫染色によるNotch3 沈着との関係 Notch3 細胞外ドメインの免疫染色では、無数の顆粒状の陽性像が検出された。 免疫染色の陽性像は1 µm 程度の顆粒状であり、血管外膜と中膜の境界に点線状 に並んでいた Figure L inset。この所見は、PAS-ヘマトキシリン染色で観察され る好塩基性の1 µm 未満の顆粒と同じ形態学的特徴を有していた Figure K and L inset。一方、コントロール症例ではこのような Notch3 の免疫反応性はなかった (deta not shown)。

(31)

8. 考察

8-(1) 本結果の解説

CADASIL 患者の骨格筋凍結切片で PAS 陽性の基底膜上に好塩基性の 1μm 未 満の顆粒Basophilic submicron granules が観察された。このような顆粒は電子顕

微鏡で観察されるGOM に相当するものと考えられた。好塩基性の 1μm 未満の

顆粒Basophilic submicron granules は、これまで脳血管の中膜に観察されると報告

されてきた PAS 陽性の顆粒状変性とは、その局在や分布から異なる病理所見で あると考えられた。 GOM と同定できる光学顕微鏡所見 “好塩基性の1μm 未満の顆粒で、かつ PAS 陽性の基底膜上に位置するもの”、 もしくは、”好塩基性の1μm 未満の顆粒で、かつ点線模様に見えるもの”は、 GOM に相当する光学顕微鏡所見であるといえるであろう。このような所見を 見つけるには、血管径が 50-100μm 動脈の血管壁を観察するとよい。動脈壁の 内側よりも動脈壁の外側の血管の輪郭に沿って観察すれば、容易に観察可能で ある。その理由としては、50-100μm の動脈壁では、血管平滑筋の基底膜が PAS 陽性の線として明瞭に観察され、好塩基性顆粒が基底膜上に位置するのか 否か判定が可能なためである。 非特異的な顆粒との識別 好塩基性の1μm 未満の顆粒は非特異的なリポフスチン様の顆粒とはその局 在および点線の模様から識別は可能である。リポフスチン様の非特異的顆粒は PAS 陽性の辺縁が明瞭な顆粒として観察される(Biava C, et al., 1965)。リポフス チン様の非特異的顆粒は、細胞質内に位置するため、PAS 陽性の基底膜上に位 置する GOM とは異なり、PAS 陽性の基底膜から離れた部位に位置する。また、 これらの細胞内の非特異的顆粒が、点線模様として観察されることはない。 免疫染色による病理所見の検証 免疫染色の結果は、好塩基性の1 µm 未満の顆粒は GOM に相当するといった 今回の結果を支持している。過去の報告では Post-embedding 法による免疫電顕 でNotch3 の細胞外ドメインが GOM の主な構成成分であることが示されている (Ishiko A, et al., 2006)。本検討では、好塩基性の1μm 未満の顆粒に一致して、

(32)

28 Notch3 細胞外ドメインの免疫反応性が検出された。したがって、本好塩基性の 1 µm 未満の顆粒は、Notch3 の免疫反応性を有するものと考えられ、過去の報告 にて電子顕微鏡で確認されている所見に一致した (Ishiko A, et al., 2006)。 8-(2) 今後の展望 A. 症例の蓄積 論文に投稿した時点では、3 例の検討であったが、その後、4 例が追加された。 追加された3 例中 2 例に Notch3 exon 3, 4 に遺伝子変異を認めなかったが、凍結 切片のPAS ヘマトキシリン染色にて好塩基性の 1 µm 未満の顆粒が観察され、免 疫染色で確認したところ、Notch3 細胞外ドメインの蓄積が検出されたため、 CADASIL と診断した。7 例中 7 例で好塩基性の 1 µm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules が検出され、免疫染色でも Notch3 細胞外ドメインの蓄積も確 認された。好塩基性の1μm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules は GOM や Notch3 細胞外ドメインの蓄積と同等の感度/特異度を有する可能性があり、今 後の検証が必要である。

B. GOM 検索のスクリーニング法としての応用

電子顕微鏡によるGOM の検索が、現在もなお CADASIL の有力な診断方法と

して用いられている。電子顕微鏡によるGOM の検出感度は、45 から 100%とば

らつきがある(Malandini A, et al. 2007; Tikka S, et al., 2009)。その原因として電子 顕微鏡では観察範囲に制限があり、GOM の観察に適した血管を探すことが困 難であることも要因のひとつに挙げられよう。電子顕微鏡での検索結果が、偽 陰性なのか陰性なのかを区別する際に、今回提示した光学顕微鏡観察は有効で あると考えられる。我々の光学顕微鏡による好塩基性の1 µm 未満の顆粒の観察 は、観察視野が広く、GOM の観察に適した血管を検出するのは容易であるた め、電子顕微鏡によるGOM 検索の問題点を補うことができる。

C. PAS 陽性の中膜顆粒 Small arterial granular degeneration と好塩基性の 1μm 未 満の顆粒 Basophilic submicron granules との関係

本検討で示した好塩基性の1 µm 未満の顆粒と過去に報告されている PAS 陽性の

顆粒状変性は異なる病理所見であることを示した。しかし、形態学的な検討に

(33)

メインの免疫染色を行うと好塩基性の 1 µm 未満の顆粒 Basophilic submicron granules は N2 抗体および 1G5 抗体の両者で観察され、中膜の顆粒状変性すわな ちGOM 様の顆粒状物質は N2 抗体で染色されず、1G5 抗体で染色された。 CADASIL 剖検脳組織の髄膜動脈、右図:1G5 抗体、左図:N2 抗体、Bar = 100 µm したがって、両者は形態学的所見だけでなく免疫組織学的にも異なる性質を有 すると考えられた。今回の結果を解釈すると、GOM は Notch3 の細胞外ドメイ ンが細胞外に蓄積したのち、抗原性が変化する可能性が推測された。まず、 GOM は血管平滑筋細胞の周囲に形成され、その際には N2 抗体、1G5 抗体の両 者に対する抗原性を有する。その後、血管平滑筋が変性・消失した脳動脈の中 膜では Notch3 の細胞外ドメインの抗原性が変化し、N2 抗体に対する抗原性が

消失している。GOM も GOM 様の顆粒状物質も Notch3 の細胞外ドメインで構成 されているが、両者の組織化学的性質と免疫反応性に違いがあることから、血

管平滑筋の変性過程で蓄積したNotch3 細胞外ドメインが GOM から GOM 様物

質へと変化していくものと考えられた。このことから遺伝子変異のある Notch3 の細胞外ドメインが蓄積したのち、何らかの翻訳後修飾を受けている可能性が 推測される。 今後の生化学的検討への展望 ヘマトキシリン染色はヘマトキシリンの酸化により生じたヘマテインが媒染 剤の金属部分と錯体を形成して正に帯電すると、負に帯電した核のリン酸基に 結合する。われわれの結果では、GOM 自体には、好塩基性すなわち正に帯電 したヘマテイン金属錯帯が結合しやすい性質を有するといえる。このことから GOM には正に帯電した物質と結合する性質が存在すると推測される。

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30 遺伝子変異によりNotch3 の細胞外ドメインに遊離したシステイン残基が形成 されることが明らかにされているが、遊離したシステイン残基の生化学的性質 は不明である。 システイン残基は脂肪酸や重金属などの様々な物質に対する結合能を有する。 その結合能はシステイン残基がイオン化した状態で発揮されるとされ、通常 pKa 8.6 のシステイン残基は、細胞外の pH 7.4 の環境では、活性のない非イオン 化状態で存在するが、細胞内の pH 8〜9 の環境では、イオン化した状態となり、 その活性が発揮されることが知られている。システイン残基の周囲に陽イオン が存在する場合、通常のシステイン残基のpKa 8.6 から pKa 5~6 に下がることが 知られており、low pKa システインと呼ばれている。 細胞外の pH 7.4 の環境では、システイン残基は活性を示さない非イオンの状 態で存在するが、low pKa システインであれば、細胞外でも水酸基が解離し、 イオンの状態で生物活性を有すると考えられる。 Notch3 の細胞外ドメインの蓄積である GOM の好塩基性の性質は、このような システイン残基の性質と類似しているか否か、今後検証を進めていきたい。

(35)

9. 結語

電子顕微鏡でのみ観察可能であった GOM を光学顕微鏡レベルで観察する方

法を見いだした。本方法を用いることで GOM の病理診断のスクリーニングや

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32 10. 参考文献

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