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デジタル時代のインバウンド顧客戦略
kpmg.com/ jp
経営トピック③Vol.
23
March 2017
デジタル時代のインバウンド顧客戦略
KPMG コンサルティング株式会社 マネジャー 宮本 繁人 マネジャー 伊藤 龍信 2016年、訪日外国人観光客数は2,000万人に達しました。政府は東京オリンピックの 開催年にあたる2020年の目標値を4,000万人に引き上げており、そこに注目した企 業にとってはインバウンド旅行者にどのようにアプローチするかが重要となってい ます。しかし、旅行者の行動トレンドは外的要因により常に変化し続けており、静的 な定義は困難になっているのが実情です。旅行者が「何を見て、何を想起し、何を判 断基準に購買行動へ至るのか」を見極め、顧客接点を最適化させるために企業は何 をすれば良いのでしょうか。 本稿では、2020年に向けて「オンデマンド保険商品を開発するA社が、どのようにイ ンバウンド旅行者に訴求するのか」という想定ストーリーを用いながら、ペルソナや カスタマージャーニー設計におけるポイントを解説します。 なお、本文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ お断りいたします。 【ポイント】 − インバウンド顧客を理解するには情報収集や顧客体験シェア方法などの 行動特性を把握することが重要である。 − ペルソナ策定にあたり、特定個人に紐づいたデータを用いて、ターゲット 顧客を絞り込むことが必要である。 − インバウンド顧客の不満足要因を特定し有効な施策を打つためには、カ スタマージャーニーを通じた顧客分析が不可欠である。宮本 繁人
みやもと しげと伊藤 龍信
いとう たつのぶⅠ. はじめに
顧客中心の企業経営戦略・サービス戦略・製品デザイン開 発・販売マーケティング戦略の重要性は今日広く知られていま すが、企業と各分野の担当者は、顧客についてどの程度知るこ とができれば十分と言えるでしょうか。顧客個人のプロフィー ルと購買行動を理解するにあたって、本来個々の情報の組み合 わせである顧客デモグラフィーと、多様化が進む顧客行動をど のように結びつけ、どのような粒度と頻度で把握する必要があ るでしょうか。 本稿では、「インバウンド顧客」について考えます。過去の販 売実績や既存の顧客理解が通用しない、異文化・異言語圏から の異なる期待値や習慣を持ったインバウンド顧客を例に考える ことで、顧客戦略を過去の延長ではなくゼロベースでの戦略と して考えていきます。どのように顧客を理解すれば、顧客の行 動を予測することができるかのアプローチを示すために、本稿 ではまず、「保険業界でオンデマンド保険商品という新規事業を インバウンド顧客に向けて立ち上げるケース」を想定して顧客 理解のステップを示し、次にデータ分析を活用した顧客理解ア プローチを取り上げていきます。Ⅱ. ケーススタディ:
インバウンド顧客のカスタマー
ジャーニーを描く
この章では「インバウンド顧客向けのオンデマンド保険商品 開発」というテーマに沿って旅行者のカスタマージャーニーを 作成し、顧客の理解を深めます。なお、ここでのオンデマンド保 険商品とは「訪日外国人が訪日中にケガや病気をした際の治療 費用を補償する」といった内容のもので、付帯サービスも競合 との差別化ポイントとなり得ます。 1. インバウンド顧客ペルソナの策定 (1) ペルソナ策定のアプローチ 「顧客を理解する」と言うと、性別/年齢/年収などの基本属 性を組み合わせたセグメンテーションをまず思い浮かべること と思います。しかし、漠然と大人数の顧客群を想定するよりも、 特定の1人を満足させるための経験を深掘りするほうが結果的 に良質な顧客体験をデザインできます。その思想に基づいて活 用されるのがペルソナ手法(顧客像の詳細化)です。ペルソナ は大きく分けて以下の3つの手順を経て作成されます(図表1参 照)。 ① ターゲット顧客の絞り込み ② ペルソナの作成 ③ ペルソナの調整 ペルソナ策定にあたって注意すべきは、「結論ありきで自社に とって都合の良いペルソナ」を求めないことです。思い込みで 偏った分析をしないためにも特定顧客に紐づいたデータを用い て、ペルソナを組み立てていくことが重要です。 KPMGでは、ペルソナ策定に役立つ考え方として「 エンパ シーマップ」を活用しています。これは、図表 2に示す「感情 (Feeling)」 「思考(Thinking)」 「発言(Saying)」 「見方(Seeing)」 「ヒアリング(Hearing)」 「行動(Doing)」と言う6つの角度から ターゲット顧客の置かれた環境と行動特性を把握し、価値観を 【図表1 ペルソナ設計のアプローチ】 手順1:ターゲット顧客の絞り込み 手順2:ペルソナの作成 手順3:ペルソナの調整 基本属性 メディア 選考 購買行動 旅行へのニーズ 日本への ニーズ 出典:KPMG 作成した複数のペルソナを比較し、 相互に矛盾がないかを確認 ⇒必要に応じて調整 選定した顧客層に沿って想定される 顧客像をペルソナとして文章化 (KPMGでは後述のエンパシーマップを 活用) 顧客規模や自社の提供価値との 相性を考慮し、注力すべき顧客層を選定膨らませてペルソナ像を具体化するというものです。 「意思決定をするうえで誰からの情報を信用しているのか」 「どのようなメディアを好んで情報収集するのか」、そういった 嗜好性を考慮した人物像(=ペルソナ)に落とし込んでこそ、顧 客が取る行動の予測にリアリティが生まれてきます。 (2) ターゲット顧客の絞り込み ここでは日本政府観光局と観光庁のデータを用いながら、イ ンバウンド旅行者の絞り込みを行ってみます。 2016年の国・地域別訪日外客数をみると、4分の1以上を中国 が占めているため、そこに焦点を当て、さらに旅行手配方法の 観点からも考えます。旅行手配方法には団体ツアー利用や個人 旅行パッケージ利用、個別手配という方法がありますが、いず れの国においても個別手配の割合が多くなっています。比較的 団体旅行をする人が多い中国においても、個別手配をする人は 54%を占めています(図表3参照)。 彼らはFIT(Foreign Individual Tourist)と呼ばれており、一 般的には旅行での消費額が多い傾向にあります。したがって、 ここではターゲット顧客を中国人FITと設定します。 かつて中国においては団体旅行の方が主流でしたが、個別手 配をする人は近年増加しています。それは団体旅行の場合、自 由行動が少なく行動が制限されるためでしょう。日本での旅に 慣れてさえいれば「好きなタイミングで」「好きな場所に」行くこ とができる個別手配の方を好むはずです。 (3) 中国人FITの行動特性 TripAdvisor社の調査1によると、中国人FITは25~34歳の若 く高学歴で裕福な顧客層と言えます。 そして着目すべきは旅行計画立案タイミングです。 中国人FITの2割は「出発当日から6日前まで」という非常に 短期間で行き先を決めています。その際、主に使うのはイン ターネットです。「信頼できる友人が中国版のLINEとも言える Wechat(微信)のタイムラインでどんな感想をあげているか」、 「中国における旅行攻略サイトや個人のブログではどんな見ど ころが書かれているか」、そういった情報を基にどこが最も旅 行目的に沿った場所かを即座に決定するのです。このような行 動特性が培われたのは、中国ではしばしば偽物や粗悪品が出 回ることに起因します。真贋を見極めるための基本的な行動 として、信頼できる情報源を探すことが国民に浸透しているの です。 【図表2 エンパシーマップの構成要素】
感情
(Feeling)
見方
(Seeing)
思考
(Thinking)
ヒアリング
(Hearing)
発言
(Saying)
行動
(Doing)
出典:KPMG ターゲット顧客の置かれた背景を理解し て、ターゲット顧客の感情を理解する ターゲット顧客の意思決定に影響する 独特・特徴的な見方を観察する ターゲット顧客の思考プロセスや判断基 準を理解する ターゲット顧客が、話しをしている、影響 を受けている関係者とその特性を把握 する ターゲット顧客の他者へのキーとなる発 言内容を把握する ターゲット顧客の特徴的な行動パターン を分析する • 課題/チャレンジ • 緊急性 • 評価基準• 比較対象 • 動機/モチベーション • 情報収集方法 • 決済方法 • インフルエンサー • 興味・関心 • 将来的なゴール :関連キーワード 1 出典:Trip Advisor®「China Unbounded: The Rapid Rise of China's Outbound Millions」同じくTrip Advisor社のインバウンドトレンド調査2によ ると旅行先決定時の重要なポイントとしては「目的地が安全 (65%)」、「公害が少なく、清潔な環境(36%)」、「自然がある (35%)」が挙げられています。そういった要素を満たす場所と して、日本が訪問先として最も多く選ばれている点も興味深い です。 (4) 多様化する観光行動と中国人FITのペルソナ よく中国人旅行者の観光行動を表すキーワードとして「爆買 い」というトレンドがありましたが、その傾向は既に変化してき ています。観光庁が発表する「訪日外国人が訪日前に最も期待 していたこと」によると、「ショッピング」よりも「日本食を食べ ること」や「自然・景勝地観光」の方に関心を寄せていることが わかります。インバウンドマーケティングの主戦場は「モノの 消費」から「コトの消費」に移っているのです。 【訪日外国人が訪日前に最も期待していたこと3】 ・ 日本食を食べること(26%) ・ 自然・景勝地観光(18%) ・ ショッピング(14%) ・ 温泉入浴(10%) ・ テーマパーク(5%) ・ 四季の体感(4%) ・ 日本の歴史・伝統文化体験(4%) ・ 日本の日常生活体験(4%) ・ その他(16%) また近年では、大阪、京都、富士山、東京を巡るいわゆるゴー ルデンルートや主要な観光都市だけではなく、文化や自然・ア ウトドア、名所・史跡を求めて地方都市に関心が集まっていま す。それだけではなく、ドラマなどの聖地巡礼の意味合いとして の観光など、一見日本人が不思議に思うような場所が人気観光 地に設定されることもあり、その動向から目が離せません。 こういった情報を取り纏めていくと、たとえば図表 4のよう なペルソナが浮かび上がってきます。東京オリンピックを機 に日本に1週間滞在する33歳の男性Aさん。インターネット(ス マートフォン)を用いて情報収集をするのはもちろん、思い出は Wechatのタイムラインや中国版のTwitterと言えるWeibo(新 浪微博)にどんどんアップロードしていくという行動特性があ ります。そんなAさんに満足してもらえるオンデマンド保険と は何か、カスタマージャーニーマップを用いて考えていきます。 【図表3 ターゲット顧客の絞り込み】
国・地域別訪日外客数(2016)
旅行手配方法(国籍・地域別、全目的)
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(年表)」 「訪日外国人消費動向調査平成28年10月~12月期」(観光庁) ( http://www.mlit.go.jp/common/001158885.pdf )を加工して筆者作成 団体ツアー参加 個人旅行パッケージ利用 個別手配 中国 28% 韓国 27% 台湾 15% 香港 8% 米国 4% その他 18% % 19 7 13 10 30 33 10 3 5 20 16 15 71 90 82 70 54 52 全国籍 ・ 地域 米国 韓国 香港 中国 台湾 2 出典:Trip Advisor®「インバウンドトレンド調査」 3 出典: 「訪日外国人消費動向調査平成28年10月~12月期」(観光庁) (http://www.mlit.go.jp/common/001158885.pdf )を加工して筆者作成 ※数値は小数点以下を四捨五入したものです。2. インバウンド顧客カスタマージャーニーの設計 (1) カスタマージャーニー設計のアプローチ カスタマージャーニーとは、顧客がどのように商品やサービ スを知り、関心を持ち、購入に至るのか、というプロセスを旅に 例えた言葉です。カスタマージャーニーマップはそれを時系列 で図示したもので、顧客行動ごとに顧客接点を洗い出し、その なかで自社にとってのリスクや機会を可視化するのに役立ちま す。先ほど作成したペルソナを前提情報にしつつ、こちらも大 きく分けて以下の3つの手順で設計していきます(図表5参照)。 ① 現状のカスタマージャーニー設計 ② 機会とリスクの特定 ③ あるべきカスタマージャーニー設計 これらを経てマーケティングや営業、顧客サポートの幅を広 【図表4 中国人FITペルソナ(例)】 基本属性 名前 Aさん 写真 年齢/性別 33歳/男性 家族構成 独身 業種/職種 米系製造業 収入 月額252,000円以上 住宅形態 賃貸集合住宅 勤務先住所 広東省 現住所 広東省 趣味 旅行、サッカー、映画鑑賞、アウトドア 観光行動 スポーツが好きであるため、東京オリンピックを機に日本に1週間の滞在を予定。 東京・大阪は出張を含めて何度も訪問しており、日本の自然にふれて日頃のストレスを発散したい。現地の友人にも会 いたいし、彼らのおすすめの料亭も楽しみにしている。 基本的にはコストパフォーマンス重視だが、旅行中の特別な体験には財布のひもが緩みがち。 Wechatで友人がタイムラインに記載している感想と旅行攻略サイトを参考に旅行先を検討し、飛行機、宿泊は全て個 人で手配する。常にスマートフォンとWi-Fiルーターを携帯しWeiboやWechatで満足・不満足のシェアをする。 決済手段として銀聯カードとWechat、Alipay(支付宝)の3種類を用意している。 保険のニーズ 中国でも生命保険には加入していない。今回も1週間の滞在であることや、保険に関する知識がないことから、何かあってもクレジットカードで十分だろうと思っている。 出典:KPMG 【図表5 カスタマージャーニー設計アプローチ】 手順1:現状のカスタマージャーニー設計 手順2:機会とリスクの特定 手順3:あるべきカスタマージャーニー設計 カスタマージャーニー (現状) カスタマージャーニー(現状) カスタマージャーニー(あるべき) 出典:KPMG 機会とリスクを考慮し、あるべきカスタマー ジャーニーを設計 各チャネルでの顧客提供価値を評価し、 機会とリスクを特定 顧客が保険に加入し、旅行を終えるまでの プロセスを整理する ペルソナ 競合他社 への流出 顧客接点の 追加 機会 リスク
げたり、さらに顧客接点を増やす/減らすといった判断をして いきます。 KPMGでは、優れたカスタマージャーニーを設計するための フレームワークとして6つの柱“The Six Pillars”を定めていま す(図表6参照)。これは125万件を超える消費者調査に基づいて 整理されたもので、顧客の支持やロイヤリティを引き出すため の施策を洗い出す際に有効です。 (2) 中国人FITのカスタマージャーニー インバウンド旅行者の顧客行動は大きく訪日前・訪日中・訪 日後という3 段階に分けることができます。ここにデータ分析 結果からの示唆を積み重ねてカスタマージャーニーマップを形 成していきます。その結果、中国人FITのAさんのカスタマー ジャーニーは図表7のようになるかもしれません。少し想像して みましょう。 【Aさんのカスタマージャーニーの例】 2020 年、スポーツ好きなAさんはインターネットのニュース 記事を見て、東京オリンピックが開催される日本に行くこ とにした。日本には仕事仲間のBさんも行ったことがあり、 Wechatのタイムラインには富士山の写真がたくさんアップ されている。眼下一面に広がる雲と神々しい光を放ちなが ら昇ってくるご来光。そして何より富士山の壮大な姿にAさん は心を動かされた。 翌日、航空券やホテルを予約した際、たまたまリンクが貼ら れていた旅行保険のウェブサイトを見てみた。仕事でも日本 人とは接することは多いので、日本語はある程度わかるの だが、「今回の旅行に必要だろうか」「コストパフォーマンス を比較したいけれど、カードの付帯保険や中国の旅行保険 と何が違うのかがわかりにくい」「Wechatでの支払いには対 応していないのか」という感想を持った。後日友人の薦めが あって加入したが、特に思い入れがあったわけではない。<ポ イント①> 東京オリンピックでサッカーの試合を観戦した後、目当ての 富士山登山の日がやってきた。体力には自信があるだけあっ て、富士山の頂上にはなかなかの早さで到着することがで きた。山頂でAさんを待っていたのは、写真とは比べ物にな らないほどの感動だった。「ここまで来てよかった」とAさん は思った。しかし、その瞬間めまいと吐き気に襲われる。酸 素ボンベを吸いながら、自分は恐らく高山病になった可能 性が高いと気づく。 下山したAさん。念のため病院には行っておきたい。「一番近 くて評判の良い病院はどこだろう」「高山病の症状を医師に きちんと伝えられるだろうか」「そういえばこの場合、保険は 適用されるのだろうか」様々な疑問が湧いたので、加入した 保険の電話窓口にアドバイスを求める。本当はSNSでのや り取りの方が楽なのだが、そういった窓口は存在しないよう だ。6コール後に電話が繋がる。こなれていないのか、明確 な回答がされない。<ポイント②> 何とかたどり着いた病院で高山病と診断されたAさんだっ たが、症状はそこまで重くなかったため、予定通りのスケ ジュールで帰国することができた。Aさんは「オリンピックも 富士山も最高!ただ保険だけはかけ損だった」とWeiboでつ ぶやいた。<ポイント③> いかがでしたでしょうか。改善機会とリスクへの対応方法の 例を文中のポイント①~③に合わせて解説すると次のようにな ります。 ポイント①:訪日前の集客 そもそものプロモーション不足もあり、認知がされていない ことは改善が必要です。たとえば中国で知名度の高いインフル エンサーに協力してもらうなどして、顧客の認知を促進し、さ らに自社ウェブサイトへの導線を整理する必要があるでしょ う。また中国国内も含めた競合他社のなかで「なぜこの保険が よいのか」を、わかりやすく提示できていなければなりません。 ウェブサイトを多言語・多通貨表示とすることはもちろんです が、さらに「富士山登山専用保険」のようなアクティビティ別の 保険を開発していればスムーズに契約に繋がる可能性が高まり ます。また、国内のアクティビティや宿泊施設のウェブサイトに 自社ウェブサイトへのリンクを貼ったり、ガイドブックに広告を 掲載するなどして、アクティビティと関連して想起させる工夫 も必要になってくるでしょう。 ポイント②: 訪日中の顧客接点追加、アプリ提供会社との 連携 まずSNSがメインのコミュニケーション手段である彼らに フィットした窓口を用意できているかが重要です。電話やメー ルといったチャネルしか用意していないのであれば、たとえば Wechatに公式アカウントを立ち上げることも1つの方法です。 そこで保険の適用可否や症状の伝え方・病院までの行き方をス ムーズに示すことができたならば、Aさんの不満足には繋がら なかった可能性が高いでしょう。加えて評判の良い病院を検索 できるアプリや翻訳アプリなどと提携することで、より高い付 加価値を提供できる可能性も探りたいところです。 ポイント③:訪日後の良質な口コミの喚起 ポイント①と②で適切なケアができていた場合、ポジティブ な投稿がされていた可能性があります。さらに訪日後にもサン キューメールを打ち、顧客との関係性を維持したうえで、顧客 体験をシェアしてもらうためのプロモーションを打ったならば、 Aさんは喜んで協力したでしょう。 このようにインバウンド顧客に向けた商品開発をするために
【図表6 カスタマーエクスペリエンスの6つの柱(The Six Pillars)】 出典:KPMG/nunwood • 顧客環境・状況の深い理解を通じた 親密さの構築 • 企業が、真に顧客の立場にたって考えて いることを顧客に理解させる能力 • 顧客の不要な手間を最小化し、ストレス のないプロセス・体験を提供することに より顧客利便性を実現し、顧客の目的達 成を容易にする • 顧客の問題発生(故障など)に際し、 良い経験へとリカバリー・回復する力 • 個々の顧客ニーズや状況等の顧客の個 別性への注目。興味・関心、過去のやりと りなどに関する情報活用による個別化さ れたエクスペリエンスの提供 • 一貫性のある組織的行動による信頼 獲得 • 従業員の個々の行動の集合体が、組織 全体としての信頼構築に貢献
誠実性
Integrity
パーソナライズ
Personalisation
Expectation
期待値管理
利便性
Time & Effort
親密性
Empathy
問題解決力
Resolution
• 顧客が有する提供企業への期待値を理 解し、顧客期待値を上回る価値提供を 実現 【図表7 中国人FITAさんのカスタマージャーニー(例)】 出典:KPMG ■ 中国メディアへの発信やインフルエンサー 活用 ■ ウェブサイトのパーソナライズ (多言語・多通貨表示、理解度別表示) ■ アクティビティ別の保険開発 ■ 国内のアクティビティや宿泊施設との提携 ■ SNS上に公式アカウントを作成 し、チャット形式で問い合わせ 対応 (適用可否や病院までのガイド 等) ■ 医療機関検索アプリと提携 ■ 症状を伝える翻訳アプリと提携 ■ 旅行後にサンキューメールや フォロー ■ 体験をシェアしてもらうため のプロモーション ポイント① ポイント② ポイント③ 訪日前 SNS 自社サイト 観光サイト ・ ブログ等 他社予約 サイト 自社アプリ Positive Negative 旅行先検討 旅の計画立案 予約する 共有 次の旅へ 移動 宿泊 競技観戦 観光 体験 ■ 旅行先・ タイミング 検討 ■ 予算検討 ■ 観光スポット の検討 ■ 航空券の検索 ■ ホテルの検索 ■ 航空券の購入 ■ ホテルの予約 ■ 保険の加入 ■ 思い出を共有 ■ 次の旅行先を 検討 ■ 空港チェックイン ■ ホテルへチェックイン ■ オリンピック観戦 ■ 地方都市・自然観光 ■ SNSに情報発信 訪日中 訪日後 顧 客 行 動 顧 客 接 点 チ ャ ネ ル 感 情は顧客が不満足となる要因を特定し、有効な施策を打っていく ことが肝要です。そのためにもカスタマージャーニーを通じた 顧客分析は欠かすことができません。
Ⅲ. ビッグデータ解析によるインバ
ウンド顧客の統計的理解とアク
ションプラン策定
ここまではペルソナ作成とペルソナごとのカスタマージャー ニーを描くことで、より具体的なプロセスの可視化の仕方を 解説しましたが、本章では、顧客デモグラフィーと嗜好・行動 といったビッグデータ収集と分析をメインに解説します。アク ションプラン策定というよりはデータ指向のアプローチです (図表8参照)。 ◦ 手順1:顧客接点プロセス評価 まず現在の顧客接点プロセスの成熟度を調査し、顧客の購買 決定への影響度や満足度維持についての評価を行う。 ◦ 手順2:ブロードスキャン・マイニング 次に既存顧客のデモグラフィーを調べ、各デモグラフィーに 沿ったセグメンテーションごとのペルソナを設計していく。こ の段階で顧客接点ごとの顧客情報・行動データを俯瞰的に解析 する。 ◦ 手順3:ディープダイブ分析 手順2で得た顧客の嗜好や行動、不満に関して「頻度が高い もの」、「優先順位が高いもの」を選び、決定要素や原因の分析を 行う。 ◦ 手順4:オンサイト分析 一連のデータマイニング・分析が終わった段階で、実際の既 存顧客やターゲットとする潜在顧客に対してアンケートやイン タビューを行い、データ分析を基に作成した仮説の検証を行う。 この時点で仮説に誤りやさらに詳細な情報が必要な際には手順 1~4のなかで再度分析や調査を行う。 ◦ 手順5:顧客を中心とした最適解の検討 検証した仮説を基に、実際の販売や顧客サポート、顧客接点 を増やすための投資をアクションプランとして策定する。 上記のようなアプローチをしていくなかでは、顧客からの不 満に関するコメントほど重要であり、直接的にプロセス改善や 商品開発に繋がる有益な情報が多い傾向があります。 たとえば中国から来日した訪日客からの不満がクレジット カードに関して集中していたとします。その場合、不満が起き るタイミングはどのプロセスで、頻度はどのくらいか、などの データを基に分析していきます。 そうすると1つの顧客行動として、「ある地方都市の免税取扱 【図表8 KPMGの顧客分析アプローチ】 出典:KPMG 顧客接点プロセス評価 ディープダイブ分析 オンサイト分析 ハンズオンコンサルティング データマイニング・分析 ブロードスキャン・ マイニング 顧客を中心とした最適解の検討 販売部門・マーケティング 部門、サポート部門など顧 客に接点のあるすべての 部署が参加したワークシ ョップを行い、データを基 にしたペルソナを経験値 から補完すると同時に、顧 客接点の改善や変更をア クションプランとして作成 ターゲット想定顧客に対 してのウェブアンケート、 グループインタビュー、複 合施設内等での行動分析 、競合製品との感度分析 等を行いながら、データ分 析で作成した仮説検証を 実施 ・ 顧客の不満を分析 ・ 顧客の購買行動及び 決定要素を接点ごとに 分析(online/offline) CRM、ウェブ解析、SNS、 コールセンターや雑誌な ど幅広いメディアから集 めたデータをもとに顧客 情報・行動を俯瞰・解析 ペルソナ設計 カスタマージャーニー設計 アクションプラン策定 1 2 3 4 5 ブロードスキャン ディープダイブ オンサイト ソリューション Sales632k records 15M recordsIVR (RCD) 14M recordsCalls (RCD)
NPS Sales
135k records 8.8M recordsCall Notes 270k recordsNPS Care
例
Focus
をしていない店頭でクレジットカードを使用した際に不満・ト ラブルの問い合わせが起きる場合が多い」ということが判明し たとします。これを放置すれば、店舗にとってもクレジット会 社にとっても機会損失が起き、旅行体験がネガティブな体験と して旅行者に記憶され、その地方都市全体のインバウンド観光 経済効果そのものにまで影響をもたらしかねません。逆に言え ば、このペインポイントを明らかにすれば、顧客接点ごとに問 題解決のためのアクションを打っていくことが可能となります。 「 旅行者への訪日前の事前説明 」・「 ショッピング時の注意喚 起」・「外国語対応の専用カウンターの設置」や「為替交換所へ の動線案内」など、何が有効かを吟味するステップに移行でき るのです。 さらにKPMGでは顧客の購買行動においても、顧客の単純な 購買データ(年齢・性別・国籍と購入品の数と種類など)だけで なく、外部の多種多様のパブリックデータ(その日の天候や交 通混雑状況、各国の祝日や該当地域でのセール時期など)を結 合させることで予測モデルを作成し、より詳細な売上や需要予 測を行うことも支援しています。
Ⅳ. 今後のデジタルマーケティング
本稿で解説してきたように、顧客中心のプロダクトマーケ ティングや広告・広報を含むコミュニケーション、そして販売 を促進していくためには、明確な顧客像・行動特性の理解が必 要不可欠です。ゆえにペルソナ・カスタマージャーニーマップ・ データ分析は有効な手段として重要性を増しています。しかし、 同時にそれらは現在のデジタルマーケティングの柱とも呼ぶべ き存在です。本稿では最後に、今後のデジタルマーケティング がどのように進化をしていくかについても触れておきます。 まず、顧客起点の考え方を基にしながらも、取得・分析が必 要なデータの対象領域はさらに広がっていくことは間違いあり ません。たとえば社内の販売・顧客データだけではなく、顧客行 動に重要な影響を及ぼす天候や交通情報もデータ収集対象と なります。インバウンド顧客戦略の場合であれば訪日顧客の出 自国の祝日などのパブリックデータや、自社以外の他サービス 提供パートナーとのデータ連携など、企業が収集・分析対象と すべきデータ量は顧客行動の多様化と接点の詳細化が進むに つれて飛躍的に増加していくでしょう。データ取得のタイミン グに関しても、これまで日次だったものから毎時、そしてリア ルタイムへと取得頻度が変わります。活用者も本社機能のマー ケティング担当者の企画立案・報告だけでなく、現場での顧客 担当者がその場で使用できるデータへと変化していきます。も ちろんすべてのデータに人間が目を通して逐次判断していくこ とは非効率的ですので、自動予測アルゴリズムと検証機能を用 いた効率的なデータ分析手法が提供されていきます。 その次の段階では、マーケティング・インテリジェンスを持っ たAI(人工知能)が、定められた行動規範の範囲で決められた アクションを自動的に遂行していく、というようにマーケティ ングの現場は変化をしていくでしょう。例をあげれば、「需要・ 供給のリアルタイムでのバランス変化に合わせた店頭での柔軟 な値引きの実行(定められた価格戦略範囲内での承認自動プロ セス)」、「在庫と売上管理情報を基にした小ロット多品種の商 品開発と市場投入」、「アライアンス企業およびパブリックデー タから統合分析した顧客行動に沿った新たな顧客接点の創出 とエコシステム上での販売促進 」など枚挙にいとまがありま せん。 顧客を起点としてデータ領域を拡大していくデジタルマーケ ティングは、経営判断やマーケティング分析、広告運用だけで なく、製品開発や店頭販売、対人での営業活動や販売後のサー ビスセンターなどの現場にまで浸透し、今後も活用されていく ことでしょう。 本稿に関するご質問等は、以下の担当者までお願いいたします。 KPMG コンサルティング株式会社 TEL:03-3548-5111(代表番号) マネジャー 宮本 繁人 [email protected] マネジャー 伊藤 龍信 [email protected]平成29年3月期決算の留意事項
2017
年度税制改正の概要
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特 集 2(税務)KPMG
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特 集 1(会計)Vol.
23
March 2017
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