The /bPanese Journal of」Psy‘honomi‘Science 1983
.
Vol.
2,
No.
2,
55−
67乳 児
の
視 力 発
達
下
條
信 輔
マ サ チ ュー
セ ッ ツ工科 大 学,
東 京 大 学Richard
HELD
マ サ チ ュー
セ ッ ツ工科 大 学Development
ofVisual
Acuities
in
Infants
Shinsuke
SHIMoJo
.
Vfassachtfsetts Inst・
i
彦ute げ Technology,
ひπiversity
(ゾTokyo
Richard
HELD
ハ血∬achttsetts lnstituteてゾTe‘尹勿zo∬蠍
The
development
of visual acuities in infancy assessedby
preferential
Iooking (PL )is〔}
iscussed
with regard to nlethodological problems and clinical applications.
Grating
acuity develops up to about12
cpdin
thefirst
year oflife
.
The oblique effectwas
fQund
at anage younger than 6 months
.
There was no evidencefor
meridional amblyopia in thefirst
year of life.
Monocular measures of acuity revealed the suppressive interaction betweenthe eyes in strabi$皿 ic amblyopia and monocular deprivation
,
Thediscrepancy
between theresults obtained
by
PL
and those byVEP
techniqueis
alsodiscussed
.
The
development
ofstereopsis , in contrast to grating acuity
,
is marked by a sudde 【10nset at an average age of4months followed by a rapid increase
in
stereoacuity.
Another hyperacuity,
vernier acuity,
was also measured recently by PL using a vernier
・
mQtion−
sounddisplay.
It
was found tobe
superior tQ grating acuity by 4 months of age,
about the same as the onset age of stereo−
psis.
Thus,
a common cortical basis for the development ofhyperacuities
was suggested.
Key
words :preferentiallooking
, infants, grating acuity,
stereoacuity,
vern 孟er acuity,
hyper・
acuity
.
本稿の 目的は, 主 と して 選好注視(preferential look
−
in9,
以下PL
と略す)の技法 を 用い て,
乳 児の各 種の視力を測 定した最近の 諸 研 究 を 概 観 する こ と で ある
.
具 体 的に は, ま ず, 縞 視 力 (grating acuity ),
コ ン ト ラス ト感度 (contrast senSitivity )
,
立 体視力 (stereeacuity ),
及 び 副 尺 視 力 (vernier acuity )につ い ての 主要な結 果 を 述べ る と ともに, 方 法 論 的, 理 論 的 諸 問題 を考 察 す る
.
また, 臨 床 面へ の応用等に も触れ,
さ らにこれ らの 結 果から, 人 間の 単 眼 及び 両 眼視機能の敏感 期 (sen−
sitive period>につ い て簡単に論及する.
1.
選好注 視(preferential looking) 乳児の視 力 発達の研 究は, PL 法 等の測 定方法の開 発 に と もない, 最近 急 速 な 進 展 を 遂 げて きた,
その端 初は 1950年 代 後 半か ら1960
年代は じめに か けて の, Fantz ら に よ る研 究である.
し か し それに先 立ち,Stirnimann
(1944)は, 1 日齢の新生 児 が無地1
色のカー
ドよ りも,2
色の模様のある カー
ドの方 を, 選 択 的に注 視 する傾 向 がある こ とを示 した.
その後, Fantz
と 共 同 研 究 者 達 は, 新生児や乳 児の PL をチ ェ ッ クする た めの 「検査 箱(
looking
chamber )」を 開 発 した (Fantz,1958,1963
;Fantz &
Ordy,1959
).
彼らは 5, 6ケ月 齢 まで の乳 児 で, (1
)無地1
色の正 方 形よりも 色つ きの格 子 縞 (Fantz,
1958
), (2
)無 地 灰 色の領 域よりも縞 模 様 (Fantz &Ordy,
1959
)に対 する, 統 計学 的に有意な 選好を見出して い る.
生 後48
時 聞 以 内の新 生 児で さ え} 1色 無 地の領 域よ りも図 式 化された顔, ある い は 同心円に対 して, 統 計 学 的に有意 な 選好を 示 した (Fantz,
1963).
Fantz et aL56 基 礎 心 理 学 研 究 第2巻 第
2
号 (1962)に よれば, これ らの結 果は, 乳 児の視 覚に大 脳 皮 質が関 与 して い る (Cortical vision )こ とを示 すに十 分 な 証 拠であ る とい う (なぜならば, Fantz らに よ る と,
ラッ トか ら人 間に至るまで, 視 覚皮質 を失っ た哺乳 動 物 ではパ ター
ン知 覚が完全に損 わ れ る 故),
ま た彼らに よ る と,
乳 児がこ うし たパ ター
ン刺 激を見て反 応 するた めに は, 視 覚 学 習 も生 後の成 熟 も必 要で は ない とい う.
この よ うに, これらの諸 発見 は 「幼い乳児はパ ター
ン知 覚を まっ た く欠い て い る か, あるい は た だ曖 眛 な 光と影の集 積を見るこ と が で き る だけである と い う,一
般 的な考え 方に反対 す る もの」(Fantz et al,
,
1962
)で ある.
また 同 時に, 誕 生 直 後か ら視覚的解縁 力の発 達を行 動 学 的に測 定 し得る とい う可能 性が,
これ らの諸 発 見か ら 導 き 出 さ れる こ と に も なっ た.
2.
縞 視 力 (grating acuity ) a) 定 義解 像 力の意味にお け る 視 力(visual acuity )と は,
一
般 に, テス トパ ター
ン内の2
つ の 要素がちょ うど解 {象 され る限 界にある時の, この2
要 素 間の 視 覚 距 離 (angular separatjon,
単位 :分 )の逆 数と し て定 義さ れる (Riggs,
1965
).
乳 児の縞 視 力の揚 合に は, 縞 模 様と無 地灰色の 領 域と が与 え られて い る時,
この縞 模 様に対して乳児が 弁別 的 また は識別 的に反応で き る最 小の縞の幅 (視 覚 距 離)を 意味する場合が多い (Fantz &Ordy
,1959
;Teller
et al
.
,1974
;Salapatek
et al.
,
1976;Gwiazda et al.
,
1978
).
こ の 「最 小の 視 覚 距 離」は, 慣 例と して, ハ イ・
コ ン トラス トの縞 模 様における, 輝 度の規 則 的 交 替の空間 周 波 数 (cycle
Per
degree)で もっ て計 算さ れ,
表示さ れ る
.
縞の方向は, 特 別の場 合 (た とえ ば後で述べ る 「オ ブ リヅ ク効 果 (ob1ique effect」)を除い て, 垂 直 また は水 平に保た れる.
b
) 方 法 すで に触 れた よ うに (1節),
縞 視 力を は じめ と す る乳 児の 各 種 視 力の測 定, さ らに視 知 覚一
般の発 達 研 究は,PL
法の開 発に負う所が大 きい.
そこ で, PL 法に よ る 縞 視 力の測 定につ い て, こ こ で多 少 詳し く述べ てお くこ とにする.
乳 児の縞 視 力 を測 定 する口的でPL
法を用いたのは,
Fantz の グルー
プが最 初である と いっ
て良い (Fantz &Ordy,1959
;Fantz et a 工・
,
1962).
彼 らの手 続 きで は, 乳 児は こ の 日的の た め に と くに作ら れた 「検査 箱」の中 に仰 向 けに寝かさ れ,1
対の刺 激一一一
臼黒の縞 模様,
及 びこれ と平 均 輝 度の 等 しい 灰 色の 領 域一
が 提 示され る.
観祭者 は,
覗 き穴か ら 被 験 児の 1簡眼の角 膜に映っ た 刺激の反 射 豫を観 察し, これ を手 掛り と して,
被験児が ど ち らの刺激 を 注視 し て い る か を判定す る.
その際, 注視の 回数と累積時 間の両 方が記 録 される.20
秒の提 示 時間に引き続いて, 刺 激 対の左 右 位 置 を入 れ 替 えて,
同 じ手続き が繰り返される.
各 月 齢毎に, 75 %以上の被 験 児が無 地灰 色 の 領域 よ り も長く注 視 した 最 小の縞の サ イ ズを もっ て,
その群の 視 力の 評定 値と する.
この Fantz の方法は,
新生児や未 熟 児に も有 効である と さ れ た (Miranda,
1970;Fantz
et al,
,
1975).
ま た被 験 児一
刺 激 聞の距 離 (12・
7〜
50・
8cm )や, 異な る観 察 者に よ る 異なるセ ッ シ ョ ン問で,
結果に 有意 な差は見 られ ない (Fantz et al.
, 1962).
さ ら に, 得 ら れ た結 果は, 視 運動 性 眼 震 (optokinetjc nystagmus
,
以下OKN
と略 す) に よ る従 来の方法 と も よ く一
致 する(Fantz eL aL ,1962).
二れ らの事 実は
一
応, PL 法の信 頼 性 及び妥 当性 を確 認した もの と いえよ う
.
Teller ら(Tel]er et al
.
,
1974;Teller,
1979;AIIen
,1978
;Dobsonl Teller,
Lee,
& Wade,
19781
Fulton
et a]
.
,1978
)は,
Fantz
らの方法 を改 良 し, 強 制選択法(forced
−
choice preferential looking technique,
FPL
)を開発し た
.
彼 らの方法で は, 観 察 者が, 被 験 児の示 す あら ゆる行 動 的 手 揖りを 用い て,
縞模様が 右にある か, 左 に あ る か を判 断 する.
しか し観察者に は刺 激 図 形は見 えず,
被 験 児の 而眼の角膜 反 射 像も見 えない.
観 察 者の 正答 率は, 理論 的に は, 50% (縞の幅が狭 すぎ て,
被験 児がその縞 模 様の位 置につ い て の検 出可 能 な 手 掛 り を与 え ない 場 合)か ら,IOO9
・ (縞の幅 が 十分 広く,
被 験 児が 明 らかな 選好を示 す 場 合 ) まで の 間で変 化 する.
そこ で 視 力は,
こ の psychometric な関数上で,
観 察 者の正 答 率が 75% に あたる縞の幅と し て, 個々 の被 験 児ごと に 評 定で きる.
べ つ の方 法が Held ら(Leelley et al
.
,
1975;Gwiazda
et al.
,
1978>に よっ て開 発され てい る.
彼らの方法 は Te!lerの方 法と似て い る が, 観 察者に 与え ら れ る課題 が 異 なるt).Held
らの方法で は,
観 察者は どち ら側に パ ター
ン 刺 激がある か を 判 断 するので は な くて, た ん に, 被 験 児の刺 激に対 する選 好 を 判 断 する ように求め ら れる.
これは, 「.
’
IEas
」 ない し「選好」率力竃 チ ャ ン ス レ ベ ル よ り も有意に低い場 合に, 結 果の解 釈に重要 な 相 違 を もた らす.
この方 法は,
ど ち らの 側へ の選 好 が 「正 し い」か, ある い は 「誤 り」か とい う点につ い て何の前提 も 必 要と しない の で, 様々な種 類の刺 激 対に対 する乳 児 1) 刺 激 対以外は完 全 暗 室とする点で も,
Teller らの方 法と異 なる.
これは結 果の安 定 性, 信 頼 性を高め る 上で, 重 要 な改 良で ある ように思わ れる.
下條
・
IIELI) :乳児の視力発達57
の反 応に応 用できる (Held,
1981,
282 ペー
ジ),
た とえ ば,
こ の方法の一
変形 と し て, Leehey et al.
(1975)の 実 験で は,
垂 直ま たは 水 平 方 向の縞 模 様と, 45“
方向に 傾いた縞 模 様と が, 乳 児に対 提 示 された.
い わゆる オ ブ リ ッ ク効 果 (傾い た縞に対 する相 対 的に低い解 豫 力 )が 被 験 児におい て存 在 する場 合だ け, 閾 値近 辺の 空 間 周 波 数 領 域で, 主 軸 方 向の縞のみ が 選択 的に鰍象され, 選 好 さ れ るこ と が 期待さ れ たのである (実 験の ロ ジ ッ クと結 果につ い て は, 2−
d で改めて 述べ る).
実験計画につ い て は,
簡便法 (quick assessment )が, 同じ グルー
プによっ て考 案されてい る (Gwiazda
,
Wolfe,
Brill, Mo,
hindra,
& Held,
1980).
乳 児はある条件下で は,
縞の 幅が各々 の閾 値 近く まで ドげ ら れ た時に,
縞の側で はな くむし ろ無 地 灰色の側を 注視する傾向がある (Held et aL,
1979).
簡 便 法 は, こ の 事実に基づ く一
種 の上下 法 (staircase procedure )で,
無 地の 側に対 する選 好 (=
縞に対 する非選好)が統計学 的に有 意 な 頻 度に達 し た時 に, テス トを終了 させ る.
通常 5分 以 内に視 力の 評定値 を 得 ら れ る 点 が利点 で あ る.
しか し, この閾値近 辺での 選好 逆 転の現 象の一
般 性 その もの と, 簡便 法の手続きと の双方に対し て,
批 判と論議がな さ れて き た (Teller et aL,
1982;Banks
et aL,1982
; Nachi 皿 ias, 工982;Wolfe
et al.
,1982
;)(なお これに っ い て は2−h
で改め て論 じ る).
これ まで の と こ ろ, 古 典 的な 恒常法に よ る 手 続 きがもっ とも広 く受 け 入れら れて い る と言え よう.
Sa!apatek et aL (1976
)も類 似の手続 きと刺激を用い て 1, 2ヵ月児の視 力を 評 定した が, 刺激 図形の提 示 距 離 (30〜
150cm )に よっ て有意な差は見られ なかっ た,
な お, 口本におい て も,
勝 海ら(1981
)は,
パ タンジェ
ネ レー
タ とモ ニ タ・
テ レ ビを 用い て, 臨 床 用PL
法 の た め の コ ン トロー
ル シ ス テ ム を 開 発 して い る。
また Katsumi et aL (1983)は,
Held
型に 類似 し た 刺 激 提 示 装 置(Awaya
・
Mohindra type )を用い て, PL 法の有 用 性 を示 し て い る
.
これ らの対刺激に よ る方法と はべ つ に, 単一
刺 激 (縞 模様ま た は無 地灰 色)の提 示に よ る方法も, 予 備的に は 試み ら れて い る(ex・
Baller& Heid,
1983).
こ の方 法で は,
乳児の縞 模様に対す る反応 と無地 灰色の領 域に対 す る反応と の間の質 的 な相違を乎 掛りに, 提 示さ れてい る 刺激が縞か無 地かを 判 断 すること が, 観察者に求め られ る わけである.
な お,
1
歳 以降5,6
歳 まで の幼児 につ い て よ り 信 頼 で き る視 力評定 値を得る 日的、
ヒ, オペ ラン トに よ る方法 が有効で あ るこ と が知ら れて い る (ex.
B孟rch,
Gwiazda,
Bauer,
Naegele,
& Held,
1983).
縞 模 様と無地灰 色とが対 提 示 される点は PL 法と同じである が, 被 験 児が手 を伸ばし て縞 模 様 側のス ク リ
ー
ン に触れた時だけ,一
粒 の 「チ エ リ オ 」(小 児 食)が報 酬と して与 えられる (具 体 的な応 用につ い て は, 註2参 照 ).
C) 縞 視 力 の発 達 すで に公表 されて い る諸 研究間で,
方 法的に はか な り の相違 がある にもか かわ ら ず, 乳 児の縞 視 力の発 達につ い て はか な り一
致 した 結 果が 得ら れてい る.
た と え ばDobson & Teller (1978
,
Fig.
5)は, PL 法に よ る視力発 達の諸研 究 を プロ ッ ト し直 して比 較し た が, 刺 激 図 形
の性質 や 輝 度
,
手続 き等の 相違に もか かわ らず, かな り良い
一・
致を見 出し た.Sh
{mojo et al.
Cin
press;Fig.
1参 照 ) も, PL 視 力に関 する
5
つ の報 告を プロ ヅ ト し直 し て比 較 した 結 果,
非常に 若い月齢 (2ヵ月 〉の場 合を 例 外と して, 縞 視力の評 定 値の ば らつ きが e.
Sオ クター
ヴ 以 内であること を見出した.PL
法に よっ て測 定された 縞視 力の典型 的 な 発 達経過 は,
大 体つ ぎの よ う に 要 約で きよ う.
〔1} 視 力は 1ヵ月 齢におい て 空間 周 波数1
サ イ クル /度(cycles per degree
,
cpd )以.
ドで ある が,
6ヵ月齢ま で に 急速に発達 し て, 5cpd 前 後となる
.
〔2) 6 ヵ月 齢以後 発達 は 緩やか とな り,
1
歳でお よ そ12cpd
に達 する.
正常 成 人の レベ ル との 間に は, ま だ か な りの開き がある (オペ ラン トに よ り年 長 児 の視 力を測 定した諸研 究に よ れ ば,
縞視力 が成人の レ ベ ル に達 するのは5
歳 頃 であるとい う : Mayer& Dol〕son
,
1982
;Birch,
Gwiazda,
Bauer,
Naegele,
ア 4
ヨ
ヨ
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5 畿 2 5{
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7
’
−
t・−
i
’
.
・gLt・
5 AGE 〔m 虐h6) Fig.
1 縞 視 力 と副尺視 力の発 達 刷 尺視力(O )は, 縞視 力(△)に対し て,4
ヵ月齢 頃 か ら優位 性 を 示 しは じめ る (副 尺 視 力につ い て は4
節 参 照 ).
破 線は,
他の PL 法を用い た諸 研 究に よ る縞 視 力の発 達を示 す (Shimojo et a1.
,
in press よ り).
58 基 礎 心 理 学 研 究 第
2
巻 第2
号 & Held,1983
).
{3
) 5, 6ヵ月 齢 頃から8ヵ月 齢 頃 まで の間に, 発 達の 停滞 (’
‘
plateau”
)が見 られる.
これは様々 の研 究 グルー
プ に よ る諸 報告問で,一
致して 見出さ れ る (Bauer
et aL,
in
press).
(4) 未 熟 児 と 正常児 (
full−
term infants) と の間で 縞 視 力 を 比 較 した 諸 研 究に よれば (Miranda,1970
; Fantz et a 工.
,
1975),
縞 視 力の発 達は環 境 要因 よ り も, 成 熟に主 と し て依存し て い る.
d) オブリッ ク効 果 (oblique effect ) 成 人で は, 主 軸か ら傾い た方 向の縞に対 する視 力 (解 縁 力 )は通 常, 垂 直 または水 平 方 向の 縞に 対 する視 力に 対 し て,10〜20
%劣る.
こ の オ ブ リッ ク効 果の原因は 論 議の的となっ て きた.
たとえば, 特 定の方 向の縞 模 様 だけの視 覚 的 環 境 下で育て られた仔ネコ (stripe−
reared kittens)を用い た諸 研 究 (Blakemore &Ceoper,
1970; Hirsh & Spinelli,1971)では, 環 境 要 因の重 要 性 が 強調 される
.一
方, モ ンゴル系の 人 種 的 起 源 を持っ 集団では
,
白 人 種 系の集団 に比べ て オブ リッ ク効果 が 小さい(主軸
一
斜軸間で視 力の差が小さい)こ と を示 した報 告もあ り(
Annis
&Frost,1973
;Timney
&Muir ,1976
),
遺伝 的 要 因も無 視で き ない
.
Teller
et al.
(1974)は,
6
ヵ月 齢 まで の乳 児で,
主 軸一
斜軸間での視 力の差 を 見出さ なかっ た.一
方,Gwiazda,
Brill,
Mohindra,
& Held (1978;1980)と Birch,
Gwi−
azda,
Bauer,
Naegele,
& Held (1983)は,
6 ヵ月 齢まで に斜軸方向の縞 視力 が 主軸方向の視 力よ り劣 り, 年 長 児で もこの傾向が続くこと を示 した
.
以上の よ うに結 果 は必 ずし も一
致 して いない が, 主軸方向の縞と斜 軸 方 向 の縞とを対 提 示 する と い うよ り直 接 的 な 方 法 を用い た研 究 (Leehey
et aL,1975
;Gwiazda,
et al.
,1978
)に ょれ ば, 2ヵ月 児に おい てすで に,
閾 値 近 辺の 空 間 周 波数領 域で の主軸に対する 選好が見ら れ る.
すな わ ち, 斜軸方 向では閾 値 以 下で縞が検 出で きず, 主 軸 方 向での み縞が 検出さ れ た た め に,
主軸 方向に対 す る 選好が 見 られ たの であろ う.
以上 の結 果か ら, オ ブリッ ク効 果の基 礎は, 空間 的に偏っ た環 境と は独 立に発 達 するもの と一
応 結 論 で きる (Held,
1978;佐 藤,
1982 も 参 照).
なおBauer
et al.
(1979)は,
PL 法 を1
日い て, サ ル (iVfacaca arctoides )でも オ ブリ ッ ク効果が見ら れる こ と を示 した.
e) 経 線 弱 視 (meridional amblyopia ) いわゆる乱 視の状 態にある眼 球は, 光 学 的に完 全 な 球 状で はな く, 円柱 型 (cylindrical )の成 分 を 持っ てい る.
従っ て, 前 額 平 行 面.
ヒで一
時に焦 点を完 全に合わすこ と がで きるのは一
方 向の みである.
その上,
ある特 定の方 向は習慣的に焦点か ら外れ,
ぼやけたままにな り が ちで ある.
多くの成入乱視 者では,
乱視矯正 用の眼鏡を かけ る 以前に 習慣的に焦 点か ら外されていた方 向の縞に対し て, 屈折異常(refractive error )を光学的に完 全に修正 した 条件下で さ え,
視 力の低下 がみ と め ら れる (Mit−
chell et a1.
,
1973),
これ が 経 線 弱 視 (meridional am−
blyopia)と呼ばれる状 態である。
焦 点か ら外れる軸 方 向は個 人 聞で異なる が, 弱 視はつ ね にその軸方向に対し て 選択 的に生 じる.
こ う し た こ と か ら,
この種の弱 視 は,
習 慣 的 な 像の 「ぼや け 」に よっ て引き 起こさ れ た中 枢 視覚系の 機能低一
ドである とい う考え方が, 当然 成 り立 ち得る わけである.
近 距 離 検 影 法 (near retinoscopy
,
Mohindra 1977 a,
b
) 及び写 真に よる検 影 法 (photorefraction,
Howard et al・
、1978
)と いっ た方法に よっ て,1
歳以一
ドの乳児の 約 50% に臨床上有意 な 乱視が見 出さ れること が, すで に知られて い る,
これは成人に比べ て約5
倍ほど も高い 頻 度で あ る (Mohindra
et al.
,1978
).
Atkinson
& French (1979>に よれば, 乱 視 を持つ乳 児は, 焦 点か ら 外れた方向よ りも焦 点の合っ た方 向の縞に対し て 選好を 示 すとい う.
縞 視力 測定の手続き (縞と無地の対提 示)を用い て,Teller et al
.
(1978)とHeld (1978)はつ ぎの2
点を見 出した
.
(1} (2〕 「ぼや け」てい る軸 方向で視 力の相対 的 低 下が み と め ら れ る.
こ の こと は,
輻輳の変 化に よっ て は焦 点 深度が 十分に修 正 さ れて いない こ とを 意味 する.
シ リンダー
型の レ ンズを乳 児の両 眼に装 着 して, 屈 折異常を光学的に 修正 し た条 件では, 視 力が 正 常 (; 元来 焦 点の 合っ てい る方向と同 等 )になる.
こ の よ うに, 彼 らは 1歳 以 下の年 齢に お い て経 線 弱 視 の兆 候 を見 出 すこと がで きなか った2).
f
) 斜 視弱視(strabismic amblyopia ) 内 斜 視 (esotropia )と い うの 1ま,一
方の眼球が習 慣 的 に鼻 側へ 内転 し遇 ぎて い る タイ プの斜 視であるが, しば し ばこの 内転 してい る眼に弱 視 を引 き起こす.
この眼 球 その もの は 〒E
常であ る故,
これ は 中 枢 視覚系の レ ベ ル で 2) Gwiazda et al.
(in press)は.
tt
肢選択 弁 別 課題 を用 い て, 乱 視を持つ小 児を検査 した (手 続きについ て は 2−
b参 照 ).
その結 果,
4歳 まで に眼鏡 等に よ る矯 正 を受け た集 団で は,
焦 点か ら外れ た軸方向につ い て光 学 的 修正 を 施 して テス ト した場 合に は,
視 力の 低 下 を 見 出 さ なか っ た,
従っ て, 習 慣 的 な 像の 「ぼ や け 」に よっ て弱視が 引 き起こさ れ, ま た矯正 さ れ る敏感 期は,
4歳 以前であ る と 思 わ れ る.
下 條
・
IIELD :乳 児の視 力発達 59 の変 化に起 因 する弱 視であると考え られる.
また内斜 視 は誕 生直後でも見 出 される。
そこ で, こ う した内 斜 視を 持つ 乳 児の視力を測 定 する こ と に よ り,
人 間にお ける中 枢 視覚系の発 達の 敏 感 期 につ い て 知り得る と考 えられ た,
内 斜 視のある乳児は,
3ない し4 ヵ月 齢まで は,
内 転 し た 眼でも 正常な側の 眼と同等の視 力 を示 す,
しか し,5
ない し6
ヵ月 齢ま でには, 正 常 な 眼に比べ て内 転 した 眼は有意 な視 力の低 下を示 し は じめる(Mohindra
et al.
,
1979 ;Jacobson
et a1.
,1981a,1982;Thomas
et aL 1979; Birch, Gwiazda,
& Held,
1983
),
これ らの結 果か ら,視 覚 系が こ うし た異常に対 して感 受性 を示 しは じめ る の は,
4
ヵ月齢の終わ り頃と推 定される、
こ の種の斜 視 弱 視に対 する治療は普通,
正常な側の眼 を 眼 帯で覆 うこ と に よ る が, 次節で述べ る よ う な両 眼 間で の視 力の相 対的 変 化を結 果と してもたらす.
g) 単眼お よび両 眼の視 覚 剥奪9 )(deprivation ) 眼球 内の媒 質が白濁 し て い た り(た とえ ば臼内障 ), 治 療の 目的で単 眼ま た は両眼 を遮蔽した りするこ と に よっ て
,
視 覚が剥 奪さ れる こと がある.
乳 児 期に何らか の理 由で両 眼が遮 蔽 されて い て も, その原 因が1
歳齢ま で に 取り除か れ,
かつ レ ンズを着 用 する こ と に よっ て屈 折 異 常が修正 さ れ た場 合に は, 永 久 的 な 機能の欠損は 生 じない (Mohindra et al
.
,
1983).
同様に単眼 遮蔽の場 合 も, その原因 が
1
歳齢ま でに取 り除かれ, かつ屈 折 異 常が修 正 さ れ れ ば, 永 久 的な機 能 欠 損は 生 じない4) (JaCQbson
et a1.
,
1983).
短期 間の完全 遮蔽 (eomPlete occlusion ; 光さ え 通 さ ぬ状 態)の場合に は,
その遮蔽が6ヵ月 齢と 9ヵ月 齢の間にな された時, 視 力 回 復の 9∫能 性が もっ と も高い (Awaya
et al.
,1980
).
内斜視を持つ 乳 児で は,
すで に述べた通り,
4 ヵ月 齢 ない し5 ヵ月 齢か ら正常な側の眼で の視 力が, 内 転した 眼で の視 力を 上回り は じめ る.
こ の時点で正常な側の眼 を 眼 帯で遮蔽 してや る と,内転し た限で の視 力は向 上し, 遮 蔽 された 眼での 視 力は 低 下 する (Mohindra
et aL,1979
;Thomas
et al.
,1979
).
っ ぎに眼帯を外 すと, 逆 の過 程が 生 じ る.
すな わ ち, それ まで遮 蔽されて い た眼 の視 力が回復 し, 内転 した眼の視 力は再びもと の低い レ ベ ル に戻る.
こ う した 視力の互換 性は,
少 な く と も1
歳 齢頃まで は, 両眼間で の掴 制的交互作用が存 在 するこ と を 示 唆 する(Jacobson
et al.
,
1981b,1982
;Katsumi
et 3) こ こ で い う 視 覚 剥 奪 と は, 主と し て 形 態 視 剥 奪(form vision
deprivation
)を さす.
4
) た だ し, と く に単眼 白内障 等の場合, 異 論も あ る(勝海
,
1983).
al
.
1981;菅 原 ら,1983
).
こ う した結果と,
視運動性眼震 (OKN )ある い は祖覚 性 誘発 電位 (vlsually evoked potential
,
以 下VEP
と略す)を 用い た諸 研 究 (Enoch&
Rabinowicz,1976
;Enoch
et al.
,1979
;Odom
et al、
,
1981 )とを考え合わ せ る と, 人 間の乳 児の視 力が単 眼 遮 蔽に よっ て影 響を蒙るの は, 生後かな り早い時 期か ら少 な くとも1歳齢に至る時 期 である と 推 定さ れる (OKN
お よ び VEP の方 法につ い て は佐 藤 (1982)を参 照 ).
h) 行動学的 測 定法と 電 気 生 理学 的測 定法と の間の 差 異 Dobson & Teller(1978)は乳 児の視 力 を測 定 する3
種 類の方 法 を 比較し, その結 果に系統的な差異があるこ と を指 摘し た.
非常に若い月 齢(1
,2
ヵ月 )をべつ とす れ ば,
2つ の行 動 学 的 方法,
すな わ ちPL
法とOKN
に よ る方法とは, 大 体 類 似の 結 果を も た ら して い る.
しか し, 電 気 生 理 学 的 方 法, す な わ ちVEP
に よる結 果は, 行 動学的方法に比べ , 概して 1〜
2オ ク ター
ヴ高 くなる 傾 向がある.
い ま, たとえば PL 法と VEP 法とを比 較 す る と,
測定さ れ る反応 自体が異な る ば か りか,
用い ら れる視 覚 刺 激も, psychometric な基 盤 もすべ て異 なる の である か ら, 結 果に差 異が見られるこ と は それほ ど不 可 思 議で はない.
Dobson & Teller (1978)は, こ の差 異に関 し て 4つ の可 能 性を列 挙し て い る.
〔1
) 刺 激 変 数.VEP
法で用い ら れ る視覚刺激は時間的 に交 替 するパ ター
ン(フ リ ッ カー
)である の で, これ が PL 法で普 通 用い られる静 止 した 縞 模 様に比べ て, 高い視 力の評 定 値 を もたら して い る口J
能 性があ る,
し か し, PL 法で時 間 的に交替するパ ター
ンを 刺 激と して用い て も, 結 果に有 意 な 差は み と め られない (
Atkinson
et al.
,1977
;Dobson,
Teller,
&
Belgum ,
1978 )こ と から, こ の考 え方は有力と はい え ない.
(2) 〔3} デー
タの処理法 (視 力の評定 法),PL
法で は普通,
観 察に よ る 「正答」率が75
% (50
%が チ ャ ン ス レ ベ ル〉となる縞の空 間 周 波 数 を もっ て, 視 力の評 定 値 とする (2−b
参 照 ).
こ れに 対 しVEP
法で は, VEP の大き さ (amplitude )がほ と ん ど零に な る刺 激の サ イズで視 力が評 定さ れ る.
こ れ はPL
法 に 比 べ る と,
か な り緩い 基 準 であ る と も い え る.
事 実 PL 法でも, 60% ある いは55 %と い っ た低い基準を 設けれ ば視 力の 評定 値は1〜1.
5
オ ク ター
ヴ高くな り,VEP
に よる評定 値の範囲に ほぼ 重 なる (Dob−
son &Teller,1978
).
デー
タの最小単 位.
最近のVEP
法に よ る研 究で は,
ノイ ズ か ら有意 味 な シグ ナル を分離 す るため60 基 礎 心 理 学 研 究 第 2 巻 第 2号
に
,
数多くの試行 (少 なく とも100)の結 果 を平 均 化するのが常 識で あ る (averaging
basis
),
これに対して PL 法で は, 乳 児の反 応は
1
試 行 毎に 判定され, 閾 値以 下の 刺 激は加 算さ れる とい うこ とがない
(trial
・
by−
trialbasis
).
(4) 最 後に, 2種の方 法 問での結 果の差 異が, 少な く と も部分的に は実 質 的な差を 反映 し て い る可 能 性も残 されて い る
,
す なわ ちVEP
法と行 動 学 的方 法 と は,
神 経系の異 なる レ ベ ル で の 情 報 を検 出 して い るの かも知れない.
比較的高い空間 周波 数で の信 号 は,VEP
の各 構 成 成 分には反 映され 得る け れ ど も,
行 動の レベ ル で は表 出さ れ得 ない の である.
こ の問題は慎 重に検 討 し て み る 価 値がある.
と い う の は, 行 動学的 測定法を言語を使え ない被 験者 (non・
verbal subjects ;乳 児 , 障 害 児, 動 物 等 )に適 用して視 力や感 度を 測 ろ う と する時,
我々はほ とん ど宿命 的に そ の視 力や感 度を不 当に低 く評 定 して し ま う危険を昌して い る からである.
Held et aL (1979)はべ つ の可 能 性を 指摘 して い る,
すで に触れた よ うに (2−−
b ), 彼 らは, 乳 児が閾 値近 辺の空間 周 波数領 域で, 縞模様よ り も む しろ 無 地の 側に対 し て選好を示 すこ とを見 出した.
従来の方 法で は, 視 力 を評 定 する際に こ の高 周 波 数の縞に対 する 非選好が 無 視 されて い るので, 視 力の評 定 値は必 然 的に 実 際よ り も低くなる と い うの である.
2つ の研 究グルー
プ (Teller et al.
,1982
;Banks et al.
,
1982
)が ン そ れ ぞ れ独 自の手続き に よっ て追試を 行なっ た結 果, こ の逆 選 好の現 象を否 定 し, 従っ てそ れに よる PL−
VEP 間の差 異に関 する解 釈 も 否 定 した.
しか し一
方, 他の1
グルー
プ (Shepard et aL,1983
)は同 様の逆選好の現 象を独 立 に 見 出し て い る.
最後に, こ の問題に関 し て最近提起 さ れた論点を二 つ ほ ど付 け 加 えておきたい.
ま ず 第一
に, 同じVEP 法で も, 誘 発 電 位の大 き さ (amplitude )で はな く反 応 潜 時 (latency
)を指 標にする と, 評 定 値 全 体の水 準, 成 人の 視 力に達 する年 齢ともに, 大 体 PL 法に よ る結 果と一
致する (
Moskowitz
& Sokol,1983
).
第二 に,
人 間のVEP
視 力,
PL
視 力 をネコ のVEP
視 力と(年 齢, 視 力ともに標準 化した上で)比 較 する と, PL 視 力と動 物の視 力と
の 間に明 臼な
一
致が見ら れ る(佐藤,
1982
).
i) コン トラ ス ト感 度 (contrast sensitivity ) 乳 児の コ ン トラス ト 感度も同様の方 法で 測 定で きる
(Banks
,1982
:Banks
&Salapatek
,
1976,1981
;Banks
&
Stephens,1982
;Atkinson
et al.
,
1974,
1977).
こ れらの研 究で は, 各空間 周 波 数におい て縞の コ ン トラス トに対 する乳 児の感度が測定された わけである.
結 果と して, コ ン トラ ス ト感 度 曲 線 (contrast sensitivityfunction
)の発 達 的 推 移 を検 討 する こ と が で き る が, 最 近, 佐藤 (1982
)が詳 しく論じて い る の で, こ こ で は省 略する.
乳 児の縞視 カー
般に 関 する レビュー
と して は, Dob・
son & Teller(
1978
)とHeld
(1979
)が 比較 的 詳しい.
乳児における コ ン トラス ト感度にっ い て は,
Atkinson
&Braddick
(1981)がある.
3.
立体 視力 a) 立 体 視 と立 体 視 力 乳児は, 平らな表面よ りも奥行きのある対 象を 選択 的 に 注視 する(Fantz,
1961).
こ の選 好 を 利 用 して乳 児にお け る立 体 視の有 無 を判 定 した り, 立 体 視 を測 定した りす る試み が,
すでに い くつ かな さ れ て きた.
Held et aL (1980
)とBirch et al.
(1982
)は , 強 制tlt肢 選 択 (forced・
choice
・
two−
alternative )PL
法 を 用い て乳 児の立 体 視 力を測 定し た
,
彼 らの方法は縞視力の測定に用い ら れ た も の と 基本 的に は同じで あるが, こ の 場 合に は, 同じ空 閭 周 波 数の一
対の縞 模様が 乳 児の左右に提 示さ れ, その う ちの一
方の縞 模 様だけが両眼視差 を持つ (Fig.2
参 照 ).
刺激バ タンは一
対の プロ ジ ェ クタに より背 後から偏 光ス ク リー
ン に 投 射されるが, 両 眼に 与 える像 を分 離 するた めに, た が いに直 交 する偏 光 軸を持つ 偏 光プィル タが, 各々 の プロ ジェ ク タの前に固 定 さ れる.
正 常 な 成 人が同 様の 偏 光め が ねをかけて観 察 する と, 両 眼 視 差のある側 に だけ奥 行き が知 覚される,
乳 児に も 同様の偏 光め がね をかけ させ て, PL 法に よ る テス トが実 施 された.
被 験 Fig.
2 立 体 視 力 測 定の ための刺激パ タソ 右 側と左 側とで縞の空間周波数は一
定.
し か し片 側 (こ の例では右 側 )だけが ボラ P イ ド法に よっ て両 眼 視 差 を与え ら れてい る ため,
正常 成 人に は こ ち ら側 だ け が 3次 元的に見え る.
中央の覗 き穴か ら,
観 察 者が 被 験 児の 選 好 注 視 を 観 察 する (Held et aL,
1980よ り)、
下 條
・HEr.
D 乳 児の視 力発達 61 児は最 初, 差を段 階 的に1
分 まで減 少 させ て順に テ ス ト された.
逆に結 果が基 準に達 しない場 合に は,
よ り大 き な 視 差 (最大値 :58分 )で テス トされた。
その他の点で は縞 視 力 測 定の 重続 き (2−b
)にならっ て,
各被験 児の立 体視 力が評 定された.
立体視の発 達 上の特 徴は, ま ず第一
に, 立 体 視 能 力が 平 均4ヵ月 齢 頃に突 然 発 現 するこ と である.
ま た,
その 後に続 く数週間の間に立 体 視 力は急 速に発 達し, 少な く と も1
分の レ ベ ル に まで達 する.
こ の発 達 的推移は,
す で に述べた (2−
c)縞 視 力の遅い発 達 速 度と比べ て, 対照 的である.
こ の 2種 類の視 力の基礎には,
二 つ の 異 な る メ カニ ズム が働い て いると思われる (Held,
in press a,
b
:4
節で改めて論 じる).
Fox ら の グル
ー
プ (Fox
et al.
,
1980
;Shea
et aL,
1980)は, 異なる方 法を 用い て これに類 似の 結果を得て い る.
彼 らの刺激はダイ ナミッ ク・
ランダム ドッ ト・
ス テ レオ グラムで, 立 体 視が生 じた場 合のみ, 正方形の ター
ゲッ トが背景か ら浮き上 がっ て見 える ようにな っ て い る.
各 試行の 最初に は ター
ゲッ トは巾央に提示 さ れ,
引 き 続い て左 ま た は 右方向に動 く.
ター
ゲッ トを 追視 する 被験 児の 眼 お よ び頭の動き が, ス ク リー
ンの下の覗 き穴 か ら観察者に よっ て観 察さ れ る.
彼らは 4ヵ月 齢および そ れ 以降に限っ て,
統 計 学 的に有 意な 選好 的 追 視 を 見 出 した.
彼 らの方 法は,
他の,
言 語 を使 え ない被 験 体, た と え ば動物等に も適 用されて い る (Fox,
1981).
乳 児の 立 体 視はま た,
VEP 法に よっ ても測 定さ れて い る (Petriget a1
、
,
1981;Braddick et al.
,
1980;等々).
Teller
(in
press)とBirch
(1983
)は そ れ ぞ れ,
こ の 2種 類の方法に ・◎舮
8
吻
三 中 程 度の 大 き さの視差(34
分)でテス ト さ れ, 結 果が基 準 (10試 行 中8試行 以 上の 「正答」〉を 超 え た場 合に は, 視 よ る諸研究を 比較した結 果, 立 体 視の発 現 する年 齢と立 体 視力の発達の両 面に おい て, 結 果が非 常に良 く一
致 す る こ とを見 出した (Fig.
3 参 照 )5).
b) 両 眼輻 輳 機 能と立 体 視 上 記の よ うな結 果に つ い て, つ ぎの よ うに 解 釈 するこ とも 可能であ る。
すな わ ち,
立体 視に 必要な皮質 機能は4
ヵ月齢以 前でも備わっ てい るの だ が, 若い月 齢で は両 眼の幅 輳 機 能が未 熟であるた めに, こ の皮 質 機 能が働 き 得 ない だけである, と.
こ の考 え 方は, つ ぎの 2つ の理 由に よ り有力で は ない.
(2) 2,
3ヵ月齢の乳 児でも,
ター
ゲッ トの距離の変化 に ともなっ て, これ を注 視 し調 節 距 離 を変 える た め に,
両眼の輻 輳を変 化さ せ る能 力がある と思 わ れる証拠 がある (
Aslin,1977
;Aslin,
in press).
融 含の た めに正 確 な輻 輳 を必 要と しない ように デ ザ イン された, 特 殊なス テ レオ グ ラム (
一
本おきに視 差を持つ ように作ら れた縞 模 様 )を用い て も, 4 カ 月 齢 以一
ドの大 部分の乳児は選 好を示さ ない (Birch,
Gwiazda
&Held
,1983
).
I2345678dy
(mos ) F三g,
3 立 体 視の発 達 両眼視差に対し て反 応を 示 し た乳 児の比 率が,
各 月 齢 毎にプロ ッ 1・
されて いる.
縞 視 力の場 合 (2−h
)と は対 照 的に, こ こ で は異なる方 法 問で か なり良い結 果の一
致が み とめ られ る (PL 法一
Fox,
Birch et al.
;reaching−
Bechtoldt&Hutz ;VEP−
Petrig)(Birch 1983より)
.
内 斜 視お よび・
f
く同 視 (anisometropia )を 持つ 乳 児の立 体 視 力に つ い て は, Birch (1983)が主 要 な 結 果 を要 約 し てい る.
C) 他の 両 眼 視機 能と の 関 連 立 体 視の発 現 時 期は, つ ぎに示 すような 他の両 眼 視 機 能の発現時期 と,
か な り良く一
致 する.
〔1) 視 野 闘 争を 起こ して い る両眼刺 激と,
融 合 して い る 両 眼 刺 激と の弁 別 (乳 児は 4ヵ月 齢 頃か ら,
視 野 闘 争 を 起こ し て い る領 域よ りも 融 合 して い る領 域 を選択 的に注 視 する よ うにな る :Birch,
et al.
,
in press).
(2) 両眼の瞳孔反 射にお け る,
明る さに対 する反 応の加算 性(summation :Birch &
Held,1983
)6).
単 眼で の視運動 性眼震 (OKN )における, 鼻 側 方 向
と耳 側 方 向との 対 称 性 (Naegele &
Held,1982
; Naegele & Held,
in press)?).
) 5 ) 6 この こ と は必 ずし も
,
4ヵ月 齢 以 降の乳 児が 「立 体 的」 また は 「奥 行き的」 な知 覚 を 持っ て い る こ とを 意 味しない.
乳 児がたんに両眼視 差に反応 してい る だ け なの か, そ れ と も視差 が奥行ぎ と して知覚 さ れ て い る故に そ ち ら を 選 好 するのか, は興 味 深い 問題 であ る が,
これ まで の所 明ら かで はない.
4ヵ月 齢 まで の乳 児で は, 単 眼 条 件と両 眼 条 件との 間で瞳 孔の直 径に有 意 な 差が見 られ ない が, 6 ヵ月 齢頃 まで に は 成 人 同様単 眼 での瞳 孔 サ イズが有意に 大き くな る.
斜 視の被 験 者で は, こ の種の加 算 性は 見 られ ない とされて いる.
62
基 礎 心 理 学 研 究 第 2巻 第 2号 (4) 先天性内斜 視 (congenital esotropia )に お け る,内転 した眼の視 力 低 下 (2
−
f 参 照 ).
Birch(1983)お よ び Held (in press a
,
b)はこれらの諸 研 究 をレ ビュ
ー
し, こ うし た両 眼 視 機能の基 礎と な る視 覚皮質の発 達につ い て論じて い る
。
Held (in press a) に よれば, ネコ, サル, 人 問の三者におい て, 上 記の ような両眼視 諸機能の 発 現お よび 発達経過 が
,
相互に良 く一
致 する.
さ らに動物の皮 質17
野IVc
層にお け る,
いわゆる柱状構 造 (ocular dominance column )の発 達
に関 する解 部 学 的
,
電気生 理学的 知 見を考慮 に入 れ る と, 上記の ような 両眼視の 行 動学的 諸 測 度は, 中 枢 レ ベ ルでの生理 学 的 構 造の成 立を, か な り直 接 的に反 映し て い る と思 わ れる,
4.
副 尺 視 力 (vernier acuity ) 副 尺 視力と は,一
定の方 向にある線, 縞 等の横ず れに 対 する解 縁 力 を さす が (図4
参 照 ), 正 常 な 成 人で は立 体 視 力と並んで きわ めて高い解 像 力 を示 すた め,
Westhei一
皿er(1979,1981
)は これ をハ イパー
視 力 (hyperacuity
) の一
種と し た (実 際 副尺 視 力は 通常, 網 膜 上の受 容 細 胞の直 径の数 分の一
以下の値 を示す).
心 理物理学 的,および
’
‘
comPutational”
な諸 研 究 (Morgan & Watt,
1982
;Watt
et al.
,1983
;Watt
&Morgan
, 1983 ; Marr ,1976;Marr et aL
,
1979;Marr & Hildreth,
1980)によ れば, 網膜 レベル で の処理は こ の場 合 む しろ低 周 波 数
フ ィ ル タ (
low
band・
pass 趾 er)と して働く.
従っ てこ の ような高い 解 嫁力 を最終的に 得る た めに は, その後の より高 次の レベルで, 局 所 的 な 視 覚 情 報の内 挿 (inter−
polation)ある い は再 構 成 (reconstruction )が どうして も必 要と さ れ る とい う.
副尺 視 力の低F
を, 翁 視に お け る異 常な 空間 知覚の 原因 と見 做 す 考え方がある (Bedell
& Florn,
1981>・
ま た,
斜 視弱視と不 同視弱 視 とでは,
副 尺視力にまっ たく異 なる特 徴 が 見 られる (Levi & Klein,1982
)8 ).
さ らに単 眼の視 覚 剥 奪の結 果 , 遮 蔽 され な かっ た方の眼で通常よ り も む しろ高い (supernormal ) 7) 動物お よ び 人聞の新生 児で は,OKN
の 低速度成分 におい て, 鼻 側 方 向の耳 側 方 向に対 する優 位 性が見 ら れる が, 5ヵ月 齢 頃 まで に は両方向 間で の差が な くなる.
斜 視お よび 弱 視の被 験 者は同 様の非 相 称 性 を示 すこ と が知ら れ てい る.
8) 不 同 視 弱 視の ケー
スで は,
副 尺視 力と 縞視 力お よび ス ネレ ン視 力 (Snellen acuity )との間に高い相関が 見 られる.
これに対 し舗 視 弱 視の ケー
スで は, 縞 視 力が相対 的に独 立 し てお り, 副 尺 視 力 と ス ネ レ ン 視力 との間にのみ相 関が見ら れる.Levi
らに よ れ ばこ の相違は, 弱 視の生起 過程の相違を反映し て い る.
Fig・
4 副尺視 力 測 定のため のディ ス プ レイ 縞模 様の 特定 箇 所の横 ず れ (vernier offsets)が視 覚 的に検 出さ れ ている時 だ けに限っ て,
垂 直 方 向の 運動 が 知覚さ れ る よ うに工夫さ れた (この例で は右 側 )(Shimojo
et al・
,
in
press よ り).
副 尺 視 力が検出さ れるこ と がある(Freeman
&Bradley,
1980,
た だ し これに は異 論もある).
以上の よ うに, 副 尺 視 力は中枢に お ける視 覚 処理の一
つ の 特微的 な 結 果であ り, また こ の レ ベ ル における異 常の優 れた指標と も見做 し得るの である.
い ま仮りに, 立 体 視 力と副 尺 視 力の双 方の上限を決め る,
視覚皮質 レベ ルで の共通の解 像 力の よ うな ものがあ り,
その 生 理学 的基 盤 も共通である とする.
もし これが 事 実であるなら, この 2種 類のハ イパー
視力につ い て,
き わ めて類 似の発 達的変化を予 測できる は ずで ある.
Shimojo
et al.
(in
press)は, こ の可 能 性を実 験 的に 吟 味し た.
彼らの 研 究では, 動きと音 をとも な うディ ス プ レイ が 用い ら れ,
2 ヵ月 齢か ら9ヵ月 齢 まで の乳 児がPL 法に よっ て検 査された.
こ の ディ ス プレ イ で は (Fjg.
4 参照), 縞 模 様の特 定 箇 所の横 ずれ (vernier offsets )が 視覚的に検 出されてい る時だけに限っ て, 運 動の知 覚が 生 じ, 音が被験 児の選好 反応 を強化する ように 工夫 さ れ た9 ).
この よ うな複 合 刺 激に よ っ て, 選 好 反 応の不 明 確 さ やノ イズの問 題が克服された の である.
同じ実 験 群の 乳 児につ い て, 縞 視 力 も2−
b で述べ た方 法で 測 定さ れ た.
その結 果, 副尺 視 力は 4 ヵ月 齢 以 降になっ て は じめ て,
縞視力 を有意に 上 回る ように なる こ とが 示 された ) 9 音は横 ずれの運動と 同期さ れて い るので,
被 験児の一
般 的 注 意 をデ ィ ス ブV イ全 体に引きげつ る ば か り で はなく, い わゆる“
visual capture”
効 果に よ り, 運 動の見られる側に音 源が定 位 される.
こ の よ う に, 音は二重の意 味で被 験 児の選 好反応 を 強 化 す る と期 待された.
下條
・
HELD :乳 児の視 力発達63
。
豈
ll
l
・・壅
ω の ト蓄
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4
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一
曜ノ
’
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’
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’
一 2345678−
9 AGE 〔mortths ) Fig,
5 副 尺 視 力 優 位 性と立 体 視 力優位 性の発 達 縞 視 力 を0.
5オ ク ター
ヴ以 上 上 回る副 尺 視 力 をnt し た乳 児の比 率が,
実 線 (C)で示 さ れてい る、
また こ れ とはべ つ の群の 乳 児の う ちで,
縞視 力を0、5
オク ター
ヴ以上 上 回 る 立体視力を 示 し た乳 児の比率が, 破 線 (▲)で示されてい る.
両 者の間にきわめ て高い 相 関が み と め ら れる (Shimojo
et al,
,
in
press よ り).
(Fig.1
参 照 ).
立体視力が平均4 ,5
ヵ月齢以降,
縞視 力に 対 する優 位 性を獲得する こ と は, すで に知 ら れて い る (2−
a 参 照 ),
そこで縞 視 力に対す る, 立体視 力の 優 位 性と副尺 視 力の優 位性の 2者が,一
定の優 位 性 基 準を越 えた被 験 児の パー
セ ンテー
ジ で比較された (Fig.
5).
結 果と して こ の 2者の間に非 常に高い相 関 が 見 られた.
この こと か ら, こ の 2種 類のハ イパー
視 力が ほ とん ど同 じ発達 過 程 を 辿 ること が示 唆さ れ,
視 覚皮質レベ ル での共 通の基 盤 の存 在が推定さ れ た.
こ の方法はま た, 乳 児の臨 床 検 査 用と しても,
有 効である と思 わ れる(Enoch & Williams , 1983)、
最 後に, 縞 視 力, 立体視 力および副尺視 力の発 達の生 理学 的基礎につ い て,
視覚 系の処理 レ ベ ル の相違とい う 観点か ら, も う一
.
捜比較 検討して お き たい,
まず解剖 学 的諸 研 究 (Mann ,1969
;Abramov
et a1.
,
1982
)に よれ ば,
人 間の網膜, 特に中心窩付近は出 生時に は極めて未 熟で あ り,
そ の後も成 熟に時 間を要す る.
2−
c で 述べ た 縞視力の比較的 緩や か な発達曲線は,
主 と して この よ う な 末 梢 神 経 系レ ベ ル での成 熟 過 程を反 映 してい るもの と 推 測 される.
これに対 して立 体 視 力は, 4 ヵ月 齢 以 降極 め て急 速に発達 するが (3−
a), 以 下に示 す 理 由に よ り,
末 梢よりむし ろ中 枢 視 覚 系にお ける解 縁 力の発 達の指 標 と見 做し得る.
{1}皮質レ ベ ル での 両眼 入力の幅輳が 必要とされ る.
両限球の輻輳運動の 発達 は 立体視を制 約はする が, 人 間の立 体 視 力の発 達に関 する限り本 質的要因で は ない (3−b
).
(3) その解 嫁 力が網 膜 受 容 細 胞の直 径から示 唆さ れ る限 界をは る か に超 えて い る, と い う意 味で,
立 体視力 はハ イパー
視 力の一
種であ り,
従っ て中 枢 遇 程 を 必 要とする(Westheimer ,197g
).
(4) 動物実 験 に よ れ ば, 初 期にお け る単眼視 覚 剥 奪の 結 果, 皮 質 レベ ル で変化が 生 じ立 体 視が 損 わ れる (Pettigrew,
1974
;Timney ,1983
).
また暗 室 飼 育 された ネコで は, 縞 視 力は良好に保 た れて い る に もか かわらず, 立 体 視が損わ れ る(Kaye et aL ,1982)
,
副 尺 視 力 につい ても, そ れ が ハ イパー
視 力であるこ と か ら, 中 枢過程の 関与が 示 唆 さ れ る (Westheimer,
1979).
さきに述べ た よ う な, 成 人における 心理物理学 的, 臨床 的 な諸研 究はこ の考え方を 支持する.
さ らに乳 児におい て, 立体 視力 と 副 尺 視 力 と が類 似の発 達 経 過 を 辿 る とい う筆者らに よる実 験 事 実か ら, 皮質レ ベル での 共通の過 程の存 在が示 唆 された のである.
引 用 文 献Abramov ,1
.
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