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日本海および東北地方の太平洋岸に出現したエチゼンクラゲに共生するクラゲモエビ

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(1)

日本海および東北地方の太平洋岸に出現した工チゼンクラゲに

共生するクラゲモ工ビ

林 健一 ・坂上治郎・ 豊田幸調

はじめに 刺 胞 動 物 の エ チ ゼ ン ク ラ ゲ

NemoPilema

murai

Ki

shinouye は,傘の直径が 1 m 以上に 達する大型の鉢クラゲで,これ までにも大発生 して日本海側の漁業関係者を困惑させたことが たびたびあ った (下村,1959; 安田, 2000; 2003; 2004). それが2002年からは日本海の北部にも大 量に出現し,東北地方の太平洋側においても確認 されることとな った. 2003年に入っても同じよう に発生し,それぞれの海域でとくに多数の例が報 道されている(例えば, 北園新聞2002年 9 月18 日; 富山新聞2002年 9 月28 日; 毎日新聞, 2002年10月 19 日; 河北新報2002年11月20 日,日本海ブロック 水産業関係試験研究推進会議海洋環境研究部会, 200③; Yahoo, N ew s ]apan, 2003.12.8; 宮城県水産 研究開発センター, 2003; 安田, 2004). 例年で は冬季水温の低下とともに姿を消していたが, 今回は2004年 2 月に入っても沿岸で観察されてい る( 青森県水産総合研究センター,私信 ). 岩手 県沿岸など東北地方の太平洋側にみられるクラゲ は,日本海側のものが津軽海峡を越えて太平洋側 に渡り,さらに親潮に乗って南下したと考えられ ている (下村, 1959; 久保田, 1992; 安田, 2000; 2003; 2004). 今回, 日本海においても 三陸沿岸においても, このエチゼンクラゲの傘表面及び触手基部に多 数のクラゲモエピ

La

treutes anoPlonyx

K em p, 1914 (モエピ科) が生息し てい た. クラゲ類にエピが 共生していることは,古くから比較的よく知ら れた事実である(阻shinouye,1902; Uchida, 1926; K en-

Ic

hi H A Y ASHI, ]iro SAKAUE & Koji T O Y O T A :

Latreutes ano

ρ

lonyx

K e m p associated with

Nemopilema nomurai

at Sea of ]apan and the Pacific coast of northern ]ap叩

D e M a n, 1929; Holthuis, 1947; Liu, 1955; ]ohnson, 1961 ; H a y ashi & Miyake, 1968; Bruce, 1973; Bruce, 1988; 林, 1994; 安田, 2003). しかし , ここ に出てくるエピはクラゲエピ

Chlorotocella

gracilis

Balss, 1914 (タラパエピ科) の場合があり, 熱帯 ・亜熱帯に主としてみられる現象でもあ った. 調べたところクラゲモエピとエチゼンクラゲと の共生については正確に報告されたことはなか っ た今回,両海域で潜水観察を行い,さらに水槽 での短期飼育を行ったので,クラゲモエピの形態 と共生関係を観察することができた. 調査方法な ど統ー されていない面があるが,興味深い事実が あるので,ここに簡単に報告する.

材料と 方法

野外での観察は平成15年11月に日本海側では京 都府宮津市沖,太平洋側では岩手県気仙郡三陸町 沖で行 った (図 1 ). 三陸町沖では 11 月19,21, 26 日にかけて, S C U B A を装着した 3 名とスキン ダイビング

1

名により,観察と採集を行 った. 目 視観察による記録を水中ノートとカメラに納め た. エピは 11月19 日と 26 日に手網で採集した. ビ ニール袋にいれて生かしたまま持ち帰り,研究室 で小型水槽 (315

x

185

x

245 m m) に収容し,人 工配合餌料( 日本農産工業(株)製アユソフ ト号) を与えた 一方,日本海側では宮津市無双ヶ鼻 沖で5 名がスキンダイビングにより, 11 月21 日, 25 日, 30 日, 12 月 2 日, 3 日の 5 日間にクラゲ11 個体を採集した水族館へ搬入したクラゲのうち 状態の良いものを 1.

5

トンの展示水槽 (1.1x 1.1 x 1.

4

m,

W

f18

't) に運んだ. 今回詳細な調査を行 っ たクラゲは 11 月25 日に採集したもので, 12月 2 日 にクラゲが死亡したため,クラゲとす べてのエ ピを回収したエピは全個体の体長を万能投影機

(2)

10

日本海および東北地方の太平洋岸に出現したエチゼンクラゲに共生するクラゲモエピ

丹後半島

若狭湾 1400E 1450 1 O k m

日本海

30。 1300 1350 1 0 k m 図1 クラゲモ エビ

Latreutes anoplonyx

K e m p. 1 9 1 4の採集地 (女).

(ニ コン

V-12) により測定した. 雌雄を確認した 後 に 別 の 小 型 水 槽 (600x 900 x 500 m m) に移し てクルマエピの人工配合餌料 (ヒガ シマル製6 ・ 7号) を与えて飼育した 種 類 の 同 定 な ど , 形 態 的 な 詳 し い 観 察 は 両 地 域 で 採 集 し た 雌 雄 ( 抱 卵 雌 を 含 む )

20

個 体 を 用 い て , 実 体 顕 微 鏡 (W 1

LD MZ8)

により行った. な お , エ ピ の 大 き さ は 頭 胸 甲 長(C Lm m)か体 長

(B L m m)

で表す.

結果と考察

野外での共生状況: 三陸町沿岸の場合,クラゲ モエピは通常浮遊中のクラゲの傘表面で生活して いるが,潜水者が近づくと傘の内側もしくは触手 に隠れる (図2 A ). このことから判断して,危険 がせま った場合は宿主の内部への退避行動を取る ものと恩われる. クラゲに寄生しているイボダイ

Psenopsis anomala

(Temminck

& Sc

hlege

l ) やマ

アジ

Trachurusjaponicus

(Temminck

&

Sc

hlege

l)

の幼魚に捕食される様子は今回の潜水観察では見 られなか った. 念のため,

11

個体のイボダイ幼魚 の胃内容物を調べたが,エピ類など甲殻類の破片 を示す ようなものは見つからなかった . したがっ て, 同じ所に住む幼魚からは捕食されないのでは

(3)

図2 エチゼンクラゲNemopilema nomurai (Kishinouye) (A)と宿主上 にいるクラゲ モ工ビLatreutes 3 ηo pわnyx K e m p

(B-F).

A

D-F

岩手県気仙郡三陸町沖,

B

C

京都府宮津湾の採集個体を水槽内 で撮影 ないかと思われる. また,体の一部が破損したり,生命活動を停止 して水底に沈んでいるクラゲには幼魚、はみられな いが, クラゲモエビは依然として確認される . こ れらのことから,クラゲモエピは積極的にクラゲ からクラゲへの移動をするとは考えにくく, 一度 共生関係が成立した宿主への依存度は高いと思わ れる. しかし ,後述するようにクラゲから離して エピ単独で、の飼育は可能である . 宿主上では圧倒的に小型エビ

(C L< 7.0

m m)

(4)

12 日本海および東北地方の太平洋岸に出現したエチゼンクラゲに共生するクラゲモエピ が多く , クラゲ

1

個体につき大型の成熟雌

(CL

> 9 . 0 m m) は 1 - 3 個体しか確認されなかった( 図 2 E , F ). 小型エビはー箇所に数個体が集まって観 察されることもあり,多い時は十数個体に達した (図2 D ). 当初,これら小型個体はすべて雄と考 えていたが,固定標本を調べたところ,このなか に未成熟の雌が含まれていた クラゲに共生している個体が抱卵していたの で,交尾,産卵および幼生の放出などの一連の繁 殖活動も宿主上において行われると推測される. 宮津市の場合は採集した

11

個体すべての クラゲ にエビ類が共生していた. 1 個体のクラゲに数個 体から100個体以上のエピが確認された( 図 2 B , C ). しかし ,詳しい調査を行 ったのは,そのう ちの1 個体のクラゲ (傘径58cm ) についてであ る. クラゲを丸形の容器に収容する時にすでにエ ビがクラゲから離れることが観察 されており ,エ ピの調査個体数が自然界での数を正確に反映して いるとは言 えないが,共生数などを知る目安にな ると思われる. 調査した総個体数は259,そのう ち雄は131,雌は 128で,性比は 1 ・1 であった . 雄 の 平 均 体 長 は2

1.

3 m m (14.8 - 24.6 m m) で, 25 m m を超える個体はなか った. 雌の平均体長は 2

1.

5 m m (13

.4 -

32

.4

m m) と平均には差はなかっ たが, 25 m m 以上が 7 個体あり, 30.0 m m 以上も 3個体あった (図 3 ). 色彩 . 両海域とも生時の色彩はよく似ていた. 70 60

.JII

,n

50 コ ℃ 40 " 0 ロ

30 0

20 ハU 唱 E A A U A U 噌 E A 20 30 B L (m m) 図3 宮津沖 で一個体の工チゼ ンクラゲか ら採集され たクラゲモエビの体長組成 黒: 雄(n= 131) ; 白: 雌 (n=128). 40 小型個体では,背部中央を額角先端から 尾部まで 走る赤茶色に縁取られた明瞭な白線があり,雌雄 による違いは認められなか った (図2B -D ,

F)

大型の雌は体表が一様に茶褐色からオレン ジ色を 呈 しており,背側を走る白線が小型個体に比べる と薄く見えに くい. 宿主 : 今回の宿主は日本海 ・太平洋側ともにエ チゼンクラゲである. 記録によるとクラゲモエピ の宿主は,田辺湾でのタコクラゲ、

Mastigi

α

spapua

L.

[Hayashi

&

Miy出e,1968], 中 国 の 中 北 部 で は ピ ゼ ン ク ラ ゲ

RhoPilema esculenta

Kishinouye [Liu, 1955), イ ン ド ネ シ ア で は

Rhizostoma

(?) [De M a n

1929] や

Acromitus

agellatus

但ackel) [Holthuis, 1947), 山口県の仙崎湾や有明海では種 類不詳のクラゲ (林, 1994) などがあげ られてお り,エチゼンクラゲからの報告 はないが,これら のクラゲはいずれもエチゼンクラゲと同じ根口ク ラゲ目に属している (久保田, 1992). 飼育: クラゲモエピはカクレエピ亜科のホンカ ク レエピ属

Periclimenes

の数種と同様に,宿主か ら離して,人工配合餌料 (アユソフト ) などによ り長期間の室内飼育が可能で、ある. 平成15年

11

月 19 日と

11

月26 日に三陸町沖合で遊泳中のクラゲか ら採集したエビを水槽内 (315

x

185

x

245 m m) で飼育した. そのうち

11

月26 日に採集した抱卵雌 1 個体が, 翌27 日の正午過ぎにゾエアを放出した. 解化 したゾエアは,小型のガラス水槽 (150

x

150

x

150 いる個体が多かった. しかし, 24時間を超えると 水底に沈み始め,ソ守エアへの特別の餌料を与えな かったところ, 29 日には生存個体がみ られたが, 30 日にはすべて死亡した. ゾエアは小さく,省略 型の発生形式ではない. なお,他の種類 と同 じく, ゾエア幼生には強い走光性が認め られた . 野外の 水中観察においては,クラゲの体上や周辺海域で 幼生やポストラーパ等の確認はできなか った. また, 宮津市においても長期飼育は可能で,小 型水槽 (600 x 900 x 500 m m, W T 15 - 1f t ) に移 してクルマエピの配合餌料 (ヒガシマル製

6

7

号) を与えて飼育した. これらの個体は

3

月現在も飼 育中で,自然海水を使 って水温

11t

でも 生存して いる.

(5)

e

b

d

T

n

α

c

-e

図4 三陸町沖でエチゼンクラゲから採集されたクラゲモエビの雌雄の違い

a

c

e

,g 雄 (C L 6 .9 m m), b, d,

t

, h :抱卵雌 (C L 1 0.4 m m ) .

a

, b : 頭胸甲,側面, c , d 第1 触角,背面,

e

,g :第1 腹肢内肢 (剛毛と羽毛は削除),

t

, h 第2 腹肢内肢 (剛毛と羽毛 は削除). Scales 1.0 m m

(6)

14

日本海および東北地方の太平洋岸に 出現したエチゼンクラゲに共生するクラゲモエピ なお,宮津市沖では, 採集時にすでにエピが宿 主から 離れ ることが 目撃されている. 展示水槽に クラゲを入 れてからも, 宿主から離れて水槽の縁 などに移動する 個体が観察さ れた. 一度離れたエ ピが,再びク ラゲにもどることは な く,宿主から 離れたエピの数は増えてい った. このように宮津 市の場合は エ ビが宿主のクラゲから離れにくい三 陸町での観察 とは,かなり違っている. この違い の原因ははっきりしな か った. 宮津市では長く 追 跡したり ,狭い容器に閉じ こめ るなど宿主のク ラ ゲを強く 刺激した. その結果, クラゲが必要以上 に刺胞を発し,衰弱した ことが,エピを 離れさせ た原 因ではないかと考えられる. 成体 : 三陸沖 :

7

o'

(C L 4.0 - 6.9

m m)

1ovig.

(C L

10

.4

m m)

6

(C L 5

.4 -

10.8 m m)

岩 手県気仙郡三陸 町 沖 , エ チ ゼ ン ク ラ ゲ ( 傘 径 約

100

cm )

より,平成

15

11

19

日,

11

26

日, 坂上治郎採集. 宮津市沖

:3

(C L 5.0

- 6.2

m m)

3

(C L 5.1

- 10.3

m m)

一京都府宮津市沖,エチ ゼ ンクラ ゲ ( 傘径 約

58 cm )

よ り,平成

15

11

30

日,豊田 幸詞採集. 特 徴 : 調査したエピは同じ種類のクラゲから 採集されたものであり ,日本海側と太平洋側とで 形 態 的 な 差 は もちろん,大 き さ な ど に 違 い は 認 められなかった. 形態的特徴についてはこれ まで 比較的詳しく述べられているので

(K em p

1914;

H ayashi & M iy

e

1968;

林,

1994)

,ここで は雌 雄の違いを中 心 に簡単に記述する . まず,他種と いが,分かりやすい. クラゲモエピではいずれも 先端が鋭い1本の爪からなり ,後縁の中央に小 さ な赫が3 - 4本あるだけである . 今回すべての個 体で確認したが,例外はない. その他 の種類で は, 先端が2叉状を呈し,それに続いて数本の小 さな 赫がある . ホソモエピ属 の種類は,雌雄に よる明瞭な形態 的な 差異があ り,雌の体は大きくて頑丈であり , 雄は小型で相対的 に細い. この種類についても適 用できる . 雄の最大個体は

CL6.9 m m

であったが, 雌 は通常

10 m m

以上に達する. このほか,額角の 相対的な長さにも違いがあり ,雌では額角の長さ は頭胸 甲長の

0.7 - 0.9

倍で あ るのに対し,雄では 頭胸甲長と同じかやや長い

(0.95

- 1.1

3

倍). 額角 歯 は体の大きな 雌 に多 い傾向があり ,雌では上縁 に

10 - 23

本,下縁に

7 - 11

本,雄では上縁に

9

15

本,下縁に

5 - 8

本であった (図

4

a,

b).

こ の ほ か 第

1

触 角 外 鞭 の 節 数 に 違 い が 現 れ る. 外鞭の基部で太くなり,感覚毛が生えてい る部分が維では大きく ,

C L > 6.0 m m

では

20

節 以 上である . 雌 で は

> 10.0 m m

でも

14

節 し か な い (図

4 c

, d).三陸産雄の最小個体

(4.0 m m)

では, 雄性突起はすでに認められるが,額角長は頭胸甲 長よりもわずかに短く

(0.95

倍 ),

10

節しかみら れない. しかし, 次に小 さい

5

.4

m m

の個体では, 額角も長くなり (1.

05

倍 ),

17

節に増加する. 宮 津産雄の最小個体

(5.0mm )

の額角長は 1.1

2

倍で, 第

1

触角外鞭はすでに

18

節に分かれる. この大き さから性差が明瞭になる. 第

1

,第

2

腹肢にも 性差が現れる . 雄では第

1

腹肢の 内肢に は内側先端部 に明らかな 内突起があ る( 図

4

e

/).

雌では短い内肢のみで,内突起は ない 雄の第2腹 肢内肢には 内突起のほかに,同 じ長さの雄性突起があ り 先端に複数の剛毛があ る. 雌では内突起のみで,雄性突起はない (図4 g, h) . これ ら腹肢の形態的特徴は

C L4.0

m m

で分化 するが,まだ発達が悪い .

5

.4

m m

ではすでに完 成する.

謝 辞

北里 大学水 産 学 部 水 圏 生 態 学 研 究 室 の 朝 日 田 卓助教 授,佐藤直司 ・市村直基 ・柴宮孝明各氏, および宮津エネルギー研究所水族館の渡辺 陽 ・ 石間義一 ・小椋康介 ・吉 田史子各氏には,野外調 査に際して,標本類の採集と搬入,また飼育観察 に協力をいただいた . 水産大学校教授上野俊士郎 氏 には,エチゼンクラゲについて最新の学名 や文 献に関し , ご教示をいただいた。 ここに記して謝 意を表す. 文 献

Bruce

, A.J..

1973.

A n

association between

a

pontoniinid

shrimp and

a

rhizostom atous

yphozoan.Crustaceana

(7)

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図 2 エチゼンクラゲ Nemopilema nomurai (Kishinouye) (A) と宿主上 にいるクラゲ モ工ビ Latreutes 3 η o p わ nyx K e m p   (B‑F)

参照

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