193 第 1 分科会 第 1 報告は,中谷武雄氏による「アダム・スミスと 現代」であった。『要旨集』掲載のレジュメを補完す る資料が当日に配布された。そのレジュメでは,テー マの副題として「経済学の人間化と総合知の形成をめ ぐって」の一文が加筆された。この副題の中に,アダ ム・スミスと経済教育の接点の可能性が端的に表現さ れている。 報告は,従来の「一面的に強調されるスミス像」が 修正されつつある現状と経緯を広範にサーベイして明 らかにした上で,「アダム・スミスの思想体系(全体 像)の再構築」に向けた報告者の座標軸を提示すると いうアグレッシブなものであった。本報告において, スミスに関する「全体像をバランスよくつかむ」(中 谷)ことの重要性が,経済教育においても重要な意味 を持つことが明らかにされた。フロアーからは,報告 が文献資料紹介に多くの時間が割かれていることに多 少の不満が出たが,報告者が経済学史研究者であるこ とからのご愛嬌というところか。 第 2 報告は,糸井重夫氏(松本大学松商短期大学 部)による「マクロ経済学に内在するキャリア教育的 側面の一考察」である。マクロ経済学では基本的に労 働力や仕事の国際移動を前提としていない。総需要・ 総供給曲線分析において,キャリア教育は,「労働生 産性」と「労働参加率」の向上を通じて,総供給曲線 のシフトに直接影響を与えようとする教育である。グ ローバル化した経済においては,一人一人の「労働力 の質」を高めるキャリア教育が不可欠である。そのた めには,理論を説明すると同時に,資料・データを用 いて時代理解を促す取り組みや,実地に学ぶことが重 要と結論した。 質疑では,アメリカで労働経済学が出てきた背景, 先進国と発展途上国でのキャリア教育の違い,若者の 企業,就職観の変化,ミクロ経済学とマクロ経済学で のキャリア教育の位置づけ,先進国における若者の長 期失業との関連などについて,活発な意見交換がなさ れた。 第 3 報告は,古田俊吉氏(富山大学経済学部)によ る「教養教育としての経済学教育の方法─行動経済学 をベースとした経済学の授業─」である。教養教育科 目「経済・経営データを読む」(主に,工学部,理学 部,人文学部,人間発達学部 2 年生対象)と経済学部 基礎ゼミナール(1 年生対象)において,行動経済学 のテキストを用いて講義した経験を報告した。その結 果,どの学部の学生にも行動経済学が新鮮で面白い授 業だと映るとの報告である。教養教育の考え方,行動 経済学をベースとした授業の方法,ポイント,留意点 を丁寧に紹介し,授業アンケートや期末試験から学生 の反応,興味,理解度が具体的に分かる報告であった。 質疑では,第 1 報告のアダム・スミス論と繋がり, 経済学に人間性を入れることになる。従来の理論重視 より,問題解決・政策論的講義ができる。また,中高 でも消費者教育に行動経済学を取り入れられるのでは と議論が展開した。 (文責:宇佐見義尚,新里泰孝) 第 2 分科会 分科会 2 は,統一テーマとして「経済リテラシーの 国際比較」の下に 3 つの報告を予定したが,その中の 1 つ「大学生における経済リテラシーの中日比較:マ クロ経済学の概念と理論をめぐって」は,中国からの 3 名の報告者(尹秀艶・北京城市学院教授他 2 名)の 訪日が不可能となり,キャンセルとなった。そのため に,報告は次の 2 つとなった。 第 1 報告は,4 名の共同報告者(阿部信太郎・城西 国際大学,山岡道男・早稲田大学,淺野忠克・山村学 園短期大学,高橋桂子・新潟大学)が属する,経済教 育に関する研究グループが,日本の高校生と大学生の パーソナル・ファイナンスの理解度を調査するために, 2004 年と 2010-11 年度の 2 回にわたり実施したアセス メント・テストの結果を分析したものである。そこで は,①高校生と大学生の理解度の比較,② 2004 年度 と 2010-11 年度の 2 時点間の比較─の 2 つの視点か ら分析された結果が報告された。 その内容は,米国で 2003 年に作成された「人生に おける金融健全度テスト:Financial Fitness for Life Theme Tests」を日本語に翻訳したこのテスト問題は, 経済学的な視点に立って作られてはいるものの,問題 の主旨は金融に関するパーソナル・ファイナンスを中 心としているために,高校生と大学生の間には正答率 に差がほとんどなく,また 2 時点を比較しても,同じ 傾向を示していることが確認されたというものである。 その理由として,①日本では高校でも大学でも,パー
分科会報告
The Japan Society for Economic Education