建 築
・
都
市
への
記
号 論
的
ア
プ
ロ
ー
チ
と 街
並
み
記 号
論
の
展 開
Semiotic
Approach
to
Architecture,
City
andDevelopment
ofTownscape
Semiotic
門 内 輝 行 MONNAITeruyuki
早 稲田大 学Waseda
University
は じ め に第二 次 世 界 大 戦 後の高 度 経 済成長 期に は
、
日本各
地で新 しい 環 境の開発 に伴 う構築環 境の 均 質化が進 み、
意 味づ け られた 場 所 や美しい風景が失われ て い っ た。 1970 年 代前半に建 築・
都 市を学び始め た筆 者は、
こうし た事 態を背 景とし て「記 号論」(
semiotics)
に関 心を持つ ようにな り、
その 後約30
年 に わ た っ て、
建 築・
都市記号論 や デ ザ イン記 号 論の研究に携わっ て きた。 本 論では、
記 号 論の 基本的枠組 みに言及し た 上 で、
建築・
都 市 記 号 論 の 歴史的パー
ス ペ ク ティ ブ を 展 望 し、
さ らに その 実 証 研 究とし て展 開し た街並み 記 号 論の 到 達点を示 すこ とにする*t 。1 .
記 号論の基 礎づ け 1.
1 記 号が拓く世 界記 号 論と は「記 号 現 象 」(semiosis
)
を 扱 う 理 論 で あ る。 「……
は一
を意味 す る」
と か「……
は一
を 表 す」とい っ た記 号 現象に介 在 する「記 号 」(sign )の 捉 え 方 によっ て、
その 現象の広が り も大 き く異なっ て く る。ふつ う記 号 と 言 え ば
、
数 学 や 化 学で用い る 記号、
交 通 標 識、
シ ンボル マー
ク、
言 語の ように、
明確な コー
ドを持つ 記 号が連 想 さ れる こ と が多い 。 し か し、
雲 の形や草 花の色彩に も 人 は 豊 か な意味 を 読 み とるこ と がで き るように、
あるもの に人 間が意 味を 認め さ え す れば、
それを すべ て記 号とみ なすこ とが で きる。 こ うした記 号の捉え方か ら す れ ば、
言 語に 限 らず、
身 振 り、
フ ァ ッ シ ョ ン、
文学、
音 楽、
絵 画、
映像、
演劇、
工業製 品、
建 築、
都 市な ど、
人 間 の 生の 営みに 関わ るあ ら ゆ るもの が記号の世 界 に包 み込まれ る こ とになる。 建 築・
都 市へ の 記号 論 的ア プロー
チ を 可能にする た め に は、
記号の概 念をこ の よ うに き わめ て広く設 定 する必 要がある。 そこ で本 論では、 その ような 基 礎づけを与えて く れ る代表的 な 記 号の モ デル構 造 を 確認 す る ところ か ら始め た い と思 う。 1.
2 記 号の モ デル 構造 記 号 現 象を 包括的に把握 する基 盤 として、
ア メ リ カ の哲 学者パー
ス(
Charles
Sanders
Peirce)とス イス の言 語学 者ソ シュ
ー
ル (Ferdinand・de・Saussure
)の理 論に おける記 号モ デ ル を示 す。パ
ー
ス によ れ ば、
「記 号(
sign)、
あるい は表 象 体(
representamen )とは、
ある観 点 もしくはある能 力に おい て、
誰か に対し て何か の代わ り と なる もの で あ る。 それ は誰かに話し か ける。 つ ま り、
その 人の心 の中に同 等の 記 号、
あ るい は さ ら に 発 展 した記号を 創 り出す。 そ れ が創 り出 す 記 号を、
私は最 初の記 号 の 解 釈 項 (interpretant )と呼ぶ 。 記 号は その対 象 (object)
である何 ものかの 代わ り と なる。」
(CP .
2.
228
)*2 これ をわか りやす く示 すと、
図 1の よう な三項 関 係 と な る。 こ の 定 義の よれ ば、
同じ もの で も観 点や能 力が違 代わ り stands 記号 Sign 対 象Object
出 す es 解 釈 項 Inte叩 relam 図 1 パー
スの 記 号 モデル デ ザ イン学 研 究 特 集 号 SPEC [ALlSSUEOFJSSDVoLIONo 」 2002 13え ば
、
別の記 号と して現 象しうる。 例え ば赤 信 号は《
止 ま れ》
の代 わ り と なる記 号である が、
交 通 法 規を 知 ら ない 人に は単なる《
赤い 丸 》で あ り、 急 病 人を 抱 える人 には《注意して進 む》
とい う 解 釈 を 創 り出 す こ と もある。 パー
夙は、
記 号の対 象とは別に解釈項 を 導 入 して、
主体の能 動 的役 割をクロー
ズア ッ プ し、
記 号 現象の多
層 性 を 捉 え ら れ る よ うに したの で あ る。 記号は、
対象と解 釈項の 間 に 介 在 し、
何 かの 代 わ りに なる だけでは な く、 新たな 記 号 を創 り出す。 パー
ス の 記 号モ デル は、
記 号と記 号の外に ある対 象、
解 釈項の三者の トポ ロ ジ カル な 関 係 に よ る定 義 である。 パー
ス に よ れば、
解 釈 項とは記 号が誰か に話 し か け、
その 人の 心の 中に創 り出 す 「同 等の 記 号、 ある い は さ ら に 発 展 し た 記 号」で あ る。
つ ま り解 釈 項も 記 号で あ り、
それ が ま た新たな 記 号である解 釈 項 を 生 成 してい く よ うに、
わ れ わ れの思考ない し意 識は 連 続 的に展 開 して い くもの で ある。
パー
ス による記 号の定 義に は、
図2
に示 すような無限の 記号過 程 が 含ま れて い るの で ある。 こ のこ と は、
他の記 号に依 存せ ず孤 立 して出 現 す る 記号は ない こ と を 意味す る*3 。 パー
ス が 指 摘 してい る記 号の重要な性 質に、
反 復 可能 性が ある。 図 形で覆 われた碑が 発 見 さ れ、
これ が文 字 碑であるか図 像 芸 術で ある か不 明で ある と き、
記 号の 反 復 可 能 性 が言 語的性 質を判 断する基準 にな る。
反復可能性 は、
記号の操作 を 可能にする性 質である*4 。一
方、
ソ シュー
ル は、
「言 葉 が あっ ては じ めて概 念が 生 ま れる」とい う言 語 観の もとに、
言 語 記 号の 本性 を深 く探 求し、
新た な記 号 概 念に到 達した孝 言 葉 以 前には、
言葉が 指 さ すべ き事 物も概 念も存 在せず、
言 葉 は、一
次 的に は、
自 らの うちに意 味を 担っ てい る。 した が っ て、
嵐 を 告 げ る 黒 雲 や 赤 信号 のような記 号が、 自分とは別の現 象を告 知した り指 示 し た りす るの に対して、
言 語 記 号は、
自らの外に ア・
プ リオ リに存 在 する意味 を指し 示 すの で は決 し てな く、
表 現と意 味と を同 時にもつ 二重の 存 在なの で ある。
「言 語 記 号が結ぶ の は
、
もの と名 前で は なくて、
概 念 (concept )と聴 覚 映像
(
image
acoustique>
で あ る。 後 者は、 純 粋に物 理 的な資 料 的 音 声で はな くて、
そ うし た 音声の心 的 刻 印で あ り、
わ れ わ れの感 覚に よっ て 証 拠 だて られ るそれの 表 象で ある。……
われ われ は概 念 と聴 覚映像との 結 合 を記 号 と よ ぶ 。 」 *6 ソ シュー
ル は、 言 語 記 号に お ける「聴 覚 映 像 」と 「概 念 」を一
般 化 して、
そ れ ぞ れ を「記号 表 現」(シニ フ イ ア ン、
signifiant >、
「記 号 内 容 」(シニ フ ィエ、
signifi6)と呼び、
両者が一
体になっ た 全体を「記 号 」 (シー
ニ ュ、
signe )と名づける こ とに よっ て、
二 項関 係か ら なる記 号モ デ ル を導 き出 した の で ある(図3 )。
記 号表現 と記号内 容は
、
相 互 依存の 関 係にあ り、
Sl(= 1 。)櫛
/
\
O
S2= (lt) 0
=
Object(対 象 ) S=
Sign (記 号 ) ’三
lnにe 甲「etant s3=
(i2) S4(ニ
1,) 図2 無 限の 記号過 程 図3
ソ シュー
ル の記号モ デルい ずれ も記 号に包み込まれ てい るもの であ る
。
そ れ ゆ え、 ソシ ュー
ル の 記 号概念は、
パー
ス の ように記 号の外にあ る 対象や 解 釈 項 との 関 係 を考 える の で は な く、
記 号の内 部 構 造を定 式 化 した もの なの で あ る。 ここ で問 題 と なるの は、
記 号の 外にあ るもの と直 接 関係 を 持たない記 号が、
どの ように して意 味を持 っ こ とがで きるの か、
とい う点で ある。 ソ シュー
ル は、
記 号の意 味の源 泉を 「ラ ン グ」(langue
)とい う「体 系 」(syst6me)
にお け る 差 異の網 目 に依 存す る「価 値」(
valeur)
に 見 出 してい る。
つ ま り、
記 号は孤 立して 存 在 する の では な く、
相互 に密 接に関 連し合っ て体 系 を形成 し て お り、
そこ での 関 係の 網 目によっ て 個々 の 記 号の 価 値が生 じるの で あ り、
記 号の 意味は この価値か らもた ら さ れ る(図4
)*7e 実 際、
赤 信 号 は、
青 信 号や黄 信 号との差 異が識 別で き れ ば、 色が くす んで い て も、《
止 ま れ》
を意味 す る 記 号 と な る。 1.
3 記 号の タ イ ポロ ジー
パー
ス の 記 号モ デ ル は、 すべ ての 現 象を分 類で き る次の よ う な カテゴ リー
の 三 分法(
trichotomy)
か ら導 き出 され た もの である (CP
.
8.
328 )。一
次 性 (firstness
)と は、
何か そ れ自体であ り、
他の もの と 関 係 を 持 た ない よ う な もの の あ り方 であ る。二次 性 (secondness )とは
、
何か他の もの と 関係 し てい る が、
い か なる第三の もの を も含ま ない よう な(実在す る)もの の あ り方であ る。 三次性 (thirdness )と は、
第二 の もの と第三 の もの S S S S=
記号 SA=
記号表現 SE=
記号内 容 図4 記号の価値 (記号の差異)を 互い に関 係づけ る ような
(
法則 もし くは目的か ら 切 り離せ ない 媒 介 する)もの の あ り方で ある。 「一
次 性・
二次 性・
三次 性 」とい う形 式 的なカ テ ゴ リー
表 現は、
パー
ス によっ て し ば し ば「質・
関 係・
表 象 」(qualiIy
,
relation,
representation)、
「可能性・
実在
・
法則」(possibility
,
existence,
law )とい っ た質 料 的 な表現に よっ て も提 示さ れ る(CP .
1.
288
)。 パー
ス は、一
次 性か ら 三次 性に至るプロ セ ス の 第一
の相 手 を「記 号」、
第二の 相 手 を「対 象」、
第 三の相 手を「解釈項」と み な して、
三項関係から なる記 号モ デ ルを定 式 化 したの である(CP .
2.
242
)。 さ らに、
カ テ ゴ リー
の 三 分法に し た がっ て、
記 号 現象の 側 面 を、
「記 号 そ れ 自 身」「記号とその 対象との 関係 」「記 号 とその 解釈項 との 関 係」に区 分 し、
次の よ うな記 号の タ イ ポ ロ ジー
を導 き出してい る (CP .
2.
243 〜
CP .
2.
253
)o 第一
に、
記号が本 質 的に単 なる質である の か、
現 実の 実 在で あるの か、
一
般 的な法 則である のかに し たが っ て、
記 号 は「性 質 記 号」(
qua
]isign)、
「単一
記 号 」(sinsign )、
「法則記 号 」(
legisign)
と呼ば れ る。 第二に、
記 号と その対 象との関係が、
記 号が ある 特 性を持っ てい る ことによ るのか、
その対 象との実 在的 な 関 係 によ るの か、
その 解 釈 項 との 関 係 によ る の か に した が っ て、
記 号は 「類 似 記 号 」(icon)、
「指 標 記 号 」(index >、
「象 徴 記 号 」(symboD と呼ば れる。第三 に
、
解 釈 項が記 号を 可 能 性 の記 号 と して表象 す るの か、
事 実の 記号と して表象するの か、
理 性の 記 号 と して表 象 するの か に よ っ て、
記 号は「名 辞 」(rheme )
、
「命題」(Dicent
)、 「論 証 」(argument )と呼ば れ る。 以 上の 三 分法は記 号現象の異なる側 面を分 類 した もの である か ら、
そ れ ぞ れ の 三 分 法か ら1
つ ずつ 記 号を選 択し、
結 合するこ とに よっ て 、 記 号の ク ラス を導き 出 すこ と ができ る。 論 理 的に は27 (=33)
の組 合せが 可能であ る が、
実 際に は カ テ ゴ リー
の論理 的 関 係を考 慮 し て、
記 号 現 象の3
つ の側 面を結 合す れ ば、
図5
のよ う な「記号の 且0
分 類」が 得 ら れ るtS。2 .
建 築・
都 市 記 号 論のパー
ス ペクテ ィ ブ 2.
1 世 界の建 築・
都 市 記 号 論の潮 流 紀 元 前 後に 生 きた ロー
マ の 建 築 家 ウィ トル ウ ィ ウ ス が 「すべ て の もの には、
特 に 建築には、
この 二つ すな わ ち意 味が 与えら れ るもの と意 味を与える もの が含ま れ る」と述べ てい る こ と か ら も わ かる ように* 9、
建 築と 記 号 論の 結 び つ きの 根 は深い。
現 代 記 号 論 の 文 脈で み る と、
1930 年代に プラハ 言 語 学ス クー
ル の 人た ちが建 築の 多 次元 的 機 能 に 言 及 し たこ と が注 目さ れる。 例え ば、 ボガ トゥ イ リョ フ は、
「村の 建 物 や その部 分は はっ き り と実用的な も の で ある機 能の ほ か にも数 多くの機 能を 果 た してい る。 美 的機 能、
呪 術 的 機 能、
地 域を示 す 機 能、
それ に社 会 的 地 位 を 占め る機 能 な どが さ ら に見 ら れ、
そ れ らすべ て が建物を一
個の事 物とする と同 時に記 号 と してい る の だ。 ある 地域で は、
遠く か ら で も、
建 物の外 観か ら その建 物の持 ち主の民 族や社 会 的 地 位 を 言い あてるこ と がで き る」と指摘 して い る*1° 。 1950 年 代に なる と、
イ タ リア で 建 築記 号 論 が 盛ん になる*11 。 そ の 頃の イ タ リ ア は知的な刺 激に満 ちて い た。 新しい 世代の 画 家た ち が現れ、
社 会 的リ ア リ ズ ム と抽 象 芸術 の対 立 につ い て白熱 し た 議 論 が 行 わ れ、 新 進の芸 術 批 評 家も活 動を始め てい た。 建 築の 領 域で は建 設ブー
ム に よ る都 市の ス プロー
ル の 悪 影 響が現れ始め て い た。 こ うし た知 的関心と危機 感の も とで建 築 記 号 論が展 開さ れ た の である。 それ は構 築環境の 意味の欠如、
建 築 形 態の均 質 化、 あるい は 次世 代の 建 築 家の 教 育 に 対応す る た めの テー
マ であ る。 近代の建 築・
都 市に おける意 味の 喪 失とい う緊 急 の 課 題に端を発した建 築 記 号 論の流れ は、
同 じ よう な 状 況 を 抱 え る 世界の各地に広 が り、1960
年 代以降 の活 発な 研究の 展 開へ と発 展 し てい くことに なっ た。 2.
2 建築へ の 記 号 論 的ア プロー
チ建 築の 意味 を 解 読 し ようとする と き
、
建 築 は多様 な記 号の ネッ トワー
ク と して理解され る。 観測の仕 方 に応 じて、
建 築は 異 なっ た記 号の集 合へ と分 節さ れ る か らである。 この ため、
これ ま での 建 築 記号論 の アプロー
チの 多 くは、
建 築に おける記号と は何か とい う 点 をめ ぐっ て展 開さ れ て きた。
2.
2.
1,
ソ シュー
ル 系の記 号 論の 応用ド
・
フ ス コ (De Fusco,R.
)は、
ソ シュー
ル の記 号モ デル に基づい て、
その《内 部空間 》を記 号 内 容、
/ 外 部 空 間 / (内 部 空 間 を 囲う覆い )を 記 号 表 現 と み な し 記 号そ れ 自身 Sign itself 記 号とその対 象との関 係The Relation of the Sign
to the
Object
記 号とその解 釈 項との関 係
The Relation of the
Sign
to theIntelpretant
性 質記号 類 似記 号 名 辞一
次 性 Firsmess 二 次 性Qualisign
単一
記 号 Icon 指 標記号 Rheme 命題 Secondness 三次 性 Sinsign 法 則 記 号 Index 象 徴 記 号 Dice爪 論証Th廿dness Legisign Symbol Argument
図
5
パー
ス に よ る記 号の 10分 類て
、
建 築的記 号を定 式 化 し た判 2 。 これ は、
内 部空間 が建 築の 本 質的 な特性 を 担 い、
建 物 を 創 り 出 す 動 機 と なっ てい るとい う考 えに基づ く。 それに対 して、
ス カ ル ヴィー
二 (Scalvini
M .
L
) は、
「建物」と「建築 」の2
つ の レベ ル を 区 別 した。 機 能を目 的 とする「建 物 」の レベ ル に おい て は、
ド・
フ ス コ と同様に/外 部の覆い /を表現 (expression )、
《内 部 空 間 》を内 容 (content )とみな し、 その 両面 を も つ 記 号を「技 術 素」(
techtonics)
と呼ぶ。 そ し て、
美的 テ クス ト と して の 「建 築 」の レベ ル で は、
技 術 素を表 現と し、
様 式や イデオロギー
等の高 次の意味を 内容 とす る 記号を「建 築」と し て定 義 し たの であ る*11 。 ジェ ンクス (Jencks,
C.
)は、
建 築の 記 号を記 号 表 現 と記 号 内容を もつ 二重性の ものとみな し、
ロ ン ドン の トラフ ァ ル ガー
広 場の 「ネル ソ ン記念 柱」を解読 し てい る*14 。 建 築の記号は、
表現 と内 容の面か らコー
ド化され た要 素の組 合せで あ り、
1
本の柱が多 義的 な 記 号 現象を 生 み 出 す こ とにな る。 エー
コ (Eco,
U,
)は、
空間 を記 号 内 容とみ なすド・
フ ス コ やス カル ヴィー
二 の 理論が芸 術 性の 豊 か な 建 築 作品に基づ い て展 開され た もの で ある と指 摘 し、
一
般 的に は空間は記 号表現 と み なすべ きで ある と し て、 次の ような建 築の記 号の定 式 化を提 案 してい る *15 。 す な わ ち、
建築の 記 号 とは、
慣習 的 なコー
ドに 基づい て、
可能な機 能の タ イプ(文 化 的単 位 )を伝 達 する、
「もの」とそれによっ て形 成 される「空 間 」の シ ス テム で あ る。 た だ し、
こ こ で機 能の概 念 は 大 幅 に 拡 張 さ れ、
実 際の 機 能にと どまらず、
象 徴 的な機 能 まで含 まれ る。2 .
2 .
2
パー
ス 系の記 号 論の応 用 パー
ス の記号モデルを導入 した建 築 記 号 論は、
主にベ ンゼ(
Bense,
M .
)やヴァル ター
(Walther,
E.
)、 及 び その流 れ を 組 む プロ マ イ ヤー
(
Blomeyer,
G .
R .
)
、
ヘ ル ム ホ ル ツ (Helmholtz,
RM.
〉、
ド ラ イヤー
(Dreye,
C.
)等によっ て展 開さ れてい る。 ヴァ ル ター
に よ れ ば、
現 実に存在 してい る特定の 建築的 対象は「命題 的 指 標 的 単一
記 号」(
Dicent lndexi−
calSinsign
)と して分 類され る’16 。 実 際に建て られて い る建築 は、一
定の時 間 と 場 所 に固定さ れ、
し か も 特 に 選 択 され た素材的 な 要素 (柱、
部 屋、
窓、
ド ア な ど)の 単一
の 組み合わ せ か ら構成 さ れ た[一
般 的に は壁、
窓、
扉、
屋 根 とい っ た 法 則 記 号 の レ プ リカ(
写 し〉
と して の]
単一
記 号であ り、
空 間、
時 間、
建 築 家一
建設業 者の直 接 的 あるい は因果 的関係に言及 するがゆえに指 標 記 号であ り、
その建築の機能や建 ・一
〔
C)
/ ネル ソ ン記 念 柱 /一
→レ 発 展 したコ ノテー
シ ョ ン 第1の 水 準1
ニ
E 第2の水準 VF=
形 態 素 (morpheme ) C = c(
al,
az,
a3,
……,
α。
)
E(
揺)
(
fiX
、_.
)
=
意 義 素 (sememe )= 「ネル ソ ン記 念 柱 」i
「柱 」ab 「ネル ソ ン」az な ど=
意 味 素 (monemes ) 第3の水準視 覚
熱
「記 念」「神殿」「船 長」
「イ ギ リス」 嗅 覚 触 覚
聴覚
「勝 利」 図6 建 築 的 記 号 「ネル ソ ン記 念 柱 」の解 読 (ジェ ン ク ス)
築 家のス タイル に関 する特 定の情 報を与える こ とか ら命題である
。
一
般 的 な 建築的 記号の 対 象関係は、
類 似 的枠 組み シス テ ム(
限 定 され た空間、
部 屋、
中 庭 な ど)、
指 標 的 方 向シ ス テ ム (日光の 方 向に対 する窓の取 付 位 置、
道 路 との関 係を・
示 す出 入口、
建 物の階 数に依 存 する 階 段、
給 排水シス テ ム、
電話配線な ど)、
象徴 的レパー
トリー
シス テム (数、
大 きさ、
容 量、
プ ロ ポー
シ ョ ン な ど)が 重層 する多 様なシス テム を包 摂 して い る。 プ ロ マ イ ヤー
とヘ ル ム ホ ル ッ は、
建 築的 対象も し く は都 市 的 状 況は、
建 築によっ てユー
ザー
に伝え ら れ、
その ようなもの と して 使 用 さ れ る と考え、
建築 の記 号 図 式へ の 変 換を試み てい る判7 。 この 変 換は、
パー
ス の記 号モ デル に基づ い てベ ンゼ が定 式 化し た 媒 体 関 係(
M )、
対象関 係 (0
)、
解釈項関係 (1
)とい う3
つ の記 号関 係 を決 定 する こ と に よ っ て行わ れ る。 媒 体 関 係M
は、 ある配列の意 味の も とに、
実 現さ れ た対 象 を 構 成 す る すべ ての 素 材 的、
形 態 的、
観 念 的 手 段か ら なる。 対 象 関 係0
は、
特 定の 建 築 的対 象 とみ な さ れ 得 るすべ ての一
般 化 さ れ た、
定 義可能な (限 界 を定め る こ との できる)、
指 示 され た事物 を含 む。 解 釈 項 関 係1
に よっ て、
すべ て の文 脈上 の (素 材、
活 動、
観 念に関する〉
結びつ きが意味 さ れる(
図7
)。 プロ マ イ ヤー
ら は、
この記 号 分 類をハ ンブ ル ク郊 外 に建つ ラインベ ッ ク邸の階 段 塔の保 存 再生計 画に 応用 し たの であ る。 これ らの 記 号 分 類 を 活 用 して、
可 能な選 択の レパー
トリー
と 現実の 制 約 条 件の組合 せ を解 読した結 果、
階 段 塔をク ラフ ト技 術を 記 録 す る展示物とす る使い 方が提 案さ れ、 階段 塔の外 側に 新 しい ア ク セス シス テムが 付 設 さ れ る ことに なっ た。2 ,
2 .
3
建 築 的コー
ド パー
ス、
ソ シュー
ル はい ずれ も、
他の 記 号 に 依 存 せず孤 立 して現れる記 号は ない と考えて い る。 建 築 的 記 号は形態と意味 との 相 関 関 係によっ て成 立する が、
同 時に他の 記 号と結 合 して、
よ り豊 か な 意味を 伝 達 する ようになる。 こ こ に見出 され る関 係 の網 目 は、
「建 築 的コー
ド」(architectural code )と呼ば れる。 エー
コ に よ れば、
建 築的 形態素M
は、
空 間 特 徴 x を有す る さ ま ざ ま な形 態 特 微 配1,M2,
……
,Mn を持 ち・ M
回
弓 小
、)
,
一
・
,
蝋
胡
と表示できる が、
こ の形 態 素M
が、
意 味 特 徴at,a2 ,… …
,an を 持 つ 建 築 的意義 素A
を表 現 する。 こ うした理 論 的仮 説 に よ り、
建 築的 記 号の成 分 分 析の 可 能 性 が 生 じ る。 媒 体 関係 M 性質記号 単一
記 号 法 則 記 号 感 覚的 (触 覚 的、
視 覚 的 ) 個々 の、
単一
の形 態にお け 物 理 的、
構 造 的、
静 的 法 則、
に知覚可能な実 質 る実 現やその 美 的 状 態 慣 習 対 象 関 係 0 類 似 記 号 指 標 記 号 象 徴記号 枠 組み シ ス テ ム 居 住シ ス テ ム 方 向シス テム ア クセ ス シ ステム 選 択シス テ ム 寸 法 シス テム 解 釈 項関係1
名 辞記号 命 題 記 号 論 証 オー
プン な関係 (レ パー
ト リー
)の 要 素と して解 釈さ れ るもの クロー
ズ ド な関 係 (ユ ニ ッ 完全 な関 係に とっ て不 可 欠 ト)にお け る要素 と して解 な部 分と して解 釈される も 釈さ れ る もの の 図7
建 築 的対象の 三分 法的 な 記号 図 式へ の変 換 (プロマ イ ヤー
他 〉エ
ー
コ は具 体的 に「建 築 的 記 号 /柱 /の成 分 分 析 」を 行い、
建 築 的コー
ドを記 述 する試み を展 開して い る が、
これ は建 築 記 号 論の代 表的 な研 究と し て よ く知 られてい る*ls。
「永 遠の 柱 」と題する新聞の コ ラム は、
柱に関 する 修 辞的 な 主 題 を見事 に描 き出 し たす ぐれ た表 現 と なっ てい る。 エー
コ は、
こ こ に記 述さ れ た記 号/柱 /の 意 味 特 徴(
コ ノ テー
シ ョ ン)
が、
どの ような 形態 特徴 か ら導 き出 さ れた もの か を解 読してい る (図8
に形 態 特 徴 と意 味 特 徴、
及び その対応関 係の一
部 を 示す )。こ れ は /柱/の 意味の 深み を表 現 した 図式であ り
、
細 分 さ れ た 形態・
意味特 徴 を理解 してい る と、
一
本 の/ 柱 /が実に味わい深い もの と なる 。 プレ チ オー
ジ(Preziosi
,
D .
)は、10
年 以 上に わ た る ミノス の住 居の 記 号 論 的 分 析 を 通 して、
建 築 的コー
ドは様々 なタ イ プの記 号の 階 層 的シ ス テム を含んで い る こ と、
最小の意味 単位の数は どんな 建 築 的コー
ドにおい て も 限 ら れて い るこ と、
建 築の 無 限の多
様 性が生 じる のは、 そうし た単 位の シ ン タグマ テ ィ ッ ク(統 合 的 )な関係やパ ラディグマ テ ィッ ク(
連 合 的) な 関 係 か ら で あ るこ とを明 らかに してい る1]9 。 プレ チ オー
ジ は、
すべ て の建 築に共 有さ れて い る 直 接 的に意 味を担 う単位 と して「空 間単位」を 抽 出 し てい る。 これは他 の 空 間 単位との 体系的 な 関 係に基 づ い て 意 味 を 持つ もの で、
ある空間単 位を他の空間 単 位か ら 区 別する の に役 立つ 下位の単 位、
すな わち 「体 系 的 単 位 」か ら構 成 さ れてい る。 こ の体 系的単位 は、
空 間 的 な「示 差 的 特 徴」か ら 構 成 さ れてい る。 こ の 示 差 的特 徴に は、
形 態 的 もしくは幾 何 学 的、
透 視的 もしくは面的、
位 相 的とい う3
つ の ク ラ ス がある。 こ れ らに対応 して、 体 系 的 単位は、
「形 態 」、
「面」、
「領 域」と して定 義 さ れ る。 ま た、
空 間 単位の 集合は、
「マ トリッ ク ス」(matrices )と呼ば れ る。 マ トリッ ク ス の集 合は、
コ ン パ ウン ド、
近 隣、
集 落な ど を 形 成 す る。
以 上 の分 析 か ら、
建 築的 コー
ドを構 成 する記 号は、
図9
の ように階 層 的に秩 序づ け ら れ る。 (柱 頭) 持 ち 上 げる’
C.
D.
X.
(柱身} もた れ か か ために尸
A、
B.
燃 即
く
1
:
:
:
!
簫 タ
)く
1
:
:
:
!蹠 ♪
・ ・〈
i
:
:
:
ρr
舵
,
<1
:
:
:
!
・難
・ 〈i
:
:
:
(素 材) 柔一
剛尸
(StEl) 安 定し だ (高 さ〉 垂直の’
(直径〉 貫通 できない 「 (表 面の分 節 特 徴 )驫
蝉モ
illI
K.
L.
XllI (なめ ら か) V、
−r.
.
、
−
(粗い) (縦みぞ をつ くる) D.
M.
(彫 像付き) 類 似 的デ ノ テー
ショ ン’
(女 人 像 柱> XI.
__.
.
建 築 的コ ノテー
ショ ン 美的コ ノ テー
ショ ン A.
木の幹 1.
永遠の運命の主張 B.
見 か け 上 の も ろ さ 【1.
その 中を 陰 鬱さ とい う影が さまよう C,
支 持 されて い ない支 柱 111.
貴 族 風に立 ち上がっ てい る D,
楽な IV.
普 遍 的 な E,
モニ ュ メ ン トの価値を高め る V純 粋 な F.
フ アサー
ド に堅 固さ を与え る VL 伝 説的 な G.
フ ァサー
ドに壮 麗さ を与え る VLt.
想 像力の大胆 さ H.
イン テ リア に荘 厳さ を与え る Vlll、
天 を めざし て 目 く る め く 立 ち 上 が る L繰り返し の統一
性 :X 抒 情 的 な 陶 酔に よっ て詩 的に描 写さ れ た J.
寸 法 的 な統一
性 X最愛の人の首 K.
移し得ない Xl.
ほっそ りし た身体 L 船のマ ス ト XILかっ こうの よい腕 M.
軽やか な Xlll.
完 璧な形の脚 N.
建 物の調 和をもた らす X】V.
強 情 な xv.
尊 大 な 歴史的 コ ノテー
シ ョンXVI
.
寂 しい 1.
その まわ りを時が流れ ている XVH 神聖な遺物 2.
(時 を 重 ね て)尊い XVIH.
ギ リ シャの奇 跡 3.
消 え ゆ く 荘 厳 さの名 残り XIX.
驚 異的 な 4.
無傷の記録 5.
出来事、
偉彙、
英 雄の記念 6.
時間とい う船の マ ス ト 7、
至 福 千 年 期の古 色 を感 じ させ る 8、
生存の奇 跡の ア レゴ リー
9.
時 間 を超越し た 図8
建 築 的 記 号 / 柱 /の成 分 分 析 (エー
コ)2 .
3
都 市へ の 記号 論 的アプロー
チ都市 記 号 論は
、
1960 年代 後 半の バ ル ト(Barthes,
R )、
ショー
イ(
Choay,
F.
)、
ベ ンゼ等と結 びつ けら れ る。バ ル ト は
・
レヴ
ィ=
ス トロー
ス の人 類 学的 研 究 に 影響を受 けて、 1967 年のナ ポ リの会議 中に、
都 市 記 号 論の 構 想 を 最 初に提 案した’20 。 バ ル トに よ れ ば、
都 市は要 素の 関 係 と対 立 か ら なる言 語であり、
人 間 の 大 地へ のエ ク リ チ ュー
ル で ある。
「テ クス ト」と し て の 都 市の 「意 味」は、
ユー
ザー
の 知覚の 中に見 出さ れ る。 都 市の 意味は記 号 表 現 と記 号 内 容の 対応関係 に よっ て限 定され る の で はな く、
記 号 表 現の相関 関 係 か ら構 成 さ れるもの である。 都 市が 人 間に よっ て 本 当の意 味で住 まわれ る と き か ら、
表 意 作用の 基本 的 リズ ム、
つ まり有 徴要 素と無 徴 要素の対 置、
相互 交 替と、
並 置 とい うリ ズム が存 在 する からである。
都 市に は決 定 的な 記 号 内 容は 存在せず、
諸 々 の 記号 内 容は他 の 諸々 の記 号 内 容に と っ て記 号 表現であ り、
逆 もまた真で ある。 都 市とは記 号 表現 を繰り広 げる一
篇の詩であり、
そ して こ の繰 り広 げの運 動こ そ、
最 終 的に都市の記 号 論が把 握 しよう、
歌 わ せ よ う と試み ね ば な らぬ もの なの であ る。 都 市 記 号論の課 題は、
都 市とい うテ クス ト をい くつ かの 単 位に分 離 し、
これ ら を 形態的ク ラス に 分 布 させ、
こ れ らの単 位 な ら びにこれ らの モ デル の 結 合 と変 形の諸 法則 を見 出 す こ とである。都 市史 を 専 門 とする シ ョ
ー
イ は、
前ル ネッサ ン ス 社 会に対 応 する「純 粋 シス テム」(pure system )と、
現 代 都市に対応する「混 合シス テム 」(
mixed system)
と い う2
つ の 都市シ ス テム の タ イ プ を 区別してい る*2L 。純 粋シス テ ム の 例は
、
レ ヴィ = ス トロー
ス が 調 査 し た 南 ア メ リ カの ボロ ロ 人の 集落である(図10 )*22 。 集 落の 様々 な要 素と その配 列は、
コ ス モ ロジー
や 宗 教 的な 儀 式 か ら社 会 的 な義 務、
仕 事の組 織、
親 族 関係、
婚 姻 規 則に至 る ボ ロ ロ 人の生活の すべ て に 関 連し、
そ れ ら を 包み込む一
連の規 則に よっ て決 定さ れ た もの である。 集 落にお ける小 屋の 位置は、
その 人の経済的活動、
宗 教 的 儀式へ の 参 加、
友人の 選 択 の 可 能 性 を 決定づ ける。 集 落構 造は行動全体を決 定 づけて い るの で、
高 意味的 (hypersignificant
)と 呼ぶ こ と がで きる。 それに 対 して、
現 代の都 市シス テム に は解 読 され るべ き ものがあ ま りな く、
低 意味 的 (hyposignificant) で ある。
都市シ ス テム は、
他の 社 会構 造 と同じペー
ス で変化する こ と はで き ない 。 現在の都 市 集 合 体の 東 示 差的特徴 … 一 ・{
1
に 覦
嘗
欝
Forms 直 接 的 な意 味 単 位_
→ 空間 単 位 Cells 直接 的な意 味 単 位の 集 合のパ ター
ン じレ マ ト リッ ク ス Matrices↓
コ ン パウンド、
構造、
集 落な ど Compounds,
StrUCtUTcs.
Settlements etc.
regue ー 図9
建築 的コー
ドの階層構造 (プレチ オー
ジ〉 図 10 ボロロ族の集 落 (レヴィ= ス トロー
ス)20 SpECIAUSSUE OFJSSD V。且
.
10No.
12002 デザイ ン学研究わ か りやす さは
、
ほ とんど グラフ ィ ッ ク・
シス テム の効 率によ る もの で ある とい う事 実は、
産 業 革 命と と もに西 欧 社会に お ける都 市シス テム が意 味 論 的な 自律 性を失い、
混 合シス テ ム になっ てい るこ との 現 れ である。 包 括 的 な一
般 記号 論の 構 築 をめ ざすベ ンゼ は、
興 味 深い 都市記 号 論 を展 開 し てい る窄2 彼は、
現 代都 市の増大 する「記 号 化 」(semiotization )につ い て語っ て い る。 記 号シス テム は、
文明の技 術 的 実 在 性の 存 在 的連関をつ く り、
これ を機 能に定 着させ る。 人 間の 行 動、
文明の進 歩と変 化、
生 産と消 費は、
常に情 報 とコ ミュ ニ ケー
シ ョ ン の変 換可 能 性 に基づ い て い る。 技 術 的、
都 市 的 文 明の コ ミ ュ ニ ケー
シ ョ ン の 図 式は、
高 次の 複 合 性 と大 きなモ ビ リ ティ を有し た特 定の 記号シス テム に よ っ て特 徴づけられる。 現 代の 都 市シ ス テ ム は、 様々 な記 号シス テ ム によっ て 補 充 さ れ、
重 層 的にな るこ とによっ て の み住め る もの と なる。
都市 計画的な脈 絡は特 有の 都市的テ クス ト を もた らす。 商 業 地 区は工業地区とは違 っ た テクス ト を展 開し、
ま たアウ トバー
ン は広場 とは違っ た テ ク ス ト を展開する。 人は た だ単に物と物との問を 運動す る の で は な く、
記 号 と記 号との間 を、
と り わ け 言 葉 と 言 葉 との 間 を運 動 する。
形態的、
グ ラフ ィ ッ ク な視 覚的テクス トである現代の 街 並み の美 的ア レン ジメ ン ト は、
詩と散 文に お ける近代の実験 的 傾 向に類 似 してい る。 環境の 美 化 とい う 現 象 が しば しば話 題に され てい る。 それ は技 術 的文明に よ る人工 的な もの の増 大の 結 果である。 環 境の技 術 的な「機 能 」の み な ら ず、
そ の美
的「状態 」も ま た その プロ グラミ ン グの テー
マ な の である。 なぜなら ば、
それ も都 市的 コ ミュ ニ ケー
シ ョ ンの図式の構 成 要 素なのだか ら。 現 代 都 市は世 界の記 号 化 とい うこ と と深 く結びつ い てい る。3 .
街並み 記 号論の 展 開3.
1
街 並み記 号 論の構想 以 上、
建 築・
都 市 記 号 論の潮流の を 概観して き た が、
実 際には 断 片 的 な 記 述にと ど ま る 研究が多 く、
必 ず し も 十 分 な 成 果 を あ げて きた と は言 い が た い 。 さ ら なる研究の発 展の た め に は、
記 号の 集 合であ る テ ク ス トを対 象と し た研 究の展 開、
建 築・
都市 空 間に分 布す る複 雑な記 号の集 合 を 分 析 す る手 法の 開 発、
さ らに建 築
・
都 市 空間の 中に自ら の 身体を お く空 間 体 験 に基づ く研究の 実践が不可欠で ある。 こうした論 点をふ ま えて、 筆 者は、 建 築 記 号 論の 実 証 研 究と して、 人々 の生活の 舞 台を か た ちつ くる 自律的 な 価 値 を 担 う街並みの景観 を対 象とする「街 並み記 号 論 」(semiotics of townscape )を構 想 し、
「街並 み の 景 観に関 する記 号 学的研究」を 展 開 して き た* 24。
以下 にその 研 究 成 果 の一
端を提示 し、
建 築・
都 市 記 号 論の デ ザ イ ンへ の 応用 可能 性につ い て考 察 し てみたい 。3.
2
テ クス ト と し て の 街 並み 街 並み は、
人々 の生活の 舞 台と な る街路 を形成 し、
豊か な意 味を表現 す る。 街並参
の た た ず まい や 雰 囲 気は、 言 語 化で き ない未分 化 な 全体的 な印象
で あ り、
身体 で 感 じ と るこ と の で きるもの で ある。 道 や 住 居の 配列は、
場所の地 形や気 候を それ と な く指 示 し、
家々 の フ ァサー
ド は、
住 み 手の 個 性 や 社 会 階 級を象 徴す る媒 体と な る。
ドイツ の ロー
テン ブ ル ク で、
戦災に よ り失われ た街の復 原が行わ た ように、
街 並み に は「集団の記 憶 」が刻 印さ れ、
人 々 は そ こ に 深い 愛 着 すら抱 くの である。 こ の よ うに、
街 並 みの 景 観は、
人々 の 生の 営 み や 場 所 性・
歴史性が刷 り込 まれ た テ クス トと して捉えら れ、
そこ に潜む意 味を 読み、
詩 情を味わ うと き、
街の魅力に触れ るこ とに なる の で ある。実を言えば
、
街並 みに 人々 が注 目 す る ように なっ たの は、
それ ほ ど古い こ とで は ない 。 それを「タ ウ ン ス ケー
プ」(townscape )と名づ け たカ レ ン(Cullen,
G
)の景 観 論が イ ギ リス で大 きな 反 響 を呼んだの は、
国 土の破 壊と都 市の 混 乱のす すむ第二次 世 界 大 戦 後の こ とである。 「田園の な か に ぽつ ん とあ る建 物は 建 築 作品 と して体 験さ れる。 し か し半ダ
ー
ス の 建 物 が集ま る と、
そこ に建 築を しの ぐ芸 術が芽ば える」 とい う言葉には、
街 並みの 魅 力 が 見事に捉え ら れて い る零2 日本で も1970 年代に なっ て、
ようや く街並みの保 存運動な ど も少しずつ 定 着 してき た。 筆 者は1980 年 代以 降、
日本各
地に残 っ て い る200
ヵ所に及ぶ伝 統 的 街 並み の現 地 調査を行い、
それら をテ クス ト と し て解 読す る街並 み記 号 論を展 開 し て きた。 図11に は、
現 地 調 査で 訪 れ た 街 並 みのう ち、
深い 印 象 体 験 を与えて くれ た近 江八 幡 (滋 賀県〉の 景 観 を 例 示 す る。
3
.
3
街 並 みの景 観 の 記 号 化3 .
3 .
1
タウン テ ク ス チュ ア 街 並 みの 景 観は す ぐ れて現 象 的な性 格を有 し てい る。
建 物、
街 路、
樹木、
山 と 川、
空 と 大 地 とい っ た 多 種 多 様な要 素と それ らの ア ンサン ブル が、
あた り の 状 況や見る人の視 点の とり方に よっ て、
実 に豊か な意味 を もつ 記 号 現 象 を 生 じ さ せ るか らで ある 。 様々 な街並み の情景は、
直 接的に は事物 と して の 「街の 表 層」か ら ピッ ク ア ップ さ れ た記 号の集 合であ り、
それ を「タ ウ ン テクス チュ ア」(towntextre )と呼 ぶ。
タ ウンテ クス チ ュ アを構 成 する ミ クロ な領 域が 様々 な 部 分 集 合 を 形 成 し、
多 様な記 号現象を生成 す る。 図 11 日本の伝 統 的 街並 みの景 観 :近 江八幡 (滋 賀 県 )22 SpECIAL ISSUE OF JSSD Vo且
.
10No 」2002 デ ザイン学 研 究 特 集 号3 .
3 .
2
街 並 み の コー
ド こう し た 記号 現 象の多 層 性 をモ デ ル化 するため に、
ハ リ デー
(Halliday
,
M .
A .
K )
らに よっ て展 開さ れ てい る「体 系 文 法 」(systemicgrammar )
を参
照 する126。
わ れ わ れ は すべ て、
自分たちが 成長 し生 活 して いる 時 代、 場 所、
集 団の 言 語や他の意 味 作 用のコー
ドに よっ て、
意味 が表現 さ れ る典型 的 な様 式に関 連づけ ら れ てい る。 ど ん な 社会的 状 況で も、
さ ま ざ ま な行 為の可能 性を有 して い る(can do )。 その行 為の一
様 式 が意味 を 作 ることであ り(can mean )、
意味を作る一
様 式が言 語 を使用するこ とで ある(can say)
。
しか し、
身体の動 きに よっ て も、
旗 を振 る こ とに よっ て も、
建 物 を 建て た り、 映 画を制 作 する こ とに よっ て も、
意味 を 作る こ とがで き る。 し た が っ て、 い か な る記 号 論 的テ ク ス トも、
「潜 在的 な意味の シス テム」 (meaningpotential
)と「意 味を物 質 的に実 現 する一
貫 したパ ター
ン」とを 持つ こ とになる’27 。 この ような 体 系 文 法の考え 方に基づ くと、
街並 みの 景 観は、 意味シ ス テム (meaning )[自然・
政治・
経 済・
文 化 などの コ ン テ クス トに関わる] 形 式 シ ス テ ム (form )[形 態素、
屋 根、
格 子、
住 居 な どの 建築 言 語の シン タ ッ ク ス に関 わる] 実 質シス テム(substance)[
形 状・
ス ケー
ル、
色彩、
素 材・
テ ク ス チュ ア な どに関わ る] とい っ た3
つ の 「層」(stratum )が重な り合 う多
層構造 か らなる街 並み の コー
ドに よっ て記述 さ れる*2s 。 形 式シス テム は、
意 味シス テムを 実 現 す る 構 造 的 配列が 行 わ れ る場と して の 「ラ ン ク」(rank )に よっ て 組 織され る。 日 本の 伝 統 的 街 並 みでは、 彫
態 素,
エ レ メ ン ト,
パー
ト,
フ レー
ム,
タウンテ クス チュ アi
とい う5
つ の ラ ン ク を区別 するの が有 効で あ る。 図12に 形 式シ ス テム の一
部 (日本の 伝 統 的 街並 み は30 程 度の エ レ メ ン トを 共 有 して い る)
、
図13
に フ レー
ム ラン ク の建 物に関 する「選 択 体 系 網 」(system network )を示 す(建 築 的 記 号ごとに選 択体 系網 を構成 してい る)。3.
4
タ ウン テ クス チ ュ ア の情景 分 析FRAME PART
』
α 〔述 物)…・
・
…・
…・
…・
…・
・
…
ELEMENT (S) β (付 属 物・
その他)・
・
・
・
・
・
…
S (要 素群) R (屋根 部 分 > N (軒下 回り部 分 〉 F 〔ファサー
ド部 分 ) H (付 屈物 } [町 家,
武 家 屋 敷,
商 家,
農 家,
お 茶 屋,
蔵 な どユ [平入り (h),
妻 入 り (1 ) ] [平 麓 建て (f,
).
つ し二 階 述 て (fz).
二 階 建 て (f⊇),
三 階 建 て (fi)] [真 壁 造 り.
大 壁 造 り,
二i二蔵 造りな ど] [塀・
垣,
石 垣,
門,
庭,
庭の樹 木,
屋 敷 林,
納 屋,
蔵,
煙 突 ] R (屋 根 部 分 ) N (軒下 回 り 部 分) F (フアサー
ド部 分 ) H (付 属 物 > RI(屋 根面).
Rl (庇 ).
R3(煙出 し).
R,(IJv根pmり).
Rs(明かり窓) N,
(卯建・
袖re).
N ,(軒 下 部 分),
N}(駒 寄せ).
N、(床 几 〉,
Ns(雁 木・
こ み せ)・
N6(雨 囲い・
雷 囲い) D (点的要素) :Dl (看 板 ).
Dl (持ち 送 りLD
コ(飾 り金物 >tD、
(す だれ・
暖ne)’
Ds (軒灯 類 〉・
D6 (呼 樋 ) C (線 的 要 素) :C 【(手 摺・
欄干),
C2 (柱 ),
Cs (出 桁〉.
C4(貫・
梁・
胴 差 類 ) 0 (開 口 部):Oi (格 子 ),
Ot (戸),
03(窓),
Q4(換 気 口 ) W 僅 面 ):W,
(壁),
Wl (戸袋 } G (基 礎 部):GI (基 礎 > HI(境 界 ),
H、(ア クセス)・
H 、(樹木)・
H、〔蔵)・
H、(煙 突 ) 図12
街 並み のコー
ド:形 式シス テムの一
部 FRAME 器 TYPE ASSEMBLY (集 合形 式 ) CONTA 〔T (道との接 触 ) ENTRANCE (道 との向 き )罵
噤
_
_[
撃
野 斎
嚥
1
:
1
二
平 入り [h】 要 入 り [t ]・根・・分 〔・]
一一 一
一[
PART
E
PA・T・・mplex・・サ … 分 …
一
一E
・…
[
一 一
冠
一「
∵二
1
図13 基 本の屋 根一一一
」 複 雑 な屋 根 浅い 軒 下 回 り部 分 [N]一
一一
一
一一
レ 深い 1階 [fl] 3階 [f3] シン メ ト リー
T 字 形 窓付 き 大 壁 造 り [o ] 真 壁造 り [s] Frame as α (建 物 )の 選択 体 系 網切妻 造 り 【k]
[
寄 棟 造 り [y] 入 母屋 造 り [i] 甲造り [k。
] ・雕 ・一
一[
2
照
[ら]3 ,
4.
1
建 築 的 記号の モデル街 並みにおける 建 築 的
部
号には、
色 彩・
素 材・
テ ク ス チ ュ ア な どの 特 徴、
屋 根・
卯 建・
む しこ 窓と い っ た形 態 的 要 素や その 集合 状 態、
妻 入 り・
平入 り とい っ た形 式や住 居の配 列 規 則な ど が含 まれ る。 記 号の 対象には、
色彩や素 材が醸し出 すイメー
ジ や雰 囲 気、
住居の 配列 が指示 する水系や道の方 向、
卯 建 が象 徴 する経 済的 な 豊か さ など多
様な 意味が含ま れ る。 記 号の解 釈 項には、
推 論の内 容の他に、
解 読 者 の 心・
行動・
思考に及ぼ す実 際の効 果が含まれ る。 豪 壮 な住居の造 りが 見 る 人の 心 を 威 圧 す る場合 な ど が そ れである。 さ らに、
記 号を解 読 する コ ンテ クス トが 含 ま れ る。
あ る記 号を単 独で み る場 合と、
他の 記 号との 関係に おい て みる場合で は、
異 なる意味が 導き 出さ れ る か ら で ある。 以上 の 内 容をパー
ス の 記 号モ デル をもとにまとめ る と 図14の ようになる。 図15
に は タウン テ クス チュ ア にお ける記 号の タ イポロ ジー
を 示 す。3.
4.
2 類 似 と 差 異 の ネッ トワー
ク 日本 の伝 統的街並み の特性は、
限 ら れ た数の 要 素 を 共有 して お り、 個々 の街並 み はその中か ら選 択 さ れ た特 定の 要 素 群 に よっ て 実現さ れてい る点にあ る。 これ まで の解 読 を通 じて、
日 本の街 並み に はこ う し た仕 組み に支え ら れ た「類 似 と差 異の ネッ ト ワー
ク」が 縦 横 に張 り巡 ら され てい る こ とが わ か っ て い るQ 実 際、
様々 なタ ウ ン テ クス チュ アは、
共 有 さ れ た 街並 みの コー
ド(図 12 )か ら抽 出され た記 号の連鎖 と して記述で きる(
こ の こ と は、
現 代 都 市と 比較 する Sign タ ウンテ クス チュ ア を構成 す る建 築 的 記 号 (素 材、
形態、
法則) Object Interpretant 記 号が表 意して いる対 象 推 論の 内容 (イメー
ジ・
雰囲気、
物理的 機 能・
解 読 者の心・
行 動・
思 考に 指 標 的 方 向 性、
象 徴的 な意味・
ア イ 及 ぼ す 効 果 デンティティー
) 記 号を解 読 する棊 礎 とな る コ ン テクス ト 図14 タ ウンテ クス チュ ア に お け る建築 的 記 号の モデル 建 築 的記号 性質 記 号 単一
記 号 法則記 号 形 状・
色彩・
素 材・
テ クス チ ュ アなどの特 徴 個々 の単一
の形 態 (屋 根、
卯 建、
む しこ窓 など〉や その 集合 状態 (住 居、
街並み な ど) 形態のパ ター
ン、
建 築 的 な 形 式・
様 式、
諸要 素の配 列 規 則 記 号と その対 象との関係 類 似 記 号 イメー
ジやメ タフ ァー、
た た ず まい や 雰 囲気 指 標 記 号物理的な機 能 (雨 や雪を防ぐこ と、 通 風
・
換 気 など〉、
指 標 的 方 向性 (日光の方 向に 対する 窓の位 置、
道 路 との 関 係 を 示 す 出 入口 の位置
、
地形の傾 斜、
水の流れ、
風向 きなど と相 関 す る 住 居の 配 列 な ど) 象 徴記 号象 徴 的 な 意 味 (身分
・
格式、
防衛、
職業、
街の産 業、
経 済的 な 地 位、
祝祭性 な ど)、
アイデ ンテ ィ テ ィ(
〜
ら し さ、 個と集 団の 関 係、
他の街との 関 係 など) 記 号と その解 釈 項との 関 係 名 辞一
般的な記 号の レパー
トリー
の 要素と して解読さ れ る内 容や効 果 (建 築 的 記 号の レベル〉 命 題 テ クス トの要 素として解 読さ れ る内 容や効果 (街並 みの レベ ル) 論 証テ ク ス ト相互 の関係を含む 完全な 関 係 にと っ て不可欠な部 分として解 読 される内 容や効果 (街 並みの 相 関 関 係の レベ ル) 図 15 タウン テクス チュ アに お け る建 築 的記 号の タ イ ポロジ
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