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20 後藤淳 の回転や角加速度の制御ならびに前庭 眼球反射機能をとおして眼球の制御を 卵形嚢 球形嚢により重力や直線的な加速による身体の動きと直線状の頭部の動きに関する情報を提供し 空間における頭部の絶対的な位置を制御しており また 前庭核からの出力により頸部筋群を制御している 2) 頸部筋群はヒト

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Academic year: 2021

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頭頸部アラインメントの解釈

後藤 淳

Interpretation of the head and neck alignment

Atsushi GOTOH, RPT

Abstract

The head and neck have a very important function in the control of posture. The head and neck often unconsciously compensate if there is an abnormality in posture. However, that compensation movement becomes a habit for the patients who have an abnormality in posture, and when the compensatory movement of the head and neck is large it may become a problem. Here, we report the results of dorsal electromyography of what kind of compensation actually occurs by when changing the position of the head and neck in sitting, and in rising from sitting. We also describe an approach that paid attention to excessive compensation of the head and neck. It is difficult to define the right alignment of the head and neck. It is important in alignment of the head and neck that the head and neck do not cause a problem for posture, or movement. In other words, it is important that the head and neck should be in the right alignment which over muscle activities are not required. If the head and neck are in the right alignment, it is easy to get up or look around naturally.

Key words: head and neck, alignment, excessive compensation

J. Kansai Phys. Ther. 16: 19–26, 2016

はじめに 身体に何らかの異常があれば、その状況下での姿勢 ・ 動作において、頭頸部に過剰な代償が認められる場面を 多く経験する。たとえば、脳血管障害片麻痺患者の起き上 がり動作において、起き上がり動作時に上肢で柵を引っ 張る動作に連動される胸鎖乳突筋や僧帽筋上部線維の過 剰な代償などである。また、腸腰筋の筋緊張低下や大殿 筋の筋緊張低下により骨盤が後傾している場合、腹直筋 などの腹部前面筋の筋緊張亢進や大腿直筋、広背筋、腸 肋筋などの筋緊張亢進による代償が考えられるが、その 際、頭頸部も頸部屈曲、頭部伸展位で顎をやや突き出すよ うな姿勢になる場合も多い。さらに、高齢者の円背姿勢 においても顎を突き出すような頭頸部の姿勢がみられる。 これらは、主に二次的な代償動作として評価項目に抽出 されることが多い。ただ、これらの症状が継続された生 活においては、この習慣化された代償動作が本来の問題 点の解決を難渋させ、罹患当初の問題点よりも代償動作 の抑制を図らなければならないことも多く経験する。 ここでは、背臥位、座位、座位での側方移動動作や起 き上がり動作において、あえて頭頸部の位置を意識的に 変えたなかで動作をおこない、体幹などの他の部分にど のような影響を与えるのかをビデオ撮影ならびに筋電図 を用いて検討し、治療や動作における頭頸部の位置とそ の重要性を考えてみたい。 姿勢制御に関する頭頸部の役割 大築1)は、姿勢を安定させる能力とは、姿勢反射、外乱 に対する随意運動、外乱を予測してあらかじめ準備する 予測的姿勢調節能力からなる総合的な能力であると述べ ている。姿勢反射には多くの種類があり、これらの反射 が互いに助け合いながら働いて、無意識のうちに姿勢を 安定させている1)。この姿勢反射のうち、緊張性頸反射、 前庭迷路反射、前庭脊髄反射などは、姿勢を保持するた めの筋緊張に影響を与える2)と考えられている。 これらの機能を維持するためには、前庭器官、頸部筋 群の働きは重要である。前庭器官は、半規管により頭部

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の回転や角加速度の制御ならびに前庭 ‐ 眼球反射機能を とおして眼球の制御を、卵形嚢 ・ 球形嚢により重力や直 線的な加速による身体の動きと直線状の頭部の動きに関 する情報を提供し、空間における頭部の絶対的な位置を 制御しており、また、前庭核からの出力により頸部筋群 を制御している2)。頸部筋群はヒトで最も高い筋紡錘密度 を有する筋群の一つである2)と述べられており、また、頸 部固有受容器は上部頸椎の頸部背側の抗重力筋に多く存 在し、とくに頭板状筋、大後頭直筋、頭最長筋、頭半棘筋 に集中しているとも述べられている3)。頭頸部の位置やそ の動きは、姿勢を制御するうえで重要であるといえる。 頭部・頸部の運動学4–6) 頸椎は7個の椎体から構成され、その最上部に頭部が 存在している。頸椎の動きは、頭蓋骨と環椎による環椎 後頭関節、環椎と軸椎による環軸関節、第3頸椎以下の椎 間関節により成り立っている。環椎後頭関節は、形のう えでは一種の楕円関節に相当し、関節包は緩い。運動は 主に前方および後方運動(屈曲・伸展)と側方運動(側屈) である。環軸関節は環軸関節複合体とも呼ばれ、外側環 軸関節と正中環軸関節から成り立っており、機能的には 一つの車軸関節とみなされている。運動は主に回旋であ るが、わずかな屈曲 ・ 伸展がみられる。第3頸椎以下の 椎間関節での運動は、主に側方運動(側屈)、前 ・ 後方運 動(屈曲・伸展)、わずかな回旋である。 基本姿勢・動作における頭頸部の位置とその働き 頸椎以下には胸椎があり、肋骨とともに胸郭を形成し ており、頭頸部の運動の土台には胸郭が存在している3) そのため、頭頸部の動きにとって胸郭の安定性は重要で ある。逆に、胸郭の位置により頭頸部の位置が影響を受 けるともいえる。たとえば、体幹の前 ・ 後屈や側屈など の椎間関節の戦略による胸郭の位置に対する頭頸部の位 置、足関節や股関節の戦略によりバランスを獲得してい る場合の胸郭の位置に対する頭頸部の位置などである。 頭頸部の動作は大きく分けると、周囲を見るなどの頭 頸部を動かすことを主たる目的とする動作と、体全体の バランスをとる目的としての動作がある。日常生活にお ける基本動作のなかで、頭頸部をより作用させる動作は 臥位などからの起き上がり動作であり、座位、立位と向 かうにつれ、重心の位置が高くなる姿勢になるほどその 作用はバランスとしての作用の意味合いが強まる。 さまざまな動作をおこなううえで、無意識的ではあ るが周囲を確認することがほとんどである。視覚や聴覚、 体性感覚の使用である。周囲を見る、聞き耳を立てる、何 かを感じる場合、頭頸部を安定させている。また、何気 ない日常生活活動においては、動作を開始する際の方向 付けのために無意識的に眼や頭頸部の関与が大きいと考 えられ、体幹や上下肢を意識する場合は、むしろ何かし ら特別な環境である場合が多い。動き出した後は、胸郭 の位置に対しバランスをとるために頭頸部の位置を変化 させている。バランスの効率が悪くなった場合、遠位に 位置する足関節や手関節などと協調して頭頸部をより固 定させて、逆に胸郭に対し制限をかけるかのように代償 し、バランスを維持する。 頭頸部の位置とその動きが姿勢や動作に影響を及ぼす ことで、呼吸機能や嚥下機能にも影響を与える。呼吸機 能においては、胸郭の動きに制限を受けることで呼吸筋 の活動にも影響を及ぼすと考えられる。嚥下機能におい ても喉頭の動きが制限されることで、喉頭周囲筋である 舌骨上筋群・舌骨下筋群などの活動に影響を及ぼす。 頭頸部の位置の変化による姿勢・動作に与える影響 頭頸部を①屈曲・②伸展・③頭蓋後退6)(顎を引く)・ ④頭蓋前方突出6)(顎を突き出す)の4 通りの位置に意 識的に変化をさせたうえで、背臥位姿勢、背臥位からの 起き上がり、端座位姿勢、端座位での側方移動をビデオ 画像ならびに筋電図にて観察をおこない、通常時の姿 勢 ・ 動作との違いを比較検討した。計測に用いた筋電計 はキッセイコムテック社製のテレメトリー筋 ・ 心電計 MQ16、EMG研究ソフトウエアBIMUTAS-Videoを使用し、 ビデオ(ソニーHDR-CX590)を筋電計と同期させた状態 で動作を記録した。筋電図対象筋は、胸鎖乳突筋、僧帽 筋上部線維、腹直筋、内外腹斜筋重層部位、腸肋筋、多裂 筋、広背筋、大腿直筋の8筋とし、電極はいずれも左側と した。 起き上がり動作は、右側への起き上がりとし、右肘支 持から長座位を経由しての端座位姿勢までとした。 数名の被験者の動作を検討した結果、以下の場面で共 通した姿勢動作ならびに筋電図の波形が認められた。 1.背臥位姿勢・背臥位からの起き上がり動作(図1) 意識的な頭頸部の肢位(以下課題とする)①~④にお ける背臥位姿勢では、意識しない通常時と比べて体幹屈 曲の増大が認められた。また、いずれの課題においても、 起き上がり動作時には円滑な体幹の回旋は認められず、 股関節の可動性も低下傾向にあった。意識を強くするほ ど股関節の屈曲 ・ 内旋が出現し、体幹の屈曲も強まる傾 向にあった。 筋電図では、被験者の体型や意識化の程度(代償の程 度)などによりばらつきがあるものの、通常時と比べて 背臥位姿勢ならびに起き上がり動作ともに胸鎖乳突筋の 筋活動の増大は顕著に認められ、僧帽筋においても増大

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傾向にあった。また、広背筋、大腿直筋が起き上がり動作 の間、持続的に筋活動の増大が認められる傾向にあった。 さらに、意識を強く持つほど(過剰に力が入る場合)大 腿直筋や広背筋に筋活動の増大が認められる傾向にあっ た。背臥位姿勢ですでに筋活動の増大が認められた筋に ついては、起き上がり動作に移行する際にはさらに筋活 動の増大が認められる傾向にあった。また、その筋活動 の持続時間も延長していた。 2.端座位姿勢・端座位からの立ち上がり動作(図2) 課題①~④における端座位姿勢ならびに立ち上がり動 作ともに胸鎖乳突筋や僧帽筋の筋活動について増大が認 められた。また、端座位姿勢において、腹斜筋や腹直筋 よりも体幹伸展筋群である広背筋や腸肋筋の筋活動の増 大が認められる傾向にあった。これは、立ち上がり動作 にも同じ傾向が認められた。とくに、③頭蓋後退6)(顎を 引く)・④頭蓋前方突出6)(顎を突き出す)動作において、 この傾向は顕著であった。意識化を強めた(過剰に力を 入れた)被験者においては、大腿直筋の筋活動が端座位 肢位において高まる傾向もみられた。 3.考察 ①頭頸部屈曲 頭頸部屈曲筋は、胸鎖乳突筋、斜角筋群、椎前筋群(頸 長筋 ・ 頭長筋 ・ 前頭直筋)などである。起始部である胸 骨や上位肋骨、胸椎などには充分な安定性が必要である。 頭頸部屈曲による前方への重心移動に対し後方へ戻す筋 群の活動が必要になり、胸腰椎後弯による代償が必要に なる。胸腰椎後弯は大胸筋や腹筋群などの筋の収縮が必 要になるが、後弯が強すぎると脊柱全体が丸くなる形(円 背位)をとり、頭頸部屈曲筋の起始部が変位することで 不安定になり頭頸部のみの屈曲作用が低下する。そのた め、胸腰部、とくに腰部の伸展筋(脊柱起立筋群)である 腸肋筋や広背筋を収縮させることで胸腰部を固定し、頭 頸部の屈曲力が発揮できるような環境を確保していると 考えられる。 ②頭頸部伸展 頭頸部伸展筋は、僧帽筋上部線維や頭板状筋、頭半棘 筋、脊柱起立筋群、環椎後頭関節ならびに環軸関節の伸 展筋群などである。頸椎と胸椎をまたぐ体幹後面筋群で ある脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋など)の協調性により、 頭頸部伸展時には胸腰部前弯による代償も出現する。頭 頸部のみを伸展させるためには、胸椎以下の脊柱が安定 図 1 頭頸部の位置の変化による姿勢・動作に与える影響(背臥位・背臥位∼起き上がり) 筋電図波形は、電極の貼付位置はすべて左側とし、上から、胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、腹直筋、内外腹斜筋重層部位、腸肋筋、 多裂筋、広背筋、大腿直筋を示す。二本の縦線は、左が計測開始、右が動作開始を示す(線間は背臥位肢位である)。 頭頸部の位置を予め変化させたうえで、背臥位からの起き上がり動作を筋電図にて記録したものを示す。動作開始前(静的姿勢 変化)においてすでに筋電図の変化が現れており、過剰な代償を示している。 通常時と比べて背臥位姿勢ならびに起き上がり動作ともに胸鎖乳突筋の筋活動の増大は顕著に認められ、僧帽筋においても増 大傾向にあった。また、広背筋、大腿直筋が起き上がり動作の間、持続的に筋活動の増大が認められる傾向にあった。さらに、意 識を強く持つほど(過剰に力が入る場合)大腿直筋や広背筋に筋活動の増大が認められる傾向にあった。背臥位姿勢ですでに筋 活動の増大が認められた筋については、起き上がり動作に移行する際にはさらに筋活動の増大が認められる傾向にあった。また、 その筋活動の持続時間も延長していた。

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していることが重要であり、胸腰椎の前弯が強すぎると 脊柱全体が弓なりになる(反る)形をとり、頭頸部のみ の伸展作用が低下する。とくに胸椎のアラインメントは 重要であり、腹筋群の収縮とともに胸腰椎の安定をさせ るために腸肋筋や最長筋などの筋群を活動させることで 胸腰部を固定し、頭頸部伸展力が発揮できるような環境 を確保していると考えられる。 ③頭蓋後退 頭蓋後退はNeumann6)によると、頭蓋後退は低~中位 頸椎が伸展するか、もしくはまっすぐな状態と同時に上 位頭頸部の屈曲であると述べている。頸椎を後弯方向に 動作をおこない、頸椎の生理的前弯を少なくしながら頭 部を屈曲させ、外見上頸部をアップライトにさせる動作 である。頭部屈曲は後頭環軸関節における前方運動であ り、主動作筋は前頭直筋であるが動きはわずかであるた めに、上位頸椎の屈曲に作用する筋群が同時に働いて、 実際には頭頸部の屈曲を形成している。上位頸椎の屈曲 には頭長筋や頸長筋、ならびに舌骨上 ・ 下筋群の活動も 重要であり、逆にこの姿勢の持続は呼吸や嚥下機能に影 響をもたらす。これらの筋群を活動させるためには、胸 腰部、とくに最長筋や腸肋筋などの胸部の伸展筋を収縮 させて胸腰部を前弯させ、さらに上部腹直筋などの体幹 屈筋群を収縮させて伸展筋群に対し制動をおこなうこと で胸腰椎(胸郭)を安定させ、頭部屈曲力を発揮させて いると考えられる。さらに顎を引く力を増大させる場合 は、広背筋や腹筋群などの代償がおこなわれることにな ると考える。 ④頭蓋前方突出 頭蓋前方突出はNeumann6)によると、頭蓋前方突出は 低~中位頸椎の屈曲と同時に上位頭頸部の伸展の動作で あると述べている。頭部伸展筋は大 ・ 小後頭直筋、上 ・ 下頭斜筋、頸部屈曲筋は③頭蓋後退の箇所で前述した筋 群であり、とくに上位頸椎から頭部の伸展としての役割 と下位頸椎の屈曲としての役割がある胸鎖乳突筋の働き は重要である。環椎後頭関節や環軸関節に関与する筋は 中位から下位頸椎の安定性が必要であり、中位頸椎から 下位頸椎の関与する筋は胸椎の安定性が必要である。こ れらの拮抗関係を成立させるためには、頭部屈曲と頸部 伸展の拮抗関係を安定させるための上位胸椎でのさらな る安定性が必要になると考えられる。そのため、より顎 を出すためには、肩甲挙筋や僧帽筋などの筋群による肩 甲骨の安定化により遠心性に頭部の制御をおこない、さ らに頸部屈曲に対し広背筋などの肩関節伸展筋や胸椎部 の脊柱起立筋群を収縮させることで拮抗力を作り出して いると考えられる。そのため上肢を引き込む動作が認め られることが多い。 図 2 頭頸部への介入による姿勢・動作に与える影響(端座位∼立ち上がり) 筋電図波形は、電極の貼付位置はすべて左側とし、上から、胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、腹直筋、内外腹斜筋重層部位、 腸肋筋、多裂筋、広背筋、大腿直筋を示す。二本の縦線は、左が計測開始、右が動作開始を示す(線間は端座位肢位)。 課題①~④における端座位姿勢ならびに立ち上がり動作ともに胸鎖乳突筋や僧帽筋の筋活動について増大が認められ た。また、腹斜筋や腹直筋よりも体幹伸展筋群である広背筋や腸肋筋の筋活動の増大が認められる傾向にあった。とくに、 ③頭蓋後退(顎を引く)・④頭蓋前方突出(顎を突き出す)動作において、この傾向は顕著であった。意識化を強めた(過 剰に力を入れた)被験者においては、大腿直筋の筋活動が端座位肢位において高まる傾向もみられた。

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頭頸部への介入による姿勢・動作に与える影響 (図 3、図 4) 頭頸部への介入による端座位ならびに端座位での側方 移動において、①両側頭部あたりに指で軽い接触刺激を 加えたうえ、被験者に頭頸部がリラックスできる位置に 自ら移動した位置での側方移動(図3の頸部保持)、②耳垂 と肩峰を結ぶ線が水平線と垂直になる位置を補正し、そ の位置を意識させての側方移動(図3の耳垂-肩峰)、③検 者にて被験者の両頭頸部を把持したうえ、被験者に痛み の出ない範囲で牽引した状態での側方移動(図3の頸部牽 引)を実施し、通常の端座位ならびに端座位での側方移動 との違いについて、ビデオ画像ならびに筋電図にて観察を おこない比較検討をした。筋電計ならびにビデオ機器、筋 電図記録対象筋は前述したものと同じとした。筋電図記 録は、一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重 移動し、最大右側移動後3秒間静止させたものとした。 ① 両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動(図3 の頸部保持) 端座位姿勢において、通常時と比べて後方に変位す る傾向がみられた。側方移動については距離が増大 する傾向がみられた。筋活動においては、軽度ではあ るが腸肋筋、多裂筋が低下傾向を示した。 ② 耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直になる位置での端 座位と側方移動(図3の耳垂-肩峰) 端座位姿勢では、通常時と比べて後方に位置し、さら に①の側頭部への接触刺激時よりも頭頸部がわずか に伸展位置(頭蓋後退)になる傾向がみられた。筋活 動においては、大きな変化は認められないものの、側 頭部への接触刺激時よりは腸肋筋、多裂筋、大腿直筋 がわずかに増大傾向を示した。 ③ 両側頭部把持による牽引した状態での端座位と側方 移動(図3の頸部保持) 端座位姿勢においては、把持して牽引したことで後 方に変位し、かつ骨盤から頭部までアップライトポ ジションになった。側方への移動は、通常時より移動 距離が短い傾向がみられた。筋活動においては、通常 時と大きな変化がないかもしくは逆に腸肋筋、多裂 筋、大腿直筋の筋活動が増大する被験者もあった。 考察 両側頭部への軽い接触刺激により通常時よりさらにリ ラックスした座位姿勢が認められ、側方移動距離も増大 した。筋電図からは、指先接触による修正座位姿勢におい て、腸肋筋や多裂筋の筋活動の減弱が認められた。頭頸部 の過剰な代償により体幹筋の筋活動が充分に発揮できて いないような場合には、軽い接触を用いる環境の選択が 過剰な代償を減弱し、円滑な筋活動を導く治療の一つと して有効になる可能性が考えられる。ただし、この接触刺 激が何に働きかけられたかについては明確にはできてい ない。前庭系や体性感覚系への影響、接触刺激箇所による 違いによる影響、またハンガー反射7)による頭頸部への動 作の影響も論じられており、今後の検討が必要である。 一般的に立位の正常なアラインメントとされている姿 勢においては、耳垂(乳様突起)‐肩峰‐大転子‐膝関節 前方 ‐ 足関節外果前方などと言われている2, 4, 6)。この耳 垂‐肩峰‐大転子の位置を座位姿勢に用いてみると、側頭 部への刺激よりも体幹筋などの筋活動は増大し、さらに 被験者からも軽度の努力が必要であるとの意見が得られ た。この姿勢による治療展開は、わずかながらではあるが 体幹の円滑な筋活動を妨げる可能性があると考えられる。 頭頸部の重さを軽減させる目的で被験者に痛みを感じ ない範囲で両側頭部から把持をした課題においては、把 持をしたことで約5 ~ 10 kg の体重減少がみられた。し かしながら、側方移動においては筋活動が増大するケー スもみられ、側方移動距離も短くなる傾向にあった。体 重を軽減させられたものの頭頸部牽引により頭頸部周囲 の筋の伸張、さらに頭頸部の筋膜や腱膜の伸張により体 幹の筋膜や腱膜の伸張にもつながり、結果的に動作時に 必要な伸張性を妨げた可能性がある。また、伸張に対し 防御的に収縮をさせる反応が出現した可能性もあり、そ れらの結果、円滑な動作を妨げたものと推測する。 理学療法 理学療法開始肢位において、頭頸部周囲筋が過剰に代 償をしている状況は好ましくない。また、極端に変位をし ている頭頸部の位置においても、整形外科的な問題によ るものでなければ、そのポジションは好ましいと言えな い。この問題の起因を精査し、その原因を修正しながらア プローチを展開する必要がある。たとえば、ベッドからの 起き上がり動作では、起き上がりを誘導する際に、頭頸部 の頑張りとともに上肢で引き込むような姿勢動作が認め られる場合には、起き上がり動作開始時のベッドの角度 を挙げ、頭頸部の過剰な状況が軽減されるように工夫す ることが重要である。もしくは、適切にセラピストが介助・ 援助することが求められる。円背姿勢に対する適切な理 学療法開始肢位の一例を図5に示す。適切なポジションが 設定されていない状況では過剰な姿勢 ・ 動作が出現する 場合が多く、その姿勢からの動作については、問題点に対 するアプローチではなく、本人の努力を助長させた動作 学習になる危険が高く、そのまま動作を繰り返し続ける ことで、二次的問題を作り出してしまう可能性がある。 座位からの立ち上がり動作においては、骨盤が後傾し た円背位の姿勢の場合、後方に体重が変位しており、こ の状況からの立ち上がり動作は、顎を突き出した姿勢を

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図 4 頭頸部への介入による姿勢・動作に与える影響 端座位姿勢にて、側方への体重移動をビデオにて撮影した画像を示す。条件は以下の4条件である。①通常、②頸部保持、 ③耳垂-肩峰(矢状面上で耳垂と肩峰を結ぶ線が床面と垂直に合わせた肢位)、④頸部牽引(セラピストが被験者の側頭 部を把持した状態)。画像は一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重移動し、最大右側移動後3秒間静止させた ものである(縦線は、床面に対する垂直の線である)。 頸部保持(両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動)では端座位姿勢において、通常時と比べて後方に変位する 傾向がみられた。側方移動については距離が増大する傾向がみられた。耳垂-肩峰(耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直 になる位置での端座位と側方移動)による端座位姿勢では、通常時と比べて後方に位置し、さらに頸部保持よりも頭頸 部がわずかに伸展位置(頭蓋後退)になる傾向がみられた。頸部牽引(両側頭部把持による牽引した状態での端座位と側 方移動)では端座位姿勢において、把持して牽引したことで後方に変位し、かつ骨盤から頭部までアップライトポジショ ンになった。側方への移動は、通常時より移動距離が短い傾向がみられた。 図 3 頭頸部への介入による姿勢・動作に与える影響(端座位での最大側方移動時) 筋電図波形は、電極の貼付位置はすべて左側とし、上から、胸鎖乳突筋、僧帽筋上部線維、腹直筋、内外 腹斜筋重層部位、腸肋筋、多裂筋、広背筋、大腿直筋を示す。筋電図記録は、一度左側に体重移動をおこなっ てから右側に体重移動し、最大右側移動後3秒間静止させたものを記録した。 頸部保持(両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動)では軽度ではあるが腸肋筋、多裂筋が低下 傾向を示した。耳垂-肩峰(耳垂と肩峰を結ぶ線が水平と垂直になる位置での端座位と側方移動)では 側頭部への接触刺激時よりは腸肋筋、多裂筋、大腿直筋がわずかに増大傾向を示した。頸部牽引(両側頭 部把持による牽引した状態での端座位と側方移動)では通常時と大きな変化がないかもしくは逆に腸肋 筋、多裂筋、大腿直筋の筋活動が増大する被験者もあった。

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取りやすい8)。骨盤の位置を前傾位に援助することで重 心が前方に移動し、立ち上がり時の頭頸部の代償は軽減 できる(図6)。 大腰筋や大殿筋などの筋緊張や筋力の低下により骨盤 の後傾が観察されることがあるが、このような状況で骨盤 の前傾動作の獲得のために操作をおこなう場合、頭頸部の 過剰な代償が起こることがある。このような場合、セラピ ストが患者の後方から配置し、セラピストにもたれかかる ようにするなかで、セラピストと患者の身体の隙間をクッ ションなどで埋め、その状況から患者にはセラピストに 向かって体を延びるように指示する(図6)。このとき、セ ラピストは骨盤の前傾動作とともに胸部あたりの脊柱起 立筋群の促通による伸展動作を促す(図6)。頭頸部はセラ ピストにもたれかかるようにしておくと過剰な代償が出 現しないなかで、体幹筋などへのアプローチができる。 図7 は脳血管障害右片麻痺患者の座位場面である。骨 盤は麻痺側に回旋し後傾している。立ち上がり動作時に 骨盤前傾が不十分で頭頸部の過剰な代償が出現し、かつ 前方への恐怖感も強く、前方への体重移動が難渋してい る症例である。図のようにクッションなどを用いてセラ ピストにもたれさせ、セラピストの後上方に向かって腰 椎前弯に伴う骨盤前傾と胸腰椎の伸展動作の誘導を繰り 返しながら、大腰筋、最長筋、多裂筋、腸肋筋、広背筋な どを促通する。骨盤の前傾が円滑化した後、下肢で地面 を蹴る動作をおこなうなかで膝・股関節の伸展筋の活動 を促通し、股関節伸展による骨盤の後傾動作を誘導する。 徐々にポジションを端座位に近づけながら同様に骨盤の 前傾と体幹の伸展動作、地面を蹴る動作のなかで膝 ・ 股 関節伸展筋を促通し、立位場面に近づける。この治療中、 頭頸部の過剰な代償が出現しないよう注意を払う。その 図 6 治療肢位 ①: 円背姿勢により骨盤が後傾位の場合、あるいは立ち上がり時に前方への体重移動が円滑ではない場合は、頭頸部 の筋群が過剰に代償することが予想される。座面にクッションを入れることで骨盤の前傾を誘導しやすくなる。 ②: クッションなどを入れることで逆に前方への不安定さが増強される場合、後方に向かってセラピストにもたれ させ、セラピストの後上方に向かって誘導することで、腰椎前弯による骨盤前傾動作が円滑になり、体幹伸展の 活動を促通することができる。さらにそこから下肢で地面をける動作につなげることで、膝・股関節の伸展筋の 活動を促通することができる。 図 5 円背姿勢に対する適切な治療開始時のポジショニング 左から、背臥位、ベッド上長座位、端座位。適切な位置にクッションなどを入れ、患者自ら周囲の状況を確認す る動作が努力することなく可能になる頭頸部の位置を選択する。

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図 7 脳血管障害右片麻痺の座位、座位からの立ち上がりのための治療場面 立ち上がり動作時に骨盤前傾が不十分であり、かつ前方への恐怖感も強く、前方への体重移動が難渋している症例。この際、頭 頸部の過剰な代償が出現する。 図のように、クッションなどを用いてセラピストにもたれさせ、セラピストの後上方に向かっての骨盤の前傾と体幹の伸展誘導 を繰り返しながら、大腰筋、最長筋、多裂筋、腸肋筋、広背筋などを促通する。骨盤の前傾が円滑化した後、下肢で地面を蹴る動 作をおこなうなかで膝・股関節の伸展筋の活動を促通し、股関節伸展による骨盤の後傾動作を誘導する。骨盤の前傾が円滑になっ た時点で、ポジションを端座位に近づけながら同様に治療を繰り返し、立位場面に近づける。この治療中、頭頸部の過剰な代償 が出現しないよう注意を払う。その後、端座位に戻り、通常の立ち上がり動作を実施するためのアプローチをおこなう。 後、端座位に戻り、通常の立ち上がり動作を実施するた めのアプローチをおこなう。 まとめ 頭頸部のアラインメントにおいては、立位で述べられ ている正常姿勢のアラインメントを座位や臥位でそのま まあてはめることは難しい。そもそも正常な立位姿勢と して述べられている位置関係においても、あくまでも理 想とされるアラインメントであり、あらゆる人にあては まるものではない。頭頸部はバランスを保つために重要 な機能が備わっており、その位置や状況の変化が姿勢 ・ 動作に影響を及ぼすことを理解しなければならない。修 正できるものであれば修正が必要であるが、人それぞれ によって体格の違いなどにより頭頸部のアラインメント が変位しており、単にアップライト肢位を求めれば良い のではない。重要なことは、頭頸部が姿勢 ・ 動作に問題 を引き起こす条件になっていないかどうかである。 頭頸部を円滑に稼働させることができる条件は、土台 である胸郭が安定していることが重要である。頭頸部の 正しいアラインメントはそれぞれの姿勢における胸郭の 位置にも左右されるが、過剰な筋活動に基づく姿勢や動 作をおこなわなくても良い状態であることが大切である。 具体的には、意識をすることなく周囲を見渡せる、力を 入れなくても起き上がる・立ち上がる・などの動作がで きることである。 日常生活活動において、頭頸部筋群の過剰な代償が必 要である場合は、その個人において動作課題が大きい可 能性を意味する。適切な治療課題にするためには、介助 の提供かそれとも場面を変更する必要がある。たとえば、 ベッドからの起き上がり動作を考えてみる。起き上がる 際に上肢の引き込みとともに頭頸部の過剰な代償が認め られる場合、介助の提供の例としては、「頭頸部を持ち上 げ、起き上がる方向に顔を向けるよう介助する」、「体幹 背面から体を引き起こす」など、場面の変更の例として は、「ベッドの背もたれをギャッジアップして頭頸部や 上肢の過剰な代償が起こらない場面を設定する」などで ある。過剰な代償を利用する動作の繰り返しは、他の動 作においても適切な箇所の筋活動を妨げ、さらに頭頸部 以外の筋群の過剰な代償を引き起こすことにつながりか ねない。また、循環器系、呼吸器系、さらには嚥下機能に も負担が増え、背景にある疾患を増悪させる危険性もぬ ぐいきれない。セラピストは直接頭頸部への介入をして いない場合においても、常に頭頸部の状況をモニターで きていることが必要であると思われる。 文 献 1) 大築立志・他:姿勢の脳・神経科学—その基礎から臨床ま で—.pp1–20,市村出版,2011. 2) 田中 繁・高橋 明(監訳):モーターコントロール,原著 第3 版.pp46–82,152–182,医歯薬出版,2009.

3) 鈴木俊明・他:The Center of the Body—体幹機能の謎を探 る—,第5 版.pp187–195, アイペック,2013. 4) 中村隆一・他:基礎運動学.pp4–25, 229–265,医歯薬出版, 1985. 5) 平田幸男:分冊解剖学アトラス—運動器 I—.pp35–107, 文 光堂,2014. 6) Neumann DA:筋骨格系のキネシオロジー,原著第 2 版. pp341–418,医歯薬出版,2015. 7) 佐藤未知・他:ハンガー反射の発生条件の検討.情報処理 学会インタラクション,2009. 8) 後藤 淳・他:立ち上がり動作—力学的負荷に着目した動 作分析とアラインメント.関西理学2: 25–40, 2002.

図 4 頭頸部への介入による姿勢・動作に与える影響 端座位姿勢にて、側方への体重移動をビデオにて撮影した画像を示す。条件は以下の 4条件である。①通常、②頸部保持、 ③耳垂-肩峰(矢状面上で耳垂と肩峰を結ぶ線が床面と垂直に合わせた肢位)、④頸部牽引(セラピストが被験者の側頭 部を把持した状態)。画像は一度左側に体重移動をおこなってから右側に体重移動し、最大右側移動後3秒間静止させた ものである(縦線は、床面に対する垂直の線である)。 頸部保持(両側頭部への接触刺激による端座位と側方移動)では端座位姿勢におい
図 7 脳血管障害右片麻痺の座位、座位からの立ち上がりのための治療場面 立ち上がり動作時に骨盤前傾が不十分であり、かつ前方への恐怖感も強く、前方への体重移動が難渋している症例。この際、頭 頸部の過剰な代償が出現する。 図のように、クッションなどを用いてセラピストにもたれさせ、セラピストの後上方に向かっての骨盤の前傾と体幹の伸展誘導 を繰り返しながら、大腰筋、最長筋、多裂筋、腸肋筋、広背筋などを促通する。骨盤の前傾が円滑化した後、下肢で地面を蹴る動 作をおこなうなかで膝・股関節の伸展筋の活動を促通し、股関節伸

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